赤く染まり始めた廃墟の中を南に駆けていく。
「うはー、明るっ」
道の端までよく見える。
夕刻とはいえ買い物でもない午後の廃墟探索は転生直後以来だ。
俺の容姿は特に目立つから、日中の危険度はまあ高いんだろうが……今は道を探すのが最優先。
もっとのんびり行きたかったんだけどなあ……。
こういうストーリータスクは、もっと装備が充実してからにして欲しい。
猟銃が戻ってきたとはいえ所詮は猟銃。2発撃ったら装填がいる武器で戦うなんて馬鹿げてる。
ああ、
もっと気軽に銃が落ちてくれてりゃいいが、そうはいかないのが現実である。
まあぽんぽん銃がある地方都市なんて嫌すぎるけど。
「……ん?」
ふと足を止める。
建物の向こう、街の中心側から銃撃の音が鳴り響いていた。
誰かが戦ってる。また
どちらにせよ……。
「武器が来た……!!」
まさか向こうから武器が来てくれるとは!
勝てるかは知らんが、幸い音が響くのは南東側――進行方向。
全速力で駆け抜ける。
――いた。
しばらく走った先で、戦闘現場を目撃できた。
戦ってるのはブラーが複数と……
明るい中であの黒い装備はおっかないが、あっちは1人、対するブラーは3体。
苦戦している――かと思ったが、意外や意外、一方的な戦いを繰り広げていた。
「強っ……」
相手は3体だぞ。武器があるとはいえどれだけ……んん?
顔は隠れているが、あのシルエットに、胸元辺りに差された短刀はまさか……。
「逃げる……いや、丁度いいか」
今の俺に必要なのは戦力。
それは武器でもいいが……味方でもいい。
いいね、厄介な問題に頭を抱えてたが、ちょっとは運が向いてきた。
後は説得できるかだが、そこは上手くやってやるさ。
そうと決まれば戦闘地点へと駆け抜けるのだった。
***
『――――!!』
「邪魔だ……!!」
吼えるブラーの口内を連射して破壊。
崩れる巨体を尻目に素早く
――くっ、一体何が起きている……!!
全ては昨晩の出来事だった。
夜鳥羽の危険領域内、その各所で観測された計器の異常反応。それに続いて起きた複数箇所での銃撃音に爆発音。
枯れたとさえ言われた夜鳥羽は5年前に次ぐ騒がしさをみせていた。
――特捜もいつの間にか消えていた。恐らく既に区画内に侵入している。
未曾有の事態に支部は大騒ぎ。
朝方にたたき起こされた十神は支部長からの出動命令を受け、稼働可能な人員を南東ゲート付近に集結。
午前中のうちに複数部隊に分かれてゲート周辺の安全を確保、南東地区に前哨基地を設置した。
そこから休憩を挟み、情報収集のために少数だが精鋭3部隊を他区画に派遣することに決めた。
未だ人員が揃っていないため、十神は最も距離のある北西区画を担当。
南西地区までは部隊と同行し、そのまま単独で、昨晩特に轟音が鳴り響いていた北へと向かった十神だったが――そこでブラー3体に遭遇した。
どれも
いつもより中央に近くはあるが……こんなに一気に出て来るのは予想外であった。
「数が増えている……? これも活性化の影響なのか?」
あの予言に操られるように、夜鳥羽で戦闘が起こり始めている。
この街で一体何が起きている?
街の守護者である
そのことが腹立たしい十神であった。
――情報が足らん!
亡霊も特捜も霞の様に消え、現れるのは怪物ばかり。これでは何もわかりはしない。
1体を撃ち殺し、残った2体へと銃口を向けたが――。
真横から何かが走る音がする。
「……っ!?」
咄嗟に銃口をそちらに向け――十神はそこに現れた人物に驚愕する。
「なっ……!?」
「奥を頼みます!」
「は? ……っ!!」
前と同じように押し付けて来る彼女に即応し、右の個体へ
当然避けるブラーの行き先を予測して移動。
滑り込むように銃口を合わせ、今度こそ胴体を破壊した。
それと同時に、背後から重い銃撃音が鳴り響く。
『――……』
見れば駆け込んだ小さな影が、ブラーの頭部に猟銃を撃ち込んでいる。
素早い移動と正確な射撃で、あっという間にブラーの頭部を的確に破壊した。
教本通りな十神の動きとはまるで違う、荒々しい獣のような動きだった。
――凄まじい……。
2つの巨体が崩れる音が廃墟に響く。
それを聞きながら、十神は突如現れたその人物に視線を向けた。
「……っ」
「ふぅ、危なかった」
「お、お前は……!!」
ブラーに襲われたことより、突如鳴った散弾の音より。
今はなにより、目の前に立つその人物に驚き固まった。
馬鹿な。そんな筈はない。だって、そこにいたのは死んだ筈の……。
「あの時の……!!」
「あー、やっぱり覚えてましたか……」
「忘れるものか! お前は命の恩人で、そして……」
――私の目の前で死んだ筈。
「その辺りご説明しますよ。なので、ちょっと話しませんか? 十神さん」
五体満足。驚くほどの美しい顔をしたオレンジ色の髪の女性。
あの時目の前で自爆した筈の
***
偶然出会ったまさかの人物――
「腰を落ち着けて話すなら、カフェですよね」
「何を呑気に……危険領域の中だぞ。そもそも私は任務中。長居する気は……」
「まあまあ。立ち話もなんですし、入りましょう」
「……はぁ、なんでこんな事に……」
近くにあった喫茶店に入る。見たことはないがチェーン店っぽい。
ちなみに、この世界に来て出会ったお店は全部が初めまして。
コンビニもハンバーガーチェーンも、そのどれも全然見覚えがない。これが結構怖いんだ。
映画のセットに迷い込んだような、作り物の街にいる気がして変な気分になる……それにしちゃリアル過ぎるけど。
今も風化で木の内装が砕けてコンクリートがむき出しになった、悲しいくらいにリアルでボロボロな床を飛び越えて、カウンターの奥を覗き込む。
「飲み物はー……流石に腐ってますかね。いります?」
「あっても飲むか! 売り物だぞ!」
うーん、真面目。
拾ったモノを売っぱらってる、とかいったらぶん殴られそうだ。
さて席は……奥でいいかな。
窓から離れた席を選んで積もった埃をはたき落すと、ぶわっと灰色の煙が舞い上がる。
「すっごい埃……ごほっ……さあどうそ。ああ、ブラーが来ても良いように武器は出しておきますので。撃たないでくださいね?」
「誰が撃つか。全く、なんでこんなことに……」
埃だらけな上にクッションがすっかりしぼんだ椅子に腰かけて、どうぞと手で指し示す。
十神さんは諦めたように息を吐き出すと、ヘルメットを外して向かいの席に着いた。
その顔を見て、目を見開く。
「……」
「……なんだ?」
「いえ、想像以上にお若くて驚きました」
「は? どの口が言ってるんだ……私より年下だろうが。というか、顔ならあの時見ただろう」
「あの時はお互い血だらけだったでしょう? 夜でしたし」
「ああ、そういえばそうか……」
そう呟く彼女の素顔は、想像以上に若かった。高く見積もっても20代前半くらい。
僅かにウェーブのかかった長い黒髪。目元にある泣き黒子が不思議な色気を醸し出してる。
世が世ならモデルでもしてそうな容姿だが、今は銃に手を添え、怖いくらいに鋭い目でこちらを見つめている。
「……それで? 何を説明するというんだ」
組んだ腕を指でトントンと叩く姿は明らかに苛立っている。
ご要望通り手短に行きたいが……さてどこから説明するか。
――向こうからの質問はなるべく避けて、こっちから一方的に捲し立てるのがいいよな。
なにせこっちの事情は大体答えられない。
何故生きているのか、どうやってこの封鎖区画に入ったのか、何者なのか――全部が
「そうですね……」
整理しよう。
俺の目的はこの十神さんの協力を得ること。
別に仲良く乗り込む必要はない。
前と同じで、現場に居合わせてくれりゃ、この人なら助けてくれるだろう。
この交渉の着地目標は夜鳥羽セントラルホテル――そこに十神さんを連れていくことだ。
そのための道筋を頭の中で組み上げる。
……よし、決めた。
逡巡は一瞬。
思い浮かんだ設定を
「まずは自己紹介を。私はリズと申します」
「……
「よろしくお願いします。十神さんとお呼びしても?」
「……いや、できれば下の名前で頼む」
「……? はい。では咲良さんで」
初対面……でもないけど、ほぼ面識のない相手に名前で呼べだなんて珍しい。
そんな事を言い出す人にも見えないが……まあいい。
「私は……そうですね、簡単に言えば
「依頼……」
「ええ。依頼主は――あなた方が『
「……!!」
がたりと音を立てて咲良さんは立ち上がった。
この反応、こりゃ知ってるな。丁度いいし運がいい。
悪いが少し利用させてもらうよ、予言者さん。
えーっと、この後は……。
話の道筋を組み上げながら、ゆっくりと話をして時間を稼ぐ。
「その様子はご存知のようですね。私は、その
「
「……」
……どうやってだろう。んなもん神様に聞いてくれ……。
えーっと……神様が連れてきたんだから、天から降ってきた? 無理あるかなぁ……。
とりあえず笑顔で取り繕って考えを纏めていると。
「空から……そうか」
と、彼女がそう言った……なんで?
彼女の視線を追うと、ぴん、と立った俺の指があった。
考える合間に彷徨わせていたのを、ジェスチャーだと勘違いしたらしい。
「……」
立ててた指を、そのまま咲良さんに向けた。
「――そう、空輸です。それならゲート通過の必要はありませんから」
「なるほどな……」
あ、危ない危ない……上手く勘違いしてくれてよかった……。
よし、このまま続けよう。
またたっぷりと間をとって、俺は首を横に振った。
「ただ、私は未だ信用されていないようでして。ここに来てひと月、私は
「何……? それでどうやって依頼を……」
「依頼によっては直接顔を合わせず行う場合もありますよ。依頼料さえ貰えれば、ね?」
実際、マッチングしたらしい神様には会ったこともないし、予言者の顔も知らない。
依頼主とは会ってない。……嘘じゃないさ。
俺はフリーの傭兵。渡り鳥のリズ――なんてな。
よし、頭も口も回ってきた。
彼女を口説き落とすために、もう少し頑張るとしよう。
足を組み、訝し気な彼女に向かって笑みを深めるのだった。