崩壊世界でルートシューター   作:穴熊拾弐

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第27話 Forecast-part2①

 

 

 

 赤く染まり始めた廃墟の中を南に駆けていく。

 

「うはー、明るっ」

 

 道の端までよく見える。

 夕刻とはいえ買い物でもない午後の廃墟探索は転生直後以来だ。

 俺の容姿は特に目立つから、日中の危険度はまあ高いんだろうが……今は道を探すのが最優先。

 

 もっとのんびり行きたかったんだけどなあ……。

 

 こういうストーリータスクは、もっと装備が充実してからにして欲しい。

 猟銃が戻ってきたとはいえ所詮は猟銃。2発撃ったら装填がいる武器で戦うなんて馬鹿げてる。

 

 ああ、突撃銃(アサルトライフル)とかあれば楽なのに……。

 もっと気軽に銃が落ちてくれてりゃいいが、そうはいかないのが現実である。

 まあぽんぽん銃がある地方都市なんて嫌すぎるけど。

 

「……ん?」

 

 ふと足を止める。

 建物の向こう、街の中心側から銃撃の音が鳴り響いていた。

 誰かが戦ってる。また漂白部隊(SBEU)か? それともハンター?

 どちらにせよ……。

 

「武器が来た……!!」

 

 まさか向こうから武器が来てくれるとは!

 勝てるかは知らんが、幸い音が響くのは南東側――進行方向。

 全速力で駆け抜ける。

 

 ――いた。

 

 しばらく走った先で、戦闘現場を目撃できた。

 戦ってるのはブラーが複数と……漂白部隊(SBEU)か。

 明るい中であの黒い装備はおっかないが、あっちは1人、対するブラーは3体。

 苦戦している――かと思ったが、意外や意外、一方的な戦いを繰り広げていた。

 

「強っ……」

 

 相手は3体だぞ。武器があるとはいえどれだけ……んん?

 顔は隠れているが、あのシルエットに、胸元辺りに差された短刀はまさか……。

 

「逃げる……いや、丁度いいか」

 

 今の俺に必要なのは戦力。

 それは武器でもいいが……味方でもいい。

 いいね、厄介な問題に頭を抱えてたが、ちょっとは運が向いてきた。

 後は説得できるかだが、そこは上手くやってやるさ。

 そうと決まれば戦闘地点へと駆け抜けるのだった。

 

 

***

 

 

『――――!!』

「邪魔だ……!!」

 

 吼えるブラーの口内を連射して破壊。

 崩れる巨体を尻目に素早く装填(リロード)を済ませながら、十神咲良は悪態を吐く。

 

 ――くっ、一体何が起きている……!!

 

 全ては昨晩の出来事だった。 

 夜鳥羽の危険領域内、その各所で観測された計器の異常反応。それに続いて起きた複数箇所での銃撃音に爆発音。

 枯れたとさえ言われた夜鳥羽は5年前に次ぐ騒がしさをみせていた。

 

 ――特捜もいつの間にか消えていた。恐らく既に区画内に侵入している。

 

 未曾有の事態に支部は大騒ぎ。

 朝方にたたき起こされた十神は支部長からの出動命令を受け、稼働可能な人員を南東ゲート付近に集結。

 午前中のうちに複数部隊に分かれてゲート周辺の安全を確保、南東地区に前哨基地を設置した。

 

 そこから休憩を挟み、情報収集のために少数だが精鋭3部隊を他区画に派遣することに決めた。

 

 未だ人員が揃っていないため、十神は最も距離のある北西区画を担当。

 南西地区までは部隊と同行し、そのまま単独で、昨晩特に轟音が鳴り響いていた北へと向かった十神だったが――そこでブラー3体に遭遇した。

 

 どれも雑兵(ノーマル)だが、同時に相手するのは当然厄介。

 いつもより中央に近くはあるが……こんなに一気に出て来るのは予想外であった。

 

「数が増えている……? これも活性化の影響なのか?」

 

 あの予言に操られるように、夜鳥羽で戦闘が起こり始めている。

 この街で一体何が起きている? 

 街の守護者である漂白部隊(SBEU)だというのに何も分からない。

 そのことが腹立たしい十神であった。

 

 ――情報が足らん!

 

 亡霊も特捜も霞の様に消え、現れるのは怪物ばかり。これでは何もわかりはしない。

 1体を撃ち殺し、残った2体へと銃口を向けたが――。

 

 真横から何かが走る音がする。

 

「……っ!?」

 

 咄嗟に銃口をそちらに向け――十神はそこに現れた人物に驚愕する。

 

「なっ……!?」

「奥を頼みます!」

「は? ……っ!!」

 

 前と同じように押し付けて来る彼女に即応し、右の個体へ突撃銃(アサルトライフル)を乱射する。

 当然避けるブラーの行き先を予測して移動。

 滑り込むように銃口を合わせ、今度こそ胴体を破壊した。

 

 それと同時に、背後から重い銃撃音が鳴り響く。

 

『――……』

 

 見れば駆け込んだ小さな影が、ブラーの頭部に猟銃を撃ち込んでいる。

 素早い移動と正確な射撃で、あっという間にブラーの頭部を的確に破壊した。

 教本通りな十神の動きとはまるで違う、荒々しい獣のような動きだった。

 

 ――凄まじい……。

 

 2つの巨体が崩れる音が廃墟に響く。

 それを聞きながら、十神は突如現れたその人物に視線を向けた。

 

「……っ」

「ふぅ、危なかった」

「お、お前は……!!」

 

 ブラーに襲われたことより、突如鳴った散弾の音より。

 今はなにより、目の前に立つその人物に驚き固まった。

 馬鹿な。そんな筈はない。だって、そこにいたのは死んだ筈の……。

 

「あの時の……!!」

「あー、やっぱり覚えてましたか……」

「忘れるものか! お前は命の恩人で、そして……」

 

 ――私の目の前で死んだ筈。

 

「その辺りご説明しますよ。なので、ちょっと話しませんか? 十神さん」

 

 五体満足。驚くほどの美しい顔をしたオレンジ色の髪の女性。

 あの時目の前で自爆した筈の()()がそこにいるのだった。

 

 

***

 

 

 偶然出会ったまさかの人物――漂白部隊(SBEU)の隊長である十神さんと俺は、場所を変えて話をすることにした。

 

「腰を落ち着けて話すなら、カフェですよね」

「何を呑気に……危険領域の中だぞ。そもそも私は任務中。長居する気は……」

「まあまあ。立ち話もなんですし、入りましょう」

「……はぁ、なんでこんな事に……」

 

 近くにあった喫茶店に入る。見たことはないがチェーン店っぽい。

 ちなみに、この世界に来て出会ったお店は全部が初めまして。

 コンビニもハンバーガーチェーンも、そのどれも全然見覚えがない。これが結構怖いんだ。

 

 映画のセットに迷い込んだような、作り物の街にいる気がして変な気分になる……それにしちゃリアル過ぎるけど。

 今も風化で木の内装が砕けてコンクリートがむき出しになった、悲しいくらいにリアルでボロボロな床を飛び越えて、カウンターの奥を覗き込む。

 

「飲み物はー……流石に腐ってますかね。いります?」

「あっても飲むか! 売り物だぞ!」

 

 うーん、真面目。

 拾ったモノを売っぱらってる、とかいったらぶん殴られそうだ。

 さて席は……奥でいいかな。

 窓から離れた席を選んで積もった埃をはたき落すと、ぶわっと灰色の煙が舞い上がる。

 

「すっごい埃……ごほっ……さあどうそ。ああ、ブラーが来ても良いように武器は出しておきますので。撃たないでくださいね?」

「誰が撃つか。全く、なんでこんなことに……」

 

 埃だらけな上にクッションがすっかりしぼんだ椅子に腰かけて、どうぞと手で指し示す。

 十神さんは諦めたように息を吐き出すと、ヘルメットを外して向かいの席に着いた。

 その顔を見て、目を見開く。

 

「……」

「……なんだ?」

「いえ、想像以上にお若くて驚きました」

「は? どの口が言ってるんだ……私より年下だろうが。というか、顔ならあの時見ただろう」

「あの時はお互い血だらけだったでしょう? 夜でしたし」

「ああ、そういえばそうか……」

 

 そう呟く彼女の素顔は、想像以上に若かった。高く見積もっても20代前半くらい。

 僅かにウェーブのかかった長い黒髪。目元にある泣き黒子が不思議な色気を醸し出してる。

 世が世ならモデルでもしてそうな容姿だが、今は銃に手を添え、怖いくらいに鋭い目でこちらを見つめている。

 

「……それで? 何を説明するというんだ」

 

 組んだ腕を指でトントンと叩く姿は明らかに苛立っている。

 ご要望通り手短に行きたいが……さてどこから説明するか。

 

 ――向こうからの質問はなるべく避けて、こっちから一方的に捲し立てるのがいいよな。

 

 なにせこっちの事情は大体答えられない。

 何故生きているのか、どうやってこの封鎖区画に入ったのか、何者なのか――全部が()()()()だ。

 

「そうですね……」

 

 整理しよう。

 俺の目的はこの十神さんの協力を得ること。

 特殊個体(ユニーク)が出る戦いに、この人の雷剣はぜひ欲しい。

 

 別に仲良く乗り込む必要はない。

 前と同じで、現場に居合わせてくれりゃ、この人なら助けてくれるだろう。

 

 この交渉の着地目標は夜鳥羽セントラルホテル――そこに十神さんを連れていくことだ。

 そのための道筋を頭の中で組み上げる。

 ……よし、決めた。

 

 逡巡は一瞬。

 思い浮かんだ設定を()()()()、ふっと笑みを浮かべる。

 

「まずは自己紹介を。私はリズと申します」

「……漂白部隊(SBEU)、夜鳥羽支部所属の十神咲良だ」

「よろしくお願いします。十神さんとお呼びしても?」

「……いや、できれば下の名前で頼む」

「……? はい。では咲良さんで」

 

 初対面……でもないけど、ほぼ面識のない相手に名前で呼べだなんて珍しい。

 そんな事を言い出す人にも見えないが……まあいい。

 

「私は……そうですね、簡単に言えば無所属(フリー)の傭兵みたいなもので、この夜鳥羽にも依頼でやってきました」

「依頼……」

「ええ。依頼主は――あなた方が『予言者(シアー)』と呼ぶ存在です」

「……!!」

 

 がたりと音を立てて咲良さんは立ち上がった。

 この反応、こりゃ知ってるな。丁度いいし運がいい。

 悪いが少し利用させてもらうよ、予言者さん。

 

 えーっと、この後は……。

 話の道筋を組み上げながら、ゆっくりと話をして時間を稼ぐ。

 

「その様子はご存知のようですね。私は、その予言者(シアー)の手引きでこの夜鳥羽へとやってきました」

予言者(シアー)の……いや、待て。封鎖区画の出入りは記録されている。一体どうやって入った」

「……」

 

 ……どうやってだろう。んなもん神様に聞いてくれ……。

 えーっと……神様が連れてきたんだから、天から降ってきた? 無理あるかなぁ……。

 とりあえず笑顔で取り繕って考えを纏めていると。

 

「空から……そうか」

 

 と、彼女がそう言った……なんで?

 

 彼女の視線を追うと、ぴん、と立った俺の指があった。

 考える合間に彷徨わせていたのを、ジェスチャーだと勘違いしたらしい。

 

「……」

 

 立ててた指を、そのまま咲良さんに向けた。

 

「――そう、空輸です。それならゲート通過の必要はありませんから」

「なるほどな……」

 

 あ、危ない危ない……上手く勘違いしてくれてよかった……。

 よし、このまま続けよう。

 またたっぷりと間をとって、俺は首を横に振った。

 

「ただ、私は未だ信用されていないようでして。ここに来てひと月、私は予言者(シアー)の顔も知らないのですよ」

「何……? それでどうやって依頼を……」

「依頼によっては直接顔を合わせず行う場合もありますよ。依頼料さえ貰えれば、ね?」

 

 実際、マッチングしたらしい神様には会ったこともないし、予言者の顔も知らない。

 依頼主とは会ってない。……嘘じゃないさ。

 俺はフリーの傭兵。渡り鳥のリズ――なんてな。

 

 よし、頭も口も回ってきた。

 彼女を口説き落とすために、もう少し頑張るとしよう。

 足を組み、訝し気な彼女に向かって笑みを深めるのだった。

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