崩壊世界でルートシューター   作:穴熊拾弐

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第33話 Encounter②

 

 

 時刻は22時。

 日はとっくに沈んで、街が夜に包まれる時間帯。

 普段なら静かな夜の街は、各所で喧騒響く戦場と化していた。

 

「うはー、やってるやってる」

『どこもかしこも戦闘だらけ……活性化が近づくといつもこれ。どうして学習しないかな……あ、そこ右入って』

「了解」

 

 明らかにブラーの数も増えている。

 道中なら予言者(シアー)の視界で避けられるが、それでも限界がある。

 

『前から来るよ』

「ほい。猟銃でいいか」

『そだね。乱用は禁止、でしょ?』

 

 重撃弾を試す手もあるが、どうやら色式兵装(カラージュ)は万能じゃないらしい。

 この拳銃を受け取った時に、肉屋から警告を受けたのだ。

 

『――リズさん、どうかご注意を。色式兵装(カラージュ)は乱用厳禁です』

『……というと?』

『色式兵装(カラージュ)は「存在を吸って現象を生む」兵器です。あなたの身が危険ですからねぇ』

『あ、それ。前も言っていた……どういう意味なのですか?』

 

 肉屋には色々とバレてるようなので、分からない事――恐らくこの世界では常識だろうことも素直に聞くことにした。

 この世界に来てひと月半。俺はこのブラー関連のモノをほとんど知らない。

 そんな俺の問いに、肉屋はほほっ、と笑って答えてくれた。

 

『ブラーに喰われた人間がどうなるかはご存知ですね?』

『それは、はい。結晶体になるんですよね』

『その通りです。あれは、人間の頭部を喰らうことで、その「存在」を奪うと考えられているのですよぉ』

『……存在、ですか』

 

 随分抽象的な話が飛び出してきた。

 存在って、存在か。イデアとかそういう哲学的なやつ?

 

『これはあくまで仮説です。それを承知してお聞きください』

 

 そんな前置きをして、肉屋はブラーの生態について話し始めた。

 曰く、奴らは裂け目を通じて異界からやってきた侵略者であり、この世界には存在することが許されていない。

 

 質量保存の法則じゃないが、世界にある『存在』の総量は変わらず、中で形を変えているだけ。

 そこに異界からやって来た連中の居場所はなく、本来は押し出されて入ることすら叶わない筈だった。

 パンパンに膨らんだボールの外からは中に入れない。そういう事らしい。

 

 だが、奴らは世界(ボール)に切れ目を入れて、無理矢理に押し入ってきたのだ。

 

『えっと……世界の法則を無視して滞在してると……そういうことですか?』

『その通りです。ただ、流石に入ることはできても、それ以上は無理だったようですねぇ』

『というと?』

『奴らにできたのは押し入るまで。そこから先、我々の世界を歩き回ることはできなかったんですよ』

 

 押し入り強盗である滲む者(ブラー)は裂け目が形成した半異界――俺らが危険領域と呼ぶその範囲でしか生存ができない。

 奴らが危険領域から出てこない理由は、それではないかと肉屋たちは考えているらしい。

 

『確かに説明はつきますね。……では、ブラーが食べる「存在」というのは……』

『人間を喰らうことで、その人物が持っていた「存在」を奪ってなり替わる。ブラーによる取り換え子(チェンジリング)……つまり、この世界において、人を喰らったブラーは人(・)間(・)と(・)判(・)断(・)さ(・)れ(・)る(・)。存在を乗っ取るということです』

 

 この世界の『戸籍』を人間から喰らって奪うことで、この世界の生物になりすますのだ。

 だから奴らは人間を襲ってその頭部を喰らう。犬猫や鳥などの生物では足りないから……そういうことらしい。

 なら熊とか鯨とかデカいの食えよ、と思うが、人間の生息域は全生物でも屈指の広さ。

 多分、楽なんだろう。

 

『……お話は理解できました。では、活性化というのは?』

『こちらはまだ解明できておりませんが、仮説は2つ』

 

 ぶっとい指を2本立てて、肉屋は言う。

 

『1つは、先ほど言った「世界に切れ目を入れる」向こう側の技術。使うには何か準備が要るのか、そう乱発はできない、ということかもしれませんな』

 

 予言者(シアー)の能力みたいなクールタイムがあると。

 それなら大型(テラ)が出てくる必要はなさそうだが、そっちの方が楽なのかもしれない。

 

『……ふむ。もう1つは?』

『雑兵……幼体ブラーや特殊個体(ユニーク)が集めた「存在」が一定数溜まったら起きる侵略行為、その完了の合図』

 

 奪った『存在』を大型(テラ)に集約させて一気に侵略する、と。

 なるほど、どちらもありえそうな話だ。

 

『わたくしは、後者なのではと考えております』

『……だから危険領域の外は安全で、大型(テラ)は危険ということなのですね』

『はい。大型(テラ)は一定距離を破壊しながら突き進み、その身体を使って次の裂け目を生み出すのです。いわば奴らの強襲揚陸艦――生み出す前に止めるか、裂け目を生む前に破壊しなければなりません』

 

 大型(テラ)の話をする時、ほとんどの人が船を比喩に持ち出す。

 つまり、それほどまでに巨大だということだろう。

 俺の武装じゃますます無理。俺ができるのは前者――活性化前に止めることだけだな。

 

 ……ん? 何の話をしてたんだっけ。

 ああ、そうか。色式兵装(カラージュ)がなんで危険かって話か。

 

『失礼、話が逸れましたな。要は、ブラーは人間の「存在」を喰らうということなのですよ。では、その内臓を使った色式兵装(カラージュ)は――一体どんな代償(リスク)があると思いますか?』

『……存在が、喰われる?』

 

 乱用厳禁ってことは、そういう事だろう。

 案の定、俺の回答に肉屋はにんまりと笑って頷いた。

 

『その通りでございます。色式兵装(カラージュ)というのは、使い手の「存在」を僅かに喰わせて、異能を発揮させる。そういう武装なのです』

 

 存在を喰う。

 結局それがなんなのか、はっきりとは分からないが……どうせ末路は決まってる。

 

『故に、お気つけくださいと申しております。あれの乱用は、死に至ります』

『……そういうことですよね』

 

 要は、命を代償に使う兵器ということだ。

 思わずため息が漏れた。どおりで使い手が少ない筈である。

 貴重なのもあるが、それ以上に使うことそのものが危険な兵器ってことかよ。

 とんでもねえな……。

 そうしないと勝てないってことなんだろうが。

 

『ですので、どうか使うときは最小限に』

『はい、肝に銘じておきます』

 

 

 ――という訳で、色式兵装(カラージュ)を使うのは緊急時のみ。乱用は控えておかないといけない。

 

「流石、ブラーを材料にした兵器。とんでもないよなあ……」

『そうだね……すんごいもの作ったよね、この世界の人たち』

「それだけ追い詰められてたってことなんだろう。実際、人を喰った特殊個体(ユニーク)なんてとんでもなく強かったし」

 

 相手の文明や特性を学んで兵器に転用する――まさにSFの醍醐味で定番だ。

 そう考えると、敵が機械じゃなくて良かった。

 ロボット蔓延る世界で拳銃だけ渡されても何も出来なかった自信がある。

 撃てば血が出る相手で良かったよ、本当に。

 

『そろそろ着くよー』

「おう」

 

 なんて雑談をしている合間に、目的の中央までたどり着く。

 ここに来るまで走って40分程度。

 狙撃手に近づくために前回より南側まで来たとはいえ、遠い……。

 

「死んだら次は自転車移動だな」

『それ、本気でやるんだね……そんなことするの君だけだよ』

「んなもん知るか、時短だ時短」

 

 俺だってやりたくないけど、時間は何よりも重要なのだ。

 

「……さて」

 

 前回狙撃を受けた通りの直前で立ち止まる。

 今は建物の隙間に隠れてる。大通りに出れば、狙撃されるかどうかが分かるだろう。

 今回は位置も時間も変えた。そして、道中にあの狙撃音は聞こえてこなかった。

 

「これで狙撃されたら、完全に俺狙いってことでいいだろ」

『そういうことだね。行ってみよう!』

 

 こいつに言われるのは癪だが、意を決して通りに飛び出した。

 即座の狙撃はない。

 そのまま一気に駆け抜け、大通りの半ばまで到達した――その瞬間。

 

「――見つけたぁ!!」

 

 荒々しい男の叫び声が響き、通りを強烈なライトが照らした。

 眩し……っ!!

 暗闇に慣れ過ぎた俺の目が強烈な光に晒され、怯んだ足は必然的に遅くなる。

 

 そこへ、再びあの射撃音が鳴り響く。

 

「……っ!?」

 

 直後、俺の右足が真っ赤に染まる――ことはなく。

 右足に巻きつけていた厚めの鉄板が弾を弾いた。

 狙撃対策その①。一撃防止の防御力強化。

 正直不安だったが、防いでくれた。

 

「ぐっ……」

 

 代わりにとんでもなく重い衝撃が右脛に襲い来る。

 滅茶苦茶痛い……が、折れてない……!!

 ならば怯んでる暇はない。

 

 ――次弾が来る!

 

 前方に飛び込んで身体を転がす。

 直後、俺の足を弾が掠めて、地面に何かが炸裂する金属音が響いた。

 やはり俺狙い。しかも足を執拗に狙ってる。

 動きを止めて捕える気か……?

 んなことしてどうしたいのか分からないが――即死しないなら、俺らの勝ち!

 

「予言者(シアー)!」

『えいっ! スクラップ壁!』

 

 俺の真横に、突如として2m四方の壁が出現した。

 赤錆の目立つブリキっぽい壁。その向こうから金属音が高らかに鳴る。

 

 狙撃対策その②。箱庭シミュお得意の、建造物作成能力。

 それを防壁代わりに使わせてもらった。

 建物としては最低以下の品質らしいが、狙撃を防ぐならこれで充分!

 

「すげえなこれ!」

『ほ、ホントに使えた……こんな用途じゃないんだからね!?』

「使えりゃなんでも! 聞け!」

 

 今は呑気に喋ってる時間はない。

 やっぱり奴らは狙撃してきた。なら、予定通り全力で排除する。

 そのために――。

 

「通りの向こうまで壁を繋げ! 走り抜ける!」

『わ、わかった!』

 

 壁が一気に立ち上がって道を繋ぐ。

 通りを出れば狙撃はできない。後は建物の中を通って奴へと辿り着く……!!

 

 壁を通って奥の脇道に飛び込む――その寸前。

 

「どっせい!」

「――!?」

 

 響く咆哮とともに、轟音が鳴り響いた。

 脇道に飛び込む寸前の壁がぶっ壊れ、そこから、鮮やかな銀と紫の髪色の男が飛び出してきた。

 青と金の光だけが照らす暗い夜道でも、そいつは明らかにこちらへと振り向いている。

 

「うぉ……っ!?」

「――行かせるかよ、1(・)0(・)0(・)0(・)万(・)!」

「はぁ!?」

 

 粗い息を吐き出すそいつは、俺と同じくらいの小柄な男。

 滑らかな黒いライダースーツみたいな服を着たそいつは、何故か右腕を巨大な籠手(グローブ)で覆っていた。

 

 あれで壁ぶっ壊したのか? 銃弾防いだ壁だぞ!?

 明らかに普通じゃない。

 んで、あの派(・)手(・)な(・)髪(・)色(・)――間違いない。

 

「色式兵装(カラージュ)使い……!!」

「テメェもだろうが! どうやってレンの狙撃から生き延びた? なあ!?」

 

 汚い口調で罵るそいつの籠手(グローブ)が赤く輝きを放つ。

 嘘だろ、ブラー相手に使う武器だろそれ!

 

「忙しいんだ。さっさと倒れろ、1000万!」

「……!!」

 

 吼える男に拳銃を乱射する。

 だが――。

 

「……破ぁっ!」

「――いっ!?」

 

 咆哮とともに振り上げた籠手に防がれた。

 散らして撃ったのに、化け物め。

 

「あん? ゴム弾か。ハンターは殺さねえってか?」

 

 肉屋に頼んで買った、漂白部隊(SBEU)とかが残留者(レジピポ)制圧に使用する非殺傷弾。

 殺すと後が面倒だし、狙撃手には情報を吐き出してもらわなければならない。

 だからこれで骨を折るなりして戦闘不能にさせるつもりだったが――。

 

 ――やっぱり護衛がいたか……!!

 

 狙撃手到達にはこいつが邪魔になる。

 さてどうするか。刹那の思考の合間で、男が顔を歪ませるのが見えた。

 

「舐められたもんだなぁ、おい!」

「はぁ?」

「オレらは容赦しねえぞ! ぶっ飛ばす!!」

 

 何故か怒り、拳を構えたそいつが迫り、拳を叩きつけた。

 途端、拳から爆破のような衝撃が走り、硬い路面が重い轟音とともにひび割れる。

 馬鹿力過ぎんだろうが……!!

 

 このまま避けて渡りたいが、奴のせいで壁が壊れた。

 当然進めば狙撃が待ってる。

 

 鉄を巻いたのは足だけ。今度は容赦なく他を狙ってくる。

 対策2つは無効化された。なら――。

 

「――押し通る」

 

 男の顔面に2連射。

 

「はっ! だから効かねえって――」

 

 素早く防御に回る籠手。

 故に踏ん張りろうと固まった膝裏にローを叩き込む。

 

「ぐっ……!!」

 

 崩れたその顔面――顎に、拳銃の銃床を振り抜いた。

 ゴッ、と鈍い音が響いて、男の身体が後ろにぐらつく。

 

「一緒に来い!」

 

 その胸倉を掴み取って、一(・)緒(・)に(・)道(・)路(・)へ(・)と(・)飛(・)び(・)出(・)し(・)た(・)。

 

「おぉ……っ!?」

「――壁!」

『――おっけい!』

 

 俺の意図を汲んだ予言者(シアー)が、俺の行き先――通路に飛び込む寸前の部分に壁を生み出す。

 案の定、俺がそこに到達したその瞬間に、壁の向こうから銃弾の弾ける音がした。

 

 ――こいつを盾にしても、どうせ奴は撃ってくる。ほんの一瞬、迷わせればいい……!!

 

 狙い通り狙撃まで一瞬のラグができた。

 その隙に飛び込み、掴んでいた男を壁に叩きつけ、ゴム弾をその腹に叩き込んだ。

 顔は籠手に防がれた。残念。

 

「っ……てめぇ、待て!」

 

 嫌です。気絶させて連れてけたら最高だったが、無理なら逃げる。

 振り向かずにゴム弾を撃ち尽くして、猟銃を真横のガラス扉にぶっ放す。

 どこか知らん建物だが、そこへと飛び込んだ。

 

 これで両方の視界から逃れた。

 今のうちに全力で距離を稼ぐ。

 

『こっから先はリアル地図頼りになるから、ほとんどナビゲートできないよ!』

「わかってる。壁の準備だけ頼むぞ!」

 

 結局滅茶苦茶な戦闘開始になったが、こうなったらやるしかない。

 撃たれた方角は把握した。全速力で狙撃手へと駆け抜けるのみ。

 

 青と金に照らされた廃墟の中、狙撃手とその護衛との戦いが幕を開けたのだった。

 

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