崩壊世界でルートシューター   作:穴熊拾弐

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第36話 Encounter⑤

 

 

 

 中央区画の大通り。

 青と金の光に照らされた幅の広い道では、激変が起きていた。

 

「どうなってんだ、この化け物……!!」

 

 戀鬼一家の凹の方、瑞希は苦し気に声を上げる。

 

 目の前の異形、血のような赤い結晶を生やした特殊個体(ユニーク)。

 相方レンとの連携で追い詰め、たった今まで両腕と片足をもがれて死ぬ寸前だった筈。

 それがいきなり背中から結晶を飛ばしてきた。

 

 瑞希は籠手(グローブ)で防いだが、残留者(レジピポ)の1人がやられた。

 その瞬間、倒れていた筈の特殊個体(ユニーク)が素早くそこに飛びつき首を喰らったのだ。

 

 そして始まった再生。

 今や、奴は両の足で自立してこちらを睨みつけている。

 苦労して破壊した部位だというのに、一瞬の隙を突いて奴は生き延びてしまった。

 

「うわぁああ!?」

「ひ……っ!! ひぃ!?」

 

 仲間がやられたことで残留者(レジピポ)たちが逃げ出していく。

 だが特殊個体(ユニーク)はそれを追わずに、真っすぐに瑞希を見つめていた。

 

 ――脅威はオレ1人か。上等じゃねえかコラ……!!

 

 逃げていく奴らを咎める余裕もない。

 どうせ残っても奴らの銃弾は弾かれ、喰われて回復に充てられる。

 ならば2人で戦った方がいい……のだけれど。

 肝心のレンからの反応が途絶えていた。

 

 ――あの亡霊がなんかしやがったな。死ぬなよ、レン……!!

 

 今すぐ助けに行きたいところだが……。

 

『■■■■――!!』

「んな余裕、くれるわけねえか……!!」

 

 籠手(グローブ)に力を込めて、色式兵装(カラージュ)としての効果を発動させる。

 全身に悪寒が走り、何かが吸われる感覚が襲う。

 

 瑞希の持つ装備は命を喰わせて、短期間――約10分間身体能力を向上させるという代物。

 そこに、打撃時に作動する炸裂薬で威力を担保している。

 いわば命の前借り。

 特殊個体(ユニーク)だろうと殴り合える分、身体への負担は大きい。

 

 1度の使用なら問題ない。

 2度使えば翌日は全身筋肉痛に襲われる。

 短期間での更なる連続使用は……恐らく効果終了と同時にぶっ倒れる。

 

 この10分の間に勝たなければ待っているのは死だ。

 ただ、どのみち使わなくても死ぬ。

 なら使うだけ得だと瑞希は笑う。

 

 ――レンなら何とかする。オレは時間を稼ぐ!

 

 瑞希(じぶん)が死ねば、レンがやられる。

 だから死んでもここは守り通す。

 強化された視界で夜に佇む異形を睨み、吠える。

 

「死ねこらぁ!!」

『■■■■――!!』

 

 文字通り命を賭けた戦いが始まった。

 

 

***

 

 

「再生するとか知らないよ……なんなんだあの怪物は……!!」

 

 10階のマンションから見下ろす、眼下の大通り。

 そこで馬鹿力チビと特殊個体(ユニーク)の戦いが始まっている。

 籠手(グローブ)が光ってるから色式兵装(カラージュ)を使ったのだろう。

 ただ、それでも厳しい戦いに思える。

 

「どうするか」

『狙撃銃使ったら? 多分、次の標的はキミだよ』

「だろうけど、使ったことないからなぁ……」

 

 俺が撃っても外すか、馬鹿力チビの方にあたる可能性が高い。

 偏差とか知らんし。この狙撃手が取りついてた銃、対物ライフルだろこれ。

 人間の身体なんて消し飛ぶぞ。

 ……この身体ならいけるのか? できるかもなあ。

 

 ただ、そんな一か八かをここでやるわけにはいかない。

 俺と違って、あいつは死(・)ん(・)だ(・)ら(・)死(・)ぬ(・)のだ。

 

 ――せっかく殴り合える前衛がいるんだ。時間を稼いでもらわないと。

 

 大慌てで治療をしながら考える。

 あの人を食った特殊個体(ユニーク)をなんとかしつつ、狙撃手たちに情報を吐き出させる。

 それには……。

 

「よし、任せるか」

 

 背後で伸びていた狙撃手を掴んで引き起こすと、頬をひっぱたく。

 

「起きろ、おい!」

「……うぅ……」

「しっかりしろ。仲間が死ぬぞ!」

「……っ、瑞希!!」

 

 ぐわっと目が開いて、そいつが飛び起きた。

 一瞬呆然としたそいつが、俺を見る。

 ……一応、口調だけは継続しとこう。

 

「お前……」

「黙って、話を聞きなさい」

 

 なにやら口を開くが、無視して話を進める。

 今は時間がない。

 

「仲間を殺したくないなら、協力しなさい。聞こえました? 理解できたら頷いて」

「……あ、ああ……」

 

 ふるふると首が縦に振られた。

 よし、理解が早い。何とかなりそうだ。

 

「では聞きなさい。今からあなたの仲間を助けます。逆らえば仲間を殺します。いい?」

「……分かった」

「素晴らしい。そしてもし助けたなら――私の頼みを聞いてもらいます」

「……頼みって……」

「それは――」

 

 勿論、停戦協定。

 そう言いかけてふと思う。

 前衛を張れる馬鹿力チビに、正確無比な狙撃手。

 ……めっちゃ、仲間に欲しくない?

 

 これからの活性化攻略、仲間はいればいる程いい。

 そして目の前には恩を売れそうな相手――。

 

 その思い付きが、全身を電撃の様に駆け巡って。

 

「一緒に、この街を救ってはみませんか?」

「……へ?」

 

 気付けばそんなことを口走っていたのだった。

 

 

***

 

 

 マンションを爆速で降りて、道路を全速力で駆け抜ける。

 

「……背後から撃たれないよな」

『ははっ、そうなったら大笑いだね』

「笑えねえよ……ただ、勝てば最高の結果だろ」

『そうだね。勝とう!』

 

 こいつに狙撃手の監視を依頼――しても無駄だな。

 どこを狙ってるかなんて上から見ても分からんし。

 

『でも、どうするの? とっても硬いよあの特殊個体(ユニーク)』

「さあな。とにかくあれぶっ倒せばいいんだろ。お前は脆そうなとこを調べて教えろ」

『はーい』

 

 使えるものは俺と予言者(シアー)と、あの2人組。

 あの硬い外皮をぶっ壊せばいいんなら、やりようはあんだろう。

 幸い、全員適したモノは持ってる。

 

 あとは、あの狙撃手が馬鹿力チビを説得できるかどうかだが……。

 

『近いよ』

「ああ、見えてきた……!!」

「――は? 協力って、何言って……!!」

 

 なにやら喚いている銀髪――瑞希というらしい――そいつの脇を抜けて、拳銃をぶっ放す。

 顔面に5連射。全部カンカン弾かれる。

 

「……駄目か」

「当たり前だろんな豆鉄砲で!!」

 

 ……耳もいいのかよ。迂闊に喋れないな。

 予言者(シアー)に話しかけるのはやめておこう。

 

 ちなみに弾は実弾に変えてある。それでこれ。

 実際、豆鉄砲である。

 

「まあまあ、物はやりようですよ」

 

 適当にそう言って、化け物の脇を駆け抜ける。

 咄嗟に顔を振って反応した顔面に狙撃の轟音が鳴り響く。

 

『――――!!?』

 

 がおん、と凄まじい音と圧にこちらが怯む。

 あの狙撃手――レンというらしい――の援護だ。

 すんごい威力だけど、あんなの喰らったの俺……!?

 

 ――人に撃つもんじゃねえだろ……!!

 

 悪態を吐きつつ、再度接近。

 その間に奴を観察し続けた予言者(シアー)から報告が入る。

 

『細いのは腕と足。でも腕は結晶が覆ってる』

 

 確かに腕は再生時に生えたらしい結晶が手の部分を覆っていた。

 なんつうんだっけ、あのどっかの国の握る突剣……あんな感じ。

 

「顔か足か……なら、顔!」

 

 素早く切り替えた猟銃を顔面に2連射。

 こちらも重い銃撃音が鳴って、奴の顔がぶん殴られた様に真横に弾かれるが……変わらず無傷。

 

「硬い……!!」

『■■■■――!』

 

 ようやく俺に反応したブラーが、腕を振り抜く。

 鋭く伸びた結晶が夜気を切り裂き迫る。

 

「……っ!!」

 

 瞬きの間に振られた一閃を屈んで避ける。

 

 デカい身体に見合わない俊敏な動き。

 普通の人間だったら首を断たれてただろう。

 鈍重に見えて、ちゃんと化け物してやがる。

 

 ――何が厄介って、とんでもなく硬い……!!

 

 スタミナ無限。防御力最大。

 それでいて向こうの一撃はちゃんと致死。

 戦棍火炎鮫は攻撃力特化って感じだったが、受けたら死ぬなら一緒だろう。

 

 防御力もあるし罠はないこの状況。

 一見勝ち目はなさそうだが……。

 

「――下がれ、1000万!」

「――っ!」

 

 真横から響いた声に、屈んだまま後ろに転がる。

 同時に駆け込んできた、赤い光を帯びた籠手(グローブ)をぶん回した瑞希が、右頬に裏拳を叩き込んだ。

 

『――――!!』

「わけわかんねえけどっ、やるんだな!」

「そういうことです」

 

 こちらに僅かに顔を向け、瑞希が笑う。

 直ぐに視線は化け物へと戻る。

 つられて俺も特殊個体(ユニーク)を見る。

 

 3人それぞれの攻撃を受けた右頬。

 ……あそこだな。

 

「おい、顔だな?」

 

 同じことを思ったのだろう。

 瑞希の愉快気な声が耳朶を叩く。

 気が合うな、馬鹿力チビ!

 

「顔です。ぱんぱんになるまで!」

「はっ! そういうのは大得意! ……おらぁ!!」

『■■■■――!!』

 

 瑞希が相手してる間にリロードを済ませ、服から例の物を引き抜く。

 使うなら、ここだろ。

 攻撃を受け止め下がって来た瑞希に告げる。

 

「順番に叩きます。私から」

「おう。次がオレ、最後がレンな!」

「どちらでもいいですけど……ではっ!」

 

 さあ、重撃弾のお披露目だ。

 突きを放つ特殊個体(ユニーク)の攻撃を、瑞希を蹴っ飛ばして2人とも避ける。

 

「てめぇ!」

 

 叫びは無視して、引っ張り出した色式兵装(カラージュ)を構える。

 左へと流れる様に移動しながら、奴の右頬に狙いを定めて、引き金を引いたその時。

 握った左掌に激痛が走った。

 

「……っ!?」

 

 手のひらから肉を摘ままれ、そのまま捩じ切られるような激痛。

 遂にはばちん、と引き千切れたその『肉』が、腕から銃身へと強烈なエネルギーとなって迸って放たれた。

 

 ――瞬間、あらゆる音が消え去った。

 

 真一文字に伸びた腕から銃口まで、閃光の様に駆け抜けたエネルギーが銃口から放たれる。

 白い光が瞬き、特殊個体(ユニーク)の顔面にぶち当たって炸裂。

 雷鳴のような轟音が鳴り響いた。

 

「ぅお……!?」

 

 手榴弾を軽く超える音と衝撃。

 それが左手に握った拳銃から放たれたのだ。

 当然身体は吹き飛び、冷たい路面を数mを転がった。

 

「痛っ……あ゛あ゛!!」

 

 身体は叩きつけられ、全身が痛い。

 それらを軽く飛び越えて、肩に激痛が走ってる。

 

 それでも無理やり起き上がると、首がひん曲がった特殊個体(ユニーク)がいた。

 死んで……ないな。首は繋がってるし、煙を噴いている頬から血は出ていない。

 

 ――しぶとい野郎だな、おい……!!

 

 その手前で、瑞希が固まり、目を見開いてこちらを見ている。

 

「おまっ、なんだ今の……!!」

「――撃て!」

 

 無視して叫ぶ。

 ハッとした瑞希が動き出す前に、飛来した銃弾が頬に叩き込まれる。

 動く隙は与えない。

 このまま、ぶっ殺す……!!

 

「おいレン、次はオレって……!!」

「遅いんですよ!」

「ああ!?」

『ヒビ入ってる! いけるよ!』

 

 予言者(シアー)の声が身体に熱を駆け巡らせる。

 飛び起きて肩をぐるりと回す……痛いが動く! なら良し!

 そのまま全力で接近。

 もう1発……!!

 

「トドメよろしく、3番!」

「はぁ!? おまっ――!!」

 

 無視して突撃!

 袈裟の振り下ろしを避け――切れずに首の下あたりが裂ける。

 だが、死ななきゃ安い!

 

「これで――!!」

 

 顔面に銃口を向け、もう一度重撃弾をぶっ放す。

 衝撃が放たれ、俺と奴の顔の両方が弾ける。

 

 肩に激痛。

 ごきりと鈍い音が頭に響く。

 多分外れたな。でも、それでいい。

 

 再び狙撃銃が放たれ、今まで聞いたことのない破砕音が鳴り響いた。

 期待した答えを、予言者(シアー)が叫んで教えてくれた。

 

『――割れた! いけるよ!』

「――終わりだぁ!!!」

 

 咆哮とともに。

 赤い光を残しながら駆け抜けていった瑞希が、結晶の剥げた顔面に右腕を叩き込んだ。

 激突の瞬間。籠手(グローブ)が光って爆発を起こした。

 

 がおん、と鳴り響いた音。

 その一撃で、遂に奴の顔面は砕かれ、長い頭部は半分以上が抉られている。

 

『……………』

 

 それでもピクリと身体が動いたその瞬間、遥か後方から響く銃撃音。

 叩き込まれた3連射撃を受け、遂にその顔面は半ばから消失。

 流石の巨体も力を失い、赤黒い身体は膝から崩れ落ちたのだった。

 

 どさりと倒れた音の後には、ただひたすらの静寂が続いている。

 

「はっ……はっ……死んだか……?」

「……その言葉は……まあいいか……」

 

 痛みで視界が滲む。

 荒れた息と、荒ぶる脈動で血がどくどく噴き出してるのが良く分かる。

 右腕の傷、完全に開いてるなこれ……。

 色々と不味い状況だが、周囲は静寂に満ちている。

 あの化け物の咆哮も、巨体が動く砂利の音も聞こえない。

 

『うん、大丈夫。死んでるよ』

 

 唯一無傷で冷静な予言者(シアー)の言葉が聞こえて。

 一気に力が抜けて、俺は路上に倒れ込んだ。

 どうやら、本当に終わったらしい。

 

「……なんとか、なったな……」

『ホントにね……お疲れ様』

「……ああ」

 

 遭遇戦からまさかの共闘まで。

 貴重な5日の1つを費やした対狙撃手は、ようやく終わりを迎えたのだった。

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