中央区画の大通り。
青と金の光に照らされた幅の広い道では、激変が起きていた。
「どうなってんだ、この化け物……!!」
戀鬼一家の凹の方、瑞希は苦し気に声を上げる。
目の前の異形、血のような赤い結晶を生やした
相方レンとの連携で追い詰め、たった今まで両腕と片足をもがれて死ぬ寸前だった筈。
それがいきなり背中から結晶を飛ばしてきた。
瑞希は
その瞬間、倒れていた筈の
そして始まった再生。
今や、奴は両の足で自立してこちらを睨みつけている。
苦労して破壊した部位だというのに、一瞬の隙を突いて奴は生き延びてしまった。
「うわぁああ!?」
「ひ……っ!! ひぃ!?」
仲間がやられたことで
だが
――脅威はオレ1人か。上等じゃねえかコラ……!!
逃げていく奴らを咎める余裕もない。
どうせ残っても奴らの銃弾は弾かれ、喰われて回復に充てられる。
ならば2人で戦った方がいい……のだけれど。
肝心のレンからの反応が途絶えていた。
――あの亡霊がなんかしやがったな。死ぬなよ、レン……!!
今すぐ助けに行きたいところだが……。
『■■■■――!!』
「んな余裕、くれるわけねえか……!!」
全身に悪寒が走り、何かが吸われる感覚が襲う。
瑞希の持つ装備は命を喰わせて、短期間――約10分間身体能力を向上させるという代物。
そこに、打撃時に作動する炸裂薬で威力を担保している。
いわば命の前借り。
1度の使用なら問題ない。
2度使えば翌日は全身筋肉痛に襲われる。
短期間での更なる連続使用は……恐らく効果終了と同時にぶっ倒れる。
この10分の間に勝たなければ待っているのは死だ。
ただ、どのみち使わなくても死ぬ。
なら使うだけ得だと瑞希は笑う。
――レンなら何とかする。オレは時間を稼ぐ!
だから死んでもここは守り通す。
強化された視界で夜に佇む異形を睨み、吠える。
「死ねこらぁ!!」
『■■■■――!!』
文字通り命を賭けた戦いが始まった。
***
「再生するとか知らないよ……なんなんだあの怪物は……!!」
10階のマンションから見下ろす、眼下の大通り。
そこで馬鹿力チビと
ただ、それでも厳しい戦いに思える。
「どうするか」
『狙撃銃使ったら? 多分、次の標的はキミだよ』
「だろうけど、使ったことないからなぁ……」
俺が撃っても外すか、馬鹿力チビの方にあたる可能性が高い。
偏差とか知らんし。この狙撃手が取りついてた銃、対物ライフルだろこれ。
人間の身体なんて消し飛ぶぞ。
……この身体ならいけるのか? できるかもなあ。
ただ、そんな一か八かをここでやるわけにはいかない。
俺と違って、あいつは
――せっかく殴り合える前衛がいるんだ。時間を稼いでもらわないと。
大慌てで治療をしながら考える。
あの人を食った
それには……。
「よし、任せるか」
背後で伸びていた狙撃手を掴んで引き起こすと、頬をひっぱたく。
「起きろ、おい!」
「……うぅ……」
「しっかりしろ。仲間が死ぬぞ!」
「……っ、瑞希!!」
ぐわっと目が開いて、そいつが飛び起きた。
一瞬呆然としたそいつが、俺を見る。
……一応、口調だけは継続しとこう。
「お前……」
「黙って、話を聞きなさい」
なにやら口を開くが、無視して話を進める。
今は時間がない。
「仲間を殺したくないなら、協力しなさい。聞こえました? 理解できたら頷いて」
「……あ、ああ……」
ふるふると首が縦に振られた。
よし、理解が早い。何とかなりそうだ。
「では聞きなさい。今からあなたの仲間を助けます。逆らえば仲間を殺します。いい?」
「……分かった」
「素晴らしい。そしてもし助けたなら――私の頼みを聞いてもらいます」
「……頼みって……」
「それは――」
勿論、停戦協定。
そう言いかけてふと思う。
前衛を張れる馬鹿力チビに、正確無比な狙撃手。
……めっちゃ、仲間に欲しくない?
これからの活性化攻略、仲間はいればいる程いい。
そして目の前には恩を売れそうな相手――。
その思い付きが、全身を電撃の様に駆け巡って。
「一緒に、この街を救ってはみませんか?」
「……へ?」
気付けばそんなことを口走っていたのだった。
***
マンションを爆速で降りて、道路を全速力で駆け抜ける。
「……背後から撃たれないよな」
『ははっ、そうなったら大笑いだね』
「笑えねえよ……ただ、勝てば最高の結果だろ」
『そうだね。勝とう!』
こいつに狙撃手の監視を依頼――しても無駄だな。
どこを狙ってるかなんて上から見ても分からんし。
『でも、どうするの? とっても硬いよあの
「さあな。とにかくあれぶっ倒せばいいんだろ。お前は脆そうなとこを調べて教えろ」
『はーい』
使えるものは俺と
あの硬い外皮をぶっ壊せばいいんなら、やりようはあんだろう。
幸い、全員適したモノは持ってる。
あとは、あの狙撃手が馬鹿力チビを説得できるかどうかだが……。
『近いよ』
「ああ、見えてきた……!!」
「――は? 協力って、何言って……!!」
なにやら喚いている銀髪――瑞希というらしい――そいつの脇を抜けて、拳銃をぶっ放す。
顔面に5連射。全部カンカン弾かれる。
「……駄目か」
「当たり前だろんな豆鉄砲で!!」
……耳もいいのかよ。迂闊に喋れないな。
ちなみに弾は実弾に変えてある。それでこれ。
実際、豆鉄砲である。
「まあまあ、物はやりようですよ」
適当にそう言って、化け物の脇を駆け抜ける。
咄嗟に顔を振って反応した顔面に狙撃の轟音が鳴り響く。
『――――!!?』
がおん、と凄まじい音と圧にこちらが怯む。
あの狙撃手――レンというらしい――の援護だ。
すんごい威力だけど、あんなの喰らったの俺……!?
――人に撃つもんじゃねえだろ……!!
悪態を吐きつつ、再度接近。
その間に奴を観察し続けた
『細いのは腕と足。でも腕は結晶が覆ってる』
確かに腕は再生時に生えたらしい結晶が手の部分を覆っていた。
なんつうんだっけ、あのどっかの国の握る突剣……あんな感じ。
「顔か足か……なら、顔!」
素早く切り替えた猟銃を顔面に2連射。
こちらも重い銃撃音が鳴って、奴の顔がぶん殴られた様に真横に弾かれるが……変わらず無傷。
「硬い……!!」
『■■■■――!』
ようやく俺に反応したブラーが、腕を振り抜く。
鋭く伸びた結晶が夜気を切り裂き迫る。
「……っ!!」
瞬きの間に振られた一閃を屈んで避ける。
デカい身体に見合わない俊敏な動き。
普通の人間だったら首を断たれてただろう。
鈍重に見えて、ちゃんと化け物してやがる。
――何が厄介って、とんでもなく硬い……!!
スタミナ無限。防御力最大。
それでいて向こうの一撃はちゃんと致死。
戦棍火炎鮫は攻撃力特化って感じだったが、受けたら死ぬなら一緒だろう。
防御力もあるし罠はないこの状況。
一見勝ち目はなさそうだが……。
「――下がれ、1000万!」
「――っ!」
真横から響いた声に、屈んだまま後ろに転がる。
同時に駆け込んできた、赤い光を帯びた
『――――!!』
「わけわかんねえけどっ、やるんだな!」
「そういうことです」
こちらに僅かに顔を向け、瑞希が笑う。
直ぐに視線は化け物へと戻る。
つられて俺も
3人それぞれの攻撃を受けた右頬。
……あそこだな。
「おい、顔だな?」
同じことを思ったのだろう。
瑞希の愉快気な声が耳朶を叩く。
気が合うな、馬鹿力チビ!
「顔です。ぱんぱんになるまで!」
「はっ! そういうのは大得意! ……おらぁ!!」
『■■■■――!!』
瑞希が相手してる間にリロードを済ませ、服から例の物を引き抜く。
使うなら、ここだろ。
攻撃を受け止め下がって来た瑞希に告げる。
「順番に叩きます。私から」
「おう。次がオレ、最後がレンな!」
「どちらでもいいですけど……ではっ!」
さあ、重撃弾のお披露目だ。
突きを放つ
「てめぇ!」
叫びは無視して、引っ張り出した
左へと流れる様に移動しながら、奴の右頬に狙いを定めて、引き金を引いたその時。
握った左掌に激痛が走った。
「……っ!?」
手のひらから肉を摘ままれ、そのまま捩じ切られるような激痛。
遂にはばちん、と引き千切れたその『肉』が、腕から銃身へと強烈なエネルギーとなって迸って放たれた。
――瞬間、あらゆる音が消え去った。
真一文字に伸びた腕から銃口まで、閃光の様に駆け抜けたエネルギーが銃口から放たれる。
白い光が瞬き、
雷鳴のような轟音が鳴り響いた。
「ぅお……!?」
手榴弾を軽く超える音と衝撃。
それが左手に握った拳銃から放たれたのだ。
当然身体は吹き飛び、冷たい路面を数mを転がった。
「痛っ……あ゛あ゛!!」
身体は叩きつけられ、全身が痛い。
それらを軽く飛び越えて、肩に激痛が走ってる。
それでも無理やり起き上がると、首がひん曲がった
死んで……ないな。首は繋がってるし、煙を噴いている頬から血は出ていない。
――しぶとい野郎だな、おい……!!
その手前で、瑞希が固まり、目を見開いてこちらを見ている。
「おまっ、なんだ今の……!!」
「――撃て!」
無視して叫ぶ。
ハッとした瑞希が動き出す前に、飛来した銃弾が頬に叩き込まれる。
動く隙は与えない。
このまま、ぶっ殺す……!!
「おいレン、次はオレって……!!」
「遅いんですよ!」
「ああ!?」
『ヒビ入ってる! いけるよ!』
飛び起きて肩をぐるりと回す……痛いが動く! なら良し!
そのまま全力で接近。
もう1発……!!
「トドメよろしく、3番!」
「はぁ!? おまっ――!!」
無視して突撃!
袈裟の振り下ろしを避け――切れずに首の下あたりが裂ける。
だが、死ななきゃ安い!
「これで――!!」
顔面に銃口を向け、もう一度重撃弾をぶっ放す。
衝撃が放たれ、俺と奴の顔の両方が弾ける。
肩に激痛。
ごきりと鈍い音が頭に響く。
多分外れたな。でも、それでいい。
再び狙撃銃が放たれ、今まで聞いたことのない破砕音が鳴り響いた。
期待した答えを、
『――割れた! いけるよ!』
「――終わりだぁ!!!」
咆哮とともに。
赤い光を残しながら駆け抜けていった瑞希が、結晶の剥げた顔面に右腕を叩き込んだ。
激突の瞬間。
がおん、と鳴り響いた音。
その一撃で、遂に奴の顔面は砕かれ、長い頭部は半分以上が抉られている。
『……………』
それでもピクリと身体が動いたその瞬間、遥か後方から響く銃撃音。
叩き込まれた3連射撃を受け、遂にその顔面は半ばから消失。
流石の巨体も力を失い、赤黒い身体は膝から崩れ落ちたのだった。
どさりと倒れた音の後には、ただひたすらの静寂が続いている。
「はっ……はっ……死んだか……?」
「……その言葉は……まあいいか……」
痛みで視界が滲む。
荒れた息と、荒ぶる脈動で血がどくどく噴き出してるのが良く分かる。
右腕の傷、完全に開いてるなこれ……。
色々と不味い状況だが、周囲は静寂に満ちている。
あの化け物の咆哮も、巨体が動く砂利の音も聞こえない。
『うん、大丈夫。死んでるよ』
唯一無傷で冷静な
一気に力が抜けて、俺は路上に倒れ込んだ。
どうやら、本当に終わったらしい。
「……なんとか、なったな……」
『ホントにね……お疲れ様』
「……ああ」
遭遇戦からまさかの共闘まで。
貴重な5日の1つを費やした対狙撃手は、ようやく終わりを迎えたのだった。