崩壊世界でルートシューター   作:穴熊拾弐

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第38話 Light Trap①

 

 

 

『そろそろお昼だよー、起きてー!』

「……う、ん……」

 

 耳元から聞こえた声で、俺は目を覚ました。

 微睡みの中からさっと抜け出して、身体を起こす。

 

『お、起きたね。おはよー』

「ここは……医院か」

 

 窓の向こうは明るい。来た時は早朝だったが、すっかり高く昇って外から街の音がうっすら響いてる。

 いつの間にか寝てたらしい。それもたっぷり長時間。

 

 寝る前に何をしてたのかも覚えてない。

 それくらいすこーんと綺麗に寝落ちした。

 そのせいか夢も見なかったな。

 

「……?」

 

 そういやこの身体になってから夢を一切見てない気がする。

 眠りが深いと夢を見ないんだったか? 流石超健康体。不思議なもんだなあ……。

 静かな部屋の中、ぼーっと視線を彷徨わせながら呟く。

 

「……どれくらい寝てたんだ」

「6時間は寝てたぞ。もう昼前だ」

 

 呟きには予言者(シアー)じゃなくて医者(ドク)が答えた。

 

 ……いたのか。

 振り返ると、彼は移動式テーブルの上に色々と物を並べてメモを取っていた。

 なにしてんだあれ。

 ぼんやり見ていると、彼はこちらに視線も向けずに話し始める。

 

「よく寝れたみたいだな」

「……おかげさまで……痛っ……」

 

 うん、とひと伸びして肩に痛みが走る。

 怪我してたの忘れてた。

 

「なにしてんだ」

「ベッドが気持ちよくて、つい」

「そのオンボロベッドが? お前、普段どんな場所で寝てんだ……」

「あはは……」

 

 木のベンチです、とは言えないな。

 右も左も痛い……。右肩と右腕は縫合までしたから当然として、左は重撃弾の反動だろうか。

 

 そういえばと左掌を見つめるが、特に変化は起きていない。

 綺麗で真っ白な掌がそこにある。

 

 あの肉が千切れる様な痛みは、あくまで錯覚ってわけだ。

 だからこそ不思議で仕方がない。

 あれで()()()()()()()()()なんて信じられん。

 

 きっと多くの人がそうなんだろう。

 何度も使って、気づいたら髪の毛が白くなってて……その時ようやくびっくりすんだろうなー。

 ……鏡もどっかで見つけておこう。

 

「でもおかげで休めました。ありがとうございます」

「気にすんな、仕事だ。……痛みはどうだ。動けそうか?」

「大丈夫です。ちょっとは痛みますけど、ほら」

 

 試しにシャドーボクシングをしてみせたが問題なく動く。

 痛いは痛いけどね。

 

「骨まで達してたんだ。無理はすんなよ」

「勿論です。……そういえば、レンさんは?」

「一旦装備を整えるとか言って出てったぞ。もう1人は向こうで寝てる」

 

 彼以外にこの部屋に人はいない。

 一瞬逃げたかと思ったが、そうではないらしい。

 

『大丈夫、あの人たち手伝ってくれるって』

「……ふむ」

 

 なんでそれをお前が知ってるんだ?

 まあいい。そこが約束できてるんなら、大丈夫だろ。

 予言者(シアー)と今後の話もしたいし、さっさと行こう。

 

「もう行くのか?」

「はい。ベッド、ありがとうございました」

「気にせずいつでも来い。……ただ、ちょっといいか」

「……?」

「悪いが頼みがある。ほれ」

 

 医者(ドク)が紙を手渡してきた。

 そこにはパッと見、意味の分からない文字の羅列。

 

「医療品が急ぎ必要だ。そのリストの品を集めておいてくれ」

「ご指名とは珍しい……やはり物資は不足してますか」

「ああ。漂白部隊(SBEU)が集めてくれているが、まるで足らん」

 

 活性化の影響だろうか。

 既に怪我人が出てるってことなのか……廃墟から集めないといけない程不足してると。

 中々大変な状況らしい。

 

「薬は期限切れだから要らん。手術器具とかそういうのを頼む」

「それは構わないんですが……すみません、文字(これ)だけだと判別がつかないですね……」

「だろうと思ってここに並べておいた。見て覚えろ」

「ええ……」

 

 なんか並べてたのはそういう理由か。

 仕方ない。ざっくり形とかだけ覚えよう。

 

「どこにあるか、目安でいいのでわかります?」

「病院と薬局だな。地図はあるか?」

「ええと……こちらで」

「……随分とボロっちい地図だな」

 

 毎日使ってるからね。

 拳銃とかの装備に次ぐ功労賞である。

 

「ほら、これで頼む」

「分かりました。お任せください」

 

 ホテル攻略をしないといけないから、その道中に寄れたらって感じかな。

 受け渡しに来られるタイミングがあると良いが……。

 

「悪ぃが頼んだぞ」

「いえいえ、御迷惑おかけしましたから、これくらいはさせてください」

 

 よし、じゃあ帰りますか。

 狙撃手も排除したことだし、本格的にホテル攻略を開始するとしよう。

 

 

*** 

 

 

 医院を出ると、眩しい日差しに出迎えられる。

 山の向こうにあった筈の陽が、真上でぎらぎらと輝いてる。

 

「眩し……すっかり昼だな」

『そうだよー。良く寝てたね、君』

「まさか6時間も寝てたとは……時間を無駄にした……」

『いやいや、睡眠は大事だよー。アタシも寝たし』

「そうなんだが、この状況だとな。身体も痛いし」

 

 頭を撃ち抜けば負傷と一緒に眠気もリセットできる。

 そういう意味でも便利なシステムなんだよなあ。金はかかるけど。

 ……こういう思考がマズいって予言者(シアー)に言われたばかりだから、言いはしないけどさ。

 

『でもでも、その分お金は節約できたでしょ? 凄いねあのお医者さん。あっという間に治療しちゃったよ』

「口は悪いけどいい人だろ? あの人のおかげでこの街はもってると思うよ」

 

 冷えた秋風が砂を巻き上げ流れていく。 

 そろそろ正午を迎える街は、思っていたより活気に満ちている。

 医院がある辺りは残った都市の繁華街にあたるのだろう。それなりの人が行きかい、日々の営みを送っている。

 

 平和な光景であるが、今この時は呑気だともいえる。

 恐らく、活性化について周知がされてないんだろう。

 

 混乱が起きてないのはいいことだが、それは同時に、活性化を引き起こしたら最悪の事態になることを意味する。

 ますます、なんとしても勝たねばならないのだが……。

 

「……で? 呑気に寝てたわけだが大丈夫なのか? 迎えがどうとか言ってたが」

『ふふん、そこは任せなさい。ほら、来たよ』

「……?」

 

 背後からクラクションの音が響いた。

 振り返ると軽トラがいて、その運転席には……。

 

「咲良さん?」

「……本当にいた……」

 

 何故か呆然としている咲良さんがいた。

 その服装はTシャツにジーンズ……思いっきり私服だ。

 え、漂白部隊(SBEU)の仕事は? こんなとこでなにしてんのこの人。

 

『ささ、乗って乗って』

「……え? 迎えって、咲良さん?」

「そういうことだ。乗れ、皆が待ってる」

「んん?」

 

 皆? どういうこと?

 訳も分からず、車に乗り込むのだった。

 

 

***

 

 

 そうして軽トラに揺られること数十分。

 封鎖壁近くにあるガレージの中に入っていった。

 位置は多分、街の北東側。

 漂白部隊(SBEU)の管轄のギリギリ外くらいにある、放棄された建造物群の一角だった。

 

 そんなところに何があるのかと思えば――。

 

「――あ、来た来た」

「おおー、本当に来た!」

「……ええ?」

 

 そこで待っていたのは、記者(ライター)と天パ店主であった。

 しかもガレージの中は作業台やらサーバーなどが設置された工房っぽくなっている。

 

「なんでおふたりがここに?」

「それはこっちの台詞でしょ! いきなり音信不通になって!」

 

 俺の言葉を遮った記者(ライター)にどやされる。

 そのまま俺の方へと駆け寄って来て、肩を掴もう……として、動きを止めた。

 

「ちょっと、アンタ大丈夫!? 大怪我じゃない!」

「ああ、これですか。直ぐに治るので心配しないでください。ほら」

「ちょ……馬鹿!!」

 

 シャドーボクシングしてみせると、すんごい顔で睨まれた。

 

「傷口が開くでしょ! ほら、座りなさい」 

「わわっ、ホントに大丈夫なんですけど……」

 

 そのまま近くのキャンプ用っぽい椅子に座らされた。

 実際、もう痛みはほとんどないんだが、見た目は包帯やらで大怪我っぽくは見えるから仕方なし。

 嘆息していると、今度は咲良さんが声をかけて来る。

 

「その傷で戦えるのか?」

「大丈夫ですって。今すぐ危険領域に行けますよ?」

「……強がりでは無さそうだな。分かった、信じよう」

 

 渋々とだが頷いている。

 納得して貰えてよかったが……結局、これはなんなんだ?

 

「あの、なんで咲良さんと2人が一緒に? それにここは……」

「――ここは、旧陸軍が裂け目攻略に使用してたガレージの1つだよ」

 

 そう返してきたのは、杖を突く天パ店主。

 いつもの半纏ではないツナギ姿は珍しいが……。

 

「陸軍って……」

「君が教えてくれたあの学校、あれは()()旧陸軍が接収して基地化した建物の1つなんだよ」

「……そうなんですね」

 

 肉屋といい、旧陸軍関係者がやけに多いな……。

 そういう人間じゃなきゃ、裂け目と関わろうとしないってことなのか。

 ん? てことはあのブラー研究にこいつが関わってたってことか?

 

「おっと、勘違いしないでね。僕は関わってないからね。あの頃は混沌としていてね、陸軍といっても一枚岩じゃなかったんだ。そもそも旅団で分かれてたし」

 

 俺の視線が鋭くなったのを察したのか、両手を挙げてかぶりを振る。

 

「僕が知ってる陸軍関係者、例えば君がさっきまでいた医院の山さんとか、支部の甘木君とか。()()()()とは別働隊がやっていた事なんだよね」

「十神旅団って……」

 

 咲良さんの方を見ると、深い溜息を吐き出している。

 

「私の父だ」

「しかも漂白部隊(SBEU)の設立者で局長よ?」

「はー……お嬢様だったんですね」

「できて4年の組織だぞ? そんな大層なものじゃない」

 

 確かにそうか。急造組織なんだよな。

 ……それが国中に配備される大組織になってんだから、それらはそれで権力が凄そうだが。

 

「それに、もう局長じゃない」

「え? 辞めたんですか?」

「……知らないのか?」

「……?」

 

 あれ、有名なやつ?

 やべ。だとするとまた無知を晒してる……。

 焦る俺だったが、咲良さんは呆れた様に肩を竦めた。

 

「まあ、リズさんなら無理もない」

「あははは……」

 

 なんとか誤魔化せたか?

 ただ結局、なんだったのかは分からない。

 俺を余所に会話が続いていく。

 

「ここが始まりだったんだよ。だから、僕はここにいる。ただ……まさかまた活性化するとはね」

 

 肉屋に天パ店主、そして医者(ドク)漂白部隊(SBEU)の前身に所属していながら、そこを抜けた者たち。

 漂白部隊(SBEU)と袂を分かった彼らには、一体何があったのか。

 

「これだけ付き合い長いのになんにも教えてくれないんだから。アンタが教えてくれたらもっとスクープとれてたのに!」

「言うわけないでしょ……」

「なんでよ!」

 

 しかし、色々と詳しかったのは元関係者だったからなんだなあ。

 ただのジャンクショップではないと思っていたが、驚きの経歴である。

 

「まあそういうわけで、あの施設も直ぐには気付けなかったんだけど、これのおかげで調べられた」

「あ、デジカメ」

 

 咲良さんに渡したものが、天パ店主に届けられたってことか。

 ……でも結局なんで咲良さんとこいつらが一緒にいるんだ?

 視線を向けると、気まずそうに咲良さんが口を開く。

 

「……実は、あの後に私は漂白部隊(SBEU)から謹慎処分を受けたんだ」

「へ?」

 

 そうして、俺は咲良さんの身に何が起きたのかを聞いた。

 

「なんですかそれ……謹慎処分? この大事な時に?」

「笑えるわよね。なんで貴重な戦力を外すんだっての」

 

 本当に。何が狙いなのかまるでわからん。

 しかしなるほど。学校で俺を襲ってきたのはその特捜って組織らしい。

 そいつが予言者(シアー)を狙ってるってことか。

 

「中央の考えは分からないけど、こっちとしてはありがたい限りだよ。咲良さんにリズさんも合流した。おかげで作戦が実行できる」

「作戦……」

「そうよ! 名付けて――」

 

 記者(ライター)が自信満々に声を上げたその瞬間。

 壁にかかったモニターに、王冠ペンギンの姿が映った。

 

『誘蛾灯作戦! これでホテルを攻略するよ!』

 

 あ、お前も出て来るのね。

 本当に、よくわからないメンバーが揃ったものである。

 

「――さて、作戦を説明するよ。座って」

 

 薄暗いガレージの中、立てかけられたモニターと地図の広がる大机――いかにもブリーフィングの様相を呈する場所に、全員が腰かける。

 

 元陸軍技術官、現ジャンクショップ店主、鵲。

 元新聞記者にして、夜鳥羽の裂け目出現の動画を撮影した記者(ライター)こと鷹村。

 漂白部隊(SBEU)の夜鳥羽隊長――だったが、つい昨日謹慎処分を受けた咲良さん。

 そしてフリーの傭兵を自称する俺と、モニター上の王冠ペンギン。

 

 これが夜鳥羽を救わんと結成された逸れ分隊である。

 ……大丈夫か、これ。

 不安を余所に、天パ店主が強い口調で告げた。

 

「さあやろう。僕らでこの街を救うんだ」

 

 ともあれ時間がない。

 逸れ分隊による、ホテル攻略作戦が開始されるのだった。

 

 活性化まで、残り3日半。

 


探索成果:―

 

収入:―

支出:¥ 40,000 【治療費用】

 

残額:¥1,575,050

 

進行中任務

1:夜鳥羽の裂け目の消滅

2:拠点の修復

3:衣類の回収、引き渡し

4:夜鳥羽中央の指定地点への到達

5:予言者の発見、保護

6:医療用品の回収、引き渡し


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