崩壊世界でルートシューター   作:穴熊拾弐

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第39話 Light Trap②

 

 

 陽の差さない廃墟の中、俺と咲良さんは探索を行っていた。

 

「ふーん、ふーん、ふーん♪」

「……私はなんでこんなことを……あと3日で活性化だというのに……」

「あっ! 咲良さん見てください。これ、弾薬箱! 中身もたっぷりですよ」

「……危険領域での私的な窃盗は犯罪……だが、今は必要な事。我慢だ、咲良。我慢……」

 

 ここは暗いが、外はまだ明るくて15時くらい。

 作戦――『誘蛾灯』の実行は夜。

 それまでの間に移動をすることになった……のだけれど。

 

『ついでに医療品の回収をしましょう』

『なら一緒に電子機器も探して来て! 金になるやつ! あと写真と動画!』

『武器の回収もお願いねー。まだ残ってる筈だから』

『色んなとこ歩いてくれると助かるから、よろしく!』

 

 と、咲良さん以外の欲望が集まった結果こんなことになっている。

 今は天パ店主が教えてくれた旧陸軍施設跡に入って探索中である。

 

「ブラーもほとんどいない。残留者(レジピポ)が倒しちゃってるんですかね?」

「……それもあるだろうが、今は中央に集中してるんじゃないか?」

「ああ、確かに。どちらにせよ楽でいいですね」

 

 ガレージのあった東側からの侵入なので、ここらの土地勘はゼロ。

 咲良さんも裂け目が出来てから夜鳥羽に来た人なので、この辺りは歩いた経験はないとのこと。

 なので地図に関しては予言者(シアー)頼り。

 奴の3Dマップを少しでも埋めるため、こうして歩いて進んでいる。

 

「しかし、こんなところまで基地にしてたんですねー。まさか地下駐輪場とは……」

 

 そんな声が響くのは、そこそこ広い空間に自転車が並ぶ地下駐輪場。

 駅から結構離れてるのに何故そんなものがあるのかといえば、すぐ北側にある大きめの公園用なんだと。

 ……そのためにこんな地下空間が要るのか? 偉い人の考えはよくわからん。

 

「この辺りは遮蔽がないからな、適してるのはここだったんだろう」

「そもそもなんでこんな場所に拠点を? 至る所にありますよね、陸軍拠点」

 

 学校だったりホテルだったり駐輪所だったり……。

 なんで今まで見つからなかったんだって位あるぞ。

 

「鵲さん曰く、危険領域は段階的に広がったようだからな。その度につくったということなのだろう」

「だからって駐輪場ですよ? 駐車場ならともかく……ほら見てくださいよ、自転車だらけ」

「……急造だったんだろうな……」

 

 懐中電灯で照らす景色は当然自転車だらけなのだが、一部区画は自転車が撤去されて天幕が設置されていた。

 中は簡易指令室だったり、コンテナが積まれた倉庫だったり。

 恐らく少数が常駐して保持するための監視拠点だったのだろう。

 

 そのため罠もない。

 こうして気軽に会話しながら探索ができていた。

 

「んー、流石基地。作戦に関する資料とかもいっぱいですね」

 

 例えば中央区画のどこそこの奪還作戦とか。

 北東部のどこそこに新たな基地をつくるとか。

 その中の1枚に、ふと目が留まる。

 それは他の書類とは違って、真っ赤な文字で『極秘』と判が押されていた。

 

「……これ」

 


機密 極秘取扱

第三師団長 比企連次郎殿

 

中央区画拠点奪還に関する極秘措置

 

十月二日

大隊長 多田羅少佐


 

 多田羅……どっかで見た名前だな。

 

「ああ、そうだ。学校」

 

 パチンと指を鳴らす。

 学校でサンプル回収とやらの報告書に載ってた名前だ。

 この多田羅少佐とかいう人は、主に北側で戦っていた人らしい。

 内容は、中央の建物奪還にα部隊なる連中を投下するとのもの。

 ……それが機密? 良く分からんな。

 

「咲良さん、旧陸軍にα部隊なんてあったんですか?」

「……? いや、聞いたことがないな。通常は数字をつける」

「ふーん……」

 

 じゃあこのα部隊ってのが秘密? どんな秘密部隊だよ。

 この辺の書類、ゲームだと的確に必要な物を探り当てるから凄いよな。

 現実じゃなんも分からん。

 

「ん? ……はっ! これは……無線装置!」

 

 ゲームじゃどの作品でも貴重なやつ!

 そうそう、現実じゃ書類よりもこういうアイテムの方が分かりやすくて目につくってものである。

 

「こっちでも高いんじゃ……回収回収」

「……リズさんがいつも大きいバックパックを背負ってる理由が良く分かったよ」

 

 じとっ、と睨む咲良さんの視線が痛い。

 

「か、鵲の家電修理にも使われてますから、大事な仕事なんですよ?」

「……どおりで最近、配布会があったわけだ……はぁ……」

 

 物資が足りない中で行われた家電の配布。

 盗品で直した家電(モノ)を配ってたわけで、手伝っていた漂白部隊(SBEU)側の人としては複雑か。

 

「我々は犯罪の片棒を担いでいたのか……」

「失礼な! 良いですか、咲良さん。あなた達には奪われたものを取り返す権利があるんです」

「……む」

 

 いつか、文香嬢にも言ったこと。

 

「勝手に押し入ってきた強盗から取り返すことは何も悪いことじゃありません。むしろ、積極的にするべきなんです。奪われたままじゃ勝てませんよ?」

「……その理屈でいえば、リズさんは余所から来たんだからその権利はないんじゃないか?」

「げ」

 

 こちらを見る視線が更に一段冷たくなった。

 

「つまり目の前にいるのは()()()盗人……」

「わ、私にはそれをする力があります。だから、代行してるんです! ほら、服も集めて配らないと。文香さんが待ってます」

「……そうだな。冬の対策は急務だ」

「でしょう? だから気にするだけ損ですよ」

「……はぁ」

 

 そうそう。だからこれは必要な行為なのだ。

 奪われたモノを()()()()取り返してるだけ。ちょっとお金にしたり、拠点に使わせてもらってるけど!

 

「……その言葉には、一理ある」

「でしょう?」

「そもそも、謹慎処分中にここにいる時点で懲戒免職もの……ははっ! なら多少の盗みくらい……いいわけあるかぁ!」

「わわっ!?」

「お前たちを手伝えば街を守れると信じて来たのに、何故こんな犯罪行為を……ううぅ……っ!!」

「あー……」

 

 どうしよう、壊れちゃった?

 なんか1人で会話し始めてる……。

 そのまま黙っちゃった咲良さんを引き連れて、別の天幕に進む。

 

「ここは倉庫ですね。食糧庫かな?」

「……レーションか。食料も不足し始めてるからな。これも……犯罪……くっ!」

 

 すんごく悔しそうに積まれていたケースから缶詰……レーションを鞄に放り込んでる。

 なんか、すみません……。

 か、会話して気分を紛らせよう。

 

「そのー、そういった缶詰って食べられるんです?」

「……問題ない。軍用なら5年は持つし、危険領域は風化も遅いからな」

「ああ、そうでしたね」

 

 そう。驚きの新事実。危険領域内は風化が遅いらしい。

 肉屋が言ってた『危険領域は半分異界化している』という仮説。

 どうもあれが本当なようで、現実と同じ時間経過でも半分しか風化しないのだとか。

 どおりで放置されてる飴が美味いわけだ。

 

 その法則は食べ物以外にも当然適用される。

 しかもここは地下。

 風雨にも晒されてないから、風化や劣化を気にせず鞄に突っ込めるというわけだ。

 

 俺の方は弾薬に武器、後は予言者(シアー)要望の電子部品系を色々と詰め込んだ。

 武器についてはカービン銃が2丁と、拳銃が3つ。誰かが回収し忘れたモノがロッカーに残されていた。

 1本ずつ咲良さんに。カービン銃のもう1つは俺が貰い受けて使うことにする。残りは天パ店主に渡そう。

 ふふ、これで戦力アップ。

 

 そのまましばらく探索を続けて……目的の物を見つけた。

 

「あったあった。これでいいんですよね?」

『うん、確認できたよ』

「……まさか、こんなものまであるとはなあ」

 

 俺たちが見つけたのは車庫。

 そこにあるのは武骨な二輪車……バイクだ。

 自転車と違って綺麗に並べられ、燃料タンクやら整備道具やらが周囲には置かれてる。

 明らかにこの基地のものだろう。

 

「軍隊って、バイク使うんですね」

「偵察用に時々使われる。ここにもあるとは思わなかったが……」

「今の漂白部隊(SBEU)では使わないんですか?」

「他の地区では使われる場所もある。ただ、夜鳥羽は地形の凹凸が激しくてな」

「ああ、確かに……倒壊した建物で塞がれてますしねえ。自転車でも苦労しました」

「なんで自転車……? え? 走ったのか? 自転車で?」

 

 うーん、バイクだと瓦礫とかも乗り越えられるんだろうか。

 俺も咲良さんも運転経験はない。

 そう、ないのである。

 

 なので運転は俺がすることになった。

 最悪、死んでも構わないからな。

 

「まあ、道を間違えなければいけますよ。ナビゲーターもいますし」

『そうそう、お任せあれー!』

「……不安だ……」

 

 経験はないが……何とかなるだろ。

 拾い集めた荷物を載せて、バイクへ跨った。

 

『ルートは北側から西に回って行くよ。南は漂白部隊(SBEU)がうろついてるからね。安全ルート!』

「道は安全かもな。道はな……」

「大丈夫ですよ、多分」

「多分!? 多分じゃ困るんだが!? おい!!」

 

 さあ、ホテルへ出発だ!

 

 

 ***

 

 

 一方、中央南東に位置する漂白部隊(SBEU)の前線拠点。

 そこでは伊地知と甘木による会議が行われていた。

 

「さて、1日経ったわけですが、経過は芳しくないですね」

 

 張り付けられた地図上では、裂け目南東部の建造物3つに赤くバツ印がつけられている。

 既に拠点から間近の3か所は調査済み。だがそこに予言者(シアー)の姿はない。

 

「捜索範囲を広げなければなりません。周辺の状況は?」

「北側は引き続き残留者(レジピポ)が集結しつつあります。どうやら特務戦闘員――色式兵装(カラージュ)使いがいるようです。間もなく侵攻が始まるでしょう」

「……北側を急ぎ調べねばなりませんね。西側は?」

 

 問いかけに、甘木は首を横に振る。

 

「不明です。ただ、断続的な戦闘音――特に狙撃銃の銃声を確認しています。恐らく、例のハンターが活動してるものかと」

「あの狙撃手コンビですか。……我々を狙うとは思えませんから、特殊個体(ユニーク)でしょうか」

「ええ。既に3体確認できています。異常な数です」

「でしょうねぇ」

「……」

 

 不快な返事に甘木の眉が僅かに上がる。

 だがそれも一瞬。それだけ活性化が近いという危機感に頷きを返す。

 どのみちこの特捜連中に協力しなければ道はない。

 

「西は我々で調べましょうか?」

「……仕方ありませんね。頼みます。我らは北を――」

「――報告!」

 

 通信を担当していた兵が飛び込んでくる。

 

「なんです?」

「中央西部、夜鳥羽セントラルホテルの電源が稼働した模様。全階、明かりがついています!」

「……ホテルが?」

 

 突然入ってきた謎の報告に、甘木は首を傾げる。

 そんなところが何故……と思ったのも一瞬。

 

「……どうやってあそこを……」

 

 伊地知の様子が変わったことに、甘木は眉を顰めた。

 だがそれについて問う暇はなく、直ぐに元通りになった彼が地図を指で叩く。

 

「甘木隊長。この地区の電源は?」

「ほとんど死んでいます。今更偶然灯ることはないでしょう」

「となると、原因は1つですね」

 

 伊地知が深く頷く。

 

予言者(シアー)。そこにいましたか」

「……何故電源を? 居場所を報せてなんになると」

「わかりません。お察しの通り、罠かもしれません。ただ、他にあてもありませんから、行かない手はない」

「……ですね」

 

 唯一の手掛かり。

 そしてそこには当然、残留者(レジピポ)やハンター、恐らく特殊個体(ユニーク)でさえもやって来る。

 我らだけが後れを取るわけにはいかない。

 

 それに――。

 

「……全く、てこずらせてくれますね」

 

 今まで同様、余裕たっぷりにそう告げる伊地知の顔は固い。

 

 ――特捜のこの焦りよう。ホテルには『何か』があるらしい。

 

 裂け目出現当時からいる甘木でさえ知らない何かが。

 厄介な事だと、甘木はバレぬように息を吐き出すのだった。

 恐らく、多くの人死が出る。

 

 せめて部下の被害は最小限に食い止めたい。

 手にしていたタブレット端末で戦況の確認を行っていた手が、ふと止まる。

 

「……?」

 

 なんか、ペンギンが画面の上から降ってきて、通知にぶら下がっている。

 やたら凝ったアニメーションだが、そんなものは初めて見る甘木であった。

 訝しんで通知を見てみると。

 

「……!!」

 

 そこに表示された名前に、目を見開く。

 声を出さなかったのを褒めて欲しい。それくらいには、驚愕の名前が表示されていたのだ。

 思わずタップし、直後表示されたメッセージは――。

 

 


邪魔者退治はこちらに任せて。

住民の避難を頼む。

 

PS.君らはホテルには入らないように。


 

 

 ――誰から……十神、お前か?

 

 漂白部隊(SBEU)支給の端末に、こんなペンギンの映る何かは入っていない。

 明らかに何かしらの介入が行われている。

 にわかには信じられないが、文面そのものはまさに甘木が待ち望んでいたものだった。

 

 困惑と歓喜を必死に抑え、至極真面目な表情を浮かべて甘木は何やらうろついている伊地知へと向き直る。

 

「では、我らは周辺の高所の確保を行います」

「……ええ、そうですね。そこから援護を頼みます」

「お任せください」

 

 胸を叩いてそう告げる。

 お前たちはホテルに入るな――そう書かれていた。

 つまり、特捜だけを入れればいい、そういうことだろう。

 

「委細承知いたしました。急ぎましょう。――全員、出動用意!」

 

 前線拠点に、甘木の鋭い咆哮が響く。

 ホテル攻略に向けて、漂白部隊(SBEU)が動き出す。

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