崩壊世界でルートシューター   作:穴熊拾弐

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第44話 Light Trap⑦

 

 

 

 ルートシューターってのにはプレイ指向がある。

 安全に、敵がいなくなってから動き出す奴。

 逆に自ら最前線に赴き撃ち合いを好む奴。

 息をひそめて獲物を狙う芋プレイ……様々だ。

 

 別にそれ専門ってわけじゃなく、やることに応じて様々に変える。

 ただ人の心根ってのはそう簡単には変わらない。染みついたスタイルもな。

 

 それは転生したこの現実でも変わらない。

 特に、銃を撃ちまくって快楽に支配されたこの瞬間は。

 俺の戦闘スタイルは――。

 

「突っ込んで、ぶっ殺す!!」

「――――!!」

 

 振り抜かれた腕を膝ついてスライドしながら避け、振り向きざまに右足に5連射。

 スーツを突破して足を穿つ。

 

「ぎっ……!?」

 

 膝が崩れて動きが止まる。

 その隙に顔面に連射。銃弾を受ける度に身体ががくがくと揺れた。

 4発ほど撃ち終える頃には白い顔が穴だらけだが――。

 

「ああぁあ……」

「なーんで、動いてるのかね!」

「――――!!」

 

 膝が曲がった状態のまま奴が素早く駆けて来る。

 腕もだ。関節がくがくじゃねえか!

 

「あぁああ!!」

「……っ、うぉっ!?」

 

 だがそのせいで腕が鞭みたいにしなって襲い来る。

 その動きは知らない――!!

 

 顔面を掠め額が切れる。

 お返しに、顔面に猟銃を2連射で叩き込む。

 びくりと身体が飛び跳ね、動きが止まる。

 

「ごぁ……」

「痛ってえなあ!! てか弱くなってんぞお前ぇ!!」

 

 顔撃つ度にびくびく跳ねやがって、魚かお前は!!

 

 このフロアは遮蔽も罠もない。

 開けた空間じゃ奴の格闘スタイルの脅威も半減してる。

 ただ――。

 

 ゆっくりと距離を開けてリロードしていると……穴がじわじわと塞がっていく。

 これだ。

 撃たれても治るんだから、距離が空いてるなんてどうでもいいわな。

 

「硬いのはいいけど、治るのは違うだろ……」

 

 だから、ファンタジーかよ。

 悪態を吐いている間に奴が()()と立ち上がり、俺の方へと顔を向けた。

 視力が死んでる筈なのに、音か何かで俺の位置を把握してやがる。

 

「ああぁあ……!!」

 

 奇声を上げ飛び込んできた。

 迎撃して落としてやろうと狙った瞬間、身体がぐるりと回転し、()()()蹴りが飛んでくる。

 

「……っ!?」

 

 仰け反って躱そうとするが、予想以上に脚が伸びて猟銃が吹き飛んでいった。

 多分、銃身がねじ曲がってる。

 俺の10万が……!!

 

「この……!!」

「――――!!」

 

 着地した異形にカービン銃を乱射。

 再生しつつある頭にぶっ放すが、それでも奴は止まらない。

 マジかよ……どうやって殺るんだよあれ!?

 

「化け物が……!!」

 

 ()()()腕を跳んで避け、カービン銃を連射。

 さっきまでみたいに、着弾点をずらして損傷を避けようともしない。

 腹も胸も構わず弾丸を受け、弾ける音と血が飛び散る。

 

 人ならとっくに死んでる銃弾を受けながらも奴は突っ込んでくる。

 下がっているうちに、壁に追い詰められていた。

 

「ちっ……!!」

「ぉああ――!!」

 

 叩きつけられる奴の腕に床板が弾け飛び、振り抜かれた蹴りが壁を砕く。

 

 ――意味わからん動き……エセカンフーかよ!

 

 粉塵が舞う中へと拳銃を連射。

 奴は避けもせずにこちらへ迫り、全力の拳撃を撃ち放つ。

 それはマズい……!!

 

「ほっ!!」

 

 全力で床に滑り倒れ、目の前を拳が通り過ぎる。

 壁に拳が叩き込まれる衝撃を受けながら横へと転がった。

 足を撃つが、構わず腕が振り下ろされる。

 

 更に転がり避けると、奴はまさかの空中大回転。

 風車みたいに奴の腕がぶんぶんと振ってくる。

 そのまま、お互いぐるぐる回転をしていく。

 なんだこれ、意味不明だろ!

 

「あはははっは!!」

「ああぁああ……!!」

 

 溢れる脳汁に互いに訳の分からない声を上げながら転がり続け、途中で身体を跳ね上げ奴の胴を蹴る。

 防壁が弾けて痛いが、それがロケット発射みたいに奴の身体を空中へと吹っ飛ばす。

 

「ぐぇっ……こ、腰が……」

 

 こっちも痛いが、距離は開いた。

 転がり起きて、吹き飛んだ奴にカービン銃を連射。

 奴はびくびく飛び跳ね、動きを止めた。

 それでも死ぬ気配はない。

 

「……で? どうやって殺すんだよこんな化け物……」

 

 これじゃブラーの方がよっぽど可愛い。

 ……てかあれ、多分ブラーだよなあ。

 白いし、なんか再生してるし……。

 

 あの何か吸ってた棒状のあれが元凶か?

 それともなんたら戦闘員ってのは全員こうなのか?

 どちらにせよ……俺一人じゃ無理!

 

「――おい、いつまで待たせんだよ!」

『……ぅお待たせぃ!』

 

 耐えきれずに叫ぶと、予言者(シアー)の声が聞こえた。

 よし、なんとかなった!

 喜んで辺りを見回すが……誰もいない。

 こっちに来るんじゃなかったのか!?

 

「どうすんだ!?」

『もっかい壁で閉じ込める。動きを止めて!!』

「ちっ……おっけい!」

 

 これで最後でいいんだよな? なら、とっておきだ。

 胸元から取り出した色式兵装(カラージュ)を構えるのと、起き上がった奴がこちらへと飛び掛かるのは同時。

 

「ははっ――」

 

 なあ、戦ってからずっと気になってたんだよ。

 お前の色式兵装(カラージュ)と俺の重撃弾――どっちが強い?

 

「試してやるよ!」

『――壁!』

 

 予言者(シアー)の声が響いて、何やら音が鳴り響く。

 視界の端で何かが動いてる。多分、窓を塞いだ。

 ここから先は覗き見厳禁。そういうことだな!

 なら遠慮なく――! 

 

「喰らえ――!!」

 

 引き金を引くと同時。

 再び全身から何かが抜け落ち、握った左手に激痛が走る。

 それは凄まじいエネルギーの奔流となって、奴の豪勢なスーツの腹へと放たれた。

 

「――――!?」

 

 腹にぶち当たった重撃弾。

 その威力は腹だけでは殺し切れず、奴の身体全ての衝撃膜が砕け、真っ白な光が豪奢なホテルの宙に舞う。

 そこに、鈴のような声が響く。

 

「もいっちょ、壁!」

 

 砕けた床から壁が生成され、奴の身体が覆われた。

 約束通り奴を拘束完了。

 この後は――。

 

「ほら、これ!」

 

 ()()()声に振り向くと、そこだけ暗い廊下の奥から何かが投げ渡された。

 掴んでみると結構重い棒状の代物。

 

「なんだこりゃ、杭?」

 

 大きさは片手でギリギリ持てるくらい。

 何かの民芸品みたいな装飾が刻まれたそれは、クナイみたいな尖った先端部が痛そうな杭。

 武器にも見えるが、どっかの博物館にでもありそうな歴史を感じる代物だ。

 これがなんだって?

 

「刺して!」

「はあ?」

「壁解くから、やって! 行くよ、いち、にの……!!」

「あああ! もう!」

 

 やるしかない。

 銃を捨てて杭を両手で掴んで、思いっきり振りかぶる。

 奴を囲う壁の1面だけが消失し、そこにはこちらへと腕を振るう筋肉スーツがいるが……。

 

「最後の、壁!」

 

 地上から斜めに突き出た壁が、奴の身体を箱の中に押し付ける。

 ナイスアシスト!

 

「いい加減……死ね!!」

 

 光を失った奴の胴体に杭を突き刺した。

 余程鋭いのか、特に抵抗もなく突き刺さり先端がずぷりと埋まる。

 その瞬間、柄頭が黄金に輝き始めた。

 え、なにこれ……!?

 

 驚いたのも束の間、光が杭を流れて奴の身体に叩き込まれ――。

 

「あぁ……汀良様……!! ワタシが、あなたを必ず――!!」

 

 なにやら叫び声を上げた後。

 ぱん、と奴の身体は弾けて消えてしまった。

 

「は……?」

 

 金の粒子となって消えていく身体。

 残ったのは着ていたスーツとかの残骸と……棒状の何か。

 

「……何が……」

 

 空になった箱を呆然と見つめながら、尻もちをついた。

 こちらに転がってきた例の杭は、光を失っている。

 怒涛の情報量。だがそれらを考える余裕は今の俺にはなかった。

 なにはともあれ。

 

「はぁ……終わった……」

 

 多分きっと、それだけは確かだろう。

 はは、全身が痛くて重くてボロボロだ。

 血を止めないとマズいんだが……身体がなんも動かないや。

 

「お疲れ様!」

「……ああ」

 

 こつ、と足音が鳴る。

 背後の廊下。

 明かりが壊れてるのか薄暗いそこから、足音と声が聞こえる。

 

「まさか消えるとは……すんごいね……」

「知らなかったのかよ」

「うん、使ったの初めて。ここに来てから手に入ったやつだしね」

 

 聞こえてくるのはずっと聞いてきた人工音声じゃない。

 声は似ている。というかほぼ一緒。

 あれだ、人工音声のもとになった声優の声を聞いてるみたいな……。

 

 つまり通話ではなく本人ってことだ。

 こんな馬鹿みたいなホテル攻略をしなきゃならなかった原因様。

 ようやくのご対面だ。

 

 溜息を吐きながら振り向き――目を見開く。

 

「驚いた。てっきりペンギン姿かと……」

「そんなわけないでしょ! 誰がペンギン村シミュレーターを選ぶのよ」

 

 そう告げる女性は、明かりがなく暗い通路の中であっても仄かに光を帯びている。

 髪色は透き通るような金。肩ほどの長さで、先端部は外に向かって跳ねている。そして……何故かほんのりと光ってる。

 

 ……なんで?

 

「うまく機能してよかったー。これで、なんとかなりそう」

 

 民族風クナイを拾い上げた彼女は、滑らかなエナメル質の白い衣服を身に纏い、何故かその口許をサイバーな黒マスクで覆っていた。

 光る髪も相まって、人間離れした印象の女であった。

 

「何その恰好……」

「君に言われたくないよ。……まあでも、初めまして、だね。よろしく、リズ」

 

 金の光が煌めくその瞳をこちらに向けて。

 遂に対面した予言者(シアー)はそう告げるのだった。

 

 

***

 

 

 一方、地下。

 

 十神咲良は1人で静かな戦いを続けていた。

 

「……」

「設置完了。残り2点、向かいます」

「――!!」

 

 部屋の中心部分にて通話を終えた隊員に音を消して近寄り、口を押えて首元にゴム弾を撃ち込む。

 

「ぐっ……!! この……!!」

「……っ!!」

 

 それでも暴れようとする脇腹に膝蹴りを入れ、更に撃ち込んで気絶させた。

 男から力が抜けたのを確認して、安堵の息を吐き出した。

 

 重い男の身体を慎重に倒しつつ、耳を澄ます。

 気づかれた気配はない。

 ならば、と素早く行動を開始する。

 

 銃を奪い弾倉を捨て、本体は近くの棚に隠す。

 簡易手錠(ハンドカフ)で倒れた男の腕を素早く拘束した。

 これで万が一起こされても即座の戦闘復帰はできないだろう。

 

 ――あと、2人。

 

 カードキーが必要なこの施設。

 解錠の音が鳴らないからと油断している今のうちに仕留めたかったが……。

 

「――佐竹、応答を」

「これは……点呼!」

「……ちっ」

 

 伊地知の声が鋭く響き、素早く状況把握が行われた。

 十神の――襲撃者の存在がバレた。

 こうなると一気に形勢は不利になる。

 

 相手はこの施設を破壊しようとしているのだ。

 損壊など何も気にせず連射してくるだろうし、最悪なのは奴らに逃げられここを爆破されること。

 当然ながら十神に爆弾解体の技術などあるわけがない。

 穴から逃げることも出来るだろうが、下手すれば生き埋めだ。

 

 奴らがその選択肢を取る前に潰さなければならない。

 つまり――。

 

 ――入口を確保する!

 

 奴らを逃さず情報を持って帰る。

 そのためにも、十神は用意してた物を被り走り出す。

 フード付きの汚れた外套に、暗緑色の目出し帽。

 更に装備は漂白部隊(SBEU)のものではなく、鵲店主が用意した無銘の代物。

 体型も隠してるのでバレることはない……筈だ。

 

「――いたぞ、撃て!」

「……っ!!」

「逃すな。絶対にここで仕留めなさい!」

 

 走ったことで位置がバレた。

 滑り込んで机の陰に隠れて銃弾を避ける。

 銃身だけ出して応戦。

 だが相手は2人。回り込まれたら太刀打ちできない。

 

 ――さて、どうするか。

 

 物陰に隠れ、様子を伺う。

 扉だけは視界に収めている。決して逃さないつもりだが――。

 

「グレネード!」

「くっ……!!」

 

 叫び声と弾ける様な音が聞こえ、十神の隠れる場所に的確に投擲が行われた。

 逃げなければ死ぬ――!!

 

 滑るように飛び出したところに、重い銃撃が胸部に叩き込まれた。

 転がって棚に激突。

 貫通はアーマーが防いでくれたが、背の激痛と衝撃で肺の息が全て漏れる。

 

「かはっ……」

「……違う、奴じゃない」

 

 痛みに曲がる身体をなんとか立ち上がらせようとするが、藻掻く腕を踏みつぶされた。

 その相手は見なくてもわかる。

 

 ――伊地知……!!

 

「何故ここに鼠が……まあいい。あなたは奴の仲間ですね? ……知っていること、全て吐いてもらいますよ」

「……!!」

 

 奴の手がこちらへと伸びた、その瞬間。

 耳朶を叩く鋭い声が響いた。

 

『――目、閉じて!』

「……!!」

『いくよ、いち、にの、さんっ――えい!』

 

 流れる声に身を任せて目を閉じたその直後。

 

『電源、オフ!』

 

 がこん、と音が地下空間に鳴り響き、辺りは闇に包まれた。

 

 

***

 

 

 特捜の伊地知は混乱の中にいた。

 

 ――何が起きている……?

 

 特捜の仕事は単純明快。

 漂白部隊(SBEU)に仇名す()を調査し、見つけ、処理をする。

 国家の安全のために行う必要悪。

 特にこの怪物が溢れた現代では、戦時に戻ったと言っていい程に治安は悪化した。

 

 あらゆる()を排除し国の安全を確立することが特捜の務め。

 そのためならばどんな手段も実行する。

 予言者(シアー)の確保も、この施設の爆破もそのためだ。

 

 5年前、この夜鳥羽で行った様々な事柄はその多くが秘匿されている。

 人類史上でも最速での怪物との邂逅。

 生き残るため、勝つために――出来ることは何でもやった。

 この施設も、その1つであった。

 

 本来ならばさっさと破棄すべき施設だった。

 だが様々な事情がそれを許さず、こうして()に利用される始末。

 ここは秘密のまま消えていく。そうしなければならないのだ。

 

「さて、あなたは予言者(シアー)? それともその仲間? ……知っていること、全て吐いてもらいますよ」

 

 蹴り倒した不審者に手を伸ばしたその瞬間――。

 ばつん、と周囲の明かりが全て消えた。

 

「なっ……!!」

「なんだ!?」

 

 電源が落ちた。

 地下空間は真っ暗になり、突然の変化に視界は白い残光で埋まる。

 

「罠か……!!」

 

 敢えて電源をつけてそこに誘い込み、目が慣れ切ったところで暗闇に引き戻す。

 それこそが奴らの狙いで、伊地知たちはまんまとその中に――。

 

「――持っていけ」

「……?」

 

 囁き声が響いた。

 直後、足元から青白い強烈な光が瞬いた。

 

「ぐっ……!?」

 

 暗くなり狂った視界に更に強烈な光が放たれ、今度こそ伊地知の視界は完全に塞がった。

 直後空気の焼ける音が鳴り、部下が倒れる音がする。

 やはり向こうは見えている。

 

「……っ!!」

 

 銃を乱射する。

 部下がいるが構うものか。

 何とか入口まで走って起爆する。

 

 だが、走り出した直後に何かに躓く。

 部下の身体か……?

 

 ――くそっ、この無能どもが!

 

「侵入者なんぞにまんまとやられてよって! お前ら全員、消し炭に――!!」

「外道が……!!」

 

 空気の弾ける音が鳴り響き、青い光が視界を埋め尽くし――。

 

「ぎぃぃっ!?」

 

 奇怪な声を上げ、伊地知の視界はブラックアウトした。

 白い煙を吐きながら倒れるその身体を見下ろし、侵入者である十神は目出し帽を脱ぎ、ため息を吐きだした。

 

「……まさか人相手に使うことになるとは」

 

 激痛に耐え、短刀を仕舞い込んだ十神は頭を抱え込む。

 周囲には意識を失った特捜たちと、彼らが秘匿したい極秘の施設。

 

「……これ、どうしよう……」

 

 彼女の呟きが、空しく研究施設に響き渡る。

 こうして、夜鳥羽セントラルホテルでの戦闘は全てが終了したのだった。

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