というわけで、偶然出会った学生少女――文香嬢の手助けをすることが決まった。
ただの迷い人だと思った彼女は、どうやら母の形見と遺影を探しているらしい。
最初はなんで遺影? と思ったけど、彼女には命を賭けるだけの想いと熱があった。
――母親を忘れないため、ね。あんな化け物が出る世界だと、色々とおかしくなっても無理はない。
これから俺は、彼女に代わってこの封鎖区画のどこかにあるそれらを探すことになる。
そう、つまりこれは――
――タスク。
あるいはクエストと言ってもいいかもしれない。
ルートシューターにおける、ゲームを進める最大の目標――それが色んな商人から頼まれる仕事、タスクである。
どこそこで敵を何体倒せ、とか。
敵対勢力が根城にしてる場所を調べて来い、だとか。
どっかの施設にある装置を直してこい、なんてのもある。
これがなきゃただゴミを集めて売るだけの単調なゲームだが、ここにタスクという別軸の目的が組まれることでプレイヤー毎に色んな行動が生まれ、戦場は混沌と化す。
ただのゴミ拾いが何倍も面白くなるのだ。
そのタスクにようやく出会うことができた。
苦節1月ちょっと。長かった……本当に……。
そりゃ肉屋から『ブラーの心臓を集めろ』と言われたりはしてるさ。
でもそれはただ売るものを持っていくだけ。得られるのも金だけで広がりなんざ何もない。
だが今回は違う。
依頼人の文香嬢は明らかに一般人。この街に住む人間だ。
それとコネができるってのは、この廃墟引き籠り生物と化している俺にはとっても重要なことなのだ。
そしてなにより!
俺は彼女のような人を待っていた。
俺のもう1つの問題を解決できる人が――!!
「ふふっ、ふふふふ……!!」
うっかり笑い声も漏れてしまうってものだ。
「り、リズさん……?」
「おや、失礼。さ、急ぎましょう。こちらです」
そのためにも、俺は急いで拠点へと向かった。
歩くこと数十分。西の端の教会へと無事にたどり着くことができた。
「――ここです」
「え? ……ここにこんな建物なんて……」
「……なかったんですか。なるほど」
とても立派でかなりの年季を感じさせる建物だが、どうやら昔からここにあるわけじゃないらしい。
「その筈ですけど……気付かなかっただけかな。いつからこの街に?」
「私がここに来たのは最近ですよ。多分、この教会も」
「……?」
てことは俺と一緒に出現したのか、これが。すげえなそれ……。
あの神様モドキの仕業だろ。ほんと、なんでこんなことすんだろうな。
ゲームのために作ったにしてはあまりにもリアルなんだよなあ。
「さあ、入ってください。まだ碌に物もありませんが」
「あ、はい」
「その辺の椅子はまだ無事です。そこに座ってください」
「なんというか……ボロボロですね」
ほんとにね。
ひと月前に出現したならもっと綺麗な
「少しだけ待っててもらえます? 荷物を仕舞わなければ。特に、それ」
「あ、お肉……」
「1日じゃ腐ったりしないんですけれどね。その辺に置くのは……流石に気になるでしょう?」
保存が効く清潔な袋に入れているが、それだけじゃ臭いは防げない。
時間がないのでパパっと仕舞う。
他の荷物は一旦置いて、端っこに置いてあった箱を手に取る。
これこそが俺の抱えた、現状最大の問題。
「ふふふ、遂にこの時が来た……!!」
そのまま上に戻って文香嬢の前にずん、と置いた。
木屑の散る音が空しく響く。
「これは……?」
「文香さんには、この箱の中身を整理していただきたいんです」
試しに1つ摘まみ上げてみせる。
「それは?」
「ボルトです」
「……なんの?」
「……さあ?」
適当に拾ったからわからん。
この木箱には1ヶ月間の探索で拾ってきた適当な金属や小物を詰め込んでいる。
小箱ごと突っ込んであったりするから、結構……いや、かなりぐちゃぐちゃだ。
「中にいくつか箱が入ってると思いますので、似たようなものごとに分けておいてください。袋はこれを。いくらでもあるので気にせず使ってください」
「……ええ?」
この奇妙な世界に転生して、ルートシューターもどきを続けて分かったことがある。
リアルでの倉庫整理……クソ面倒臭い!
ゲームみたいにクリックだけで移動したり纏めたりできないんだよ! 重いものから小さいものまで全部自分の身体で運ぶの!
デカいもんならいい。でもボルトとかネジとか用途のわからん小物とか……小さいものがマジで面倒。
ゲームじゃ休憩やチル配信にもなる倉庫整理も、現実じゃただの肉体労働。
できる限りやりたくないのである。
整理は面倒。でも絶対に必要になる。
その結果がこのカオスである。
文香嬢……任せた。
できる限りこの混沌を整理してくれ……!!
「……? なんであたしが……?」
まずい。現状を正しく認識する前に、さっさと出ていって押し付けなければ!
「その間にあなたの家に行って探してきましょう。家の場所を教えていただけますか?」
「あ、はいっ」
広げた地図(小さい紙のやつ)に印をつけてもらう。
これで良し。
鞄だけ前のやつを背負って、弾と銃を取り付ければ準備完了。
じゃあ行きますかー……って、あ。
「文香さん、遺影は良いとして、形見とは? どんなものでしょうか」
「そうでした! えっと、形見はペンダントです」
金色のチェーン。楕円形のロケット。
真ん中には赤い宝石。
それが特徴らしい。場所は遺影とともに1階の母親の部屋……いいね、わかりやすい。
「ありがとうございます。では行ってきますね」
「は、はい! お願いします!」
ふふふ、任せなさい。
一般人からの依頼とはいえ、この世界に来て初めてのまともなタスクだ。
必ず成功させてみせようじゃないか!
探索成果:生還
収入:―
支出:―
残額:¥670,750
進行中任務
1:■■■■
2:拠点の修復
3:当該地域からの首飾りの回収
4:当該地域からの遺影の回収
***
という訳で、再度夜の街。
2回行動……買い物を含めれば3回か?
不思議と疲れはあまりない。
走れば息は上がるし銃を構えてりゃ腕も疲れるが、しばらく休めば大体回復する。
スタミナの面ではかなり頑丈だ。
1回出撃したら半日寝ないとダメ、みたいなクソシステムじゃなくてホントに良かった。
「なんか化け物もいないし、快適快適ー♪」
からころと飴の音が鳴る。
今日はキャラメル味。今のところ、10種類は味がある。いくつあるか知らないが、目指せ全種コンプ。
ちなみに空腹や渇きとも無縁。そこも助かってる。
ただでさえ拳銃しかない縛り状態なんだ。餓死の心配まであるなんてゴメンだね。
ただ味覚はあるんだよなあ。
食う必要がないからいらない気もするが……神様の考えはわからん。
目的の文香嬢の家があるのは三丁目。
位置的には北西地区の北西ブロックの、東側。ややこしいな……。
まあ要は拠点から東に進めばOK……なんだが、ブラーの姿が見えない。
大体この辺りには彷徨いてるんだが、なんか異変でも起きてるのか?
まあ、いないならそれでいい。
これはもしや……最速タスククリア、いけるか?
「……おっと」
なんて思っていたが、視界の端に映ったものに足を止める。
……タスクの為に急ぎたいって時ほど、こういう美味しいのに出くわすんだ。
道の端っこ、なんかの雑居ビルの前に落ちてるのは人間の死体――だったものだ。
シャッターにもたれ掛かる様に座り込んだその人型は、身体が真っ白になっている。
「何度見てもあれが元人間とは思えないな……」
結晶体。
あのブラーって化け物に殺された人間はこうなる。
奴らは人間を好んで襲うが、どうも目的は肉ではなく『頭』らしい。
大体ぱくっと首から上を丸かじりか、吹き飛ばしてから拾って食う。
んで、首から上を失った遺骸はこんな感じで真っ白な石になっちまう。
この廃棄群が化け物だらけでもこんなに
綺麗で臭いもしないから放置され、時間とともに風化して消えていく。
石になった上に頭部もない人間を回収して、身柄を調べて埋葬する……なんて暇は、今のこの世界にはないんだろう。
だからこの街にはよく服が落ちてる。
えげつないよなぁ……っと、今は考えごとは後回し。
「ささっと漁れば問題なし!」
素早く駆け寄って服やら装備を調べる。
遺骸ってだけなら無視すりゃいいんだが、今この区画にある結晶体っていえば、そう!
ブラー専門の駆除部隊・
つまり武器を持ってる可能性がある。
そろそろ拳銃だけは卒業したい!
……んだが。
「ちっ、ないか」
何度か結晶体に出会ったが、銃が見つかった試しはない。
多分戦闘中にぶっ壊されるか、仲間に回収されてるんだろう。
せめてマガジンは一応貰っておく。多分
「……お! これは!」
代わりに手榴弾を発見!
黒色のでこぼこボディにご存知銀のピン。
ずっしりと質量を感じるそれは、人なら軽く殺せる殺傷力を誇る。
そんなものが道端に転がってるんだから、この世界の終わりっぷりが良く分かる。
「へへ、ラッキー」
そう呟いて放り投げた手榴弾を掴んだ、その瞬間。
轟音が辺りに鳴り響いた。
「――――っ!?」
呆然として、直ぐにハッとなって身体を――手に持った手榴弾を確かめる。
爆発してない、無事だ。
し、死んだかと思った……。
手遊びで投げた手榴弾で死ぬとか流石に間抜け過ぎる。
「……って、じゃあなんだ!?」
爆発じゃないなら要因は別。
慌てて振り返ると、塀から覗く家の更に上から煙が見えた。
――戦ってる? こんな夜中に……? どこのどいつだ?
しかも厄介な事に、煙が上がってるのは目的の方角。
なんか、凄い嫌な予感がする……!!
手榴弾をベストに仕舞って歩き出す。
轟音は一旦収まったが、代わりに銃撃音が鳴り響いてる。
随分と激しい。おかげでこちらも気にせず道を駆けていく。
よし、あの曲がり角だ。
そこまで行けば音のする通りが見える筈――だが。
俺は足を止め、周囲に視線を振った。
「……あそこ」
飛び込む前にまずは様子見。
角にある家、3階建ての新築っぽい山口さん家に俺は全力で走り出した。