すまない。こちらも手がかりを見つけた
合流した時に聞かせてくれると嬉しい
協力感謝する。この礼は必ず
危険領域内。その西の端っこ。
俺は直ぐに帰ってきた咲良さんの返事を見て、首を傾げた。
「――手がかり? なんだそりゃ。……
折角情報を手に入れたのに……まあ、置いていったのは俺だしな……仕方ない。
咲良さんの望み通り、しばらく単独で動くとしよう。
ということで、肉屋を出た俺は1人危険領域を進むことに。
目指すは夜鳥羽北部――
裂け目爆破の為のステップその2。
あれから肉屋に爆弾作りに必要な素材と、その作り方を教えてもらった。
ワークベンチもでき、
ついでに肉屋じゃ得られなかった裂け目付近の情報を手に入れようという算段である。
「――ここか」
夜鳥羽中央北部、その東西の境を越えて東側に入ったところ。
位置的にはあのホテルの北北東に位置するそこが、
とある企業の物流倉庫らしく、馬鹿広い駐車場の奥に、細長い倉庫が連なっているのが見える。
「随分広いな……。ブラーも大量っと」
どっかの陸上競技場よりは広そうな駐車場。既に何体ものブラーが見える。
音を出せばそこに蠢くブラーがわんさか寄って来るだろう。
車両のせいで死角が多い。
こういうの、音も微妙に反響して位置が分からなくなるんだ。
目も耳も最大限稼働させないとな。
「……よし!」
気合を入れて周囲を見つつ、静かに進んでいく。
――
ここを最初の目的地に選んだ理由は、候補地の中では一番南にあったから。
南――つまりホテルに一番近いのだ。
もし連中の増援が北から来るなら、まだここまでは来ていない……そういう考え。
進んでいく駐車場は、トラックがコの字状に組まれた小部屋がつくられてたり。
トラックの上に机やロッカーらしきものが積まれた物見やぐらもできてる。
かなり簡易的だが、ここに人がいて、基地にしようと色々やっていたことが見て取れる。
想像以上に基地化してやがる。
やぐらに詰所。旧陸軍の物ではないだろう。ここが奴らの拠点なのは間違いなさそうだが……。
『■■■■――!!』
おっと。
なにやら気合出してるブラーの背後をすすっとすり抜けて車の間に入り込む。
……スニーキングもゲームが違うんだけど。
あのジャンルだと背後から敵を一撃、とかできるけど、この世界じゃ無理。
なにせ相手はブラー。鉈はあるけど、それであのぶっとい首は一撃じゃ落とせない。
咲良さんの雷剣ならいけるかも。
来てくれてたら……いや、流石に勿体ないか。
そのまま車の隙間から出ようとして――背後からドスドスと音が響いた。
「……っ!!」
ドアミラーを引っ掴んで身体を止める。
つんのめった身体をなんとか抑えて、元の位置まで引っ込むのと同時、屈んで隠れていた車の上をブラーが走り抜けていく。
「……!!」
がたがた揺れる車に肩を殴られながら声を抑える。
そのままドスドスと怪物が走り去っていった。
「……びっくりした。何か――」
遠く、倉庫の方から銃声が響いた。
「……あったみたいだな」
この広い倉庫区画でどこを探すか面倒だったのだが、その手間はなくなった。
静かにブラーを追って倉庫へと近づくと……10体弱ほどのブラーが壁際に集まっているようだった。
壁に拳を叩きつけたり、よじ登ろうとしていたり。
そいつらを窓から撃ちおろしている男が1人……1人?
「来るなぁ……!!」
「あれは……」
襤褸を身に纏って
「誰だっけ、なんか見覚えが……あ」
パチンと指を鳴らす。
思い出した。ホテルにいた
仕留めようとしたら筋肉スーツを呼んだあいつだ。
「逃げてたのかよ……」
しばらく見ていたが、他に動いてる奴はいない。
ブラーの数自体は多いが、気付かれてないなら何とかなるだろ。
「うーん……」
ジッと見つめて、ルートの確認。
……よし、いけそうだ。
懐から
さあ、ちゃちゃっと済ませちゃいますか。
***
「なんでこんなことに……全部あの馬鹿のせいだ……!!」
あのホテルでの激戦。
赤兎と亡霊の戦闘が始まった瞬間に逃亡を開始。
仲間が罠やブラーにやられているのを横目にホテルを抜け出し、なんとか戦闘区域を脱することができた。
必死にこそこそと隠れ進んで、ようやくたどり着けた倉庫2階の執務室。
転がる様に飛び込んだそこは暗く静かで、誰もいはしなかった。
そりゃ逃げてるか。もう刻限だ。
幸い物資は残ってたから、ありがたく水と缶詰で腹を満たして、撃たれた肩の応急処置を済ませた所で力尽きた。
「……うわ……もう朝だ……」
窓の外には多くのブラーがうろついている。
ほんの数時間で倍以上に増えている。
この中をどうやって逃げれば……。
『――!!』
「……っ、バレた……!! くそ、死んでたまるか。やってやる……やってやるよ……!!」
だがすぐに奴らは集まってきて壁を叩き始める。
そう簡単に壊れないが、あの数ではいつまで持つか怪しい。
「来るなぁ……!!」
撃つたびに身体が痛む。
それでも上からの撃ちおろしで更に2体が死に、その血肉で滑って奴らが崩れる。
ここで手榴弾を投げ込めれば……!!
「ひっ、ひっ……!!」
銃を置き、見つけておいた手榴弾を手に取る。
震える手でピンを抜こうとてこずっていると……窓の外から爆発音が鳴り響いた。
「へ……!?」
慌てて顔を出すと、青白い光が瞬いている。
集まっていたブラーたちは倒れ、震えている。
そこに外から銃弾が叩き込まれ、倒れた怪物たちの頭部が次々に破壊されていく。
ほんの数十秒で、集まっていたブラーは全滅した。
そして奥から現れたのは……真っ黒な衣服に、オレンジの髪。
「どうもー」
「あ、ああ……」
笑顔でこちらに手を振るのは、あのホテルで遭遇した亡霊。
何故奴がここに……。
――逃げなきゃ……!!
慌てて窓から離れようとした、その瞬間。
「よっ!!」
「へ? ぐっ……!!」
首に激痛が走って、床へと倒れ込んだ。
壁を駆け上がって飛び込んできたのだろう、着地代わりの蹴りが首に叩き込まれたのだ。
ぐらつく視界。直ぐ傍にオレンジ髪が立ってこちらを覗き込んでいる。
ホテルの時といい、バカみたいな身体能力だ。
……当然か、あの赤兎さんを倒したんだから。
ああ、今度こそ命運が尽きた。
そのまま意識は暗く沈んでいき――。
「――はい、起きてください!」
「ひぃっ!?」
頬に走った痛みで目が覚めた。
全身が痛み、足と腕が縛られている。
そして目の前には拳銃を片手に持った亡霊。
この絶体絶命の状況にあって、恐ろしさを感じる美貌の女が、満面の笑みで微笑んだ。
「さて、色々とお教えいただきましょうか」
「は、はい……」
銃を構える彼女の言葉に、ホテルで死んでいた方が良かったかもと、そんな後悔が浮かぶ阿内であった。
***
ホテルから逃げた戦闘員の阿内君。
椅子に縛り付けられた彼は、ガクガク震えながら色々と教えてくれた。
「つまりあなたたちの本隊は別行動中で、詳細は不明だと」
「は、はい。前線拠点は放棄。北の丘から活性化の動向を見てるとは、思うんですけど……」
「……ふむ」
その声は震えてる。
俺は何もしてないが、手にした拳銃が僅かに音を鳴らす度に、彼の身体がビクッと震える。
撃つつもりはないけど、それが分かる阿内君ではない。
精々怯えて、情報を喋って貰おう。
今はこの拠点についてと、他の
まあ概ね予想通り。
もう夜鳥羽に
しかも幸運なことに、裂け目周辺――駅の構造図まで持っていた。
裂け目の位置とそこまでの侵入経路がいくつか描かれてる便利な代物。
いいね。これで最低限欲しい情報は見つかった。
後は残った物資をいただければ収支としては十分黒だが……折角だ。絞れるだけ絞っておこう。
「その結果、あなたは見捨てられてしまったわけですか。可哀そうに」
「……っ。ああ、そうですよ。俺はもう戻れない。ブラーに殺させるか、あんたに殺されるかだ」
「それは、それは……」
誘蛾灯作戦、大成功だったわけだ。
別に可哀想だとは思わない。こいつら犯罪者だしな。
ただ……。
「……っ」
俺が撃った肩には荒いが治療の跡。
一方で碌に片付けされていない、周囲に散らばったゴミ――俺でもいらない
必死で逃げて、仲間に見捨てられたのは辛いよなぁ。
もしかして、半分くらいは命を諦めてたんじゃないかな、この人。
なら……。
「……逃がしてあげましょうか?」
「え……?」
呆然とした顔がこちらを見た。
僅かな期待が浮かんだように見える。
やっぱり、ここは
「北は無理ですが、西からなら。
「……!?」
「
「……」
「条件は、お分かりですね?」
笑みを浮かべてそう告げる。
気が遠くなるほどの静寂の後。
精気を失った暗い顔がこちらを覗き、重い口を開いた。
「赤兎さんは、死んだんですね」
「……ええ。私が倒しました」
「なら……見ましたよね。
「……!! それも、ええ。見ました」
顔面真っ白になって暴れ出した筋肉スーツ。
あの動きはどう考えても尋常の何かではなかった。
あれ、やっぱり何か理由があるんだな。
「赤兎さんたち特務戦闘員には、
「ああ、それ。彼のスーツから見つけました」
「なら話が早い」
スーツを拾った時に落ちてきた蛍光グリーンの透明な液体。
あのどう考えてもヤバい代物が、案の定の原因らしい。
「あれは
「てんこもりですね。あなた方はそんな便利な代物を使って――」
「……」
「……どうやら、違うようですね」
阿内君がしっかりと頷いた。
「あれは、ドラッグです。強力な治療薬でもありますが、吸えば吸う程中毒になって、身体がおかしくなります」
「身体がおかしく……なりすぎじゃないですか? 関節ひん曲がって戦ってきましたよ?」
「……特務戦闘員って、自由に動けるし、金も女も選びたい放題ってことで皆が憧れてるんです。ただ、なれた人は全員、その……変な人になってしまって」
「変な人
「……はい。特務戦闘員になった後に性格が変わるんです。赤兎さんは、割と元からでしたけど」
「それは、それは……」
絶対薬のせいじゃん。
身体と性格――人格を変えてしまう危険薬物、
回復するし、タフになれるし、皆が疑問であった『特務戦闘員が何故か色式武装を連発できる』の絡繰りもその薬にありそうだが……化け物になるのは、ヤバいなあ……。
「……とんでもない薬ですね」
「はい。命の前借りです。俺は絶対に使いたくないです」
そりゃそうだ。
そこまでして得られるものが金と安全……後は女?
陸軍も改造人間とか作ってるし、流石怪物に国土の半分を奪われた国。
色々と末期だわ。
「ただその
「なるほど。そうやって囲地を確保しているわけですか」
本来人類の生活圏に接していない奥地の危険領域なんて危なくて歩き回るなんて自殺行為……だが、無尽蔵に
「それも理由なんですが、もう1つ」
「ん? なんです?」
「仲間から聞いたことがあります。幹部の人たちは裂け目の
「それ、詳しく」
空白化。
気になる言葉にぐっと近づく。
拳銃が頬に当たり、阿内君の身体がびくんと跳ねる。
「ま、前に、欲しい工場が裂け目に呑まれた時に、頭目と幹部たち少数で乗り込みました。そしたら、その工場だけブラーがでなくなったんです……!!」
「ほほう? 裂け目を封じたわけではなく?」
「だと、思います……!! だって裂け目が消えたら、お、大騒ぎになってるでしょ?」
「……確かに」
咲良さんも、
奴らは囲地に住み着いてるというが、それも偶然ではなく作ったものの可能性があると。
いいねえ。いい情報持ってんじゃん阿内君!
「その技術の持ち主は?」
「し、知りません! でも、幹部の誰かなのは間違いないと……」
「幹部……」
俺が把握してるのはずっと名前が出てる汀良だけ。ただそいつは連中のリーダーではないらしい。
他にも偉いのがいて、そいつのどれかが技術を持ってると。
「その幹部はどこに?」
俺の問いに、阿内君が「マジかよこいつ」と、驚きと呆れの混ざった顔を浮かべた。
「幹部連中は各地方に散らばってます。東西南北……各方面の司令官です」
「ふむ。となると、
ならば今ここでは大して役に立たないということだ。
ただ、これは将来的に重要そうな情報である。
……夜鳥羽の裂け目だけで終わるなんて期待は、とっくの昔に捨てているのでね。
「……ふむ」
まあ、こんなところか。
阿内君も必死に情報を出してくれたが、彼はただのいち戦闘員。
出せる情報もここらが限界だろう。
「情報提供ありがとうございます。では後はこの基地の案内を――」
なんて、告げている途中。
窓の外、壁の向こうから、何かが砕ける音が高らかに鳴り響いた。
分厚いガラスを叩き割ったような。そんな歪で巨大な音が。
「……なんだ!?」
「……っ、外です!」
慌てて窓へと駆け寄るが、こっちじゃない。
「南は!?」
「こ、こっち!」
阿内君が顎で示した方に走り、窓の向こうを覗き込む。
「……あれは……」
呆然と見つめる先。
遠く浮かぶ青い裂け目から……
「出てきた……?」
え? 早くない? あと1日以上ある筈だけど……。
ゆっくりと蠢いたそれが、真下の駅舎へと振り下ろされた。
その瞬間、地面が大きく揺れた様な、そんな気がした。
「……なんか、異常事態かもです……」
時刻は午前8時。
活性化まで残り40時間である。
探索成果:―
収入:―
支出:―
残額:¥1,535,050
進行中任務
1:夜鳥羽の裂け目の消滅
2:拠点の修復
3:衣類の回収、引き渡し
4:裂け目の爆破
5:肉屋に話を聞く
6:
7:爆弾の材料入手