崩壊世界でルートシューター   作:穴熊拾弐

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第53話 Altered①

 

 

「……どうしてこんなことに……」

 

 十神咲良のぼやきは、乾いた風に乗って廃墟に消えていく。

 目の前に広がるのは無人の廃墟。

 沢山居たはずのブラーすらいなくなった静寂の廃墟に、自分の鼓動の音だけが響く。

 

「……大丈夫だ、十神咲良。ちょっとした仕事を済ますだけだ」

 

 もう何度目かの言葉を囁いて、胸に挿した短刀に触れる。

 父からの贈り物。『裂雷』と銘に彫られた色式兵装(カラージュ)

 これに触れていると、何故か彼の顔が頭に浮かぶのだ。

 

 ずっとその憎悪を燃料に戦ってきたけれど、今は何故か、安心を求めてしまう。

 あの夢を見たからだろうか。会いたいと、素直な言葉が浮かんでしまう。

 

「……っ」

 

 そんな思いを慌てて振り落とす。

 

 ――それが甘いというんだ。十神咲良……。甘えは捨てろ。これから私は、命を賭けるんだ。命を……。

 

 東へと視線を触れば、裂け目から現れた巨大な腕が見える。

 広告用のよく出来たオブジェ……ではない。

 今もググッと蠢き、鈍い破壊音が鳴り響いている。

 

「……本当に大型(テラ)が出現している……」

 

 単独(ひとり)で動いている間に、事態は大きく動いていた。

 この夜鳥羽に来て2年、沈黙を保っていた裂け目が活性化に突き進んでいる。

 活性化は予言者(シアー)の予言を越えて加速しつつある。

 

 急がなければ、大変なことになる。

 例えば、この()()を済ませている間に押し寄せたブラーに嬲り殺され……。

 

「……っ」

 

 跳ねる鼓動。命の危険があると想像しただけでこれだ。

 どうやらまだ覚悟が足りていないらしい。

 銘の僅かな窪みに指をそわせ溜息を吐き出していると、空の向こうから地響きが鳴る。

 

「……急ごう」

 

 いつもと勝手の違うカービン銃を構え、十神は()()のなくなった大通りを進んでいくのであった。

 

 

***

 

 

『わ、私……私のせいで……!!』

「あー、鷹村さん? 一先ず落ち着いてください」

 

 突然鳴り響いた電話の向こう。

 何故か号泣している記者(ライター)をなんとか宥めて、状況を確認する。

 

『……ご、ごめんなさい……取り乱したわ……』

「構いません。今はそれより情報です。どうして咲良さんが中央地区に? ――ああ、いえ。そうじゃないですね」

 

 今は呑気に話を聞いている暇はない。

 こんな慌てて連絡してきたんだから、先に聞くべきは。

 

「咲良さんは今どこに?」

『ホテルよ。夜鳥羽セントラルホテル!』

「……ホテル? なんでまたそんなところに……」

『それは、特捜の代わりに地下の爆破をするって……』

「……ぇぇぇ?」

 

 思わず間抜けな声が漏れてしまった。

 何がどうしてそうなったの? 馬鹿なのかあの人は!?

 事情を聞きたい……が。

 

「そっちから救援は!?」

『無理よ。今は活性化の対処に精一杯。どんどん封鎖壁周辺にブラーが集まってて、今にも壁を破壊しようとしてる』

「……? 外には出られないんじゃ?」

 

 だからずっと壁は健在だったんだろ?

 

『ああ、そうだった……無知っ娘だった……えっとね』

 

 明らかに頭を抱える衣擦れ音を鳴らしながら、記者(ライター)が口早に告げる。

 

『一言で言うと、大型(テラ)の特性! あれは()()()()()()()()()。だから、大型(テラ)が移動すれば、その周辺もブラーが行動可能になる』

「あー。つまり、あの裂け目から大型(テラ)が飛び出てる今は、封鎖壁からちょっとだけ外に出られる……ってことですか」

 

 あれの全長が分からないが、飛び出てる範囲は10mとかそこらだろう。

 そんな範囲を移動できるようになっても大した脅威じゃ……あ。

 

「そうか。壁は超えられる……つまり、壁を壊せるわけですか」

『そう。今までは行動範囲外に建ててたから大丈夫だったけど、触れるようになった。まだ極一部だけど、それでも壁が壊されたら厄介な事になる』

 

 今はいい。狭い範囲が壊れても、そこがチョークポイントになるだけで狙いやすくすらなるかもしれない。

 問題はその後。

 

『でも大型(テラ)が出てきたら、他のブラーたちも一斉に外に出て来る。その時に壁がなかったら……』

「押し寄せるブラーを止められず、街中に奴らが広がると。それは……大変ですね……」

 

 下手したら全滅コース一直線かも。

 そんな状況で()()()()をする人員救助に人は割けないか。

 しかも特捜の命令で動いてるっぽいしなあ……。

 今取り仕切ってる予言者(シアー)とは完全に別口ってわけだ。

 ……ますます何してんだよあの人。置いていくんじゃなかった。

 

『今、中央とこっち側にブラーが集結してる。このままじゃ咲良さんも……』

「そうでしょうね……わかりました。直ぐに向かいます」

『ありがとう……本当にありがとう……わ、私、車で迎えに行くから!』

「は?」

 

 なに言ってるの?

 

「死にますよ?」

『中央に集まってるから、そこ以外……東側から入れば大丈夫……!! 私の責任でもあるの。だから……!!』

「……わかりました。ただ、ホテルに乗りつけるのは私が合図をしてから。いいですね?」

『う、うん。……本当に、ありがとう……!!』

 

 通話を切って、深い息を吐き出した。

 事態はいきなりフルスロットル。

 大型(テラ)の出現が早まって、ブラーがわらわら大量発生して……今度は咲良さんの暴走?

 

「何が何やら……」

 

 ともかく、急がないと。

 今のやることは……3つか?

 足元の特殊個体(ユニーク)の解体。

 阿内君を肉屋前の出口で外に逃がす。

 そして咲良さんの救出。

 

 全てをうまいこと達成するには……。

 

「あのー、終わりました……?」

「……阿内さん。丁度良かった」

 

 恐る恐る物陰から出てきた阿内君に、鉈を手渡した。

 

「へ?」

「少しだけ離れます。その間に、これの解体……お願いできますか?」

「……なんでぇ……?」

 

 なんでだろう。

 俺もよくわかんないけど、全部丸っとやるにはこれしかないのだ。

 後は……近くの自転車屋、探さないと。

 

 

 それから10分後。

 俺は近くの一軒家の高橋さん家にあった自転車の鍵をぶっ壊して、全力で漕いでいた。

 すまない高橋さん。いつかあったらお礼をする。

 

「……ブラーがいないな」

 

 ほんの数日前、レンたち戀鬼一家と激戦を繰り広げた通りにシャーッとなる自転車の音だけが虚しく響く。

 もちろん遠くからの戦闘音やら咆哮は聞こえるけど、それだけだ。

 活性化目前で中央は増えたブラーがウロウロしてる……筈なんだけど、視界にそれらしき影はない。

 もうびっくりするくらいいない。引き潮みたいにざあっと、怪物たちの気配も消えてしまった。

 

「嵐の前の静けさってやつ?」

 

 その中に踏み入るのは、闇夜の山に立ち入るくらい恐ろしい。

 ……下手すりゃ化け物に殺されるんだから、もっと怖いか。例えが悪いな。

 

 死んでも平気なこの身体。

 だってのに、奇妙な静寂に肌がびりびりと震え続けてる。

 それは、ホテルに着いても変わらなかった。

 

 相変わらずブラーの姿はなく、静寂が周囲を包み込んでる。

 自転車のスタンドを立てる音が嫌に響いた。

 念のため銃を構えはしたが……ブラーが飛び出してきたりはしない。

 なんなんだ?

 

「咲良さんは……どうせ地下だろ」

 

 そのまま地下へと入り、研究所へと向かうが……。

 

「……?」

 

 中も静かなもの。

 明かりはついてないのは当然だが、だからってこんな静かなのはおかしいだろ。

 だって、咲良さんがいる筈で……。

 

「――咲良さん? リズです! 聞こえますか!」

 

 叫んだ声にも反応はなかった。

 ……まさか、別のフロアにいる? そんな馬鹿な!

 ここ以外にあの人に用事なんて――。

 

 思考は、途中で途絶えた。

 だって振った視界、物陰に倒れた巨体を見つけたから。

 ブラー、その死骸だ。

 

 薬品の残り香に隠れていたが、ほんのりと血の香りが鼻腔に触れる。

 途端鋭敏になる感覚が、()()()と鳴る音を聞いた。

 

 ハッと振った視界に、たった今までいなかった筈の影が現れていた。

 

『――――』

「……ヒト……?」

 

 それは、人間の様に見えた。

 すらりと伸びた手足は長く、身の丈は俺の倍はありそう。

 あの赤兎よりも細いが高い。

 

 だからってガリガリってわけじゃなく、しっかりと肉が詰まっている。

 服は着てる。暗緑色のTシャツはギチギチで。そこから伸びる、均整の取れた()()手足。

 その頭部には、人間の男の顔がついている。

 

 くすんだ金の髪。()が見えるのは首から上で、頬まで波のような刺青が黒く刻まれている。

 目は虚ろ。だが、ゆっくりとこちらを振り向いた。

 

『コッ――』

 

 こここ、とクリック音のような音色を発するそいつは、どう見たって人間ではない。

 だからってブラーにも見えないが……。

 

 ――手に持ってるのは、腕か?

 

 血まみれの腕。太さや形状は、多分ブラーのもの。

 それをぶらりと掴んでる。

 

 ブラーを狩ってる? なら味方か?

 だが、残念ながらどう見ても()()()ではない。

 なにに一番近いと言われれば、異形化した特務戦闘員・赤兎か、それか――。

 

「……肉屋?」

 

 呟いた、その瞬間。

 

『ココッ』

 

 奴は横跳びで俺の視界から掻き消えた。

 奥の肉壁が空しく血肉をまき散らす中、横から鈍い()()が響いて。

 

「――!!」

 

 振り向いた視界に赤い閃光が迸ると同時に、俺の意識は消失する――

 

「――なんのっ!!」

 

 寸前で、何とか踏み止まった。

 衝撃と激痛で意識は消失寸前。

 腕を砕かれ、そのまま頭も割れたのか視界は潰れてる。

 

 ああ、クソッ。

 こりゃ駄目そうだ。

 

『――――』

 

 ノイズだらけの音の中、多分奴の動く音がした。

 それがやって来る、その前に……。

 見えなくてもわかる、いつもの位置に括りつけた手榴弾をピンごと引き抜いて、叫ぶ。

 

「――30分耐えてください! それで……っ」

 

 こいつを殺す。

 言い切る前に、今度こそ俺の頭は砕かれるのだった。

 

 


探索成果:死亡

 

収入:―

支出:¥ 50,000 【蘇生費用】

   ¥ 250,000 【突撃銃補充】

   ¥ 30,000 【拳銃補充】

   ¥ 40,000 【手榴弾補充】

   ¥ 12,400 【弾薬補充】

 

残額:¥1,152,650

 

進行中任務

1:夜鳥羽の裂け目の消滅

2:拠点の修復

3:衣類の回収、引き渡し

4:裂け目の爆破

5:爆弾の材料入手

6:阿内の護送

7:十神咲良の救出


 

 

 

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