崩壊世界でルートシューター   作:穴熊拾弐

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第55話 Altered③

 

 

 ホテルにたどり着いたその瞬間、聞こえてきたのは真上からの音であった。

 は? 上!? なんで!?

 

 どうやら咲良さんがホテルに逃げ込み、それをあの怪人が追いかけてるらしい。

 耐えろと言ったが、そもそもあの怪人の狙いが何か全くわからなかった訳で。

 咲良さんを放っておいて地下研究所を漁ってくれてればよかったんだが……そう上手くは行かなかったようだ。

 

 慌てて突入して、咲良さんへの突進を止めた。

 あくまで俺らを殺そうと追ってきたなら……遠慮なくブッ飛ばす!

 

「ははっ、さあ、怪人退治です!」

『ココッ――』

 

 ホテルの5階、通路の途中。

 一本道の客室廊下は半ばで斜めに折れ曲がってて、丁度その辺りに俺はいる。

 

 背後には斜めに伸びる客室の群れと、そこに半ば埋もれた咲良さん。

 前方は真っすぐ続く通路で、そこにほぼ四つん這いの怪人がいる。

 

 クリック音を鳴らす怪人――金髪白眼のその()()()は、一切の笑みを浮かべることなくこちらを見つめる。

 白濁した目……見えてないのか?

 

「は、反響だ……!!」

「え? ……ああ、コウモリ的な」

 

 エコロ―なんたら。やっぱり生物由来。

 ブラーかよ、と思うが、そのブラーを移植したなら能力も近いのか。

 あまりに速い奴の動きだが、そういうことなら――。

 

『コッ――』

「ほっ!!」

 

 屈むと同時、奴の右蹴りが頭上を切り裂く。

 すんごい威力。こりゃ喰らったら頭が砕ける……!!

 ただこれで分かった。あの音の後に奴は動く。

 つまりこれは、予告付き攻撃(テレフォンパンチ)

 

「……!!」

 

 そのまま壁に激突した奴の背に拳銃を連射するが――飛び退きやがった。

 コウモリじゃなくてバッタかよ!

 

 ただ背中に2発は当てて、血煙が辺りに飛び散る。

 それでも奴の動きに変わりはない。

 

 軽快に2、3歩廊下を跳ねて着地した奴に突撃銃(アサルトライフル)を掃射するが、クリック音を出すまでもなく右手側の客室へと消えていった。

 やはり音に敏感。そしてこっちの位置は筒抜け。

 どん、どん、と右から音が続く。

 ()()()()を駆け抜けた奴が、真右に迫る――。

 

「どっ――」

 

 迫る怖気と音に向かって、俺は握りしめた拳を振り上げ――

 

「――せいっ!」

 

 ――振り放った。

 

 同時に爆散する壁から現れた怪人の膝と俺の拳が正面衝突。

 凄まじい()()()が鳴り響いて、互いの身体が真後ろへと吹き飛んだ。

 

「リズ……!!」

「痛っ……たいなぁ!!」

 

 開いてたドアから室内に飛んで、奇跡的にベッドに着地。

 それでも勢いは消えずに壁にぶつかったが、それだけだ。

 腕も拳も無事……すげえな、()()

 

「なんっ……」

 

 気にせず出てきた俺に咲良さんが驚愕の顔をしてる。

 そんな彼女に、『しぃーっ』と指を立てて黙らせる。

 その右手には、真っ黒な手袋。

 

「赤兎のグローブです。これ凄いですよ、全然痛くない」

 

 奴から奪った戦利品の色式兵装(カラージュ)

 流石にスーツはデカすぎて着られなかったが、このグローブと靴はなんとかなった。

 ……どっちも結構デカかったけど、二重で着ければギリいける。

 

 これが俺の怪人対策。

 銃で倒せないくらい速いんなら……殴り合いだろ!

 勿論濫用は命に関わる。だから、さっさと終わらせる……!!

 

『ココッ――』

「ほら、おいで!」

 

 こっちから呼んでやる。

 それぞれの位置は廊下を挟んだ、壁に空いた穴同士。

 つまり来るなら、一直線!

 

「――はっ!」

 

 壁を蹴って走り出し、音を頼りに跳び蹴りを()()

 案の定、そこに吸い込まれるように飛んできた奴の蹴りと衝突し、再び破砕音が鳴り響いた。

 

『――――!!』

「はっはあ!!」

 

 再び互いに吹き飛んで、今度はベッドにバウンドから、窓ガラスへと一直線。

 

「ぅおっ……危なっ!?」

 

 ガラスは無残に砕け散るが、フレームのおかげでギリギリ止まった。

 次ぶつかったら枠ごと吹き飛んで落下死だろう。

 ここまで来てそれはゴメンだ……!!

 

 慌てて廊下に飛び出し、斜めの通路の奥へと走る。

 咲良さんには掌を向けて『動くな』とジェスチャー。

 実際動けないっぽいし。

 少しだけ呼吸も最小限にしてもらう。

 

「――ほら、こっちです!」

『――コッ』

 

 ヌルっと廊下に出てきた怪人が、素早く俺の方を見る。

 決して遠くへは離れず、出方を窺う。

 僅かに腰をかがめて拳の用意をしながら、左手で胸元から重撃弾の色式兵装(カラージュ)を取り出す。

 

 右手や足に痺れが走り、目ん玉の奥がゆっくり沈んでいくような、そんな意識が遠のく感覚がある。

 多分、色式兵装(カラージュ)の連続使用の影響だろう。

 寿命が徐々に削られてる。この上で重撃弾を使ったらどうなる? 自我すら吹き飛ぶか?

 

 ゾッと怖気に震えるが、ここで奴を殺し切った方がいい。

 

「……」

『――』

 

 ジッとにらみ合って、数秒。

 

『ココッ――』

 

 そう鳴いた直後、奴はばん、とカーペットを蹴っ飛ばして……姿を消した。

 

「は……?」

 

 遠くからガラスの割れる音が響く。

 慌ててさっきの部屋に入って窓の向こうを見るが、もう何も見えなかった。

 逃げ足すら速い……いや、そう見せかけて隠れた?

 

予言者(シアー)!!」

『――はいはい! あ、ちょっと待ってて。リズから。……どうしたの!?』

 

 慌ただしい声が向こうから聞こえてくる。

 声に機械の騒音、銃声らしいものも。多分、何かの工事中。

 忙しいところ悪いが、こっちも緊急。

 

「私たちの周囲、見てもらえます? 敵が逃げたか確認したく」

『おっけ! ……いないね。安全っぽいよ』

「……そうですか」

 

 重い溜息を吐き出して、近くのベッドに座り込む。

 すぐさま色式兵装(カラージュ)の使用を止めて、靴と手袋を取り外す。

 その瞬間、重く沈んでいた意識の一部がはっきりと戻る。

 やっぱりこの武器怖すぎる……2度と使いたくないが、逃げた以上再戦があり得るんだよな……。

 

「はぁ……なんだったんだ……」

「……リズさん……無事か……」

「おっと」

 

 咲良さんのこと忘れてた。

 廊下から顔を出すと、なんとか這って装備を拾おうとしていた。

 立ててない……やっぱりどっかやられてたか。動きが鈍いと思った。

 

予言者(シアー)、咲良さんは救出しました。鷹村さんに連絡して貰えます?」

『あの人までいつの間に……分かったけど、後で説明してよ!』

「それは私がして欲しいんですよ……まあともかく、助かりました」

『はいはーい! ……あ、甘木さん、そこにお願い!』

 

 そのまま通信は切れていった。向こうも大変そうだね。

 ……さて。

 

「咲良さん、迎えが来ますよ。立てますか?」

「ああ……痛っ」

 

 手を貸してあげるが、身を起こすのにも辛そうだ。

 

「やられましたか。どこです?」

「多分、腰だな……折れてはないと思うが」

「むむ。そしたらー、タオルで固定しましょう。少々お待ちを」

 

 ホテルだからそのへんはやりやすい。

 さっきの部屋のベッドに座らせる。

 装備を外して、アーマー用のプレートとタオルを使ってコルセットの代わりに。

 こういう作業もすっかり慣れた。切り傷と骨折の応急処置ならお手の物だ。

 

「すまない。1人でやるつもりが、結局迷惑をかけた……」

「いえいえ。たまたま近くにいたので。さ、下まで行きますよ」

「助かる。……だが、あなたの身体は……」

「ああ、それ勘違いなんで大丈夫ですよ」

 

 回復の回数的なあれね。……それでいえば減ってるんだけど……増やせもするから……。

 咲良さんの落とした装備も回収して、肩を貸して2人で廊下を進む。

 

「それに、今は謝罪より情報です。別れた後、何があったんですか? 手がかりを見つけたとか言ってましたが、なんでまたここに?」

「……特捜に取引を持ちかけられたんだ」

 

 ……出たよ特捜。

 殺さずに捕まえておいたんだっけ?

 結局悪さしてるじゃん。

 

「父について情報を貰う代わりに、地下研究所を破壊しろと。奴らはどうしてもあそこを破壊したいらしい」

「なるほど、手がかりとはそのことですか。でもどうしてお一人で? 危険なのはわかっていたでしょう」

「……どうやら漂白部隊(SBEU)に知られたくはなかったらしくてね。私が謹慎の身で地下研究所にいたのもバレてしまったからな」

「あー……それは、それは」

 

 一発で懲戒免職処分行きの命令無視だもんな。

 それを盾に脅されたら無理ないか。

 

「しかも、その場には記者が……鷹村さんがいた。下手をすればあの施設のことが父や私がしたこととして広められることもできただろう。断ることはできなかったさ」

 

 おおう、何してんだあの人……。

 しかしなるほど。脅されてたわけね。

 そこまでして潰したかったのか、あの施設。

 

「階段降りますよ。ゆっくり、一歩ずつ」

「ああ。……っ、結果、このザマだ」

 

 痛みに耐え、荒々しく息を吐きながら、咲良さんは首を横に振る。

 

「しかし何故そこまでして地下研究所を?」

「……奴らはここの地下研究所について、予言者(シアー)に把握されたと思っている。自分たちが追っていた相手に、漂白部隊(SBEU)の暗部となる情報を握られたんだ。いくら私たちに罪を着せても、漂白部隊(SBEU)がやった事実は変わらない……余程焦ったのだろうな」

 

 ああ、そうか。

 夜鳥羽で隠しておかなきゃいけなかった施設が、得体のしれない予言者とかいう犯罪者……じゃないけど、そんな不穏分子に()()されたわけだ。

 そりゃ慌てて証拠隠滅しに来るか。

 

「それを私たちに阻まれ、頼りの甘木隊長たちは予言者(シアー)に味方した。彼らとしては、最悪の結果といえるだろう」

「だから咲良さんに取引を持ちかけた、と」

「そういうことだ。最悪、証拠となる施設さえ潰せれば良かったのだろう。……その点でいえば、私も予言者(シアー)を完全に信頼したわけではないしな」

 

 おや、意外な発言。

 探る様な視線を向けると、苦悶の表情を浮かべながら、熱の籠った息とともに疑念を吐き出す。

 

「……彼女が地下の抜け道を知っていた事がずっと気にかかっているんだ。我々に会う前に調べていた……と考えるのが自然だろう?」

「ああ……」

 

 それは……否定する材料はないな。

 俺もアイツと遭遇したのは学校だった。

 ブラーの研究をしていた場所だ。他にも何箇所か、旧陸軍拠点を把握してると言っていた。

 

 つまり予言者(やつ)は、夜鳥羽で行われていた諸々を知ってる可能性がある。

 特に奴の拠点だったホテルの施設は把握していて当然だろう。俺だってそうする。

 ……ならなんで奴は黙ってたんだ?

 知ってたら話せば……いや、駄目か。

 

 予言者(シアー)の目的はあくまで活性化に耐えきる仲間の確保。

『お前たちの秘密を知ってる』なんて奴を仲間に入れる訳がない。

 甘木さんになら話しても良さそうだが、それが事前に分かった筈もない。あんな特大地雷な情報は邪魔でしかないか。

 

「夜鳥羽では助け合うが、その後どうなるかは分からない。彼女の予言やその能力は有用だが……真の意味で我らの味方かも分からないんだ。もし彼女が敵対したら――その時のために、私としてもあの施設は破壊しておきたい」

「……それ、私に話していいんですか? 私は予言者(シアー)と行動を共にしていた人間ですよ?」

 

 告げた問いには、ふっと笑みが返ってくる。

 

「雇われなんだろう? それに、リズさんは私にとって命の恩人だ。あなたに嘘は吐きたくない」

「……そうですか」

 

 雇われ設定、すっかり忘れてた。危ない危ない。

 そんな話をしていたら、1階にたどり着く。

 ロータリーまで出たら、滑る様に黒いバンが走り込んできた。

 

 速かったな……と思ったのも束の間。

 勢いよく開いた扉から、号泣した記者(ライター)が顔をだした。

 

「ふだりども、無事……!? わ、私……ごめんなざい……!!」

「……」

「……」

 

 嗚咽が空しく響く中、咲良さんと顔を見合わせる。

 あまりの間抜けさに、互いにふっと噴き出した。

 

「ごんなごとになるなんて……私……」

「はぁ……謝罪は後! 今は脱出が優先です」

 

 後部座席に咲良さんを乗せて、扉を閉じる。

 時間は……もう13時を過ぎた。

 あと8時間……。

 

「り、リズも乗りなさい! 早く移動するわよ!」

「……いえ、私は残ります」

「はぁ!?」

「元々ここには寄っただけですから」

 

 置いてきた心臓……阿内君を回収して、その後に爆弾作りと駅にもいかないと。

 やることはいっぱいだ。

 

「ああ、あれの処置はやっておきます。これを使えばいいんでしょう?」

 

 彼女の鞄に入っていた爆弾を掲げる。

 特捜が手配したものだろう。こんな装備どこに隠してたのか……。

 なんて考えてたら。

 

「……鷹村さん」

「へ? 私? な、なに?」

「謝罪の代わりに、ちょっと手を貸してもらいたい」

「……へ?」

 

 声も、顔も、決意に満ちてる。

 マジか……やる気だよ、この人。

 

「咲良さん……信用してくださいよ」

「そうじゃない。そうじゃないんだ、リズさん」

 

 痛みで脂汗を浮かべながらも、彼女はかぶりを振った。

 2、3度呼吸を繰り返すと、意を決して車から降り、自分1人で立ち上がった。

 

「……あの様子じゃ、あの怪人はまた来るだろう? 今は情報が必要な筈。それに、決めたんだ。――私たちには、奪われたモノを取り返す権利がある……だろう?」

「それは……」

「私はもう諦めない。父の行方も、その真相も、そしてこの街も……全て奪い返してみせる。そのために出来ることはさせてくれ」

「……わかりました。まあ、地下には医療器具もありますし。何とかなるでしょう。鷹村さんもいいですか?」

 

 2人で見つめた記者(ライター)の顔は真っ青で号泣寸前。

 だが、直ぐに引き締まって、ぶんぶんと首を縦に振った。

 

「――と、当然! 私は裂け目専門ライターよ! 最前線で記録して見せるわ……!!」

「その意気です。さあ、ならば急いでやりましょう。……あ、その前に。2人とも手を」

「?」

「こう?」

 

 挙げられた2人の手を――思いっきり叩く。

 

「「わっ!?」」

「私たちであの裂け目、ぶっ壊してあげましょう? ――行きますよ!」

 

 どうせ、あの怪人はまたやって来る。

 怪人に大型(テラ)討伐……どちらもやってみせましょう!

 

 


探索成果:―

 

収入:―

支出:―

 

残額:¥1,152,650

 

進行中任務

1:夜鳥羽の裂け目の消滅

2:拠点の修復

3:衣類の回収、引き渡し

4:裂け目の爆破

5:爆弾の材料入手

6:阿内の護送

7:十神咲良の救出

8:地下研究所の破壊

9:α部隊に関する情報の取得

 


 

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