崩壊世界でルートシューター   作:穴熊拾弐

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第57話 Oracle

 

 

 肉屋(ブッチャー)こと、権藤豊の地下店舗。

 両腕を伸ばせば触れるくらいの激狭空間だった筈のそこには、いつの間にか穴が開いており、更に下へと続く階段が現れている。

 その先は、打って変わって20m四方はありそうな大部屋へと繋がった。

 

「こんな場所が……」

 

 鉄網の床が敷かれたそこは、巨大な機械群が唸る工房。

 この店に来る度にずっと鳴っていた音の正体はこれだったのである。

 機械や配管で奥まで見えないが、広そうだ。

 後ろを着いてきた皆も呆然と周囲を見回してると、機械の陰から肉屋が顔を出した。

 

「――おや、リズさん。戻られましたか」

「ええ、店主さん。ただいま戻りました」

 

 ずんずんと床と腹を揺らしながら近づいてくる肉屋は2mを超す巨体。

 こうしてみると縦にも横にも馬鹿でかい……。

 ちなみに足は着替えたのか隠れてる。

 

「よくぞご無事で。手に入りましたかな?」

「ええ、ばっちり」

 

 入口横には金属製のテーブルがあり、種々の工具やら機材が並んでる。

 そこへ鞄を置いて、中から心臓の入った袋を取り出す。

 

「特殊個体(ユニーク)の心臓です」

「ほほっ、流石ですな。……それで、後ろの方々は?」

「ああ、それがですね……」

 

 振り返ると、色式武装(カラージュ)に手を掛けた咲良さん、自衛にと銃――は取り上げたのであわあわと腕を彷徨わせてる阿内君、絶望通り越して最早真っ白に突っ立ってる記者……と様々。

 まあ、初見はビビるよね、肉屋(これ)……。

 

 なんとか全員を宥めて、ここに来た経緯をさっと説明。

 

「――というわけでして。例の地下研究所から戻って来たところです」

「……なるほど。事情は理解いたしました」

 

 それを聞き終えた肉屋は、ゆさりと身体と地下室を揺らして、3人へ――特に咲良さんへと恭しく礼をした。

 

「わたくし、権藤豊と申します。5年前の夜鳥羽奪還戦に参加しておりました」

「あ、はい。私は……って、押すな!」

 

 未知の巨体からの挨拶(ファーストコンタクト)に、記者(ライター)と阿内君が必死になって咲良さんを押し出した。

 つんのめる様に前に出た彼女が、顔を強張らせながら礼をする。

 

「……十神咲良です。重左の娘で、今はこの夜鳥羽支部の隊長……をつい先日までしておりました」

「おほほっ、存じておりますよ。ずっと見ておりましたから」

 

 ……怖っ。

 最悪のストーカーみたいな発言だが、肉屋の場合は実際にずっとここにいたんだろうから事実なんだよな……言い方……。

 ただ、流石は咲良さん。怯まずに問いかける。

 

「……5年前、あなたは父のつくったあの施設にいた。……そういうことですね?」

「ええ。これで分かりますかな?」

「……ああ……」

「ええ!?」

「ひぃっ!?」

 

 彼が袴みたいな下穿きを僅かにめくって見せると、三者三様の声が上がった。

 

「見(・)て(・)の(・)通(・)り(・)、わたくしと彼はあなた方が調べた特殊滲体の人体移植、その被検体でありました」

「彼……やはりあの人が何者か、ご存知なのですね」

「ええ。恐らく、彼は白瀬軍曹でしょう。まさか、生きていたとは……」

 

 白瀬軍曹。権堂――肉屋と同じ第2旅団所属の砲兵。

 それがあの怪人の本名らしい。

 

「凄まじい戦闘力だった……あれが、実験の成果ということですか」

「そうです。その中でも白瀬さんはエース……とでも言いましょうか。我々の中でも最も改造が進んだ兵士でしたな」

 

 実際、とんでもなく強かった。

 次に会ったら俺が勝つが、それでも油断ならない相手だ。

 特に金がない今は。

 

「白瀬軍曹は……彼は今どこに?」

「わかりません。戦闘途中で逃げられてしまいましてね」

 

 肉屋の問いにはそう答えた……が。

 確かに気になる。今どこにいるかもそうだが、今までどこにいたのかも。

 

「むしろ店主さんに聞きたいです。彼の潜伏場所に心当たりは?」

「……ふむ。彼とは死別したと思ってましたからなぁ……考えられるとすれば、我らα部隊が使っていた基地跡地ですが……北東地区の地下駐輪所には行かれましたかな?」

「あそこですか」

 

 まさかの場所が告げられた。

 あんなところがこいつらの基地だったとは……。

 

「行きましたけど誰もいませんでしたよ。ねえ、咲良さん」

「ああ。私も同行していたから間違いない」

 

 俺の言葉に咲良さんも頷く。

 肉屋には言えないが、予言者がいたからそこの見落としもないはず。

 てかあそこだったんかい。結構危ない橋渡ってたのか、俺たち……。

 

「ね、ねえ。それじゃあ、封鎖壁の外に出てきてるということもあるんじゃないの? そしたら街の人たちが……」

「おほほっ、それはご安心下さい。我々は危険領域から出られません。ブラーと同じですよ」

 

 ぶっとい足を叩いて、よく響く笑い声で肉屋は言った。

 

「……やはりそうか。昨夜、山本さんに資料を見せたんだが、そんなことを言っていた」

「山本先生……懐かしいですねえ」

「あっ、そうか。夜鳥羽にいたなら顔見知りですか」

「ええ。大変お世話になりました。……こうなる前は、ですけれど」

 

 夜鳥羽の人間関係、意外と狭いのかもしれない。

 

「先生のおっしゃる通りです。本来ブラーはこの危険領域でしか存在できない。その身体を移植した我々も、危険領域を出れば身体が崩壊を始めます」

「だからこんな場所に店を……」

「ほほほっ、勿論、それだけではないですがね。おっと、客人の方々を立たせたままではいけませんな。こちらへ」

 

 テーブルの周りに並ぶ丸椅子に腰かける――俺と、俺に掴まれた記者(ライター)以外。

 

「リズ? どうしたの?」

「――店主さん、例の物は?」

「勿論、準備できておりますとも」

 

 肉屋は机に置かれていた物を手に取ってこちらに示してくれた。

 

「……それは?」

「ふふっ、あの裂け目と大型(テラ)を吹き飛ばす爆弾、その材料です!」

 

 30cm位の透き通った筒に、銀の箱が背面に接続されている。

 どっかの工場の残骸でも持ってきたような見た目だが、これこそが俺の秘密兵器――の素!

 

「こちらがご希望の装置です。こちらの筒に心臓を。そしてこの箱に爆弾を挿入してください」

「ふむふむ。先に差し込んでおいて平気です?」

「はい。爆弾の接続に少々手間がかかります。手順はこれに」

 

 わざわざ紙に纏めてくれたらしい。

 ありがとう、肉屋……!!

 

「爆破自体はどうすれば?」

「このスイッチを押してください。5分で起爆しますので、その間にお逃げください」

「……吹き飛ばされませんかね?」

「裂け目の中で起爆するのなら大丈夫……だとは思いますが」

「それを信じるしかないですね」

 

 逃げきれずに吹き飛んで、俺の身体も消滅とかは笑えない。

 死んだら復活する……とは思うが、裂け目と大型(テラ)を吹き飛ばす特殊爆弾は何が起こるかわからんし。

 

「後は、これを。念のための予備です」

 

 肉が入ってない空の筒が数本。箱が1つ。

 

「もし追加で心臓が手に入ったら使ってくださいませ」

「ありがとうございます。遠慮なく使わせてもらいます」

 

 緩衝材付きのアタッシュケースまで用意されていたので、それに詰めて手に取った。

 

「このお礼はいずれ」

「おほほっ、でしたら、裂け目の破壊をお願いしますよ。我々の悲願でしたから」

「……必ず」

「……あのー。結局、私は何をすれば……?」

 

 鞄を背負い直し、ただ立たされたままだった記者(ライター)の腕を再び掴む。

 

「鷹村さん、すみませんが車を回してください」

「え? あ、うん」

「咲良さん、作業が終わったら迎えに来ます。その間に話を」

「……わかった」

 

 これで必要な物は全て揃った。

 さっさと拠点に戻って、爆弾を作らねば。

 咲良さんにはその間、ここで大人しくしてもらおう。

 

「あの、俺は……」

「……あ」

 

 忘れてた。

 しれっと座ってる阿内君の肩を叩いて、扉の方を指さした。

 

「入口から出て左が外です。協力ありがとうございました。後はご自由に」

「……」

「行きましょう、鷹村さん!」

「う、うん!」

 

 さあ、秘密兵器づくりの時間だ!

 

 

***

 

 

「……行ってしまった」

 

 どたばたと鳴る足音を見上げながら、十神咲良は呆然と呟いた。

 

「ほほっ、リズさんは嵐のような方ですなあ」

「……そうですね」

 

 死(・)ぬ(・)ほ(・)ど(・)の(・)大(・)怪(・)我(・)を負っても、殆ど止まることなく走り回っている彼女だ。

 きっと駅だろうが裂け目だろうが構わず突っ走っていくのだろう。

 ほんの一瞬、ふっと息を吐く静寂が部屋を包む。

 

「……さて」

 

 ごうんごうんと機械の駆動に身体を揺らしながら、権堂がこちらを見た。 

 

「それで、お話をすればよろしいですかな?」

「……すみませんが、お願いできますか? 私は、5年前にここで何が起きたのかを調べていまして」

「そうでしょうなあ。十神少将のことは、今でも心が痛ましく思いますから。ただ、少々お待ちを」

「……?」

「――もし、そこの方」

 

 権堂が声をかけたのは、ぼおっと席に座っていた残留者(レジピポ)、阿内。

 戦闘員特有の禿頭の彼は、ハッとしてこちらを見た。

 

「あ……俺ですか?」

「はい。あなた、お名前は?」

「えっと、阿内です」

「そうですか。では阿内さん。失礼ですが、あなた、残留者(レジピポ)でしょう?」

「……はい。仲間と逸れた所をさっきの人に助けて?もらって……逃がしてもらうところでした」

 

 ……『助けて』の部分が疑問形だったのは何故だろう。

 浮かぶ疑問に権堂は気付かなかったのか、ニコニコと柔和な顔で続ける。

 

「残留者(レジピポ)では何を? そのご様子だと、戦闘員ですかな?」

「え、あ、はい。よく分かりましたね……」

「それなりに長いことここにおりますので。……ふむ、そうですね。阿内さん……あなた、ウチで働きませんか?」

「「へ?」」

 

 なにやらうんうんと頷いて。

 肉屋は朗らかにそう告げたのだった。

 

 

***

 

 

「そこを真っ直ぐ……ここです!」

「はいはーい。……あれ? こんな建物、あったかしら……」

「ありがとうございます! 鷹村さんは中で猫と待っててください!」

「へ? 猫? ……ちょっと、リズ!?」

 

 というわけで戻ってまいりました、拠点地下。

 できたばかりのワークベンチに並べるは、爆弾の材料3つ。

 心臓、爆弾、そして肉屋特製の色式爆弾の素。

 これで、俺の神造武器を作るのだ。

 

「まずは、心臓の封入から」

 

 透明のシリンダーに袋から心臓を移す。

 まだ血の滴るそれが筒の壁面を汚す……ことはなく。

 不思議と心臓は筒の中央部分で浮かび、淡く発光を始めた。

 

「ええ……なにこれ……」

 

 静電気みたいな青い光が筒から心臓に幾つも走ってる。

 どういう原理……?

 

「まあうまくいってるってことで。次」

 

 そのシリンダーの背面にある箱に爆弾を繋げる。

 ここがちょっと大変。

 通常の起爆装置に加えて、色式機構の部分の接続がちと面倒。うっかり手順を間違えたらドカン、もあり得る。

 そうやって、慎重に繋げば……爆弾の完成だ。

 

「できた……!!」

 

 材料をくっ付けただけだけど、特捜が持ってきた爆薬3つ分に特殊個体(ユニーク)の心臓付きだ。

 威力は相当な代物の筈だが……。

 

 ――これ、足りんのかなー。

 

 あんな巨大な裂け目に大型(テラ)を破壊するには流石に足りない気もする。

 あの飛び出てる腕なら吹き飛ばせそうだが、全部となると……。

 

「んー、予備の分も使ってみるか? それとも……」

 

 そんなことをぼやきながら完成した爆弾を手にしてジッと見つめていたら。

 

『――――』

 

「……ん?」

 

 リィン、と何かが高く鳴った。

 しかもおまけに地下室全体が揺れたような気がした。

 ……いや、地下室だけじゃない。教会全体が揺れた。

 

『――――』

 

 また音が聞こえた。

 これ……上の階だな。

 

 侵入者か? それにしちゃ音は大人しい。

 それに、なんだか悪い者の気配はしない。

 もっとこうなんというか、厳かというか……。

 

 音が鳴るたびに指先がじん、と滲む。

 不思議な高揚感が全身を貫き、そして何故だか、不思議な懐かしさが心を満たす。

 ……俺、この存在を知っている?

 

 しばらく揺れと音が響く。

 まるで、何かが空から降りてきてる様な……。

 

「……ああ、そうか」

 

 そうだった。俺が作ったのは神造武器。

 んでここは神様の用意した拠点。

 てことはそれが出来て出てくるのは……。

 

「やっとお目見得かよ、神(・)様(・)」

 

 そう呟いた、その瞬間。

 天井から俺の立っている場所へ、眩い光が貫いて――。

 

 俺の視界も意識も、完全に掻き消えてしまうのだった。

 

 

***

 

 

 真っ白な世界に立っていた。

 

「……? ここ……」

 

 見覚えがある。

 そうだ。あの真っ黒神様モドキと会った場所。

 目印なんて何もないからわかんないけど、こんな場所が他にもあってたまるか。

 

 ただ肝心の真っ黒神様モドキも、あの誓約ボタンも何もない。

 

「そして身体はリズのまま……なんだこれ」

 

 周囲を見渡すが何もない。

 折角爆弾が出来たんだ。さっさと設置しに行きたいのに……!!

 

「おい、神様だろ! どこにいんだよ!」

『――■■■■(うえ)』

「へ? 上? ……うぉぉお!?」

 

 聞こえてきた言葉。

 何故か意味の理解できたそれに呼ばれるように顔を上げて――仰(・)天(・)。

 

 だってそこにはとんでもない長さでとぐろを巻く、真っ赤な蛇がいたのだ。

 人体模型の筋肉の筋あるだろ? あんな感じの身体をした塔みたいにぶっとい肉の蛇。

 それが、見上げた視界のほぼすべてを埋め尽くしていて。

 そのど真ん中から、恐らく頭部らしい無貌の蛇がこちらへと巨大な口を開いた。

 

「な……」

『■■■(きみ)、■■(す)、■■■■(なおした)』

「は、は……?」

 

 脳髄に叩き込まれるリンと鳴る音。

 言葉の意味を脳に擦り込まれる不思議な感覚に、ただただ呆然とする。

 

『■■■(おれい)、■■(ちから)、■■■(あげる)』

「力……? ああ、ひょっとして、神造武器……」

 

 あれ、マジで神様がくれるってこと!?

 予言者(あいつ)、そんなこと一言も……そういうのは先に言え!!

 

『■■■■(おねがい)、■■(なかま)、■■■■(たすけて)』

「……助ける? 誰を?」

『――――』

「……?」

 

 音は鳴ったが、聞き取れなかった。

 何か意味のある言葉なのか? 分からん……。

 

 その意味を聞き出す前に、足元ががくん、と揺れた。

 ハッと周囲を見ると、白い世界がどんどんと砕け落ちていっている。

 それは瞬く間に俺まで迫って、俺の身体は白から黒い世界へと放り出された。

 

 足元を失い、俺の身体は落ちていく。

 凄まじい速度で離れていく蛇が、最後の音を高らかに響かせた。

 

『■■■■(こわして)、■■(それで)、■■■(おきる)』

 

「だから! もっと説明を……!!」

 

 抗議の声も虚しく。

 その言葉を最後に、俺の意識は再び途絶えて――。

 

「――はっ!?」

 

 気づけば、俺はワークベンチの前に突っ立っていた。

 

「……今のは……」

 

 何故か荒れた息を整えながら、周囲を素早く確認。

 揺れも音もなく、何も変わらないいつもの拠点地下にしか思えないが……。

 

「……これ」

 

 俺の目の前にはさっき作った爆弾がある――のだけれど。

 その外観は、全く別の物になっていた。

 透明と銀、後は爆薬の黄土色の安っぽかった見た目が、全て滑らかな大理石見たいな見た目に変わってる。

 なんか神殿とかに置いてありそうな、大昔の聖遺物みたいな。

 ただ、シリンダーだった筒の中心には赤い宝石が埋め込まれていて、それは仄かに淡い光を放っていた。

 

「……神造武器。これを使えってことね」

 

 今起きた事、あの神様?が言ったことも。

 まだちゃんと理解できないけど。

 これならワンチャンありそうだ。それだけは分かる。

 

 てかこのわけわからん事態、結局神様関係だったらしい。

 

「ファンタジーかよ」

 

 いつも通りの言葉を呟いていたら、凄まじい音とともに扉が開いて、記者(ライター)と三毛が飛び込んで来た。

 

「ちょ……リズ!? 今、なんかすごいことが起きなかった!?」

「ああ、上でもなんかありました?」

「なにその余裕……!? なんか、建物全体がばりばりー!って光って、それで凄く揺れて……!!」

「それより、鷹村さん!」

 

 おおう。現実世界でも影響あったんかい。

 まあそれはいい。

 話を切って悪いが、緊急事態。

 

「夜鳥羽中央駅、そこにある神様に関する施設はありますか?」

「へ? なんで?」

「いいから、ありますか!」

「えっと、それは多分……神晶じゃない?」

「……神晶?」

 

 やっぱり、はっきり。

 この世界で起きている問題は神様関連らしかった。

 


探索成果:―

 

収入:―

支出:―

 

残額:¥1,152,650

 

進行中任務

1:夜鳥羽の裂け目の消滅

2:拠点の修復

3:衣類の回収、引き渡し

4:裂け目の爆破

5:爆弾の材料入手

6:阿内の護送

7:地下研究所の破壊

8:α部隊に関する情報の取得

9:■■■の破壊

 


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