時刻は14時を回った。
活性化予定時刻まで残り7時間……そう考えるとあんまり時間がない。ついでに金もない。
なんなら予定時刻すら当てにならない。
ないないだらけの危険状態に突入中である。
色々とどたばたしてる間に、事態はどんどん悪化中。
通信で聞く
撃って殴って、その間に補強した壁は押し返してきたブラーにぶっ壊されかけ……その繰り返しなんだと。
もし裂け目から
つまりその瞬間から戦闘が開始される。
どちらかが滅ぶまで続く、最悪の総力戦が。
そうならないためにも、俺は手に入れた神造武器での裂け目爆破作戦を決行する……のであるが。
「それで、神晶ですか」
「そ。それがあなたのお望みの『神様関連』の代物よ」
神晶。
透き通る美しい巨大結晶で、全世界各地の地面に突き立つようにして
……そんなものが何故駅に?
「順序が逆ね」
肉屋へと車をかっ飛ばしながら、
俺の無知にもすっかり慣れた彼女だが、それでもやっぱりちょっと呆れつつ歴史講義をしてくれる。
「元々、
「ほうほう。お詳しいですね」
「……歴史の授業で習う話だけどね。今も周辺では農業が盛んよ。夜鳥羽の裂け目の活動が弱かったのは、それが原因だともいわれていたっけ」
「そうなんですね」
この国の歴史なんて知らないもので。
ついでに、神様についても。
この世界に連れてこられて1月半。
その間、この見知らぬ世界の情報を様々に拾い集めたわけだが、中々得られなかった情報がある。
それがこの世界の神様に関する情報だ。
――どうやらこの世界、神様は
いや、俺や
この世界では全世界の人々が同一の神々を信仰している。
過去に降臨した事例もあるんだとか。
「それで、あそこにいる神様はどなた?」
「豊穣よ。正確には、『分け身』だけど」
『分け身』……聞き覚えがないが、多分『分霊』的なあれだろう。
豊穣なんて神様がこの地方都市に根差してるわけもない。世界各地に支社が幾つもあって、その内の一部がここにあるんだろう。
ちなみに神に個別の名前はない。
だって、この世界に
全世界共通の神様なら名前は要らない。権能の名前だけで良いわけだ。
そして今、その
これって……つまりそういうことか。
――そりゃ必死になるわけだよ、神様モドキ……。
人間じゃなくて自分の神体そのものが狙われてるってんなら、焦るのも良く分かる。
「つまり代理戦争ってやつ……」
「何?」
「いえ、こちらの話です」
そしてだからこそ、俺の神造武器の効果も期待できるってもんだ。
……なんて考えてたら肉屋に到着。
「咲良さんを連れてきます。鷹村さんは待っててください」
「急いでよ!」
飛び込むように地下2階の工房へと入ると、入口付近の作業テーブルにいた肉屋と咲良さんが顔を上げた。
「おやリズさん。できましたかな?」
「ええ、ばっちり。最高でした! 店主さんのおかげです」
それぞれ別の場所から集めた材料だが、間違いなく肉屋の色式機構のおかげで爆弾ができた。
こいつがいなかったらとっくに残金尽きて死んでただろうし、マジの恩人である。
「おほほっ、それはなによりでございます。では、いよいよですな?」
「ええ。裂け目をぶっ壊しに行く……んですけど」
「「……?」」
神晶なんて物がポップしてきたせいで若干混乱中です。
……なんて言えるわけもない。
「ともかく、まずは駅に行って状況調査ですね。咲良さんにはその手伝いをしていただきたいのですが……」
「分かった。行こう。権堂さん、お世話になりました」
そう即答して、彼女は立ち上がった。
「いえいえ。お話できて嬉しかったですよ。続きは、またいずれ」
「はい。お願いします」
スッキリした顔で咲良さんはそう言った。
目的は達成できたのかな。なら良かったが……あれ?
「そういえば阿内さんは? 彼、逃げられました?」
「ん? 彼なら……」
「呼びました?」
ごうんごうん唸る機械の後からハゲ頭の阿内君が顔を出した。
「……なんでまだいるんですか?」
「それが……」
困惑した様子の咲良さんから、彼が肉屋に誘われ、ここの店員になったと告げられた。
……なんでぇ?
「ウチで働きませんか?とお誘いしたのですよぉ。行く当てもなさそうでしたから」
「そ、そうですか」
改めて聞いてもなんにも分からん。
機材を机に運んでいたらしい阿内君の肩を突く。
「阿内さん、あなた残って平気なんです?」
「……いきなりの勧誘だったんで凄く驚きました。でも店主さんが言う通り、行く当てなんてないですから。ほんと、最初はビビりましたけど」
肉屋の足を見てしみじみと呟いてる。
……確かに。
「まあ、あの人の下なら、酷いことにはならないと思いますから。俺の仕事も、危険領域の外での仕入れらしいですし」
「だと良いんですけど……大丈夫なんですか? もしこれが上手くいったら……」
「ほほっ、ご安心ください。ちゃんと考えておりますとも」
「……? なんのことです?」
裂け目が消えるということはつまり、危険領域が消失するってことだ。
夜鳥羽が接続する危険領域は北――阿内君が見つかったらマズい
「阿内さん……頑張ってくださいね?」
「だから何がですか!?」
焦る阿内君の肩を叩いて、そのまま店を後にしようとすると。
「――リズさん」
背後からの声に振り向けば、肉屋が胸に手を当て、こちらを見つめていた。
「わたくしからの最後のご依頼です。……この夜鳥羽を、彼らを解放して下さい」
「……はい。この手で必ず」
「おほほっ。期待しております。……報酬はこちらを」
「……? これ、鍵?」
昔ながらの、少々錆びのある銀色の鍵。
どこの鍵だ?
「きっとお役に立ちますよ」
「ありがとうございます。ただこれ、どこの……っと」
上からクラクションの音が聞こえる。
いけない。記者を待たせすぎた。
「リズさん、急ごう」
「ええ、でも……」
「大丈夫。直に分かりますとも」
んな適当な……まあいい。
上がうるさい。さっさと行かないと。
胸ポーチに放り込みつつ、頭を下げる。
「ではまた」
「ほほっ、ええ。
「あ……」
上手く行けば、肉屋とは会えなくなる。
俺自身どうなるかすら分からないけど、ここまで来られたのは、間違いなくあんたのお陰だった。
「お世話になりました!」
下半身を怪物のそれに入れ替えられ、その後も命懸けで戦い続けた男。
その望みが夜鳥羽の解放だというのなら、喜んでやってみせようじゃないか。
そのためにも……。
「……それで? どうするんだ?」
「まずは駅の偵察からです。勿論単純に乗り込んでも死ぬだけ。だから咲良さんに手伝って貰いますよ」
「……望むところだ」
「流石です。作戦は――」
ラストステージ……夜鳥羽中央駅へと向かうのだった。
***
同時刻。
夜鳥羽南東部、対活性化拠点。
そこでは怒号と轟音が鳴り響いていた。
「――封鎖壁前、ブラー増加中!
『まだだ。引き込め、引き込めよ――撃てぇ!!』
甘木の声に合わせて銃撃音が轟き、ブラーの悲鳴がまだ白く明るい廃墟に響く。
破られた封鎖壁。補強されずに空いた、およそ2m程の穴から飛び出してくるブラーを一斉射撃で打ち砕いた。
「ブラー、
『よし、休め!』
「この壁……凄いな……穴を塞ぐよりよっぽど戦える」
どうせ
なら、穴を作って動きを誘導した方がいい、と。
その結果、
穴を半円状に包むように作られた新たな防壁。
その全てには銃眼――銃撃用の穴が空けられており、狙撃班以外の兵士たちも壁から安全に掃射が行えていた。
1つの壁に兵士3名。計10班による防衛線が敷かれている。
「これ、勝てる……!!」
「ああ、行けるぞ……!!」
腕が何とか通るくらいの窓の向こうで崩れ落ちていくブラーを見て、隊員たちが落ち着きと自信を取り戻し始めていた。
とっても怪しい
家を壊せなんてわけのわからない指示を受けたかと思えば、今度は何もなかった道にこんな壁を一瞬で作ってしまった。
理解不能の連続だったが、ようやく認識が追いつき始めていた。
『■■■■――!!』
「
『よーし、次が来たぞ! 全班、構え!』
轟く咆哮に、甘木からの鋭い指示が飛ぶ。
見れば、
「……っ」
「来た……!!」
現れたのは、恐竜を思わせる長い首と尾を持った白い巨体。
その鋭い爪を見て、息を呑むのは新人隊員・沢渡。
丁度正面側、5班の担当だった彼には、そのブラーの姿がよく見えた。
――あいつ、田上先輩を殺した……。
勿論別固体。
だが、その見た目はあまりにも酷似していた。
――
活性化ではおよそ数百を超すブラーが湧くという。
「――今度こそ……!!」
ガッと立ち上がり銃を構えた。
まだ
訓練はきついし、ブラーは怖いし、活性化なんて恐ろしくて仕方がないけど。
目標ができたんだ。
「活性化を止めて、帯留野を解放して、先輩の墓を立てる!」
そのために、まずはここを生き残る。
まずは目の前の
そう決めた――。
「なんだ、お前も帯留野出身か? 奇遇だな」
その銃身を分厚い籠手に掴まれた。
顔を上げると、そこには銀髪の小柄な男が立っていた。
彼は醬油ラーメン……ではなく上位ハンター・戀鬼一家の瑞希だった。
「へ?」
「丁度いい。合図したら奴に全弾撃ち込め。両隣のお前らも。いいな?」
「あ、はい……」
「
『はいはーい!』
目の前の壁がパカリと開いた。……どうやら扉にもなるらしい。
瑞希は1人で壁を越えて、
「おい
『……全員聞かなかったことにするように。そして4、5、6班! お前らは
「――了解!」
時折現れる
その間に
これが、甘木たちが立てた対活性化の防衛作戦。
――どこがが失敗しても駄目。だから俺は、全力であの人を助ける……!!
金のため――なんて吼えてたが、その代償に命を削る小柄な背中。
見た目も何も全然違うが、その姿が死んでいった田上と被った。
「この街は俺らが守る……!!」
「「おお……!!」」
周りの兵士たちも呼応した咆哮が上がる中。
「いいねえ!! やるぞ、レン!」
『■■■■――!!』
籠手を発光させた瑞希と