崩壊世界でルートシューター   作:穴熊拾弐

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第58話 Check Out①

 

 

 時刻は14時を回った。

 活性化予定時刻まで残り7時間……そう考えるとあんまり時間がない。ついでに金もない。

 なんなら予定時刻すら当てにならない。

 ないないだらけの危険状態に突入中である。

 

 色々とどたばたしてる間に、事態はどんどん悪化中。

 通信で聞く予言者(シアー)たち南東の対活性化基地には大量のブラーが押し寄せて行列ができているらしい。

 

 撃って殴って、その間に補強した壁は押し返してきたブラーにぶっ壊されかけ……その繰り返しなんだと。

 もし裂け目から大型(テラ)が抜け出れば、その巨体に合わせてブラーの『行動範囲』が広がる。

 つまりその瞬間から戦闘が開始される。

 どちらかが滅ぶまで続く、最悪の総力戦が。

 

 そうならないためにも、俺は手に入れた神造武器での裂け目爆破作戦を決行する……のであるが。

 

「それで、神晶ですか」

「そ。それがあなたのお望みの『神様関連』の代物よ」

 

 神晶。

 透き通る美しい巨大結晶で、全世界各地の地面に突き立つようにして生(・)え(・)て(・)い(・)る(・)それが、この世界における神様の『神体』らしい。

 ……そんなものが何故駅に?

 

「順序が逆ね」

 

 肉屋へと車をかっ飛ばしながら、記者(ライター)が俺の呟きを腕を振って否定した。

 俺の無知にもすっかり慣れた彼女だが、それでもやっぱりちょっと呆れつつ歴史講義をしてくれる。

 

「元々、夜鳥羽(ここ)は国内でも屈指の穀倉地帯だったの。飢饉を――この国の夜を終わらせる波止場。そこから転じて、夜鳥羽となったのよ」

「ほうほう。お詳しいですね」

「……歴史の授業で習う話だけどね。今も周辺では農業が盛んよ。夜鳥羽の裂け目の活動が弱かったのは、それが原因だともいわれていたっけ」

「そうなんですね」

 

 この国の歴史なんて知らないもので。

 ついでに、神様についても。

 

 この世界に連れてこられて1月半。

 その間、この見知らぬ世界の情報を様々に拾い集めたわけだが、中々得られなかった情報がある。

 それがこの世界の神様に関する情報だ。

 

 ――どうやらこの世界、神様は実(・)在(・)するらしい。

 

 いや、俺や予言者(シアー)はそいつに転生させられたし、なんならさっき直に話したばっかりなんだけど、まさか一般人にまで広まってるとは思わない。

 この世界では全世界の人々が同一の神々を信仰している。

 過去に降臨した事例もあるんだとか。

 

「それで、あそこにいる神様はどなた?」

「豊穣よ。正確には、『分け身』だけど」

 

『分け身』……聞き覚えがないが、多分『分霊』的なあれだろう。

 豊穣なんて神様がこの地方都市に根差してるわけもない。世界各地に支社が幾つもあって、その内の一部がここにあるんだろう。

 

 ちなみに神に個別の名前はない。

 だって、この世界に他(・)に(・)豊(・)穣(・)の(・)神(・)は(・)い(・)な(・)い(・)。

 全世界共通の神様なら名前は要らない。権能の名前だけで良いわけだ。

 

 そして今、その真(・)上(・)に裂け目が出現している。

 これって……つまりそういうことか。

 

 ――そりゃ必死になるわけだよ、神様モドキ……。

 

 人間じゃなくて自分の神体そのものが狙われてるってんなら、焦るのも良く分かる。

 

「つまり代理戦争ってやつ……」

「何?」

「いえ、こちらの話です」

 

 そしてだからこそ、俺の神造武器の効果も期待できるってもんだ。

 ……なんて考えてたら肉屋に到着。

 

「咲良さんを連れてきます。鷹村さんは待っててください」

「急いでよ!」

 

 飛び込むように地下2階の工房へと入ると、入口付近の作業テーブルにいた肉屋と咲良さんが顔を上げた。

 

「おやリズさん。できましたかな?」

「ええ、ばっちり。最高でした! 店主さんのおかげです」

 

 それぞれ別の場所から集めた材料だが、間違いなく肉屋の色式機構のおかげで爆弾ができた。

 こいつがいなかったらとっくに残金尽きて死んでただろうし、マジの恩人である。

 

「おほほっ、それはなによりでございます。では、いよいよですな?」

「ええ。裂け目をぶっ壊しに行く……んですけど」

「「……?」」

 

 神晶なんて物がポップしてきたせいで若干混乱中です。

 ……なんて言えるわけもない。

 

「ともかく、まずは駅に行って状況調査ですね。咲良さんにはその手伝いをしていただきたいのですが……」

「分かった。行こう。権堂さん、お世話になりました」

 

 そう即答して、彼女は立ち上がった。

 

「いえいえ。お話できて嬉しかったですよ。続きは、またいずれ」

「はい。お願いします」

 

 スッキリした顔で咲良さんはそう言った。

 目的は達成できたのかな。なら良かったが……あれ?

 

「そういえば阿内さんは? 彼、逃げられました?」

「ん? 彼なら……」

「呼びました?」

 

 ごうんごうん唸る機械の後からハゲ頭の阿内君が顔を出した。

 

「……なんでまだいるんですか?」

「それが……」

 

 困惑した様子の咲良さんから、彼が肉屋に誘われ、ここの店員になったと告げられた。

 ……なんでぇ?

 

「ウチで働きませんか?とお誘いしたのですよぉ。行く当てもなさそうでしたから」

「そ、そうですか」

 

 改めて聞いてもなんにも分からん。

 機材を机に運んでいたらしい阿内君の肩を突く。

 

「阿内さん、あなた残って平気なんです?」

「……いきなりの勧誘だったんで凄く驚きました。でも店主さんが言う通り、行く当てなんてないですから。ほんと、最初はビビりましたけど」

 

 肉屋の足を見てしみじみと呟いてる。

 ……確かに。

 

「まあ、あの人の下なら、酷いことにはならないと思いますから。俺の仕事も、危険領域の外での仕入れらしいですし」

「だと良いんですけど……大丈夫なんですか? もしこれが上手くいったら……」

「ほほっ、ご安心ください。ちゃんと考えておりますとも」

「……? なんのことです?」

 

 裂け目が消えるということはつまり、危険領域が消失するってことだ。

 夜鳥羽が接続する危険領域は北――阿内君が見つかったらマズい残留者(レジピポ)たちが張ってる場所な気がするけれど。ま、俺が気にすることじゃないな。

 

「阿内さん……頑張ってくださいね?」

「だから何がですか!?」

 

 焦る阿内君の肩を叩いて、そのまま店を後にしようとすると。

 

「――リズさん」

 

 背後からの声に振り向けば、肉屋が胸に手を当て、こちらを見つめていた。

 

「わたくしからの最後のご依頼です。……この夜鳥羽を、彼らを解放して下さい」

「……はい。この手で必ず」

「おほほっ。期待しております。……報酬はこちらを」

「……? これ、鍵?」

 

 昔ながらの、少々錆びのある銀色の鍵。

 どこの鍵だ?

 

「きっとお役に立ちますよ」

「ありがとうございます。ただこれ、どこの……っと」

 

 上からクラクションの音が聞こえる。

 いけない。記者を待たせすぎた。

 

「リズさん、急ごう」

「ええ、でも……」

「大丈夫。直に分かりますとも」

 

 んな適当な……まあいい。

 上がうるさい。さっさと行かないと。

 胸ポーチに放り込みつつ、頭を下げる。

 

「ではまた」

「ほほっ、ええ。ま(・)た(・)い(・)つ(・)か(・)」

「あ……」

 

 上手く行けば、肉屋とは会えなくなる。

 俺自身どうなるかすら分からないけど、ここまで来られたのは、間違いなくあんたのお陰だった。

 

「お世話になりました!」

 

 下半身を怪物のそれに入れ替えられ、その後も命懸けで戦い続けた男。

 その望みが夜鳥羽の解放だというのなら、喜んでやってみせようじゃないか。

 そのためにも……。

 

「……それで? どうするんだ?」

「まずは駅の偵察からです。勿論単純に乗り込んでも死ぬだけ。だから咲良さんに手伝って貰いますよ」

「……望むところだ」

「流石です。作戦は――」

 

 ラストステージ……夜鳥羽中央駅へと向かうのだった。

 

 

***

 

 

 同時刻。

 夜鳥羽南東部、対活性化拠点。

 

 そこでは怒号と轟音が鳴り響いていた。

 

「――封鎖壁前、ブラー増加中! 雑兵(ノーマル)が3体……越えてきます!」

『まだだ。引き込め、引き込めよ――撃てぇ!!』

 

 甘木の声に合わせて銃撃音が轟き、ブラーの悲鳴がまだ白く明るい廃墟に響く。

 破られた封鎖壁。補強されずに空いた、およそ2m程の穴から飛び出してくるブラーを一斉射撃で打ち砕いた。

 

「ブラー、死亡(ダウン)」

『よし、休め!』

「この壁……凄いな……穴を塞ぐよりよっぽど戦える」

 

 彼女(シアー)の建築能力で壁を補強する……という案も出ていたが、それは鵲によって却下された。

 どうせ大型(テラ)が動く度に破壊される。

 なら、穴を作って動きを誘導した方がいい、と。

 

 その結果、予言者(シアー)による壁生成は穴から続く道の先で行われた。

 穴を半円状に包むように作られた新たな防壁。

 その全てには銃眼――銃撃用の穴が空けられており、狙撃班以外の兵士たちも壁から安全に掃射が行えていた。

 

 1つの壁に兵士3名。計10班による防衛線が敷かれている。

 

「これ、勝てる……!!」

「ああ、行けるぞ……!!」

 

 腕が何とか通るくらいの窓の向こうで崩れ落ちていくブラーを見て、隊員たちが落ち着きと自信を取り戻し始めていた。

 とっても怪しい予言者(シアー)という仲間。

 家を壊せなんてわけのわからない指示を受けたかと思えば、今度は何もなかった道にこんな壁を一瞬で作ってしまった。

 

 理解不能の連続だったが、ようやく認識が追いつき始めていた。

 

『■■■■――!!』

 

「特殊個体(ユニーク)1体、壁越えます!」

『よーし、次が来たぞ! 全班、構え!』

 

 轟く咆哮に、甘木からの鋭い指示が飛ぶ。

 見れば、雑兵(ノーマル)の死骸を踏みつぶして特殊個体(ユニーク)が現れていた。

 

「……っ」

「来た……!!」

 

 現れたのは、恐竜を思わせる長い首と尾を持った白い巨体。

 その鋭い爪を見て、息を呑むのは新人隊員・沢渡。

 丁度正面側、5班の担当だった彼には、そのブラーの姿がよく見えた。

 

 ――あいつ、田上先輩を殺した……。

 

 勿論別固体。

 だが、その見た目はあまりにも酷似していた。

 

 ――特殊個体(ユニーク)も同じ個体が湧くのか……!!

 

 活性化ではおよそ数百を超すブラーが湧くという。

 特殊個体(ユニーク)の数もきっと多い。それが壁を壊そうと押し寄せて来る。

 

「――今度こそ……!!」

 

 ガッと立ち上がり銃を構えた。

 まだ漂白部隊(SBEU)に入って少ししか立ってないけれど。

 訓練はきついし、ブラーは怖いし、活性化なんて恐ろしくて仕方がないけど。

 目標ができたんだ。

 

「活性化を止めて、帯留野を解放して、先輩の墓を立てる!」

 

 そのために、まずはここを生き残る。

 まずは目の前の特殊個体(ユニーク)から。

 そう決めた――。

 

「なんだ、お前も帯留野出身か? 奇遇だな」

 

 その銃身を分厚い籠手に掴まれた。

 顔を上げると、そこには銀髪の小柄な男が立っていた。

 彼は醬油ラーメン……ではなく上位ハンター・戀鬼一家の瑞希だった。

 

「へ?」

「丁度いい。合図したら奴に全弾撃ち込め。両隣のお前らも。いいな?」

「あ、はい……」

「予言者(シアー)! 開けろ!」

『はいはーい!』

 

 目の前の壁がパカリと開いた。……どうやら扉にもなるらしい。

 瑞希は1人で壁を越えて、特殊個体(ユニーク)と対峙する。

 

「おい予言者(シアー)、甘木! 約束忘れんなよ! 1体50万!」

『……全員聞かなかったことにするように。そして4、5、6班! お前らは特殊個体(ユニーク)戦闘の援護! 残りは合図あるまで入口の雑兵(ノーマル)に集中すること!』

「――了解!」

 

 予言者(シアー)の建てた臨時封鎖壁を囲む10班が掃射で雑兵(ノーマル)に対処。

 時折現れる特殊個体(ユニーク)は戀鬼一家及び甘木たちベテラン兵が対応。

 

 その間に予言者(シアー)と鵲たち建造チームが、大型(テラ)用の防衛設備の設置を急ぐ。

 これが、甘木たちが立てた対活性化の防衛作戦。

 

 ――どこがが失敗しても駄目。だから俺は、全力であの人を助ける……!!

 

 金のため――なんて吼えてたが、その代償に命を削る小柄な背中。

 見た目も何も全然違うが、その姿が死んでいった田上と被った。

 

「この街は俺らが守る……!!」

「「おお……!!」」

 

 周りの兵士たちも呼応した咆哮が上がる中。

 

「いいねえ!! やるぞ、レン!」

『■■■■――!!』

 

 籠手を発光させた瑞希と特殊個体(ユニーク)の戦闘が開始された。

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