それからしばらく、じりじりと精神を削っていくスニーキングを済ませて。
ショッピングエリア3階の欄干にて、十神咲良は最後の設置目標となるカメラのセッティングを終えた。
――ふぅ、これでよし。
電源を入れて駆動するのを確かめる。
外部バッテリー付きで短距離なら通信が可能なこのカメラで、駅構内の監視映像を手に入れる。
それがリズと
「設置完了。どうだ?」
『――ん、オッケー! 全部見えてるよ』
映像は立体駐車場にいる
単独であの場所にいるのは恐ろしいだろうに、彼女は勇敢に作業を続けてくれている。
「――リズさん、設置が済んだぞ」
腕時計が示す時刻は15時少し前。
残りはもう6時間。
ここからカメラの解析と作戦立案、そして本番……と考えると、あまり時間は残されていない。
そのためにもまずはさっさと行動せねば……なのだけれど。
「……うわぁ……」
眼下の光景に、思わず顔を歪めて声を漏らしてしまう。
それほどまでに彼女――リズの戦闘は凄惨を極めていたのだった。
***
その眼下、夜鳥羽中央駅の構内1階にて。
『――リズさん、設置が済んだぞ』
「……ああ、やっとですか」
待ち望んだ通信に自然と呟いた声は、血で湿ってくぐもっていた。
腹に穴が空いたんじゃないかって激痛に身悶える俺は、大量に生まれたブラーの血の海に腰かけていた。
『……うわぁ……』
咲良さんも思わず声を漏らす惨状が広がってることだろう。
仕方ないじゃん、綺麗に戦うなんて余裕はないんだから。
戦闘開始から20分くらいか?
銃器の消音器を外し、手榴弾まで使って派手に音を立てて駅中のブラーの注目を集めた結果がこれだ。
時間稼ぎが目的とはいえ、ちょっとやりすぎた……。
まず当然の如く襲いかかってきたブラーの
そいつらを逃げ回りながら撃ち殺し爆破して、なんだ案外行けるじゃんと思った矢先。
『ようウチの若いの可愛がってくれましたな』とばかりにやってきた巨腕&巨脚の阿吽コンビの襲撃にあい――巨腕の方の一撃を受けて吹き飛んだところであった。
――ちっ、やっぱり馬鹿強いな、こいつら……。
『無事か?』
「ええ……っ、トラックの追突みたいな威力です……」
そんな経験ないけど、多分そんくらいだろう。
なんて戯言はともかく。
血塗れの身体を起き上がらせて、震える手で銃を構える。
「咲良さんは脱出を」
『わかった。また後で』
「はい」
今までなら心配の声が飛んできただろうが、もうそういう余計なやり取りはない。
彼女もすっかり俺のシステムに慣れてくれた。
……慣れさせて良いのかはもう知らん。もう隠してる余裕はないし。
時間がないからできる最善手を打ち続けるしかない。
「よーし! いっちょやるか!」
通信も全て切って、胸ポーチに必要な物を仕舞う。
弾も手榴弾もほとんど尽きた。
後は
『『■■■■――!!』』
姿を見せた俺に、阿吽コンビが咆哮を上げる。
奴らの能力は至極単純、見た目の通り。
馬鹿速い脚力とバカ強い腕力。それがとんでもない装甲を纏って突っ込んでくる。
前衛を張って突っ込む巨腕。
それを喰らっても駄目だし、避けたら――。
『――――!!』
「ぅおお……!?」
――もう1体の超スピード突進がやって来る。
肉塊と化した案内板が遠く吹き飛ぶのを見ながら、俺は背を向けた巨脚の背に
だが鈍い音をたてて、その全てが弾かれた。
「硬っ……これで駄目なの!? 弾か、弾なのか!?」
『■■■■――!!』
怒りの言葉をかき消すように今度は巨腕の振り下ろしが飛んできた。
ずごん、と凄まじい揺れに駅が凹み、岩片と肉片の散弾が周囲に弾け飛んだ。
その一片が俺の背に炸裂。
「ぐへっ……!!」
残念ながら俺の貧弱アーマーでは衝撃を殺し切れず、足を止めたその瞬間に、今度は巨脚の突進をもろに喰らって肉壁に叩きつけられた。
そのままずり落ちる……ことはなく、巨腕に掴み取られてしまった。
「なあ、ちょっとは手加減……」
身に着けたアーマーごと
細いとはいえ俺の身体を掴んで軽々持ち上げるその馬鹿力は見た目通りの重戦車。
……折角武器アップグレードしたのに、もう効かないのかよ……。
装甲……やっぱ弾かな……後は重火器?
レンにでも聞いてみるかぁ……。
まあいい。今回はお前らの勝ちだ。
次は覚えてろよ。
「……またすぐに戻って来るからな。覚えと――」
ごきり、と音が鳴って。
俺の視界は何度目かの消失をするのだった。
探索成果:死亡
収入:―
支出:¥ 50,000 【蘇生費用】
¥ 250,000 【突撃銃補充】
¥ 30,000 【拳銃補充】
¥ 40,000 【手榴弾補充】
¥ 12,400 【弾薬補充】
残額:¥770,250
進行中任務
1:夜鳥羽の裂け目の消滅
2:拠点の修復
3:衣類の回収、引き渡し
4:裂け目の爆破
5:α部隊に関する情報の取得
6:『神晶』の破壊
***
もう何十回目かの再生。
べちゃりと蛇神に吐き出されて、塔屋の床に落下する。
……あの神様、なんの権能なんだろう。
てか俺の『システム』って、神様の力の何をどうしたら出来上がるの?
創造? 再生とか? ……創造はないか。神様のトップだもんな。
なんて、ボーっとした意識は直ぐにいつも通りになる。
「……よし!」
咲良さんたちを置いてきてるから、急いで動かないと。
素早く地下に駆け、飴を放り込み、装備を身に着け、水と猫缶を三毛の寝床前にスライドさせる。
『――――?』
「お前、そろそろ逃げろよ!」
拠点を出て、
そうしてたどり着くのは立体駐車場――ではなく、
『誘蛾灯作戦』の前に咲良さんと調べたあそこだ。
ここを調べるのが俺の仕事。『駅攻略の作戦のための作戦』その2である。
咲良さんが内部の探索してカメラを設置、
そのために俺が囮となって死んだわけだが……解析完了までにはちょっと時間があるので、咲良さんには休んでもらいつつ、俺がこの地下駐輪場に向かうことに決めた。
――この作戦で正解だった。やっぱり武器か弾薬が要る。
神造武器ができたはいいが、今の俺らに足りないのは圧倒的に火力である。
あの阿吽コンビの硬い殻を突破し、押し寄せる
弾か重火器。威力と殲滅力のある兵器が要る。
そのために、俺らが選んだのが地下駐輪場だった。
何故か? その切っ掛けは、車での移動中から続けていた作戦会議中。
俺が2人に訊ねたのだ。火力のあてはないか、と。
『
『うーん……』
3人仲良く頭を悩ませる中、咲良さんが控えめに手を挙げた。
『一応なのだが』
『はい咲良さん!』
『なんだそれは……まあいい。特捜の武器庫がある。私はそこで武器や爆弾を手に入れたんだが……流石に重火器の類はなかったな』
『ほうほう』
特捜の武器庫……中央から肝いりで来た奴らだ。その装備は最新鋭だろう。
いいねいいね、気になるじゃない。
『場所はどこです?』
『封鎖壁の外だ。行くには少々時間がかかるから、できれば他を当たった方がいい』
むう、外か……。
それは確かに、今からだと駄目だった時にリカバーが効かない。
『ふむ。では、それはもしもの時の最終手段ってことで。というか、甘木さんたちに教えて上げて下さい』
『……そうだな。伝えておこう』
『あ、じゃあ私の方でやっとくわ』
『お願いします。では、他を探しましょう。できれば危険領域内部だと嬉しいですが、そんな都合のいい場所ありますかね?』
『……一応、なくはない』
再び咲良さんが控えめに手を挙げた。
『はいまた咲良さん!』
『さっきからそれはなんなんだ……? まあいい。権堂さんが言っていただろう? あの地下駐輪場が彼らα部隊の拠点だったと』
『ああ、確かに言ってましたね』
でもあそこは俺ら2人で調べた場所でもある。
そんな重火器なかった筈だが。
『あの時、基地の全てを探索できたわけではないだろう? 多分だが、彼らには別の場所が割り当てられていたんじゃないかな? 下の階層とか、他の部屋とか』
『なるほど、別の部屋……ん?』
胸ポーチから取り出したのは、肉屋から貰った鍵。
まさか、これ?
『直ぐに分かると言ってましたが……そういうことですか』
情報を咲良さんに与えておいて、鍵を俺に渡す。
そしたら勝手に辿り着く……と。いや、言えよ。なんでんな回りくどい事を……。
てかゲームでも大体説明ないんだよな、こういうの……。地図くらいくれっての。
『では店主さんの言う通り、調べてみましょうか。そうしたら手順は――』
という流れで、この地下駐輪場へと来ることになったわけだ。
コンクリートで固められた、広大な地下空間に足音が響く。
駅から離れてるここには当然ブラーはいないから、時間優先で小走りでの探索中……だが。
「……確かに、こうしてみると扉が結構あるな」
前回は目立つ天幕ばっかり調べてたけど、管理者用の小屋だったり、コンクリの壁にある扉だったりとドア自体は結構ある。
この中のどれかが開くってことか。
そういや、色々探索したけど、鍵の類は全然なかったよなー。
ゲームだと当たり前に見つけてるけど、鍵とか小っちゃくて見つかんないよ。
てか、最悪よじ登れるし、
流石にコンクリに埋まった金属扉は鍵がないとどうしようもないけど。
……とりあえず手当たり次第確かめてみるか。
「当たりはどこかなーっと」
ちゃりちゃりと鍵を回転させながら歩いて、鍵穴に差し込んでみて……しばらく。
今まで入らなかった鍵が、するっと綺麗に差し込まれた扉があった。
「……!!」
これだ。南西側の入口に近い、『関係者以外立ち入り禁止』の文字が書かれた金属扉。
途端に増す緊張感。
ゆっくりと鍵を回すと、ロックが解除された。
この先が、怪人達の拠点。
……鍵が閉まってたんだから、中にはいないよな? 信じるぞ?
念のため
――階段?
扉の先は、暗く沈んだ階段になっていた。
……更に下がある?
「駐輪場の地下ってなんだ……?」
非常口なのか、電源でもあるのか。
ともかくまだ先らしい。真っ暗な中を、ウェポンライトで照らしながら進んでいく。
足音がやけに響くのが恐ろしい……が、のんびりしている暇もない。
――ビビらず、一気に……!!
階段の先にある扉の先に意を決して飛び込む。そこには……。
「ぶ、武器庫だ……!! 本当にあった……!!」
思わず声を上げるほどの光景が広がっていた。
鉄条網の柵で仕切られた室内にはあるわあるわ、武器に弾薬、爆弾まで!
柵の鍵は……あるのとないのがあるな。
鍵は上か? 探すのも面倒だが……。
「グレポン、狙撃銃に……ランチャーもあるわ……」
開いた柵だけでもそれだけの武器があった。
いいねいいね! これならあの阿吽コンビも、他のブラーたちも好きに殲滅でき――。
『コッ――』
「っ……!?」
いつの間にか、真横にデカい何かがいる。
恐る恐る真右を見れば、そこには想像通り、白瀬軍曹が立っていた。
『コッ――』
――なんでここにいんだよ……!!
騙された……!? てか鍵かかってただろ……!!
銃口を咄嗟に向けようとして、止まる。
何故だか奴に動く気配はなかった。
「あ……?」
『コッ――』
何度目かのクリック音を鳴らし、間違いなく俺のことを認識している筈の白瀬は、しかし襲い掛かってはこなかった。
「んん……?」
奴はこちらを一瞥しただけで、部屋の奥へと消えていった。
なんだ……?
よく見れば、奥にも別の部屋が繋がっている。
――戦う気がない? 俺に気づいてない訳はないよな。
だが今のは侵入者に向かってきたっていうより、誰が来たか顔を見に来たような、そんな気やすさだった。
現にひたひたと歩く背中は無防備。
「……」
ホントはここで帰るべきだ。
目的の武器は手に入ったし、この先にもし奴のお仲間が待っていたら大変面倒なことになる。
ただ――気になる。怪人たちの秘密基地には、一体どんな代物が眠ってるんだ?
幸いまだ分析完了までは時間がかかる筈。
その隙に……ちょっと見るだけ……な?
「ちょっとだけ、ちょっとだけ……」
ということで、白瀬の後を追う。
扉を抜けた奴に続こうとしたら、ぬっと手が伸びてきた。
『コッ――』
「え……?」
ぐい、と俺の
……ああ、置いていけって?
ここから先は火器厳禁……ってか?
「わかったよ……」
ここで襲い掛かられても堪らない。
武器と鞄を下ろして、俺は奴に続いて、部屋へと入っていった。