崩壊世界でルートシューター   作:穴熊拾弐

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第63話 Suture①

 

 

 夜鳥羽中央駅、その僅か北にある駐車場にて。

 俺たちは最後の作戦――『裂け目縫合作戦』の会議を行っていた。

 

「――まず最終確認。あんたの目的は裂け目じゃなくて『神晶』なのね? ホントにあれをぶっ壊すのね?」

「はい。そこに爆弾を設置することが目標です」

 

 地下駐輪場から持ってきた銃器を点検しながらそう返す。

 蛇神様からのタスク。それが神様の巣――『神晶』の破壊だ。

 この重たいロケランとかグレポンとかで壊せたら話は早いんだけど、多分そうもいかないんだろう。

 触れられる距離まで近づいて、この神造爆弾で吹き飛ばす……これが俺の仕事だ。

 

「『神晶』を壊す……正直、気が引けるな」

「気持ちは分かります。私も神社にロケラン(これ)を撃ち込むとか言われたら嫌ですもん」

「「じんじゃ?」」

 

 ……あ。こっちにはないんだった。

 からころと飴を舐めて気まずい間を埋めつつ、ニッコリと笑みを浮かべる。

 

「こっちの話です。いい画(え)が撮れると思いますよ?」

「そりゃあね! そんな罰当たりやる奴なんて普通いないわよ」

「ふふ、なら期待しててください」

 

 なんて誤魔化しつつ、ベストに手榴弾、弾倉、ロケランの弾を差し込み終えた。

 軽く跳びはねながら調子を確かめる。

 ……よし、重いが動ける。いけそうだ。

 

「それで、何か使えそうなものはありました?」

「ああ。これを見ろ」

 

 青い顔をする記者を余所に、咲良さんが広げていた駅の構内図を指し示した。

 

「奴らの行動範囲は駅全域。さっきリズさんがやってみせたみたいに、半(・)々(・)球(・)で暴れれば『防衛部隊』をおびき寄せられる」

「ふむふむ……『防衛部隊』?」

 

 駅にいたブラーのこと? なんか名前がついてる。

 

「ああ。裂け目から生み出された雑兵(ノーマル)が続々と南の封鎖壁へと向かっているだろう? 残るブラーと移動するブラーが混在しててややこしいから名前をつけたんだ」

「あー。なるほど」

 

 あの阿吽コンビがその親玉ってわけだな。理解した。

 俺の犠牲からできた作戦……いいね。握りつぶされた甲斐があるってもんだ。

 

「具体的にはどうやるんです?」

「ここ、2階の空中回廊に崩れかけた場所がある。ここを爆破して盛大に音を鳴らせば、奴らを誘き出せる筈だ。そこに、リズさんの集めてくれた重火器を叩き込む」

 

 そして、俺が別ルートで侵入して爆破を目指すと。

 単純明快、良い作戦だ。

 全員が命がけの、決死の作戦でもあるけど……それは今更か。

 

「ちなみに、お二人とも重火器の扱いは?」

「私は問題ない。訓練済みだ」

「鷹村さんは……」

「あるわけないでしょ!? 触るのも初めてよ!」

「……ですよね」

 

 裂け目に入ったのもこれが初めてだもんな。

 ただ、最低限の自衛はしてもらわないと。

 

「簡単ですから覚えて下さい。はいこれ、説明書。すぐ覚えて、時間がない」

「んな無茶な……というか、この数で足りるの?」

「……? 足りませんか?」

 

 俺が持ってきた重火器は10丁。それがバイクで運べる限界だった。

 防衛部隊は10数体程度らしいので、それくらいなら問題ないと思うのだけど。

 

「戦いが始まれば、封鎖壁に向かってる雑兵(ノーマル)たちも反転して戻ってくるはずよ」

「ああ、そっか。忘れてました」

 

 パチン、と指を鳴らす。

 移動してる連中まで含めたら敵の数は倍以上。それを2人では、確かにキツイかも。

 

「でもご安心ください。その問題は解決済みです」

「「……は?」」

「α部隊の拠点で見つけたのは、重火器だけじゃないんです。……とびきりの援軍、手に入れましたよ」

「援軍って……」

「でもそのせいで時間がないんです。多分そろそろ……ああ、駄目だ」

 

 駅の方から轟音が鳴り響いた。

 多分、降りていたシャッターか何かを蹴り壊したのだろう。

 

「「何!?」」

「援軍です。ただ、ちょっと制御が効かなくて」

「……誰?」

「白瀬元軍曹です。彼に頼んだんですよ。駅のブラーを殲滅しろって」

「は!? あの!? ……なんで!?」

「まあ、事情はいいじゃないですか。とびきりの援軍でしょう?」

「「……確かに」」

 

 地響きが駅を揺らした。

 大型(テラ)と怪人が大暴れしてるらしい。

 そして時刻はそろそろ18時。

 

「さ、私たちも急ぎましょう。ちょーっと作戦のアレンジは必要でしょうが、最後の作戦を始めますよ!」

 

 重火器を背負って、俺は駅に向かって飛び出すのだった。

 

 

***

 

 

 一方、夜鳥羽南東部。

 封鎖壁周辺の前線拠点では変わらずブラーとの戦闘が継続していた。

 

「――大型(テラ)の活動、依然止まりません! 行動範囲更に拡大します」

「少しはのんびりしてくれ……狙撃班(レン)、状況は?」

『見えてる範囲は異常なし。特殊個体もいないよ』

「……ボスと違って手下は大人しいのが救いか?」

 

 手にした端末に映し出される地図の光点――ブラーの数は減ってきている。

 部隊員たちもこの特殊な戦闘に慣れ、迫りくるブラーの処理速度は上がりつつあった。

 ただ依然として駅の方から多くのブラーが迫ってきてるのだが……。

 

「……? なんだ? 増援が止まった?」

 

 ひっきりなしに現れていたブラーの列が途絶えた様に見えた。

 


 ――PEN:なんか動き変わったね


 

 画面上に現れたペンギンが踊りながらそう告げる。

 隠れてからはこのようにチャットがくるようになった。

 ……PENってペンギンか?

 呑気なその動きに溜め息を吐き出しながら、甘木が即座にコメントを打ち込む。

 


 ――AMA:この動きに見覚えは?

 ――PEN:ない! てかそれはこっちの台詞!


 

「……そりゃそうだ」

 

 苦笑しながら背後を見る。

 既に甘木たち指揮・サポートチームも路上におり、移動用のトラック周辺に簡易テーブルと機材を置いて観測班や連絡員が作業をしている。

 その内の1名。やけに深く帽子を被った女性作業員。

 いつの間にか合流していたらしい彼女が変装した予言者(シアー)だろう。

 

 この騒動の中心人物と言っても過言ではない彼女だが、今起きていることを予言してはくれない。

 彼女の能力はどうやら万能ではなく、故にまだまだ油断はできない。

 ……出来ることをやる。今、甘木達にできるのは変わらずそれだけなのだ。

 ふぅ、と息を吐き、甘木は次なる一手を打ち込む。

 


 ――AMA:一度門を閉じる。奴らの動きを見張っててくれ。

 ――PEN:了解ー!


 

 ぐっと指を立てたペンギンに呆れつつ、視線を目の前の封鎖壁に移した。

 元の封鎖壁に開いた穴には、予言者(シアー)の能力による壁生成能力で作成した鉄の門が嵌めこまれている。

 部隊員入れ替えの際に閉めて安全に交代を行うための用途で、開閉は予言者(シアー)ならば遠隔。甘木達でも手動で作業が可能は代物ときた。

 

 あんなものを数秒で生み出してしまうのだから恐ろしい。

 ……何度見てもおかしな光景だが、残念ながら現実である。

 

 ――交代まで時間はあるが……仕方ない。

 

 救援まであと3日、既に消耗度は激しい。なにより恐ろしいのはこれから夜が来るということ。

 光を気にしない奴らはこちらに不寝の戦いを強いて来る。

 そんな中の不測の事態には、慎重に対応して損はない。

 息を吐き出しつつ班員たちへ指示を出そうとしたその瞬間、通信が入った。

 

『甘木隊長。南西から車両が4台突っ込んできます。軍用、恐らく例の増援かと思われます』

「……もう来たのか」

 

 他都市からの救援部隊。

 想像以上に素早い到着はありがたいが、噂に聞く猟犬部隊(ハウンド)は戦力こそあれどマトモな交流ができるかはかなり怪しい。

 

 ――オマケに特捜を排除してる上に、ここには予言者がいる。……突っ込まれたら危ないことだらけ……。

 

 どうにか上手く誤魔化してやらねばならない。

 気を引き締めた甘木の前に、けたたましい騒音とともにトラックが4台滑り込んできた。

 そこから降りてきたのはコートを肩に羽織った女。恐らく20代。

 ボサボサの黒髪を1つに纏め、そばかすの顔には思わず目を引く十字の古傷が頬から唇にかけて走っている。

 

 だがそれらを欠片も気にしていない様に、鋭く重い意志を持ってこちらを見上げた。

 

「あなたが甘木支部隊長ですね。漂白部隊(SBEU)中央所属、β部隊(チーム)の隊長の阿久津(あくつ)です」

「夜鳥羽支部の甘木です。救援感謝します」

 

 差し出された左手を握る。

 想像以上に強い握力に驚きながらも、ふわりと揺れたコートから見えた阿久津の体躯にほんの一瞬眉を顰めた。

 

 ――右腕がない……?

 

 肩から先の腕がなく、軍服自体も袖が切り落とされているようだ。

 肩がけのコートは隠すためなのだろう。

 

「たまたま近くにいましたので。早速ですが、最新の戦況と周辺の地形図をいただけますか?」

「勿論です。拠点に使える場所も用意してます。……眞田、案内を頼む!」

「デン、よろしく」

 

 観測チームのリーダーを呼んで引き継ぎを任せる。

 阿久津の方も副長らしいモヒカンの巨漢が対応したので、甘木は阿久津を連れて現場の案内を行う。

 

「あそこが今の最前線。新設した半円の防衛壁が奴らの行動限界です」

「概要は伺ってましたがこれは……何とも奇妙な光景ですね」

 

 阿久津が道の先を見つめて呟く。

 

「急造の壁で道を塞いで、ブラーの出入りをコントロール……なるほど賢い。この壁はあなた方が?」

「ええ、はい。良い技術屋がいましてね。もしまた夜鳥羽で活性化が起きた時に備えて準備をしていたんです」

「重ねて優秀。まるで知ってたよう」

 

 硬く冷たい言葉に思わず息を呑みかけるが、何とか言葉を返す。

 

「……予言があったでしょう?」

「ああ、予言者(シアー)。これで4度目、素晴らしい的中率。そんな特異な能力があるのか、我らの知らない法則があるのか」

 

 周囲に素早く視線を振りながらなにやら呟いていた阿久津がぴたりと足を止める。

 

「して、甘木支部隊長殿。こちらに特別捜査班が来ていると伺っておりますが?」

「ああ……あちらの2階に。負傷を受けて治療中です。お会いになりますか?」

「いえ。後で回収班が来るそうなのでそちらに任せます。……ふむ」

 

 阿久津の視線が、近くのテーブルで作業をしている事務員に向けられた。

 

「あそこにいるのは?」

「観測員です。上の狙撃チームや各ゲートからの観測データを集約してます」

「……そうですか」

「え? ちょっと……」

 

 微かに頷くと、つかつかとPCを操作する帽子の女に近づいていく。

 目の前に影が下りたことで、ようやく女も気が付いて顔を上げた。

 

「……あの?」

「ちょっと失礼」

「……っ!!」

 

 こちらが静止する間もなく、阿久津は帽子を勢いよく剥ぎ取った。

 そこから現れたのは――茶(・)色(・)の(・)髪(・)。

 

「な、なんでしょう……」

 

 驚いて目を瞬かせているのは、観測班の一員である支部員であった。

 彼女は交代要員で、他に女性の姿はない。

 

「……お名前は?」

「た、高橋ですけど……」

「そうですか。人(・)違(・)い(・)で(・)し(・)た(・)」

 

 帽子をぽんと頭に戻して、阿久津はこちらへと戻ってきた。

 

「あの、阿久津さん……?」

「てっきり、予言者(シアー)が紛れ込んでると思ったんですが……見当違いでした」

「……はあ」

「我々の任務はこの夜鳥羽の救援、そしてその完了後に予言者(シアー)と彼(・)女(・)に従うという亡霊の確保です」

「……!!」

「なのでこちらに関しても情報提供をお願いしますよ」

「あ、ああ……了解しました」

 

 予言者(シアー)のことも特捜のことも把握している。

 確証はなさそうだが、この夜鳥羽で何が起きたのかは理解してそうだ。

 

 ――どこまで把握してるんだ……?

 

 そして忽然と消えた予言者(シアー)もまた、この事態を把握していたのだろうか。

 ちらと見た画面に未だ健在のペンギンに、バレないように息を吐き出した。

 

「時間を取らせました。代わりに働きで示します」

「……は? どういうことです?」

「我々がここの防衛を受け持ちましょう。本隊が来るまで3日、戦力として協力します。部隊員を下げて、休ませてください」

「申し出はありがたいですが……あなた方は1部隊でしょう?」

「ええ。βチーム14名。その内、戦闘員は10名です。廉也、トラックを」

 

 耳元に指を触れそう告げると、トラックの1台がバックでこちらに――開いた新設封鎖壁へと近づいていく。

 

「甘木支部隊長。部隊に射撃停止の命令を。急いで」

 

 ――ああもう分からん!

 

 怒涛の展開に脳が理解を拒否したので、指示通りに声を張り上げた。

 

「……了解しました。全班、射撃止め! 狙撃班もだ!」

「感謝します」

 

 告げると同時、阿久津が指笛を鳴らす。

 トラックから降りてきていた軍服の男が2名――どちらも右腕がない彼らが新設の防壁を飛び越えて領域内へと入った。

 再びの指笛が鳴り、トラックから何かが射出された。

 円柱状のそれは2m近くの大きさで、コンクリートを砕きながらβ部隊員の側に着弾した。

 

「……あれは?」

「すみません、協力はしますが、情報提供は許されておりませんので」

 

 そう告げる阿久津は甘木の横で悠然と立っており、他の隊員たちも各々の武装で援護する……わけではなく、トラックに腰掛けたり寝転んだりと楽な立ち位置について呑気に眺めている。

 

「あの……」

「ご安心ください。手を抜いているのではなく、これが我々のいつも通りなのですよ」

 

 中の男たちが円柱に近づくと、それらはひとりでに蓋が開き……中から腕(・)が(・)現(・)れ(・)た(・)。

 

「……は?」

「――」

 

 微かな声で何かを呟いた男たちの欠損した肩に、その腕が接続されていく。

 じゃららと音を鳴らしながら引き抜かれたその腕は、銀に煌めく巨大な機械腕。

 やけに巨大な掌の片方と、もう片方は……チェーンソー?

 明らかにただの義腕ではない。その見た目はまるで……。

 

「色式兵装(カラージュ)?」

「違います。……おっと」

 

 ……喋ってるじゃん。

 思わず横の阿久津を見るが、相変わらずの無表情。

 

「じゃあ……」

「繰り返しますが、我らの情報は開示できません。本来はあなたの権限では見ることすら許されないんですからね」

「……」

「――ともかく、ご安心を」

 

 こいつ、素は軽いな?

 訝しむ甘木を見もせず阿久津が片手を開いて戦闘区域を指し示した。

 そうだ。今はまだ戦闘中――。

 

「……はあ!?」

 

 顔を上げたその瞬間、男たちが入ってきたブラーをそれぞれに瞬殺していた。

 片方は掴んだ頭部が爆発し、もう片方は2mを超す巨体を縦に両断して見せた。

 一瞬の早業。なんてことない様に彼らは元の位置に戻って、壁の向こうを睨みつけた。

 

「はは……」

「御(・)覧(・)の(・)通(・)り(・)。増援まで3日、我々が受け持ちますのでどうぞご安心を」

「……そのようですね。お前ら、休んでいいぞ」

 

 呆れながら指示を出す甘木。

 半信半疑の部隊員たちが引き上げていく中、阿久津がぼそりと呟く。

 

「予言者(シアー)に亡霊、逃がしませんよ」

 

 ……だそうだ。どうするんだ、ペンギン。

 ちらと落とした視界では、相変わらず呑気に踊るペンギンがいたのだった。

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