夜鳥羽中央駅。
その東端に鎮座する透き通る赤い結晶、『神晶』――更にその真上に浮かぶ裂け目。
青く深いその断裂からは、ボトボトと白い塊が落ちてきている。
「――――■■■■」
ぶるりと震えたその肉塊が、花が開くように四肢と首に分かたれ、
ブラー、その誕生の瞬間である。
――あんな感じで出て来るんだなー。初めて見た。
からころと飴を舐めながら、そんな事を思う。
たった今生まれたばかりだってのに、そいつはふっと顔を南に向けて歩き出す。
それが1体ではなく数体、揃った様に同じことをするのだから気味が悪い。
とはいえ、それはこっちの生物も似たようなもん。
卵から生まれた無数の稚魚が同じ事をし始める様に、生物には生き残るための行動が最初からプログラムされてるんだろう。
……問題は、あれが裂け目の向こうからやって来た異界の存在ってこと。
異世界で生まれ落ちた後の事がプログラムされてるって、どんな生き物だよ。
侵略に特化しすぎだろ。めっちゃ大量に出てくるし、どうやって5年も耐えてんだよこの世界の人類。
『■■■■――!!』
そんな彼らの歩みは、しばらくして全速力の走りに変わり。
駅の西、半々球の真下へと到着した時。
飛び込んできた白瀬の蹴りでその頭が消し飛んだ。
「わお」
『――コッ』
勢いよく着地した怪人・白瀬がクリック音を鳴らして周囲を索敵。
そのまま別の
本当に、
……あんなのがいるなら、人類も拮抗できるか。
『――リズさん、配置についた』
咲良さんからの通信が届いた。
奴が暴れてる隙に、重火器担いで半々球の3階層に移動しておいてもらったのだ。
元々はそこから下側を撃ちまくってもらう予定だったが……。
『にしてもこれは、凄まじいな……』
『ねえ……これ私たち要る?』
そんな呆れ声が漏れるのも仕方ない暴れっぷりてある。
「気持ちは分かりますが、必要です。いくら彼でもスタミナには限界があります。数は減らさないと」
というわけでちょっとだけ作戦変更。
わざわざ回廊を爆破しなくても、白瀬が敵を集めてくれてる。
元々は白瀬に外を、2人に中をお願いするつもりだったが、あんな感じで大暴れな以上2人に外をお願いする。
「できる限り撃って排除してください。撃ちつくしたら、鷹村さんは撮影して大丈夫です」
『オッケイ! 頑張る!』
「その意気です。では、こっちも動きます」
『ああ。死ぬなよ、リズさん』
「ええ。また後で」
そう言って通信を切る。
さあ、遂にここまでやって来た。
この世界に放り込まれて一月半。
一先ずこれでこのステージ?は終わりを迎えるだろう。
残金は……77万。1回は死ねるが、そしたらもう装備が尽きる状況だ。
負けて素寒貧のゲームオーバーになるか、勝ってステージクリアかだ。
「後は、死力を尽くすのみ……ってな」
装備を確認して、鞄を下ろす。
爆弾はここに置いていく。でないとこの後が大変だからな。
『■■■■――!!』
素早く駆け抜けていくブラーたちの無防備な背中を見送る。
あっちは3人に任せる。俺の役割は、手薄になった本命――『神晶』の爆破だ。
だがそれにはどうしても倒さなければならない連中がいる。
進んだ先、右手に別の改札、左手に食事処の跡地が見えた辺り。
進行方向に立ち塞がる巨体が2つ。
『『■■■■――!!』』
「よお。約束通りまた来たぞ、阿吽コンビ」
少しぶりの巨腕、巨脚
こいつらと数体の
やはり、咲良さんたちの予測通りか。
『あの
というわけで、こいつらを倒すのが俺の役割。
結局戦闘、しかも2対1……最後くらい楽させてくれよ。
飴のスティックを吐き出し、
「まずは邪魔な雑魚を排除……」
『『■■■■――!!』』
駅にブラーたちの咆哮が響き渡る。
文字通り最後の戦闘が始まったのだった。
***
「――はっはー!!」
夜鳥羽中央駅。
その構内のメインストリート。
砕けた石畳と散らばる肉片が敷き詰められた灰白の道を駆け抜け、肉に埋もれた案内板を足場に俺は跳躍した。
『■■■■――!!』
突撃してきた巨脚が案内板を破壊するのを余所に、俺は狙い定めた
ふらりと崩れる巨体。多分まだ生きてるが、動けなきゃ十分!
『■■――!?』
「あと2!」
『■■■■――!!』
遅れてやってきた巨腕の振り下ろしを飛び込みで避けて、次の獲物へと駆ける。
どうせこのラスボス2体に
走りながら残弾を掃射。
遠巻きにこちらを眺めていた
「トドメ!」
そこへ手榴弾を放り込む――直後鳴った跳躍の破壊音に全力で前へと飛び込んだ。
白い肉の感触にぞわぞわ震えつつ、駆け抜けていった巨脚の勢いに寒気が走る。
やっぱりアレ喰らったら駄目だな。
一撃貰ったらアウトとか勘弁しろよ。
ルートシューターにも自キャラがもっと硬いやつあるじゃん。あれ基準にしてよ!
「今更か……あと1!」
撃ちつくしたマガジンを放り捨て、
この動きもすっかり慣れた。
元からできてたけどさ。ホントなんなんだよこの身体。
これだけは最後まで分からなかった。この先で分かるのか?
『■■■■――!!』
巨腕の振り抜きを飛び退いて回避。
多分、元々ゴミ箱だったモノが吹き飛んで轟音を立てていく。
ヤバい威力。こっちも食らえない。
だが、ゴミ箱が移動していた最後の
「ラッキー!!」
真っ赤な肉が飛び散るのが見えた。
アレももう無視でいい。つまり――。
「お前らで、終わり!」
『『■■■■――!!』』
はは、遂に来た。ルートシューターじゃ中々使えない、トンでも重火器を使う時が!
「さあ、お前らはどこまで硬いんだ?」
まずはこれ、グレネードランチャー!
クソでかリボルバーみたいな中型の銃身。
真っ黒なその中には人なんて軽く吹き飛ぶ榴弾が詰まってる。
それを鈍い巨腕の股ぐらに向かって放った。
ぱしゅん、とちょっと間抜けな音が響き、放物線を素早く描いて奴の赤く濡れた巨体に直撃。
真っ白な噴煙を巻き起こした。
「……っ!!」
爆風に足を取られそうになるのを必死に堪える。
駅内で使っていい威力じゃねえな。外したら大惨事だな。
もう1発お見舞いしておこう。
「これで流石に効いただろ……っと!!」
『■■■■――!!』
真横からの突撃を転がって躱す。
巨脚が対面の窓枠に着地してこちらを見つめる。
こいつは慎重に狙わないと弾を無駄にする。
6発だから残り4発。さあ、どう当てる……。
「……ぶつけるか!」
舞う白煙へと駆け抜ける。
罠なんて気の利いたものはここにはない。
ある物を使う。なら、お前らだろ!
『■■■■――!!』
白煙を振り払って、巨腕が飛び出してくる。
げ、まだ生きてた。
だがパッと見えた腹辺りは凄まじい焦げと血肉が見える。……多分効いてる!!
『■■■■――!!』
必死に耳に意識を集める。
直後、背後から咆哮と跳躍の音。
来た――!!
「――ほっ!」
全身全霊をかけた側転。
ほんの僅かに身体を掠めて、巨体が凄まじい勢いで駆け抜け――肉の弾ける凄まじい音が響いた。
ほら、相撲の最初の音みたいな。あれの、凄い版!
つまり――大成功!
『『■■■■――!!!?』』
目の前で巨体同士が激突し、仲良く吹き飛んでいた。
流石の巨腕でも、巨脚の突撃は防ぎきれないらしい。
そんな中の良い2人に向けて、ランチャーの残弾を全て叩き込んだ。
「はっはー!!」
ぽん、ぽん、ぽん、ぽんと気持ちのいいリズムで爆発の合いの手が起きる。
これでグレネードランチャーも終了。次!
今のうちに駅長室へ駆け込んで、残りの武器2つを引っ張り出す。
「お次はこれ、
人間に携行できる中でももっとも火力がある類の武装だろう。
「ははっ、これで殺し切ってやるよ。ほら出て来い!!」
未だ舞う白煙に向かって吼える。
だが、少し待っても反応がなかった。
……死んだか?
「ああ? 思ったよりあっけないなあ!!」
燃え上がる頭の熱でそう吼えるも、身体はどこか冷静だった。
決して踏み込むことなく、むしろじりじりと遮蔽と広さが両立した
いいって何が?
決まってる。戦うのに最適な場所だ。
……なんで?
それも、決まってる。
奴らはきっとまだ――。
『――――』
その時。
真横――駅の東端から赤い光が迸った。
それは並の様に円になって放たれ、俺や、当然奴らがいる白煙の中を通り過ぎていく。
「……? なんだ?」
驚いて『神晶』を見る。
いつの間にか、煌々と輝きを放っていたそれが、脈打つように光を吐き出す。
2、3……計5度放たれたそれの意味は分からない。
身体に異常はなく、周囲に変化は……。
『――――』
ふと、煙がふっと動いた。
ぐわっと
それが何度か繰り返して、煙はどんどんと小さくなっていった。
まるで……何かが吸い込んだみたいに。
「……嘘だろ」
ほんの数秒で、煙は消えた。
そうして晴れた景色には――驚く程に巨大な異形がいた。
「……あ?」
まず見えたのは夥しい量の血肉。
グレネードの連射は確かに効果を発揮していた。
巨腕・巨脚の身体は多くが吹き飛んでいたらしい。
残ったのは丈夫な腕と足。
そして、残ったそれぞれの身体の一部。
それらが蠢くように繋がりつつあった。
……なんで?
「バラバラになってんだから死んでろよ……!!」
当然の如く、それはブルりと弾けるように動き出して立ち上がりかけている。
新たな1固体となった阿吽コンビ。その目覚めの呼吸が煙を全て吸い込んだのだろう。
「……ら、ラスボス過ぎる……!! 最終形態あんのかよ!?」
なんて驚く暇はない。
変身中に攻撃しちゃ駄目なんてお約束は関係なし。即座に
「死ねぇ!!」
凄まじい衝撃と音が響き、未だ断面の覗く奴の身体に穴を空けていく。
狙うは勿論、胸と首。どっちかをぶっ壊せば、いくらラスボスだろうと死ぬ。
だが。
『――――』
素早く動いた巨腕がそれらを守る。
皮を突き破って血肉を弾けさせるが、動きが止まる気配はない。
いくら
「ちっ」
一通り撃ち切ったので、こちらもリロード。
円盤状のマガジンをガシャガシャと取り換える。
原因は間違いなくあの『神晶』だろう。
神様を守ってるんなら、その力が何か悪さをしたんだろう。
『■■■■――!!』
そうして、巨腕と巨脚の両方を備えた巨大な
巨大な咆哮が響き渡り、肌や周囲の空気が震える。
さて、アレをなんと呼ぶべきか……。
「巨腕巨脚……巨巨とか? ……パンダか?」
でもパンダって結構強いらしいよね。
……どうでもいいか。とりあえず巨巨で!
「使えるのは
胸ポーチからグローブを取り出しきゅっと嵌める。
今回は最初から二重にしてあるから装着も楽々。
……あれとステゴロしたくはないけど。もしものためだ。
準備を終えるのと、奴の身体が繋がるのは同時。
ただ接続部は赤い肉が露出してて、撃ちまくった腕の傷もまだ治ってない。
アレを千切って内臓か顔をぶっ壊す――そういうことだな。
ははっ、どうしようもなくヤバい敵が前にいるのに。
機関銃の連射でイカれた頭は恐怖心なんてものは消し飛んでいる。
「よし、今度こそぶっ殺す!」
『■■■■――!!』
さて、気前よく言ったはいいがどう勝つか――。
そう思ったその瞬間、耳元に咲良さんの声が響いた。
『リズさん、気をつけろ! 白瀬が――』
「ん?」
その意味を理解するのと同時。
背後から真っ白な風と
『――コッ』
目の前の大怪人、そのどでかい頭を軽々と蹴り上げて見せた。
「……おお」
『突然そちらへ向かった! 君を襲うかも……!!』
「ああ、それは大丈夫そうです。すみませんが、そちらをお願いします」
『……分かった! 急げよ!』
『――コッ』
通信が切れるのと、白瀬が真横に立つのは同時だった。
こちらを一瞥すらせず、真っすぐに大怪人を見つめてる。
よし、襲ってきたらどうしようかと思ったが、何とかなりそうだ。
胸ポーチから飴(ミルク味)を取り出して白瀬へと放る。
「やるぞ白瀬」
『――コッ』
『■■■■――!!』
吼える大怪人へと、2人で飛び出すのだった。