崩壊世界でルートシューター   作:穴熊拾弐

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第66話 Suture④

 

 

 その頃、南東部の前線拠点では引き続きβ部隊による戦闘が継続していた。

 奇妙な義腕を身に着けた、たった2人による戦闘。それはあまりにも一方的であった。

 

「……はは……」

 

 乾いた笑みが浮かぶ甘木の視界。

 そこには、次から次へとやって来る雑兵(ノーマル)ブラーが侵入しては銀の義腕に瞬殺される光景が繰り広げられている。

 

 ――強すぎる……。これが、中央お抱えの猟犬部隊(ハウンド)か……。

 

 鍛え上げられた屈強な肉体に、それを更に凌駕する、およそ人間とは思えない重く長大な銀の腕。

 それらは的確にブラーの頭部を潰し、切り裂き、命を刈り取り続けていた。

 

 ――人造の怪物……ってとこか? 凄いものをつくったもんだ。十神さん……いや、多田羅か?

 

 だが気になる。あの義碗……色式武装(カラージュ)でないならなんだ?

 そんな装備があるとはついぞ聞いたことがない。

 中央が秘匿している何かなのだろうが、その戦闘能力と継戦能力は尋常ではない。

 

 例えばたった2人の兵士がこの1時間に殺したブラーの数は優に30を超えていた。

 当然、特殊個体(ユニーク)も含まれているその殺害数(キルカウント)は甘木と瑞希のそれをとっくに超えている。

 

 あんな化け物があと8人いるというのだから、恐ろしい。

 これがこの国が未だブラーに支配されていない理由の1つなのだろう。

 

 流石に大型(テラ)は殺せない……よな?

 そう思いはするが、それすらできてしまえそうな力が彼女たちにはあった。

 

「――60分経過。2人とも戻って。交代。廉也、次を射出」

 

 阿久津の指示にのんびり観戦していたお仲間たちが素早く動く。

 今度は線の細い男女が防壁内に入り、片腕と両足に装備を接続し始めていた。

 両足の女はわざわざ義足を付け替えている。

 

 ――全員が欠損あり……負傷兵を集めたのか? それとも……。

 

 悍ましい想像に身体が震える。

 この発想、兵(・)器(・)が(・)先(・)か(・)、兵(・)士(・)が(・)先(・)か(・)。どちらにせよ尋常のものではないのは確かだ。

 ただそれ故にか、結束は固そうだ。

 その有様はまさに、阿久津という頭の命令を忠実に実行する猟犬の群れ。

 

 ――恐ろしい連中だが、おかげで夜鳥羽はなんとかなりそうだ。

 

 抗戦を選び、ここまで繋いだ甲斐があった。

 夜鳥羽は助かる――そう、安堵が甘木の全身を包んだ瞬間だった。

 

「甘木隊長」

「あ、はい。なんでしょうか」

「これで我らの力は見せました。この場はしばらく預かります。よろしいですね?」

「ああ……はい、全く問題ありません」

「それはなにより。では、そろそろお教えいただけますか?」

「……何をでしょう?」

「決まってます」 

 

 そう告げる阿久津のやけに黒く見える瞳がこちらを射抜いて――。

 

「あなたが先ほどからお喋りしているペンギンさんの居場所ですよ」

「……っ!!」

 

 続けて射抜かれた言葉にハッと表情を変えてしまったのが失態だったと気付いた時にはもう遅かった。

 無表情の彼女が耳元をとんとんと叩く。

 

「耳が良い部下がいましてね」

「……」

「本部支給の端末で外部と通信なんてするものではないですよ」

 

 チャットを覗かれていた……いつから? もしかして最初から?

 瞬時に数多の言い訳が頭を巡るが、阿久津はそれよりずっと早かった。

 

「現在行動中の夜鳥羽支部員はここと、各ゲート、後は封鎖壁付近の資源回収チームくらいでしょう? そのどれもあなたと個別でテキストチャットをする理由はない。私的な通信をするなとは言いませんが……次の作戦指示まで話すとは随分と信頼してる相手の様ですね?」

「どこまで……」

「教えられません。どうせ、聞いているのでしょう?」

 

 甘木の手からするりとタブレットを抜き取ると、画面に映るペンギンを笑顔で指さした。

 

「こ(・)れ(・)が予言者(シアー)と名乗る異分子……そうですね?」

「……はは」

 

 全てお見通し。

 乾いた笑みを浮かべる甘木に、ゆっくりと歩み寄る。

 

「夜鳥羽を守るためのあなたの行動は最善でした。尊敬も尊重もしますよ。ただ、もうそ(・)れ(・)ら(・)は不要です。……お分かりですね?」

「……」

「まあ、どうせあなたも奴の居場所は知らないのでしょうが。でなきゃあの高橋さんに近づいた時に驚くはずもない」

 

 ――耳も鼻もいい……まさに猟犬か。

 

 目の前の連中は救援部隊だ。それも中央お抱えの特級戦力。

 逆らうことは許されない。今、奴らにそっぽを向かれれば夜鳥羽が危ない。

 

 ……そうか、この戦闘は証明行為(デモンストレーション)か。

 自分たちに乗り換えれば夜鳥羽を守ってやる、という報酬の前払いだったのだ。

 当然対価は……情報だろう。

 あのペンギンと、その仲間らしい亡霊の。

 

 ――すまない、予言者(シアー)。協力はここまでだ。

 

 息を吐き頷いた甘木に、阿久津がふっと笑みを浮かべた。

 

「情報提供感謝します。ご安心を、夜鳥羽の防衛は約束しますよ。少々、邪魔な異分子を排除するだけです」

「……」

 

 部下にハンドサインでなにやら指示を出す。

 前もって準備していたのだろう。

 全員が動き出すのを確かめながら、阿久津が肩をたたいてきた。

 

「1つ、あなたにお教えしておきましょう」

「……?」

「予言者(シアー)がかつて現れた都市、その2つ目――設楽市。その支部員は活性化に抗戦の意思を見せ、全滅しています」

「なっ……中央からの増援は?」

「ありませんでした。彼らは意図的に中央への報告をしなかった記録があります。何故だと思います?」

「まさか……予言者(シアー)が?」

 

 問いには、頷きだけが返ってきた。

 

「彼らは何らかの方法で予言者(シアー)に取り込まれ、その指揮下に入りました。そして活性化に立ち向かい、全滅した。……似ていると思いません?」

「……」

 

 自分たちがそうなっていた可能性は十分あった。

 彼女を追う特捜や阿久津たちがいなければ。

 

「奴らは異分子。決して我らを救う英雄にはならないのですよ」

「……肝に銘じます」

「頼みます。では我々は逃げたペンギンさんを捕まえに行くとしましょう。今度こそは……」

 

 紛れ込んだ異分子の排除に、猟犬部隊(ハウンド)が動き出す――。

 

『――今から設置します! 10分間耐えてください! それで、終わります!』

 

 聞き覚えのない声が鳴り響いたのは、その瞬間だった。

 まさかの声に、甘木も阿久津でさえ動きを止めた。

 

「……今の声は? 10分? 設置? ……甘木支部隊長、これは……」

「すみません、私にも不明です。が――」

 

 あの声は恐らく予言者(シアー)と一緒にいた筈の亡霊の女。

 そして、彼女と行動を共にしている筈の十神咲良。

 彼女たちが、何かしでかしたのは確かだろう。

 

「もしかしたら、本当に終わるのかもしれません」

「何を……っ、裂け目か! 廉也! トラックを!」

 

 たった1つの通信で、冷静さを失った猟犬部隊(ハウンド)が慌ただしく動き出した。

 告げられた『終わり』まで、あと10分――。

 

 

***

 

 

『――リズ、あんた何を――!!』

「……邪魔」

 

 耳元に響いた声に、俺は咄嗟にイヤホンを弾いて捨てた。

 つけてたのも忘れてたくらい集音性は高いし、なんなら奴らの咆哮の耳栓にもなってたが、集中を削いでくるのは勘弁だ。

 ……ん? 今のって予言者(シアー)か?

 ……どうでもいいか。今は、奴のゲームに付き合ってる暇はない。

 

『■■■■――!!』

 

 駅を揺らす咆哮が響く。

 合体巨大特殊個体(ユニーク)が吼え、それに呼応するように生まれ落ちた雑兵(ノーマル)たちが呼応する。

 視界を埋めるその群れは、多分10体を越している。

 

 それくらい、奴らの生産速度は上がっていた。

 

「……っち」

 

 結局ウェーブ制。しかも銃も弾薬も落とさない怪物相手だ。

 理不尽すぎるラストステージだが、希望はある。

 

「あと7分」

 

 こっちは耐えればいいだけ。そのための武器は――。

 肉屋の色式武装(カラージュ)・重撃弾。

 赤兎の色式武装(カラージュ)・障壁手袋。

 そして神の支給品・拳銃と、軽機関銃(ライトマシンガン)。

 

「雑魚相手にはぴったりってね」

 

 呑気に首を鳴らしてる雑兵(ノーマル)どもに機関銃を掃射。

 真っ赤な火線が駆け抜け、肉が弾けて血が飛び散る。

 ……雑魚を殺すのに必要な弾数が増えてる。耐久力は上がってるか。

 

 雑魚であれなら、あのラスボスはどうなった? 

 色式武装(カラージュ)は乱用出来ないってのに……まあでも最後だしいいか!

 それに、頼れる仲間もいる。

 

『コッ――』

 

 クリック音を鳴らした白瀬が駅を駆け抜け、産まれたばかりの雑魚を蹴りつぶした。

 その間に俺はグローブを身につけ、合体巨大特殊個体と対峙する。

 

「ははっ! 来いよ!! 巨巨特殊個体(ユニーク)!」

『■■■■――!!』

「俺の全部で、殺してやる!」

 

 ……結局、どんなゲームでも最後ってのはこうなるもんか。

 残った武器とアイテム、体力も全て使い果たして死闘を超える。

 その先、未来に進むゲーム世界に、プレイヤー(おれ)はいない。

 

 プレイヤーは世界かキャラの人生か、そんな『何か』を救った満足だけ得て次の世界(ゲーム)に行く。

 飽きるまでそれを繰り返して、自分自身の生を終えるわけだ。

 

 所詮、死ぬまでの暇つぶし。

 俺はたまたま、その2回目の権利を貰っただけだ。

 

「最後まで碌な説明なかったけどなぁ!!」

 

 胸元から引き抜いた重撃弾を巨巨の右股関節に撃ち込む。

 右手が千切れて弾丸が弾け飛ぶ。

 鈍い音を立てて奴の外皮が捩じ切れる。

 中身まで突き抜けないが、殻(・)は破った。肉屋の色式兵装(カラージュ)、良い装備をくれたもんだ。

 

『■■■■――!!』

 

 悲鳴に近い咆哮を上げ、巨腕が振り抜かれる。

 それを赤兎のグローブで受け止める。

 硝子の破砕音とともに身体が吹き飛ぶが、受け止めた腕自体は無事。

 相変わらずこちらも規格外。存在を喰らい現象を生む兵器って触れ込みは間違いない。

 

 代わりに、意識が頭の奥に沈んでいく感覚が視界を襲う。

 これに呑まれたら、俺はあっさり死ぬんだろう。今度は復活しない、マジもんの死ってやつだ。

 

 ――ああ、怖い。怖いね、死に突っ込むってのは!!

 

「あはははっ!! どんどん来い!」

 

 頭と口が真逆の感情を吐き出した。

 予想通り、軽機関銃(ライトマシンガン)の銃撃はとんでもない快楽を俺の脳髄に叩き込む。

 神様の狙い通り。

 もっと撃ちたい。もっと壊したい。

 もっと、もっと、もっと――!!

 

 ――そして、最後は『神晶』を壊せってか!!

 

 快楽とシステムに道は絞られ、結局俺はここにたどり着いていたんだろう。

 どうあろうが逃れられない一本道。

 まさしくゲームってやつだ!

 

『コッ――』

『■■■■――!!』

 

 俺に入れ替わるようにして巨巨に突撃した白瀬。

 代わりに、今度は俺が周囲の雑魚に弾幕をばら撒いた。

 真っ赤な血肉が弾けて飛んでいく。

 真上からはぼとぼとと追(・)加(・)がやって来る。

 壊し尽くすのは不可能か。ならばすっぱり諦めよう。

 

「あと、5分……!!」

 

 咲良さんたちは逃げられただろうか。

 駅の西と東で距離はあるから大丈夫だとは思うが、神様製の爆弾だ。どうなるかは誰にも分からない。

 

 ――まあ、後の事は俺には関係ない。

 

 荒らすだけ荒らして後はお任せってのは気分が悪いが、やれるだけのことはやった。

 後はあんたら次第だ。咲良さん。

 

「託したぜ……なんてな、ははっ!!」

 

 まき散らされた血肉に滑りながら構内を走り抜け、殴り合いを続ける巨巨と白瀬の元へと飛び込む。

 先ほど皮を破った股関節へと軽機関銃(ライトマシンガン)を叩き込む。

 

『■■■■――!?』

『――コッ』

 

 が(・)く(・)ん(・)、と姿勢が崩れた奴の顎に白瀬の蹴りが叩き込まれる。

 奴はとにかく頭が好きだ。首を飛ばせばブラーでも死ぬってのを長い戦いで学んだんだろう。

 もう何十発も喰らわせてるせいで、巨巨の顎回りは皮も千切れて真っ赤。

 それでも、怪物は止まらない。

 

『■■■■――!!』

 

 無事な左脚が弾ける様に動き、白瀬を真上へと蹴り上げた。

 あり得ない動き。別の意志を持って動いたような――って、実際別のやつの物だけど。

 

 ……頭は腕の方のやつだったか?

 

 構わず俺は股関節を撃ち続ける。

 穴を拡げて、重撃弾で千切れさす。それを2回やりゃ、ミッションコンプリート。

 後は雑魚を潰して爆破を待つだけだ――が。

 

『■■■■――!!』

 

 巨巨が近くにいた雑兵(ノーマル)の卵を掴んで、振りかぶった。

 狙いは当然、神晶。

 

「おいおいおい……!!」

 

 慌てて重撃弾を手に取るが、もう遅い。

 奴はそのまま神晶の、一ヶ所にセットされた爆弾に向けて卵をぶん投げた。

 空を切る鈍い音。そして、湿った着弾音。

 

 真っ赤な神晶に更に赤い血肉が塗られる。

 

「まずっ……」

 

 ヒヤリとするが、まだ爆弾の点滅は続いてる。

 神造武器の頑丈さに助けられたが、何発耐えられるかは不明だ。

 残り時間、多分あと3分くらい。

 

「さっさと潰さないと――っと」

 

 次なる弾を求めて振り向いた先の卵へ軽機関銃(ライトマシンガン)を連射して潰す。

 撃ちつくしたのでリロード。……残りマガジンはあと1つ、100発。

 

 やっぱりさっさと足を潰さないと。

 踏ん張り効かなきゃ、投げられないだろ。

 そうと決まれば後は全力。

 ぶっ壊すまで――。

 

「やるかぁ!! ははははっ!!」

『■■■■――!!』

 

 ――正直、それからの記憶はあまりない。

 

 軽機関銃(ライトマシンガン)で卵や迫る雑兵(ノーマル)を潰して、巨巨の攻撃はグローブで防いだり転がり避けたり。

 隙見て股関節を撃ち拡げながら、重撃弾を叩き込む。

 

 その度に意識は薄れていって――だから覚えてないんだろうが――1度、投擲を許した時は。

 

『コッ――』

 

 空から舞い戻った白瀬が潰してくれた。

 良い相棒だよ、お前は。

 なんか拳をぶつけ合ったような気もしてる。その辺、マジで曖昧だった。

 

「ははははっ!!」

 

 ああ、ただ――とにかく楽しかったのだけは覚えてる。

 そして、もう1つ。

 腕のスマートウォッチで設定したタイマーの数字だけは、おかしくなっていてもちゃんと見てた。

 

 ――9分、30秒。

 

 その数字が見えた時、多分、重撃弾で奴の左脚を引き千切った所だった。

 もう十分、てか限界。

 弾切れの軽機関銃(ライトマシンガン)を放り捨て、グローブも脱ぎ捨てて。

 

 ようやく俺の意識ははっきりと元に戻った。

 

「――っ! ラストだ白瀬、付き合え!!」

『コッ――』

『■■■■――!!』

 

 最後に残った拳銃を、ありったけ奴の顎に叩き込む。

 折角だ。奴をしっかり殺して終いにしようぜ。

 

「穴は空ける。最後はお前だ」

 

 最後の俺(・)の残りかすを振り絞って。

 真っ赤な巨巨ブラーの顎に、重撃弾を解き放った。

 それは凄まじい衝撃をもって奴の血肉を蹴散らし首の骨を露出させ。

 

『コッ――』

 

 そこへと白瀬が、最後の蹴りを叩き込んだ。

 鈍い破砕音が高らかに鳴り響き。

 

『――――……』

 

 ラスボス巨巨特殊個体(ユニーク)は、その巨体を崩れ落とした。

 

「ははっ! やったぞ、白瀬! 俺たちの勝ちだ――あ」

 

 叫び声を上げたその瞬間にタイマーは10分を刻んだ。

 同時に背後からり(・)ぃ(・)ん(・)と鈴みたいな音が聞こえ、青く眩い光が視界を埋め尽くして――。

 

 ――あー。楽しかった。じゃ、後は任せたぜ、咲良さん、記者(ライター)。

 

 俺も白瀬も神晶も全て巻き込んで。

 光の大爆発が起きるのだった。

 

 


探索成果:死亡

 

収入:―

支出:¥ 50,000 【蘇生費用】

   ¥ 250,000 【突撃銃補充】

   ¥ 30,000 【拳銃補充】

   ¥ 80,000 【手榴弾補充】

   ¥ 37,200 【弾薬補充】

 

 

残額:¥323,050

 

進行中任務

1:夜鳥羽の裂け目の消滅

2:拠点の修復

3:衣類の回収、引き渡し

4:『神晶』の破壊

 


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