俺のあんまり残っていない記憶をかき集めて思い出すと――俺は元々、FPSが好きなゲーマーだった。
別に頭も良くないし、部活はしてたが天辺獲れるほど運動神経が良くはなかったんだろう。顔なんて言わずもがな、
そんな俺でも、ゲームの中の銃撃戦ではそれなりに戦えたんだ。
目の前の相手をエイムで捻じ伏せる快楽。ゲームのセオリーの裏を突いて勝つ頭脳プレイ。
ただのゲームが、現実世界じゃ一切くれない優越感を与えてくれた。
でも、それも直ぐに頭打ちになる。
残念ながら上には上がいて、進歩しない俺のプレイに、俺自身が先に見切りをつけたんだ。
ゲームに飽きるんじゃなくて上達しない自分に飽きる……だっけ? どっかで聞いた誰かの名言、その通りだと思ったね。
そんな時に出会ったのがルートシューターだった。
撃ち合いの腕よりも知識。センスよりもかけた時間がなにより大事。
タスクには運や腕も勿論必要だが、それもまた、かけた時間が応えてくれる。
何日も詰まったタスクがクリアできた時の喜びと達成感といったら!
それこそ溢れた脳汁で絶叫しちまうほどに最高だった。
そしてなにより。
このゲームは他と比べて圧倒的に命が
何時間もかけて手に入れた大事なアイテムや、タスク品を持った時の銃撃戦のひりつき。
そして生き残って帰還した時の快楽は、他のゲームじゃ早々得られないものだった。
聞いたこともなかったジャンルのゲームは、あっという間に俺の人生で一番時間を費やした作品に変わった。
あのゲームの中でだけは、俺は戦場に精通した
だからあの真っ黒神様モドキに『好きなゲームは?』と聞かれて、ルートシューターって答えた。
それくらい、特別なゲームだったから。
ああ、本当……超後悔してる。
だって安易に答えたその結果――俺は知らない世界で化け物と戦わされてるんだから。
支給装備は拳銃と鉈。
しかも今度は電子のまがい物じゃなく、正真正銘俺の命を賭けて。
「――
駆け抜ける先、吹き飛んできた瓦礫が落下した。
顔をあげれば先ほど化け物が突っ込んでいった家屋がぶっ壊れ、破片が周囲に降り注いでいる。
あの家はどうでもいいが、文香嬢の家はその3軒隣だ。
「させるか……!!」
大穴の開いた家に突っ込む寸前。
最初に死んだ奴の側から銃を拾い上げる。
やっぱり
マガジン2つと手榴弾も1つ貰って、そのまま大穴と化した家へと突っ込む。
音はまだ止んでない。良く生きてるぞ最後の1人!
廊下と階段をぶっ壊したらしい
視線はそっちに向いてるので、ほんのり赤く染まった巨体をバッと観察。ぶっとい首に、胴に尻尾。
倒すなら……一番細い足首!
そう決めて無防備な左足――接地している足首辺りに連射する。
勿論射線は被らないように左にずれつつ、叫ぶ。
「左足――!!」
「なっ、……!!」
突然の乱入者に驚きつつも、兵士は即応し両方から左足を破壊していく。
『――――っ!?』
真っ赤な線が幾重も飛び、狭い室内に怪物の咆哮が響き渡る。
赤みを帯び始めた分厚い皮は何十発もの銃弾を受けてようやく肉が見えた。
そこへ突っ込み、引き抜いた鉈を振り下ろす。
「せい!」
ずちゃりと肉の音が響いて鉈が沈み込む。
半分くらいで止まったが、それで充分……!!
柄を蹴っ飛ばして引っこ抜き、代わりにピンを外した手榴弾を傷口に突き刺した。
「馬鹿な……!!」
「退避ー!」
叫んで全力逃走。
反撃とばかりに振り回された尾を飛び込んで避けながら、ドアが吹き飛んだ部屋に転がり込む。
ぶっとい尾が真上のドア枠をぶっ壊すのを無視しながら、また左足に銃を乱射。
数発目が手榴弾に当たり――爆発が起こった。
『――――っ!?』
「はははっ!!」
すげえな、手榴弾でもこうなんのかよ!
爆風に次いで満ちる粉塵。
更にそれを飛び越えで周囲に血肉が飛び散ったので、どうやら上手くいったらしい。
流石に片足潰したら鈍くなんだろ!
これ以上の戦闘は無意味。
マガジンを替えつつ、目的の文香嬢の家に急ぐ――!!
「――横に飛べ!」
「!?」
鋭くとんだ声になんとか反応して、再度飛び出た部屋に転がり込んだ。
直後、熱と痛みが背中に走る。
「あ゛……!?」
背負っていた鞄の破片と血が飛び散る。
どうやら背中を裂かれたらしい。痛ってぇ……。
「片足くらいで止まるか! やるなら首だ!」
知ってるよ……!!
こっちはこいつの退治に興味ねえの!
足止めだけできれば十分だってのに……。
『――――!!』
「んな場合じゃねえか……」
目論見が甘かったのは事実。
痛いが動ける。転がり起きて相手を見れば、尾と片足で立つ怪物がいる。
「器用だなおい……」
『――――』
あっつい息を吐き出して、目のない顔でこちらを見つめる。
あの頭に手榴弾突っ込めば死ぬか? ……こっちも死ぬな、それ。
仕方なし……!!
痛みを振り払って銃を構えた――瞬間に慌ててしゃがみ込む。
直後抉るように振られた爪に、銃が巻き込まれぶっ壊される。
貴重な
「この……!!」
代わりに引き抜いた拳銃で左足の断面に数発叩きこむ。
肉への直撃は流石に効くらしく、悲鳴が上がる。
その隙に脇を転がり廊下へ抜けると、さっきの兵士に掴み起こされた。
「無事か!? なんて無茶を……女!?」
ああ?と声を荒げる――すんでで黙る。
一応、演技は続けておくか。
「問題ありません。そちらは?」
「あ、ああ……負傷はない」
「……?」
ヘルメットに分厚いバイザーで覆われた顔は判別できないが、思ったより声が若い。
こいつが指示役っぽかったが……まあいい。
兵士が手榴弾を放るのと同時に2人揃って道路へと走る。
「お前は……!!」
「アレの討伐手段はありますか?」
「っ!! ……ある。ただ準備がいる」
へえ、あるのか。
なら賭ける価値はある。
「わかりました。では時間を稼ぎます」
「だが……」
「呑気、優柔不断、愚鈍」
「……っ、道で留めろ!」
苦しそうな声をあげて走っていく兵士を尻目に、穴の方を見る。
尾を使って器用に出てきた怪物は、皮膚が剥げ始めているが元気そうだ。
「さて、どうしよう」
カッコよく残ったはいいが、拳銃1つでどうしろって?
あの分厚い皮相手じゃ豆鉄砲だろ、これ。
やけくそに1発、剥がれて見えた肉に撃ち込む。
お、嫌がってる。やっぱり皮が硬いんだなこいつら。
それに逃げた
「ほら、おいで」
『――――』
奴の身体がぶれ、巨体が迫る。
転がってなんとか避ける。
だよな、歩けねえなら飛んでくるよな!
「あははっ!」
咆哮を上げて尾を振り回すが、流石に当たらねえ――。
「ぐっ!?」
飛んできた塀の破片が腹を直撃。
それは、聞いてない……っ。
『――――!!』
態勢を戻した奴が尾を叩きつけて飛び込んでくる――!!
なんとかなれと後ろに飛んだら、想像以上に長い落下が襲ってくる。
これは……最初の穴か!
奴自身が空けた穴に落ち、真上を奴の巨体が通り過ぎていった。
た、助かった……!!
背中を強打してとんでもない激痛が走るが、快楽物質のおかげでなんとか動ける。
辺りを見ればでっかいトンネルができてやがる。
掘り進めてやがったな……。こりゃ、地下にとんでもなく複雑な通路ができてそうだ。
真上から奴の咆哮が響く。
俺を探してるんだろう。
素早くリロードを済ませて瓦礫を足場によじ登ると、キョロキョロしている奴を見つける。
その背を撃ってすぐさま引っ込む。
また真上を飛び越えていくので同じことを繰り返す。
よし、これで時間稼ぎはできそうだ。
『――――!!』
なんて思ってたら奴が腕を叩きつけ、更に穴を広げやがった。
舞い飛ぶ瓦礫の中、俺は穴の中心に無防備に立っている。
そこへ奴の爪が迫った。
「――っ!?」
避けること叶わず、俺の身体は見事に空中へと吹き飛ばされた。
首は……無事!
だが左腕の肘から先が消し飛んだ。
「ははっ、あはは!!」
もう快楽と痛みで脳がぐちゃぐちゃ。
なんだこれ、楽しいけどめっちゃ痛てぇ!
血がドバドバ吹き出てるが、それでもまだ生きている。
そして奴のおかげで地上に出れた。
「……まだ死ねねぇな!!」
視線を振る。
1、2、3軒……丁度真ん前!
最高じゃねえか!
もう時間は稼いだだろ。後は任せたぞ兵士!
転がるように俺が目の前の家に駆けこむのと、左から轟音が響くのは同時であった。
「……?」
ちらと見たその先。
化け物へと、輝く何かが迫るのが見えたのだった。
***
「呑気、優柔不断、愚鈍」
「……っ、道で留めろ!」
突如の罵倒に驚きながら、私はそう吐き捨てて距離をとる。
流石に気が動転している。
部下の死、特殊個体の出現、そして理外の乱入者。
あれは……ハンターか?
驚くほど美しい顔をした少女が、銃を乱射し鉈を振り回していた。
訳が分からない。おかしな幻覚でも見てるのか?
「……どちらにせよ、あれは仕留める……!!」
言った通り、奴を仕留めるには準備がいる。
使うことはないと備えていなかったのは不覚。だが今度はやってみせる。
胸元に差した小刀に触れる。
途端に脳裏に浮かぶ男の顔に、激情が湧きあがる。
――
道の向こうから拳銃の音が聞こえてきた。
今は個人的感情は捨てろ。急がなければ。
「田上の仇。とらせてもらうぞ」
右腕の装備を素早く外す。
汗で蒸れていた手が外気に当たって心地よい。
だがそれも一瞬。直ぐに不快感と強い痛みがやって来る。
ベストに括りつけていた短刀を引き抜き、呟く。
「駄賃だ、持っていけ」
――0.1%。
触れた手のひらに激痛が走るのと同時、白銀だった刀身が青く輝きを帯びていく。
「……ッ!!」
存在を吸われる痛みと喪失。
何故か涙が流れるのも構わずに、轟音響く通りを見つめる。
限界まで見通した先。
何故か前後に飛び跳ねていたブラーの動きが、止まる。
――今!
「――おお!!」
全力で駆け抜け短刀を振るう。
刀身から迸る雷がブラーに触れ、その身体がびくりと跳ねた。
狙うは伸びた首――!!
『ギッ――!?』
青白い刃が首を断つ。
雷が肉を焼き焦がし、決して再生できない深手を与える。
が――。
……寸前で避けられた!!
「なら……!!」
着地と同時、奴の右足首を断つ。
なるほど、確かにここなら細い。
両足を失い、奴の身体がふわりと崩れる。
だがそのままでは倒れずに、奴は右腕で身体を支えてその巨体を振り回した。
『――――!!』
振り回された左腕を飛び退いて避け、追いかけてきた尾撃を屈んで躱し――きれずに衝撃が襲い来る。
「……っ」
尾が頭を掠め、ぐるんと身体が真後ろに跳ねた。
ヘルメットのおかげで致命は避けられたが、右目を血が覆った。
そのヘルメットも故障し、長い髪が曝け出される。
短刀も弾き飛ばされた。代わりに奴の尾を半ばまで焼き切ってやったが。
『――――っ』
奴は未だに雷撃で痺れている。
その隙に
切り裂いた首の傷跡を押し広げていく。
『■■■■――!?』
奴の悲鳴が鳴り響く中、震える身体で短剣を鞘に納めた。
刀身が収まったその瞬間に激痛は止み、視界が元に戻る。
だが同時に銃撃も止まった。
「……っ、はっ、はっ……弾切れか……」
分厚い煙を吐き出す銃の連射でも、奴はまだ殺し切れていない。
ただの雑兵なら数体は殺せるのに。どれ程強力な個体だというのか。
震える身体で弾倉を取り換えようとするが、引き抜いたそれを取り落としてしまった。
リロードすらまともにできんのか、この愚図が……!!
『――――!!』
その隙を突いて奴がこちら目掛けて突進してくる。
両足を失っても、いやだからこそ断面をそのまま地面に叩きつけて動いている。
痛みなど無視した、想定外の挙動――!!
「……くそっ」
駄目か。こんなところで死ぬとはな。
――すまない、田上。生きろ、沢渡。
そして浮かぶ男の顔。
あの刀の贈り主で、自分がここにいる理由。
――これで満足か? お父様……。
そう思考した瞬間、真横から別の衝突を受けた。
「な……っ!!」
見れば先の乱入者。
彼女に押されて壁に叩きつけられ、真横をブラーが通り過ぎていった。
瓦礫に衝突したのだろう。凄まじい崩壊音が響いてきた。
「すまない、助かっ……た……」
「……あなたこそ、女じゃないですか」
そう息も絶え絶えに言う彼女は、私なんて笑えるほどの重傷だった。
左手は失われ、左目も見えていないのか血まみれで瞑ったまま。
他にも裂傷やら打撲やらが大量。死にかけだ。
「お前は……」
「はいこれ」
言いかけた言葉を彼女が遮る。
何か渡して来て……これは?
「……写真?」
「遺影です。足立文香って子に渡してください」
「は? 一体、何を……」
困惑するこちらに構わず、ぐいと顔を近づけてきた。
「いいですね、足立、文香! 覚えました?」
「あ、ああ……? 足立、ふみか……?」
「ええ、託しましたよ。――ふふっ、さあ、ここからです! 全部、奪い返してみせますよ……!!」
「は……?」
ゆらりと立ち上がった彼女が括りつけていた手榴弾を手に取る。
ピンを噛んで引っこ抜くと、血に濡れた顔で楽し気に笑う。
「やってみたかったんですよね、これ」
「何を……」
「じゃ、後はよろしく」
そう言って走ってブラーの方に向かうと……爆発が起きた。
「な……っ!?」
突然の爆風。
思わず伏せた顔をあげたら……そこにいたのはブラーの巨体。
あの女性の姿はどこにもなかった。
……が。
ブラーの巨体がふらりと揺れ、ボロボロの道路に崩れ落ちた。
その首は……最後の爆破によって、完全に断たれていたのだった。
「……なんなんだ、これは……」
――夜鳥羽町封鎖区画内に出現した特殊
討伐者は
死者2名。うち1名は結晶体化。もう1名は……消息不明。
探索成果:死亡
収入:―
支出:¥50,000 【蘇生費用】
¥30,000 【拳銃補充】
¥ 3,400 【弾薬補充】
残額:¥604,350
進行中任務
1:■■■■
2:拠点の修復
3:当該地域からの首飾りの回収
4:当該地域からの遺影の回収