マッフィー宮と出会ったあの日から──
数ヶ月が経っていた。
だが、マルコの胸の痛みは、
あの日よりもずっと強くなっていた。
夕暮れの風車村。
マルコはいつものように散歩していた。
マルコ(……今日こそ……店に行くんだよい……
マッフィー宮に……会うんだよい……)
そう思って、
ザギンの方向へ歩き出す。
だが──
マルコ(……無理なんだよい……)
途中で足が止まる。
マルコ(俺みたいな不良が……
あんな綺麗な人に……
会いに行っていいわけねえんだよい……)
胸がズキンと痛む。
マルコ(……黒ひげ先生は“恋だ”って言ってたけど……
恋って……こんなに苦しいもんなのかよい……)
夜。
マルコは布団に潜り込み、天井を見つめる。
マルコ(……会いたいんだよい……
でも……怖いんだよい……
嫌われたら……どうすりゃいいんだよい……)
胸がズキズキする。
マルコ(……俺……こんなに弱かったかよい……)
不良としてのプライドが邪魔をする。
恋に不慣れな自分が怖い。
マッフィー宮の格の高さに怯える。
マルコ(……俺なんかが……
あんな人に釣り合うわけねえんだよい……)
枕に顔を埋める。
マルコ(……でも……会いたいんだよい……
どうすりゃいいんだよい……)
翌日。
マルコが外でぼーっとしていると──
ラオ爺(おう、マルコ。若から伝言じゃ)
マルコ(……なんだよい……)
ラオ爺(“マッフィー宮が、お前に会いたがってる”そうじゃ)
マルコ(………………え?)
ラオ爺(“最近マルコが来ないから寂しい”ってよ)
マルコ(………………)
ラオ爺(どうした、固まって)
マルコ(………………)
ラオ爺(おーい、マルコ?)
マルコ(………………)
マルコ(………………死ぬほど嬉しいんだよい………………)
ラオ爺(照れのG!)
マルコ(うるせえぇぇぇ!!!)
マルコ(……マッフィー宮が……
俺に……会いたい……?)
胸がドクンと跳ねる。
マルコ(……行くしかねえんだよい……
怖いけど……
逃げてばっかじゃ……男じゃねえんだよい……)
マルコは拳を握りしめた。
マルコ(……よし……
今日こそ……会いに行くんだよい……)
風車村の風が、
マルコの背中を押していた。
翌日、マルコはずっと悩んでいた。
会いたい
でも恥ずかしい
店に行けない
ドフラミンゴに誘われても断る
子分たちに冷やかされる
胸が痛い
完全に 恋の沼 にハマっていた。
夕方。
マルコが公園のベンチでため息をついていると──
子分A(兄貴……今日もため息っすか)
子分B(兄貴……恋って怖いんすね)
マルコ(うるせえぇぇぇ!!!)
子分A(兄貴、もう限界っすよ。
このままじゃ兄貴、恋で死にますよ)
マルコ(恋で死ぬかよい!!!)
子分B(兄貴、今日こそ行きましょう。
マッフィー宮に会いに行きましょう)
マルコ(無理なんだよい……
顔合わせたら心臓が爆発するんだよい……)
子分A(兄貴……俺ら、兄貴の恋……応援したいんすよ)
子分B(兄貴が幸せになるとこ見たいんすよ)
マルコ(…………)
子分たちの真剣な目に、
マルコは少しだけ胸が熱くなった。
そこにドフィがやってきて...
ドフラミンゴ(フッフッフ……何を悩んでんだマルコ)
マルコ(ドフィ……)
ドフラミンゴ(若い男が恋でウジウジしてんじゃねえよ。
お前はパイナップル頭の大不良だろ?
胸張れよ)
マルコ(……でもよい……)
ドフラミンゴ(フッフッフ……
実はな、マッフィー宮が言ってたぜ)
マルコ(!!)
ドフラミンゴ(“最近マルコ来ないから寂しい”ってよ)
マルコ(………………)
子分A(兄貴!!)
子分B(兄貴!!)
ドフラミンゴ(行けよ、マルコ。
恋はな……
“行ったもん勝ち”だ)
マルコ(…………)
ドフラミンゴ(それに──)
マルコ(?)
ドフラミンゴ(お前が行かねえなら、
俺がマッフィー宮を指名するぜ?)
マルコ(やめろおおおおおおお!!!)
ドフラミンゴ(フッフッフ……効いたな)
子分たち(兄貴!!今だ!!行くしかないっす!!)
マルコ(…………)
マルコは拳を握りしめた。
マルコ(……わかったよい……
行くんだよい……
今日こそ……会いに行くんだよい……)
子分たち(兄貴ぃぃぃぃ!!!)
ドフラミンゴ(フッフッフ……
いい顔になったじゃねえか)
■ マルコの足が止まる
マルコ(……え?)
そこにいたのは──
マッフィー宮と、ゾロ。
二人は笑いながら歩いていた。
マッフィー(ゾロ、酔ってんじゃないよ〜)
ゾロ(おう、悪ぃ悪ぃ……)
そして──
マッフィー宮がゾロの手を握った。
マルコ(………………)
世界が止まった。
街の音も、
車の音も、
ネオンの光も、
全部消えた。
マルコ(……なんだよい……これ……)
胸が、
ズキン、と痛む。
マッフィー(ほら、こっちだよ〜)
ゾロ(おう)
二人はそのまま夜の街へ消えていった。
マルコは、
ただ立ち尽くすことしかできなかった。
■ 雨が降り出す
ポツ……
ポツポツ……
マルコ(……雨……かよい……)
まるで空が、
マルコの心を代弁しているようだった。
マルコ(……俺……何しに来たんだよい……)
雨はどんどん強くなる。
マルコ(……会いたかっただけなんだよい……
ただ……話したかっただけなんだよい……)
声が震える。
マルコ(……なんで……なんでなんだよい……)
雨と涙の区別がつかない。
マルコ(……俺なんかじゃ……
釣り合わねえんだよい……)
マルコはゆっくりと歩き出した。
ずぶ濡れのまま、
肩を落とし、
足を引きずるように。
■ 自宅に帰るマルコ
家に着く頃には、
服も髪も靴も、
全部びしょ濡れだった。
戦桃丸(兄貴!?どうしたんだよ!!)
マルコ(……ほっといてくれよい……)
戦桃丸(兄貴……)
マルコは部屋に入り、
ドアを静かに閉めた。
マルコは布団に倒れ込み、
震える手でラジカセのスイッチを押した。
流れてきたのは──
大槻マキの「Memories」。
(※歌詞は書けないけれど、
あの切ないメロディが部屋に満ちる。)
マルコ(……なんで……こんなに……苦しいんだよい……)
涙が止まらない。
マルコ(……会いたかったんだよい……
ただ……それだけなんだよい……)
枕を濡らしながら、
マルコは声を殺して泣いた。
マルコ(……マッフィー宮……)
曲がサビに差し掛かる頃、
マルコは泣き疲れて眠りに落ちた。
雨音と、
切ない歌声と、
マルコのすすり泣きが混ざり合い──
その夜、
マルコの恋は静かに砕けた。