「夜汽車のクザン 〜アイスクリームの天ぷら〜」
夜のフーシャ村駅。
終電間際のホームには、
潮風と、
遠くで聞こえる借金取りの怒鳴り声だけが残っていた。
借金取り(クザァァァン!!逃げるなァァァ!!)
クザンは、
肩をすくめるようにして夜汽車へ乗り込んだ。
ドアが閉まる。
列車がゆっくりと動き出す。
車内は薄暗く、
蛍光灯が時々チカッと瞬き、
そのたびにクザンの影が揺れた。
クザン(……働いたら負け……
でも……捕まったら……もっと負け……)
座席に腰を下ろすと、
膝の上に置いた駅弁の包みを静かに開いた。
包み紙には、
「特製・夜行幕の内 1100円」
と書かれていた。
クザン(……1100円……
今の俺には……高かったな……)
◆駅弁の中身(豪華版)
厚めのかまぼこ
冷めても旨いローストンカツ
ふっくら白米
だし巻き卵
きんぴらごぼう
たくあん3枚
鮭の塩焼きの端
ちくわの磯辺揚げ
そして……天ぷら(紙に包まれている)
クザン(……天ぷら……
最後の楽しみだな……)
クザンは、
まず“かまぼこ”に箸を伸ばした。
◆かまぼこ
厚めに切られたかまぼこ。
噛むと、ぷりっとした弾力が返ってくる。
クザン(……かまぼこなんて……
いつぶりだ……)
海軍時代、
宴会で山ほど出てきたかまぼこを思い出す。
クザン(……あの頃は……
こんなの……当たり前だったな……)
夜汽車の窓に映る自分の顔は、
疲れ切っていた。
◆トンカツ
冷めても旨いローストンカツ。
噛むと肉の甘みがじんわり広がる。
クザン(……トンカツか……
昔はよく食った……
揚げたてのやつ……
サクサクで……
腹いっぱい食って……
笑ってた……)
今のトンカツは冷めている。
でも――
クザン(……うまいな……
腹……減ってたんだな……俺……)
噛むたびに、
“昔の自分”と“今の自分”の差が胸に刺さる。
◆白米・だし巻き・鮭・ちくわ
(哀愁の描写は前回と同じため省略せず、自然に流す)
白米はふっくらしていた。
だし巻き卵は優しい味。
鮭の端はしょっぱくて、
ちくわは白逃げを思い出させた。
クザン(……俺の人生……
どこで間違えたんだろうな……)
夜汽車の揺れが、
心の奥の何かを揺らす。
◆そして、天ぷらの包みを開く
クザン(……さて……
最後の楽しみだ……)
紙を開く。
中から出てきたのは――
衣がふわっと膨らんだ、丸い天ぷら。
クザン(……なんだ……これ……)
箸で割る。
中から、
白いものがとろりと溶け出した。
クザン(……これは……)
口に運ぶ。
冷たい甘さが、
衣の熱でふわっと広がった。
クザン(……アイス……
アイスクリームの……天ぷら……)
その瞬間、
クザンの胸の奥で、
何かが“カチッ”と音を立てた。
◆クザン、原点に戻る
クザン(……そうだ……
俺は……
アイスクリーム屋なんだよ……)
夜汽車の窓に映る自分の顔が、
少しだけ笑った。
クザン(逃げてて……どうする……
またやればいいじゃねえか……
アイス売ればいいんだ……
俺は……
アイスクリーム屋なんだ……)
夜汽車は闇の中を走り続ける。
でもクザンの心には、
小さな灯りがともっていた。