翌日、クラスに朝倉涼子の姿はなかった
当たり前と言えば当たり前のことなのだが、それを当たり前と思っているのは俺だけだった。
岡部担任が「朝倉くんは親の都合でカナダに引っ越した。」などと、どーも嘘くさい、いや長門に吹き込まれたマジの嘘情報を言った時はクラス中が「なんでー?」「えーっ?」とザワザワしていた。
勿論この女、涼宮ハルヒも黙ってはおらず、
「これは事件よ、夜逃げの如く急にいなくなるとかおかしいわ!キョン!スネーク!放課後調査するわよ!」
と言い出したのだ。
事情を知る俺やスネークからすると、探しても絶対に見つからないと分かりきってることだが、「長門と朝倉は情報なんちゃら体の端末で仲間割れを起こした挙句後者はトランクスに気功波で消された」なんて言える訳なかった。
あとスネークの得意分野は調査じゃなくて潜入だろ。まあ…似たようなもんだが。
昼休み、俺は部室へと足を運んでいた。
と言うのも今日の朝。いつものように下駄箱を開けると手紙が入っており、そこにはこう書かれていたのだ。
『昼休み、部室で待ってます みくる』
そして三分とかからず俺は部室前に立つ。とりあえずノックするぞ、と。
「あ、はーい。」
確かに朝比奈さんの声だった。間違いない、俺の耳が腐ってない限り聞き間違えることなどない。俺は安心してドアを開けた。
「キョンくん…久しぶり。」
そこにいたのは朝比奈さんによく似た大人の女性だった。背が俺ぐらいか数センチ低いぐらい高く、胸も彼女と比べ三割増しになってる具合だ。
「あの…朝比奈さんのお姉さんですか?」
その人は可笑しそうに目を細め微笑んだ。笑った顔までクリソツだ。
「うふ、わたしはわたし。朝比奈みくる本人です。ただし、あなたの知るわたしより、もっと未来から来ました。……会いたかった。」
「……」と俺。多分バカみたいな顔をしていたに違いない。
「あ、信用してないでしょ?」
秘書スタイルの朝比奈さんはいたずらっぽく言うと、ブラウスのボタンを外して胸元を見せつけて来た。
「ほら、ここに星型のほくろがあるでしょう?」
信じるも何も、俺は朝比奈さんのホクロの位置なんぞ覚えていない。俺がその旨を伝えると
「あれ?でもここにホクロがあるって伝えたのはキョンくんじゃ…。」
すると彼女は驚きに目を見開き、それから急激に赤くなった。
「やだっ…この時はまだ…うわっ…どうしよっ。」
朝比奈さんは両手で頬を包んだ首を振った。
「わたし…とんでもない勘違いを…っ!ごめんなさい!今の忘れてください!」
「いえ…とりあえず信じます……。あとその…寧ろご褒美と言いますか」
「寧ろぉ!?」
俺がポロリと呟いたことに対して顔を更に赤くし、驚愕する朝比奈さん。その反応の仕方は、小さい方の彼女ぽかった。
「な、な、な何でもありません!」
慌ててて首を振る俺。知らず知らずのうちに銀時に毒されちまったのか俺は?
「……ふうっ…。」
一旦深呼吸をし、朝比奈さんは大人の余裕を取り戻した顔をして言った。
「それと、もう一つあなたに伝えたい事があります。『白雪姫』って知ってますか?」
「そりゃあ知ってますけど…。」
「今後…もし何か、どうしようもない事態に陥った時、この単語を思い出してください。それがきっとあなた達を救う事になるから。」
「あなた達」というのに少し引っ掛かったが、それ以上は何も分からなかった。
「……分かりました。わざわざありがとうございます。」
「ええ…それじゃあ。」
朝比奈さんはそう言うとスリッパをペタペタ鳴らしながら部室のドアへと向かった。と思ったら振り返って
「最後にもう一つだけ、私とはあまり仲良くしないで。」
鈴虫のため息のような声。
出口付近の朝比奈さんに、俺は声をかけた。
「俺も一つ教えてください!朝比奈さん、今、歳いくつ?」
すると彼女は、見る者全てを恋に落としそうな笑顔でこう言った。
「禁則事項です。」