涼宮ハルヒの錯綜   作:ドドロット

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第十三話 閉鎖空間

家に帰った後のこと。

寝る直前まで長門から借りた本を読んでいると、睡魔の野郎が瞼の上でテントを張り始めやがった。

そして、俺は深い眠りへと落ちていった。

 

「…キョン。」

 

誰だ…俺の眠りを妨げるのは。今は遊び疲れてんだ。ゆっくり眠らせてくれ…。金色の眠りから覚める訳にはいかないんだよ…。

 

「起きろってんでしょうが!」

 

首を絞めた手が俺を揺り動かし、後頭部を硬い地面に打ち付けて俺はやっと目を開いた。

…待て、硬い地面?

 

「やっと起きた?」

 

俺が上半身を跳ねあげると、隣にはハルヒがいた。

周りを見るとそこは北高だった。しかも俺はブレザーの制服、ハルヒはセーラー服を着ている。

俺は身体中のあちこちを叩いたりつねったりした。ちゃんと痛い。夢だとしたらここまでハッキリしている筈がない。

 

俺はハルヒを連れて校門に向かった。もしここが閉鎖空間なら、今はいなくとも時期に巨人達も現れる筈だからだ。

 

しかし、いざ学校から出ようとすると、例の見えない壁に阻まれた。裏門も同様。

職員室の窓を割って電話を繋いだりもしたが反応なし。

 

行く当てもない。そんなわけで俺たちはついさっき、夕方後にしたばかりの部室へと足を運んだ。

 

しばらく2人で黙り込んだ後、ハルヒが「探検してくる。あんたはここにいて。」と言い、サクサクと歩いていった。

 

その直後、棚からビーっビーっ、と音が聞こえて来た。俺はそれを手に取る。配線剥き出しの、完成したら携帯電話っぽくなるであろうものだった。取り敢えずボタンを押してみる。

 

『聞こえ……るか……』

 

ノイズまみれで飛び飛びの、トニーの声が聞こえてきた。

 

「ああ!聞こえるぞ!」

 

『ここは……特殊な閉鎖空間らし……い……原因はハル………ヒ………』

 

「おい!トニー!おい!」

 

途切れた。もう一度ボタンを押してみるが、ノイズすら聞こえない。

 

「そう、トニーさんの言う通り、ここは少々特殊な閉鎖空間です。」

 

後ろから聞き覚えのある胡散臭い声がした。俺は振り返る。

 

「古泉か?」

 

「やあ、どうも。」

 

人の形をしているが人には見えない、シルエットだけの赤く発光する人の形が窓の外に浮かんでいた。

 

「これは異常事態です…。それと、僕が今このような姿なのには理由があります。普通の閉鎖空間なら僕は難なく侵入できまが、今回はそうではありませんでした。他の仲間達の力を借りてやっとこれ、しかも不完全です。さらに、これも長くは持ちません。」

 

「どうなってるんだ?原因はハルヒらしいが。それに、ここにいるのは俺とあいつだけか?」

 

その通りです、と言った後、古泉はとんでもない事を話し始めた。

 

というのも、ハルヒは俺らの住む世界に愛想を尽かし、自ら新しい世界を創造することに決めたようなのだ。

それに、涼宮ハルヒという『神』を失ったらこちら側の世界がどうなるかも分からず、最悪の場合無に帰することもありえるらしい。

なお、俺がこの世界にいるのは、彼女に選ばられたからとのことだ。

 

「おっと。そろそろ限界が来たようです。」

 

古泉の赤いシルエットがゆらぎ、そして徐々に縮小し始めた。

完全に消え失せる前に、古泉はこう言い残した。

 

「朝比奈さんは「ごめんなさい、私のせいです」と。長門さんは「パソコンの電源を入れるように」と、おっしゃっておりました。では。」

 

そう言うと、ピンポン玉ほどの球体にまで縮んだ古泉は蝋燭の火を消した時のように、ほわぁっと消えた。

 

 

俺は長門の言葉に従いパソコンのボタンを押した。起動自体はするものの、いつまで経ってもOSのマークが現れない。

すると

 

YUKI.N>みえてる?

 

俺はキーボードを引き寄せてメッセージを打ち込む。

 

『ああ。』

 

YUKI.N>そっちの時空間とはまだ完全には連結を断たれていない。でも時間の問題。すぐ閉じられる。そうなれば最後。

 

『どうすりゃいい』

 

YUKI.N>どうにもならない。情報統合思念体は失望している。これで進化の可能性は失われた。

 

『進化の可能性って結局なんだったんだよ』

 

YUKI.N>高次の知性とは

 

長門が言った事を簡単に説明すると

有希生命体は肉体によって進化に限りがあるのに対し、情報統合思念体は初めから情報で出来てるから無限に進化するとも思いきや、それも違ったらしい。

しかしハルヒは何もないところから生み出す力を持っていて、それを解析すれば自律進化への糸口が掴めるかも知らないと考えたのだ。

 

しばらくして、長門からのメッセージも途絶えてしまった。俺はため息をついて何気なく、本当に何気なく窓を見上げ

 

青い光が枠内を埋め尽くしていた。

 

 

その後、俺は戻ってきたハルヒを連れてとにかく逃げた。逃げまくった。彼女は目を輝かせている。落ち着いてくれ。

 

校舎からとりあえずの距離を取るまで走り続ける。

 

その間俺は考え続けた。もし本当に世界が入れ替わったらどうなるんだ?元からいる人間達は?新世界とやらは超能力者や宇宙人達が当たり前のように存在する世界になっちまうのか?

 

くそっ。アダムとイヴにもなりたくない。俺は認めんぞ

 

「元の世界に戻りたいと思わないのか?」

 

棒読み口調で俺は言った。

 

「え?」

 

ハルヒの輝いていた目が曇ったように見えた。

 

「SOS団はどうする。お前の作った団体だろ。」

 

「いいのよ、もう。だってほら、あたし自身が面白い体験してるわけだし、もう不思議な事を探す必要も」

 

「俺は戻りたい。」

 

「は?」

 

俺の言葉に、彼女は更に目を曇らせていく。

 

「俺はなんだかんだ言いながら今までの暮らしが結構好きだったんだ。あんな風にまた面白おかしく過ごしたい。特にあの7…あいつらと出会ってから、余計にそう感じるようになった。」

 

「…何言ってんの?」

 

「俺は連中ともう一度会いたい。」

 

ハルヒはうつむき加減に

 

「会えるわよきっと。この世界だって」

 

「そうじゃない。」

 

俺は言葉を遮って言う。

 

「元の世界で、だ。」

 

「…な、何よあんた……意味わかんない。」

 

彼女は口を尖らす。怒りと悲哀が混じった微妙な表情だ。

その間にも、神人たちは校舎をぶち壊しまくっており、数も増えていた。

 

「あのな、ハルヒ。お前は知らないだろうが、世界は確実に面白い方向へ進んでんだよ。」

 

ハルヒはつい、と視線を逸らして後者をメチャメチャにする神人達を眺める。そうするのが当然、という表情だった。

 

その横顔は、改めて見ると年相応の柔らかさが浮き彫りになっている。

 

長門は言った、「進化の可能性」と。朝比奈さんによると「時間の歪み」で、古泉に至っては「神」扱いだ。しかし異世界組は純粋に「守るべき存在」と言っていた。

では俺はどうなのか。涼宮ハルヒの存在を、俺はどう認識しているのか?

 

数秒考え込んだ末、俺は朝比奈さん(大)から教えられた「白雪姫」を思い出し、そして意を決した。

 

「ハルヒ。」

 

俺は彼女の肩に手を置く。

 

「実は俺、ポニーテール萌えなんだ。いつだったかのお前のポニテはそりゃもう反則なまで似合ってたぞ。」

 

「はぁ?バカじゃないの?……っ!?」

 

黒い目が俺を拒絶するように見えた。だがそんなのも気に留めず、俺はハルヒへとゆっくりと唇を近づけ、そして

 

ーーーーー唇を重ねた。

 

 

「ひでぶっ!」

 

次の瞬間、俺は後頭部を叩きつけられて目を開いた。視界の先にあったのは俺の部屋の天井だった。

 

「戻って…来れたみたいだな……。」

 

 

次の朝、俺は睡魔と戦いつつトボトボ学校まで歩き、教室の扉を開いた。

そこには、ポニーテールのハルヒがいた。いや、ただ単に短い髪を上げて無理やり括ってるだけじゃあないか。

 

「よう、元気か。」

 

俺は机にカバンを置いた。

 

「元気じゃないわね。昨日、悪夢を見たから。」

 

どうやら昨日の出来事を夢と認識しているらしい。

 

「…ハルヒ。」

 

「何?」

 

「似合ってるぞ。」

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