意識が復活した時、俺は朝比奈さんの膝枕の上にいた。体を起こして自分の位置を確認してみる。
夜の公園だ。
何ということだ。俺は、朝比奈さんの膝枕の上で寝ていたようだ。それに
「いちご牛乳取りに戻ったらタイムトラベルに巻き込まれるとか情報量多すぎだろ!?それにキョンてめぇ!!!みくるちゃんの膝枕で寝てんじゃねェーーっ!!!」
銀時が顔を近づけて何やら嫉妬していた。悪いな、運命ってやつだ。
…いや待て。何でこいつもいるんだ?
「もう脚が痺れちゃって大変です」
朝比奈さんは俺が膝枕で寝ていた事実と、それを銀時に嫉妬をされるという、まさにダブルパンチな状況で顔を赤くしていた。
「なぜ俺は寝てたんですか?それに何故坂田も?」
「時間跳躍の方法を知られたくなかったからです。坂田くんがいるのは、あたし達がタイムトラベルする直前に「いちご牛乳飲み忘れてたァァァァ!!!」って叫んで戻ってきたの。そしたら彼も巻き込まれてしまって」
「じゃあアイツには見られちゃったじゃないですか」
俺がそう言うと銀時は
「ねーよ。みくるちゃんがデロリアンかネコ型ロボットのアレか何かでタイムトラベルしたのかは知らねーし、覚えていることがあるとすれば、あん時俺の脳内はいちご牛乳に関することで埋め尽くされてたぐらいだぞ」
と腕を組んで睨みながら再び顔を近づけた。デロリアンは部室のサイズ的にないだろ。
「坂田くんが来た時は、もう見られてしまっても問題ない段階でしたよ」
朝比奈さんは子供を安心させる母親のような顔で補足する。
「そうですか…それにしても、今はいつですか?」
俺はバリバリと頭を掻き、ついさっき思いついた聞いておきたいことを質問した。
「出発点から3年前の、7月7日です。夜の九時頃かな」
「マジでですか?」
「マジでです」
真剣なお顔をなさった。
えらく簡単に来ちまったもんだよな。しかしいくら朝比奈さんの言葉とて、純粋無垢な子供の如く丸呑みにするほど俺は単純じゃないのだ。確認が必要だ。まず銀時に「視界が急に変わったりしたか?」とか聞いて、その後に117にでも電話…
俺がその旨を伝えようとすると、不意に左肩が重くなり、顔をそちら側に向けると朝比奈さんがすやすや眠っていた。
「朝比奈さん?」
「すう」
なんなんだ、一体何が起きているんだ。
ガサガサーー
突然、背後の植え込みが不自然に揺れて俺の心臓を脅かした。そして出てきたのは
「こんばんは、キョンくん、坂田くん」
またしても朝比奈さんだった。それも成長しまくって大人のお姉さんと化した方のだ。
「ここまであなた達を導いたのはこの子の役目で、これからあなた達を導くのはわたしの役目です」
にこやかにおっしゃる大人の色気朝比奈さんに、俺と銀時は釘付けになる。特に後者は初めて見る大人バージョンを、人生で初めて美しい女性を見た時のような顔で見つめていた。
「あー…これは一体…」
「詳しくは説明できません。理由は禁則だから。なのでぇ、わたしはお願いするだけです」
俺はもたれてすうすう可愛らしい表情で寝ている朝比奈さんの方へと首を向けた。
「眠らせました。わたしの姿を見られる訳にはいないので」
「なぜです?」
「だって、わたしが今のこの立場だった時に、わたしはわたしに会ってないもの」
解るような解らないような理屈だ。魅惑の朝比奈さんは片目を閉じて
「そこの線路沿いに南に下ると公立の中学校があって、その校門前にいる人に協力してあげて。すぐ行ってあげられますか?そっちのわたしは、ゴメンですがオンブして行ってください。あまり重くはないと思うけど」
ロープレの村人みたいなことを言う。
「あ、それから、わたしのことはこの子には内緒ね。約束で指切りする?」
伸ばされた朝比奈さん(大)の小指に、俺は無意識のうちに指を絡めた。その次に彼女は銀時とも同じことをした。
「さよならキョンくん、坂田くん。またね」
「ちょい待て」
明るく言って去ろうとする朝比奈さん(大)を銀時が引き留め
「おめー、歳いくつだ?」
と俺が彼女と初めて会った時と同じ質問をした。結果は分かっている、そう
「禁則事項です」
朝比奈さん(大)は口の端に指を当てて片目でウインクし、闇の中へと歩き去った。すぐ見えなくなる。今回はやけに簡単に帰っちゃったな。