賢者の孫と仙鶴の弟子   作:ΣiGMA

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第2話【シドの師匠の話】

「シン達には、ワシとメリダが旅をしていた頃の話をしておったな?」

 

「確かディスおじさんやミッシェルさん、あとアーロンさんとエカテリーナさんと……そして二人の息子であるスレインさんと旅をしていた時の話しだよね?」

 

 

 自身の誕生日にアールスハイド国王ディセウム=フォン=アールスハイド、エルス自由連合国大統領アーロン=ゼニス、イース神聖国の創神教教皇エカテリーナ=フォン=プロイセン、元アールスハイド騎士団総長ミッシェル=コーリングがマーリンとメリダと共に旅をしていたという事実を知り、そして数日後に二人にはスレインという息子がいたが、旅の途中で魔物によって命を落としたと聞かされていたシン。

 

 故にスレインの名を口にする際に少し躊躇ったのだが、そこで名を出さないのも申し訳ないと思いあえてその名を出しながらそう返した。

 

 マーリンとメリダもスレインの名に僅かに悲痛な面持ちとなったが、シンの優しさも感じ取りまた元の様子に戻る。

 

 ちなみにマリアとミランダはスレインの事は初めて知ったのだが、空気を読んで何も言わなかった。

 

 

「実はのぅ、ワシらの事を綴った本にも書かれてはおらんのじゃが、短い間だけもう一人おったのじゃよ。共に旅をした者がな」

 

「それがナユタさん?」

 

「そうだよ。ナユタはディセウムよりも歳上でね……四人にとって姉のような存在だったよ」

 

「ナユタは武者修行の為に世界を渡り歩いておった最中でのぅ。そんなあやつと偶然出会い、意気投合して僅かな間だけ旅を共にする事になったのじゃ」

 

「その辺のことは師より聞いております。とても愉快で、時に大変なこともあったが人生であれ程楽しかった日々は無いと話しておりました」

 

「あの子らしいねぇ……まぁ、カーチェは特に懐いていてねぇ。ナユタがまた一人旅に戻るとなった時は泣いてせがんでいたくらいさね」

 

「それはスレインも同じじゃったろう」

 

「二人に潤んだ目で懇願されていた時のナユタのあの困りようは今でも覚えてるよ」

 

「あの時に折れて残っていればと……後悔しておりました」

 

「ふむ……スレインの事は知っておったか」

 

「アーロン大統領からの速達で知らされたと」

 

「そうだったのかい」

 

「ナユタは……とにかく面倒見が良くてのぅ、戦闘面でも非常に優れておったわぃ」

 

「あんた達もさっき見ただろう?そこのシドという子が使っていたアレを」

 

 

 メリダからそう問われたシン達は揃って頷いた。

 

 

「ナユタはあたしらが使う魔法とは、また違う術の使い手だったんだよ。それだけじゃない……武器や素手での格闘もかなりの腕前でね。ミッシェルのやつが剣で切ってる横で、あの子は拳と蹴りだけで魔物を倒していたんだよ」

 

「拳と蹴りだけで?!」

 

「そうじゃ。ナユタはここから遠く離れた異国の地より来た者でな?故郷では〝仙鶴〟という通り名で呼ばれておったらしい」

 

「センカク?」

 

「センニンと呼ばれる者がおるらしくてのぅ。そしてツルという鳥のように美しい容姿を持つことからそう呼ばれておったらしい」

 

「あぁ、それについては俺の方から説明した方が良さそうですね」

 

 

 ナユタの事について話していたマーリンに、シドがそう口を挟んだ。

 

 それを聞いたマーリンは〝確かに〟と言って頷き、シドへとバトンを手渡すのであった。

 

 

「先ずは俺が先程使っていた術のことから説明するよ。俺が使っていたのはこの地で使われている魔法とは違う、〝仙氣術(せんきじゅつ)〟と〝神氣術(しんきじゅつ)〟というもので、師の故郷で主に使われている術なんだよ」

 

「センキジュツ?シンキジュツ?なるほど分からん」

 

「それはそうだろうな。なにせ師曰くその国特有のもので、遥か昔には海を挟んだ国から伝わったものだそうだが、その国では既に廃れてしまったものらしいからな」

 

 

 シドはそう話すと、手のひらを合わせ静かに目を閉じる。

 

 するとその数秒後にシドの身体を光の渦が覆い始めた。

 

 

「ど、どうなってんだそれ?」

 

「これが仙氣術だ。そうだなぁ……仙氣術は遥か昔に伝わった元来の術で、〝氣〟という、簡単に言えば生命エネルギーだな。それを身体に行き渡らせ循環させ、力へと変換することで主に身体強化や治癒などを行う術なんだ。そして次に……」

 

 

 そこで話を区切ったシドが再び力を込めると、今度はシドの足元にあった影から一匹の子犬が飛び出した。

 

 その子犬は完全に生きているかのように動き回り、シン達の前に座ると〝ワン〟と一鳴きした。

 

 その姿にシン達は思わず頬を緩めてしまう。

 

 

「これが神氣術。神氣術は自身の氣を他のものに渡す事で効果を発揮する術だ。俺は影を操る〝影操術〟が得意でな……こうして影を生き物へと変えたりすることが出来る」

 

「さっきのカラスもそれによるものだったのか」

 

「そうだ。そしてそれだけじゃない……こうすることで────」

 

 

 その瞬間、シドの身体はまるで影の中に吸い込まれるようにして消えてしまった。

 

 それにシン達が驚いていると、そんなシンの両肩に手が置かれる。

 

 

「こうして影から影へと移動することも可能だ」

 

「うおっ?!」

 

 

 驚くシンにシドはイタズラが成功した子供のような笑みを浮かべる。

 

 

「他にも影の中から武器や道具を取り出したりも出来るんだよ」

 

「便利なんだな……その神氣術って」

 

「それがそういう訳にも行かねぇのよ」

 

「どういうこと?」

 

「さっきも話したろ?氣は生命エネルギーだって。だから調子に乗って使い過ぎると……」

 

「まさか死ぬとか言わねぇよな?」

 

「それがそのまさかなんだよねぇ」

 

「そんな危険なもんなのかよ?!」

 

「いやいや、ちゃんと自分の力量を把握してりゃ本当に便利なもんなんだよ。それに生命エネルギーはしっかりと休めば回復するしな」

 

「そうは言ってもよ……」

 

「魔法だって魔力……だっけ?それを考えねぇで使いまくるとぶっ倒れるだろ?それと似たようなもんさ。まぁどんな力であれ、手前を弁えてねぇと危険しかねぇって事だな」

 

「シドの言う通りさね。この世に便利なだけってもんはひとつだってありゃしないんだよ」

 

 

 シドの使う仙氣術及び神氣術の危険性について不安を感じていたシンだったが、メリダの一言で〝確かに〟と思い改めた。

 

 そのタイミングでコツコツという音がリビングに響く……見れば窓の外には見覚えのあるカラスがシド達の事を見ていた。

 

 

「予想よりも早いな……まさか意外と近くまで来てたりするのか?」

 

 

 そんな事を言いながらシドは窓を開けると、カラスの足に巻き付けられていた紙を手に取る。

 

 それが合図かのようにカラスはシドの影の中へと戻って行った。

 

 

「どれどれ……ぷっ、あはは!」

 

 

 返事を読んでいたシドだったが、次第にその口角が上がると、次の瞬間に思いっきり吹き出し笑い始めた。

 

 その事にシン達がキョトンとしていると、シドは笑い過ぎたが為に出てしまった涙を指で拭いながら返事の内容を話し始める。

 

 

「師は今イースに滞在していたようでして……なんでもエカテリーナ教皇に会いに行ったそうなんですが、門前払いを食らったそうです」

 

「相変わらずの行動力だね……カーチェはもう教皇という地位についてんだから、見知らぬ奴が会いに行っても門前払いを食らうに決まってるじゃないか」

 

「何度知り合いだと話しても無駄だったようで……まぁその矢先の俺からの文だったらしく、諦めてこちらに向かうようです」

 

「あんたみたいに影を使って移動してくるのかい?」

 

「いや、師はどちらかと言えば得意なのは波動系ですから、影を使っての移動はしないでしょうね。それに前々から影移動は確かに楽だが、やはり自分の足で歩く方が性に合っていると言ってましたし、歩きでここに来るんじゃないですかね?」

 

「歩きって……イースからここまでどんだけかかると思ってんだい」

 

「それでもゆっくり歩いて行く方が好きなんですよ我が師は」

 

「そこも相変わらずだねぇ……そういえば一緒に旅をしていた時も馬車に乗るより歩きたいとボヤいていたねぇ」

 

「ちなみに一緒に過ごしていた時も基本歩きでしたね」

 

「そこまで行くと筋金入りさね」

 

 

 メリダがそう言うとシドとマーリンが揃って苦笑を浮かべた。

 

 また蚊帳の外になってしまったシン達だったが、そばで聞いてるだけでも結構楽しかったので、今度は口を挟まなかったのだった。

 

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