賢者の孫と仙鶴の弟子   作:ΣiGMA

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第3話【イースにて】

 シン達がシドの師匠ナユタ=ナルガミの事についてマーリンから聞かされていた頃、イース神聖国では教皇であるエカテリーナ=フォン=プロイセンが創神教の者達に憤りを見せていた。

 

 

「何故お通ししなかったのですか!」

 

「も、申し訳ありません!し、しかし見知らぬ者を無条件にお通しする訳には……」

 

「私の知り合いだと言っていたのでしょう?ならば門前払いなどせずに私に確認を取ってからでも良かったでしょう!」

 

「で、ですが……本当にお知り合いなのですか?」

 

「〝ナユタ=ナルガミ〟と名乗っていたのでしょう?ならばその方は私の大切な……姉のような存在である方です!」

 

「そ、そうであらせられましたか!ま、誠に滅相も御座いませぬ!」

 

「あぁナユタお姉様……数年ぶりにお会い出来るはずでしたのに……」

 

 

 かつて共に旅をし、姉のように慕っていたナユタがせっかく自身を訪ねに来てくれたというのに、まさか門前払いを食らって去っていってしまうとはエカテリーナにとってこれ以上に無い悪い知らせであった。

 

 その事にエカテリーナが非常に落ち込んだ様子で椅子へと腰を下ろし、それを見ていた創神教の司祭は更にその頭を下げることとなった。

 

 それを横で見ていた大司教であるマキナがため息混じりにフォローへと回った。

 

 

「確かに旧き知人と会えなかった悲しみはお察しします……ですが、今は我が国において非常に大切な時期であると考えますと、門番が行ったことはあまり責められるべきではない事だと思いますが」

 

「えぇえぇ分かっていますよマキナ大司教……だからこそこの憤りを誰にぶつけたら良いか分からないのです」

 

「それも概ね理解できますが……そろそろ機嫌を直して頂かなければ。なにせそろそろ〝彼女〟が来る予定でしょうから」

 

 

 マキナにそう諭されたエカテリーナは直ぐにいつもの調子へと戻った。

 

 

「シアル司祭。今回のことはマキナ大司教に免じて大目に見ることにしましょう。ですが、今度からは私に用があると言う者が現れた際は必ず私の確認を取ること。いいですね?」

 

「はい、そのように致しまする」

 

「それでは下がって良いですよ」

 

「はい、此度の件は誠に申し訳ありませんでした」

 

 

 そうして司祭は再び謝罪を述べると、エカテリーナ達の前から去っていったのだった。

 

 そして間髪入れずにエカテリーナ達がいる部屋のドアがノックされる。

 

 

「はい、どうぞ」

 

「失礼いたします教皇猊下」

 

 

 入ってきたのは一人の若い神子……彼女は深々と頭を下げたあと、エカテリーナに向けてこう告げる。

 

 

「カノン=フォン=ニコライ様をお連れ致しました」

 

「分かりました。ありがとう、お通しして頂戴」

 

「はい。それではカノン様、中へとどうぞ」

 

 

 そうして中へと通されたのは一人の少女。

 

 その容姿は非常に美しく、白銀の髪に長い睫毛も白銀……更に灰色の瞳といった人外のような美しさを持つ少女であった。

 

 そんな少女……カノン=フォン=ニコライは一礼したあと、その顔を上げると同時にニッコリと笑って、次の瞬間には出迎えるために立っていたエカテリーナへと抱きついていた。

 

 

「カノン様、はしたないですよ?!」

 

「良いのですよ、カノンとは数ヶ月ぶりに会うのですから、その嬉しさに思わず抱きついてしまうのも無理のない話ですもの」

 

「教皇猊下がそう仰るのであれば……それでは私は失礼致します」

 

「案内ありがとうね?」

 

「勿体ないお言葉です」

 

 

 そうして神子が去った後、エカテリーナは聖母のような笑みを浮かべながら今も抱きついているカノンに声をかけた。

 

 

「カノン、こうして抱きついて来るのは非常に嬉しいのだけれど、流石にこのままでは落ち着いてお話する事が難しいですよ」

 

「むぅ〜……僕はまだこうしていたいのにぃ」

 

「あらあら、カノンはいつまで経っても甘えん坊さんですね」

 

「そうだよ、僕はとっても甘えん坊さんなんだ」

 

「あらあら、うふふ♪︎」

 

 

 カノンがそう言いうのでエカテリーナは仕方ないとカノンを抱き上げそのままソファーへと座った。

 

 その光景にそばで見ていたマキナも思わず表情が綻ぶ。

 

 

「最近お歌の調子はどうなの?」

 

「とっても良いよ!なんならここでお披露目しちゃっても良いくらい!」

 

 

 カノンはそう話すとエカテリーナの膝から降りて、そのままクルクルと踊るように移動しながら歌を口ずさむ。

 

 その歌声は澄み渡るようなもので、聴く者全てを魅了するほどであった。

 

 

(イースの歌い鳥……まさに聞きしに勝る歌声だ)

 

 

 その歌声を静かに聞いていたマキナは心の中でそう思う。

 

 

「〜♪︎」

 

 

 カノンはなおも歌う……その声は次第に大聖堂中へと響き渡り、そこで職務に専念していた者達はその手を止め、彼女の歌声に耳を傾けていた。

 

 

「〜♪︎……どう?どうだった?」

 

「非常に素晴らしかったですよカノン。貴方の歌のお陰で、荒んでいた私の心も癒されました」

 

 

 ついそう口にしてしまったエカテリーナ……それを聞いたカノンはとても心配そうな表情でエカテリーナへと詰め寄る。

 

 

「荒んでたっていったいどうしたの?!何か嫌なことでもあった?」

 

「いえ……私の旧い知人が訪ねに来て下さったらしいのだけれど、門番をしていた方が門前払いをしてしまったようでして。それでちょこっとだけ怒っちゃったのよ」

 

「酷い!教皇様のお知り合いを帰らせちゃうなんて!」

 

 

 その言葉にエカテリーナは思わず嬉しく思ってしまった。

 

 かつて孤児であったカノンをイースへと迎え入れたのは今から数年も前の話だった。

 

 偶然カノンが過ごしていた廃墟の近くを通りかかった魔物ハンターによって保護され、その後その歌声を聞いた彼女の養親であったイースの枢機卿ニコライが引き取った。

 

 その際にカノンの妹と思われるタリカという少女も一緒に引き取ろうとしたのだが、タリカはその発明する才能を買われてエルスの大統領アーロンに引き取られてしまった。

 

 その件で諍いはあったものの、定期的に二人を会わせるという条件が出されたことで、カノンとタリカはそれぞれの国で暮らしている。

 

 カノンにとってタリカと会う日は非常に楽しみであり、会う度にお互いの近況を報告し合っては楽しい時間を過ごしていた。

 

 そのうちカノンの歌声はイース中で有名となり、近隣諸国からもその歌声を聞きつけて彼女の公演に押しかける程だった。

 

 それ故に今では〝イースの歌い鳥〟として有名になったのである。

 

 ちなみにタリカの方も一時期〝天才発明家〟として有名であったが、シンが現れたことで徐々に翳りが見えていた。

 

 しかしタリカはその事でシンを恨んだことは無く、逆にいつか教授を願いたいと思うようになっており、気がつけば魔導具開発者としてのシンの熱狂的なファンになっているのはここだけの話である。

 

 さて、そんなカノンの言葉に嬉しそうにしていたエカテリーナだったが、不意にカノンの表情に翳りが見えたことに気がつく。

 

 

「どうしたのカノン?」

 

「え?あ、うん……教皇様のお知り合いって聞いて、ついシド兄様の事を思い出しちゃって……」

 

 

 カノンはそう話すと静かにソファーへと座る。

 

 その言葉にエカテリーナは悲痛な表情となり、それはそばにいたマキナも同様であった。

 

 カノンは保護される際にタリカと共に〝シド〟という人物もいて、一緒に保護して欲しいと懇願していた。

 

 でなければ私達も行かないと言っていた程で、ハンター達はそのシドという子供を探し回ったという。

 

 しかし一向に見つからなかったので仕方なくあの廃墟に戻って来るかもしれないと踏んでその事を聞いたアールスハイドの兵士が見張りとして交代でその場で待機をしていた。

 

 そのシドが戻ってきたのがその翌日……自らで狩ったのだろう数匹のウサギを手にして戻ってきたのを発見した兵士が話しかけようとしたのだが、シドはそれに目もくれずに廃墟の中へと入っていってしまった。

 

 そしてカノンとタリカの二人がいない事を知ったシドは、手にしていた肉切り包丁を構えながら兵士に二人の行方を問う。

 

 兵士は丁寧に二人のことを話したのだが、その時のシドは信じなかったらしい。

 

 奪われたと思い込んだシドはあろうことか兵士に襲いかかった。

 

 本来なら子供が大人に勝てるわけないのだが、驚くことにシドは数人の兵士達を相手に大立ち回りをし、数人の兵士が負傷する事態にまで発展。

 

 その際に殺されると思った兵士の一人が思わずシドに斬りかかってしまいシドも負傷……シドはその直後に逃げ出し、そうしてまた行方を眩ませたのであった。

 

 それ以降シドの姿は確認されず、結果今でもその行方は分かっていなかった。

 

 まさか現在アールスハイドの英雄でもあるシンの家にいようとは、この時のエカテリーナもマキナも知る由もなかった。

 

 

「教皇様……シド兄様はまだ見つからないの?」

 

「ごめんなさいね……伝手を当たって探してもらってはいるけれど、未だ何の手がかりも得られていないの」

 

 

 カノンを安心させるために嘘を言っても良さそうだが、エカテリーナにとってカノンに嘘はつきたくはない。

 

 もし嘘がバレてしまえばカノンはたちまち酷く落ち込んでしまうだろう。

 

 

「もうあれから数年も経ってるんだよ?!それなのに手がかりも無いなんて……もしかして……シド兄様はもう……死んで……」

 

「カノン」

 

 

 最悪な想定へと思い至り震え始めるカノンの前にしゃがみこみ、その小さな両手を手に取ったエカテリーナは優しい声で告げる。

 

 

「そのような考えをしてはいけませんよ。貴方の大切な愛しい方なのでしょう?なら、貴方が信じてあげなければ、いったい誰が信じるというのです?」

 

「教皇様……」

 

「信じて待ちましょう。信じていればきっと叶うはずです。だって神様は貴方のような優しい子の願いを叶えてくれないはずが無いのですから」

 

「もし……もし、僕がもっともっと有名になったら、シド兄様は会いに来てくれるかな?」

 

「絶対に会いに来てくれます。だって、彼もまた絶対にカノン達を探しているでしょうから」

 

「そうだよね……うん、絶対にそうだよ!」

 

 

 ようやく元気を取り戻したカノンはその場に立ち上がると、〝絶対に有名になるぞー!〟と声を上げた。

 

 

「そういえばカノン。今日はタリカが会いに来るのではなくて?」

 

「そうだった!」

 

 

 カノンはそう言うと慌てて部屋を出る支度を始める。

 

 

「私がお連れ致します」

 

 

 そしてそう話すマキナと共にカノンはエカテリーナにお辞儀をしてから部屋を去るのであった。

 

 それを見送ったエカテリーナはまた椅子へと座ると、〝ふぅ〟と小さく息を吐く。

 

 

(カノンの為にも一秒でも早く見つけてあげなければなりませんね。しかしシド……貴方はいったいどこにいるのですか?)

 

 

 そんなエカテリーナの心の声は当然誰の耳にも入らない。

 

 窓越しに見上げた空は引き込まれるほど澄み渡っていた。

 

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