「えっっっくしっっっ!」
不意に前触れもなくくしゃみをしたシドにシン達は思わず注目してしまう。
「大丈夫か?風邪かのぅ?」
「いえ……生まれてこの方、風邪なんて引いたこともないんで」
「は?嘘でしょ?人間なら風邪のひとつやふたつ引くでしょ」
「いやぁ、それが本当に引いたことないんだよねぇ。それに師から仙氣術や神氣術を教わってから尚更風邪とか引かなくなったし」
「え?関係あんのそれ?」
一度も風邪を引いたことが無いと語るシド……しかも仙氣術や神氣術を会得してからはそれが顕著だという話にシンが食いついた。
「仙氣術って氣を身体中に行き渡らせて循環させるって説明したろ?だからなのか病気になりにくい身体に作り変わるそうなんだよ、師の話ではね」
「何から何までとんでもねぇな」
「まぁ、若さも保てるらしいからな。現に師はこの国の国王陛下よりも歳上だってのに、見た目はまだ20代にしか見えないんだよな」
「そ、その仙氣術って私でも使うことが出来るの?」
「マリア……」
〝若さを保てる〟という話にマリアが思わず前のめりになる。
それを見ていたシンは思わずジト目をマリアに向けていた。
「難しいだろうな」
「そうなんだ……」
「露骨にガッカリすな」
「だ、だって女性ならいつまでも若さを保ってたいもんなのよ!ねぇシド、どうにかして教えてくれない?」
「残念だけど、多分無理」
「そんなはっきり言わなくても……」
キッパリと〝無理〟と言われたマリアはガックリと肩を落とした。
「いや、これにはちゃんと理由があるんだよ」
「理由?」
「なんでも昔、マリアのように師に教えをこおうとした魔法使いがいたらしくてさ……でも結局会得することは出来なかった。師曰く幼い頃からならまだ可能性はあるかもしれないが、ある程度魔法を会得している者には仙氣術を会得する事は難しいらしい」
「ふ〜ん、原因は何なのかね?」
「多分だけどな……魔力と氣は本来相反するものなんじゃねぇかって俺は思ってる。お互いに反発し合うから上手く使えねぇんじゃねぇかと」
「相反するものか……」
「もしまだ魔法を使えない子供の頃からなら、バランスよく魔法と仙氣術を学んでいってってすれば使えるかもしれないがって師はそう話していたっけな」
「そうなのか……ちなみにその〝氣〟ってのは誰でも持ってるものなのか?」
「そりゃあ勿論。なんたって生命エネルギーだからな、持ってなけりゃ可笑しいだろ。もし持ってねぇって奴がいたら、そいつは死んでる奴だな」
「確かにそりゃそうだな。残念だな……もし出来るのであれば俺も教わりたかったんだけど」
「あんたはやめときな」
自身も教わりたかったと話すシンにメリダからの待ったが入る。
「なんでだよばーちゃん?」
「今でさえ自重を知らないあんたが仙氣術や神氣術なんてもん使えるようになってみな?更にとんでもない状態になる未来しか見えないよ」
「た、確かに……」
「シンに仙氣術なんてもん学ばせたら今度こそ大陸ひとつ吹っ飛ぶ魔法とか作り出しそうね」
「あ〜……シンには申し訳ないけど、そんな未来しか思い浮かばないな」
「皆してかよ……」
このような会話はシン達にとっては日常茶飯事のものであるが、シドにとっては違く彼はシンに訝しげな表情を向けながら問いかけた。
「周りから一様にそう言われるとか、お前さん普段から何をしでかしてんの?」
「いや、俺は別にそんな大層なことしてるとは思わないんだけど……周りに迷惑とかかけてないし」
「シン、あんたそれ本気で言ってんのかい?!普段からあたしがどれだけあんたが仕出かしたことで頭を悩ませてると思ってんだい!」
「ご、ごめんってばーちゃん」
鬼の形相でシンを叱責するメリダにシドはなんとなくシンの普段の様子というものが理解出来た。
そしてシシリー達へと顔を向けると、苦笑を浮かべながらこう言った。
「大変だな……あんたらも」
「あはは……割といつもの事なので」
「もう慣れちゃったわよ」
「私はまだ慣れないがな」
◇
それから数日後……まだ日も登らぬ早朝からシドは王都入口の門へと訪れていた。
何故こんな時間からこの場にいるのかといえば、勿論これから来るであろう人物を出迎える為である。
「なんだ?こんな時間から出るのか?」
「いえ、もうそろそろ俺の知人がここに到着する頃合いなので、出迎えに来たんですよ」
早朝に門へと現れたシドに門番が尋ねたのに対しシドがそう返すと、門番は〝そうなのか〟とだけ言ってまた職務へと戻る。
そして待つこと数分後、道の先より一人の人影が現れ、近づくにつれてその人影の容姿が鮮明に見え始める。
それは一人の女性であり、綺麗な白髪にこの大陸ではあまり見ない服装をしていた。
そして女性はシドの目の前に来ると、ふっと笑みを浮かべて口を開いた。
「出迎えてくれたのか?」
「まぁ、師を出迎えるのも弟子の務めですからね」
「お前はまた……私を〝
「俺をここまで育ててくれたのには感謝しておりますが、やはり俺の中での母親は一人なので」
「相変わらずだな。さて……荷を下ろしてから師匠の元へと向かおうか」
「その前に朝食を取られては?それからの方が時間的にも丁度良いでしょうし」
「ふむ……そうするか」
親しく会話を広げるシドと女性────
この女性こそ先日シドやメリダ達が話していた〝ナユタ=ナルガミ〟その人であり、シドの神氣術と仙氣術の師匠であり、育ての親でもある人物であった。
「さて……シドは私よりもアールスハイドに詳しいだろう?手軽に食べれて、しかし腹が満たされる食べ物など教えてくれるとありがたいのだが?」
「それだと串焼きですかね。俺もここにいた頃によく食べてましたし」
「ほう?ならば朝はそれを頂くとしようか」
そんな師弟の会話をしながら、シドとナユタはシドが宿泊している宿へと向かうのであった。
この時何気なくその様子を見ていた門番は、二人はまるで本当の親子のようだと感じたのはここだけの話である。