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【シン視点】
シシリーと買い物をしている最中にシド=ナルガミと名乗る人物と出会ってから数日後……俺の家にはそのシドと、そしてその隣には白く長い髪をした女性が訪れていた。
「お久しぶりですメリダ
「初めまして、シンです。隣にいるのは婚約者の……」
「お初にお目にかかります。シシリー=フォン=クロードです」
「シンにシシリーか……シン、君に至ってはよく知っている。マーリン
「いえ……じーちゃんとばーちゃんのお陰です」
「うむ。その実力、そして実績に驕らず謙虚であるというのは素晴らしいな」
「これで自重を覚えてくれると助かるんだがねぇ」
せっかくナユタさんが褒めてくれたのに、ばーちゃんの一言のせいで台無しだ。
まぁ、実際その通りなのでなにも反論できないんだけど……。
「確かにメリダ師母の言う通りではありますが、そのお陰で救われた事も多いのもまた事実でしょう?」
「その通りなんだけどね。だからといってやり過ぎるのは良くないんだよ」
「そうですね。まぁ、本人もその辺り自覚なさっているようですし、焦らずとも良いでしょう」
ナユタさんはそう話すと真っ直ぐに俺の顔を見てくる。
なんだろう……この人に見られると全てを見透かされているようでなんとも落ち着かない。
「それよりも聞いて下さいメリダ師母!せっかくカーチェに会いに行ったのに門前払いを受けたのですよ?!酷くないですか?」
そのように話題を変えたナユタさん……しかしそう問われたばーちゃんはなんとも呆れた表情でこう言った。
「馬鹿だねぇ、当たり前じゃないか。カーチェももう教皇なんて地位にいるんだよ。いくら知り合いだとしてもそう簡単に会えるような立場じゃないさね」
「でもメリダ師母は何度も会っているのですよね?シン君の誕生日にもわざわざ迎えに行ったと風の噂で聞きましたよ?そもそもなんで私を招待して下さらなかったのですか!」
「何処にいるかも分からないあんたをどうやって招待しろって言うんだい!そんなに招いて欲しかったのならもっと定期的に連絡を寄越すくらいしな!」
「いや……確かにそれは……そう……ですが……」
「師匠、こりゃメリダ殿の言う通りですよ。だから一緒に暮らしていた頃に何度も手紙を送ってはどうかと進言したのに」
「あ、あの時は私も師母達が何処に暮らしているか分からなかったんだ!住んでる場所を教えてくれていたら……」
「教えてくれていたらって、さっきメリダ殿が言ってたでしょ?師匠が何処にいるか分からないって。その状態で居場所教えてくれってのは無理でしょうよ」
「うぐっ……うぅ……」
シドの言葉にナユタさんはぐぅの音しか出せなくなった。
それを見ていたばーちゃんは再び呆れ顔になる。
「何を弟子に言い負かされてんだい。弟子をとったってのに変わらないねぇあんたは」
「こ、こう見えて昔は師匠として手本になるよう務めておりましたよ」
「……って言ってるけど、実際はどうだったんだい?」
「修行中は頼れる師匠でしたよ。まぁ、修行以外はてんで駄目だったですけどね」
「シド?!メリダ師母になんて事を言っているんだ?!修練以外でも立派な師匠だったろう!」
「脱いだら脱ぎっぱなし、洗濯も出来ない、酒片手に爆睡かますし、挙句の果てに料理の腕も壊滅……これの何処が立派だったんですかね?」
「ナユタ……まさか未だに料理が駄目なのかい?」
シドの話にばーちゃんはジト目をナユタさんへと向ける。
するとナユタさんはその容姿とは裏腹にしどろもどろになりながら弁明を始めた。
「い、いえ……これでも昔よりは大分出来るようになったんですよ?な、なぁ……シド?」
「炭を量産してた記憶しかないんですけど?」
「ナユタ……あんたってやつは……」
「シド〜?そこは弟子として師匠を立てる場面ではないのかね?」
「拾われたばかりの頃に〝飯だ〟っつって消し炭出された奴の気持ち分かります?その後に料理本片手に俺が教えても、最終的に出来たのは消し炭だったじゃないですか。なんで味噌を溶かす段階までちゃんと味噌汁だったのが、完成した途端に消し炭になるんですか?焼く段階無かったですよね?いや、それ以上に簡単な刺身でも最終的に消し炭になった時にはある意味才能すら感じましたよ」
「刺身が消し炭になるってどういう状況なんだよそれ……」
ナユタさんのあまりの料理下手具合に俺は思わずそんなツッコミを入れてしまった。
隣に座っていたシシリーもどう言えばいいのか分からず困惑してるし、ばーちゃんなんてもう天を仰いでしまっている。
「まぁそんな感じなんで家事全般は俺の仕事でしたね。つーか師匠……まさかとは思いますが、掃除も洗濯もしていないって事は無いですよね?そもそも食事はどうしてるんです?まさか……外食ばかりとか言わないですよね」
「……」
「うん、先ずは顔をこっちに向けましょうか?」
ナユタさんの反応から察するにシドの言う通りだなこれ。
先日のじーちゃんとばーちゃんの話から面倒見の良いしっかりとした女性だとばかり想像してたけど、ナユタさんは思いの外ポンコツなのかもしれない。
「ナユタ……あんたって子はぁ!」
「ひっ────」
〝スパーン〟と良い音がなり、頭を叩かれたナユタさんはその場で頭を抑えて蹲ってしまった。
そのタイミングでリビングにゲートが開き、そこからじーちゃんを先頭にディスおじさん、ミッシェルさん、エカテリーナさん、そしてアーロンさんが姿を表す。
じーちゃんはナユタさんを見ると目を見開いたが、そのナユタさんが頭を抑えて蹲っている姿に不思議そうに首を傾げる。
しかし後ろにいたディスおじさん達は表情を明るくさせ、ナユタさんに駆け寄っていた。
「久しぶりですな姉上!元気にしておりましたか?」
「おぉ、久しいなディス!お前の方こそ息災だったか?立派に国王をしているのだろう?この国は非常に素晴らしい国だと、よく耳にしているぞ」
「嬉しいお言葉です」
「お久しぶりですナユタお姉様!先日はうちの者が追い返してしまい申し訳ありませんでした」
「気にするなカーチェ。お前の今の立場を考えずに行動した私の方に落ち度があるのだ」
「そんな……ナユタお姉様にそう言われるなんて嬉しいですわ///」
「お久しぶりですわ姐さん。数年振りに会いましたけど、相変わらず別嬪さんですなぁ」
「アーロン、大統領になったんだって?凄いじゃないか。しかし……暫く見ないうちに随分と老けたな?」
「ややわ姐さん……それは言わん約束ですよって」
「久しぶりだなナユタ殿。今もまだ武者修行の旅をしておられるのかな?」
「これはこれはミッシェル殿、ご無沙汰しております。いえ、今は居を転々としながら気侭な旅をしているところです」
「ほう……ならばアールスハイドに滞在中は存分にのんびりすると良いでしょうな」
それぞれにナユタさんと談笑をする4人……しかしカーチェさんが隣に座っていたシドに気付き、ナユタさんへと問いかける。
「お姉様、こちらの少年は?」
「あぁ、私の唯一の弟子で、そして自慢の息子だ」
『息子ぉ?!』
ディスおじさん、エカテリーナさん、アーロンさんの声が重なる。
ミッシェルさんは声こそ上げなかったものの驚きはしたようで目を丸くさせていた。
「なんだ三人共?私に息子がいるの事がそんなに可笑しいか?」
「いえ!まさか息子がおられるとは思わず驚いた次第でして!」
「せ、せやで、兄さんの言う通りでっせ!」
「というかお姉様、結婚なされていたのですか?!」
「いや、結婚はしていない。この子は養子だ。旅の最中、この国を訪れていた際に偶然行き倒れていたところに出くわしてな。これも何かの縁と思い引き取ったのだよ」
「初めましてディセウム国王陛下、エカテリーナ教皇猊下、そしてアーロン大統領。俺はナユタ=ナルガミの弟子にして養子である、名をシド=ナルガミと申す者です」
『シド……だと?(やて?)(ですって?)』
「……?」
シドの名を聞いた途端、ディスおじさん達は揃って表情が固まり、その様子にシドは疑問符を浮かべていた。
その隣にいたナユタさんも訝しげな表情になっている。
「どうかしたのか三人共?」
「おい、お前達……こんな偶然あるか?」
「アールスハイドで倒れていて、名前が〝シド〟となると……」
「偶然とは思えへんわ」
ヒソヒソと話し合いを始めてしまう三人……俺が何事かとシシリー達と顔を見合せていた時、不意にシドの顔に目が止まる。
シドの表情は何かを察したかのように見たことの無い険しい顔をしていた。
「おいどうしたんだよシド?顔怖いぞ?」(ヒソヒソ)
「あぁ……いや、こっちの事だから気にするな」
「……?」
シドの返答に思わず疑問符を浮かべると、ようやくひそひそ話を終えたのか、エカテリーナさんが先頭に立ってシドに話しかける。
「シド……と言いましたね?」
「……はい」
「お訊ねしますが、カノンとタリカという名に聞き覚えは?」
「カノン?タリカ?」
俺は初めて聞いた名前だったのだが、どうやらばーちゃんやシシリーは知っているようで、特にシシリーはその名を聞いて驚いた表情をしていた。
「カノンって……あのカノンさんの事ですか?〝イースの歌い鳥〟の……」
「タリカって言ったら、アーロンとこの〝エルスの発明王〟の名前じゃなかったかい?」
〝イースの歌い鳥〟?〝エルスの発明王〟?初めて聞いたな……。
そんな事を考えていると、それが伝わったのかシシリーがそっと教えてくれた。
「カノンさんは〝カノン=フォン=ニコライ〟と言って、イースのニコライ枢機卿の養子に当たる方で、その美しさと歌声により〝イースの歌い鳥〟として有名なんです。タリカさんは〝タリカ=ゼニス〟と言って、アーロン大統領が養子として引き取った方でして……シン君が魔導具制作でも有名になる以前まで、〝エルスの発明王〟として魔導具だけではなく様々な道具の開発などで有名になっていた方です」
「そうだったんだ……あ、そのタリカ……さんだっけ?俺、彼女の迷惑になっちゃったりしてないかな?」
俺が現れるまでは〝エルスの発明王〟として魔導具界で活躍していたはず……つまり俺が現れてからある意味その座を奪ってしまった形になってしまっただろう。
俺がそんな心配を告げると、シシリーはくすりと笑ってこう答えた。
「それは大丈夫だと思います。確かにエルスの方達の中にはそのような心配を抱いた方もおられたようですけど、タリカさん本人は平気らしく、今はシン君の熱狂的なファンだそうですよ」
「マジで?!」
それを聞いて俺は少し安心した。
と言うより俺ってそんな有名人にまで人気だったんだな……。
そうなってくると益々ある疑問が強くなってくる。
「そんな有名な二人とシドに何の関係があるんだ?」
「何でしょう……分かりません」
ひそひそと話している声が聞こえていたのか、ディスおじさんが咳払いをしてから口を開いた。
「コホン……マーリン殿やメリダ殿、そしてシン君もシシリーさんも我々が何を言いたいのか疑問に思っているでしょう。なのでここは私から皆さんに説明をさせて頂こうかと思います。良いなカーチェ?」
「はい、ディセウム兄さんに一任します」
そうしてディスおじさんの口から語られたのは、俺達が驚くに十分な内容であった。