賢者の孫と仙鶴の弟子   作:ΣiGMA

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第6話【どうやら事情があるようです】

【シン視点】

 

「さて……先ずは事の成り行きについてお話しようか」

 

 

 ディスおじさんはそう前置きをしてからシドと、そしてカノンさんとタリカさんの事について話し始めた。

 

 

 〈ディセウムによる説明〉

 

 あれは今から数年も前……そうですな、マーリン殿がシン君を拾ったくらいでしょうか?

 

 ある日、我が国の魔物ハンターからの報告により、森の中にあった廃れた屋敷の中に幼い少女が二人居たのが発覚しまして、当然その二人はそのハンターによって保護されたのです。

 

 その際に少女達は口々に〝もう一人いる〟と証言していたそうで、それを聞いて私はそのもう一人とやらが戻ってくると予想し兵を待機させていたのです

 

 ちなみに保護した少女達はそれぞれイースとエルスへと引き取られて行きました。

 

 そのすぐ後の事ですな、そのもう一人が戻ってきたのは……。

 

 兵士からの報告曰く、兵士達は戻ってきたその子に事情を説明しようとしたらしいのですが、その子はそれを聞かずに一目散に屋敷へと入っていったそうなのです。

 

 そして少女達が消えているのを知り、兵士達に問い詰めたそうなのです。

 

 〝二人を何処へやったのか〟と……。

 

 兵士達がいくら説明しようとしても聞かず、終いにはその子は兵士達に襲いかかったようなのです。

 

 兵士達はなんとかしてその子を取り抑えようとしたのですが、驚くことにその子は大の大人数人がかりでも捕まえることが出来ず、それどころから普段から鍛えているはずの兵士に傷を負わせるほどの大立ち回りをしたそうなのです。

 

 しかしそのうち、その子に怯えた兵士が思わず剣で斬りつけてしまったそうで……その子は傷を負いながらその場から逃走してしまいました。

 

 その後、他の兵士達がその子の行方を追いましたがついぞ見つけることが出来ず、それから今に至るまでその行方を探していたのですよ。

 

 

 〈説明終了〉

 

 

「そしてその子というのが……」

 

「貴方ですね?シド君」

 

 

 説明を終えたディスおじさんと、その隣にいたエカテリーナさんが揃ってシドに顔を向けると、それまで沈黙していたシドが勢いよくソファーへと座り、そして大きく息を吐いた。

 

 

「はぁ〜……」

 

「もう一度問います……二人の名に聞き覚えがありますね?」

 

「ありますよ……そりゃ大いにね」

 

「やはり貴方でしたか……あの子達が探していた〝シド〟と言う少年は」

 

 

 その場に重く静かな空気が流れる。

 

 エカテリーナさんの疑問を肯定したシドはぽつりぽつりと話し始めた。

 

 

「あの日はでかい鹿がいるのを見つけましてね……なんとか仕留めれば暫くは食うに困らない食料が確保出来ると息巻いて狩りを始めたんですよ。しかし思いの外手こずっちまって……ようやく仕留めて帰ってみれば既に二人はいませんでした」

 

「それで君は我が国の兵士達が二人を何処ぞへと連れ去ったと勘違いしたのだな?」

 

「二人は当時の俺にとって唯一の家族のようなものでした……あの時に怪我させた兵士の方々には本当に申し訳なく思ってますよ」

 

「それで……その後兵士達から逃げた君は姉上に拾われたわけだな?」

 

「そういう事です」

 

「シドを拾ったのは私がこの国から別の国へと渡ろうかと思っていた矢先でな……怪我は幸いにも動脈をはずれていたので簡単な処置で済んだ。その翌日にはもう国を出ていたのだ」

 

「どうりで国中探しても見つからなかったわけです……私が捜索網を編成した頃には既にこの国にはいなかったのですから」

 

 

 ディスおじさんはそう言うと〝ふぅ〟と短く嘆息をする。

 

 

「まぁ過ぎた事は仕方が無いではありませんか。それよりもシド君……どうかあの二人に会っては頂けないでしょうか?カノンもタリカも貴方との再会を……「申し訳ありませんが、今はお断りします」……え?」

 

 

 エカテリーナさんが言い終える前にシドは食い気味でそう返していた。

 

 その言葉にエカテリーナさんはもちろん、俺やシシリー、そしてその場にいた全員が目を大きく見開いていた。

 

 唯一……シドの隣に座っていたナユタさんだけが落ち着いた様子を見せている。

 

 

「何故ですか!どうして……」

 

「落ち着いて下さい。〝会わない〟と言っているわけでは無いです。〝今は〟会うつもりはないと言っているんです」

 

「あの二人は数年も前から会いたがっているのですよ?!」

 

「落ち着けと言っているだろうカーチェ。シドの話を聞け。先ずはそれからだ」

 

「ナユタお姉様もどうしてそのように落ち着いておられ……「カーチェ」……はい、分かりました。先ずは話を聞くことに致しましょう」

 

 

 なおも食い下がろうとしたエカテリーナさんだったが、ナユタさんに睨まれた事で不服ながらも口を閉じる。

 

 

「それで……どうして今は会えないんだ?」

 

 

 空気が重苦しくなってゆくのを感じながら、俺はそうシドに問い尋ねた。

 

 

「俺の問題なんさ」

 

「どういう事だ?」

 

「俺はつい先日まで周辺諸国を旅して回っていた。そんな俺があいつらの今を知らないと思ったか?」

 

「まさか……会いに行ったのか?」

 

 

 シドの思わせぶりな口調に俺が思わず代弁すると、エカテリーナさん達が驚いた表情をした。

 

 対するシドはにこりと笑みを浮かべて頷く。

 

 

「風の噂で〝イースの歌い鳥〟や〝エルスの発明王〟を耳にした……興味本位だったんだ。そんな風に呼びれてる奴ってのはいったいどんな奴なんだろうって……そうしたら────」

 

「カノンさんとタリカさんの事だった」

 

「俺は嬉しかったよ。俺の方でも二人の行方を追ってたからな。そうしてようやく見つけたと思って声をかけようとした。だが……その直前で俺の足は止まっちまった」

 

「……なるほどな」

 

 

 なんとなくだけど、シドが〝今はまだ会えない〟と言っていたその理由が分かったような気がする。

 

 気づけば俺はその推察をシドに向けて放っていた。

 

 

「シド、お前……二人の居場所を守ろうとしたんだな」

 

「話が早いねぇ」

 

 

 シドはそれだけを口にすると、マーリカさんがいれてくれた紅茶に口をつける。

 

 

「会うのは簡単さ。誰も見てねぇところでこっそり声をかけりゃあいい。二人は喜ぶだろうよ。でも世間がそれを受けいれてくれるかは別問題だ」

 

「シン君、どういう事ですか?」

 

「要するにシドは堂々と二人に会いに行きたいんだよ。でも今はシドは言うなれば何者でもないただの魔物ハンター……対する二人はかなりの有名人」

 

「何処の馬の骨とも分からねぇ俺が会いに行ったところで後ろ指を差してくる奴らが現れるだろう。そうなりゃ、せっかく二人が頑張って手に入れた居場所が途端に居づらくなっちまう恐れがあるならば会わない方が良いのか?いや、確かに幼い頃に一緒にあの廃墟で暮らしていた程度だが、そんなもんで切れるほど俺とあの二人の絆は浅かねぇ」

 

「だからお前自身が同じくらい有名になってから会いに行こうって決めたんだな」

 

「そういう事さ。我ながら面倒くせぇ生き方してるよ」

 

 

 シドは自嘲気味にそう話すと、残っていた紅茶を一気に飲み干す。

 

 エカテリーナさん達は……何も言わずただただ瞑目していた。

 

 

「カーチェ……お前さんの気持ちは分かるが、ここは私の顔に免じてシドの想いを尊重してやってくれないか?」

 

「ナユタお姉様にそう言われては、断れないじゃないですか。はぁ……これからどういう想いで接すれば良いのですか」

 

「苦労おかけします」

 

「分かりました……今は貴方の心を尊重しましょう。ですが、必ず会いに行ってあげて下さいね?」

 

「もちろん」

 

「しかしどうするつもりなんや?有名になると言うてもそう簡単にはいかへんやろ?」

 

「そこなんですよねぇ」

 

 

 その辺りはシドも悩みどころらしく、確かに魔物ハンターとして有名になるには余程の成果を上げなければならないだろう。

 

 

「災害級を何体倒したとしても、アールスハイドにはシン君やアルティメット・マジシャンズがおるしなぁ」

 

「ふむ……ならばどうかね?シド君もアルティメット・マジシャンズと行動を共にするというのは?」

 

 

 ディスおじさんがそんな提案をしてくる。

 

 確かに俺達と行動を共にしていれば、もしかしたら魔人討伐にも参加出来るかもしれない。

 

 しかし……。

 

 

「シドがどれくらいの実力か確かめる必要があるな」

 

 

 その言葉はシドを除くその場にいた全員が同意するものだった。

 

 

「ならばシン君、うちのシドと手合わせしてみないか?」

 

「俺がシドとですか?」

 

 

 不意にナユタさんからそのような提案を受けた。

 

 確かに俺がシドの実力を見極めれば話が早いかもしれない。

 

 

「なら、場所を移す必要がありますね」

 

 

 俺はそう言うとゲートを開いた。

 

 

「俺達が魔法の訓練をするのに使っている場所がありますので、そこで手合わせしましょう」

 

「そういう事なら他の子達にも見て貰った方が良いんじゃないかい?」

 

「確かにそうだな」

 

 

 ばあちゃんの言うことも確かだったので無線通信機でオーグ達に連絡を取ると、全員が了承してくれた。

 

 

「これで良しっと……それじゃあ行こうかシド」

 

「あ〜……なら先に行っててくれ。ちょいと訳ありで一緒には行けねぇんだ」

 

「わけあり?」

 

 

 俺がその辺り聞こうとするとナユタさんが〝まぁ後で分かるさ〟と先に行くよう促してきた。

 

 少し訝しんだが、まぁこれ以上追求してもはぐらかされそうなので言われた通り先に普段から使っている練習場へと向かう。

 

 そしてゲートを潜るとそこには既にオーグを始めとしたアルティメット・マジシャンズのメンバーが揃っていた。

 

 

「む?例のシドとやらは来ないのか?」

 

「後から来るってさ。なんか訳ありで一緒に来れないんだと」

 

「訳ありだと?」

 

「その辺り聞こうとしてみたけど、教えて貰えなかったんだよね。後で分かるからって言われて」

 

「そうなのか」

 

 

 そんな会話をオーグとしていると、一緒にゲートを通っていたナユタさんがオーグに挨拶をする。

 

 

「君がディスの息子か?お初にお目にかかる。私の名はナユタ=ナルガミと言って、まぁ流れの術師だ。君の父君とはマーリン殿達と旅をしていた仲だ」

 

「こちらこそお初にお目にかかります。この国の王太子であるアウグスト=フォン=アールスハイドと申します。その節は父がお世話になりました」

 

「ふむ……かつてのディスと似ているな。さて、立ち話もこの辺にして、そろそろ呼ぶとしよう。シド、出てきて良いぞ」

 

 

 ナユタさんがそう言うと、彼女の影が揺らめき、そこからシドが姿を現した。

 

 それを見ていたオーグ達が目を見開く。

 

 

「割と遠いところにあるんだな?予想よりも氣を使った」

 

「大丈夫か?」

 

「問題ねぇよ。微々たるものだ……と、そちらのお嬢さんはお久しぶりだが、他の人達は初めましてだな?俺はシド=ナルガミ……ここにいるナユタ=ナルガミの弟子にして養子、そしてこの国で魔物ハンターをしているもんだ。つい先日まで周辺諸国を旅して回っていたんで不在だったけどな。まぁ宜しく頼む」

 

 

 なんというかシドはあれだ……どんな人が相手でも直ぐに懐に入り込めるって感じだ。

 

 その証拠にオーグ達は初対面にも関わらず警戒心を見せていない。

 

 

「それで……手合わせをするのだったな?シン、お前の話だと実力次第で我々と行動を共にすることになるという話だったが……何故そのようになった?」

 

 

 そういえば通話では詳しいことまで話してなかったんだっけ?

 

 俺はオーグ達に一連の流れを話した。

 

 

「なるほどな……そうなると確かに我々と行動を共にした方が早いな」

 

「だろ?とは言ってもディスおじさんの提案なんだけどな」

 

「父上がそう提案したのなら、実力には問題ないのだろうな。しかし実際に確かめねば納得出来ない者達も現れると……つまり自身も立ち会うことでそういった声が上がるのを阻止したいわけですね?父上」

 

「そういう事だ」

 

 

 オーグの推察にディスおじさんは頷いて肯定する。

 

 仮に俺とシドの二人だけで手合わせをしたとして、その実力を俺が言ったところで完全に信用されるかは分からない。

 

 だが今ここにはディスおじさんだけでなくエカテリーナさんやアーロンさん、そしてじいちゃんとばあちゃんもいる。

 

 この五人の前で実力を示せればこれ以上と無い信頼と信用を勝ち取れるという事だ。

 

 

「それじゃあ早速やろうかシド」

 

「応。審判については……師匠にお願いするか」

 

「構わないぞ」

 

 

 そうして俺とシドはそれぞれの位置へと移動する。

 

 ある程度の距離で互いに向かい合う俺とシド……そして────

 

 

「それでは……始め!」

 

 

 そんなナユタさんの合図と共に、俺とシドの手合わせが始まるのであった。

 

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