シンとシドが手合わせをしていたその頃……イース神聖国ではカノンが自室にて歌を口ずさんでいた。
「〜♪︎」
微かに聞こえるその歌声に彼女の世話係であるシスター達は思わず作業の手を止めてその歌に聞き入ってしまう。
そして一通り歌い終えたところで老いたシスターが声をかけてきた。
「まぁまぁ、いつ聞いても聞き惚れてしまう歌声ですねカノン様」
「ありがとうシスタールミア♪︎」
「カノン様は本当に歌うのがお好きなのですね」
「歌うこともそうだけど、それを皆に聞いてもらうのも好きなんだよね」
「いつも楽しそうに歌っておりますものね。そんなカノン様にお客様がお越しになられてますよ」
「お客様?いったい誰かな?」
「タリカ様です」
「タリカ!」
その名を聞いたカノンは座っていた椅子からピョンっと立ち上がると、嬉しそうにルミアへと駆け寄る。
「ホントにタリカが来てるの?!」
「えぇ本当ですとも。今は来客用の応接室にお待ちしておりますので、さぁさぁ早く会いに行って差し上げて下さいな」
「うん♪︎」
そうしてカノンはタリカに会うためにパタパタと応接室へと向かって行った。
一連の様子を見ていた若いシスター達がルミアへと近寄る。
「嬉しそうですね、カノン様」
「当然ですよ。なにせ妹さんなのですから」
「そういえばどうしてカノン様とタリカ様は別々にお暮らしになられているのです?せっかくなら一緒にお暮らしになられた方が宜しいですのに……」
そんな若いシスターの問いにルミアは微笑みながらこう答えた。
「タリカ様は今や〝エルスの発明王〟とまで呼ばれるお方……幼い頃からその片鱗が見えたと聞いております。それ故にエルスのアーロン=ゼニス大統領が目をかけてタリカ様を引き取られたのですよ」
「カノン様は反対なさらなかったのでしょうか?」
「カノン様もタリカ様の才能を知っていたらしいので、タリカ様の為ならばと受け入れたのですよ」
「そうだったんですね……」
「はいはい、世間話もここまでにしてお仕事に戻りますよ。まだまだやる事は沢山あるのですからね」
『はい、シスタールミア』
そうしてシスター達はそれぞれの作業へと戻って行った。
残されたルミアは先程までカノンが座っていた椅子を手でそっとなぞるように触れてから、優しげな笑みを浮かべた。
(出来ることなら、カノン様の願いが一日でも早く叶うと良いのですが……)
そんな切なる願いを胸に抱きながら、ルミアもまた自分の仕事へと戻るのであった。
ところ変わって応接室────
ここにイースでもエルスでも、そしてアールスハイドでも見ないような奇抜な比較的露出の高い服装をした少女がソファーに座りながらシスターから出された紅茶に口をつけていた。
「美味し……シスターリリアさんやったっけ?随分と腕を上げたんやないの?」
「嬉しいお言葉ありがとうございます。シスタールミア直伝なんですよ♪︎」
「ルミアさんのいれるお茶もホンマ美味しいもんなぁ。そないな事言うてたらまた飲みたなってきたわ〜」
「まぁ!後でシスタールミアに伝えておきますね♪︎」
「よろしゅう頼むで〜」
そんな会話をしていたところ応接室の扉が勢いよく開き、そこから嬉しそうな表情をしたカノンが姿を現した。
「タリカ!」
「なんやカノン
「だってだって、タリカとこうしてまた会えるのが嬉しくてしょうがなかったんだよ!タリカは嬉しくなかったの?」
「嬉しくなかったら今頃こうして会いに来てへんやんか」
そうして二人は互いに大きな笑みを浮かべると、次の瞬間には喜びを表すように抱きしめ合っていた。
「相変わらず元気そうだね」
「カノン姉こそ、元気そうで良かったわ」
そしてゆっくりと身体を離したカノンはタリカの服装を見て思わず苦笑を浮かべる。
「さっきは私に向かって〝端たない〟って言ってたけど、タリカの服装も端たないよね?」
「だってエルスの服はデザインがイマイチなんやもん。うちの父様に言われたってやめる気あらへんよ」
「お義母様には怒られたりしないの?」
「母様は逆に可愛いって褒めてくれとるよ〜。前に〝私も着てみたい〟って言った時はオトンが〝やめてくれ〟言うとったけど」
「それは……怖そうだね」
カノンはタリカの姉でもある為アーロン一家とも関わりがあり、必然的にアーロンの妻でタリカの義母の事もよく知っている。
故にタリカの服装を自身もしてみたいと言った妻に対しての一言に、カノンはアーロンがその後どうなったかが容易に想像出来てしまった。
「まぁカルタス兄様も苦笑はしとったしなぁ……うちとしてはデザインによっては母様も似合うと思うんやけどなぁ」
「へ、へぇ〜……そう……だね……」
そう言いながらカノンは表情を引き攣らせる。
タリカの今の服装は日本で言うところのストリート系ギャルのような服装だ……それをいい歳をした女性が着るとなると、なんともキツいところがある。
それが想像出来てしまったのか、カノンがそのような表情をしていると、タリカもまたそれを察してこちらもまた苦い顔となる。
「アカン……よくよく思えばちぃとキツいもんがあるわこれ」
「まぁ……着たい服を着れば良いんじゃないかな?そんな事よりも、タリカが今日来たのはもちろん参席する為だよね?」
「当たり前やん。なんたってカノン姉の舞台やもん」
タリカがこの日イースへと訪れたのは、数日後に行われるカノンの舞台の観覧の為である。
毎年行われるカノンの舞台……イースの大聖堂で行われる音楽会である。
この音楽会は楽器を用いての演奏はもちろん、カノンによる聖歌を始めとしたカノン自身が作詞作曲をした歌の披露などが行われる。
タリカはそこで使用されるパイプオルガンを作った人物で、毎年この音楽会が開かれる前に必ず訪れて点検や整備を行っていた。
それ故にタリカはエカテリーナ本人から特別にこの音楽会に招待されているのである。
「特等席で見せて貰うさかい、頑張ってや〜」
「もちろん!」
そう言って朗らかな笑みを浮かべるカノン……しかしタリカはカノンのそれが空元気である事を見抜いていた。
「カノン姉……まだシド兄の行方は分からんの?」
そう尋ねると途端にカノンの表情が暗くなる。
「うん……教皇様も頑張って探してくれているらしいんだけど……」
「さよか……」
「タリカの方でも情報は無いの?」
「父様も随分頑張ってくれとるらしいんやけどな、まだそれらしい情報は得られてないんよ」
その言葉にカノンはギュッと服を握る。
そんなカノンにタリカはそっと優しく抱き締めた。
「ほら、そないな顔してたらアカンで?カノン姉は笑顔が一番似合うんやから」
「むぅ……僕の方がお姉ちゃんなのに……」
「お姉ちゃんやからって甘えたらアカンわけやない。それになぁ、なんや近いうちにふらっと現れそうな気がすんねん」
「またタリカの勘?」
「こういう時のうちの勘は当たるんやで?カノン姉、もしシド兄と会えたら二人でお説教せぇへん?〝数年間もうちら放っておいて何してたんやー!〟って」
「確かに……僕達ずっと待ってたんだもん。それくらいしたってバチは当たらないよね♪︎」
「うちらに怒られた時のシド兄の顔が楽しみやわ♪︎」
そう言ってクスクスと笑う姉妹……そんな彼女達を遠くから見ていたシスター達は、その微笑ましさについ口元が綻ぶのであった。