賢者の孫と仙鶴の弟子   作:ΣiGMA

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先日、初めて感想を頂きました
細やかですがとても励みになります


第1部・第2章【福音奏でる歌い鳥】
第1話【お誘い】(シン視点)


「音楽会……ですか?」

 

 

 シドと手合わせをした翌日のこと……またも我が家に訪れたエカテリーナさんからそんな話を聞かされた。

 

 

「そうよ。我が国では毎年、国民の皆さんへの日頃のお礼として音楽会を開いているの。元々はうちのカノンの歌のお披露目として開いたものだけれど、今では楽器での演奏を行う場にもなっているのよ」

 

 

 音楽会か……たしかにあまり娯楽の無いこの世界ではそういったものも喜ばれるのかもしれない。

 

 

「お誘いは大変ありがたいのですが、良いんですか?俺達も招待されて」

 

「ふふ、関係無いわ。なにせ周辺諸国……特にアールスハイドの方からも貴族や国民がカノンの歌を聞きに来るくらいなのだから」

 

「でも音楽会を観たい方が沢山いるとお聞きしました。私達が行ったらその分イースの方々が入れなくなるんじゃ……」

 

 

 シシリーもまた俺も心配していた事を口にした。

 

 するとエカテリーナはまたクスリと笑ってこう答える。

 

 

「それについても大丈夫。音楽会が行われるのは大聖堂前の広場でですから、それに拡声の魔法が付与された魔道具も使用しているから何処からでも聞くことが出来るのよ」

 

「そうなんですね」

 

「それに、今回についてはどうしてもシン君達アルティメット・マジシャンズには参列して欲しいのよ」

 

「どうしてです?」

 

「今回の音楽会は貴方達の慰労と激励を兼ねてますから」

 

 

 エカテリーナさん曰く、元々はイース国民の為に開かれた音楽会だったそうだが、それが周辺諸国にも伝わり近隣からわざわざ足を運ぶ人達が増えてきたらしい。

 

 そして今年に至ってはシュトローム率いる魔人領の件や、それに対抗する為に俺達アルティメット・マジシャンズが発足したというのもあって、今年の音楽会は俺達の慰労と激励を兼ねてはどうかと話が上がったのだそうだ。

 

 

「そういう事であれば是非。音楽会、楽しみにしていますね」

 

「そう言ってくれて感謝するわ♪︎これでシン君達が参列出来ないとなったら残念がる人も出るでしょうし、何よりカノン自身が強く願っていたものですから」

 

「カノンさんがですか?」

 

「そうよ。カノンはずっと貴方達アルティメット・マジシャンズの活躍を聞いててね。いつか感謝を伝えたいと言っていたものですから」

 

「私もカノンさんの歌声を聞けるのを楽しみにしています」

 

「あれ?シシリーとかは行ったことがありそうだって思ってたけど?」

 

「う〜ん……前々から両親達も行ってみたいとは思っていたのですが、貴族用の席の競争率が高くてなかなか席が取れないんですよね。エリーさんはどうですか?」

 

 

 シシリーがそう言って後方へと顔を向ける。

 

 そこにはたまたまうちに遊びに来ていたオーグ、エリー、そしてメイちゃんの姿があった。

 

 初めて顔を合わせてからエリーとメイちゃんは時々こうしてオーグと共に遊びに来たりしている。

 

 じいちゃんやばあちゃんとの話が楽しくてついつい足を運んでしまうらしい……その度に移動係として駆り出されるオーグがある意味不憫で仕方が無い。

 

 まぁディスおじさんもちょくちょく遊びに来てたし、王族がこうして息抜きがてらに遊びに来れるのも、アールスハイドが平和な国なのだという証明だろう。

 

 まぁその平和はシュトローム達魔人によって脅かされつつあるのだが……。

 

 話を戻し、シシリーからそう問われたエリーは手に持っていたカップを置いてから答えた。

 

 

「一度だけありますわよ」

 

「エリーでも一回だけなんだな?」

 

「いくら公爵家といえど、その立場を利用して席を取るなどといったことはしませんわよ」

 

「オーグは?」

 

「私も一度だけ招かれて行ったっきりだな。まだ幼い時だったので王家でまだ行けてないのはメイだけだ」

 

「私も行きたいです!」

 

「ふふ、でしたらお二人も招待する事にしましょうか」

 

「良いんですか?」

 

「構わないわ。折角ですもの、色んな人にカノンの事を知ってもらいたいのよ。そういえば……シド君はどうしましょうか?」

 

 

 シドは晴れて俺達と行動を共にすることが決まったのだが厳密に言えばアルティメット・マジシャンズの一員では無い。

 

 そもそも魔力が無いらしいから、俺が付与した制服も着れないしね。

 

 エカテリーナさんからそう尋ねられたシドは肩を竦めながらこう答えた。

 

 

「こっそり見に行きますよ。俺の影移動はシンの使うゲートと同じで、一度行った場所へは何時でも行けますし」

 

「バレたりしないか?」

 

「前に見に行った時も気配を消して観覧者達に紛れてたから今回も同じようにするさ」

 

「そんなんでバレないのか」

 

「シン、お前さんは普段から道端に転がる石ころを意識しながら歩いているのか?」

 

「いや、それは無いけど……」

 

「それと同じだよ」

 

「仙氣術の一つ〝路傍の石〟は文字通り自らをまるで路傍の石のように他人から意識を逸らす術だからな。相当な手練でも無い限り認識されることはまず無いと言っても過言ではない」

 

 

 俺達の会話にそう入ってきたのはナユタさん……彼女は先程まで鍛錬を行っていたらしく、今し方うちで風呂に入っていた。

 

 

「あらナユタお姉様!お姉様も音楽会へ如何ですか?」

 

 

 ナユタさんと会話する時のエカテリーナさんって本当に嬉しそうなんだよな。

 

 〝お姉様〟と呼んでいるところから実の姉のように慕っているってのが本当によく分かる。

 

 そんなエカテリーナさんからのお誘いにナユタさんは少し考えてから答えた。

 

 

「ふむ……可愛い妹分の折角の誘いだ。私も招かれるとしようか」

 

「その際は是非ともカノンを紹介させて頂きます!常日頃からお姉様の事を話してましたから、カノンもお姉様に会いたがっているんですよ」

 

「そう言われると恥ずかしいものがあるな」

 

 

 珍しく照れているナユタさん。

 

 普段からクール系美人で淑女と言うよりは紳士的な雰囲気を持つナユタさん……それ故に彼女のこの反応は出会ってからまだ日も浅い俺ですら珍しく思える。

 

 

「では皆様がお越しになられるのを心待ちにしています。それでは私は戻りますね」

 

 

 そうしてイースへと帰って行ったエカテリーナさん……この世界での音楽会というのはどういうものなのだろうと俺は内心ワクワクしていた。

 

 そんな時─────

 

 

(ザワッ……)

 

 

「……?」

 

「どうしましたシン君?」

 

「え?いや……なんでもないよ」

 

 

 何故だか胸がざわつくような気がした。

 

 まるでこれから良くない事が起こりそうな……そんな妙な胸騒ぎを抱き、俺は先程までエカテリーナさんがいた場所を見つめるのであった。

 

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