インフィニット・ストラトス Re:RISING 作:最後のVESPERの挑戦状
VTシステム暴走事件から翌日。
何時も通りに1年生寮の食堂で朝食を取る承壱の元に朝食セットを持って一夏、箒、簪、シャルルがやって来た。
「おはよう、アニキ!」
「おはようございます、承壱さん」
「承壱お兄ちゃん、おはよう」
「時城さん、おはようございます」
「皆、おはよう」
一夏達の朝の挨拶を軽く返した承壱。その時、遅れてセシリア、鈴音、ラウラもやって来た。昨日の今日なので包帯は取れてないが元気はあるらしく、授業に出席する様で朝食セットを持ってきている。
それに気付いた承壱は、3人に朝の挨拶をする。
「おはよう、セシリアちゃん達…大丈夫か?」
「私は大丈夫です。痛みはありますけど、授業は遅れたくないので」
「私も。それに、休んでもつまんないし」
「私もだ、『兄上』」
「そうか、元気なら…何?」
承壱が3人の体調を聞いて本人が大丈夫と言うので朝食を食べ始めようとしたが、ラウラが不意に『兄上』と言った為、聞き返してしまう。それには先に食べていた一夏、箒、簪、シャルルも止まってしまう程で、セシリアと鈴音も目を点にしてしまった。
「…ラウラちゃん、兄上って俺の事か?」
「うむ。私を友人として迎え入れてくれて、助けてくれた貴方は私にとって兄そのものだ。よくなかったか?」
「いや、妹分が増えるのは構わないが…誰から教わった?」
「私の部隊の副官だ。日本では尊敬する年上の男性には『アニキ』と呼ぶのだろう?だから私は『兄上』と呼ぶ事にしたのだ」
ラウラの言う事は合っている様だが間違ってもいるので、どこから定義にしていいか分からない。
故にこの話を聞いていた者達は、呆れから額や眉間を押えてしまった。
だが、承壱は思わずニヒルに笑って答えた。
「…好きに呼べ。俺は構わない」
「ありがとう、兄上!」
たった一言だが、ラウラは大いに喜び、眼帯も付けているが可愛い笑顔を見せた。それを見て朝から心を奪われてしまう皆であった。
そんな承壱にとって嬉しい騒ぎもあったが、朝食を食べ終えた承壱達は教室へ向かう。昨日の事件を知っている生徒もいるので、いつも以上に喧噪があった。その喧噪は承壱達が来た事で更に増した。なにせ包帯を巻いた状態のセシリアとラウラが教室に入ってきたからだ。
「おはよー。ねぇ織斑くん、昨日第3アリーナで何があったの?」
「それにオルコットさんとボーデヴィッヒさんも包帯巻いているし。昨日、承壱さんと一緒に第3アリーナで模擬戦して派手にやり過ぎちゃったの?」
「あー、えーと…」
「それは…」
クラスメイトに話し掛けられた一夏と箒は、しどろもどろになってしまった。
機密事項であるVTシステムが原因でラウラのシュヴァルツェア・レーゲンが暴走した結果、セシリアと鈴音、ラウラ本人が怪我してしまったとは言えず、2人は黙りを決め込むしか無かった。
それはシャルルも同じでこっちは両手を振ってはぐらかし、その隣でラウラは申し訳なそうな表情になっていた。
「デュノアくん教えてよ」
「いや、僕も言えないよ…」
「え~?」
「ボーデヴィッヒさんお願い?」
「いや…ダメだ」
このままだとクラスメイト達から詰問が一夏達へ始まってしまいそうなので、承壱が遂に助け船を出した。
「…皆、昨日の件は先生方にも伝わっている。だから、ホームルームの時に千冬先生か山田先生から連絡があるはずだ。その時まで待ってな?」
「ええ~?」
「時城さんがそう言うなら…」
「やっぱり、先生からの説明を待った方が良いよね?」
「そうしよ」
一部納得がいっていないクラスメイトもいたが、大半は待つ事を選び自分の席へ座る。この時、一夏達はホッと胸をなで下ろし、承壱に感謝した。
やがて、朝のホームルームとなり、千冬と真耶が教室に入って朝の挨拶がされる。
「諸君、おはよう」
「「「「「おはようございます!」」」」」
「…1つ、諸君に残念な連絡がある。昨日、第3アリーナにて、ボーデヴィッヒのISが暴走し、その場にいたオルコットと2組の凰が止めに入り、織斑と時城によって沈静する事が出来た。これを踏まえて学園は、月末に行われる学年別個人トーナメントを無事に行う為、ISの総点検を行う事を決定した。また、その影響が出ない様にする為、トーナメント当日までISの使用は授業以外、全面禁止となった」
「「「「「ええええええーっ!」」」」」
承壱達は当事者である為、ある程度の予想は出来ていたが、千冬から連絡事項にクラスメイト達はブーイングの声を出てしまう。
だが、珍しく千冬と真耶は静めさせる事はしなかった。生徒の気持ちを理解しているから、少しでも気持ちを紛らわせる為だろう。
それもあってかクラスメイト達はザワザワと前後左右の隣の者と話してしまうが、そんな事はお構いなしに承壱は質問と共に挙手した。
「千冬先生、1つ質問よろしいでしょうか?」
「何だ、時城?」
「その全面禁止は…当然、専用機持ちも該当しますよね?」
「勿論だ。専用機持ちもこれを機会に総点検を行ってほしいと学園は指示が出ている。これは2年3年も同じ指示が出ている。…優勝を目指している諸君の気持ちは教員達も痛いほど分かる。だが、諸君の体が傷ついてしまう事態は、私達教員が絶対避けたい事だ。理解してくれとは言わないが、今は我慢の時だと思ってほしい…」
またも珍しい事に千冬はクラスメイト達へ頭を下げた。それに合わせて千冬の隣で一緒に真耶も頭を下げてしまった。
これを見たクラスメイト達は、お互いの顔を見合って何かを悟った様に頷いた。
「…先生、頭を上げてください」
「そうですよ、先生方の気持ちはよく分かりました」
「ISが使えなくても練習は色々あるし」
「皆さん…」
最初はブーイングの声を出してしまうクラスメイト達だが、千冬と真耶の真剣な態度に理解してくれたのだ。それに真耶は感動からか目頭が熱くなってしまい、千冬はいつもの厳しさもある笑顔となった。
「…諸君、ありがとう。では、連絡事項は以上だ。1限目に遅れないように」
「「「「「はい!」」」」」
昼休み。
何時も通りに授業を受けた承壱達は、昼食を早めに取り終えて学年別個人トーナメントの対策会議を屋上で開いた。
「さてと、皆集まったな」
「承壱さん、これからどうするの?朝、先生から連絡あったけど総点検なんでしょ?」
鈴音の質問は尤もで、承壱は顎に手を添えて考えなら返答する。
「…予想通りだけどな。VTシステムなんてとんでもない物が仕込まれていたんだ。一斉点検しなきゃまた暴走事故が起こるかもしれないからな」
「油断出来ない、って事ですね」
シャルルがそう言った瞬間、承壱はジッとシャルルに注目する。何か気になる事がある様だ。
「…ど、どうしたんですか、時城さん?」
「油断出来ないってデュノアくん今言ったな?」
「あ、はい…」
「油断出来ないって言うけども、デュノアくんの正体をばれない為に俺達は優勝を目指しているが…一般生徒達は優勝へのハードルが下がったと思っているのも多いだろうな」
「どうゆう事だアニキ?」
一夏の質問に承壱は顎から手を外してセシリア、鈴音、ラウラに視線を向けた。
「セシリアちゃんに猫娘、そして、ラウラちゃんがこの怪我だろ?一部の生徒達には第3アリーナの話が回っているから、『この3人は専用機が修理中だ』と推測するはずだ。仮にISが修理を終わっていても本人達が怪我をしているならベストパフォーマンスは出来ないと判断するから…」
「そっか!強敵が少ないからやりやすくなったんだ!」
「その通り。今年の1年生の専用機持ちは、現時点で…俺にイチ、セシリアちゃん、簪ちゃん、猫娘、デュノアくん、ラウラちゃんと7人だ。一般生徒達からすれば…えー、7人の侍がいるもんだから壁が大きかったんだよ。それは約半分の3人が辞退しているんだから、チャンス以外の何物でも無い。俺達も気張らなければいけないって事だ」
「改めて見ると…すごいメンバーになったね」
簪の一言に皆それぞれの顔を見合ってしまう。
意識した事は無いが、ここにいるメンバーは一部を除いて専用機持ちで一国家の代表候補生。しかもその一部のメンバーは、イレギュラーの男性操縦者2名で、ISを開発した天才科学者の実妹なのだから『すごい』と称されるのは納得である。
「…すごい以上だと思うが?」
「箒さんの言う通りですわ。ここまで集まったのは、紛れもなく一夏さんのせいですわね」
「え?俺?」
セシリアから名前を出されて間抜けな声を出してしまう一夏。だが、すぐにハッと気がついた。
「あっ、そうか…俺がISを動かしちゃったから、国や企業が俺のデータを欲しがっているのか…」
「流れ弾で俺も動かしてしまったけどな」
承壱は意地悪そうに付け足し、一夏は悲壮な表情になるが、一夏はある事を思い出した。
「そういえば…」
「ん?どうした?」
「箒ってさ、保護プログラムの一環でIS学園に来たんだろう?もしかして専用機支給されるんじゃないかなって…」
「いや、一夏待て。確かにプログラムの一環でこの学園には来たが、流石に専用機までは支給されないぞ。第一、私のIS適性はCランクだ。そんな者に専用機を渡しても宝の持ち腐れだろ?」
「でもなぁ…」
「一夏、アンタどうしてそう思ったの?」
鈴音の質問に視線を泳がせてしまうが一夏は答えた。
「いや、この前、シャルルの正体が分かった時にアニキが、『暗殺者や悪者から身を守る為にIS学園に入学させた』って推理したじゃないか。だから、箒が束さんを交渉材料にされるじゃないかと心配になったんだ…」
「ああ~、なるほどな…」
「確かに一夏さんのおっしゃる通りですね…」
「???」
一夏の一言は、セシリアを筆頭に専用機持ちは納得したが、心配されている箒本人はよく分かっておらず、困惑顔となっていた。そこで承壱は箒に補足説明を始めた。
「箒ちゃん、まだよく分かってないみたいだけど、はっきり言っちゃえばこのメンバーの中でデュノアくんよりも危険性を孕んでいるのは君だぞ」
「え?私ですか?でも、私は自分でも分かる程に剣道一筋で、家庭的な事しか出来ない一般生徒の1人ですよ?」
「いや、それは分かるが…束の性格は分かってるだろう?もしも、君が束との交渉の為だけに悪人の人質になったり、その悪人から大怪我を負わされたら、束は絶対にブチ切れる。そうなると最悪、あいつは世界が崩壊してもおかしくない事をしてしまうかもしれないんだ」
「あっ、そうでした…」
「だろ?イチはそんな事になってしまう前に…そして、君自身を守る為の『自衛手段』として専用機の有無が気になったんだ」
そこまで承壱が言うと一夏は大きく頷いた。
「束さんの事だから用意してくれると思うけど…やっぱり、俺は箒が傷付く所は見たくないんだ。変な事言ってゴメン。でも、シャルルを守る為に俺達の誰かが優勝しなきゃいけないこの状況下で、シャルルじゃなくて箒に置き換えた想像をしたら、もの凄く怖くなったんだ…」
一夏の言い分は妙に的を射ており、束の性格を知っている承壱と箒は青い顔になってしまう。それを聞いていた他のメンバーも3人の空気からISを開発した天才科学者の性格がもの凄いと把握したのだ。
そして、ここまで言われた箒自身も色々と想像してしまったのか、青い顔は白い顔になってしまった。
「…わ、私の存在は…思った以上に…危険なのか…?いっその事、姉さんに頼んでみるか…?」
「いや、箒ちゃん、それは止めておこう。あいつの事だからもう既に開発はしているだろう。何かで手間取っているんだと思う」
「…じゃあ、私も近い内に?」
「なるだろうな、専用機持ちに。俺の予想では…7月7日に渡されるんだと思う」
「「「「「「7月7日?」」」」」」
明確な日付が承壱の口から出てきた事で、箒以外の皆はハモってしまった。これまで何度か承壱は推理や予測で事態を解決したが、ここまで明確な日付や数字が出てきたは初めてだったからだ。
「7月7日って七夕よね?なんで?」
「臨海学校も被ってますわね。何故…?」
「猫娘とセシリアちゃんが言いたい事は分かるが、この日は箒ちゃんの誕生日だ」
「「「「「おお~」」」」」
初めて知った箒の誕生日に知らなかったセシリアは祝福の声を出してしまうが、承壱は冷静に続けた。
「…まあ、つまり、束が箒ちゃんに接触してくる日はこの日が濃厚って事だ。専用機を誕生日プレゼントにしてな」
「姉さんならやりかねん…」
「箒の言う通りだよ。束さんなら絶対やるよ。…てか、手紙とメッセージにあった『誕生日楽しみにしてね』って、そうゆう事かアニキ?」
「多分な…」
ハァ~と揃えて、呆れの溜め息を漏らしてしまう承壱、一夏、箒。
幼い頃から破天荒な性格である束を知っている為、いい加減抑えてほしいと思う3人であった。
「…さて、話を戻して、個人トーナメントの対策だ」
「そうだった。俺達のISもしっかり点検しないといけないよな?」
「イチの言う通りだ。このメンバーなら1機ずつ集中してみていこう。簪ちゃん、本音ちゃんにも声を掛けておいてくれないか?」
「分かったよ、お兄ちゃん。あっ、黛先輩も呼ぶ?」
「そうだな…。前みたいにやろう」
2年生の先輩で、整備科のエースで、新聞部の副部長をしている黛薫子の名前を出した簪の提案により、打鉄弐式を皆で組み立て事を懐かしくなる承壱は、これからが面白くなると確信した。
その後、皆で意見を出し合って話は纏まり、体力トレーニングや戦術構築の為の情報収集を行う事が決定したのだった。
一方の職員室。
職員達の大半は昼食を取り終えて、一息つく者もいれば午後の準備をする者がいる。
その中で千冬と真耶は、一息ついていてコーヒーを飲んで寛いでいた。
「…少し落ち着いたな」
「そうですね。朝のホームルームの時に生徒達も理解してくれてよかったですよ」
そう言いながら真耶は一口コーヒーを飲み、横目で千冬を見ると落ち着いたと言っていたが、その表情は険しい物となっていた。
「先輩、どうかしましたか?」
「ああ、すまないな…。どうも上層部の決定にまだ私自身が納得してなくてな…」
「どうゆう事ですか?」
ふむ…と一呼吸を置いてから千冬は喋りだした。
「先月末のアンノウン襲撃事件と昨日の事件と生徒が巻き込まれる事件が断続しているから、私は今回のトーナメントがタッグマッチトーナメントに変更すると思っていたんだ。だが、上層部は個人トーナメントを強行している。しかもその理由がな…」
「…何だったんですか?」
「…『男子3名を巡る生徒間同士のトラブルを起こさせない為』…だそうだ。聞いて呆れたが…」
「えぇ?そんな理由ですか?」
あまりの理由に真耶も呆れてしまうが、詳細な理由を千冬は真剣な顔で語り出した。
「だが、これはよく考えると理にかなっているんだ。ツーマンセルとなると男子2人だけならばそいつらを組ませればいいだろう。だが、3人ならば誰か1人余ってしまい、3人共男女ペアで出場させればいいと言えば良いが…フィギュアスケートの男女ペアでさえ長い時間を掛けてコンビネーションを鍛えるんだ。即席で出来る者は限られるし、その状況で男子3人に近づく女子はハニートラップを仕掛ける者か、色恋沙汰に現を抜かしている者となる。そして、そう簡単に割り切れないのが大半の生徒達だ。そうなると次に起こるのは派閥争いとなる訳だ」
「…そうなると最悪、連鎖的に学級崩壊が起こってもおかしくないですね」
「だからこそ、上層部は個人トーナメントを行うのだろう。学園のISを全て総点検してな」
「ですが…前みたいに襲撃者が来たらどうします?私達教員の数も有限ですし…」
「特に今年の新入生には第3世代型兵器のテストモデルが多いからな…。自衛してもらうしかあるまい。操縦者は勿論、第3世代型兵器を積んだISも守らなくてならない。だからと言って教員が生徒を守る事を放棄する訳にはいかんけどな」
「では、自衛力強化も今回のトーナメントは兼ねているという事ですか?」
「そういう事だ。時城個人をアンノウンが狙った様にたった1人がターゲットにされてもおかしくないからな」
「でも…その時城くんは、たった1人でアンノウンを破壊しましたけどね…」
目を細めて承壱の活躍を思い出す真耶だが、ここでハッとした。
「もしかして、上層部は生徒達の実力を時城くんのレベルまで上げようとしているんですか?」
「…恐らくな。だが、あいつはある種の天才だから難しいぞ。それに今の時城のレベルだと…山田君を倒せるかもしれない」
「え?」
「なんだか分からんな。上層部の意向は…」
思わずぼやいてしまう千冬は、冷め始めたコーヒーを飲む。その心中は複雑以外の何物でも無い。
世界最強の称号を持っていても結局、今は1人の教師であり、たった1人しかいない人間でしかないのだから。
そして、社会人である以上、上から降られた仕事も行わなければいけない。だが、一番悔しいのは恋人である承壱へ掛かる負担だった。
(もう少し私に権限があれば…。承壱、力の無い私を許してくれ…)
承壱が一番忌み嫌う力を欲してしまい、同時に懺悔を心の中でしてしまう千冬。
今、この瞬間にそれしか出来ない千冬は、また険しい顔となってしまうのであった。
放課後の第2アリーナIS整備室。
承壱は1人でロックスミスの整備を行っていた。
他のメンバーは、代表候補生の用事や体力トレーニング等、やらなければならない事をしている。
特にセシリア、鈴音、ラウラは怪我の完治と専用機の修理を優先するべく行動している。
そして、承壱はこのIS整備室で、自前のノートパソコンとロックスミスをケーブルで接続して、そのデータを再解析していた。既に点検は全て終えているが、以前から動きが微妙に承壱に付いてこない感覚があるからだ。
(…ほんの一瞬だけど、動きが付いてきてない気がする。何か妙だ…。なんか、こう…。もうちょっとで何か目覚めそうな気もするし…。ロックスミス…お前も飛びたいのか?)
そう思いながらハンガーに置かれるロックスミスを注目する承壱。
狼を模したそのマスクは、自分を映す鏡にも見えるが、何も答えない。生涯の相棒になるかもしれない機体は人の言葉を介すれば、もしかすると答えられるのかもしれないが、それでも答えられないのかもしれない。
生み出した天才科学者の束でさえも分からない程に一人歩きしている『意思を持つ機械』と対等に対話するのは、改めて難しい事だと承壱は理解する。
(まだまだ始まったばかりだけど、俺の夢の為にも一緒に戦ってくれよ。相棒?)
明確な答えを示す事はしない愛機に心の内で頼む承壱は、鞄からメイビーブルーカラーのヘッドホンを取り出し、スマートフォンと接続して音楽を聴き始めた。BGMとして聞き流しながら作業を行うのだが、曲は勿論お気に入りのユーロビートだ。
実はロックスミスには豊富な拡張領域が備わっており、ブルー・ティアーズと打鉄弐式に追加した武装をロックスミスにも装備させるのだが、承壱は新たな武装を考案していたのだ。それはまだ模索しており、まだ決めていないが、承壱はある事を思い出した。
(…そういえば、ロックスミスって第3世代型ISなのか?)
これまでのバトルや模擬戦、命を懸けた戦闘を経て、殆ど勝利を収めてきた承壱だが、その功績の半分はロックスミスの御蔭だったのは間違いない。
だが、思い返してみれば他のISを圧倒している程のおかしすぎる性能を持っている。
そんな気がして疑問に思い、すぐにロックスミスのデータを調べてみるが、隅から隅まで見ても世代に関するデータが全く無く、何世代か分からない。
(世代のデータが無い…何故だ?束が作ったのなら完璧にして十全のはず…。あいつ何か仕掛けたか?)
ある程度の束の性格と言動を把握している承壱にとってこれは予想外の事だった。
得体の知れない恐怖もあったが、好奇心と興味から更に調べていくが、これ以上は新しい発見は見つからなかった。
(ダメだ…これ以上は本人に聞かないと分からないな…)
時には諦めも肝心だと思い、後は束本人と会った時に聞いてみる事にしたが、一つの推理が承壱の脳内に浮かんだ。
(まさか…世代その物を設けず、世代自体を『廃止』したのか…?それにロックスミスは、あの『始まりの機体』と同じく位に小型で、尚且つ似通っている部分が多い…。だとしたら、ロックスミスは…既存のISと異なり『完成されたIS』を目指しているんじゃないのか…?いや待て待て…千冬が言っていたな、『ISはそもそも完成していないのだから欠陥も何も無い』って…。でも、ロックスミスは全てのISを凌駕している様な気がする…。だぁ~、ダメだぁ~!やっぱり作った張本人に聞かないと全く分からない、か…)
悲壮な表情になり、今回の調べ物はここまでにして、本題に移る事にした承壱。その時になって漸く周りの状況に気付いた。
なんと自分の周りには、多くの整備科の先輩方が集まっていたのだ。しかもその大半が簪の打鉄弐式の組み立てに参加していない見た事も無い先輩方だった。
「おあーっ!」
「「「うわーっ!」」」
驚きのあまり叫びながらパシンッとノートパソコンを閉じた承壱。それに釣られて驚く先輩方。
慌ててヘッドホンを取って承壱は、先輩方に質問を飛ばす。
「な、何してるんですか、皆さん!覗かないでください!」
「えー、もうちょっと見せてくださいよ、時城さん~」
「時城さんのIS、滅茶苦茶気になるの!」
「参考にさせて!お願い!」
「絶対嫌だ!勝手に覗く人達に見せる物なんて無い!」
「「「ええ~?ケチ!」」」
「ハモるな!」
承壱の言う事は尤もであり、機密を見られてしまった以上、承壱は怒りのツッコミを披露する。それでもまだブーイングの声は収まらないので、電話で千冬を呼ぼうとするが、そこにある者達が来た事で治まった。
「騒々しいっスね」
「何の騒ぎだ、こりゃ?」
「ん?」
その声がした方に承壱は振り向くと2人の女子がいた。それぞれ2年生と3年生で顔付きから白人女子だ。
2年生の方は、特徴的な口調でけだるそうにしており、整っているとは言いがたい長い黒髪を太い三つ編みにして首に巻き、体躯は平均よりも小さめだ。
3年生の方は、口調から男勝りな性格らしく、うなじに束ねた金髪で身長は高めで背筋はしっかりしており、自己主張が激しい様で胸も大きめだ。しかも制服はスカートが短く、下着が露出する程までにスリットが深く入っており、黒のガーターベルトを着用している。
そして、2人を見た承壱は見覚えがあった。
「えーっと、3年生のダリル・ケイシー先輩と2年生のフォルテ・サファイア先輩…で、合ってますか?」
「おお、合ってるっスよ」
「初見殺しかよ。やるな、お前」
「良かった、合ってた…」
ダリルとフォルテが登場した事で、整備科の先輩方は各々の目的の為に散って行き、意外な人物の登場に名前が合っていた事で承壱は安心する。
「じゃ、改めて…オレは3年のダリル・ケイシーだ。お前の噂はよく聞いてるぜ?オレの方が先輩っても、そっちの方が年上なんだし、オレの事は気軽に呼び捨てで構わないぜ」
「いいのか?」
「あぁ。オレは今17歳だけど、そっちは18。今年で19になるんだろ?」
「そこまで知っているのか…やれやれ」
「女子高生の情報収集力をあまり舐めない方がいいぞ」
「…らしいな。改めて留めておくよ」
頭を掻きながら了承する承壱。ふと視線を感じて、フォルテがジーと承壱を見ていた。身長差がある為、少し屈んで承壱は対応する。
「この流れだと、フォルテって呼んでもいいか?」
「べ…別にいいっスよ。フォルテ・サファイアっス…。アンタの事はこっちも噂とかで聞いてるっスよ。そっちの方が年上なんだし。その代わり、私もアンタの事は名前で呼ばせてもらうっス」
「まあいいよ。好きに呼んで」
「じゃ…じゃあ…承壱さんで…」
「OK」
そして、ダリルとフォルテはハンガーに置かれるロックスミスに近づいて、その姿をまじまじと見ていた。
「へ~、これがお前のISか。いかにも狼って感じだな」
「強そうっスね」
「自慢の相棒だ。さっきは知らない先輩方にデータ見られて騒いじまったんだよ。うるさくしてすまなかったな」
「そりゃ、お前…ヘッドホンしながら作業したら周りが聞こえないだろ?自業自得だろうが」
「以外と抜けてるっスね」
「…返す言葉もない」
ケタケタと2人に笑われてしまい、珍しく悔しい顔になってしまう承壱だが、2人がここに来た理由は大方の目星が付いていた。
「そういえば…2人共、代表候補生だよな?」
「おっ、それも知っているのか?情報通ってのはマジだな」
「当てて下さいっス」
「…ダリルがアメリカ、フォルテがギリシャ」
「当たりだな」
「正解っス!」
「よし」
ちょっとした名誉挽回にグッと拳を握って喜ぶ承壱。だが、すぐに承壱は真面目な顔になった。
「…無駄話をしに来た訳じゃないんだろ?代表候補生なら専用機があるから、総点検でここに来た。違うか?」
「あ~、それもあるけどよ…実はな、オレ達お前と戦いたいんだよ」
「え?」
「ダリルの言う通りっス。私達は承壱さんとバトルがしたいんっス。2対1の変則バトルっスけど」
急な2人の申し出に承壱は目が点になるが、悪い気はしなかった。
最近になって自分はバトルジャンキーになっている様で、むしろ、専用機持ちなら理由は何であれ喜んで相手した所だ。だが、今の学園の状況では出来ない。
だからこそ、承壱は少し考えてから答えた。
「…その申し出、受けよう。ただし、ダリルとフォルテも先生から言われただろう?俺達1年専用機持ちのトラブルが原因で、学年別個人トーナメントまでISの使用は授業以外全面禁止になっている。だから、俺から1つだけ条件がある」
「なんだよ?」
ダリルの返しに承壱は一呼吸を置いてから話し出した。
「…今回の学年別個人トーナメント、俺が全勝優勝したら2人と対戦するというのはどうだろうか?俺としても1年最強の称号を手に入れてから、それ位の経験値と自信を付けてから対戦したいんだ。それにどうやっても2人と対戦できるスケジュールは、学年別個人トーナメントの後で、トーナメントの最後の最後に行う『エキシビションマッチ』という形でやった方が他の生徒達にも良い影響が出ると思うんだ。どうだろう?この条件を呑んでくれるなら対戦したい」
承壱の提示した条件は、お互いのスケジュールを考慮した物で、全く悪く無く2人はお互いの顔を見合わせた後、首を縦に振った。
「良いぜ、オレは問題無いぜ」
「私もっス。それでお願いするっス」
「良し、千冬先生に伝えておくよ。まあ、トーナメントの最終日に出来れば、の話だけどな」
「出来なかったら、私闘にしようぜ。どっかのアリーナを借りてな」
「ああ。よろしく頼む」
そう言って承壱はスッと右手を差し出した。握手だと悟ってくれたダリルは素直に応じ、フォルテも慌ててダリルの後に応じてくれた。
(どうゆう思惑か知らないが…この申し出、断るのは勿体ない。遠慮無くやらせてもらおう。それに…皆には悪いが、今回のトーナメントは俺が優勝させてもらう。退屈させてくれるなよ)
学年別個人トーナメントは、シャルルの秘密を守るべく1年専用機持ちメンバーの誰かが優勝しなければならないが、今回の話は承壱個人に提案された物で、承壱はメンバーに黙ってやる事にしたのだ。こんな事態になったと知ったら、一夏を筆頭に止めに入られるのは間違いない。だからこそ、承壱は千冬のみ伝えて、一夏達には黙る事にしたのだ。
この選択が吉となるか凶となるか。それは誰にも分からない。
承壱は楽しみの期待からニヒルな笑みを浮かべるのであった。
つづく
現在公開可能な情報
ラウラ・ボーデヴィッヒ
とうとう承壱を『兄上』と呼び始める。原因は間違いなく部隊の副隊長。間違いは無いだけに誰も文句が言えない。
ダリル・ケイシー
IS学園3年生。アメリカ代表候補生。エキシビションマッチで承壱と対戦する事になる。どうやら何か思惑があるらしい。
フォルテ・サファイア
IS学園2年生。ギリシャ代表候補生。ダリルと共にエキシビションマッチで承壱と対戦する。ダリルとただならぬ関係の様だ。
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