インフィニット・ストラトス Re:RISING 作:最後のVESPERの挑戦状
「おい、今の話、マジか?」
「「…」」
「いや、2人揃って黙っちゃ分からんよ」
「「…」」
「ハイでもYESでもいいから答えろよ」
「…ハイ」
「…YES」
「バカ。別々に答えるな」
入学式翌日の朝8時。
1年生寮の食堂内には右も左も見れば女性ばかりで、職員も当然ながら女性である。そんな中、承壱は『幼なじみのよしみ』という事で一夏と箒を誘って朝食を取っていたのだが、2人が同室である事を初めて知り、更に結婚を前提にした真剣交際を始めたのを知り、こうして質問を飛ばしたのだが、どうにもこうにもポンコツ化しているのだ。
「あのなぁ~、交際するのはいいけど、しっかり1から10まで説明してくれ。気になるからよぉ~」
「えーと…どこから話せば…」
「こんな話…中々…」
「はぁ~…まぁ、話したくなったら話せよ。さ、早く飯を食っちまえ。冷めるぞ?」
そう促されて一夏と箒も朝食を食べ始めるのだが、この時点で承壱の朝食は全体の半分が食べられていた。
「…食いながらでいいから、2人共よく聞けよ。恐らくだが、俺とイチに専用機が来るぞ」
「んうぐ!」
「承壱さん、それは本当ですか?」
承壱のいきなりの発言に一夏は喉を詰まりかけ、箒は箸を止めて問い掛けた。それに承壱は難しい表情になった。
「あくまで推測だ。ただでさえ貴重な男性操縦者なのだから、サンプル取りがされるのは時間の問題だしな。それに昨日箒に見せてもらった束の手紙にも俺達用の専用機を作る様に仕向けるってみたいな事が書いてあったからな…。急ピッチでやっているんじゃないか?」
「…束さんの事だから届ける時にアニキにも会いに来るんじゃないか?」
「姉さんなら、やりかねんな…」
「まぁ、貰えるなら大切に使おう。専用機が来たら、箒ちゃんも一緒に訓練しないか?」
「もちろんです!」
「よかったな、箒」
朝食を食べながら重要な話をする3人だが、そこにもう1人やって来た。
「承壱、おはよう。隣いいか?」
「おっ、千冬。おはよー!」
なんとやって来たのは千冬であった。1学年の寮長を務めているからか、ここで朝食を生徒と一緒に取る様で、持ってきたトレーには朝食セットが並べられていた。
千冬に気付いた一夏と箒は、公私のどちらで挨拶すればいいか迷い、お互いの顔を見合ってしまった。それに気付いた千冬はある事を言った
「おはよう、2人共。今はまだ朝だからいつも通りでいいぞ。箒も昔みたいに接していいからな」
「あ、ああ、分かったよ、千冬姉…」
「分かりました…」
(公私分けるの上手いな)
そう思いながら承壱は完食しており、食後の緑茶を飲んでいた。
「朝から賑やかにしていたが、どうしたんだ?」
「俺とアニキの専用機の話。それと…千冬姉…」
「なんだ?朝から改まって?」
一呼吸、間を置いた一夏は食事を進めていた箸を置き、決意の表情となって千冬へ顔を向けた。
「…俺、箒と…結婚を前提に付き合う事にしたんだ」
その言葉を聞いて既に箸を置いていた箒も覚悟の表情で千冬へ顔を向けた。
「…どうか、私達の交際を許してくれませんか?」
いきなりの事で目が点になった千冬だが、すぐに自分を取り戻して承壱へ視線を向けた。唯一の血の繋がった弟が、親友の妹と交際するならば安心と不安が生まれるのは必然だろう。千冬の心境を察した承壱は、笑って「見守るしかない」と答えてあげた。
「…朝からこんな話をするとはな。時間が無いから簡単に済ませるが、一夏、箒を悲しませるんじゃないぞ」
「っ、ああ!」
「…箒、交際は許すが、まだ学生である事を忘れるんじゃないぞ」
「っ、ありがとうございます…」
2人に交際の許しを出した千冬は、承壱に向き直って言葉を掛けた。
「承壱」
「ん?」
「…2人を頼む」
「任しときな」
簡単な言葉で千冬に頼まれるが、承壱にとってそれは何時もの事で、言葉を飾らずに返答した。2人の間には、並の恋人以上の信頼と信用で構築されているからだ。
その後、承壱達は千冬と別れて教室へ向かうのであった。
時は進んで昼休憩。
昼食を早めに取った承壱と一夏と箒は、クラス代表を巡るISバトル対策会議を学食で行っていた。
「さて、昨日はISバトルでクラス代表を決める事になったが…現状、俺達は実機で訓練する事が出来ないそうだ」
「アニキ、それはなんで?」
「一夏、私が山田先生から聞いた話では、訓練機やアリーナの使用の予約が一杯らしい。特にこの時期は2年生と3年生が優先されているそうだ」
「え、それじゃあ、どうするんだ?」
箒が得た情報から一夏は頭を掻いて悩んでしまう。それは承壱も同じだ。
「…さっき3時限目の前に千冬が、俺達用の専用機が支給される事が決定されたって言っていたが…問題はそれがいつ来るかだ」
「あっ、そっか…。機体の特性が分からないとどう動いていいから分からないもんな…」
「…もうこの際だからシンプルに筋力トレーニングや勉強等をした方がいいんじゃ…?」
「箒ちゃんの言う通りだな。最終的にはそれになるよな…やっぱり。後、イメージトレーニングも大事だな」
「「「…はぁ~」」」
3人は自分達が置かれている状況に手詰まりを感じて、揃って溜め息を出してしまった。その時、承壱に一つの閃きが出た。
「…そういえば、この学園、トレーニングルームも完備しているから、放課後にでも行ってみるか?」
「おっ、アニキ、ナイスアイディア!」
「それがいいですね。そこで体を作っておきましょう」
「よし、では放課後以外は勉強に専念して知識の方も特訓するぞ。そして、放課後はトレーニングルームで体力と体を作る。いいな2人共?」
「「はい!」」
話が纏まり教室に戻ろうとするが、3人の前に他のクラスの女子がやって来た。制服の襟元にあるリボンの色が赤なので3年生の様だ。
「ねえ。君達って噂のコ達でしょ?」
「…そうだが」
承壱が代表で返事をし、3年生は自然な動きで一夏の隣の席にかけ、若干傾けた顔を一夏へ向けた。
「代表候補生のコと勝負するって聞いたけど、ほんと?」
「はい、そうですけど?」
「でも君、素人なんだよね?IS稼働時間いくつくらい?」
「いくつって…20分くらいだと思いますけど」
「それじゃあ無理よ。ISって稼働時間がモノをいうの。その対戦相手、代表候補生なんでしょ?だったら軽く300時間はやっているわよ」
3年生の発言から承壱は、この時点で学園中に噂が広まってしまった事を理解した。
そして、もう一ついい情報が手に入ったのだが、同時にこの3年生の行動目的が理解した。
(なるほど、そうゆう事か)
「でさ、私が教えてあげよっか?ISについて」
3年生の申し出に一夏は返答に迷ってしまった。承壱と箒と一緒にやると決めたのもあるが、手段も増えると思ったからだ。
しかし、先に口を出したのは承壱だ。
「…イチ、断れ」
「え?っ!…すいません。先輩、結構です」
「私達は私達のやり方で戦いますので、心配はいりません」
一夏と箒は承壱の目を見た瞬間、3年生の申し出を丁寧に断った。2人の圧は思った以上にあり、3年生はたじろいでしまった。
「そ、そう。それなら仕方ないわね…」
そう言って3年生は軽く引いた感じで何処かに行ってしまった。
「アニキ、ありがとう。先輩を追っ払う為に断らせたんだろ?やっぱり、アニキはすげーや」
「それはちょっと違うと思うぞ、一夏」
「え、そうなの?」
一夏の質問に承壱は頷き、正解を述べた。
「…お前、ハニートラップに掛かるとこだったぞ。すぐに即答していたら、ぶん殴っていたが…箒ちゃんのお陰でお前が迷って一瞬の間が出来たから、断りの一言を出せたんだ。だから、感謝するならお前の恋人に感謝しろ、イチ」
「そうか…ありがとう、箒」
「私は…今は何もしていないが、お前の為なら私も何でもするさ」
承壱に言われた事を理解し、一夏は笑顔で箒に感謝を述べ、箒はそれを笑顔で返したのであった。
「…さて、それじゃあ2人共、教室に戻るぞ」
「ああ」
「はい」
(…しかし、ずいぶん積極的になったな、箒ちゃんは。誰に似たんだか…あっ、俺か)
翌週、月曜日。
クラス代表を決める対決の日となった。第3アリーナ・Aピットで制服からISスーツに着替えた承壱と一夏、2人のセコンドとして箒が集まっていたが、承壱と一夏の表情は暗かった。
因みに向かいのBピットには現在セシリアが待機している。
「…丸々一週間、トレーニングと勉強しかしなかったな。これでいいのか?」
「その台詞は、健全な学生生活を送ってる奴への皮肉の台詞だよ、アニキ…」
「でも、このままじゃマズいな…」
暗い表情になっている2人の傍では箒もオロオロしてばかりだ。
何故なら、承壱と一夏の専用機は、今日まで影も姿も無くまだ届いていいからだ。この状況に承壱は遂に痺れを切らして大急ぎで量産機を借りに行こうとしたが、駆け足で真耶がやって来た。
「織斑くん、時城くん、お待たせしました~!」
「「「やっと来た!」」」
待たされていた承壱達は、は~っと大きく息を吐いた。すると承壱は大きな声で不満を言い出してしまう。
「時間掛かりすぎだろ!何でだ?何でなんだ?俺達が男だからか?男だからわざと遅くしたのかぁ?これは女尊男卑派の陰謀か!」
「アニキ落ち着いて!」
「山田先生がびっくりしているから、落ち着いてくれ承壱さん!」
「あぁっ、す、すいません、山田先生…」
「い、いえ、怒りたくなる気持ちも分かりますよ」
いきなりの承壱の激怒に驚いてしまう真耶だが、状況が状況だけに同情してくれた。その真耶に謝罪しながら承壱は気持ちを切り替えた。
その時、機械的で分厚いピットの搬入口が開いた。斜めに噛み合うタイプの防壁扉は、重い駆動音を響かせながらゆっくりとその向こう側を晒した。
そこには『白』と『藍色』が装甲を開放して操縦者を待っていた。
「これが…」
「はい!織斑くんの専用IS『白式』と時城くんの専用IS『蒼月』です!」
「…一夏、もしかするとこの機体、まだフォーマットとフィッティングが終わっていないんじゃないか?」
箒の指摘に一夏も気付いた。承壱も既に気付いているが、不思議な位に黙っていた。
フォーマットとフィッティングをしっかり設定しないと専用ISは自分の思い通りに動かないからだ。
「…仕方ない。イチ、ぶっつけ本番でやるぞ」
「稼働しながらでも出来るらしいからな…やろう、アニキ!」
2人は決心してぶっつけ本番の戦いを望む事にした。そこに千冬も遅れながら合流した。
「2人共、遅れてすまない」
遅れてきてしまった千冬だが、承壱と一夏に早速手引きする。
「2人共、準備はもう出来ているな?」
「頭と体は昨日で準備完了。心もバッチリだ、千冬先生」
「俺もアニキと同じく大丈夫です!」
「そうか。なら、乗ってみろ」
「「了解!」」
力強く返事をした2人はそれぞれのISに触れる。
「背中を預ける様に…ああそうだ。座る感じでいい。後はシステムが最適化をする」
千冬の教えに従って、承壱と一夏はゆっくりとISに乗っていく。
完全に体を機体に預けた後、各部装甲が閉じて、操縦者と機体が文字通り『繋がる』。
その時だった。
「っ!マジか…」
「アニキ?」
「イチ、やっぱりお前が先に言ってくれ…。こいつとんでもないじゃじゃ馬だ。フォーマットとフィッティングが完了するまで全機能が…停止されている」
その承壱の一言でこの場にいた誰もが驚いてしまった。
「フォーマットとフィッティングは稼働しながらでも可能らしいが、完全に機能停止するのは…あるのか千冬先生?」
「…いや、私もあまり聞いた事が無い。こうなるとただのマトになってしまうな…。織斑、時城の言う通りに先行で出てもらうぞ?」
「了解」
「ISのハイパーセンサーは問題無く動いているな。一夏、気分は悪くないか?」
いつもの教師としての態度のままだが、千冬は心配が勝ったのか一夏を名前で呼んでいた。その声には微妙な震えまでISを装着している一夏と承壱は知覚した。
「大丈夫、千冬姉。いける」
「そうか…」
一夏の返事を聞いてほっとした声を出した千冬。実の弟が初めての専用機を使うのだから緊張と心配をしてしまうのも無理はないだろう。ちょっぴりだが、承壱は一夏が羨ましくなったが、心に抑えた。
「…イチ」
「アニキ?」
「…『それでも』と言い続けろ。自分を見失うな」
「うん…」
「…一夏、初戦だから、勝っても負けてもいい。だが、怪我しないで戻ってきてくれ」
「箒…。分かった、ありがとう」
承壱と箒から激励とも取れる言葉をもらった一夏は気を引き締めて、ピット・ゲートに進む。
「織斑一夏、白式、行きます!」
そうして白式と共に一夏は飛び出して行った。
「お待ちしてましたわ、織斑さん」
先に第3アリーナに出場していたセシリアは専用機『ブルー・ティアーズ』と共に出場した一夏を出迎えた。
ブルー・ティアーズの外見は、非固定浮遊部位に特徴的なフィン・アーマーを4枚背に従え、王国騎士の様な気高さを感じさせる。その表情は余裕もあるが、未知の相手に警戒もしている表情だ。
「ごめん、オルコットさん。今さっき機体が届いたばかりで、フォーマットとフィッティングをしながら相手させてもらうから」
「その様子ですと時城さんも同じ…?」
「ああ。でもアニキは俺より酷いよ。フォーマットとフィッティングが終わるまで、全機能停止だってさ」
一夏の報告受けたセシリアは、同情してくれる様で目を細めて苦笑してしまった。
「それは災難でしたわね…」
「ああ」
うんうんと頷く一夏だが、気を引き締めたのを知らせる様に白式の装備を確認にしてから、右手に光の粒子が放出・成形され、名前もまだ付いていない渡り1.6メートルもある近接ブレードが展開された。
それを合図にセシリアもブルー・ティアーズの2メートルを超える長さがあるBTエネルギーライフル『スターライトmkⅢ』を展開して右手で構える。
既に試合開始のブザーは鳴っている為、どちらかも仕掛けておかしくないが、セシリアは言葉を続けた。
「だからと言って手加減はいたしませんので、悪しからず…」
「対戦よろしく頼む」
「さあ、一緒に踊りましょう。私、セシリア・オルコットとブルー・ティアーズの奏でる円舞曲で!」
その台詞と共に開戦はセシリアの射撃から始まった。
ISバトルが始まって数十分が経過した。
ISバトルは、相手のシールドエネルギーをゼロにすれば勝利となるのが基本ルールだ。
ただし、バリアを貫通されると本体がダメージを受け、破損箇所等は大なり小なり後の戦闘行為に影響を与えるが、忘れていけない能力がISには備わっている。それは『絶対防御』という能力で、操縦者が死亡しない為にあらゆる攻撃を受け止めるが、シールドエネルギーを極端に消耗するのである。
一夏とセシリアの戦いは一進一退の攻防を繰り広げていた。セシリアは正確な射撃で一夏を狙い撃つが、一夏はタイミングよく避けて、セシリアとの彼我距離を詰めて近接ブレードの一撃を何度も繰り出した。その結果、セシリアはブルー・ティアーズのBT兵器『ビットユニット』を4機同時に展開した。
自立機動兵装らしく擬似的に一対多数の戦況を作り出せるこのビットユニットは、レーザーを発射して一夏の死角ばかり狙うが、一夏は直撃を免れる様に体を動かし、ジクザクな軌道で攻撃を避けつつ接近して攻撃を再開する。
ピットのリアルタイムモニターから見ていた光景だが、承壱は一夏が確実に強くなった事を理解した。
(あいつ…見切っているのか?いや、あれはブレオンの動きだな)
ブレオン。それは特定のアクションゲームで近接武器のみ装備して戦う者達の総称。一夏の動きは正にそれで、細かい回避動作と共に敵との距離を詰めて痛い一撃を与えるヒットアンドウェイ戦法だった。
(ん?)
一夏の動きに感心したその時、承壱は自分の体が軽くなってきたのを感じた。ハイパーセンサーから表示されたのは、『Complete, system activated.』の表示だった。
「…やっと終わったぜ」
承壱のその呟きから、モニターに注目していた千冬達が振り返った。
そこには、余剰熱が各部から排出されて蒸気に包まれたネイビーブルーの蒼月だったと思われるISが存在していた。そのISは、非固定浮遊部位は設けておらず、狼をモチーフにした全身装甲式のコンバットスーツの様で、承壱が装着しているのは分かった。
だが、驚く事は蒼月が初期の形状よりもかなり大きく形状を変えてしまっていた事だ。
「承壱、それが…」
「ああ、蒼月…いや、『ロックスミス』の真の姿だ」
「ロ、ロックスミス?」
いきなりの改名宣言に真耶は眼を丸くしてしまうが、承壱はお構いなしに続けた。
「こいつの名前ですよ、山田先生。蒼月なんてダサすぎるから…。『全ての状況を鍵屋の如く打破する』という意味を込めて、こいつはロックスミスだ。文句、ありますか?」
この承壱の強気な発言に箒は目を輝かせ、真耶はまたオロオロして、千冬はニヒルに笑った。
「…お前の機体だ。お前がそうしたいなら私は何も文句は言わない」
「ありがとう、千冬先生」
礼を述べながら承壱は各部計器を早速確認しならが、機体コードを変えるのであった。
その一方。一夏とセシリアのISバトルは大きく動いた
「まさかここまでやるとは…正直、侮っていました。織斑さん、過小評価をしていた事を撤回させていただきます」
「それはありがとう。でも、オルコットさんも充分強い!」
「ありがとうございます。でも、褒めても勝ちは譲りませんよ!」
「当たり前っだ!」
回避と共に距離を詰めていく一夏だが、セシリアにやっていた様にビットユニットにも接近し、一斬必殺を繰り出して遂に3機目のビットユニットを破壊した。
双方、目立った損傷はあまり無いが、シールドエネルギーは充分削られていた。
俗に言ういい勝負というのかもしれないが、まだ勝負はこれからだ。
(ここまで強いとは…承壱さんを実の兄の様に慕って、教わったのも多いでしょう。ですが、まだ終わりません!)
そう思いながらセシリアはスターライトmkⅢを撃つが、一夏はまた回避してしまった。
(射撃が正確だから読みやすいけど、やっぱり早い…!オルコットさんはビットの操作に集中して、その時に自分が攻撃出来ないのを自覚しているみたいだから、早く決着を付けないと!)
セシリアとブルー・ティアーズの弱点に早く気付いた一夏は、上手くそこを攻めて4機目のビットユニットも切断した。
「このまま…行くぜ!」
道が出来たと確信した一夏は、セシリアの方に向き直って、近接ブレードを構え直してから加速した。
「…かかりましたわ」
ニヤリとセシリアが笑い、腰部から広がるスカート状のアーマーの突起が外れて稼働した。
「お生憎様、ビットユニットは6機あってよ!」
それは先程まで一夏が破壊したレーザー射撃をするビットでは無く、『弾道型』であった。
(しまっ!)
咄嗟に近接ブレードを前に出して防御の姿勢を取った一夏だが、直撃は免れなかった。
赤白い爆発と光に一夏は包まれた。
「一夏っ!」
モニターを見詰めていた箒は、思わず声を上げた。千冬と真耶も爆発の黒煙に埋まった画面を注視するが、承壱だけは違った。
「…はっ、遂に覚醒したか!」
その言葉に千冬も安堵の表情となった。
かすかに漂っていた黒煙は吹き飛ばされ、純白の機体が真の姿で現れた…。
『Complete, system activated.』の表記がされたのを確認した一夏は、呆ける暇を持たずにすぐに動いた。
(一撃だ…次の一撃で仕留める…!)
その思いを乗せて完全に自分専用になった白式を加速させる。
隠し球のミサイルビットで仕留めきれなかったセシリアは距離を取ろうとするが、一瞬遅く動いてしまった為、あっと言う間に一夏に追いつかれてしまい、咄嗟に近接ショートブレード『インターセプター』を展開しようとしたが、遅かった。
「チェストォー!」
一閃。袈裟斬りで下ろされた白式の近接ブレードは、ブルー・ティアーズの『絶対防御』が作動してシールドエネルギーを一気にゼロになり、決着を告げるブザーが鳴り響いた。
『試合終了。勝者-織斑一夏』
アナウンス一瞬の出来事でISバトルは終え、一夏に敗北したセシリア、第3アリーナに詰めかけていたギャラリーとAピットにいる箒と真耶は、静寂になった。
だが、承壱と千冬はニヒルに笑っていた。その直後、第3アリーナは歓声に沸き包まれたのだった。
「箒ぃー!アニキィー!やったぜぇー!」
「一夏!よくやった!流石私の恋人だ!」
勝利から大喜びでAピットに戻ってきた一夏。そこに箒はダイブして抱きついた。勢いのあまり何回か回ってしまう2人に承壱も微笑んでしまう。
「箒ちゃん、嬉しいのは分かるけど、危ないからダイブはしちゃいけないぞ」
「ああ、すいません…」
「しかし、イチ、よくやった!流石、俺の弟分だ…と言いたいところだが、浮かれるんじゃ無いぞ。次は俺との対戦だ」
「時城の通りだ、織斑。10分後に再開するからシールドエネルギーを充電してこい」
「あ、はい!」
千冬の指示を聞いた一夏は、浮かれる自分を律し、抱きついた箒を下ろして白式のシールドエネルギーの充電へ向かった。それを見ながら承壱は、一夏とセシリアの試合を思い返していた。
(一夏の最後の一撃…あれは強力な一撃だったな…。明確に胴体を斬ろうとしていたから絶対防御が発動したのもあるが、あのブレードには何か能力がある様だ…注意しよう)
そう思いながら承壱はロックスミスの装備を確認する。
(電磁ナックルと近接戦闘用のブレードにライフル…更に両腕にキャノンと肩のマイクロミサイルランチャーか…。どれも俺好みの武器だが、誰がここまでやってくれたんだ…?まさか、あいつか…?)
承壱の頭の中には、希代の天才科学者であり、幼なじみの姉が浮かんだ。こう思ってしまうのも無理は無い。何故ならロックスミスのデザインをしたのは紛れもなく承壱本人であり、それを知っているのはその天才科学者だからだ。
(まぁ、それは後で調べるか…。今は、初めてのISバトルだからな)
10分後。
承壱と一夏のISバトルが始まった。
最初は承壱が多くの射撃武器を活用して弾幕を張り、一夏を近づけさせない様にしていたが、一夏はセシリアとの試合で確立したブレオンスタイルで攻め、確実に張り付いていった。
だが、承壱もただでやれる訳が無く、隙あれば一夏に接近戦を仕掛けて何度も刃を交えた。
そして、開始から数十分が過ぎた。
「織斑くん、頑張って!」
「時城さん、負けないでください!」
「どっちも勝って!どっちも負けないで!」
ギャラリーにいるクラスメイト達の声援が拾われ、2人は体の内側から込み上げてくれる物を感じたが、体力は消耗しており、肩で息をしていた。
既に承壱と一夏のシールドエネルギーは6分の1しか残っておらず、ロックスミスが現在使える射撃武器は手持ち式のライフルのみとなっていた。一方で白式は所々に傷ができているが、ほぼ五体満足となっていたが、連戦である為、一夏の体力は大きく消耗している。
「…本当に強くなったな、イチ。習得の難しいブレオンスタイルを体現するとは思ってなかったぞ」
「アニキが『イメージトレーニングも大切だぞ』って言ってくれたからだよ!このまま…勝たせてもらうぜ…!」
「ハッ!初戦が勝ち星だからって調子に乗るな!バテてるのが、見え見えなんだよ!」
右手に実弾式アサルトライフル『ブラストシューター』、左手に近接戦用超高周波ブレード『マグナブレード』を持って、最後の攻撃の為、承壱は加速した。
ブラストシューターを乱射して一夏の行動を妨害するが、一夏はハイパーセンサーを活用してジクザクに軌道を描きながら弾丸を躱し、逆に承壱へ接近した。
「チェストーッ!」
雄叫びを上げながら一夏は近接ブレードを大きく振りかぶり、承壱はマグナブレードで応戦。
激しい鍔迫り合いとなり、お互いに押し合う形になった。
「この距離なら!直撃するのに…何で撃たないんだ、アニキ!」
「…『撃たない』じゃ無い。『撃てない』だよ、弾切れだからな!」
ブラストシューターを手放して、空いた右手でマグナブレードを押して一夏も押し出そうとする承壱。
だが、一夏も負けない。
「…それでも!」
「うお!」
近接ブレードの向きを変えて、力の流れる方向を変えた一夏。その勢いのまま承壱は一夏の後方へ移動してしまった。それを逃さない一夏は追撃を仕掛けた。
「これで…最後だぁー!」
近接ブレードの切っ先を前に突き出して、トドメの一撃を繰り出す一夏。
「やらせる、か!」
承壱も姿勢を整え振り返り、カウンターとしてマグナブレードの切っ先を突き出す。
その瞬間、2人の間に閃光が走った。
翌日、1年1組の朝のショートホームルーム。
「では、1年1組代表は織斑一夏さんに決定です。あ、一繋がりでいい感じですね」
教壇に立つ真耶が嬉々として喋っているが、右頬にガーゼを貼っている当の本人は不満げだ。
「先生、質問です」
「はい、織斑くん」
「昨日、俺は試合に一勝一敗したんですけど、俺がクラス代表で本当に大丈夫なんですか?」
「それは…」
「まあ、簡潔に言うと俺とオルコットさんが辞退したからだな」
承壱の一言にクラスメイト達は注目した。その顔の左頬には絆創膏が貼ってあり、昨日の激戦を物語っていた。
「やっぱり、イチがレベルアップしてくれると皆、嬉しいんだよ。それにお前の一勝は、『代表候補生に勝った』という大きな意味を持つ一勝だ。誇れよ、自分を」
「そうです。一夏さんは私を見事に倒されました。快くクラス代表の座を託しますわ」
承壱に続き、セシリアも続けた。
本来なら昨日はセシリアも承壱とISバトルをするはずだったが、ブルー・ティアーズの損傷が思った以上に激しく戦闘行為までは出来なかった為、『不戦勝』という形で承壱も一勝一敗になった。
だが、承壱の言う通り、一夏のレベルアップが先決と考えた為、2人は密かに話し合って辞退したのだ。
2人の言い分にやっと納得した一夏だが、ある事に気付いた。
「…ん?今、俺の事、名前で呼んだ?」
「ええ、言いました。私、初めて声を掛けた時に名前呼びにして欲しかったのですが、中々言う機会が無くて…ダメでしたか?」
可愛らしい仕草で聞いてくるセシリアに一瞬、ドキッとしてしまう一夏だが、箒の視線を感じて平静になって答えた。
「ダメじゃない。寧ろ、クラスメイトなんだから名前呼びでも構わないさ。アニキもそうだよな?」
「…ああ、そうだな。俺達はもう友人だ。専用機持ち同士仲良くやっていこうか、セシリアちゃん?」
「はい。よろしくお願いします、承壱さん!皆さんもこれからよろしくお願いします!」
「「「「「よろしく~!」」」」」
阿吽の呼吸とはこの事を指すのかもしれない。そう思った承壱の肩に誰かが手を掛けた。知っている力加減で視線を上げると千冬だった。
「…私はお前になってほしかったがな、時城」
「だから、俺は有事の際の『副代表』さ。それで悪くないだろ、千冬先生?」
承壱は左の瞼を閉じながら答え、千冬も漸く納得してくれた様だ。
「…まあ、いいだろう。では、クラス代表は織斑一夏。異存は無いな?」
千冬の言葉に『はーい』とクラス全員一丸となって返事をした。一夏は覚悟を決めた表情になり、箒はこれまで以上の努力が必要になると思い、セシリアは次の勝利を誓う。
各々が想いを強くする中、承壱は、ふと窓の外の景色を見た。
(…黒い雲が出てきたな。もしかしたら、午後は雨か?そうなると予定を変更して、皆で機体の整備をするか)
この考えが、また新たな運命を引き寄せるのであったが、それはまだ誰も知らない。
つづく
現在公開可能な情報
織斑千冬
承壱の幼馴染みで恋人。異性としてお互い相思相愛。
承壱と交際している影響で性格はマイルドになっており、生徒ヘの教育は、間違いを直させて誉める時はしっかり褒める様にしている。
織斑一夏
織斑千冬の弟。承壱を兄貴分として慕っている為、「アニキ」と呼んでいる。その影響なのか妙に勘が鋭くなった。また、自分の過ちを直ぐに改善する様に心掛けているので、公私をしっかり分けている。
篠ノ之箒
篠ノ之束の妹。承壱の影響からか自分の気持ちに素直で正直に話せる事が出来て、とても優しくそれでいて積極的な大和撫子となる。
それは一夏と同室になった際に起こったトラブルを活用して「結婚を前提にお付き合いしてください」と直ぐに言う程である。
セシリア・オルコット
イギリスの代表候補生で、オルコット家の若き当主。英国貴族らしく冷静沈着で物事を正確に分析するが、時には場の空気に流され、年相応の行動を取ってしまう事もしばしば。
この性格になっているお陰か、クラス代表を決める時はクラスメイト達を落ち着かせてから承壱を推薦した。
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