インフィニット・ストラトス Re:RISING   作:最後のVESPERの挑戦状

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第4話:遅れて来たのはセカンド幼なじみ

4月も半ばにさしかかり、場所によっては季節外れの大雨で桜の花びらはすっかり散ったが、多くの学生や新社会人は新生活に慣れてくるだろう。

それはIS学園の1年生達も同じで、一週間後にクラス対抗戦も始まるので、その熱気は日に日に増している。

1年生は遂にISの実践授業も始まるのだが、承壱が扇動した『簪の打鉄弐式組み立て騒動』の影響なのか1組と4組は妙に結束力が高まっており、ISの急降下と完全停止を失敗してグラウンドに穴を開けてしまう様な墜落事案等が起こる事は無くスムーズにIS実践授業は進んでいた。

夜。

IS学園の正面ゲート前で、小柄な体に不釣り合いなボストンバッグを持った少女が立っていた。

「ふーん、ここがそうなんだ…」

一人呟く少女の黒い髪はツインテールに纏めてあって、その容姿と相まって全体的に可愛らしい印象を受ける。顔付きは日本人に似ているがよく見ると中国人で、鋭角的でありながらどこか艶やかさを感じさせる瞳だ。

「えーと、受付ってどこにあるんだっけ?」

少女は上着のポケットからメモ紙を取り出すが、クシャクシャになっており、少女が大雑把な性格と活発さを表していた。

「本校舎一階総合事務受付…って、だからそれがどこにあんのよ?」

呆れた顔で紙を見て、またポケットに仕舞う。

「ま、テキトーに歩いていれば、いつか見つかるでしょ」

なんともいい加減な結論に辿り着くものである。

そんな事で目的地に到着できれば、この世に地図もナビも生まれていない。

少女の足はとにかく動いている。思考よりも行動を取るいいが、良く言えば『実践主義』、悪く言えば『体が先に動く』だろう。

「…元気かな、アイツ」

少女は表向き政府の命令でIS学園に来ているが、本人にそんなつもりはサラサラない。

少女自身は全く別の目的を持ってここにいるのだ。

それからしばらくして、少女は総合事務受付を見つけた。灯がついていたのもあり発見する事が出来たのだ。

「ええと、それじゃあ手続きは以上で終わりです。IS学園へようこそ、凰鈴音さん」

「ありがとうございました」

愛想のいい事務員の歓迎の言葉を少女、凰鈴音は丁寧にお辞儀をする。礼儀礼節はうんざりするほど染み渡っており、ある兄貴分の教育のお陰だろう。

「ところで、織斑一夏って、何組ですか?」

「ああ、噂の子?1組よ。凰さんは2組だから、お隣ね。そうそう、あの子1組のクラス代表になったんですって。一緒によくいる年上の男の子は副代表になって、サポートしているそうよ」

事務員の言葉に鈴音は質問を続ける。

「2組のクラス代表って…もう決まってますか?」

「決まってるわよ」

「名前は?」

「え?ええと…聞いてどうするの?」

鈴音の質問の態度に違和感から事務員は、少し戸惑いながら聞き返す。

「お願いをしようかと思って。代表、あたしに譲ってって…」

にっこりと笑顔になる鈴音だが、メラメラと燃える炎が瞳にあった。

IS学園にまた新しい生徒がやって来たのだが、承壱達はまだ知らない。

 

「というわけでっ!織斑くんクラス代表決定と簪さん専用機完成おめでとう!」

「「「「「おめでと~!」」」」」

1年生寮食堂にパン、パンパーンと火薬が破裂する音や臭いと共に、クラッカーが乱射される。ここには1組と4組のクラスメイト達が全員揃っており、各自飲み物を手にやいのやいのと盛り上がっている。

そして、本日の主役として一夏と簪は、人気者状態になっていた。

「しかし、今更、パーティーとはな。もう一週間以上も経過してるのに…。簪ちゃんは良いかもしれないけど」

「そうですね…」

ぼやく承壱の隣には箒が来た。その表情はどこか寂しそうだ。

「…イチの周りの子に妬いているのか、箒ちゃん」

「正直に言えば独占したです。でも…」

「でも?」

箒は一呼吸置いてから続けた。

「私は一夏を支える良き妻に成りたいんです。ですから一々目くじらを立てては良き妻とは言えませんので、我慢しますよ。でも後で部屋に戻ったら慰めてもらいますけど」

「…それでもし、今後イチが酷い事をしたらどうする?」

「その時は…こんこんと説教をします。承壱さんも交えて」

「やれやれ…芯の強い嫁さんになるな、箒ちゃんは」

箒の覚悟に承壱は感心した。

6年前に比べて箒は精神的に大きく強くなった事を改めて知ったからだ。

承壱と箒が幼なじみの会話している中、クラスメイト達はワイワイと場が盛り上がっていると、そこに乱入者がやって来た。

「はいはーい、新聞部でーす。話題の新入生、織斑一夏君と時城承壱さんに特別インタビューをしに来ました~!」

乱入者の制服のリボンは黄色。つまり、2年生であった。

「あ、私は黛薫子。よろしくね。新聞部副部長やってまーす。はいこれ名刺」

2年生の先輩、黛薫子の差し出された名刺を承壱は受け取って、挨拶を返した。

「これはご丁寧にどうも。時城承壱です。よろしくお願いします、黛先輩」

「いや~、承壱さんは年上だから、呼び捨てで構いませんよ」

「そうはいかないでしょう?先日の簪ちゃんの打鉄弐式の組み立てに先輩方を何人か勝手に連れてきてしまったんですから、その侘びもあります。整備科のエースさん?」

「おお~、情報通っていう噂は本当ですね。でも、本当に呼び捨てで普段の感じでいいですよ?」

「…分かった。君がそう言うならそうしよう」

承壱から話を聞けた薫子は、次に一夏へ向かい自分の名刺を差し出した。それを一夏は受け取り、薫子のインタビューはボイスレコーダーを一夏へ向ける。

「ではではずばり織斑君!クラス代表になった感想をどうぞ!」

「えーと…『織斑先生の弟』では無く、引退した『織斑先生の意志を継ぐ弟』になれる様に頑張ります!」

「「「「「おぉ~…」」」」」

先週言われた承壱の問いを活用して一夏は、決意表明とも取れる感想を述べた。

これを始めた聞いたクラスメイト達は歓声を上げた。

「これなら、適当に捏造とかしなくてもよさそう」

「いや、するなよ」

情報発信者がデマを日常的にやるなと思う承壱だが、薫子は承壱にもインタビューを始める。

「では、改めて時城さんから一言!」

「そうだな…。俺には夢がある。その夢を叶える為に俺は戦う。今、言えるのはこれだけだな」

「おお~。時城さんの夢が何か気になるけど、いつか話してくれるなら、これでいいや」

「納得してくれてありがとう」

(こう言えば捏造しないだろう)

そうして承壱のインタビューは終わった。

その後、セシリアと簪も薫子から専用機持ちとしてのインタビューがされ、記念撮影が行われたのだが、どさくさに紛れて1組と4組のクラスメイト達も集結して、集合写真みたいになったのだった。

 

翌日の朝。1年1組の教室にて、一夏は自分の席に着き、承壱と箒、セシリアが集まって今日の予定を確認していた。予定と言っても放課後の訓練で、打鉄弐式が完成した簪も交えて訓練するのが、一夏達の日課となっているのだ。

「織斑君、おはよー。ねえ、転校生の噂聞いた?」

ふと、クラスメイトに一夏は話しかけられた。

「転校生?今の時期に?」

「そう、なんでも中国の代表候補生なんだってさ」

「ふーん」

その話を聞いて、4人は顔を合わせた。

IS学園の転入はかなり条件が厳しく、試験は勿論、国の推薦が無いと出来ない仕組みになっているのだ。

「…もしかして、国の事情や書類関係で遅れてしまったのかもしれないな。まだ4月も半ばだし、中国からなら尚更ずれて来るかもしれない」

「承壱さんが言うと妙に説得力ありますね。もしかして、私達の存在を今更ながらに危ぶんでの転入かしら?」

「セシリア、このクラスに転入してくるわけではないのだろう?騒ぐほどの事でもあるまい」

「どんなやつなんだろうな、アニキ?」

一夏の質問に承壱は苦笑しながら答えた。

「俺でも分からないよ。なにせ今初めて聞いた話だからな」

「承壱さんの言う通りだ。それにお前に他の子を気にしている余裕はあるのか、一夏?月末にはクラス対抗戦があるというのに…」

「そう!そうですわ、一夏さん。クラス対抗戦に向けて、より実戦的な訓練をしましょう。相手なら承壱さんに簪さん、この私、セシリア・オルコットがおりますので」

「でも、セシリア…簪もクラス代表だ、4組の」

「あ…」

一夏の指摘にセシリアは、ついうっかりという顔になり赤面してしまった。

クラス対抗戦。

それはクラス代表同士によるリーグマッチで、本格的なIS学習が始まる前のスタート時点での実力指標を作る為に行い、クラス単位での交流及びクラスの団結の為のイベントである。

因みに優勝賞品として用意されているのは学食デザートの半年フリーパスが配られるらしい。

「ま、イチの指摘もそうだが、訓練は訓練、試合は試合だ。当日まで結果は分からないし、訓練相手には簪は充分だろう。無論、俺も相手になって勝率を上げさせるから、頑張れよ、イチ!」

「ああ、ここまで来たら、やーってやるぜ!」

「その粋だ、一夏!男たるもの勝ち気で行こう!」

「一夏さんには勝っていただきませんと!」

「織斑くんが勝つとクラス皆が幸せだよー」

「織斑くん、頑張ってねー」

「フリーパスの為にもね!」

「今の所、専用機持っているクラス代表って1組と4組だけだから、余裕だよ」

承壱の叱咤激励を切っ掛けに箒、セシリア、クラスメイト達が応援の声を掛ける。一夏はその度に答えるが、待ったを掛ける様に誰かが声を出した。

「…その情報、古いよ」

「「ん?」」

教室の出入り口から聞こえた声は、承壱と一夏は聞き覚えが有り、出入り口の方へ注目する。

腕を組み、片膝を立ててドアにもたれていたのは、凰鈴音であった。

「2組も専用機持ちがクラス代表になったの。そう簡単には優勝出来ないから」

「鈴…?お前、鈴か?」

「そうよ。中国代表候補生、凰鈴音。今日は宣戦布告に来たってわけ」

一夏の問いに鈴音はフッと笑い、トレードマークのツインテールが軽く左右に揺れた。

「…似合ってないぞ、猫娘」

「んなっ!なんて事言うのよ、承壱さん!」

「はいはい。じゃあ、皆座ろうか~」

「「「「「はーい」」」」」

鈴音のツッコみを軽く受け流しつつ承壱は、クラスメイト達に着席を促して、一夏達はそれに応じて自分の席へ向かい続々と座る。

「え?何?」

「おい」

「なによ!」

バシンッと嫌な音が聞き返した鈴音から響いた。それは千冬による出席簿を使った打撃の音だった。

(あーあ、ご愁傷様だな。猫娘)

「もうショートホームルームの時間だ。教室に戻れ」

「ち、千冬さん…」

「織斑先生と呼べ。さっさと戻れ、そして出入り口を塞ぐな。邪魔だ」

「すいません…」

すごすごとドアからどいた鈴音。その態度は千冬に恐怖している態度である。

「また後で来るからね!逃げないでよ、一夏!承壱さん!」

「早く行け猫娘!」

「さっさと戻れ」

「は、はいっ!」

承壱と千冬に叱られ、鈴音は2組へ向かって猛ダッシュするのであった。

そして、今日も一日、ISの訓練と学習が始まる。

余談ではあるが、午前中の授業で真耶に注意されたり、千冬に叱られた者は誰1人おらず、クラス一丸になって集中して授業を受けていた1年1組であった。

 

昼休み。

この時間になると放課後訓練の打ち合わせの為、4組の簪と合流して学食に向かうのが、承壱達のルーティーンとなっていた。

「へぇ~…2組のクラス代表が変わって中国代表候補生に…。しかも…一夏くんと承壱お兄ちゃんの知り合い?」

「そ。俺は『鈴』って呼んでるんだけど、アニキは『猫娘』って呼んでるんだ」

「実際、行動が猫だからな、あいつ」

承壱はそう言うがどこか焦りを現れていた。それに気付いたセシリアが声を掛けた。

「承壱さん、焦っておられます?」

「ん?まあな。訓練メニューを変えないとマズいかもしれない…」

「どうゆう事ですの?」

学食へ向かいながら、承壱は皆に説明を始めた。

「猫娘と俺達が別れたのは約1年前。中国に戻ってそこから1年にも満たない期間で代表候補生になった…。この時点でもうヤバい。仮にIS適性が高ランクだとしても専用機持ちの代表候補生になるという事は…、あいつはとんでもない『努力の化け物』として俺達の前に現れた。つまり、1学年専用機持ちの中で1番強いって事になるかもしれないんだ…」

冷や汗を流しながら語る承壱の一言で、一夏達は戦慄を覚えた。特に同じ専用機持ちの代表候補生であるセシリアと簪は、内心で警戒心も持ってしまう程だ。

「アニキ、それマジで?」

「そうだろ?じゃなかったら、このタイミングでの転入はありえない…。まあ、国が国だけあって本当にずれただけかもしれないが…」

「…それはないと思う」

「簪ちゃん?」

「承壱お兄ちゃんも知って通り、IS学園への転入は本当に難しいの…。どういった事情かは分からないけど、鈴音さんは本当に努力して来たんだと思う…」

日本代表候補生である簪の一言もあり、一夏達は改めて鈴音が実力者である事を理解した。

そうして雑談を交えながら学食に着いたのだが、ドーンと承壱達の前に噂の転入生、凰鈴音がラーメンの乗ったお盆を手に持って立っていた。

「待っていたわよ、一夏、承壱さん!」

「どこで待っているんだ、お前は。食券取れないし、通行の邪魔だ。猫娘なら分かるよな?」

「あ…すいませんでした」

「全く。しかもラーメンってのびるぞ?」

「だ、だって2人を待っていたから…」

「なら食って待っていればいいだろう」

鈴音の反論を許さず、次々と返す承壱。そのやり取りを始めて見た箒、セシリア、簪は苦笑してしまう。

(こんな態度の承壱さん、初めて見る…)

(相性が悪いのか良いのか分かりませんわ…)

(お兄ちゃんがこうなるなんて、どんな人…?)

「まあまあ、2人共。ここで言い合っても何にもならないから」

一夏に宥められた承壱と鈴音は落ち着き、承壱は周りを見渡して大きめのテーブル席の方へ指を差した。

「なら向こうのテーブル席だ。猫娘、ラーメンあるんだから先に行って、確保しておいてくれ」

「分かったわよ…」

若干ふてくされながらも鈴音は承壱の言う事を聞いて、先に大きなテーブル席へ向かって行った。

「皆は注文したか?」

承壱の問いに一夏達は食券を出しており、既に注文の品を受け取っていた。

因みにそれぞれが注文したメニューは、一夏は鯖の塩焼きが付いた日替わりランチ、箒はきつねうどん、セシリアは洋食ランチ、簪はざるそばである。

「じゃあ、俺は…ユーリンチー、ホイコーロー、バンバンジーを頼むか…」

「「「「多い多い!」」」」

「え?」

一夏達のツッコみを受けながらも承壱は食券を出し、注文の品を受け取った。量が多いが器用にお盆1枚で運ぶ承壱。

そして、鈴音が確保していたテーブル席に全員で座れた。

「相変わらず食べるわね、承壱さん」

「悪いか?」

「ううん。変わってないなって」

「そうか。では、皆、手を合わせて…いただきます」

「「「「「いただきます!」」」」」

承壱に合わせて食事の御唱和する一夏達。これもいつもの日常となっているが、鈴音も久しぶりではあるが一緒にやっていた。

昼食をしながら会話も始まった。

「しっかし、鈴、何時日本に帰ってきたんだ?おばさん元気か?いつ代表候補生になったんだ?」

「質問ばっかりしないでよ、一夏。アンタこそ、たまには怪我病気しなさいよ。それに承壱さんと一緒になにIS使ってるのよ。ニュースで見た時ビックリしたじゃない」

「一番ビックリしたのはアニキだと思うけど…」

「一夏、そろそろどうゆう関係か説明してほしいのだが…」

「そうですわ。一夏さん、こちらの方と付き合ってらっしゃるんですか?」

「私も…詳しく知りたい」

一夏と鈴音の会話から疎外感を感じた箒、セシリア、簪は食事をしながら訊いてきた。その傍では他の女子達も聞き耳を立てて、興味津々にうんうんと頷いている。

「べ、べべ、別にあたしは付き合ってる訳じゃ…」

「そうだぞ。幼なじみだから、安心してくれ」

(おっ?イチの奴、上手く誤魔化した)

ユーリンチーをボリボリと食べている承壱は、一夏の返しに感心した。一言加えるだけでも相手の心境は変わるからだ。

そこで承壱は箒、セシリア、簪に補足説明をする事にした。

「あー、箒ちゃん。君が引っ越していったのが小4の終わりだったな?猫娘がイチのいた学校に転校してきたのは小5の頭ぐらい。んで、中2の終わりの時に中国に帰ってしまったんだ。後はさっき言った通り1年ぶりの再会ってわけだ」

「なるほど…」

「まあ、要するに入れ違いで引っ越したから面識無いって事」

「で、こっちが箒。ほら、前に話しただろ?小学校からの幼なじみで、俺とアニキの通ってた剣術道場の娘」

「ふーん、そうなんだ」

鈴音はジロジロと箒を見るが、箒は余裕の表情で鈴音を見返す。

「初めまして。これからよろしくね」

「ああ。こちらこそ。一夏の幼なじみなら私の良き友人になるだろう。よろしく頼む。」

そう言って2人は挨拶を交わした。人によっては2人の間に火花が散った様に見えるかもしれないが、承壱には全く見えなかった。

何故なら箒が常に余裕の笑顔になっているからだ。

(これは…負け戦になるぞ、猫娘)

そう思う承壱は、ホイコーローを食べながら心の中で合掌した。

「…私達の存在を忘れてもらっては困りますわ。中国代表候補生、凰鈴音さん?」

「…誰?」

「あら、ご存じなかったですか?これは失礼いたしました。イギリス代表候補生、セシリア・オルコットと申します」

「私は…日本代表候補生、更識簪。よろしくお願いします、凰さん」

「鈴でいいわよ。私も2人の事、名前で呼ぶし。同じ代表候補生同士、競争して仲良くしましょ?」

「まぁ。では、私の事はセシリアとお呼びください」

「私も…名前で呼んでいいよ」

同じ国の将来を担う者同士、シンパシーを感じてか鈴音は、セシリアと簪にフレンドリーな挨拶を交わした。

セシリアと簪は悪い気はしなかったので、それを了承した。

(いい友情だな。セシリアちゃんと簪ちゃんが一夏にどう思っているかは、まだ分からないけど…)

バンバンジーを口に運びながらセシリア達の会話をBGMに食事を続ける承壱。

そして、鈴音の会話は遂に承壱へ向けられた。

「ところで…承壱さん、一夏ってどのぐらい強いの?クラス代表なんでしょ?」

「…今のお前に教える事は出来ない」

「ええ~、どうしてよ!」

承壱の返答に鈴音は不満の声を出してしまい、その返答には一夏達も驚いてしまった。普段の承壱ならばすんなり教えるのだが、どうやら事情が違う様だ。

「答えは簡単。クラス対抗戦がもう一週間きっているからだ。簪ちゃんと違ってお前はまだ俺達専用機持ちとはそこまで仲良くないのも理由だな。まあ、教え合うのはクラス対抗戦が過ぎてからだな」

「…もっともらしい事を言っているけど、それって敵の施しは受けないって事?」

「違う。クラス対抗戦まで自分のクラスメイトになじんで、学園の空気にも慣れておけって話だ。昨日今日ですぐ出来る料理とは訳が違う。だから、お前への配慮って事だ。一先ずそれで納得してくれ、猫娘」

「うぐぐ…分かったわよ。承壱さんの言う事も一理あるし…」

「ならよろしい」

難しい顔になりながらも鈴音は承壱の意見を呑んでくれた。それを聞いた承壱は安心した様にズズズッと緑茶を飲む。

その時、一夏達は承壱の前に注目した。よく見るとあれだけあったユーリンチー、ホイコーロー、バンバンジーはご飯とスープと共に消えていたのだ。一夏達が話している間、いつの間にか完食してしまったのである。

「「「「「「早っ!」」」」」

「ご馳走様でした」

パンと合掌して今日の昼食に感謝する承壱は立ち上がり、食器の片付けに向かう。その時、承壱はある事を聞いた。

「そういえば…親父さん、元気にしているか?」

「あ…。うん、元気…だと思う」

鈴音の返答は歯切れが悪く、その表情に陰りが差した。

その一瞬の変化を見逃さない承壱だが、ここではあえて追求しない事にした。

「…そうか。イチ、俺は先に教室に戻るから」

「あっ、分かった」

「じゃあな、猫娘」

「じゃ、じゃあね、承壱さん」

軽く挨拶を交わしてから承壱は片付けに行き、そのまま学食を出て行った。

「それよりさ、一夏。今日の放課後って時間ある?久しぶりだし、どこか行こうよ。ほら駅前のファミレスとかさ」

「あー、あそこ半年前潰れたぞ」

「そ、そう…なんだ。じゃ、じゃあさ、学食でもいいから。積もる話もあるでしょ?」

鈴音に言われるが一夏の返答は決まっていた。

「悪い、鈴。俺、今、放課後は訓練に時間使っているんだ。だから、ゴメン」

「じゃあそれが終わったら行くから。空けといてね。じゃあね、一夏!」

どんぶりを持ってゴクンとラーメンのスープを飲み干し、一夏の答えも待たずに鈴音は片付けに行ってしまう。テーブル席に戻ってくる律儀なまねはせず、そのまま学食を出て行った。

(断る事も出来なかったから、絶対待ってるしかないじゃねぇか…)

「一夏、承壱さんもいるから当然、訓練が優先だぞ」

「一夏さん、私達の有意義な時間も使っているという事実をお忘れなく」

「一夏くん、承壱お兄ちゃんの為にも頑張ろう?」

「分かっているよ、皆」

難儀な一夏である。

 

放課後の第3アリーナ。

今日も今日で放課後訓練を始める承壱達だが、予想外のニューカマーに一夏は間の抜けた声を出した。

「え?」

「な、なんだその顔は…おかしいか?」

「いや、その、おかしいっていうか…」

「なんでっていうか…」

「篠ノ之さん、どうしてここにいますの?」

承壱の隣にIS『打鉄』を装着・展開している箒がいるからだ。

打鉄は日本国産ISとして定評のある第二世代の量産型IS。その言葉通り打鉄の機体デザインは鎧武者で、基本武装も刀型近接ブレードを装備している。安定した性能を誇るガード型で、初心者にも扱いやすい。その事から多くの企業並びに国家、IS学園においても訓練機として一般的に使われ、簪の打鉄弐式のベース機体にも選ばれるほどの高いポテンシャルも持っている。

その打鉄を装着している箒はもの凄く似合っているが、普段はデータ取りやマネージャーの様に箒がここにいるから、一夏達は声を出してしまった。

だが、真相は承壱が知っている。

「俺が呼んだからだ。箒ちゃんの剣道の腕前は、全国優勝レベルだから近接訓練には持って来いってわけだ。んで、近接戦に不安を感じている簪ちゃんの相手をしてもらう。簪ちゃんは射撃武器の使用を一切禁止した縛りプレイで極力、近接戦を仕掛けてくれ。箒ちゃんは容赦無くガンガン近接戦で攻めろ。いいな?」

「うん…分かった」

「了解だ、承壱さん」

承壱の訓練指示を聞いた箒と簪は訓練前に軽い挨拶を交わす。

残っている一夏とセシリアに承壱は続けた。

「で、一夏にも縛りプレイで訓練したもらう」

「分かった。何をやるんだ、アニキ?」

「お前には、俺とセシリアちゃんにそれぞれ10発ずつ攻撃を当てろ。俺とセシリアちゃんは逃げたり反撃するからそれを掻い潜って、どんな攻撃でも当てろ。月光の斬撃でも唐澤の射撃でもいいから、兎に角、近接と射撃の攻撃をどちらでもいい。10発ずつ当てに来るんだ。いいな?」

「分かったぜ、アニキ」

「よし。で、セシリアちゃんはビットユニットを展開しながら逃げるんだ。射撃も有りなんだから撃って良いぞ。撃つ時はビットユニットの操作と自分の攻撃も忘れないでやればいいだろう」

「了解しましたわ」

「よし。では、訓練開始!」

その掛け声をスタートに一夏達の訓練は始まった。

『縛りプレイ』と称された訓練内容だが、箒と簪は何度も激しくぶつかり刃を交え、承壱とセシリアは一夏へ集中攻撃を繰り出し、回避した一夏は2人に挑むのであった。

クラス対抗戦に向けて承壱が考案したこの訓練は非常に有意義だったらしく、一夏と簪は確実にレベルアップしたのだった。

 

数時間後。

「本日はここまで!お疲れ様でした!」

「「「「お、お疲れ様でした~!」」」」

承壱以外、全員は肩で息をしていた。

承壱はロックスミスのマスクで顔が覆われている為、表情は読めないが、少なからず疲労はある様で胸が上下に動いている。

だが、声は澄ましたままで、この時点で一夏はまだまだ差は大きいと悟った。

そして、全員はそれぞれピットに戻るのだが、承壱と一夏と共に箒も同じピットに戻り、ISの展開と装着を解除する。同時にISの補助機能が無くなるので、疲れが体にのしかかってくる。

「一夏、タオルとスポーツドリンクだ」

「サンキュ、箒」

ISの展開状態を解いた箒が、一夏へ用意していたタオルと飲み物をそっと差し出し、一夏は喜んで受け取って、その隣で箒も飲み物を飲み始める。

その横で承壱も用意していた自前のタオルで顔の汗を拭き取っていた。ロックスミスはマスクが展開される以上、他のISと比べて圧倒的に発汗しやすいのである。

汗を拭き取りながら、承壱はいい感じになっている一夏と箒に意地悪な質問を出す。

「…2人共、キス以上の事はしたのか?」

「「ブーッ!」」

いきなり予想外な質問に2人は飲み物を吹き出してしまう。それを笑いながら承壱は指摘する。

「汚いなぁ、お前ら…」

「き、汚いのはアニキだよ!」

「そうですよ!いきなりなんですか!」

「いや~、2人が羨ましくてよぉ…。俺は最近、千冬と電話だけで触れ合いがないからよぉ…」

遠い目で語るが、妙に哀愁も漂わせる承壱に2人はなんとも言えない顔になってしまう。

因みに箒は、承壱と千冬が交際しているのを一夏経由で知っている。

そして、2人は千冬の言いつけ通り学生である為、キスと添い寝以上の事はまだしていない。

その時、スライドドアが開いて鈴音が現れた。その手にはタオルと飲み物が握られていた。

「おつかれ。はい、タオルってあれ?承壱さんもいたんだ」

「悪いか?」

「イヤイヤ、そうじゃないけど…って、一夏、そのタオルと飲み物って…」

「あ、これ?箒が用意してくれるんだよ、いつもな」

私だと言わんばかりに箒は軽く手を上げ、それに鈴音は焦り出す。

「『いつも』?い、一夏、アンタその子とどういう関係なのよ!」

「どうって…」

その時、承壱と箒から『今は詳細を言うな!』という視線を感じ、一夏はあえて濁して言う事にした。

「前に言っただろう。幼なじみだよ」

「お、お、幼なじみとそれと何の関係があるのよ!」

その時、一夏はある事を言い忘れていた事を思い出した。

「俺、今箒と同じ部屋なんだよ」

「…は?」

「いや、俺とアニキの入学ってかなり特殊な事だったから、別の部屋を用意できなかったんだと。だから、今は2人部屋で…」

「そ、それってその子と寝食を共にしていって事?」

「まあ、そうなるか。でもまあ、箒だから助かってるよ。俺には勿体ないくらいだし」

「一夏…」

(イチ、それはマズいんじゃ…?)

箒は嬉しそうに頬を赤めるが、承壱は一夏が言葉の選択を間違えた様な気がした。

それは正解だった。

「…ったら、いいわけね…」

「「「?」」」

うつむき加減の鈴音が何と言ったのか聞き取れず、一夏達は耳を傾ける。角度の関係もあって、その表情は見えない。

「だから!幼なじみならいいわけね!」

「「「わっ!」」」

いきなり鈴音はガバッと顔を上げられて、一夏達は驚いて身を引く。

「わかった。わかったわ。ええ、ええ、よくわかりましたとも」

1人で納得し始めた鈴音は、何度も頷く。

「一夏っ!幼なじみは2人いるって事、覚えておきなさいよ」

「いや、別に言われなくても忘れてないが…」

「じゃあ、後でね!」

そう言って鈴音はピットを飛び出していった。いきなりの事に一夏と箒は顔を見合わせて首をかしげるが、承壱は一夏に警告する。

「…イチ、備えておけよ。あれは、面倒が起きる」

この承壱の警告から、とんでもない事態に発展してしまうのだが、まだ誰も知らない。

 

つづく




現在公開可能な情報

凰鈴音
天真爛漫で猫の様な気分屋な所もあるが、決める時は決める責任感はしっかりしている。
その責任感から暴力行為は無い。承壱から『猫娘』と呼ばれているが…?

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