インフィニット・ストラトス Re:RISING 作:最後のVESPERの挑戦状
中国代表候補生であるもう1人の幼なじみ、凰鈴音と再会した翌日。
生徒玄関前廊下に大きく張り出された紙があった。
表題は『クラス対抗戦日程表』。
1年1組の相手は2組、つまり鈴音だった。
その一方で、一夏と鈴音には何故か壁が出来ていた。これについて知りたくなった承壱は、休み時間で一夏と箒から事情を聞く事にした。
「約束?」
「そうなんだよ、アニキ。それを俺が間違っていたみたいで、怒らせちゃって…」
「ビンタされて『女の子との約束をちゃんと覚えてないなんて、男の風上にも置けないヤツ!犬に噛まれ死ね!』って言われていましたよ」
「箒言わないでくれ…」
一夏と鈴のあまりの酷いやり取りに呆れから頭痛を感じ、承壱は自分の額を押さえてしまう。
「あ~、珍しく頭が痛いぜ…。何がどうなってそうなった?もう一度言ってもらっていいか?」
「えーと…まず、鈴が箒に部屋を替わってくれってきたんだよ」
「おいおい」
「で、私が寮長である千冬さんの許可をもらわなければダメだって言ったら、すんなり納得してくれたんですよ」
「猫娘は千冬が苦手だからな…。良い判断だな、箒ちゃん」
「その後は普通に雑談していたんだ。そして…」
「さっき言っていた約束をイチが忘れたか間違えてかで、ビンタと暴言って訳か。そうなると…」
承壱は知恵を貸すべく、記憶から鈴音と一夏の約束を思い出そうとするが、全く思い出せない。其れ処かどこで聞いたか、そもそも自分も聞いていたからも怪しい。
そして、ある結論に行き着いた。
「…もしかして、その約束…俺がいない二人っきりの時にした約束じゃないか?思い出せない、いや無いな、俺の記憶には」
「やっぱりそうか…!アニキが知らないならマジで難しいな…」
「因みにイチは何て言ったんだ?」
「えーと…鈴の料理の腕が上がったら毎日酢豚を奢ってくれるってやつか?って言ったんだ。でも、俺と鈴が小学校の頃の約束のような気がするんだよ…」
「…そこまで来たらお前の記憶力の問題だろ!『面倒が起きる』と言ったが、お前が起こすな、イチ!」
「ごめんなさい!」
「俺に謝るな!猫娘に謝れ!」
ペコペコと承壱へ頭を下げる一夏。それを情けない目で見てしまう箒だが、その約束に思いあたる言葉が出てきた。
(もしかして、鈴音は味噌汁の代わりに酢豚にしたのでは…?)
1日経過したが、鈴音の機嫌は直らず、時間と比例して悪くなる一方であった。
原因を作ってしまった一夏は、廊下や学食で会っても露骨に鈴音は顔を背けられ、全方位に『怒っています』とオーラを向けるので、更に難しい状況になっていた。
そうなっていると一応、知っている承壱達は放課後訓練の為、第3アリーナへ向かっていた。メンバーはいつも通り承壱、一夏、箒、セシリア、簪。
「いいか、皆。クラス対抗戦まで後5日だ。アリーナは試合用の設定に調整されるから、実質今日が最後の訓練だ。気合い入れておけよ」
「「「「はいっ!」」」」
「良い返事だが…、イチ、お前は初戦の相手が猫娘なんだから、油断するなよ。確執があるかもしれないが、それはバトルで一気に済ませてしまうんだ」
「あ、ああ!俺、やるよ、アニキ!」
(本当に大丈夫なのか…?)
若干の不安も感じながら承壱を先頭に第3アリーナAピットへ入ると意外な先客がいた。
「待ったわよ、一夏!」
ピットにいたのは、なんと鈴音だった。腕組みをして不敵な笑みを浮かべている。先日までは怒り心頭の様子だったが、どういう心境の変化だろうか。
当事者である一夏、事情を知っている承壱は驚き、事情を知っているが別の意味で箒、セシリア、簪は顔をしかめる。
「…猫娘、どうしてここに?」
「承壱さんに用は無いの。で、一夏。反省した?」
「へ?なにが?」
「だ、か、らっ!あたしを怒らせて申し訳なかったなーとか、仲直りしたいなーとか、あるでしょうが!」
「いや、そうしたくても…鈴が避けていたんじゃねえか」
「えっ?あっ…ゴメン…」
一夏の指摘に自分の行動を振り返った鈴音は素直に謝罪するが、どこか恥ずかしいのか頭をかく。
しかし、どこか納得していないのか続ける。
「避けていたのは悪かったわ。でも、アンタも悪いんだから謝りなさいよ」
「…約束を間違えて、忘れてしまって、ごめんなさい」
綺麗に腰を曲げて頭下げる一夏。一夏の素直な謝罪を始めて見る箒は感心の目で見て、セシリアと簪も安心する。
その謝罪を受けて、鈴音はやっと納得した様で、怒りのボルテージは下がっていく。
「…本当に自分が悪いと思っているの?」
「ああ。俺が悪かった。鈴の言う通り、俺が女の子との約束をちゃんと覚えてないんだから。これからは覚えられる様に努力する。アニキとお天道様に誓って」
「…わかった。許してあげる。あたしも叩いてごめんなさい」
一夏の弁明と決意を聞いて、鈴音も自分の感情による非行を認めて頭を下げて謝罪する。お互いの非を自認して謝罪した事で、一夏と鈴音の確執は解消される。
「じゃ、仲直りの握手をしたらどうだ?」
承壱の一言で一夏と鈴音は小っ恥ずかしさもあったが、お互いにスッと手を出し握手を交わした。
「またよろしくな、鈴」
「え、ええ。よろしくね、一夏」
仲直りのいい雰囲気だが、人によっては痴話喧嘩を終えたカップルにも見える為、承壱が咳払いと目配せをして外野になっていた箒達を促した。
「一夏、いい感じになっている所すまないが…」
「…そろそろ始めないと」
「アリーナの使用時間が終わってしまいますわよ?」
「あ、そうだった!」
「承壱さんの言いつけもあるし、あたしはここで退散するわ。一夏、初戦の相手だけど、手加減無しで行くからね!」
「望むところだ!」
心がスッキリした事で一夏と鈴音は、メラメラと闘志が燃える目となり、視線の火花が散る。
双方、やる気は十分の様だ。
「じゃあね、一夏!承壱さんもありがとう!」
そう言って鈴音はピットを出て行った。だが、鈴音の最後の一言に承壱以外は首をかしげた。
「最後にお礼は…なんですの?」
「承壱お兄ちゃん何かしたの?」
「いや…俺はなにもしていない。さーて、訓練するか~!」
「あ、はぐらかした!」
「承壱さん教えてください!」
スタスタと歩いて訓練の準備を始める承壱に一夏達は何をした気になってしまうが、一先ずは訓練に集中するのであった。
(本当に何もしていんだよな…。猫娘もいい意味で変わったな。曲がりなりにも『代表候補生』だからか…誰の影響を受けたんだか…あっ、また俺か)
クラス対抗戦当日、第2アリーナ第1試合。組み合わせは一夏と鈴音。
話題の男子新入生の1人と噂の転入生との戦いとあって、アリーナは全席満員。通路まで立って観戦している生徒で埋め尽くされていた。会場入りできなかった生徒や関係者は、中継ドローンによるリアルタイムモニターで鑑賞している。また、一部の関係者は国の政府高官や企業の担当者もいるそうだ。
しかし、一夏と鈴音にそんな事を気にしている場合では無い。
『それでは両者、規定の位置まで移動してください』
アナウンスに促されて、それぞれISを展開・装備をした2人は空中で向かい合う。
鈴音のIS『甲龍』はセシリアのブルー・ティアーズと同じく非固定浮遊部位があるが、やたら攻撃的なスパイク・アーマーが備えられている。
両者の間は5メートル位の距離がとられ、プライベート通信で少し話し始めた。
「一夏、終わったら…ちょっと二人っきりで話さない?」
「いいぜ。勝ち負け関係無しに」
「オッケー!」
先日の謝罪からお互いわだかまりもなくなり、今この瞬間、2人はライバル意識でお互いを倒すべき好敵手と認識する。約束もあるがそれは試合には関係ないのだ。
『それでは両者、試合を開始してください』
ビーッと鳴り響くブザーが切れる瞬間、一夏と鈴音は瞬時に主兵装を展開してぶつかり合いはじき返す。
そして、旋回して2人は正面で再び向き合う。
「初撃を防ぐなんてやるじゃない。けど…」
パカッと甲龍の非固定浮遊部位のアーマーがスライドして開き、中心の球体が光った瞬間、一夏は目に見えない『衝撃』で殴り飛ばされた。
「イテッ!なんだ?」
「今のはジャブだからね」
目に見えない拳に殴られて、一夏は地表に打ち付けらる。シールドエネルギーも減っておりダメージが自分にもきている事を理解した一夏は、左手に唐澤を展開した。
ピットではリアルタイムモニターで承壱、箒、セシリア、そして、千冬と真耶が観戦していた。
因みに簪は出場選手である為、現在控え室にいるが、そこでもリアルタイムモニターはあるので観戦はしている。
「なんだあれは…?」
観戦している箒は、鈴音の甲龍の攻撃に思わずつぶやいてしまう。
「あれは…『衝撃砲』だな。空間自体に圧力をかけて砲身を生成、その余剰で生じる衝撃それ自体を砲弾化して撃ち出す代物だ」
「つまり、ブルー・ティアーズのビットユニットと同じ第3世代型兵器ですわ。箒さん」
「なるほど、説明ありがとう」
承壱とセシリアから説明を受けた箒は2人に礼を言う。
「不幸中の幸いなのは…、射程距離と威力がアサルトライフル程度であるって事か…。でもあれは確か…砲身斜角がほぼ制限無しで撃てて、真上真下、そして真後ろまで展開して撃てるらしいな。射線はあくまで直線だが、装着者の猫娘の身体能力なのか…?無制限機動と全方位への軸反転を高いレベルで習得しているな」
自分が持っている機体データと現在の戦況をみて冷静に分析し、それを口に出してしまう承壱に箒はまた聞いた。
「承壱さん、モニター越しでもわかるんですか?」
「ある程度な。イチに射撃を教えておいてよかったよ。雪片弐型だけだったら、衝撃砲のラッシュ攻撃で終わっていたかもしれん」
リアルタイムモニターに映されている一夏は右手に主兵装のブレードである月光で衝撃砲の直撃を防ぎつつ、マルチライフルの唐澤を撃っていた。
(一夏…)
一夏がダメージを受けるたび、箒の胸の奥はズキリと痛む。それはレベルの差がある事を示しているのだが、箒は勝利よりもただ恋人として無事を祈っていた。
「よく躱すじゃない。この衝撃砲『龍砲』は砲身も砲弾も目に見えないのが特徴なのに」
鈴音の言う通りだが、一夏には関係なかった。ハイパーセンサーに空間の歪み値と大気の流れを探らせているのもあるが、承壱のアドバイスがよく染み込んでいるからだ。
(アニキの言う通りだな、『後ろにも目をつけるんだ!』って言っていた意味がよく分かった…!)
そう思いながら一夏は唐澤を撃つ。
それと同時に承壱によって改造された白式の仕様も思い出す。
「リミッター解除機能?」
「そう。近接ブレードの月光とマルチライフルの唐澤には、白式のワンオフ・アビリティーである零落白夜を限定的だが使用出来る様にしている。その為のリミッター解除機能だ」
ワンオフ・アビリティー。
それは専用機が装着者と最高状態の相性になった時に自然発生する固有特殊能力で、自己進化機能を持つISにしか出来ない機能で、通常は第二形態から発現する。
一夏の白式はこのワンオフ・アビリティーが最初から使えるのだが、それがまた奇妙な事になっていた。
「そもそも零落白夜は、千冬のIS『暮桜』のワンオフ・アビリティーだ。あの力は、対象のエネルギーを全て消滅させる。つまり、シールドエネルギーを消して本体に直接攻撃して強制的にISの絶対防御を発動させて一撃必殺を体現している。だが、使われるエネルギーは自分のシールドエネルギーだ。こんな滅茶苦茶扱いが難しいワンオフ・アビリティーを初心者のお前が使いこなせると思うか?」
「…聞いているだけで無理だよ、アニキ」
「だろ?だから、初期装備であった雪片弐型を取って、使いやすい月光と唐澤にした訳だ」
「でも初期装備って書き換えられないんじゃ…」
「そこは束直伝の裏技だ」
通常、ISには機体ごとに変更不能な専用装備を持っており、それは『初期装備』とされるが、それだけでは不十分なので『後付装備』という物が用意され、それを収納する為に『拡張領域』が設けられている。
それを書き換えて別の物を用意したのだから承壱は、高いレベルのメカニックスキルを持ち合わせている事を示している発言であった。
「だから1分間限定だが、零落白夜を使えるから逆転のチャンスはある。使い所はお前次第だがな」
それからは承壱の訓練から一夏は射撃も行える様になり、実力差はあるがこうして鈴音と戦えている。
「鈴」
「なによ?」
「本気で行くからな」
真剣な眼差しで唐澤の銃口を鈴音に向ける一夏。その気概に押されたのか、鈴音は曖昧な表情を浮かべた。
「な、何よ…そんな事、当たり前じゃない…。とっ、とにかくっ、格の違いってのを見せてあげるわよ!」
鈴音はバトンの様に甲龍の主兵装である両刃の青竜刀『双天牙月』を一回転させて構え直す。
一夏は距離を詰めるべく加速姿勢に入り、この一週間で身に着けた技能『瞬時加速』を使った。
「チェストォー!」
雄叫びと共に唐澤を乱射しつつ、月光のリミッターを解除した一夏。零落白夜の輝きが月光から発せられ、その刃が届きそうになった瞬間、突然大きな衝撃と光がアリーナ全体に走った。
鈴音の甲龍の衝撃砲とは比べ物にならない威力も範囲も桁違いで、ステージ中央からモクモクと黒煙が上がっている。
その光景はピットにいた承壱達も目撃していた。
「なんだ?」
「何ですの!」
「一夏!」
「システム破損!『なにか』がアリーナの遮断シールドを貫通して入ってきた模様です!」
「試合中止!織斑!凰!直ちに退避しろ!」
真耶の報告を受けた千冬は迅速に行動、すぐに通信機でステージにいる2人へ退避勧告を出した。
一方、突然の事態にアリーナの観客席の方では混乱が起きてしまい、避難警報と共に防壁シールドが展開された。
「こいつは…面倒な事になった」
「な、なんだ?何が起こって…?」
『一夏、試合は中止よ!すぐにピットに戻って!』
鈴音からプライベート通信が飛んできたが、同時にハイパーセンサーからロックオンアラートが鳴り、自分がロックされている事に気付いた。
「げっ!ロックされてるし!」
『一夏、早く!』
「お前はどうするんだよ!」
『あたしが時間を稼ぐから、その間に逃げなさいよ!』
「逃げるって…そんな事出来るか!」
「馬鹿!アンタの方が弱いんだからしょうがないでしょが!」
鈴音に正論を言われてぐうの音も出ない一夏は少し黙った。
「別にあたしも最後までやり合うつもりはないわよ。こんな異常事態、すぐに学園の先生達がやって来て事態を収拾…」
「危ねえっ!」
間一髪、鈴音の体を一夏が抱きかかえてさらう。その直後、さっきまでいた空間が熱線で砲撃された。
「レーザー兵器…しかもセシリアのISより出力が上だ」
ハイパーセンサーの簡易解析でその威力を知った一夏は、背中に冷たい感覚が広がっていくのを感じた。
「あ、ありがとう、一夏…」
「ああ。でも、ヤバいぞ…あいつ」
一夏に救われた事を悟った鈴音は礼を言いながら改めて侵入者に注目する。
侵入者…『アンノウン』は姿からして異形だった。2メートルを超える巨体は、姿勢安定の為のスラスターが全身にあり、頭部には剥き出しのセンサーレンズが不規則に並び、腕にはレーザー砲口が左右合計4門あった。深い灰色をして手は異常に長く、つま先よりも下まで伸びており、首が無く肩と頭が一体化している様な形をしている。何より特異なのが承壱のロックスミスと同じく全身装甲だった。
「お前、何者だ?」
「…」
「答えろ!お前は何者だ!何が目的だ!」
「…」
当然の様にアンノウンは一夏の呼びかけに応じない。その時、一夏と鈴音に通信が入った。
『織斑くん!凰さん!今すぐアリーナから脱出してください!すぐに先生達がISで制圧に行きます!』
相手は真耶だが、心なしかいつもより声に威厳がある。だが、アンノウンの攻撃力を直に目撃した2人は、顔を見合わせて決断した。
「…いや、先生達が来るまで俺達で食い止めます。ここで相手にしなきゃ観客席や皆に被害が出ます。だから、俺達で食い止めます」
『そ、それはそうですが…でもいけません!織斑くん!凰さん!』
『一夏!』
『一夏さん!』
ピットにいる箒とセシリアも心配のあまり声を出してしまう。が、一夏と鈴音は通信を遮断した。
「いいな、鈴」
「誰に言ってんのよ。それ以前にアイツはあたし達を逃がそうとしないだろうし…」
一夏と鈴音は横並びなって、それぞれの主兵装を構える。
「一夏、あたしが衝撃砲で援護するから突っ込みなさいよ。武器、その2つしかないんでしょ?」
「その通りだ。じゃあ、それでいくか」
2人は不敵の笑みを浮かべて、飛び出した。
「もしもし!織斑くん聞いています!凰さんも!聞いていますー!」
通信が切られてしまい真耶は焦っていた。
「本人達がやると言っているのだから、やらせてみてもいいだろう」
「織斑先生…!何を呑気な事を言っているんですか!」
「落ち着け。コーヒーでも飲め。糖分が足りないからイライラする」
「カルシウム補給にミルクも入れたらどうだ?」
「そうだな。時城の言う通りだ」
千冬が珍しく呑気な事を言う隣で、承壱は懐から200ミリのパック牛乳を取り出し、受け取った千冬はカップに注いでカフェオレにしてから一口飲んだ。
「うん、美味い」
「飲んでいる場合ですか!」
「そうですよ先生!私にIS使用認可を!すぐに出撃出来ますわ!」
「そうしたいところだが、これを見ろ」
千冬の視線の先に箒とセシリアは注目した。そこに表示されていた数値は、この第2アリーナのステータスチェックだった。
「遮断シールドがレベル4に設定…?」
「しかも扉が全てロックされて…あのISの仕業ですの?」
「そのようだ。これでは避難する事も救援に向かう事も出来ないな」
実に落ち着いた調子で話す千冬だが、その手は苛立ちを押さえきれない様に震えていた。それに気付いた承壱は安心させる様にそっと手を重ねる。
「でしたら!緊急事態として政府に救援を!」
「やっている。現在も3年の精鋭がシステムクラックを実行中だ。遮断シールドを解除出来れば、すぐに部隊を突入させる」
それを聞いた承壱は、ピットの備え付けのキーボードを使って、得意のプログラミング技術でシステムクラックを行う。すると…。
「これでどうだ?」
承壱がエンタキーを押した瞬間、破損したシステムの一部が復元したらしく一部の扉のロックが解除された。
「遮断シールドのレベルが下がりました!観客席の避難が行えます!」
「流石だな時城。仕事が早いな」
「でも、ほんの一部だ。後は3年の先輩方に任せよう」
「…承壱、先行して救援に向かってくれないか?」
「OK。ついでに終わらせやるよ、あの不届き者をな…」
そう言って承壱はこの場を後にした。
しかし、これに箒とセシリア、そして、真耶が千冬に詰め寄った。
「待って下さい!いくら承壱さんがすごいお方でもお一人で行かせるは危険すぎます!」
「セシリアの言う通りです!織斑先生、承壱さんにはここにいさせて下さい!」
「織斑先生!」
「お前達の言いたい事はよく分かる。だが、あいつはこういう状況が適任なんだ…!」
言葉を続けながら、募る苛立ちに千冬の繭はピクッと動く。それを危険信号と受け取ったセシリアだが、セシリアもただでは引かない。
「でしたら、私も同行させて下さい!」
「ダメだ。お前のブルー・ティアーズは一対複数向きだ。複数体一ではむしろ邪魔になる」
「そんな事はありませんわ!承壱さんの訓練も受けて…」
「では本格的な連携訓練はしたか?その時のお前の役割は?ビットユニットはどういう風に使う?味方の装備構成は?敵はどのレベルを想定してある?連続稼働時間は…」
「分かりました!もう結構です!」
「分かればよろしい」
放っておいたら一時間位続きそうな千冬の指導をセシリアは両手を振って降参した。
その話を隣で聞いていた箒は、恋人とその兄貴分の無事を祈る事にした。
(ここから出ていって一夏を応援したいが、そんな事をすれば私も一夏も…そうして承壱さんも大変な事になってしまうかもしれない。今は、ここで待つんだ。承壱さんもそう言うはずだから…。だから皆、無事に帰ってきてくれ…!)
承壱はピット・ゲートに到着し、腰のベルトから待機状態のロックスミスであるネイビーブルーの拳銃を取り出し、顔の前に構えて、気持ちを乗せてトリガーを引いた。
その瞬間、一瞬で承壱の姿は変わり、IS『ロックスミス』が展開された。
そして、ピット・ゲートから加速して飛び出し、一夏と鈴音へ攻撃しているアンノウンに向かって跳び蹴りを繰り出す。
「おりゃあああああ!」
「!?」
見事に命中し、体勢を崩しながらアンノウンは派手に転んで吹っ飛んでしまった。
援護が来た事に安堵した一夏と鈴音は承壱の横に来た。
「アニキ!来てくれたのか!」
「えっ?承壱さんなの?そのIS?」
「遅くなってすまないな!後、猫娘!これが俺のロックスミスだ。アンノウンと間違えるなよ!」
そう言いながら承壱は右手にマグナブレード、左手にブラストシューターを展開した。
一方、吹き飛ばされたアンノウンは、不規則に並んだセンサーレンズをキリキリと鳴らして何かの確認を行っていた。
そして、ロックスミスの姿を確認したアンノウンから電子音が鳴る。
〈修正プログラム起動〉
「ん?」
〈全システムチェック終了〉
「え?」
〈戦闘モード起動〉
「は?」
〈ターゲット確認、排除開始〉
その音声が鳴った瞬間、承壱に向けてアンノウンはレーザーを放った。
それを咄嗟に回避した承壱はブラストシューターを放ちながら、距離を詰めてマグナブレードで斬り掛かるが、アンノウンは巨大な両腕で受け止めたり避けたりする。
その時、承壱は刃と拳の押し合いの中で、このアンノウンの正体に気付いた。
(この動き…この感じ…間違いない!こいつのターゲットは俺だったのか!)
最悪の一手を打ってしまったと悟った承壱は、マスクの下に冷や汗を流しながら対処方法を考えるべく、巨大な腕をはじき返して距離を取った。
「あたし達を!」
「忘れるな!」
そこに黙っていなかった一夏と鈴音の攻撃がアンノウンに入った。唐澤と衝撃砲の攻撃で煙が上がるが、まだまだアンノウンは元気であった。
「2人共ありがとう」
「アニキ、どうするんだ?」
「このままだとジリ貧よ?あたし達の攻撃も4回は失敗しているし…」
「こいつは無人機だ。そういう動きだ。だから…ちょっと離れてな!」
一夏が声を掛ける前に加速姿勢に入った途端、『瞬時加速』とは異なった加速スピードをロックスミスは発動しアンノウンに接近。
一瞬の間に承壱は左手のブラストシューターを収納して、強烈なアッパーカットをアンノウンに繰り出す。
その際、ロックスミスの電磁ナックルとアームキャノンも同時作動させて、電磁攻撃とEN射撃のゼロ距離攻撃をお見舞いさせる。
この動きに対応出来なかったアンノウンは、直撃をもろに受けてしまった。
「ウオラアアアッ!」
雄叫びを上げながらアームキャノンの連続ゼロ距離射撃を行う承壱。
結果、アンノウンは直撃した部分の装甲が破壊され、内部の機械を剥き出しされるほどの大ダメージを負ってしまい、更に上空へ吹き飛ばされるが、その瞬間を承壱は逃さない。
「マグナブレード、最大出力…!」
右手のマグナブレードにエネルギーが集中され、刃に青緑の光が灯されプラズマが纏わされる。そのマグナブレードを握り締め直した承壱はアンノウンに飛び掛かる。
「喰らいやがれぇっ!」
雄叫びと共に振り落とされたマグナブレードは、アンノウンの胴体に袈裟斬りで入り、ギギギッと切断音を鳴らしながら火花を散らす。やがて刃はアンノウンの体を貫き、その身体を真っ二つにした。
「やったぁー!」
「すげーぜ、アニキ!」
これを見た一夏と鈴音は勝利の歓声を上げたが、破片はバチバチと電気が這いずり回っていた。それに気付いた承壱は声を上げる。
「っ!爆発するぞ!離れろ!」
そう承壱に言われた2人は慌てて離脱し、次の瞬間、アンノウンは爆発四散した。
アンノウン撃破後、承壱達はピットに帰還した。
その瞬間に承壱達はISの装着を解除して待機状態にしたが、迎えたのは千冬と真耶、箒、セシリアであった。
「一夏!怪我は無いか!」
「気分は悪くはありませんか?」
「あ~、死ぬかと思ったよ。アニキは命の恩人だよぉ~」
「大丈夫ですか凰さん!」
「すいません先生。心配掛けましたけど、無事です!」
ISのお陰で大きな怪我も無いのは知っているが、箒とセシリアは一夏の心配をして、真耶は鈴音の心配してしまうのは人の性だろう。2人は何とか答えているが、変な緊張感からいつも以上に疲れている様だ。
承壱はその光景を見ながら、一夏と鈴音を無事に救い出せた事に安心感を得た。
(守れた…また、守れた)
「…アンノウンを倒したからか遮断シールドのシステム等も正常に戻り、一般生徒や来賓の方に怪我人も出る事は無かった。お前のお陰だ、承壱…」
そう言って承壱を抱き締めたのは千冬だ。今は教師としてここにいるはずだが、どうやら恋人しての思いが勝っている様で、公私を分けるのが上手い千冬がこうして抱き締めているのでよく分かる。
「千冬…?」
「…すまなかった。お前の力を過信して…お前に無理をさせて…あいつの狙いが、お前だった事に気付かなくて…私の判断ミスだ。本当にすまない…」
泣いているのだろうか。
いつもの張りのある千冬の声とは思えない程、弱々しい千冬の声が承壱の胸の中から聞こえてくる。
心配掛けた事に変わりない為、承壱も抱き締め返した。
「…泣くなよ、千冬。心配するのは分かるけど、俺達はこうして生きている。だから、今は生還を喜んでくれ。そっちの方が…お前らしいよ。大丈夫。俺の手が届く限り守れるモノは守ってみせるさ…」
「バカ…」
承壱の安心させる為の言葉がどうやら千冬の理性が崩れてしまい、承壱にキスをしてしまう。
それに驚く承壱だが、素直に受け止める。こうなると流れに任せるのがいいからだ。
「…これからも頼っていいか?」
「…頼られてやるよ。俺はお前の男だからな」
承壱の返答に嬉しさと安心からまた抱き締めてしまう千冬。承壱は安心させる様に千冬の背中をさすってあげるのだが、ふと視線を感じてその方向を見ると一夏達がおり、全員赤面して照れていた。それに千冬も気付いて、承壱から離れると赤面しつつコホンと咳払いして続けた。
「…まあ、見ての通り、私達は交際している。噂は流さない様に。山田君も頼むぞ」
「「「「「は、はい!」」」」」
(俺は知っているけど…堂々とやると逆に恥ずかしいぜ、アニキ~)
(本当に付き合っていたんだ…すごいな、承壱さんは…)
(これが…大人の恋愛なのですね…勉強になりますわ)
(いつの間にそんな関係になっていたのよぉ~承壱さん~!)
(先輩の彼氏って時城くんだったんですね…以外…)
一夏、箒、セシリア、鈴音、真耶は思い思いに感想を抱く中、全員はこの秘密を決して口外しない事を誓うのであった。
その後、該当者達は事情聴取が行われ、第2アリーナのシステムが故障しているのあって結局、クラス対抗戦は中止となってしまったのだが、これで落ち込む様な承壱達では無かった。
余談ではあるが、控え室の扉もロックが掛かってしまい簪を始めとした出場選手達も中々脱出が出来なかったらしいが無事だったそうだ。
薄暗いラボの様な部屋で、男がモニターに映されたデータを見て、脳内で解析を始めた。
やがて、メモとスケッチを書きながらブツブツと呟く。
そして、モニターに映った最後の映像は、アンノウンに斬り込む承壱のロックスミスの姿であった。
男が見ていたのはアンノウンが送った映像データだったのだ。
「なるほど…稼働時間数十時間未満でこの性能か…ウサギの作った先品は、最高傑作のオオカミか…。修正プログラムを入れたゴーレムで、これ位のデータしか取れないならまだまだ改善の余地はあるな…」
そう言いながら男はパソコンを操作する。ディスプレイにはアンノウン…対IS攻略戦闘ロボット『ゴーレム』の設計図が表示されており、改良点が次々と表示された。
その作業を終えた男は、並べられた大量のカプセルの方に歩いて行く。そのカプセルの中にはそれぞれ人間の脳髄が養液と共に詰まっていた。
「こいつらを使うのはまだまだ先だな。ゴーレムをもう少し強くしてからにしようか…」
ニヒルに笑う男の目は狂気が帯びていた。
「待っててね、千冬ちゃん」
男が見上げるその視線の先には、壁一面に貼られた数多くの千冬の顔写真。その目が目指すモノは何なのか…。
それはまだ誰も知らない。
つづく
現在公開可能な情報
承壱と千冬の関係
噂になっているが、今回一件でセシリア、鈴音、真耶に知られてしまったが、3人は公言しない事を約束した。まだまだ生徒と教師の禁断関係を楽しめられる承壱と千冬であった。
ゴーレム
IS学園を襲撃したアンノウン。その正体は、ある者が作った対IS攻略戦闘ロボット。性能は試作機である為、以外にもお粗末。しかし、高出力ジェネレータを内蔵している為、レーザー砲の威力はバカにならない。
謎の男
ゴーレムを作った男。どうやら千冬を狙っている様だが詳細は不明。
こいつは誰なんだ?
感想、意見、よろしくお願いします!