インフィニット・ストラトス Re:RISING   作:最後のVESPERの挑戦状

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激突編
第6話:2人の転校生と実習と弁当


謎の乱入者によってクラス対抗戦は結局、中止になった。

それには箝口令が敷かれる程で、直接戦闘に関わった承壱と一夏、鈴音は誓約書まで書かされたのだ。

その数日後。

承壱と一夏は部屋割りの整理が漸く整って、承壱は1人部屋として621号室を使う事になった。この時、承壱と一ヶ月近く同居してくれたクラスメイトの岸原理子は、涙ぐみながら引っ越していった。

一方、一夏は箒と離れてしまう事に納得はしているが、お互い涙を流しながら箒は引っ越してしまうのだった。こちらも奇妙な事に一夏が1025号室を1人部屋として使う事になった。

それには関係者も含めて何故だと首をかしげてしまうが、それは誰にも分からない事であった。

それからは放課後訓練に鈴音も参加する様になり、賑やかに、しかし平穏な日常になりつつあった。

 

「はぁ~…」

「どうしたんですか、承壱さん?」

「ああ…セシリアちゃんか、おはよう」

「おはようございます。大丈夫ですか?」

6月に入り、第1月曜日の朝。

寮から校舎へ登校中の承壱は重い溜め息をついてしまい、それに気付いたセシリアに声を掛けられた。その返事もいつもと違い元気がなかった。

「ああ…現金はあるんだけどな、元気がなくてな…」

「ご冗談を言えるので大丈夫みたいですけど、先日の休みに何かありましたの?」

すると承壱はキョロキョロと周囲を見てから、セシリアに耳打ちする様に小声で話し始める。

「…ここだけの話、千冬とデートする予定だったんだよ」

「まあ!」

「ただ、急な仕事が入っちまったみたいで、結局おじゃん。不完全燃焼って奴だ…」

「それはご愁傷様でしたね。ですが、承壱さん、今月は学年別個人トーナメントがありますのよ!ここでいいところ見せれば、織斑先生から高く評価されるはずですよ?」

「うーん、それもそうだな。やるなら優勝を目指さないとな!」

「その粋ですわ。ですが優勝はそう簡単に譲りませんよ?」

「やってみな、セシリアちゃん」

セシリアから良い情報を聞いた承壱は、いつもの調子に戻る。

学年別個人トーナメント。

それは文字通り学年別のIS対決トーナメント戦で、全校生徒強制参加のイベントで一週間かけて行う物である。一学年が約120名の生徒が在籍しており、規模も相当な物になるのは当然だ。

1年生は浅い訓練段階での先天的才能評価、2年生はそこから訓練した状態での成長能力評価、3年生はより具体的な実戦能力評価となっている。特に3年生の試合は大がかりで企業や各国の役人がスカウトの為に来賓する程である。

現時点での1年生の実力は、誰がどう見ても承壱が一番強い事は間違いないが、最後までどうなる分からないのが勝負という物で、承壱は教室に着くまで対策の簡易脳内シミュレーションを行う。

そして、教室に到着するとクラスメイト達がわいわいと賑やかに談笑をしており、手にはカタログを持ち意見を交わしている。

「やっぱりハヅキ社製のがいいなぁ」

「え?そう?ハヅキのってデザインだけって感じしない?」

「そのデザインがいいの!」

「私は性能的に見てミューレイのがいいかなぁ。特にスムーズモデル」

「あー、あれねー。モノはいいけど、高いじゃん」

(なるほど、ISスーツの話か)

「アニキ、おはよう!」

「おはようございます、承壱さん!」

「おお、イチ、箒ちゃん、おはよう」

承壱は、クラスメイト達の話の内容を推測し、丁度良く一夏と箒も登校して朝の挨拶を交わした。

その時、クラスメイトの1人が声をかける。

「ねえねえ、時城さんと織斑くんのISスーツってどこのやつなの?見たこと無い型だけど」

「あー…っとどこだっけアニキ?」

「特注品だ。たしか…ムラクモ・ミレニアムっていう企業だ。男用のスーツ位はすぐに作れたんだと。まあ、試験タイプらしいけどな」

「えっ!ムラクモ・ミレニアムってあのムラクモ?織斑先生が現役時代スポンサー企業だったとこだよね?すごーい!」

「そうか?俺は腹黒企業のイメージしかない」

因みにISスーツとは、文字通りIS展開時に体に着る特殊フィットスーツで、このスーツ無しでもISを動かす事は可能だが、反応速度が鈍ってしまうのだ。

「ISスーツは肌表面の微弱な電位差を検知する事によって、操縦者の動きをダイレクトに各部位へと伝達、ISはそこで必要とする動きを行います。また、このスーツは耐久性にも優れ、一般的な小口径拳銃の銃弾程度なら完全に受け止める事が出来ます。あ、衝撃は消えませんので悪しからず」

そうスラスラと説明しながら教室に入ってきたのは真耶で、気付いた承壱は朝の挨拶をする。

「山田先生、おはようございます。解説ありがとうございます」

「おはようございます、時城くん。ありがとうございます」

「山ちゃん詳しい!」

「一応先生ですから。…って、や、山ちゃん?」

「山ぴー見直した!」

「今日が皆さんのスーツ申し込み開始日ですからね。ちゃんと予習してきてあるんです。…って、や、山ぴー?」

入学してから二ヶ月が過ぎたのもあり、真耶には8つ位の愛称が付いていた。慕われている証拠だが、先生本人に言うのは如何なものかと承壱は思ってしまう。それは一夏と箒、セシリアも同じ様だ。

「あのー、教師をあだ名で呼ぶのはちょっと…」

「そうだぞ、皆。仮にも山田先生は先生なんだから敬意を持って『山田先生』って呼ぶべきだ」

「時城くん…」

自分を擁護してくれる承壱に頬を赤めて感謝する真耶。

だが、クラスメイト達は止まらない。

「えー、いいじゃんいいじゃん」

「承壱さんとまーやんは真面目だなぁ」

「ま、まーやんって…」

「おいおい」

「あれ?マヤマヤの方が良かった?マヤマヤ」

「そ、それもちょっと…」

「もー、じゃあ前のヤマヤに戻す?」

「あ、あれはやめてください!」

珍しく語尾を強くして拒絶する真耶の反応から連鎖的に承壱も声を出した。

「いい加減しろ、皆!山田先生困ってんだろう!さっきも言ったが、先生なんだから敬意を持って『山田先生』って呼べよ!」

「「「「「はーい」」」」」

そう返事をするクラスメイト達だが、空返事なのは間違いなかった。額に怒りの青筋を浮かべながら承壱は自分の席に向かうが、一夏がある事を言う。

「でも、アニキも千冬姉をどう呼ぶか迷ってなかったけ?」

「お前は余計な事を言うな!」

そう言った途端、承壱は怒りの形相で一夏にコブラツイストを繰り出した。

「イデデデデデデデデッ!」

「ギブか?もう言わないか?」

「ギブギブッ!言わないからギブ~!」

(((((怖~…)))))

朝からプロレス技を繰り出す承壱に恐怖するクラスメイト達だが、これが日常の一つである。

それから数分後。

時間となり千冬が教室に来た。その途端、クラスメイト達は直ぐに席に着き、ざわついていた教室は一瞬で静寂になる。

「諸君、おはよう」

「「「「「おはようございます!」」」」」

教壇に立ち朝の挨拶をした千冬にクラスメイト達は元気よく挨拶をする。ここからIS学園の1日が始まるのだ。

「今日からは本格的な実戦訓練を開始する。訓練機ではあるがISを使用しての授業になるので各人、気を引き締める様に。各人のISスーツが届くまでは学校指定の物を使うので忘れないようにな。忘れた者は代わりに学校指定の水着で訓練を受けてもらう。それも無い者は…下着でも構わんだろう」

(((((いやダメでしょう!)))))

たまにボケる千冬にクラスメイト達は、心の中でツッコんでしまう。だが、承壱は真面目な顔で考察していた。

(学校指定の水着って確かスクール水着だよな…。千冬が着たら案外に似合いそう…)

非常にくだらないが本人は大真面目に考えており、後で妄想は楽しむとして今の時間に集中するのが承壱だ。

因みに学校指定のISスーツがあるにも拘わらず個人で用意するのは、これまたISが百人通りの仕様に変化するので、早い内から自分のスタイルを確立する為である。

「では山田先生、ホームルームを」

「は、はいっ」

連絡事項を伝え終えた千冬は、真耶に次を譲るが、丁度よく真耶は眼鏡を拭いていたので、わたわたとかけ直してから話し始めた。

「ええとですね、今日はなんと転校生を紹介します!しかも2名です!」

「え…」

「「「「「えええええ!」」」」」

いきなりの転校生紹介にクラスメイト達は大きく騒いだ。完全に寝耳に水だったので、一夏と箒、セシリアも動揺するが、承壱はある推理をしてしまう。

(転校生が2人って…そいつらのせいでデートがおじゃんになったのか?嬉しい様な恨めしいというか…)

複雑な心境になりながらも承壱は冷静さを保つが、一つの疑問が出てきた。

(こういうときは普通分散させるんじゃないのか…?多分、千冬が担任をしているからだな…)

「失礼します」

「…」

教室に入ってきた2人の転校生を見て、ざわめきがピタリと止んだ。

その内の1人は、男子だったのだからだ…。

 

「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。この国では不馴れな事も多いかと思いますが、みなさんよろしくお願いします」

転校生の1人、シャルル・デュノアは和やかな表情でそう告げて一礼する。

人懐っこそうで中性的に整った顔立ち、濃い金髪を首の後ろで丁寧に束ねており、体は華奢でスマート。いかにも『貴公子』という印象を受けた。

呆気にとられるクラスメイト達だが、承壱はどこか奇妙なモノを感じていた。

「お、男…?」

誰かがそう呟いた。

「はい。こちらに僕と同じ境遇の方がいると聞いて本国より転入を…」

そう言うシャルルだが、最後まで言わせてもらえない。

「きゃあああああああーっ!」

「男子!3人目の男子!」

「しかもうちのクラス!」

「美形!守ってあげたくなる系の!」

「地球に生まれて良かった~!」

(うるさいな…)

(2ヶ月ぶりだな、この歓声…)

(もう少し静かに出来ないのか?)

(落ち着いてくださいよ、皆さん…)

承壱、一夏、箒、セシリアがクラスメイト達の元気の良さに呆れる。他のクラスがやって来ないのは、教員達のお陰だろう。

「あー、騒ぐな。静かにしろ」

「み、皆さんお静かに。まだ自己紹介が終わってませんから~!」

十代女子の反応が鬱陶しそうに千冬はぼやき、真耶が落ち着かせる様に声を出す。そうしてもう1人の転校生に注目する。

その子は、腰近くまで長く伸ばしている輝く銀髪で、左目に軍支給の物と思われる黒眼帯を付けており、右目は赤目だ。身長は低い方だが、冷たく鋭い気配からその印象は正に『軍人』である。

「…」

当の本人は未だに口を開かず、腕組みをしてクラスメイト達を下らなそうに見ている。だが、それは僅かな事で今は千冬へ視線を向けていた。

「…挨拶をしろ、ラウラ」

「はい、教官」

「ここではそう呼ぶな。もう私は教官ではないし、ここではお前も生徒だ。私の事は織斑先生と呼べ」

「了解しました」

そう答えピッと伸ばした手を体の真横につけ、足をかかとで合わせて背筋を伸ばす。その仕草からこの子が軍人か軍関係者である事をクラスメイト達は確信した。

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

「…」

「…それだけか?」

「以上だ」

あまりの沈黙でいたたまれなくなり、承壱が率先して訊いたが、帰ってきたは冷たい一言だった。

(なんだ、この子?しかも千冬の事を教官って言っていたから…ドイツから来たのか?)

承壱がそう思っているとラウラは、一夏と目が合ってしまい、ジッと見詰める。

「…なんだよ?」

「…私は貴様を倒す。そして、証明する」

「はぁ?」

いきなりの宣戦布告に一夏は困惑し、箒とセシリアを始めとしたクラスメイト達は口をぽかんと開けてしまう。

そして、ラウラはスタスタと一夏の前から立ち去り、空いている席に座ると腕を組んで目を閉じ、微動だしなくなる。

それを見て承壱は額を押さえてしまう。

(これは…面倒な事になった…)

「あー…ではホームルームを終わる。各人はすぐに着替えて第2グラウンドに集合。今日は2組と合同でIS模擬戦を行う。解散!」

パンパンと手を叩いて千冬が行動を促す。

「時城、織斑。デュノアの面倒を見てやれ。同じ男子だろう」

千冬に言われ、授業の準備を始めるクラスメイト達の中を掻い潜り、承壱は一夏とシャルルの元にたどり着く。

「デュノアくん、積もる話は移動しながらだ。今はとにかく急がないと。女子が着替え始めるから」

「あ、はい」

「よし、ついてこい」

承壱を先頭にして一夏はシャルルの手を取り教室を出た。向かう先は第2アリーナ更衣室である。

「男子は空いているアリーナ更衣室で着替えとなる。実習の度にこの移動だから慣れてくれよ」

「う、うん…」

「さーて、早く行かないと男に飢えた奴らが来るぞ…」

承壱の発言に意味が分からないという顔になるシャルルに一夏が補足する。

「…普通に珍しいだろ。ISを操縦出来る男って、今の所俺達3人しかいないんだろ?」

「あっ!ああ、うん。そうだね」

「それとアレだ。この学園の女子って男子と極端に接触が少ないから、珍獣状態なんだよ」

「大丈夫だ。いざとなったら…全員、ぶっ潰す」

そう言って承壱は、待機状態のロックスミスである拳銃を取り出して顔の横に構える。その表情は正に鬼の形相で、『誰も俺に近付くな!』というモノであった。

「止めてアニキ!危ないから!」

 

承壱の鬼の形相が効いたのか分からないが、時間に余裕を持って第2アリーナ更衣室に3人は到着した。

あの形相はしばらく使わなくてもすみそうだと思う承壱は、すぐに着替えを始める。それに続いて一夏も着替え始める。

「イチ、ISスーツは下に着ているな?」

「下着代わりにしろって、アニキに言われてからそうしているよ」

「腹を見せるな、腹を」

「わあっ!」

ガバッと制服をいきなり脱ぎだした2人にシャルルは驚いて顔を隠すが、既に承壱と一夏はインナー代わりにISスーツを着ていた。よって素肌は一切見せていないにも拘わらず、妙な反応をするシャルルに対して一夏は首を傾げる。

「どうした?」

「忘れ物か?」

「いや…いきなり脱いだからビックリしちゃって…」

「そうか。肌見せるの嫌なら向こうで着替えな」

「あ、ありがとうございます…」

承壱の配慮の一言でシャルルは物陰に隠れて着替え始める。それを見て一夏はまた首を傾げた。

「なんか変だな…?」

「…お前もそう思うか、イチ」

制服を綺麗に畳んでからロッカーに入れて、小声かつ真面目なトーンで一夏に確認する承壱。その表情は疑惑の表情だ。

「もしかするとトランスジェンダーかもしれない」

「えっ?って事は…体は男だけど心は女って事なのか?」

「あるいはその逆かもな…。ちょっと配慮の距離を取るんだ、いいな?」

「了解。でもISってトランスジェンダーの子は操縦できるのか?」

「前に束に聞いたら『分からない』って言っていた。検証してないだけかもしれないが、あいつが分からないんじゃ、誰も分からんよ」

そう話していると着替え終えたシャルルがひょっこりと顔を覗かせた。

「何の話?」

「「おあーっ!」」

いきなりの声がけに真剣に話していた2人は驚きの声を出してしまう。その声にシャルルも驚いてしまうが、すぐに全員平静に戻った。

「な、何でもない!さあ、2人とも行くぞ!」

「おおー!」

「お、おー!」

無理矢理鼓舞する振る舞いをして場を納めた承壱は、2人を引き連れて更衣室を出た。グラウンドで向かう道中、一夏は改めてシャルルを見た。注目したのはISスーツだ。

「シャルルのスーツ、何か着やすそうだな。どこのやつ?」

「あ、うん。デュノア社製のオリジナルだよ。ベースはファランクス製だけど、ほとんどフルオーダー品」

「…デュノアくんって、もしかしてデュノア社関係の子か?自己紹介の時から気になっていたんだが…?」

「はい。僕の家です。父が社長をしています。一応フランスで一番大きいIS関係の企業だと思います」

「なるほど…。道理で気品がいいわけだ」

「いいところの育ちって奴だな。納得したわ」

「いいところ…ね」

ふと、シャルルが視線を逸らす。それは何か触れられたくない所だった様で複雑な表情を浮かべていた。

 

「では、本日から格闘及び射撃を含む実戦訓練を開始する」

「「「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」」

1組と2組の合同実習なので人数はいつもの倍。生きる伝説である千冬が指導するからか、出てくる返事も気合いが入っている。

「今日は戦闘を実演してもらおう。丁度、活力が溢れんばかりの十代女子もいる事だしな。凰!オルコット!」

「「はい!」」

指名された2人は列の前に出た。

「対戦相手はセシリアですか?」

「そう言えば、鈴さんとはまだ試合をした事がありませんでしたわね?」

「いい機会だから、どっちが上か決めましょうよ」

「上等ですわ」

セシリアと鈴音のやる気は十分だが、千冬が止めてしまう。

「慌てるな。対戦相手は…」

その時、大空を切り裂く音が響いてきた。それに承壱は嫌な結果を想像してしまう。その音の方に反射的に顔を向けると…。

「ああああーっ!ど、どいてください~っ!」

ISを装備した状態でスカイダイビングしている真耶がいた。

危険を察知した承壱は、素早く待機状態のロックスミスのトリガーを引いてロックスミスを展開。

そのまま真耶を空中で受け止め、ゆっくりと降下する。

その一連の動きに1組と2組から歓声と共に拍手が送られた。

「アニキ…すげぇ…!」

「なんという展開速度だ…!」

「適確、かつ大胆ですわ…」

「動き前より速くなってない?」

「あの機体が時城さんの…」

歓声と共に一夏、箒、セシリア、鈴音、シャルルがそれぞれ言う中、承壱は真耶をゆっくりと地面に着地させてあげた。

「あ、ありがとうございます、時城くん。今日は朝から助けられてばかりですね」

「怪我は無いですか?」

「はい、ありがとうございます」

すると承壱はマスク越しにジーッと真耶を見る。何かに言いたい様だ。

「時城くん…?」

「ちょっと緊張しています?大丈夫ですよ、先生なんだから自信を持って」

「は、はい!」

どっちが生徒で教師なのか分からないやり取りにこの場にいた全員が苦笑してしまう。

だが、あの瞬間に承壱が真耶を受け止めていなかったら大惨事になっていたのは間違いないので、全員改めて気を引き締める。

「さて、さっさと始めるぞ。お前達の対戦相手は、この山田先生だ」

「え?あの2対1で…?」

「いや、さすがにそれは…」

「安心しろ。今のお前達なら粘り負ける」

千冬に負けると明確に言われたのが気に障ったらしく、セシリアと鈴音は闘志を滾らせる。2人は既に承壱から連携訓練も受けているので尚更、その闘志は燃え上がる。

「では、始め!」

千冬の号令と共にセシリアと鈴音が飛翔する。それを目で一度確認してから、真耶も空中へ躍り出て模擬戦が始まった。

「さて、今の間にそうだな…。ちょうどいい。デュノア、山田先生が使っているISの解説をしてみろ」

「あっ、はい」

空中での戦闘を見ながら、シャルルが皆に聞こえる声量で説明を始める。

「山田先生の使用されているISはデュノア社製『ラファール・リヴァイヴ』です。第2世代開発最後期の機体ですが、そのスペックは初期第3世代型にも劣らないもので、安定した性能と高い汎用性、豊富な後付武装が特徴の機体です。現在配備されている量産型ISの中でも最後発でありながら世界第3位のシェアを持ち、7カ国でライセンス生産、12カ国で制式採用されています。特筆すべきはその操縦の簡易性で、それによって操縦者を選ばない事とマルチロール・チェンジを両立しています。装備によって格闘・射撃・防御といった全タイプに切り替えが可能で、参加サードパーティーが多い事でも知られています」

シャルルはまるで教科書に書かれている文字を全て暗記しているような勢いでスラスラと説明していく。

自社の製品に関する説明だからだろうか、承壱は参考書とかよりも詳しく説明している気がした。

(やっぱり、デュノア社の子か…)

「ああ、そこまででいい。…終わるぞ」

最後に大きな爆発が起きて、2つの影がゆっくりと降下してきた。

「手酷くやられたわ…。承壱さんの連携訓練をもう少しやらないとダメね…」

「そうですね…。本気で挑んだと言うのに…攻めきれなかったですわ…」

「でも、セシリア…いいタイミングでビットユニット出してくれてありがと」

「鈴さんこそ、格闘のフォローありがとうございます」

「確かに。お前達にしてはよく連携していた方だろう。だが、今回ばかりは相手が悪かったな」

千冬が2人を何気に慰めている間、真耶も静かに降りてきた。

「ご苦労様だった」

「いえ。私も久し振りで楽しかったですから」

「こう見えても、山田先生は元日本の代表候補生だ。と言っても、限りなく代表に近い代表候補生だったがな」

「それってつまり、千冬先生がいなかったら…」

「まず間違いなく日本の国家代表に選抜されていた。それ程の実力者だと言う事だ」

「「「「「おぉ~…!」」」」」

真耶の経歴を知った事でまた歓声が上がった。クラスメイト達の中には、失礼なあだ名を付けた事に赤面して恥じてしまう者もいるが、授業は進む。

「さて、これで諸君もIS学園教員の実力を理解出来ただろう。以後は敬意を持って接する様に」

パンパンと手を叩いて千冬は皆の意識を切り替える。

「専用機持ちは織斑、オルコット、デュノア、ボーデヴィッヒ、凰、そして、時城だな。では7人グループになって実習を行う。各グループリーダーは専用機持ちがやる事。いいな?では分かれろ」

承壱と一夏はこの後、女子達が自分達とシャルルに集中するだろうと予測する。

だが、予想外な事に女子達は、迷う者もいたが均等に分かれてくれたのだ。

「ありゃ?以外。皆大騒ぎすると思ったけど…」

「いや~本当は織斑くんやデュノアくんの所に行きたかったけど…」

「下手に動けば、あの出席簿の餌食になりそうだし…」

「なるほど、よく考えたな」

皆、共通しているのは千冬の痛い指導は受けたくないという事を理解した承壱は、思わずニヒルに笑った。

一夏、セシリア、鈴音のグループも出来ていたが、承壱は転校生2人の方が心配になり少しだけ注目する。

「デュノア君!丁寧に教えてね!」

「うん。僕も可能な限り分かりやすく教えるように心掛けるよ」

シャルルのグループは、一見、問題無さそうだが、ジェンダーの問題を抱えているかもしれないので、少し不自然さがあった。

「えっと…よろしくね?」

「あまり人に教えるのは得意ではないが、出来る限りやってみよう」

ラウラの方は問題無い様だ。どうやら軍にいた経験を活かしてやるのだろう。

「ええと、いいですかー皆さん。これから訓練機を1班1機取りに来てください。打鉄とリヴァイヴが3機ずつです。好きな方を班で決めてくださいね。あ、早い者勝ちですよー」

真耶がいつもよりしっかりしている。先程の模擬戦と承壱の激励で漸く自信を取り戻したのだろう。その姿は堂々として、このまま眼鏡を外せば『仕事が出来るオンナ』に見えそうな勢いだ。

この後、実習は順調に進むが、一夏のグループにて、立ったままISの装着解除をして、そのままの状態にしてしまう子がいた。訓練機を使う場合は、装着解除時に絶対にしゃがまないと次の人が乗れなくなってしまうからだ。しかも丁度次の番は箒で、一夏が気を利かせてお姫様抱っこをして乗せてあげたのだ。

「ちょっと恥ずかしいが…一夏、ありがとう…」

「いいよ、これ位。他の子にはやらないから安心してくれよ」

「ああ…」

羨ましがる子も居たが、密かに噂になっている一夏と箒の関係を知っている者は、微笑ましく見ていたらしい。

こうして午前の実習は大きなトラブルは無く、訓練機を格納庫へ片付ける際、美男子差別や男女差別も無く全員で協力して片付けたのであった。

 

昼休み。

承壱達は屋上にいた。この場にいる面々は一夏、箒、セシリア、簪、鈴音、シャルル、そして、千冬だ。

普通の学校ならば屋上は封鎖されているが、IS学園は違う。生徒が入りやすい様に美しく花壇は配置され、欧州思わせる石畳が落ち着いている。それぞれ円テーブルには椅子が用意されており、晴れた日の昼休みとなると賑わうが、今日は多くの女子達はシャルル目当てで学食へ向かったらしく、ほぼ貸切状態で承壱達以外いなかった。

そして、この場に承壱達がいるのは、承壱の提案で今日の昼食は弁当にしていたからだ。

因みに千冬がここにいるのは先日のデートがキャンセルになった埋め合わせでもある。

「…承壱、私も居ていいのか?」

「いなきゃ俺が面白くない。それに久々に弁当を作ったんだ。食べてくれよ」

「…分かった」

この場に相応しくないと思ったのか千冬の質問に承壱は、強気の言葉で留まらせて弁当の包みを千冬に手渡した。それを受け取った千冬は包みを開けて蓋を取る。すると綺麗に盛り付けられた弁当が姿を見せた。

「おお…しらす梅ご飯に照り焼きチキン、トマトの塩昆布和え、卵焼き、ちくわとキュウリの和え物か。どれも美味そうだ」

「さ、どうぞ」

「いただきます」

千冬は卵焼きを一口頬張る。どうやら口に合った様で笑顔になってしまった。

「…美味いか?」

「うん。相変わらず承壱の弁当は美味いな」

「イチが教えてくれたからな。ホント、感謝するぜ」

「いや~、それ程でも~」

褒められた一夏は照れ隠しなのか頭をかく。その右隣には箒がおり、一夏に弁当の包みを差し出した。

「一夏、お前の分だ」

「お、サンキュ」

包みを開けて蓋を開けるとご飯に鮭の塩焼き、鶏の唐揚げ、こんにゃくとゴボウの唐辛子炒め、ほうれん草のゴマ和えと承壱の弁当と同じ位バランスの取れた弁当になっていた。箒も同じで2人分作ってきた様だ。

「はい一夏。アンタの分」

箒の右隣に座る鈴音は、ちと怒り気味でタッパーを一夏へ差し出す。開けてみると入っていたのは酢豚。

「おお、酢豚だ!」

「そ。今朝作ったのよ。アンタ前に食べたいって言ってたでしょ」

鈴音は要領よくメインのおかずを作り、他は購買で購入した様である。

「一夏さん、私のサンドイッチもよろしければおひとつ…」

「だ、大丈夫なのか、今回は?」

「セシリアちゃん、レシピ見ながらやったんだよな?前に作ってきたヤツは、殺人的な不味さだったからな」

「大丈夫です!今回は自分でも味見をしましたので、絶対大丈夫です!」

箒の向かいに座るセシリアの発言にこの場にいた全員は『本当か?』という目でセシリアを見てしまう。

こうなったのは理由があり、セシリアはめちゃくちゃ料理が下手だったのだが、食にうるさい承壱が一口食べて大激怒した程なのだ。なお、その日の放課後訓練は、『再教育』としてセシリアは承壱達から袋叩きに近い形で訓練を受けたらしい。

そんな事も有り、セシリアは料理下手を克服するべく、まずはしっかりレシピを見ながら作る事にしているのだ。

するとセシリアの左隣に座り、おにぎりを頬張っていた簪がある事を言う。

「…承壱お兄ちゃんと織斑先生って付き合ってるんだ…」

「あれ、簪は知らなかったか?」

一夏の問いに簪は首を縦に振る。

「今初めて知ったけど…」

「…すまん。いつもいるから言った気になってた」

「ヒドい…」

承壱の一言で簪は思わず悲壮な表情になってしまう。それを聞いた千冬は簪に一言伝えた。

「すまなかったな。だが、まだ公言しないでくれ。私達はこの状況を楽しみたいんだ」

「そういう事ですか…。分かりました、織斑先生」

「よろしい」

「…ええと、本当に僕が同席してよかったのかな?」

一夏の左隣に座っていたシャルルは、購買で購入した牛乳とサンドイッチを置いてそんな事を言う。どこか遠慮深くて逆に承壱達を困らせてしまう。

しかし、その発言を聞き捨てなかったのは千冬だ。

「デュノア、お前はまだ転校してきたばかりだ。右も左も分からないんだから、代表候補生同士、仲良くした方がいいぞ」

「織斑先生がそう言うなら…皆、よろしくお願いします」

それを切っ掛けに承壱は自己紹介を始めた。それ続く様に他の面々も自己紹介に続く。

「よろしく。改めて、俺は時城承壱。1組の副代表もしている」

「織斑一夏だ。よろしく」

「篠ノ之箒だ。苗字から分かると思うが、篠ノ之博士の妹だ。よろしく」

「セシリア・オルコットと申します。イギリス代表候補生です。よろしくお願いしますわ」

「更識簪です。日本代表候補生です。よろしくお願いします」

「凰鈴音よ。中国代表候補生だからよろしく」

なんともほのぼのした雰囲気で一夏は、仲間が増えた事に心の中で喜ぶ。

その一方で承壱と千冬は、シャルルの仕草や動きを見て一緒に首を傾げてしまう。

(なーんか変だな…)

(やはり、トランスジェンダーか?)

「そうだ!アニキ、次からの放課後訓練、シャルルも入れないか?」

「ん?ああ、元からそのつもりだ。ビシバシやるから期待しな、デュノアくん」

一夏の提案に承壱はすんなり了承し、シャルルにビシッと指を指して宣言する。

それに対して、シャルルは素朴な疑問を出した。

「…あれ?でも確か…時城さんも一夏と同じ位に始めたんですよね?どうしてそんなに強いんですか?」

「うーん。一言で言うなら、想像力を解き放っているからだろうな」

「「「「「「想像力?」」」」」」

意外な返答の一言に全員がオウム返しをしてしまう。千冬は既に分かっている様で承壱の隣で微笑んでいた。

「ああ。俺には夢があるからな。その夢に向かって飛び進んでいるから、頭が動くんだ。勝手にな」

「…なんかカッケーよ、アニキ」

「それをサラッと言える承壱さんは何なのだ?」

「本当、羨ましいですわ」

「うん。お兄ちゃんって本当にすごい…尊敬しちゃう」

「承壱さん…その想像力、あたしにも分けてよ」

「アハハハ…」

一夏、箒、セシリア、簪、鈴音は口々に嫉妬に似た感想を言う中、シャルルは乾いた笑い声を上げてしまう。

そして、承壱の隣で千冬は誇らしげにニヒルに笑うのであった。

 

つづく




現在公開可能な情報

シャルル・デュノア
フランスから来た3人目の男性IS操縦者。承壱と千冬、一夏はトランスジェンダーかもしれないと推測するが…。

ラウラ・ボーデヴィッヒ
ドイツ代表候補生。千冬を教官と呼ぶ、一夏に宣戦布告する等、2人と何か関係があるらしい。

感想、意見、よろしくお願いします!
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