インフィニット・ストラトス Re:RISING   作:最後のVESPERの挑戦状

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第8話:ブルーデイズ/レッドハザードその2

怒りで大暴れする前に箒を落ち着かせた承壱達は、それぞれ適当な場所に座ってシャルルから事情聴取を行う事になり、質問はそれぞれ出してもいいのだが承壱が主導で始めた。

「えーと、何だっけ…。あ、そうだ、まずは大事な所から聞こう。もう一度確認するが…君はトランスジェンダーでは無く、身も心も女性でいいんだな、デュノアくん?」

「…はい。今までご配慮ありがとうございました」

「あくまでも君がトランスジェンダーであった場合だ。だが、根底から崩れたからこれから変わってくる。次の質問だ。何故、男のフリをしていたんだ?」

「それは、その…実家の方からそうしろって言われて…」

「実家っていうとデュノア社か?」

「はい。僕の父がそこの社長です。その人から直接の命令です」

実家の話をし始めてから、シャルルの顔は顕著に曇りだした。

「命令って…親だろ?何でそんな…」

「僕はね、一夏。愛人の子なんだよ」

一夏の問いにシャルルはショッキングな答えを返した。

この答えにこの場にいた全員は絶句してしまった。世間を知る15歳の少年少女と24歳の教師は、『愛人の子』の意味が分からない程、純情では無い。

そして、シャルルは自分の経歴を語り始めた。

「…引き取られた2年前。丁度、お母さんが亡くなった時にね、父の部下がやってきたの。それで色々と検査をする過程でIS適正が高い事が分かって、非公式ではあったけれどデュノア社のテストパイロットをやる事になってね」

「ふむ…」

シャルルは言いたくはない話を健気に喋り、皆黙ってしっかりと話を聞く事に専念するが、承壱は調書を取る様にメモも取る。

「続けてくれ」

「…父に会ったのは2回位。会話は…数回位かな?普段は別邸で生活をしているんだけど。一度だけ本邸に呼ばれてね。あの時は酷かったなぁ。本妻の人に殴られたよ。『泥棒猫の娘が!』ってね。参るよね。お母さんもちょっとくらい教えてくれたら、あんなに戸惑わなかったのにね。あはは…」

愛想笑いで繋げるシャルルだが、その声はちっとも笑っていない。故に誰も愛想笑いで返せない。一夏と千冬は怒りが沸々と湧いてきて堪える為に拳をきつく握り締める。

「…それから少し経って、デュノア社は経営危機に陥ったの」

「え?だってデュノア社って量産機ISのシェアが世界第3位だろ?」

「そうだけど、結局リヴァイヴは第2世代型なんだよ。ISの開発っていうのはもの凄くお金が掛かるんだ。殆どの企業は国からの支援があってやっと成り立っている所ばかりだよ。それで、フランスは欧州連合の統合防衛計画『イグニッション・プラン』から除名されているからね。第3世代型の開発は急務なの。国防の為もあるけど、資本力で負ける国が最初のアドバンテージを取れないと悲惨な事になるんだよ」

「…イグニッション・プランか。そうなると…セシリアとラウラにも関わってくる話だな」

千冬から名前を出された事でセシリアとラウラは反応する。

「そうですわね…。現在、欧州連合では第三次イグニッション・プランの次期主力機の選定中なのですわ。今の所トライアルに参加しているのは我がイギリスのティアーズ型と…」

「私のレーゲン型だな」

「後は…イタリアのテンペスタⅡ型だったね」

簪が思い出した様に追加し、トライアルに参加している国を確認した。欧州連合の1つであるドイツからラウラがIS学園に転入してきた事から実稼働データを取る為の事情が絡んでいるのが、一夏、箒、鈴音にも分かった。

「(だんだん分かってきたぞ)…デュノアくん話を戻してくれ」

「あ、はい…。それでデュノア社でも第3世代型を開発していたんだけど、元々遅れに遅れての第2世代型最後発だからね。圧倒的にデータも時間も不足していて、中々形にならなかったんだよ。それで、政府からの通達で予算を大幅にカットされたの。そして、次のトライアルで選ばれなかった場合は援助を全面カット、その上でIS開発認可も剥奪するって流れになったの」

「なんとなく話は分かったが、どうして男装していたのだ?」

「簡単だよ箒。注目を浴びる為の広告塔。それに…」

箒の質問にシャルルは視線を逸らしながら答え、苛立ちを含んだ声で続ける。

「同じ男子なら日本で登場した特異ケースと接触しやすい。可能であればその使用機体と本人達のデータを取れるだろう…ってね」

「それってつまり…スパイって事?」

鈴音の問いにシャルルは首を縦に振った。

「そう、白式とロックスミスのデータを盗んでこいって言われているんだよ。僕は、あの人にね」

この話を聞いた限りシャルルの父親は、一方的にシャルルを利用しているのだろう。そう思っても仕方がない状況と内容だ。

そして、それはここにいる誰よりもシャルル本人が分かっている為、実の父親を他人行儀で話している。自分の中で区別する為に。

「…とまあ、そんな所かな。でも皆にバレちゃったし、きっと僕は本国に呼び戻されるだろうね。デュノア社は、まあ…潰れるか他企業の傘下に入るか、何の道今までの様にはいかないだろうけど、僕にはどうでもいい事かな?」

「「「「「「「…」」」」」」」

「…なんだか話したら楽になったよ。聞いてくれてありがとうございました。それと、今まで嘘をついていてごめんなさい…」

深々と頭を下げるシャルル。

メモを取りながら話を聞いていた承壱は、そっと自分の左頬に残っている傷跡を指すってしまう。

疼くからではない。一番思い出したくない記憶が呼び起こされたしまうからだ。

「…トランスジェンダーかと思っていた子は、実は男装女子で、経営危機の企業のスパイ。フィクション小説なら確実に人気が出来る状況だな」

「あはは、そうですね…」

「それでいいのか?」

「え…?」

一夏は立ち上がり、シャルルの肩を掴んだ。

「それでいいのか?いいはずないだろ。親が何だっていうんだ。どうして親だからってだけで子供の自由を奪う権利がある?おかしいだろう、そんな物は!」

「い、一夏…?」

「親がいなけりゃ子供は生まれない。そりゃそうだろうよ。でも、だからって親が子供に何をしてもいいなんて、そんな馬鹿なことがあるか! 生き方を選ぶ権利だって誰にだってあるはずだ。それを親なんかに邪魔されるなんて無いはずだ!」

熱くなった一夏を千冬が引き離す。当の一夏は目が血走って興奮状態になる程だが、千冬に止められた事で落ち着いた様だ。

「落ち着け一夏。シャルルが怯えている」

「あ、ああ。ゴメン…千冬姉、シャルル…」

「一夏…どうしたの?」

「…俺と千冬姉は両親に捨てられたから」

「あ…」

先に資料で知っていったシャルルは『両親不在』の意味を理解し、シャルルは申し訳なさそうに顔を伏せた。

一夏の明かした織斑姉弟の過去にセシリアと簪は驚きの表情になり、幼なじみであり幼い頃から千冬とも交流がある箒はその事を知っており、もう一人の幼なじみの鈴音は何となくそれを分かっていた為、驚いていなかった。

そして、それに付け足す様に承壱が口を挟んだ。

「…その後、身寄りが無かった2人は、町医者をしていた時城家に保護された。そうして月日は流れて、こうして俺とイチは兄弟同然の関係になって、俺は千冬の恋人になった。まあ、これが時城家と織斑家の関係だな。この話は無関係かもしれないが…」

「…承壱さん、一つよろしいですか?あの…そのご両親は、今はどうなさっていますの…?」

セシリアが恐る恐る挙手して質問する。その内容に一夏と千冬、そして、箒と鈴音はしまったという顔になった。それを察した承壱は手をサッと出し、首を横に振って4人を制した。その表情は穏やかだ。

「…死んだよ。事故でな」

「っ!大変失礼いたしました。辛い事を思い出させてしまって、本当に申し訳ありませんでした」

「いいよ。もう割り切っているから。でも、その質問をするって事は…セシリアちゃんも家族に何かあったのか?」

「まさか…人質?」

一連の話を聞いていた鈴音は物騒な連想をしてしまい、セシリアに聞くがそれは違う様で、暗い表情になりながらセシリアは首を横に振る。

「いいえ、鈴さん。両親は人質になってはおりません。承壱さんと同じく、私も両親と列車事故で死別してますの」

「…すまないな。こっちこそ、辛い話をさせて…」

「大丈夫ですわ。私も承壱さんと同じく割り切ってします。それに私は両親の遺産を守るべくオルコット家の当主になった身です。お家騒動の修羅場をくぐり抜けてきたので、ちょっとやそっとで沈みませんわ」

「そうか…強いな、君は」

承壱は改めてセシリアが人として貴族として強い事を再認識した。それは一夏達も同じく感じた様だ。

「それ言われるとあたしは、まだ恵まれてんのね…」

「猫娘?」

今度は鈴音が言いたいらしく、割って入ってきた。

「いや…一夏には言ったんだけど、あたしの両親、離婚してね…。親権はお母さんが持っているの。それが原因で中国に一時帰国してたのよ」

「つまり、親父さんには会おうと思えば会えるって訳か…。確かにまだいいな」

「それ言ったら、私は一番贅沢だよ…」

「簪ちゃん?」

鈴音に続いて今度は簪も入ってきた。

「だって、私の家は特別だけど…まだ両親は生きているし、離婚もしていないから…」

「…皆はいいな。どこにいるかはっきりしている」

「…まさか、箒ちゃんもかい?」

承壱の問いに箒は黙って頷いた。

「…6年前に突然引っ越したのは、姉さんがISを作ったのが原因なんだが…政府は私と両親を重要人物保護プログラムによって彼方此方へ引っ越しを繰り返したんだ。政府の判断で一夏から貰った手紙の返事が出せなくて…気付けば両親とは別々の暮らしを余儀なくされ、私は妹だから監視と聴取を何度もされたんだ…。今となっては、無事に生きているのかも分からない」

「ろくな事もしないな、政府も…」

「…私は皆が羨ましいな」

「ラウラちゃん?」

そして、とうとう今まで黙っていたラウラも口を出してきた。しかもその目は涙ぐんでいる。

「…私にも親がいない。一夏と教官と同じなのだが…私は…人工合成された遺伝子から作られ、鉄の子宮から産まれたんだ…」

「ま…マジかよ…!」

「ドイツで怪しい研究をしていると聞いた事はあるけど…」

ラウラの告白に一夏と簪は驚きの声を出してしまう。意外な事実に承壱は険しい表情になってしまい、千冬の方を見るが、千冬も初めて知った様で驚きの表情になっていた。

「…詳しくは私自身も知らないが、一から優れた兵士を作り出す研究をしていた過程で生み出されたのが私らしい…。格闘を覚え、銃を習い、各種兵器の操縦方法も体得した…。ISが現れてから適合性向上の為、この左目もナノマシンが移植されたが、制御不能になり部隊でも落ちこぼれになってしまった…」

「言いたい事は分かりますけど…」

「やってる事はマジで最低ね…!」

セシリアと鈴が明らかな嫌悪感を示している。他の皆も表情には出していないが、2人と同じ気持ちだ。

「だが、私は教官の御蔭で変わった。変われたから部隊でも隊長に就任し、こうして皆と友人になれたんだ。だから悪い事ばかりでは無い。そうだろう承壱さん?」

「…そうだな。ああ、そうだ!ラウラちゃんの言う通りだ!親が原因で暗い過去を背負ってでも生きている奴は、この世界にはごまんといる。だったら、これから先の人生は…過去の自分を驚かせる様な人生を送ればいいだけの話だ!」

皆に言い聞かせる様に言い放つ承壱。その言葉を聞いた全員はお通夜の様な暗い表情を止めた。

「不幸の自慢合戦みたいなのはここまで!本題に戻ろう。大切なのはデュノアくんをどうするかだ」

「アニキの言う通りだ…シャルルはこれからどうするんだよ?」

「どうって…時間の問題じゃないかな。フランス政府もことの真相を知ったら黙っていないだろうし、僕は代表候補生をおろされて、よくて牢屋とかじゃないかな…」

「デュノア、それなんだが…」

千冬が何かを思い出した様で、皆は千冬の発言に注目する。

「特記事項第21、本学園における生徒は在学中においてありとあらゆる国家・組織・団体に帰属しない。本人の同意がない場合、それらの外的介入は原則として許可されないものとする…とういうものがある。これを活用すれば3年の身分は保障されるはずだ」

「そうか!IS学園は日本の敷地に建てられているけど、無所属だから他国から介入されないんだ」

「その間にシャルルさんを自由にすれば…」

IS学園の教師らしく特記事項を覚えていた千冬の一声で、可能性が広がった鈴音は喜びの声を上げ、手段を確立すべくセシリアは頭を回転させる。

だが、ここで承壱は、皆の不幸の自慢合戦がヒントになったのかある推理が浮かんだ。

「…いや、ちょっと待て皆」

「どうした承壱?」

「この事案…もしかすると俺達が下手に手を出さない方がいいかもしれない」

「それはどうしてお兄ちゃん?」

簪の問いに承壱は、顎に手を添えながら推理を述べる。

「これはあくまで俺の推理だが…デュノアくんは、もしかすると暗殺者に狙われているのかもしれない」

「「「「「「「暗殺者?」」」」」」」

見事にハモってしまう千冬達だが、承壱は更に続ける。

「思い出してみれば…デュノア社は量産体制が整っている企業だ。第3世代型が量産可能になったら優先的に生産ラインも使わされるだろう。その前に倒産されたら、欧州連合としてはある種の痛手になるはずだ。現に7カ国でライセンス生産され、12カ国で正式採用されている。そして、デュノア社の経営危機は一般的に報道もされていない。つまり…」

「つまり?」

「そう簡単には倒産しないはしない。むしろ、他の企業が…ムラクモとかクローム辺りが買収して経営を立て直すかもしれないな。要するにデュノアくんの言っていたのは『嘘の建前』になる」

「え…?それじゃあ…?」

シャルルが疑問を持つが、承壱は続ける。

「…セシリアちゃんがさっき、『お家騒動の修羅場』って言ったのを聞いてピンと来たんだ。恐らくだが、デュノア社は今お家騒動の真っ只中なんだと思う。それこそ、フランス政府が巻き込まれるかどうか分からないが、世界シェア3位の企業ともなると縦と横の繋がりがある傘下企業に下請け、孫請け等、多くの中小企業も関わってくるから、敵がどこにいるか全く分からないというわけだ。ただこれだけどまだ理由が軽いんだが、今度は箒ちゃんの話でムムと来たんだ」

「私の?」

「ああ。箒ちゃんは重要人物保護プログラムの一環でここに来たんだろう?」

「ええ、その通りです」

箒の返事を聞いた承壱は、確信の顔となって更に推理を続けた。

「なら尚更だ。俺とイチと箒ちゃんは保護の名目でここIS学園に来た。違法な研究機関や犯罪組織から命を守る為にな。それは、デュノアくんにも該当するという事になるという事だ。ここの防衛力はそんじゃそこらの国とは全く違うからな」

「あっ、そうか!」

「ちょっと待て承壱。お家騒動から身を守る為、ここに来たのはまず分かった。だが、男装はどう説明する?」

一夏は納得の声を出すが、千冬はまだ納得していない様で追及する。それに承壱は笑みを浮かべて答えた。

「それは簡単だ。一時的なフェイントと学園内の話題性を高める物だろう」

「どうゆう事、承壱さん?」

「デュノアくんは『企業の広告』と言ったが、本当は『学園内の話題の人物』にして、一般生徒という簡単に崩せない壁に囲む為さ。現に女子達はキャーキャー騒いでデュノアくんの周りに群がっている。基本、暗殺者は一般人を巻き込むのを嫌うからな。だからこそ、話題性が必要なのさ」

「なるほど…確かに理にかなった作戦だ」

軍人らしく暗殺者の危険性と行動力を知っているラウラは、承壱の推理に納得する。

「まあ、それ以前に…データを盗ませるスパイをさせるのにどうして苗字を変えなかったんだ?男装はともかくハニートラップを仕掛けるスパイにさせるならばフルネームを偽名にしなきゃダメだろ?調べる人はすぐに調べるぞ?」

「「「…あ」」」

「確かに…」

「言われてみれば…」

「その通りだな」

「…ぼ、僕は何て致命的な事を…」

一夏、箒、鈴音は今頃に気付いて間抜けな声を出し、セシリア、簪、ラウラも納得して、千冬は黙って頷く。

だが、一番ショックを受けていたのは、シャルル本人であった。

「多分だけど…スパイの件は、お偉いさん方の伝言ゲームでズレてたんだろうな。本当にやって欲しかったかどうか分からないけど。だが、俺が個人的に思った事だが…君のお父さんは、君を守ろうとしたんだと思う。そして、一女子学生として生活させたかったんだと思う。友人や仲間を作って、実りのある学生生活を送らせたかった。男装を一種のパフォーマンスにしてな」

ここまで言って承壱は、飴玉をポケットから取り出して口に放り込み、コロコロと口内で転がしながら締めの言葉を続けた。

「…まあ、ここまでが俺の推理だ。いずれにしろ、デュノアくんは焦ってここから出て行かなくていいと思う。かえって危険だからな。今、君が出来る事は…お父さんと対話する時を待つんだ」

「…時城さん…その推理を信じていいんですか?」

「それは君次第だが…どうする?このまま全て諦めて国に帰って投獄されるか、それとも俺達と進路決めて卒業まで頑張るか?」

笑顔から一転して真顔になり低い声のトーンで最後の質問を出す承壱。

それはシャルルにとって希望の選択肢。罪悪感から迷ってしまうが、承壱の推理が理にかなっているのもあり、ここまで来るとシャルルの答えは決まった。

「…僕、ここにいたい。皆と…一緒に卒業したいです」

目から涙をボロボロ流すが、はっきりした声で答えたシャルル。それを聞き届いた承壱はニヒルに笑う。

「分かった。俺達で君を守ろう。千冬は?」

「生徒を売る教師がどこにいる?不届き者なんぞに私の生徒には指一本も触れさせんよ」

千冬の力強い了承を得た承壱は、一夏達に視線を向けて分かりやすい質問をする。

「デュノアくんがこのまま学園にいて欲しい人~!」

「「「「「「はーいっ!」」」」」」

その簡単な質問に一夏達は、悪乗りで元気良く挙手した。ここまで来ると拒絶する者は誰一人いなかった。

「ありがとう…本当にありがとう、皆…」

シャルルの涙は止め処も無く流れ、ラウラは安心させる様にそっとシャルルを抱き締め、皆は泣き止むまで待つのであった。

 

「では、上層部への報告は私に任せておけ」

「すまないな、千冬。一番大事な所を任せてしまって」

「さっきも言ったが私の生徒である以上、私が守る。それが教師だろ?」

自信のある笑みを見せる千冬に承壱は託すしかなった。

「…だな」

「ところで、シャルルはいつから女子に戻るつもりだ?」

「…えーと、急に戻ると皆ビックリすると思うんで、学年別個人トーナメントが終わったら戻りたいと思います」

「分かった。その時なら時期もいいだろう」

千冬はシャルルに確認を取ると丁度良い時に誰かの腹の音が鳴った。音の方を注目するとそこにいたのは、シャルルであった。

「あ、ごめん…」

「…丁度食事時ね」

鈴音の言う通り、時計を見せると夜6時を過ぎていた。他の皆もお腹をすかせている様でソワソワしている。

「そうなると…イチ、食堂に行ったら1人分注文しておくんだ。『デュノアくんは体調を崩して部屋で食べたい』と言えば用意してくれるはずだ」

「分かったよ、アニキ」

「ラウラちゃん、歓迎会は後日でもいいかな?」

「勿論だ。何ならシャルルが女子に戻った時に一緒にした方が良いのではないか?」

ラウラの提案に承壱は、盲点だったと気付いた。

「…そうなると学年別個人トーナメントの反省会も兼ねた方が良いな…。皆はどうだ?」

「ちょっと詰め込みすぎじゃない、承壱さん?」

「歓迎会と反省会は…別々にやった方がいいかと思いますわ」

「複雑になるよ、お兄ちゃん…」

鈴音、セシリア、簪から待ったの意見が出てしまい、承壱もやり過ぎたかと反省する。そんなやり取りをしていると千冬が割って入ってきた。

「ここで意見を交わすのはいいが、時間は限られている。早く食堂に行かないと夕食が無くなるぞ?」

「だってさ。一先ず、今日はここまでにしてまた後日考えよう。さあ、食事に行こう」

「「「「「「おー!」」」」」」

「じゃ、デュノアくんまたな」

「これからよろしくな、シャルル」

「私達を頼ってくださいな」

「…遠慮しないで」

「そーそー!あたし達、もう友達なんだから!」

「うむ。友人なのだから助け合おう」

「飯、持ってくれるから待っててくれよ、シャルル」

承壱が号令を掛けた事で一夏達は、部屋からシャルルに挨拶をしながら続々と出て食堂へ向かう。最後に千冬が出て行くが、ドアを閉め切る前に顔だけ出して一言付け足す様に言った。

「シャルル」

「織斑先生?」

「承壱を信頼してくれ。あいつは一番信頼出来る男だ。何故なら私が選んだ男だからな」

「…はい!」

「では、お休み」

そう言って千冬はドアを閉めて承壱達の後を追った。それを見送ったシャルルは心の中で深く感謝する。

(…皆、本当にありがとう)

 

翌週の月曜日。

朝に予定があったり遅刻でもしない限り、承壱達は決まっていつものメンバー全員で登校するのが日課になっており、今日からラウラも加わって登校している。

因みにシャルルはまだ男子として通学する為、とりあえず男装の状態で登校している。

だが、教室に向かっていた承壱達は、廊下にまで聞こえる声に目をしばたかせていた。

「なんだ?」

「さあ?」

「また面倒か?」

もうしばらくトラブルは発生しないで欲しいと思う承壱は、呆れながら耳を澄ませた。それに続く様に一夏達も耳を澄ます。

「本当だってば!この噂、学園中で持ちきりなのよ!月末の学年別個人トーナメントで優勝したら男子の誰かと交際出来るって!」

((何じゃそりゃー!))

((((((ええええええーっ!))))))

一体どこの誰が流した分からない滅茶苦茶な噂に全員は、頭を抱えてしまうのであった。

8人は廊下の隅で円陣を組んで小声で話し始めた。

「ちょっとどうするのよ?」

「変な噂が出てますわよ?」

「…誰が出したの?」

「まさじく面倒な事になったな…」

「このままだと僕の正体が…」

「簡単にバレてしまうぞ」

「アニキ、どうするんだ?」

「…公表する前の正体バレは、最悪の展開になるかもしれない。こうなったら正攻法だ。『俺達以外は優勝させない』…これしかない。このメンバー以外の優勝は何が何でもさせないぞ。皆、いいな?」

「「「「「「「了解」」」」」」」

7人はたった1人の友人を守る為、心を一つにした。作戦は決まったが、ここからが至難の道になるは必然だ。

 

放課後の第3アリーナ。

「「あ」」

セシリアと鈴音は揃って間の抜けた声を出してしまう。それぞれに自分の専用機を纏って、セシリアと鈴音は揃ってステージへと出たが、珍しく人っ子一人いなかった。

「見事にガラ~ンとしてるわね」

「もしかして、今日は私達の貸し切りでしょうか?」

「それは無いでしょ。きっと、あたし達が単純に一番乗りだっただけじゃない?」

「それもそうですわね。でしたら、鈴さん。皆さんが来るまで軽く準備運動も兼ねて模擬戦しませんか?」

「いいわね。承壱さんから貰った新装備も慣したいし」

そう言って2人はメインウェポンを呼び出すとそれを構えて対峙した。

そこに一人の訪問者が現れた。

「ん?セシリアに鈴ではないか!」

「アンタ…」

「ラウラさん?」

漆黒の専用機であるシュヴァルツェア・レーゲンを装着し、ラウラが嬉しそうな顔でやって来たのだ。

「2人も訓練か?」

「まぁね。そーゆーアンタもでしょ?」

「ああ。今度開催される学年別個人トーナメントで一夏と対戦するまで負けられないからな。それにシャルルも守る為にも一般生徒達には悪いが、優勝させる訳にはいかんからな」

「それは私達も同じですわね」

ライバルではあるが、志は同じで、3人の間に視線の火花が散る。

「…しかし、2人の機体はデータで見た時も油断出来ないと思ったが、実物を見ると尚更だな。承壱さんの手が加えられたのだろう?」

「そうよ。データを当てにしたら怪我しちゃうかもね」

「鈴さん、あまりその様な事を言っては…」

「…よし。2人共、私と2対1の状況で対戦しないか?1は私で、2が2人共だ」

「え?いいの?」

「実践的な方が良いだろう?それに私は軍人だ。ちょっと過酷な位が丁度良いんだ。ダメか…?」

キラキラした目を上目遣いで聞いてくるラウラ特有の可愛さにセシリアと鈴音は、また心を奪われてしまい、二人で顔を見合わせて決意した。

「…分かりました。ですが、泣き言は途中で言わず、終わってから言ってくださいね?」

「後で皆来るから、お互い怪我しない様にね!」

「ありがとう、2人共!では…始めよう!」

「「上等!」」

怪我人なんて一人も出ない。誰もがそう思っていた。

思っていたが…。

悲劇は突然始まる。

 

つづく




現在公開可能な情報

シャルル・デュノア
トランスジェンダーでは無く男装女子で、実家であるデュノア社のスパイと判明し大騒ぎになる。だが、承壱の推理と指摘により今は父親と対話する時を待つ事にした。この選択から千冬、一夏、箒、セシリア、簪、鈴音、ラウラは協力する事を約束した。

それぞれの親と過去
誰もが親の影響が出ており、時城家は織斑姉弟を保護した事が判明した。奇妙な事にIS開発者である束の関係者と代表候補生ばかり大なり小なりの不幸が起きている。

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