インフィニット・ストラトス Re:RISING 作:最後のVESPERの挑戦状
「一夏、今日も放課後訓練するよね?」
「ああ、もちろんだ。今日使えるのは…」
「第3アリーナだな。今日は使用人数が少ないと聞いている。空間が空いていればこの前みたいに模擬戦も出来るだろう」
廊下で一夏と箒とシャルルは並んで歩いていた。
一夏達がアリーナに向かうが、そこに近づくにつれ何やら慌ただしい様子が伝わってきた。先程から廊下を走っている生徒も多い。どうやら騒ぎは第3アリーナで起こっている様だ。
「何だ?」
「何かあったのか?」
「お前らここにいたか!」
「アニキ?」
聞き慣れた承壱の声が後ろから呼び掛けられ、一夏達はその方向に振り返った。そこにいたのは息を切らした承壱と簪だった。
「どうしたんだよ、アニキ?」
「急いでピットに向かうぞ!面倒が起こった!」
「「「えっ?」」」
「急いで!」
詳細を語る前にピットへ駆け出した承壱に戸惑ってしまう一夏達だが、簪に促されて3人は急いで後を追う。
「何があったんだよ!詳細を教えてくれよ!」
「さっきセシリアちゃんからのプライベート通信でSOSを受けたんだ!どうもラウラちゃんが暴走しているらしいんだ!」
「「「暴走?」」」
「私も鈴から連絡来たの。だから、お兄ちゃんと合流して…」
「今、向かっているって訳だ!」
承壱と簪が話している間に不穏な爆発音が響いてきた。
それは事態が重い事を示しており、全員は急いで向かう。
「っ!ああっ…がぁ…!うわあああああっ!」
「ラウラさん!もう止てください!」
「ダメ!止まって!」
承壱達がピットから見えたアリーナの光景は異常な光景だった。
異常な行動を取るシュヴァルツェア・レーゲンのラウラを止めるべく、ブルー・ティアーズのセシリアと甲龍の鈴音が体を張って止めようと必死の形相で組み付いていた。
よく見るとブルー・ティアーズと甲龍はかなりのダメージを受けており、所々損傷し、ISアーマーの一部は完全に失われている。シュヴァルツェア・レーゲンも無傷とまではいかないが、2機と比較して軽微な損傷だ。
だが、ラウラは涙を流して泣き声を上げており、自らの意思でやってはいない事を物語っていた。
「…止めてくれ!もう、止めてくれぇぇぇぇ!」
ラウラの必死の叫びに応えて止めようとする2人だが、振り払われて吹き飛ばされてしまい、シュヴァルツェア・レーゲンの両肩部と両腰部に搭載されたブレード『ワイヤーブレード』が射出され、2人のISへ飛翔する。
このブレードはシュヴァルツェア・レーゲン本体とワイヤーで接続され、複雑な軌道を描いて2人の迎撃射撃をくぐり抜け、ワイヤーブレードは2人に直撃してISの絶対防御が発動してしまう程であった。
更に右肩部の長距離兵器『大口径リボルバーカノン』が火を吹き、セシリアと鈴音に砲撃の追撃がされてしまったが、2人は何とか回避して追撃を逃れて再度対峙するのであった。
「な、何が起こっているんだ?」
「イチ、俺と一緒にラウラちゃんを止めるぞ!デュノアくんと簪ちゃんは2人の救助だ!」
「わ、分かった!」
「「了解!」」
「緊急展開!行くぞ!」
一夏、シャルル、簪に指示を出した承壱の合図と共にISを展開した一行は、アリーナ内に入って行動を開始。
打鉄弐式の簪が鈴音を、リヴァイヴ・カスタムⅡのシャルルがセシリアを連れて、ラウラから距離を離し、その間にロックスミスの承壱と白式の一夏が割って入った。
「止めろラウラちゃん!」
「じょ、承壱さんか?だ、ダメだ!来るな!」
承壱達の存在を気付いたラウラは拒む声を出すが、シュヴァルツェア・レーゲンのリボルバーカノンは承壱へ向けられ、容赦ない砲撃が繰り出される。
しかし、承壱はマスクの下で焦りはあるが冷静な顔になり、砲弾を次々に避け、ラウラの元にゆっくりと近づいていく。
その承壱の動きをおとりにした一夏が、白式の瞬時加速を使ってラウラの右側から月光で斬り掛かる。狙いは大口径リボルバーカノンだ。
「チェストーッ!」
だが、ラウラが右手を突き出した瞬間、一夏の動きは止まってしまい奇襲は失敗する。
「何!」
「AICも勝手に…!早く離れろ!」
そう言ってラウラは一夏も離れさせようとするが、先に空いた左腕の手首に装着した袖の様なパーツから超高熱のプラズマ刃『プラズマ手刀』が展開され、一夏に直撃して吹き飛ばしてしまう。
「うわっ!」
「イチ!このっ!」
吹き飛んだ一夏と入れ替わる様にラウラに組み付いた承壱は、咄嗟にプロレス技のコブラツイストの体勢を取った。これがこうなしたのかラウラはもがいているが、攻撃する事は出来ずジタバタするだけとなった。
「ラウラちゃん、離脱するんだ!ISを強制停止させるんだ!」
「だ、ダメだ!それも既にやっているんだが…レーゲンが、レーゲンが勝手に動いているんだ!」
「何だって!」
一方、ボロボロになりながらもラウラを止めようとしていたセシリアと鈴音は、無事に救出されてアリーナの端っこの方に簪とシャルルに運ばれていた。
「2人共、大丈夫?」
「大丈夫…って言いたいけど、結構派手にやられたわ…」
「何があったの?」
「…私達もよく分かりませんわ」
セシリアと鈴音は、ラウラを止めようと奮戦している承壱と一夏を見ながら、事の経緯を話し出した。
「私とセシリアとラウラで2対1の状況で模擬戦をしていたの。そしてら…ラウラのISが急に動きが止まったら、滅茶苦茶に暴れ始めたの」
「最初は新手の挑発か戦術かと思いましたが、ラウラさんが泣いて助けを懇願したので、何とか止めようとしたんですが…この様ですわ。お止め出来ず申し訳ありません…」
「ううん、2人が呼んでくれなかったら、もっと酷い事になってかもしれないからよく頑張ったよ」
簪が労いの言葉を掛けるが、整備が出来る簪は2人のISの状態を見て、その状態を察してしまう。
(2人ともダメージレベルCはいっている…それだけ激しく暴れたんだ)
「これでどうだぁーっ!」
そう言いながら承壱は、無茶苦茶な動きをされてフラフラになっているラウラに向けて、ゼロ距離でアームキャノンを発射する。ゼロ距離攻撃を受けてシュヴァルツェア・レーゲンの絶対防御が発動し、シールドエネルギーは大きく削られたが、まだ動いており承壱は電磁ナックルを起動させてアリーナの外壁まで殴り飛ばしてしまう。
「がぁっ!」
「アニキ、本当にこれしか方法が無いかよ!」
「…本体にダメージが発生するなら…絶対防御が発動するはずだ!強制的に離脱させるには、シュヴァルツェア・レーゲンのシールドエネルギーを切らせるしかないんだ!」
「だけど…ISの絶対防御も完璧じゃないんだ。シールドエネルギーを突破する攻撃力があれば、本体にダメージを貫通させられるのに…」
一夏の言う事も承壱は理解出来た。それは本当の事だからだ。
だが、この状況ではそんな悠長な事は言っていられない。
「じゃあ、このままラウラちゃんのISを好き勝手に暴れさせたままでいいのか?彼女は泣いて助けを求めているんだ…。本人も分かって言っているし、それ以上に痛い思いをしているから懇願している…軍人である彼女がだぞ!」
現にラウラは泣いて苦しんでいる。
それを見た承壱の声は、飄々として余裕のあるいつものとは違い、声を荒げて何とかしようとしている。
だが、まだためらってしまう一夏は、ラウラへ声を出す。
「くっ…大丈夫か、ラウラ!」
「わ、私の事は…気にするな!レーゲンを止めろっ!」
「うぅぅぅ…それでも…!」
悲痛の叫びを上げる一夏は、覚悟を漸く決めて唐澤も展開して追撃射撃をしようとするが、承壱が何かを思い付き慌てて止めた。
「…あっ、待ったイチ!リミッター解除は出来るか?」
「えっ?出来るけど…まさか零落白夜を使えってのか、アニキ?」
「そのまさかだ!ラウラちゃん、ISのシールドエネルギーの残量はいくらだ!」
「…残り…30パーセント以下だ!高威力の一撃で止まるはず…!うう…」
苦しみながらもラウラは、承壱に報告する。その一言で作戦内容は決まった。
「よし…!イチ、即興作戦だが、零落白夜の一撃でラウラちゃんを止めるぞ!」
「え?でも、さっきの妙なバリヤーみたいので止められたどうするんだ?」
「俺が前に出て楯になる!お前は俺の後ろか来い!合図したらすぐにリミッター解除してぶった切れ!俺を信じろ、イチ!」
「…了解だ!アニキを信じる!」
そうして2人は縦一列に並び、承壱は両手にマグナブレードを1本ずつ展開して、一夏は月光を再度展開して構え直す。
それを合図にしたのかシュヴァルツェア・レーゲンは、瞬時加速を使って2人に向かってきた。
「来るぞ!」
「おう!」
(2人共…頼む…でも、逃げてくれ…!)
承壱と一夏に愛機の暴走を止めてくれる事を期待するが、諦めもあるからかラウラは両目をギュッと瞑ってしまう。
その思いは空しくもシュヴァルツェア・レーゲンには届いておらず、暴走して続けて両腕のプラズマ手刀を起動し、承壱に振り下ろされる。
ガギンッと金属同士が激しくぶつかり合うがアリーナに響く。
承壱がやられてしまったのか。そう思いながらラウラは目を開いた。
「…こうすれば、妙なバリヤーも近接格闘も出来ないだろう?」
なんと承壱はマグナブレードを器用に使って、シュヴァルツェア・レーゲンの両手部分にマグナブレードを貫通させて動きを封じたのだ。
この事態にシュヴァルツェア・レーゲンは、ワイヤーブレードで抵抗しようとするが、何故か一向に射出されない。その理由は、承壱がゼロ距離攻撃をした時、既にワイヤーブレードの基部を破壊して使用不能していたからだ。
「今だ、イチ!」
その合図が出された一夏は、承壱の後ろから飛び出して月光のリミッターを解除し、零落白夜の輝きが月光から発せられる。
そして、ラウラの後ろに回る事が出来た一夏は月光を大きく振りかぶる。
「今度こそ…チェストー!」
袈裟斬りで振り落とされたその刃は、シュヴァルツェア・レーゲン本体に届き、一瞬で全てのシールドエネルギーが零落白夜の効果で損失。
漸くシュヴァルツェア・レーゲン本体は停止して、ISアーマーが光の粒子へと変換され、弾けて消えた。
ISのアシストが無くなり、勢いから眼帯も外れて金色の左目が露わになり、力を失って崩れるラウラ。
危うく転倒しそうになったが、慌てて一夏が受け止めた。
「…ラウラ、大丈夫か?」
「…一夏…すまない」
「そこは『ありがとう』だ。ラウラちゃん」
「…ありがとう、承壱…さ…ん…」
漸く安心出来たのと止めてくれた感謝、全く慣れない疲労からラウラは感謝を述べた後、眠ってしまった。
医務室。
時間は第3アリーナの一件から数時間は経過していた。ベッドの上では治療を受けて包帯に巻かれたセシリア、鈴音、ラウラがいた。ラウラに至ってはまだ目覚める事は無く、静かに眠っている。
その傍では一件を解決した承壱と一夏、セシリアと鈴音を救出した簪とシャルル、一件を教師達に報告してくれた箒、報告を受けて来た千冬がいた。
一件静かそうな医務室だが、響いてくる音は自前のノートパソコンのキーボードを操作する承壱の音、その隣で一緒に小型空中投影ディスプレイ用のメカニカル・キーボードを打ち込む簪の音だ。
2人はプログラミング技術を活かしてシュヴァルツェア・レーゲンの暴走原因を探っていたのだ。
これがもうかれこれ30分近く行っている為、皆は固唾を呑んでその作業に注目していたが、承壱が妙な物を見つける。
「これ…は…?」
「お兄ちゃん、何か見つけたの?」
簪の問いに承壱は頷いてノートパソコンの画面を簪へ向けた。そこには怪しいプログラムが映し出されていた。
「簪ちゃんはどう見る?」
「…これだね。間違いない」
「時城、見つけたのか?」
教師モードで問い掛ける千冬に承壱は頷いて、その画面を全員にも見せた。
「今回の事件の犯人は…この、『VTシステム』だ」
「V…T…?」
「アニキ…それ何…?」
一夏の質問は尤もで、箒も聞き慣れない単語で分からない様だ。
セシリアを始めとした代表候補生達は分かっている様だが、機密事項になるかもしれないので承壱は説明するか迷ってしまい、視線のみで千冬に許可を求めると千冬は黙って頷いてくれた。どうやら、黙認してくれる様だ。
そして、承壱は説明を始めた。
「…正式名称はヴァルキリー・トレース・システム。過去のモンド・グロッソの部門受賞者…つまり、ヴァルキリーの動きをトレースするシステムだ。確かこれは…」
「そう、条約で現在どの国家・企業・組織においても研究・開発・使用の全てが禁止されている。それがボーデヴィッヒのISに積まれていた…という事だな、時城?」
千冬が承壱の説明を付け足してくれた事で、承壱は調べながら続きを説明する。
「ああ。簪ちゃんと一緒に探して良かったよ。巧妙に隠されていたからな。装着者の精神状態と機体の蓄積ダメージ、そして装着者の意思…いや、違うな。願望が揃うと発動する様になっているみたいなんだ。しかもトレースする対象がまさかの千冬先生で、ISは現役時代に使っていた暮桜に変化する仕様だ」
「マジかよ、アニキ!」
「大マジだ。だけどな…」
一夏の驚きに承壱は応えるが、ここに来て歯切れが悪くなり、承壱は分からないといった感じに頭をかいてしまう。
「承壱さん?」
「おかしいんだよな…。ラウラちゃんの精神状態もそうだが、ISの蓄積ダメージは全く無い状態だったのにも関わらず、勝手に作動したみたいなんだよ」
「…ここ数日でボーデヴィッヒの精神状態は、かなり良い状態だったのは間違いない。織斑に宣戦布告はしたが、皆と良い交流をしていたのが何よりの証拠だ。本人の意思や願望で作動するとは考えられん」
「千冬先生の言う通りだ。しかもISは全く変化せず、トレースのアクションも現役時代の千冬先生の動きでは無く、全くの滅茶苦茶で誰をトレースしているのか不明だ…。おまけに近づく奴は全て敵と認識して…。こうなるとシステムは時限爆弾みたいに勝手に作動して、作動した後は遠隔操作されるみたいに動かされた、としか考えられないな…」
「そんな…」
承壱の推理からシャルルは思わず声を漏らしてしまうが、承壱は今後に起こる事を言い並べ始める。
「いずれにしろ、シュヴァルツェア・レーゲンにこんなとんでもない物が付いている以上…、学園はドイツ軍に問い合わせをして、IS委員会の強制捜査も入るだろうな…。こりゃ、学年別個人トーナメントは中止かもしれないな…」
「「「「「「ええ~?」」」」」」
承壱の推理に一夏、箒、セシリア、簪、鈴音、シャルルが揃えて不満の声を出してしまった。
「こら、騒ぐな。ここは医務室だぞ」
「「「「「「すみませんでした…」」」」」」
千冬に指摘され、一夏達は揃って謝罪する。
「う、ぁ…」
ぼやっとした光が天井から降り、自分の周りに誰かがいる気配を感じて、ラウラは目を覚ました。承壱達の話し声の喧噪で目覚めてしまったのかもしれない。
「気がついたか」
その声は、どこで聞こうと一瞬で判断出来る。自分が敬愛してやまない千冬に声を掛けられ、ラウラは意識を覚醒させた。
「私…は…」
「全身に無理な負荷が掛かった事で筋肉疲労と打撲がある。しばらくは動けないだろう。無理をするな」
ベッドから無理をして上半身を起こすラウラは、全身に走る痛みにその顔を歪める。治療の為に眼帯は外されたままの左目は、右目の赤色とは違い金色で、美しいオッドアイで周りを見渡した。
そこは承壱達が心配そうに様子を窺っていた。
「教官…皆…すまなかった」
「謝るなよ。友人なら助けて当然だ」
そう言いながら承壱はノートパソコンを操作しながら、ラウラの側に来た。
「…機密事項になるけど、君は一番の被害者だから、知る権利と義務があるから伝えておくぞ、ラウラちゃん。君の機体、シュヴァルツェア・レーゲンには…VTシステムが内蔵されていた」
「っ!あれが…?承壱さん、それは本当か?」
「ああ。だから、今からは証拠を取りながらVTシステムを自滅プログラムでぶっ壊す」
承壱はノートパソコンにケーブルを接続して、シュヴァルツェア・レーゲンの待機状態である黒いレッグバンドと接続した。
「え?承壱さん…そんな事も出来るの?」
鈴音の問いに承壱は、余裕なニヒルな笑顔で答えた。
「出来るよ。そもそも無理矢理動かされたプログラムだからぶっ壊すのは容易だ。ただ、初めてやるから…簪ちゃん、ちと手伝ってくれ」
「ん、了解」
承壱に呼ばれて簪も参加し、2人は素早くプログラミングを始めた。
そして、物の数分で自滅プログラムが完成し、シュヴァルツェア・レーゲン本体にインストールされ、承壱のノートパソコンの画面に『Deletion complete』と表示された。
「…よし、これでもう暴走はしないぞ」
「ありがとう…承壱さん」
ラウラは安心した様で感謝を述べ、それを見ていた一夏達も安心の溜め息を漏らしてしまった。
「よかった…」
「一時はどうなるかと思ったが、これで一安心だな」
シャルルと箒が安心の感想を言うが、何故か千冬はどこか不安な表情になっており、たまらず承壱に質問した。
「…時城、一つ聞いていいか?」
千冬に声を掛けられ、ノートパソコンを閉じながら承壱は千冬の方に振り向いた。
「何ですか?」
「…ボーデヴィッヒはこれからどうなる?条約で禁止されているシステムが組み込まれていたんだ。下手したらトカゲの尻尾切りにあうんじゃ無いのか?」
千冬の一言でこの場にいた誰もが戦慄してしまった。
ラウラの出生を考えるとドイツ本国は、責任を全てラウラ1人に押し付けてしまうかもしれないからだ。
「ちふ…織斑先生、それは本当ですか?」
「考えたくないが、ボーデヴィッヒの出生の件もある。だからその可能性はあるんだ…」
千冬の発言に一夏は、思わず素の状態になりかけたが、咄嗟に訂正して聞いた。
その質問に千冬は難しい表情で返してしまうが、そっと千冬の肩に承壱が腕を掛けて笑顔で答えた。
「うーん、千冬先生の心配は尤もだな…」
「なら…」
「でも大丈夫だろう。ラウラちゃんってドイツ軍の正規IS部隊の隊長なんだろ?」
「あ、ああ…。私の部隊は正規の部隊だ。因みにISはレーゲンを含めて3機支給されている」
「つー事は、ドイツ最強のIS部隊って事か…。あれ、そうなると今の階級は?」
「少佐だ」
「「「「「「少佐っ!」」」」」」
ラウラの意外な階級に一夏達は揃って驚いてしまう。
自分達と同じ15歳の少女が『少佐』という責任があり過ぎて重すぎる立場にいるのだから、これで驚かないのは無理である。
「じゃあ、最後に…IS適性は?」
「Aランクだ。承壱さん、何か問題があるのか?」
首をコテンと傾けて問い掛けるラウラに承壱は可愛さを感じてしまうが、真面目な表情で話し始めた。
「問題無い。むしろ大丈夫だな」
「というと?」
千冬の一言から承壱は詳細の推理を述べる。
「ラウラちゃんはドイツ軍の少佐で、最強部隊の隊長で、IS適性はAランク。ならどの国家も組織も企業も喉から手が出る人材だ。しかも千冬先生の教えを受けているから尚更だ。だが、ドイツ本国の思惑は分からないし、一枚岩じゃ無いからどこまでが本気か分からないけど…他国に渡すなら自国で管理した方が良いと思い、そうそう簡単にドイツはラウラちゃんを手放す事はしないだろう。むしろ、軍の最強部隊の隊長という『広告』が傷付けられたんだ…。意地でも犯人を見つけるだろうな」
「…なるほど、一利ありますね」
セシリアが納得の一言を放って、何度も承壱の推理は当たっている事もあり、全員は納得する。
「だからこそ、学園経由でIS委員会がドイツに強制捜査をして貰わなければいけないんだよ。千冬先生、頼んでもいいか?」
「ああ、勿論だ。VTシステムの証拠は?」
「ここに」
スッと事件の犯人であるVTシステムの証拠を纏めたメモリースティックを出した承壱。
千冬はそれを手に取って、決意の表情となった。
「ありがとう、時城。これは大切に使わせて貰う」
「…何回もすまないな。面倒な仕事ばかりさせて」
承壱は千冬の肩から腕を放して頭を下げた。それに気付いた千冬は慌てて承壱の頭を上げさせた。
「お前が頭を下げるな。私が出来る仕事は私がやるしか無いだろう?それに前にも言ったが、生徒を守るのが教師の仕事だ。この位へでも無い」
「ありがとう、千冬先生」
「では、私は報告に行く。何かあったらまた連絡する」
そう言って千冬は医務室を退室していった。
退室してから重い空気が抜けたのか一夏達は大きく溜め息をついた。
しかし、皆の表情は安堵の表情だ。
「…皆、本当にありがとう」
ラウラは改めて皆に頭を下げた後、セシリアと鈴音がいるベッドの方に顔を向けて、感謝と謝罪の言葉を出した。
「特にセシリアと鈴はすまなかった。私のせいで怪我までしてしまって…」
「大丈夫よ!こんなの怪我の内に入らな…いたたた…」
「鈴さん、あまり無理は禁物…つううっ…」
ラウラの謝罪を受けいれる鈴音は、元気をアピールする様に腕を回すが無理してしまい、それを諫めるセシリアは、2人揃って苦痛の声を出してしまう。
これを見たシャルルはある事を言う。
「…この分だと3人は、トーナメントは不参加かな?」
「だろうな…。さっき少し見てみたんだが、ISは3機ともダメージレベルがCは超えていた。当分は修復に専念しないとバグの原因になるから、ISを休ませる為にもトーナメント参加は止めた方が良いだろう。怪我もしっかり治した方が良い。簪ちゃんの意見は?」
「お兄ちゃんに賛成。ここで無理させたら…勝てるバトルも勝てなくなるかもしれない」
「承壱さんと簪さんがそうおっしゃるなら…」
「分かったわ…」
整備も出来る承壱と簪の意見を聞き入れた2人は、しょんぼりとしながらも辞退する事にした様だ。
「アニキそれって…IS基礎理論の蓄積経験注意事項第3だよな?確か、えーと…『ISは戦闘経験を含む全ての経験を蓄積する事で、より進化した状態へと自ら移行させる。その蓄積経験には損傷時の稼働も含まれ、ISのダメージがレベルCを超えた状態で起動させるとその不完全な状態での特殊エネルギーバイパスを構築させてしまう為、それらは逆に平常時での稼働に悪影響を及ぼす事がある』だっけか?」
「…正解だ。よく覚えているな、イチ」
「偉いぞ、一夏。よく勉強もしているな。私は嬉しいぞ」
珍しく授業の内容がスラスラ出てきた一夏に承壱と箒は褒めてしまう。
当人は兄貴分と恋人から褒められたのでデレデレ顔だが、承壱は一夏の成長力に感心もした。
「まあ、デュノアくんの秘密は俺達で守るとしよう。セシリアちゃんと猫娘、ラウラちゃんは怪我の完治とISの修復を優先事項として動いてくれ」
「分かりましたわ」
「は~い」
「了解だ」
3人にこれからの指示を出した承壱は、残っている一夏達にも指示を出す。
だが、それはこれまでと同じで変更が無い物だ。
「他の皆はトーナメントまではこれまで通りに行動してくれ。よろしく頼む」
「OKだ、アニキ」
「うむ、分かった」
「はい、時城さん」
「了解、お兄ちゃん」
皆の返事を聞いた承壱だが、タイミング良く自分の腹の音が鳴る。
それを聞いた皆は思わず笑ってしまい、今日はもう終わろうと恥ずかしさもあった承壱だった。
薄暗いラボの様な部屋で、男がモニターに映されたデータを見て、脳内で解析を始めた。
今回のデータは、シュヴァルツェア・レーゲン本体のデータと暴走から得られたブルー・ティアーズと甲龍の戦闘データだが、事前に入手していたデータとの誤差から改造されたと思い、解析し直す男。
やがて、何かを思い付いたのか、紙にペンを走らせてメモとスケッチを取り始めた。
「…シュヴァルツェア・レーゲンって最新の全距離対応強襲型だったから期待したけど、ここまでめちゃくちゃに動かれたらコンセプトも何もかもダメじゃん。そもそも遠隔操作はやっぱり無理があったか。反省、反省、いい勉強とデータになったよ」
メモを書き終えた男は頭をガリガリと掻きながら立ち上がり、作業台に乗せてある自分が作っている作品と向き合い弄り始めた。
だが、その作業の手さばきはどこか乱雑さがある。イライラしている様で細かい部品を散らかしながら作業を続けるが、男は散らかした部品にも目もくれない。まだこれは傑作にも成らない『失敗前提の試作品』なのも理由の1つだろう。
その時、パシュッとスライドドアが開いた。ラボに入ってきたのは1人の女だ。
「あら、作品作り中でしたか?」
「…Fか?」
Fと呼ばれた女は、男の専属秘書らしく一礼してから男の隣に立ち電子タブレットを操作する。キビキビと動くFは、何か報告事項がある様だ。
「IS委員会がドイツの強制捜査に入ったそうです。VTシステムの件でIS学園からの要請もあってすぐに行われるそうですが、我らには全くの影響はありません」
「だろうね。連中のアップデートファイルに巧妙に仕込んだから見つける事は出来ない。最後にたどり着くのは積ませたバカまでだろうね。ドイツはそいつに責任を負わせて秘密に処刑するだろう。骨も肉も髪も残さず綺麗さっぱりこの世界にいた証拠も残さずに」
「…流石にそこまではしないと思いますけど?」
「第三帝国が色濃く残っているんだよ。だから、僕の『彼女の1人』が生まれたんだよ?そういう風に処分してもおかしくないさ」
男は作業をしながらFと会話を続ける。乱雑さは更に増しており、イライラも増している様だ。
「…全く、何時まで狂った老害の信者共がいるんだよ。いい加減に目覚めて次世代の人々に財産と資源を残して死ねってよ…」
「…では、次の報告です。クロームのスパイから良い情報が入りました。アメリカ・イスラエル共同開発の第3世代型軍用ISが試験稼働の日が分かったそうです」
「…へぇ~、あの自称世界のリーダーの国と喧嘩屋の国が作ったIS?…その日は何日でどこ?」
「現地時間で7月6日。ハワイ沖です。尚、日本時間に変換すれば…」
「7月7日か…。IS学園1年の行事にぶつけるのは丁度良いな…」
作品作りの作業を止めて、男は無精髭の顎を撫でながら考え始めた。
「…僕の作品の完成を高めるには…もっともっと多くのデータが必要だ。でも…イレギュラーの狼も潰したいから…それ採用。7月6日に暴走させようか」
「…分かりました。準備は万全にしておきます」
「頼むよF。よく出来たらご褒美あげるから。希望があるなら言っておいて」
「ありがとうございます。報告以上です。すぐに準備に掛かります」
「ん、世に平穏のあらんことを」
男の合い言葉の様な挨拶を聞いたFは、褒美を詳しく要望出来る為か顔を赤くしながら一礼し、ラボを退出した。
その一方、男は三日月の様に口元を歪めて笑いながら、『ブラームスの子守唄』を鼻歌で歌い始め、自らが散乱させた細かいパーツを拾い始める。
それを一カ所に集め置いた男は、壁一面に貼られた数多くの千冬の顔写真の1枚を手に取って愛おしいそうに眺めた。
「早く会いたいなぁ…千冬ちゃん…」
つづく
現在公開可能な情報
VTシステム
ラウラのシュヴァルツェア・レーゲンに内蔵されていたシステム。だが、無理矢理起動された上、滅茶苦茶な動きをしてラウラ本人、セシリア、鈴音を苦しめたが、承壱と一夏の活躍で止められ、システム本体も削除された。
暴走の危険性は無いが、ドイツ本国は国の威信に掛けて犯人を捜す事になるだろうと承壱は推理した。
謎の男
一連の発言からVTシステムを仕組んだ者である模様。何か作っているらしいが不明。
本当になんだこいつは?
F
謎の男の専属秘書の女らしい。どうやら深い関係の様である。
感想、意見、よろしくお願いします!