改心悪女四種盛り 作:白のワイん
今、どんな気分かって?
「人生2回目」、我が世の春って感じ。
いやマジマジ。比喩表現とかじゃなくホントに2回目な。
多分、前世で徳を積み過ぎたか逆によっぽど罪深いことをやらかしたんだよ。
前世の記憶を丸っと持ったまま、赤ん坊として生まれ直したんだよ。
強くてニューゲームってやつよ! これで勝つる!
ん? 前世はそんなすごい人だったのかって?
……いや、前世の話は止そうぜ。本当にやめてください死んでしまいます。
フツーのサラリーマンでしたぁ! 享年30歳。特筆事項なし!!
そんなこんなでカクカクシカジカ俺が生まれたったわけ。
リアルに体は子供、頭脳は大人状態な。結構きつかったぜ? 色んな意味でな。
中身はいい年した大人なのにミルク生活とか、シモの世話されたりとかな。
それだけでも結構だけど、生い立ちも本が書けそうな感じでさ。
生まれてすぐに施設行き。目が開く前にマッマは蒸発しちゃってパッパは声すら聞いたこと……
ごめんごめんごめん、重かったね! すいませんね!
ここからは完全サクセスストーリーだから、嘘じゃないから。
大体、3歳の誕生日前かな。
中身がこんなだからもう喋りまくりの動きまくりでもよかったんだけど、
まだバブっといた方がいいかなーってのんびりしてたら急に里親がきまってさ。
それが今の父さんと母さん。会った瞬間二度見したよね。完全に世界観が二次元な感じだったもん。
父さんに風呂入れてもらうまでずっとレズカップルかと思ってたし。
母さんもモデルとか女優みたいなレベルじゃないもんな。
石仮面ってレベルじゃねーぞ。生で見たらまじ人外だから。
どうもワケありで子供作れないから身寄りのない子を養子にってことだったらしい。
目と目が合った瞬間抱き上げられてそのままお持ち帰りよ。
その後めちゃくちゃ可愛がられた。今思い出してもクソ恥ずい。
前世でもこんなに愛されたことなかったからな。今でもちょっと慣れてない。
本当に感謝してる。単純に人生2回目だからってこんな充実した生活させてもらえるのは全部両親のおかげだ。
人生2回目、前世でやりたくてもできなかったこと、全部やるつもりだし、実際やってきた。
勉強に部活、学校行事とか。趣味と健康、仕事も全部やってやるつもり。
その、もちろん……結婚もな。
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「朝っぱらから最ッ低ぇ。消えてくんない?」
「……出会い頭から辛辣すぎない? 次のバス乗れなきゃ遅刻なんだけど?」
「そんなの私に関係ある? ほんときもいわ。ストーカーかよ」
「近所で同じ学校、最寄りのバス停が同じならこうなるよなぁ?」
「……」
喧嘩売ってきといて無視とかマジィ?
それなら最初から無視してくれませんかねぇ……
彼女は近所の幼馴染である佐倉奈緒。
昔は普通に一緒に遊んだりする仲だったが思春期入ってからずっとこんな感じ。
小さい頃から見てるから反抗期の娘を持った親気分だわ、まじで。
おじさん悲しいです。
普段は微妙に時間ずらしたりして顔を合わせないようにしているが1週間に一度くらい運悪く出くわす日がある。
まじで通学方法変えようかなー……。
俺、前世含めて初めて見たんだよ、リアルクイーンビー。
スクールカーストのトップで取り巻きいっぱいなんだよこいつ。
機嫌悪いとすーぐファンネル飛ばしてくるから捌くの大変なんだ。
これだけツラが良ければそうなるのも納得はするが頼むから敵視するのはやめてくれ。
俺、何もやってないじゃんよ。
こうなってしまっては登校後の平穏のために彼女のご機嫌を取るしかない。
今からなら1限の半分くらいは間に合うだろう。
隣のバス停までウォーキングと洒落込みますか!
背後から鼻鳴らして舌打ちしてるのなんて聞こえませんし見てませんからー!
スマートウォッチで心拍を見ながら負荷をキープ。
早足でズンズン歩く。これで今日の歩数ノルマ稼ぎまくるぜ。
前世の死因が不摂生からくる心臓麻痺だったから今世じゃめちゃくちゃ健康に気を遣っている。
日々のカロリー計算、運動量に食うものまで管理している。今世の目標の一つは長生きだからな。
しかし、奈緒には困ったものだ。初めて会ったのは小学校に上がった時だったが近所ということもあり、手を繋いで学校に通うような仲だったのにな。
それが中学に上がった頃からだんだん疎遠になり、いつのまにかアイドルみたいな持ち上げ方されてた。
周囲じゃ噂で持ちきり。将来は芸能界入りでもするんじゃないかって。
俺からしてみたら元からそうだったから今更持ち上げてもな、と若干白けていたわけだが……。
もしやとは思うが、そのせいで何年もブチ切れてるとか?
アホなこと考えてる俺を追い抜かして行ったバスの窓から、不機嫌そうな顔がチラッと見えた。
まさかね〜〜。
実際にスカウト受けてモデルのバイトを始めたらしい。結構なことだ。
体型作りのために走り込みや筋トレ、食事管理に美容の勉強とかかなり真面目に取り組んでいるのをチラチラ見かける。
何気にランニングコース駄々被りしてるから勘弁してほしい。
本人は周囲に隠したいようだし見ないフリをしている。青春してるなー!
懸念すべきは、芸能界のブラックな部分かな。
そのあたりは前世と変わらずみたいだ。
枕を強要されたりしないかおじさんは心配です。
そう、今世の世界だが前世と同じ世界に見えて端々で食い違うようなことが結構ある。
国の名前や歴史、法律、技術レベルとかな。
前世なら虚構新聞レベルの話もザラにあるせいでたまに前世の感覚で動いて手痛い目に遭うこともある。
詳しく調べてないけど物理法則とかも違ったりすんのかね。
知らんけど。
1番ぶったまげたのは媚薬があるんだよ、この世界。
それも、興奮剤とかそんなレベルじゃなくて飲んだら理性ぶっ飛んでしまうとか、
物によっては飲んだら最後、ヤらないと死ぬ毒とか物騒この上ないやつが普通にある。
もちろんそう言うのは法律で一般人が手に入れることはできないようにはなってるんだけど
非合法ルートが都市部で蔓延していてしっかり社会問題になっている。
こう言うのってフィクションの演出装置のはずなんだけど、現実にあったらいかんでしょ。
豆知識だが、中国古典文学がルーツらしいぞ、こう言う薬。
芸能界、やばい薬、美少女、何も起きないはずがなく……。
薄い本が厚くなっちまう。
あとは、そうだな。
コテコテの富豪キャラが野生で飛び出してくることが稀によくある。
バシャーン!!!!
水たまりに車が突っ込んだせいでスプラッシュ系のアトラクションで水ぶっかけられたみたいになってしまった……。
車も流石にやばいと思ったのか少し先で止まって運転手が降りてきた。
あれれー? おっかしいぞー? 見覚えがある高級車だ。
「申し訳ございません! お怪我はっ! ……坊ちゃん?!」
「濡れただけですよ、木下さん。全然だいじょうぶ。あと、外で坊ちゃんはやめてね」
俺は野生のボンボン。
この人は父が雇った運転手の木下さん。こっちは黒の国産高級車(販売価格9桁)。
高級車まではまあまあ前世でも見たが専属運転手付きとは流石である。
「ああっ、どうしましょう! ひとまずお召し物を!」
「何をやっているの。そんなの捨て置きなさい。私を遅刻させる気?」
「……と、仰せになってるんでイイっすよ木下さん。気にせず行っちゃってください」
木下さんが可哀想なくらいオロオロしてるから強引に肩を掴んで回れ右、そのまま行ってもらう。
後ろ髪引かれまくってるけど職務優先でお願いしますよ。
彼これ何年も兄妹やっててこの塩対応。いつものことなんです。
今日は本当に厄日らしい。
後部座席から顔も出さずに父さんの運転手を顎で使ってるのは妹の兵藤琴音。
フィクションの王道、義妹である。元はは父方の従妹なのよね。
本当は姓も雨宮なんだが、学校では兵藤を名乗ってる。
義理とはいえ俺を兄とは認めてません、と。
そんな無法が通るのは兵藤のネームバリュー故だろう。学校側も忖度しまくりである。
おかげで俺は兵藤の屋敷に仕える使用人の息子で琴音お嬢様の世話役と思われている。
まあ、生活能力皆無の妹の世話を常日頃からやってるもんだからお世話係というのも間違いじゃない。
父方の実家、兵藤は国内でも指折りの富豪で父の弟が跡目になったが、
不幸にも夫婦揃ってぽっくり逝ってしまった。
残されたのは老齢の先代当主と当主の娘でまだ小さい琴音。
あの温和な父さんが般若顔で怒鳴り散らすようなやり取りが先代当主とあった後、
父さんは姪である琴音が成人するまでと言う期限付きで琴音の保護者兼後見人と当主代理を引き受けたのだ。
なんで最初から長男である父が当主にならなかったかはお察しである。
名家ってのは本当に恐ろしいところやでぇ……。
つい先日のことであるが先代当主もあっさり急死した。
割りかしワンマン傾向があったおかげで抱えてる事業とかが一時的に麻痺したらしく結構な混乱が起きてるらしい。
え、父さんを当主代理にしつつ実権握り続けてたってマジ??
死んでまで迷惑をかけやがって、と父は不満たらたらながら後処理をしに母と琴音を連れて隣の市にある大豪邸に移っている。
まさかの母上まで登板である。普段はあらあらうふふ系の主婦なのに仕事させるとバリキャリらしい。何それ怖い。
そんなわけで琴音は市を跨いで自家用車で通学という名実共にセレブなお嬢様スタイルなのだ。
残された俺はと言うと、両親の厚い信頼のもとこちらに残した自宅の管理を任されて一人暮らしを満喫している。やったぜ。
正直、説明するまでもなく兄妹関係は壊滅的だ。
元々大富豪のご令嬢だったにも関わらず一時は没落寸前で訳アリで放逐された父さんの庇護下に入らざるを得なかったのは大いに屈辱だったようだ。
先代の影響を大いに受けたせいで父さんのことを「種無しの不具」とか散々罵ってたらしい。
6歳幼女のくせに語彙力豊かだな。
しかし、実物の父さんに会ったらまさかの手のひら返しにみんな唖然よ。
一瞬でメロつきよったでこの幼女。苦境のお姫様を救いに来た王子様にでも見えたんだろうか。
おかげでウチに来て以来ずっと母さんと俺はお邪魔虫扱いである。
いや、あからさまに攻撃して父さんの不興を買う訳にはいかないから完全に空気と言ったところかな。
あまりに明け透けなんで父さんも匙を投げている。
母さんにも同じかは知らないが、そりゃもう陰じゃ宝石を食んで腹を下しそうな豚だのベルベットを汚すドブ臭い野犬だの言いたい放題である。
いやほんと語彙力すごいな。国語5か?
そんな琴音を残して俺と2人きりなどしようものなら目も当てられない結果になる、
と言うことで父さんは琴音を連れて行くことにした。
ありがたいことだ。別れ際の眉間の皺がおいたわしいことこの上なかったが。
成人したらそれまでの縁と思って割り切っているそう。
そうは言っても琴音が当主の器かと言われれば疑問しかなく、あっという間に家を潰して父さんが面倒見なきゃならなくなるんじゃねぇの?
いっそ今のうちに父さんがうまいこと煽てて別の道に進めさせるほうがいいと思うがね。
実は作家志望で自室は原稿用紙の海になっているのは家族間では公然の秘密ではあるので
ぜひ、その道に行ってくれないかなと思う。根は善良のはずだ。
両親が琴音を完全に切り捨てないのはそういうところをわかっているからだと思う。
何気に捨てられた原稿読むの楽しみなんだよな。
恋愛ものの才能はないがサスペンスものは結構読み応えがあった。
デビューした暁にはファン1号を名乗ってやろう。
ずぼ濡れのままバスに乗ってなんとか一限に差し掛かる頃に校門を潜ることができた。
遅刻の言い訳ができたのでトータルでプラマイゼロだな。
職員室へ直行して遅刻書類を記入の上、着替えを探しに保健室へ。
「山田せんせー、登校中にぶっかけられたので着替えが貸してくださーい」
「……先生は留守よ。頭に響くから静かにして」
「え、ごめん」
先客がいたか。なんと恥ずかしい。
む? おぬしは……! 学年成績トップの水野琹! 我が永遠のライバル!
ここで会ったが百年目! 去年の成績で俺がずっと2番だったのはお前のせいだー!
ここでトドメを刺してくれる!
などとだる絡みするわけにもいかず、静かに着替えを探させてもらう。
病人は寝といてくれ。
この子、図書室のヌシなんて呼ばれるくらいの努力型優等生なんだが
いかんせん貧乏家庭出身で結構な苦学生らしい。
奨学金を切り詰めて生活してるせいで貧血やら栄養失調やらで頻繁にぶっ倒れてる。
俺も入学してから図書室通い詰めてるから何回か保健室に運んだことはあるからな。
一度も会話したことないけど。
え? 何気に今のが初会話か? うそん?
中学から学校が一緒で水野の成績抜こうとして勉強にのめり込んだまである。
俺が一方的に思い入れがあるだけだったか。危うく恥を重ねるところだった。
無事、予備の体操服を手に入れたのでパーテーションの奥でいそいそと着替える。
これ、男女逆なら最高にドキドキシチュエーションじゃね? ね?
「……」
無言だが物理的に刺さりそうくらいの侮蔑の視線を感じる……!
おかしいな、俺は別に独り言多い系主人公じゃないのに内心見透かされてる気がするぞ?
まぁ、ただの被害妄想だと思うが。
「ごめんけど、山田せんせに体操服借りたって言っといてー」
「え、ちょっと、あなた名前は?」
「2ーAのお世話係で通じるからヨロシク!」
「は?」
お邪魔しました。しっかり休んでくれ。
次の期末こそはおぬしを討ち取ってくれる。首を洗って持っておれ。
ていうか、高校生2回目でしっかり勉強してる系男子の俺より成績が良いって結構凄くね?
うちの学校、私立で偏差値バカ高いのよ?
ずっとライバルと思ってたが、実はラスボスだったのかも知れんな。
水野琹、恐ろしい子……!
2限から堂々と出席である。
同じクラスの奈緒から刺さるような視線を華麗に無視して残りの授業を消化。
ファンネルが飛んでこないところを見るに今日はセーフだったらしい。
今日は部活もないので直帰だ。スタコラサッサだぜー。
と、思ったら母さんからメッセージ飛んできて校門前で足止めされたでござる。
『どういうことだってばよ』
『ごめんなさいね。ひとまず何も聞かずに着いてきてちょうだい』
『朝、ズボ濡れになって体操服何ですが』
『どうしてそうなったの?????? 着替えは用意しておくから一先ず迎えを待っていて』
『イエス、マム』
親子のメッセージなぞこんなものだ。
そして俺は空気を読めるできた息子。
バリキャリモードの母さんに口答えは御法度である。
程なくして、白のピッカピカに磨かれた車が迎えに来た。
滅茶苦茶珍しいことに運転手は母さんだ。
やばそうな匂いがぷんぷんするぜぇ。
「お疲れ様。車内で着替えてちょうだい」
「わかったけど、どこに?」
「ドレスコードがあるところよ」
「Oh……」
「お父さんには内緒でお願いね」
「本当にどこへ連れて行かれるんですかねぇ!?」
嫌だよ? この人が新しいお父さんね、とか。万に一つもないだろうけど。
用意された服は普通に制服だった。
んー……これは母方の実家関連かな。
「もしかして、九条の家から?」
「そうよ。何の説明もなく、貴方を連れて来いですって」
「いやぁ……十中八九、お見合いじゃね?」
「……」
「黙らないで。めちゃくちゃ怖いよ、母さん」
父さんが頑なに母さんにハンドル握らせないわけだよ。普段の面影どこ?
父方の実家が商業で財を築いた富豪なら母方の実家は代々政治家を輩出した名家である。
何だったら3人くらい総理大臣出してる政治のロイヤルファミリーみたいな一族だ。
当主の長女だった母さんは政略結婚として父さんと結婚した……表向きは。
実際は幼馴染で周囲に隠し切った大恋愛の末、お互いの実家を騙くらかして政略結婚に偽装した計画的駆け落ち婚だったのである。
苗字ロンダリングまでしてドロドロの跡目争いから逃げ切ったっていうんだから相当だよな。
当時は両家のバランスはほぼ拮抗しており、共に競合の圧力に押され気味だったことから、利益目的で政略結婚をするのは自然な流れだったらしい。
父方の実家としては跡目争いからリタイヤした息子を使って便宜を引き出せるなら両手を上げて歓迎するし、
母方の実家としても父方の実家の献金と組織票というのは喉から手が出るほど欲しいものだったそうだ。
そしてその全部が全部、周囲の状況まで母さんが書いたシナリオだったってのは恐ろしすぎる。
貴女その時、20代でしょ?? 一体どんな手を使ったんだ??
酒入る度に武勇伝として語る母さんに戦慄を禁じ得ない。
付き合い始めたのが10代の頃って言ってたからいつから仕込みしてたんだか……。
で、それからどうなったかっていうと父方の実家と似たり寄ったりで
弱目に祟り目、目も当てられない状態に陥った。
一族内の権力闘争にかまけた間に政治闘争でも負け続きで溜め込んだ資産を食い潰しながら緩慢な衰退の一途とかいうゲロ吐きそうな状況らしい。
一方で父方の実家は父さんが実質当主ってことで直近のゴタゴタはあれど、
垂直ミサイル見たいな勢いで急激な復帰を遂げようとしている。
何だったら最盛期を超えるかもしれないというのが世間の見方だ。
はい、ここで問題です。
母方の実家が再起を企みつつ、母さんと俺を名指しで呼び出す用件とは何でしょーか!
「身内の情で息の根は止めなかったに……余程死にたいらしいわね」
「ステイステイステイ。流血沙汰は勘弁してよ」
「なに他人事みたいに言ってるの。あなたの将来がかかってるのよ。手ぬるい事をして禍根を残してしまったのは母さんの落ち度だわ。しっかり落とし前をつけなきゃね」
「言う事聞いてくれる美人な奥さん貰えるならそれもあ、冗談! 冗談ですから! お願い! 無言でアクセルベタ踏みしないで!! 下道で180キロは死ぬぅ!」
それじゃ政治家一族じゃなくてスジモンでは? 俺は訝しんだ。
貴女この前まであらあらうふふ系主婦じゃなかった??
間違っても極妻じゃないでしょ? やめてね。
大体、向こうの魂胆はわかっている。
父さんに実子はいないが溺愛している養子がいる。
良い感じにご機嫌とって縁を繋げば支援を引っ張って来れると思っているのだ。
ついでに言えばどこの馬とも知れぬ養子なんて良家の子女教育を受けた妻を娶らせれば如何様にでも操れるって思われてるってことだ。
母さんがカチキレる気持ちも分からんでもない。
残念ながら床上手の美人を送り込まれたらまるで抵抗できる自信がないのが悲しいところだ。
うわっ……俺の下半身、弱すぎ……?
でも、母さんもちょっと平和ボケしてんのか。俺でも大体のことは察するのにホイホイ出てきて大丈夫なのかね。
この人の場合、どこまで演技なのかわからないから怖いところだ。
万が一、母さんが油断してたとして父さんがそれを見逃すとは思えんから良いか。
で、現地で合流したわけだが……
「お変わりなさそうね、志保さん」
「お嬢様もお変わりなく。ご足労いただきありがとうございますわ」
「お嬢様はやめてちょうだい。もういい年なのよ」
「まあ! 私ったら、あまりにもお変わりないようだからつい昔の調子で」
「それを言うなら志保さんだって、今も昔も有馬は九条の“裏戸“をしっかり見てくださってるから私も安心よ」
「……お戯れを。雨宮の奥様、とんでもございません」
もう帰っていい? だめ? そんなー……。
だいたいこのおばさんが母さんに処刑される流れだろ? もうBGM変わってよ、きっと。
俺が来た意味とは。
「奥様、こちらが高瀬家のお嬢さんです。紬さん」
「紬と申します。どうぞよしなに」
よしなに……。
見るからに高そうな和装をかっちり着込んで髪もバチバチにゆい上げた美人が頭を下げている。
対してこちらは制服である。ここ、料亭の個室なんですが……。謀ったな、母さん。
流石、みっちり仕込まれたお嬢さんだ。表情や態度にカケラも出ない。
ただ目が、ね。内心がちょっと滲んでるよね。
付き添いのおばさんも絶対俺に目線合わせないし、そういうことだよね??
「本日は顔合わせのみで、この後の話は追々とさせていただきたく」
「へぇ、この後のお話がございますの?」
「まぁ、奥様。時代が時代でございましょう? 家同士の小難しい話はお二方のお耳にはとてもとても」
オホホ。などと笑いあう二人であるが正直勘弁してもらいたい。
お相手の紬さんも出番は終わったとばかりに茶を飲みながらこちらに目もくれない。
どう考えても身分違いだもんな。
いくら俺の両親がいいとこの出だったところで俺が英才教育を受けているわけじゃない。
せいぜい前世で身につけた一般人レベルの社交マナー程度。
これは、完全に舐められてますねぇ。
いや、これは母さんの仕込みだったか。油断させといて一撃で仕留める気か?
それにしたってどうやって始末つけるんだろ?
単純に破談させたいなら来なきゃいいだけだし、突っぱねることなんてわけないと思うが。
「志保さんの仰る通りですわ。大人同士の会話はまた追々とさせていただきましょう」
代わりに、とどこからともなく書類封筒を差し出す母さん。
貴女のミニバッグは四次元ポケットか何かですか?
無言で確認を迫る母さんの圧に負けておばさんが書類を開けて目を剥いてる。
何事かと思って隣のお嬢さんもこちらに意識を戻してきた。
書類をお嬢さんに手渡して慌てた様子で確認してくる。
「同じ学校に通わせる気でございますか……?」
「ええ。お互いに人柄を知る必要があるのではなくって? 二人は学生なのだからこれが最善よ」
「しかし……」
「既に手続きは済ませておきましたわ。住まいも足もこちらで支度させます。明日、迎えを寄越すから準備なさってくださいな」
すっと立ち上がった母さんに釣られて俺も席を立つ。
「こんな乱暴な……! いくらお嬢様でもこんな勝手は!」
「弁えなさい。どの立場でものを言っているのかしら?」
「ひぅっ……!」
「まったく、どの口で言うのかしら。こちらの台詞よ? どうしてこんな勝手が許されると思って?」
……やっぱり全部母さんの手のひらの上だったか。
ここまで用意してたなら車の中の茶番いらなかったよねー。
母さんの茶目っ気が強すぎて辛いです。
見てよ、お嬢さんの方。未来の姑(仮)がカチキレてるのみて顔面蒼白じゃん。
結婚前から嫁(仮)いびりかー?
「志保さん、この件は有馬の独断なのはわかっていますわ。後日、ご説明の場を設けてくださるかしら。もちろん、お館様も含めてね」
「!!?」
「それではお暇させていただきますわ。紬さん、これからよろしくお願いしますね」
背を向けて振り返りもせずに颯爽と出ていく母さんに遅れて、二人に軽く頭を下げて出ていく俺。
こっわ。
行きと同じく車に乗り込んだ母さんの顔色を伺う。ちょっとは溜飲を下げたらしい。
「で、どうすんの? 結婚前から嫁いびりの予行演習?」
「まさか。小娘一人相手にするほど暇じゃないの。それに私が貴方の結婚相手を勝手に決めたりする訳ないでしょ」
「それはありがたい限りだけどさぁ」
「安心してちょうだい。貴方の人を見る目はお父さんのお墨付きだから、貴方が連れてくる相手にとやかく言ったりはしないわよ?」
ええー? ほんとにござるかぁ?
そこから種明かしついでに今日会ったお嬢さん、高瀬紬の話を聞いた。
すっごい遠縁の親族で母の曽祖父の弟のひ孫? とかそう言うレベルらしい。
古い一族だから分家となるとそう言う感じになるんだってさ。
で、縁談に箔を付けるために分家でも宗家に近い高瀬の養女になって今回の場に臨んだらしい。
養女に認められるくらいにはかなり優秀な部類だって話だ。
ただ、心臓に持病があるらしく、日常生活に支障はないが強めの負荷には注意がいるとのことで、一族内じゃ色々風当たりがきついらしい。
ありがちな話だが能力があっても妬みから持病をネタに評価されない系のお嬢様らしい。
要は捨て駒にするにはちょうど良い人材だったと言うことだろう。なんとも胸糞の悪い話だ。
これだけ脅しつければ今晩にでも九条から泣き土下座が入って向こうから破談にするか、
それが無くてもお嬢さんを母さんの手元に置いて数日ほど客室に軟禁して適当にビビらせてしまえば、根を上げて実家に逃げ帰るのではと言うのが母さんの予想らしい。
聞くとこによれば琴に茶に華、弓も剣もいけて馬も乗れるらしい。
それだけじゃなく、司法に興味があるらしく弁護士や検察なんかも進路に選べそうとのこと。
話だけ聞くと母さんの好みドンピシャだな?
九条が、というか有馬が今回の縁談にどれだけ本気かが垣間見える。
九条の看板使って兵藤からリソースを引っ張り、あわよくば宗家の権益をもぎ取って九条に取って代わる気だったんだろう。
うーん、しかしこれだけの才女がちょっといびられたくらいで折れるだろうか?
九条が折れなかったらちょっとめんどくさくない?
まあ、母さんのことだからそこは何か考えているだろう。
その後、自宅の方に俺を送り届けたあと、母さんは父さんたちの元へ帰って行った。
自宅に上がった瞬間、父さんから労いのメッセージが届いた。
おい、ホームセキュリティの玄関カメラ映像みて出待ちしてたな??
暇人か??
なんだかんだで過保護なパッパである。
九条の件もだいたい掴んでいたのだろう。はいはい、さす父さす父。
腐っても名家で教育受けただけはある。こう言う手回しは本当に隙がない。
この両親、見た目の世界観は完全にレディコミな感じなのに中身はゴリゴリにサスペンスのそれなんだよな。
『兵藤の家のほうはどうなの? 落ち着いた?』
『事業の方は急場を凌いだ。遺産整理も生前に9割9分片付けていたからタカリを追い払う程度で済んでいる』
『父さんのもやしボディのどこにそんな体力があるのか不思議です』
『恐れいったか。これでも鍛えているのだ!』
『いや、そう言う問題? 物理法則ちょろまかしてない?』
あんなスリムボディしてて、仕事が忙しいと普通に五徹とかしてるのは何かのバグじゃないかと思うんです、お父さん。
あんたの血族みんな急逝してんだから無茶はやめてほしい。
『全て片付けてもしばらくは往来が必要だ。苦労をかけるが家の事は頼んだぞ」
『了解。父さんも無茶しないでちゃんと休んでくれ』
『ああ。それではな』
メッセージの片手間に家事を終わらせて一息つく。
前世では一人暮らし歴も長かったし家事は苦ではない。
炊事洗濯しっかりやる系男子です。対戦よろしくお願いします。
今日1日だいぶ濃かったなぁ。
改めて振り返るとフラグがそこかしこに転がっててヤバい。
普通にラブコメの主人公か何かに憑依転生でもしたのかってレベル。
それか、ここから主人公が生えてくるとかもあり得るんだろうか?
今世は何か付けて日常生活がドラマチックになりがちだ。
今の所、恋愛的なイベントは起きたことがなかったから身構えてなかったが……。
まあ、期待だけ膨らませておいて何も起きませんでしたー、は前世でよくある流れだ。
それこそ、前世じゃ漫画やアニメの世界のような恋愛に心躍らせて周囲の女の子がキラキラ輝いて見えた学生時代とか完全に黒歴史だしなぁ。人生2回目で天丼するのは流石にまずい。
創作物で舞台になりがちな高校2年の新学期が始まって1週間。
もし、何かが始まるならもう始まっていてもおかしくない。
まさかお見合い相手が出てくるのは予想外だったが学校生活も少し注意しとかなきゃな。
そうで無くても実家がきな臭いのに学校で何か起きたら流石にうちの家族みんな共倒れになっちまう。
そして、明くる朝……。
「──ーっぅ!? ぅぅっ!!」
いつものバス停で奈緒が頭押さえて悶えていた……。
尋常な様子じゃないのは一目瞭然だが話しかけるべきか悩むな。
下手に話しかけて逆鱗に触れようものなら休む必要も出てくるからな。
「うぐっ! そんな……私、死んだはずじゃ……?」
なんか無茶苦茶物騒なこと言っとる……。
ああ、これは本格的に始まった感出てきたな。
まさか主人公はこいつだったのか。
「制服……もしかして、戻ってきたの? あの時に?」
はい、ついでに独り言多い系です。
まじかぁ、ということはどこかにデッドエンドフラグがあるってこと?
流れ変わってきたな……。
「! そうよ! ユーマは?!」
俺ぇ?
いきなり弾かれたように頭を上げて周囲を見回してバッチリ目が合ってしまう。
しまった。逃げるタイミング逃したか。
「ユー、マ……」
奈緒の目のハイライトさんが仕事してないですぅ……。