改心悪女四種盛り   作:白のワイん

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求、爆発物処理班

 

 

「……それじゃ失礼しますよ、と」

「……」

 

 一瞬こちらを一瞥したがそのまま視線を逸らして自分の膝に顔を埋めてしまった。

 いや、その姿勢は正面から下着丸見えなのでは? 

 誰もいないから良いけどさー……。

 仕方なく、そのまま隣に腰を下ろす。

 

「昨日は色々あったけど、調子はどうよ?」

「……なんともない」

「左様で……聞きたいことがあるんだが、いいか?」

「頭のおかしい女の話なんて、聞く価値ある……?」

「……あーもう。うだうだ言うな。愚痴なら今度付き合ってやるから質問に答えろ」

「っ……」

 

 俺の口調に驚いたのか、微かに顔を上げてこちらを見返してくる。

 

「昨日の転校生、男の方な。知ってることを教えてくれ」

「……あなたが、相続する遺産が目当てみたい。よく知らないけど」

「はぁ……何にもしなけりゃ普通に貰えるだろうに。なんで俺のまで欲しがるんだか」

「……どういう関係なの? あの転校生もそうだけど、妹? とか名乗ってるあの女とか。普通じゃないでしょ」

「琴音のことか?」

「思い出したけど、2-Aのお嬢様でしょ。あんたと苗字も違うし、意味わかんない」

「いやぁ、どう説明したもんか」

「あの二人、あんたの親戚なのかもしれないけど、離れた方がいい。殺されるわよ」

 

 大体想像通りの反応だな。

 さて、踏み込めるか? 

 

「……根拠が、あるんだな」

「……」

「昨日、あの場にいた四人のうち、お前を含めて三人とも同じだ。あの転校生が俺を殺すかもしれないから近づくなってよ」

「!?」

「残りの一人、転校生の女の方はまだ話せてないが、この分だと同じだろう」

「うそ……」

「昨日話した二人は取り乱しようが酷くて聞けなかったんだけどさ。一体、何があったんだよ?」

「……」

 

 黙り込んでしまった。

 奈緒もそうだったが、まあ難しいだろう。

 俺から「死んで戻って来たんだよな?」と聞いても良いが、博打が過ぎる。

 本人たちなりに死んだ時の状況はトラウマ級に酷そうだ。

 トドメになりかねん。

 

「……言い辛いことなのはわかった。質問を変える。琴音をなんで知ってるんだ?」

「……面識があるわけじゃない。優馬、あの転校生のほうと一緒にいてオニーサマって呼んでたのを見ただけ。あと、やたらベタベタしてて気持ち悪かった」

 

 最後の感想、いるか?? 

 

「他に知っていることは?」

「……他人の遺産目当ての寄生虫みたいな女」

「ひどくね?」

「だってそうでしょ。あの女の口ぶりからして相続権があるんでしょ。少なくない額はもらってるはずよ。それなのに他人の分まで奪おうなんて」

 

 それはそうだけど、今の琴音が俺の分の遺産まで欲しがってるとは思えん。

 もっと言うと、争う相手は俺じゃなくてあっちのユウマの方だろう。

 取り決め通りなら兵藤を継ぐのは琴音なんだし。

 

「まあ、いい……他は? 昨日あの場にいたやつで知り合いは?」

「……まったく。話したこともないわ」

「奈緒とも?」

「昨日、あなたが連れてった子? 知らない」

 

 んん? そうなの? 

 奈緒は水野のことをかなり警戒してた。

 てっきり何か因縁があるのかと思ったが……。

 この様子だと本気で知らなさそうだな。

 なるほど、わからん。

 空きっ腹で頭使ったらダメだな。

 今日はおしまいでいいか……? 

 

「私からも聞いて、いい?」

「ん? いいけど、メシ食いながらでもいいか? そっちは?」

「……食欲ない」

「無くてもなんか腹に入れとけよ。ほれ、スムージーとかどう?」

 

 とりあえず、スムージーを押し付けて俺はミックスサンドを手に取る。

 

「……たまご」

「あ、てめ、ピンポイントで……ちっ、ほら」

 

 楽しみにしてたたまご取られた。

 結局食うのかよ。

 

「あなた、実は家が金持ちだったりするの?」

「金持ち、だな。うん」

「……相続争いが起こるほど?」

「そこは、どうかな。親が両方とも実家が太くてそういうのを嫌って駆け落ち同然で結婚したとかなんとか」

「結局巻き込まれてるじゃない」

「若い頃に不妊になったはずの父親にいきなり高校生の息子が生えてくるとか誰も予想できんて」

「それって、あなた……」

「俺、養子なの」

「……」

「琴音は父さんの姪で書類上は従妹。けど、琴音の両親が亡くなってからはウチに住んでるから兄妹、て感じ」

 

 ミックスサンドのメインつったら真ん中のハムサンドだがレタスとチーズのやつは実はそんなに好きじゃない。

 やはりハムサンドは辛子マヨネーズときゅうりに限るな。

 別で買ってあったハムサンドを開ける。

 

「そう言う意味だと、俺とあの転校生は兄弟になるのか? 未だに話したことないけど」

「あいつがあなたから遺産を奪おうとしてるのは、まさか」

「自分の立場が俺に奪われた、とか思ってるからじゃないか? 父さんがまだ元気なのに、気が早いよな」

「……あなたを殺す動機には十分過ぎるでしょ。何呑気なこと言ってるの」

「別にいいんだよ。どうせ高校出たら家を出るつもりだったし」

「!?」

「両親は良くしてくれるけど、やっぱり迷惑掛けたくないし。自立してこそ大人だろ?」

「っ!!」

 

 最近の学校の購買ってすごい。

 サラダチキンとかあるんだよな。

 健康に気を使ってるこちらからしたらありがたい限りだ。

 気を使ってる割には加工肉普通に入ったサンドイッチ食ってるって? 

 キニシナーイキニシナーイ。

 

「その、ごめん」

「いや、なにが?」

「……わたし、悠真君のこと何も知らなかった」

「……そりゃぁな、一昨日ちゃんと話したばっかだし」

 

 あえてすっと呆ける。

 いやまじでなに? 俺と水野ってどんな関係だったの?? 

 自分で何を喋ってるのかわかってなさそうな水野は、どこか遠くを見ながらボソボソと呟く。

 

「そっか……ずっと不思議だったけどわかった気がする」

「おん?」

「……いいの。こっちの話」

 

 そういうと、水野は徐ろに立ち上がった。

 いつのまにか俺も水野も食べ終わってる。

 時間もいい感じか。

 

「あの転校生、聞く限り普通にやばそうだ。水野も気をつけろよ」

「あなたは自分の心配しなさいよ」

「わかってるよ。ありがとな」

「……悠真君、その」

 

 キーンコーンカーンコーン

 

「やべ、予鈴だ」

「……じゃあね」

「あ、おう。またなー」

 

 なんかさっき言いかけてなかった? 

 聞き返す暇もなく水野は足早に去ろうとするが、唐突に足を止めた。

 ん?? 

 

「……」

 

 擬音が出そうなほどの雰囲気を纏った奈緒が壁に体を預けてこちらを睨みつけている。

 え、こわ。

 いつからいたの? 

 

 水野と二人で困惑してると、ズンズンと足を踏み鳴らして俺の前まで歩いてくる。

 あ、これデジャヴ……。

 

「どわっ!?」

「……」

「……」

 

 胸ぐら引っ掴まれて奈緒の背後に回された。

 水野もだいぶ気圧されている。

 

「ほら、行くなら行ってよ」

「……言われなくても行くわ」

 

 不愉快そうに顔を歪めた水野が今度こそ踵を返して去っていく。

 どことなくしょんぼりした雰囲気を背負っている。

 後味が悪い……。

 

「……奈緒、俺たちも戻」

「近づかないで、って言ったじゃん……」

「いや、そりゃ……ごめんな。お前の言ったこと信じてないわけじゃ」

「こわかった……」

「は?」

「またユーマが殺されるんじゃないかって、なのに、昨日も仮病女のこと」

「え、見てたの? だから、あんな血相変えて……」

 

 そういうこと? 

 昨日、俺が具合悪そうな水野に声かけたの見てたのか。

 それで、また俺に何か起きるんじゃないかってパニックになって校内走り回った結果、ユウマくんが尊い犠牲に……。

 

「ごめん、心配掛けちまったよな。大丈夫だよ。ほら、授業始まっちまうから」

「……」

 

 ギュ

 

 昨日に引き続き腕ごと抱え込まれてしまった。

 奈緒はぐすぐすと泣いて黙り込んでいる。

 うそ、これで教室に戻るの? マジ?? 

 

 この状態で遅れて入る方がヤバい。

 腹を括って行くしかあるまい。

 役得の代償としては収支が合ってない気がするが。

 

 午後の授業は先生がビビるくらい静かだった。

 みんな息を殺してスマホを叩きまくってる。

 始業式の日に立ち上がったクラスのグループチャットは凄い勢いで通知アイコンのカウンターが上がっているし、

 多分非公開の仲良しグループで乱立してるほうも凄いことになってることだろう。

 

 俺、大丈夫? 

 放課後とっ捕まって磔とかされない?? 

 ここがアニメとか漫画時空ならギャグパートでボロ雑巾にされる展開全然あるよ。

 

 ひとまず都合の悪いことは思考の端に寄せておいて、これまでの情報を整理する。

 結局、3人から話を聞いたが兵藤ユウマが俺の命をなんでかはわからないが狙っていることくらいしか確定情報がない。

 動機らしいものは考えつくが、正直弱すぎる気がする。

 現状、父さんは当主代理であって当主ではない。

 正式な後継者である琴音が成人するまでの間、その財産を管理しているだけの存在だ。

 琴音が成人したら父さんは相続放棄を行なって琴音に全て移管されるはず。

 あるいは兵藤ユウマが祖父と養子縁組をして父さんの弟になっているという可能性もあり得るが……。

 兵藤の家はデカい。父さんと琴音と兵藤ユウマの三等分にしても途方もない額のはず。

 なぜそこまで欲張る? 

 さっぱりわからない……。

 まだ俺の見えていない要素があるのかもしれない。

 あるいは、常人の想像もつかない思想を持ったサイコパスという可能性もあるか。

 案外、冗談で言った「自分の立場が俺に奪われたと思い込んだ逆恨み」というのは結構イイ線いってるのかも。

 

 また、彼女たちの行動原理についても違和感が残っている。

 奈緒は水野が、琴音は高瀬のお嬢さん、水野は琴音をそれぞれ兵藤ユウマと結託していると主張している。

 高瀬のお嬢さんも奈緒のことを言及していたから、綺麗に四人が別々の人間をクロだと指名している。

 四人は共通して俺に対して庇い、気遣うような態度を見せている。

 兵藤ユウマと結託しているならそれらの意味するところはなんだ? 

 俺を油断させるための嘘? 

 いや、誰かが嘘をついてるとは思えない。

 そろそろ最悪を想定するべきか。

 四人が別々の未来を経験した可能性……。

 SF要素の中で多元宇宙並行世界が1番扱いに困るぞ。

 マルチバースを取り扱うにはスケールちっさすぎでは。

 ていうか、仮に推測が正しいなら四つの並行世界で必ず俺が死ぬと言うことになる。

 下手すると俺が死ぬと観測した四人が同じ時空に揃ってることが事象を収束させかねないのでは? 

 そうなったら完全に詰みだ。

 

 正直、2度目の人生が幸せすぎるくらいだから早死にするのも仕方ないか、と諦めている自分もいる。

 それならそれでいいのだ。

 ただ、俺に巻き込まれて必要以上に辛い思いをするやつが出ないで欲しいだけで。

 

 異様な雰囲気の午後の授業も終わり、やっと一息がつけたかと思ったが、SHRが終われば案の定、クラスメイトの人集りである。

 

「雨宮ぁ、お前いつから佐倉さんとぉ」

「昼休みなにあったん? 佐倉さん泣いてたくね?」

「おまえ、こそこそと校内でイチャついとったんか? おおん?」

「馴れ初めを話しなさいよお! 気になり過ぎるんですけど!」

「なになに、今までの全部痴話喧嘩となマジかよお前」

 

 一方で奈緒の方は……。

 

「奈緒、あの……」

「なに」

「ご、ごめん。でもさ、うちらも初耳だったし」

「関係ないでしょ」

「さ、佐倉が困ってんなら俺が雨宮に、っ」

「……ユーマに何? 言ってみなさいよ」

「な、なんでもない……です」

 

 大丈夫かなぁ。

 せっかく築いたコミュニティ、大事にした方がいいと思うんだが。

 というか、俺と付き合ってるって否定してくんないかな。

 ほぼ既成事実になってきてるぞ。

 さっきから俺がお茶を濁してやんわり否定しても奈緒がほぼ無言肯定に徹してるから焼け石に水だ。

 一体何を考えてる? 

 

「わたし、帰るから。ユーマ、いこ」

 

 ざわ……ざわ……

 

 おまえ、この空気で一緒に帰る気? 無敵か? 

 いや、むしろ目論見通りなのか? 

 

「良いけどさぁ」

「あ、雨宮?」

「坂井くん? どったの?」

「あれ……」

「!」

 

 すごいタイミングで坂井くんが入ってきてくれたが救いの神じゃなかったらしい。

 恐る恐る教室の入り口を指差すと人が立っている。

 

 高瀬のお嬢さんだ。

 おいおいおい。昨日の焼き直しをする気か? 

 視線が合ったと思ったら優雅に一礼してカツカツと綺麗な足音で教室に入ってくる。

 

「突然すみません。悠真さん、この後時間をいただきたいんですが」

「ユーマはわたしと帰るの。そこを退いて」

 

 俺が返事するよりも早く奈緒が割って入る。

 教室はシン、と静まり返って固唾を飲んで見守る姿勢だ。

 緊張感とは裏腹にお目目キラキラじゃねぇか。

 おい、人の修羅場を楽しんでんじゃねぇ。

 

「悠真さん、この方の許可が必要ですか?」

 

 奈緒を無視するようでいて、視線は奈緒に向けたままだ。

 頭越しに俺に聞いてくるのは意地が悪すぎないか。

 

「ユーマ、ほっといて早く行こ。親が決めた結婚相手なんて、いつの時代のニンゲンよ。バカバカしい」

 

 ざわ……ざわ……

 

 奈緒さん、頼むからこれ以上爆弾投げ込まないでくれませんかねぇ。

 クラス中が完全に「そう言うことだったのか!」みたいになってるよ。

 誤解です。え、誤解だよな? 

 だんだん、自信無くなってきた。

 

「随分と束縛が強いようですね。お付き合いをなされていて?」

「……!」

「あら、勘違いでしたか? 失礼いたしました」

「この……!」

 

 やばい、奈緒が暴発しそうだ。

 仕方ないが一肌脱ぐしかないか。

 なんか最近は道化になってばっかだな。

 総帥って名乗っていい? 

 

「高瀬さん、あんまからかわないでよ。俺がめっちゃ悪い男みたいじゃんか」

「あら、男性の八方美人は十二分に悪いと思いません?」

「……もしかして俺を社会的に殺しにきた?」

「ふふ、心当たりがおありですか」

「え? 嘘でしょ?」

「勿論、冗談です」

「心臓に悪いからカンベンしてよ。こえー……」

 

 大袈裟に胸を押さえて肩を落としてみる。

 なんとも大味な大根役者だぜ。

 

「昨日の件でしょ。そんなに圧を掛けなくても行くから」

「っ! ……そんなつもりは」

「ジョーダンジョーダン。これでおあいこで」

「ユーマ!」

「ごめん、今日はこっちが先約」

 

 奈緒、すまんな。

 今日はこっちを優先させてくれ。

 セオリーどおりならどう言う話になるかもだいたい想像つくが推測の裏どりはしておきたい。

 

 ……嫌な予感もプンプンするしな。

 

 教室の外から様子を窺っている兵藤ユウマの姿を俺は見逃さなかった。

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