改心悪女四種盛り 作:白のワイん
「ユー、マ……」
ハイライトさんがログアウトした瞳でガン見されてるのってこんなキツいんですね……。
さっきから涙もすごい勢いで溢れてるし、完全に血の気が引いた顔していらっしゃる。
メタ読みして申し訳ないが、君たぶん酷い死に方してない?
あーあーあー、化粧がどえらいことに。
「え、どした? 顔色終わってね? 大丈夫?」
「……」
「具合悪いか? おばさんに迎えに来てもらうか?」
「……」
「ちょ、息して!」
あかんあかん、息止めてるんじゃなくて過呼吸なってんじゃん。
慌ててカバンの中からエチケット袋を取り出す。
こんなこともあろうかとってなぁ! まじで自分を褒めてやりたい。
「これ、口元につけて! ゆっくり息吐いて」
「……!」
「落ち着いて、ゆっくり。そのままこっち来て」
ここはベンチがあるようなバス停じゃない。
立たせてたら絶対ぶっ倒れる。仕方ないから俺のカバンを座布団代わりに座らせる。
教科書とノートで多少厚みがあるから無いよりマシだろう。
「ご、め……ご、ごめん……な……」
「毎週洗濯してるから気にすんな。落ち着くまで無理にしゃべんなくていい」
「……」
どう考えても謝ってるのは別の理由っぽいなぁ!
いや、こんな状態の奈緒と2人きりはキツくねぇ?
昨日の反省を活かしてかなり早めに出たせいか、他の利用客どころか人通りもない。
バスが来るまで場が持たないって。
そもそもバスが来たところで乗れるのか?
「おばさんに連絡して迎えに来てもらお。学校どころじゃねぇって」
「……まっ、て」
「ムリムリ。おばさんの連絡先は知ってるからかわりに」
「まって!!」
「うぇ?!」
「大丈夫、だから……!」
モームリ。助けて〜。
フラフラになりながら立ちあがろうとして全然立ててない。
腰抜けてね??
あー、もう!
「おぶってやるから帰るぞ」
「……もう、放っておいてよ」
「そりゃ佐倉は嫌かもしれないけど背に腹はって……ナニナニ?!」
こえー! 目かっ開いて無表情になるのやめて!
どこで地雷踏んだ!?
「下心とかそう言うのないから! ほら、ここでぐずぐずして学校で噂になったりとかしたら、アレじゃん?!」
「……」
「もしもし?! 聞いてる!? 佐倉? おーい!」
「……どうして」
「はい?」
「佐倉、て……前は、違ったよ、ね?」
「ええ?」
「どうしてぇ……」
なんか声量足りない藤原某みたいになっとる……。
いや、どうしてもクソも。
「中学のときに馴れ馴れしいからやめろって言ったのはそっちじゃん」
「!!!!!!!」
思わず溜息混じりで返しちゃったがクリティカルヒットしてね?
いまにもぶっ倒れそう。やべ、やらかしたか?
「アハっ……ハハ、わた、わたし」
「うおーい?!」
ついに手足も投げ出してしまって、テディベアスタイルになっちゃった。
その姿勢で泣き笑いはもうホラーなんよ。
もうすぐバスが来るし人通りも増える。流石に見過ごせない。
地面に放り出されてた奈緒の荷物を手早くまとめて腹を括る。
スクールバッグひとつくらいならなんとか行けるだろ。
正面にリュックスタイルで抱え込んで……。
「っ! なに……?」
「後でぶん殴るなりすりゃいいからとりあえず帰るぞ」
もうセクハラとか一切気にせずやるぞ。
投げ出された生脚をしまわせて膝立に、そこから背負い投げみたいに腕を担いで尻を引っ掴んで背中に乗せる。
モデル体型だけあってほっそいなぁもう! 40キロもないんじゃないかこれ!
力任せに背負ったら脱臼させそうだ。
俺のスクールバッグはとりあえず放置だ。貴重品は入ってないから、ヨシ!
「やめてよぉ……私なんてぇ……」
「もういいから、帰ろ。奈緒」
「っぁ! ────ー! ──────!!!!!」
ぎゅううう!
ぐぇ、首はやめてくれぇ!
さっきまでラグドールみたいだったが急に全身で抱き着いてきて非常に辛い。
逆に運びやすくなったからさっさと運んでしまおう。
奈緒の家はここから1キロ弱、普通なら徒歩10分くらいか?
明日は筋肉痛かも。
奈緒は俺の肩口に顔を埋めながら一頻りワンワン泣き喚いた後、
そのまま気が抜けたのか気絶したように眠ってしまった。
スヤスヤである。
まじで何があったんだ?
まず間違いなく悲劇的な結末からの死に戻り系だと思うけど、高確率で俺も巻き添え食ってるよね?
俺が殺したとかじゃなさそうで、それはそれで安心だけど死因が気になりすぎる。
頼むから大災害とかパンデミック、バイオハザード的な奴は勘弁してほしい。
なんだかんだ、20分くらいかかってしまった。
家の前に着いたが奈緒は起きる気配がない。
ん、ちょうど良い。おばさんが家から出てきた。出社前に間に合ったー!
「佐倉のおばさーん、ちょと手貸してー」
「え?! 悠真くん? 奈緒どうしたの?!」
「バス停で体調悪くしてたんで」
「まあ! 連絡くれたら迎えに行ったのにこの子ったら!」
「──ーん。あれ、私──ー」
「奈緒! 大丈夫なの?」
「ママ?」
「もう歩けるか? 無理そうなら中まで運ぶけど」
「!! ぁっ!」
「ぐぇ! 首首!」
「ご、ごめん。もう、大丈夫……」
「ウッス。っしょと。おばさん、これ荷物」
「本当にありがとうね、悠真くん。奈緒! ほら、お礼言いなさい」
「……ありがとう、ユーマ」
声ちっさぁ。昨日の覇気と自信に溢れた態度が見る影もない。
おばさんも様子がおかしいのを察したのだろう。
ちょっと血相変えて本気で心配し始めてる。
「本当にどうしたの? 病院いく?」
「いい。今日は家にいる」
「何かあったら連絡するのよ?」
「うん……」
「それじゃ俺行きますね」
「うん、ありがとうね。制服のクリーニング代はまた奈緒に預けておくから」
「あ……」
全然気づかなかったが、肩口は涙と落ちた化粧でどえらいことになっている。
昨日借りた体操服はそのまま今日も着ることになりそうだ。
「じゃ、今度こそ行くわ。しっかり休めよ」
「……」
奈緒は何回か口をパクパクして、結局言葉が出なかったのか静かに頷いた。
うーん、これは重症だ。
物凄い引き留めたそうな顔してるけどなんて言ったらいいかわからない感じで立ち尽くしてる奈緒を見ないことにして来た道を引き返した。
ヴー! ヴー!
歩き始めて程なくしてスマホに着信だ。
木下さん? なんと珍しい。
「もしもし? なんかありました?」
『坊ちゃん! 良かった。先程から電話に出られないからご心配しました』
「すいません、ちょっと両手が塞がってたもんで。それで?」
『お嬢様が! ご通学の途中で車から降りて走り出してしまい……』
「ええ?!」
『突然、学校ではなくご自宅へ向うようにということで向かっていたのですが渋滞に巻き込まれてしまい、停車しているうちに……』
「それ、どこのあたり?!」
『国道の交差点で……昨日、坊っちゃまとお会いした通りに向かうあたりです!』
「わかった! こちらからも探してみるから木下さんも来て!」
『承知いたしました。あの、どうやらお嬢様は坊ちゃんをお探しみたいでして』
そこからは脱いだ上着を片手に全力疾走である。
ええい、嫌な予感しかしないよ!
てっきり奈緒が主人公で物語が進むかと思ったら琴音まで異常な行動をしている。
二人に共通するのはどうやら俺が関係ありそうってことだ。ちくしょうめ!!
頼むから異世界転移とか現実がファンタジーに侵食される系の展開じゃありませんように!!
最寄りのバス停まで戻ってきたら人集りができてる。
時間が時間だからな。通勤通学の利用客が普通にいる。
このバス停を使っている同じ学校の生徒は俺と奈緒だけだ。
ほとんど社会人か他校の連中だからひとまずセーフ!!
「兄さん、どこぉ……」
「あの子、大丈夫?」
「なんかあのバッグ、お兄さんのらしいよ?」
「え、警察呼んだ方がよくない?」
「さっきから話しかけても反応ないのよ」
いや、まだ2アウトってとこか? 全然ダメだった。
ちょっと通りますよ。
人集りを掻き分けて琴音に駆け寄る。
俺が置いて行ったスクールバッグを抱き締めて号泣してたようだ。
まじかよ……。
「琴音!」
「っ!! 兄さん!! 兄さん!」
「ちょ、と端に寄ろう、な? 他の人の邪魔になってるから」
「ぅぅぅぅぅ……」
全力で飛び込んできてギリギリ受け止める。これ、前世だったら腰が逝ってたワ。
周囲の人にペコペコ頭下げながら道の端に寄って落ち着かせる。
あれー? なんかさっきもここで同じようなことしたぞ?
「もしもし木下さん? 琴音、見つけたよ。うん、そのまま道なりにきて」
もう5分も待てば木下さんが車を回してくれるだろう。
バスも来て利用客も掃けたからだいぶ静かになった。
琴音はというと、俺の懐に抱きついたままぴくりとも動かない。
やんわり引き離して顔色伺おうとすると物凄い力で引き寄せられる。
視界が著しく制限されてるが、琴音の格好を確認したらなかなか酷い。
特に腰から下がボロボロだ。
スカートはなんか薄汚れてるし、ストッキングは伝線っていうか膝に大穴空いてね?
まさか、ここに来るまでに一回転けてんのか?
「琴音、ちょっと離れろ」
「!!! いや!」
「落ち着け! お前ケガしてんじゃん。ちょっと見せろ」
「え?」
「坊ちゃん! お嬢様!」
「木下さん、いいとこに! 琴音ケガしてる! 救護セットあるー!?」
ナイスタイミング!
今のうちに琴音を引き剥がして全身チェック。
膝血塗れじゃん! 手のひらも切ってるし……。
「傷塗れじゃんか。とりあえず車まで行こう。歩けるか?」
「はい……痛っ」
げ、よく見たらローファーが靴擦れして血が滲んでる……。
歩くのは無理そうだな。
「すまん、文句は後で聞く」
「きゃっ!?」
両足の太ももを正面から脇に抱え込んでそのまま持ち上げる。
結構きついが数メートルなら耐えれる。
「坊ちゃん、お嬢様を後部座席に」
「ウッス。下ろすぞ。木下さん、救護セット」
「坊ちゃん、手当なら私が」
「いやぁ、後で張り倒されるなら俺のがいいでしょ」
「……!」
琴音はとりわけパーソナルスペースに厳しい。
木下さんはシニア採用のおばあちゃんだが、老若男女問わず勝手に触ろうものなら平気で張り飛ばす。
さっきは気が動転してただけで俺にしがみついたり抱っこで運ばれるなんて冷静になった瞬間に殺されかねんからな。
手に負えなかったら父さんに出張ってもらおう。
さっきからやけに大人しくされるがままになっているから勢いで手当をしてしまう。
今日は朝から酷使されすぎてる俺の上着を腰に被せてスカートをガード。
このままスカートに手を突っ込んでストッキングを脱がす、訳にはいかんよな。
2、3発は甘んじて殴られることを覚悟して、救護セットのハサミを使って切るか。
靴を脱がして踵の部分を切り取り、とりあえず汚れを拭き取って消毒。
痛そうにしてるが我慢してもらおう。こっちは絆創膏貼って終わり!
膝の傷も同じ要領で傷周りをハサミで切り取って消毒。
こっちはガーゼ当ててテーピングしとくか。
「ほら、足は終わったから手出して。結構切ってた、ろ?」
「……」
何故かボロ泣きである。
静かだと思ったら唇噛み切って血出しながら嗚咽を堪えてた。
こらこら傷を増やすなよ。
ぽふん
「!?」
「傷手当してんのに傷増やすバカがいるかよ。唇噛むくらいならこれ噛んでろ」
ガーゼはそんなに量がなかったのでハンカチを取り出して口元を軽く叩く。
もうここまで来たらどんだけ怒らせても変わらんだろ。
あむ
まじで咥えやがったよコイツ……。
いや、今はとにかく手の手当てをしよう。
無言で両手を差し出してきたのでサクッと汚れを落として消毒。
こっちも膝と同じガーゼとテープだな。
付け焼き刃の手当てだが病院着くまでの間くらいなら十分だろう。
おしまい!
「木下さん、このまま病院行ってもらえます?」
「はい、承知しました。では、坊ちゃんも乗ってくださいまし」
「ウッス。隣座るぞ?」
「……(コクリ)」
「今日は欠席でいいよな? 俺の遅刻連絡と一緒に入れとくぞ」
「……(コクリ)」
全然喋らん……どうしたもんかねぇ。
さっき私たち俺のハンカチ握りしめて一言も喋らない。そんな握りしてめたらまた血が……。
顔も俯かせたままだからどんな顔してるかも読めない。
こんな時は父さん、と言いたいところだが基本的に日中は私用の端末は見ない。
とりあえず母さんにざっくりした経緯と病院に行く旨を連絡、と。
「……」
「うお!?」
スマホから視線を上げたらこちらに身を乗り出した琴音が吐息かかる距離まで近づいていた。
心臓に悪いからやめて! てか、さっきからずっと泣いてたんかよ?!
ブラウスの涙染みがすごい。
ブルブル震えた指先を俺の顔に伸ばして、伸ばしてくるが触れようとしない。
顔色は……まじで今日はハイライトさん帰ってこないこと多くない?
普段隣に座ろうもんなら犯罪者扱いされて罵詈雑言の限りを叩きつけられるのに
距離感バグっててヤバい。
この位置に手があると過去にやられたビンタ思い出して全然落ち着かないぞ。
仕方がないのでやんわり伸ばしてきた手を掴む。
「今張り倒すのはやめとけよ。そんな手でやったら傷が酷くなるぞ」
「!?」
「ほら、傷が痛むだろ? 楽にしとけ」
「ちがっ……!」
「後で何発でも殴られてやるからさ」
とにかく刺激するとやばそうだ。
できるだけソフトタッチで元のシートに戻す。気分は爆発物処理だな。
いつ爆発するかわからんから運転してる木下さんまでソワソワし始めてる。
いかんぞ、ここで事故ったりしたら目も当てられん。
当の爆弾お嬢様は何故かいたくショックを受けている。解せん。
「私、私は、なんて……なんで、どうして……」
「琴音?」
「私が、壊したんだ……どうして兄さんは生きてるの? なんで私は死んでないの?」
さっきから消え入りそうな声でブツブツ言ってるが目の焦点合ってないよ……。
勝手に殺さないでくれ。君も一回死んだクチ?
病院に着いたので玄関先に車を横付け、木下さんには受付に行ってもらう。
多分歩くのは無理そうだから中まで運ばなければ……。車椅子かなんか借りたい。
「病院、着いたぞ。まだ歩けないよな?」
「……」
「……車椅子借りてくるからここで待てるか?」
「……」
「おーい?」
だめだ、反応がない。
意を決して肩を掴んで揺すってみる。
「琴音!」
「……? っ!!!!」
反応があったが目を見開いて固まってしまった。
どこを見ている?
「ち、血が……」
「気づいてなかったのか? お前の血、これくらい重傷なんだから早く診てもらおう」
どうやら俺のシャツについた血を見ていたらしい。
確かにぱっと見、重症者は俺の方だな。
? 何か様子がおかしい。顔色もさらに悪くなってる。
「琴音?」
「ちがう、そんなことしたかったんじゃ、いや、ちがっ……ぐぶぅぇ」
「!!!」
おっとお?!
音を立てて噴き出した吐瀉物を手に持った上着でキャッチしてしまった。
偉いぞ俺。反射神経の使い所間違えてない? いや、そうでもないか。
とりあえず女の子1人の尊厳は守られた。
車体とドアと俺の背中でだいたい隠れてるから存分に吐いとけ。
「ご、ごべんなさい、ごめんな、ざ、ぅぐっ!!」
「いい。なにも気にしなくていいから」
「ぅえぇ……んなさい……」
吐きながらずっと謝り続けるんじゃないよ……器用な奴だなぁ。
それからすぐに木下さんと看護師さんがすっ飛んで来たので琴音を引き渡した。
申し訳ないが俺の制服は病院で処分してもらった。
診断の結果、傷は見た目ほど大したことないが激しく吐いており水も口にできないことから点滴を打って帰ることになった。
採血もしたが病気の類ではなくストレス性のものだろう、と。でしょうね。
程なくして母さんが合流。保険証や着替えを持ってきてくれた。
俺の制服まで用意してくれていたのはありがたすぎる。
流石の手配りだ、母さん。
残りの付き添いは木下さんに任せて母さんと俺は病院を後にした。
普通、付き添いで残るなら逆じゃねぇの? とは絶対聞かない。
自分の旦那に色目使う養女と確執がないわけないんだよなぁ……。
今回のことは母さんも驚きだったようで。
『今朝はいつも通り威勢が良かったと思ったけど』
とは、母さんの弁である。いちいち発言がキツい。
事が起きたのは屋敷を出てすぐだったみたいだ。
木下さんが言うには、車内で急に頭を抑えて悶え出し鬼気迫るように俺を探し始めたという。
母さんも木下さんも、俺に対してまた癇癪を起こしたのかと気を揉んだそうだがこのザマを見て困惑しかない。
俺だってそうだよ……。
母さんに送ってもらって学校に着いたが、まだ昼前だ。
今日は朝から濃すぎて家を出てから2日くらい経った気分だ。
今から授業にでるのも中途半端だからさきに保健室に体操服を返しに行こう。
すでに立て続けにイベントが続いた結果、だいたいこの後の流れも読めてきた。
すなわち……
『夢じゃ、ない……私、本当に高校時代に戻ってきたんだ』
2度あることは3度あるということだ!! クソッタレぇ!!!
授業中で静まり返った校舎で室内の独り言がわりとはっきり聞こえてしまう。
もうね、今日はもうお腹いっぱいなの。これ以上はキャパオーバーです……。
そのまま聞かなかったことにして突破じゃ!
「山田せんせー、遅刻したので先に体操服返しに来ましたー」
「?!」
「あれ、今日もいんの? せんせー今日もいないの?」
「あ、えっと、いない……?」
「どっちよ……」
自然に会話しながらカーテンとかパーテーションの影を歩く。
できるだけ顔を合わさずに切り抜けるのだ。
良い感じにカーテンが間に入ってお互いシルエットしか見えないはず。
「そいじゃ、今日も山田せんせーに良い感じによろしく!」
「は? 今日も? あなた、だれ?」
「いいからいいから、そいじゃお大事に、うお?!」
「雨宮くん! 何でここにいるの? 授業中でしょ?」
「……え?」
「げぇ! 山田せんせー!」
……しまった、山田先生が戻ってきた。
「せんせー体操服返しに来ただけだって」
「時間がおかしいでしょう。授業どうしたの?」
「いやぁちょっと遅刻したんだけど時間が半端でさー。先に返しにきた」
「あなたねぇ……成績良いんだから生活態度もちゃんとしなさいよ」
「ギリギリでいつも生きていたいから!」
「バカ、古いのよ。あんたいくつ?」
「ぐふぅぅ、いたたたたた……いまの致命傷ですよ!」
「病人が居るんだからそろそろ良い加減にしなさいよ」
「ウッス、じゃ失礼しまー」
「待って!!!!!!!」
あまりにでかい声に思わず先生と2人してその場で跳ねてしまった。
水野さーん、頼むから見逃してくれない?
カーテンの向こう側のシルエットがゆっくりと立ち上がってカーテンに手をかける。
膝笑ってるし手も震えてんじゃん……。
シャッ!
めちゃくちゃ力入ってたのか凄い勢いでカーテンが開かれる。
「悠真君……」
!?
名前呼び????
というかバケモノ見たような顔やめな?
「ちょっとあんた達?」
「え、いてっ! なんで突くのせんせー……は、いや、違うから。絶対違うから先生。まじだよ?」
「怪しいと思ってたのよね」
「あやしい?!」
「水野さんが倒れるたびに保健室運び込んでる癖に何言ってるの。もう少しバレないようにしなさい。こっちが恥ずかしいわ」
「異議あり! 無実です裁判長!」
「水野さん、本当にダメよ?」
「無視しないで!」
「今日は見なかったことにするから今度から……」
「毎回って、どういうことですか?」
アカーン! また地雷踏んだ!!
「え?」
「私が図書室で倒れた時、毎回保健室に、運んでくれたのは……」
「え、知らなかったの? そうよ、雨宮くんが運んでくれてたの」
山田先生、めちゃくちゃ面白がってません?
「風向き、変わりそうね」じゃねぇんだわ。
あんたの中で保健室で密会してた優等生カップルから
いじらしい片想いしてる青春男子になってませんか! 誤解ですからー!
「そう……ずっと、そうだったの……」
「「!?」」
泣いちゃった!!!
今日だけで可愛い女の子の泣き顔見るの3回目なんだけど?!
マジでどうなってんのよ!
ドサッ
そのままふらついてベッドに座り込んでしまった。
今のふらつき方はやばくないか?!
「水野!?」
「きっと、夢よ。こんなのって、こんなのってないわ」
「水野さん! 大丈夫?」
「どうしろっていうのよ……これが罰だとでも言いたいわけ!?」
「落ち着けって、何の話を……」
「うるさい!!!! ゔぅ……」
「水野!」
そのままベッドに大の字で倒れ込んだ!
貧血が起き抜けに興奮するから眩暈でぶっ倒れてんじゃんか。
「先生、頭任せた! 俺は足を!」
「! 手慣れてるわねぇ。行くわよ、せーの!」
「はい!」
とりあえずベッドにちゃんと寝かせる。
顔は真っ青だし、この分だと手足に痺れが出てそうだ。
「やめてよ、なんでこんなの見せるの。あんまりよ……」
「先生、これ意識障害?」
「そうかも。学校医に連絡するわ。少しの間、任せて良いわね?」
「もちです」
山田恭子(39)、できる女教師すぎる。かっけー。
そのまま颯爽と出てった。
「ううぅ、イヤぁ……ゆるしてぇ」
「落ち着け、目を閉じろ。少し楽になる」
「ぅぅ……」
仕方ないので手で目元を覆ってやる。
とんでもなく冷たい……。温めれば多少はマシになるだろう。
「どうして、優しくするの?」
「は?」
「私達、名前も知らないはずじゃない。おかしいでしょ」
「おかしくない。俺は知ってたぞ、中学の頃から」
「!?」
「中3のときの全国学力テスト、一位だったの水野だろ? 俺が二位だったんだぜ」
「えっ……」
「去年のテストも全部お前が一位だったんじゃないか?」
「……うん」
「ずっと俺が二位。だから知ってた」
今どき名前付きの成績順位なんて張り出されないが一位が誰かくらいなら噂程度でわかるからな。
俺も若干躍起になって調べたってのもある。
「水野に優しくしてるかは、まあ審議の余地ありだが」
目の前でぶっ倒れるから社会通念上、毎回助けてるだけ、とも言える。
まあ、美人だからな。下心ないと言えば嘘だし。
「……目障りだったんでしょ、私のこと」
「はあ?」
思わず、目元を覆ってた手を退けて水野の顔を覗き込んだ。
何故か視線を逸らされる……。
「いや? 全然」
「……嘘よ」
「目標なんだよ、お前に勝つの」
「!」
「卒業までに絶対勝ってやるからな」
「……フッ」
「ん?」
「アハ、あはは……」
なんだよ、感じ悪いな。人の夢を笑うんじゃねぇ。
「笑うのは酷くね?」
「ふふふ、ふは……ううん、違う」
「なにがさ」
「自分が、バカすぎて……アハッ」
「はぁ?」
力なく笑いながら目からは涙が溢れてる。
「こんなに近くに、こんなに側に、ずっと、ずっと……」
「……」
「知らなかった、地獄って、こんなに辛いのね……ふふふ」
そこからはピタッと静かになってひたすら閉じた目から涙を溢すだけだった。
えぇ……。
山田先生も程なくして戻ってきた。
水野の様子を簡単に診察して緊急性がなさそうということで様子見することになった。
昼休みのチャイムが鳴る。
当然の顔して保健室に居座って昼飯食おうとしたら山田先生にしばかれて追い出された。
「じゃあな、水野。お大事に」
「……」
最後まで水野は俺に視線を向けなかった。
午後の授業は、まあ全然身に入らないよね。
まーじで今朝から色々ありすぎて欠席にしなかったのを悔やむわ。
放課後、水野が気になって保健室にいったら、山田先生が早退させてた。
母さんから琴音も屋敷に帰ったとメッセージがきた。
ついでに佐倉のおばさんから母さん宛に連絡があったらしく丁寧にお礼してくれたとのこと。
ふぃー……とりあえず全部片付いたか?
今日はもう疲れた。外で食って帰ってさっさと寝よう……。
校舎の中を歩いてるとなんかみんな浮き足だってる。
なんかあったのか??
そこら中で共通の話題で盛り上がっているらしい。
ほうほう?
始業式から一週間という半端な時期に転校生? しかも美形?
フム、これは……ニオイますねぇ。
厄介ごとのニオイがします!!
もう逆立ちしたって鼻血も出ねぇ。
ここいらで失礼こかせて────ー
「お待ちください」
くれませんねぇ!!! さすがですフラグメーカーさん!!
既に予想できてたが昨日出会ったばかりの高瀬紬がうちの制服着込んで背後に立っていた。
昨日は結い上げてたお髪を今日は緩くまとめていてとても素敵ですぅ。
自分の顔の作画変わってないか不安になってきた……劇画調になってないよね?
「ここじゃ何だから外で」
「……」
ゴシップ好きの高校生たちの前で親しげに話すのはいかんですよ。
厄介ごとはもうこれで最後にしてくれと願い込めて背を向けたまま提案してみる。
返事はないけど、なんかめっちゃ良い感じの距離で着いてきてくれてる。
ちょっと感動である。ちゃんと空気読めてエライ!
世間知らずのお嬢様かと思ったが意外とちゃんとしてるぞ?
周囲はざわついてるが視線は全部高瀬のお嬢さんに集中している。
なんとか誤魔化せたみたいだ。
とりあえず歩きながら母上にメッセージで事情聴取。
『昨日のお嬢さんがまじでうちの学校に来てるんだけど?』
『そうね、想像以上にタフみたいよ?』
『どうすんの?』
『どうもしないわ。貴方も特に何もしなくてもいいわよ』
『そうなの? なんか話したそうだったからこれから一緒にメシ食いに行こうかと』
『貴方いつも賢いのに時々とんでもなくバカになるわね』
『ひどくない?』
『まあ良いわ。適当に遊ぶ分には問題ないでしょ。既成事実だけは避けなさいね』
『え、そういう心配が必要な相手?』
『何を言ってるの。とにかく、気をつけるのよ』
えぇ……。
というか、母さん、ピリピリしてるのかな。最近若干キャラ崩壊してる気が。
学校を出て歩くこと10分。
最寄駅やバス停とは反対方向に進んでいくと見えてくるのが古い喫茶店をリノベしたカフェ。
前世のおじさん趣味の名残で穴場探しをしていた時に見つけた店だ。
学校から近くて学生が来ないのがいい。
チリン
「いらっしゃい」
「2人、テーブル空いてる?」
「嫌味? 好きなとこどーぞ」
ピーク時間帯を外してるから完全に貸し切り状態だ。
店長は意外とお若い。
30手前って言ってたかな。前世の俺と歳が近いから大変気安い。
元喫茶店だけあって端っこにボックス席が残っているので使わせてもらおう。
「勝手に連れてきたけど、どうする? 俺は軽く食べるけど」
「……ご一緒します」
「?」
お嬢さんは店内をぐるりと見回して、目を細めてニヤけてる。
なんか琴線にでも触れたか。
「俺、カレーハンバーグリゾットと炭酸水」
「はいよ。お連れさん、こちらがメニュー……」
「ランチタイム、過ぎてますが、大人のお子様ランチ、は……」
「「!?」」
初手裏メニューとは恐れ入った。まさか常連?
「ごめんね、今日は材料切らしてるんで無理なんスよ」
「そう、ですか。無理を言いました。では、オムライスを、デミグラスで」
「はいよ。……忘れてたらごめんね、ウチに来たことある?」
「いいえ、初めてです」
「そ、そう」
店長困惑である。
メニューノールックで注文しといて初入店は無理がないか?
オムライスのソースはトマトがデフォルトでデミグラスソースは追加オプションなんだけど。
「……」
「……どこからお話ししましょうか」
「何もわかってないんで最初からで」
「かしこまりました」
かしこまられました……。
「まず、昨日の件は九条、有馬、そして高瀬の連名で奥様、引いては兵藤家に正式に謝罪して縁談を取り下げます。一両日のうちには兵藤家に連絡と訪問があるかと思われます」
「そこは予想通り」
「左様で。話としてはほぼこれでおしまいなのですが」
「……わざとやってる?」
「……ふふ、申し訳ございません」
このアマ、すげえイイ性格してんなぁ!
「破談したにも関わらず、私がこちらに出向いた理由、ですね」
「ああ、俺をからかいに来たわけじゃないんだろ」
「はい。こちらに来たのは私の意思です」
「……続けろよ」
「奥様が転校編入の手続きを既に終えられてましたので、九条から離れるには良い機会かと」
「独立するってのか」
「はい。事実上、雨宮の奥様が後ろ盾になる形になっています。せっかくですのでご厚意に甘えさせていただきます」
なるほど?
本人がその気なら乗ってくると思って母さんが残した活路に飛び込んできたってことか。
母さん、好きそうだもんなぁ。こういう子。
「だいたいはわかったけど、その辺りを丁寧に説明してくれるのはなんでだ?」
「私に信用がないのは自覚しております。ですので、誠意を見せることが重要と思いまして」
「まずは形式からでも、か」
「それもございますが……安心して欲しかったのです。もう、貴方を害する気はないと」
「それだけじゃないな」
「っ!」
まぁ、半分以上勘とメタ読みなんだけどな。
「はい、おまちどうさん。カレーハンバーグリゾットとオムライスね」
「どうもー。とりあえずいただきますか」
「……はい」
まぁ腹が減っては戦ができぬというもの。まずは腹拵えじゃ。
お嬢さんはまだ動揺があるようだが、気にする余裕はない。
今日はもう一杯一杯だ。いただきまーす。
それから……。
「てんちょー、ご馳走様。今日もうまかった」
「ご馳走様でした」
「どーもー。また来てくださいね」
あっという間に時間が過ぎてしまった。
食事中、お嬢さんの近況を中心に屋敷の様子を聞くことができたのは僥倖だ。
父さんと琴音とはニアミスだったようで顔を合わさなかったようだ。
しばらくは屋敷で使用人見習いとして住み込みになるとのこと。
まじかよ。着物美人がメイドかー。ロマンだ。
学業優先で主に休日は住み込みバイトのような形になるらしい。
ある意味羨ましい環境だな。
なんとなく濁された部分が気になるが……。
「本日はありがとうございました。夕食代まで」
「気にすんな。どうせ親から貰った小遣いだから誇れるもんじゃないよ」
なんか、しっかりデートになってしまったな。こんなはずでは……。
打てば響く感じが心地良くて、つい話し込んでしまった。
辺りはもう日が落ちている。
「悠真さん」
「ん?」
「こんなに遠回りになってしまいましたが、謝罪させてください」
「何のこと?」
「……貴方にとった無礼な態度について。本当に申し訳ありませんでした」
そんなことをいって深々頭を下げるお嬢さん。
昨日のことを言ってるのか? ちょっと塩対応だったがそこまで深々と謝罪するほどでもなかろうに。
さっきから引っかかる事もあり、注意深く観察してみる。
やはり、手は強く握りしめられ、肩も微かに震えている。
一体なんだ?
「なあ、高瀬さん」
「!!」
「……? さっき中途半端になったけど、本当は俺に何の用があったんだ?」
「……」
ゆっくりと顔をあげたお嬢さんは口元を引き絞って必死に何かを耐えている。
根比べ、になるかと思ったが先に視線を外したのはお嬢さんの方だった。
「貴方と、ここに来たかったといったら、信じてもらえますか?」
「……信じるも何も。ただ、そうなんだ、としか」
「……はい。きっと最後になるだろうと」
「なんでだ?」
「先程申し上げた通り、もう貴方を害することはございません。だから、二人きりで過ごすのもこれっきりでしょう」
「言ってる意味がよくわからんのだが。論理が飛躍してないか?」
「ふふ、そうですね。私もそう思います」
わかるようでわからん。
が、奈緒達と同じようなナニかがあった事は確からしい。
他の3人と違ってだいぶ精神が安定しているようだが。
思い切って踏み込んでみるか?
考えあぐねているとお嬢さんのほうが痺れを切らしたようだ。
「最後に我儘を言っていいでしょうか?」
「それが本命か?」
「ええ、そうです」
「まあ、俺にできる事なら」
「……抱き締めて」
結構ガチなの来たな……。
一瞬、母さんのメッセージが頭を過ぎる。
だが、目の前の今にも泣きそうな顔を見ると、どうも断れそうにない。
意を決して歩み寄りそっと抱き締める。
「これでいいか?」
「……名前を呼んで」
「……」
高瀬さん、と呼びそうになったが多分違うんだろうな。
「紬」
「!!!! ……はい、悠真さん」
ひし、と抱き締め返された。どうやら正解だったらしい。
どれだけ経っただろう。
そのまま、お嬢さんの好きなようにさせた。
満足したのか向こうからゆっくり離れていく。
「これで良かったか?」
「……(コクリ)」
顔を俯かせたまま無言で頷いたが雫が滴っているのが隠せていない。
はぁ……もう泣き顔はお腹いっぱいだ。
「ありがとう、ございます。これで思い残す事はありません」
「何だそれ。今にも成仏しそうなやつのセリフだな」
「……それも本望です」
「おいおい」
「冗談ではありません。私は、私の命の使い道を決めましたから」
「?」
意味深なことを言う……。
気がついたら母さんからメッセージが届いていた。
お嬢さんに迎えを寄越すから場所を教えろと。
良いタイミングだ。即座に位置情報を共有。
この店、店先にベンチが置いてある。喫煙スペースだ。
ここで待たせてもらおう。
迎えを待つよう伝えてベンチに腰を下ろすと、お嬢さんも半席ほど離れたところに落ち着いた。
微妙な距離感である。お嬢さんもぼんやり宙を見つめて一言も喋らない。
ただ、不思議と落ち着いていて俺も同じようにぼんやりしてしまった。
それから5分と待たずに迎えに来たのは木下さんだった。
俺も一緒に送っていくと言われたが用事があるからといって適当に断った。
何故かお嬢さんがそれを聞いて苦笑いしてた。
うーん、この見透かされてる感。
「じゃあ、お気をつけて。高瀬さん」
「……まさか、わざとやってますか?」
「これくらいは仕返しのうちに入らないだろ」
「それもそう、ですね」
「名残惜しいなら、次の機会にな」
「貴方は本当に……非道い人ですね、悠真さん」
お嬢さんそう言って儚げに微笑えんで去っていった。
俺を通して一体何を見ていたんだろう……。
それから帰宅するのまでの間、今日一日のことをずっと考えていた。
気分は探偵役だな。ため息がでる。
明らかに物語の導入とも言える出来事が頻出したように思う。
佐倉奈緒、兵藤琴音、水野琹、高瀬紬。
この4人に一斉に異常が起きたのはほぼ確実だろう。
また、奈緒と琴音は明確にPTSDに近い症状が出ている。
栞も近い症状が出ているが2人より酷くはなさそうだ。
紬についてはわからない。疑わしい所はあるがそれだけだ。
4人が同時刻に一斉に異常をきたしていたと仮定すれば、
比較的早い段階で出会った者ほど症状が重く、
時間経過と共に落ち着いていったと考えられるかもしれない。
PTSD症状にはいずれも何らかの形で俺が関わっていると思われる。
が、これについては俺の自意識過剰の線を否定しきれない。
単に俺がノンデリで地雷を踏み抜いたと言うのも充分あり得る。
彼女達の発言を思い返すと共通して自罰的な傾向が強く見受けられる。
強い罪悪感のようなものが感じられた。
彼女達の発言でもう一つ共通しているのは自身が死んだと認識していて、死ぬ前に戻ってきたと認識していることだ。
紬だけは断定しきれないが他3人ははっきりと自身が死んだ人間だと認識しているので1人だけ例外というのは考えにくい。
遠回しにそうと受け取れる発言もいくつか見られる、可能性は高い。
物語で言うところの『死に戻り』と言うやつだな。
メタ的な考察になるが、やり直したいと思うような後悔、執着が彼女達にあると言うことだ。
それが彼女たちのPTSDに関係しているのはほぼ間違いないだろう。
それが一体何なのか? というのが核心だろうが、それを考える上で前提条件を確認すべきだろう。
果たして彼女達が経験した死の結末、未来の出来事は同じものなのだろうか?
多分、このカギを握っているのは第5の登場人物だろう。
夕方の紬との会話の中で発覚したのだが
転校生がもう1人いる。