改心悪女四種盛り 作:白のワイん
ヴー! ヴー!
「お取り込み中悪いんだが電話取らせてくんね?」
「「……」」
「すいませんねぇ……」
なぁ、静かにしてくれるのは嬉しいが
ガン飛ばし合うのはやめてもらっていいか??
あと手離してくんないの??
「はい」
『お取り込み中みたいね』
「はい」
『手短にしましょうか?』
「むしろ、親切丁寧にして欲しいデスね」
マジで願いが届いたのか、愛しの母上様からの電話だった。
こんなに嬉しいことはない……。
『そう。でもね、どちらにしても私からの話はほとんどないのよ』
「は? ……いや、わからんでもないけどさ」
『いい子ね。そういう勘のいいところは本当にステキ』
「……それで? どのくらい掛かるの?」
『ふふふ……ザッと半年、いや、一年かしら?』
「長くね?」
『やっぱりそれくらい欲しいわ』
「はぁ……」
『安心なさい。私もお父さんもそれだけ貴方を信頼してるってことよ?』
「大丈夫だよ。そこは疑ったことない」
『こんな孝行息子をもらって私たちは幸せ者ね?』
「はいはい。で、結局俺は特に何もしなくていいわけね」
『そうよ。何も気にしなくていいわ』
「了解ですよ、と」
『それじゃあね』
もうね、圧倒的に言葉が足りないのよ。
でも、これでコミュニケーション成り立っちゃうのが悔しい。
これが親子の絆か。
「……」
「「……」」
「……」
おい、そんなことよりこの終わり散らかした空気どうしてくれんの??
いつの間にか立ち上がってた兵藤さん家のユウマくんも大困惑だよ!
モードーニデモナーレ!!!!
「どういう状況?」
「私ときて」
「絶対に行かないでください」
「2人ともどうしちゃったの? この、男子が何かしたの?」
おい、ユウマくん。存在感アピールのために下手な口出しするんじゃない。
死にたいのか?!
「カスは黙ってなさいよ」
「お先にお帰りください。私は私用がございますので」
「あっ、えっ?」
ギロリ
「ひっ! わかった! 先に行ってるね!」
逃げ足早いって。
眼力で人を追い払うってマジであるのね……。
美人2人に凄まれたらそんなもんかもしれんが。
そして取り残される俺。
「なぁ」
「悠真さん、私を信じてください」
俺の発言権は??
自分から信じてくださいというやつは大体詐欺師と相場がきまっているが
茶化す場面ではそうだ。
「この人は必ず貴方を裏切ります」
「っ!!!!」
一瞬、奈緒の手が緩んだ隙に紬が俺の手を引く。
動揺が激しいな。俺へと伸ばした手が震えている。
「あ、あんたっ!!!」
「貴女の性根が腐り切っているのはわかっているんです。人の優しさや真心を弱さとしか思わない、畜生のような女」
「……っ!」
「あら、自覚がおありで?」
「……違う、違う違う、私は……私は!! 2度とそんなことしない!!!」
「語るに落ちましてよ? 悠真さんの優しさに漬け込んで、どれだけ食い物にすれば気が済むんですの?」
「そんな、そんなことない! 私はユーマのことを!」
「アレを追いかけていいのですよ? 大事な初恋相手でしょう?」
「!? っ! 違う、誤解なの!」
……奈緒が押し負けてる。
なんとなく、急所を抉られて致命傷といった感じだ。
トラウマを盛大に撃ち抜かれてるように見える。
「ちが、う……私」
「失せなさい。もう、悠真さんを傷付けることは許しません」
「どの口がいうの? その手を離しなさい」
「「!!」」
「琴音?」
グイッ
「いっ!?」
「2度目はないわ。次はねじ切るわよ?」
徐に近寄った琴音は俺の手を掴んでいた紬の手を捻り上げた。
おいおい、ここ2日ほどの殊勝な態度と打って変わって覇気が蘇ってるじゃないか。
弱々しさなど微塵も感じない。兵藤琴音、復活ッッ!
あれ? この流れだと俺もまとめてぶっ飛ばされるパターン?
「琴音さん……!」
「私の警告を本気にしなかったようね? 舐められたものだわ」
どうやらそうでもないらしい。
庇うように俺の前で背中を見せる琴音!
捻り上げた手を放り返して言い放つその様はまさに女帝!
ヒュー! さすが帝王学学んでるだけはあるな!
「兵藤の利益に集るハイエナ程度なら目をつぶって上げたけど、
兄を利用しようと言うなら話は別よ」
「っ! 誤解です!」
「白々しいのよ。家の利益のためにすり寄ってきた分際で兄を気遣う芝居なんてしないで。どうせ切り捨てる癖に」
「……それはっ!」
「義母に取り入って許嫁の名分までもらっておいて、何て厚かましいのかしら」
「違います! 決して私は!」
「……許嫁?」
いや、それは俺も初耳なんだが?
奈緒も俺を見ないでくれる?
「縁談は破談にした? 自分に下心なんてない? 笑わせないで」
「……」
「あのクズの世話役、自ら買って出たんですってね。大した尻軽よ、貴女」
「っ!!」
「他の男のシモの世話まで請け負ってまで許嫁の名分が欲しいわけ? 本当に汚らわしいわ!」
「やめてください! 誤解です!」
「そう? なら、さっさと笹森に戻ればいいじゃない?」
「な!?」
「知らないとでも思ったのかしら。九条家から見返りに貴女の生家は随分口利きをもらっているじゃない」
「……!」
「ふふ、どれだけ言い繕っても卑しさが隠せてないじゃない」
「すべて……説明できます」
「女狐に嘘を吐かせる暇なんて与えるわけないでしょう」
「私は!!」
「本気で言ってるのなら……貴女は他人を騙すより、自分を騙す方がよっぽどお上手のようね」
「!!!!!」
ここにきてどんでん返しである。
奈緒を相手に優位を取っていた紬が琴音には手も足も出ずにボコボコにされている。
彼女もトラウマを刺激されたようで完全に泣が入っている。
もうね、これをどう収拾つけんのよ……。
口を開こうとした矢先、校舎から出てきた人影が声を上げる。
「……さっきから聞いてれば、随分好き放題言ってるじゃない」
「「!」」「?!?!?!」
「寄生虫のようにしか生きれない癖に」
「あなた!! いきなり何を!」
まさかの乱入者、水野栞のダイナミックエントリーである。
いや、まじでどうしたの?
紬もそうだけど、病人は大人しくしとけって……。
そして奈緒が異常な反応を見せている。
だいたいパターンは読めるが……。
「親の資産を食い潰すしか能がない癖に」
「……死にたいのかしら、あなた」
「はっ! やってみなさいよ。自分の手でできるものならね!」
「!」
「できるわけない。アンタがただ駄々を捏ねていれば愛しのオニーサマが全部やってくれるものね」
「……(ギチィ)」
琴音の歯軋りの音が聞こえてきそうだ。
流石に妹のために犯罪に手を出したりはしないって。
風評被害じゃね?
水野はそのままズカズカ進んで俺と琴音の間に割って入る。
先程から入れ替わり立ち替わり、忙しないことこの上ない。
「何のつもり? 兄に近寄らないで」
「アハッ! 兄? なに、聞き間違い? アンタのオニーサマはさっき尻尾巻いて逃げてったじゃない」
「!? 黙りなさい! 反吐がでるわ! 私の兄は……」
「そうやって味方ヅラして、悠真君の寝首を掻くつもりなんでしょ?」
「っ!?」
「悠真君は、2度と殺させない」
「おまえぇ!!! うぐっ……ぅぇ」
全身を震わせて激昂した琴音が今度は身を屈めて口を押さえてる。
流石にまずいと思って踏み出そうとすると、今度は襟首を引っ掴まれて後ろに引っ張られる。
「ぐえっ!」
「さっきからグダグダうるさいのよ! 次から次にと……!!」
奈緒さん?! いつから暴力系ヒロインになったんです?!
コンプラ的にまずいですよ!
後ろに倒れ込みそうになったがそのまま奈緒に両腕で抱え込まれた。
待って、背中は大変幸せなんだけど正面に般若顔の美少女3人の視線は幸せじゃない。
真逆のドキドキに相殺されて心停止しそうなんですが。
「妹や許嫁なんてどっから湧いてきたか知らないけど勝手にやってなさいよ。私たちを巻き込まないで」
「どさくさに紛れて……! 悠真君を離しなさいよ!」
「だまれ! この恩知らず!」
「ぐっ!」
「寝首を掻く? どの口が言うの。何であなたがいま出てくるか知らないけど、今度はどうやってユーマをハメるつもり?」
「!!!!」
「あのカス、あなたの王子様と最初からグルなんでしょ。わたしはもう騙されない」
「……?!」
もう4度目になると驚きもない。
この4人、どう言うわけかお互いの急所を握り合っていてじゃんけん相性のようになっているようだ。
奈緒→栞→琴音→紬→奈緒という相性関係……。
だめだこりゃ。無限ループで終わんねぇわ。
仕方ない。腹を括るか……。
ここは身を切る時だろう。
グッ
「!?」
抱き締められた奈緒を腕を掴んで振り解く。
腹にグッと力込めて気合いを入れて……勢いで押し切る!
「お前ら、いい加減にしろ」
「「「「!」」」」
「埒が明かない。全員個別に話を聞く。拒否権はナシだ」
全員個別に事情聴取だ!
「とりあえず奈緒、今日はお前の話を聞く」
「っ! ユーマぁ……」
「「「…………」」」
もうめんどくさい、先着順だ。
他3人が完全に打ちのめされてるが明日の俺に託す。
「とりあえず他は帰れ。奈緒、来い」
「うん!」
3人を残して学校を出る。
ちょうど学生たちの流れが途切れた頃で良かったが部活動している奴らや意味もなく残ってる奴らも少なからずいる。
校舎の中や校門の外から何人かがこちらを伺っているのは気づいていた。
はぁ……炎上は必至だろうな。
なんだったらさっきから奈緒の手首を引っ掴んでズンズン歩いている。
遠目からでもよく目立つだろう。
当の奈緒本人は何故か恍惚としてる。目尻はだらしなく下がって、口も半開きだ。
あれ? 結構やばめな顔になってる?
すれ違う学生がぎょっとして二度見してる。
そのままバス停の列に入るとやっと意識が帰ってきたのか奈緒がおずおずと口を開いた。
「……どうするの?」
「外じゃ落ち着かないだろ。ウチに帰る」
「え?」
「親が留守だ。気になるなら別の場所を探す」
「!! …………き、きにしない、よ?」
「……」
ざわ……ざわ……
小声で話してたはずなんだが、最近の若い子は耳が良すぎか?
周りの喧騒を無視して先ほどのことを振り返ってみる。
4人の少女が一様に「死に戻り」を経験したとするなら、
言い方を変えれば未来を見て過去に戻ってきたということだ。
『この人は必ず貴方を裏切ります』
『どうせ切り捨てる癖に』
『悠真君は、2度と殺させない』
『今度はどうやってユーマをハメるつもり?』
つまり、彼女たちが経験した未来で起きる出来事をそれぞれ語ったと考えられる。
だが、おかしな話だ。
彼女達が全員真実を語っているなら
4人とも俺を裏切り、切り捨て、殺し、陥れる加害者であり、
俺の味方ではなかったはず。
そのはずなのに、4人全員が俺を庇う姿勢を見せている。
全員が感じていた罪悪感の原因はこれか?
何らかの理由があって俺を害したが、その後に何かあって後悔している、のか。
なら、害した理由は? そしてそれを覆してしまう後悔とはなんだ?
そもそも断片的な話を継ぎ接ぎしてみると──ー
佐倉奈緒は兵藤ユウマと結託して雨宮悠真を裏切り、
水野栞は兵藤ユウマと結託して雨宮悠真を陥れ、
兵藤琴音は兵藤ユウマと結託して雨宮悠真を殺害、
高瀬紬は兵藤ユウマと結託して雨宮悠真を切り捨てた。
アレ? 全部兵藤ユウマとかいうやつが悪いってことになるか??
4人が一貫してアイツをクソほどディスってたのはこのせい??