改心悪女四種盛り   作:白のワイん

6 / 12
曇らせって初挑戦だったけど鬼むずい


オーバーキル...?

 

 周囲の視線が物理的圧力になって俺を串刺しにしている……!! 

 バスやめてタクシーでも呼べばよかったかな。

 懐事情的に呼べないわけじゃないから無理して呼べばよかったよ。

 

「……」

 

 奈緒もさっきから隣で一言も喋らないしよぉ。

 バスの中で手を離してからずっとこうだ。

 顔色はさっきまで薄っすら赤みさえあったのに、今は真っ青だ。

 情緒がぶっ壊れとる……。

 

 さっきまで俺が握ってた手首を自分で握りしめてプルプルしている。

 力加減ミスったか……。

 

「手首、痛むのか?」

「え?」

「ごめんな、強く握りすぎたか」

「……ちがうの。いたくないの」

 

 手が紫色になりかけるくらい握りしめててか?? 

 

「あ……」

「力抜け。ちょっと見せろ」

 

 握りしめた方の手をこちらに寄せて引き剥がす。

 一瞬抵抗したがすぐに力を抜いた。

 あーあーあー、めっちゃ手形がついとる。

 ついとるが、これ、俺じゃなくて奈緒の手形……? 

 

「痕になってるじゃんか。強く抑えたらダメだ」

「……うん」

 

 やっと落ち着いたのか肩の力が抜けたのがわかる。

 まあ、当然か。男に強引に手を引かれてどこか連れてかれるってのは年頃の子からしたら怖いに決まってるわな。

 

 スッ

 

「!」

「……」

 

 一瞬布擦れの音がしたかと思ったら極々自然に腕を抱え込まれた。

 そのまま肩に頭を無防備に預けてくる。

 完全に恋人距離……バスの中で様子伺ってた奴らみんなすげぇ顔してる……

 

 ある意味、懐かしい距離感ではあるが、この年でそれは色々となぁ。

 ここで思春期男子特有の照れ隠しムーブをしてもダサいだけなので甘んじて耐るか。

 奈緒もここ2日限界だったようだし、好きにさせておこう。

 

 バス停を降りる頃には少し調子を取り戻したようで、降りる奈緒の足取りに異常はなさそうだった。

 席を立つ時に抱え込んだ腕を解放してくれたがバスを降りると再度捕捉されてしまう。

 もう何も言わんぞ……。

 

 とりあえず着いてくるようなのでそのまま自宅へ向かう。

 

「……こうやって歩くの、懐かしいね」

「俺は逆に新鮮だよ。2人で歩いたことなくない? この道」

「ずっと、うちまで来てくれてたから?」

「そうだぜ〜。小学校まるまるだから六年か?」

「……そうだね」

 

 当時、一緒に登下校したいとめちゃくちゃ泣かれたので迎えに行ってた。

 おてて繋いで仲良く登下校、あの頃は平和だった……わけでもないか。

 お年頃の子供達の前ですげぇベタベタしてたから、からかいややっかみが凄かった思い出。

 

 そこから話題も大して弾まず家に着いた。

 

「家、こんなに大きかったんだ」

「あれ、そういや初めてか」

「……実はお金持ち?」

「両親の実家が太いだけ」

「なにそれ」

「ほら、行くぞ」

「……」

 

 とりあえず無視だ無視。

 眉間に皺が寄った奈緒を急かして中に入る。

 

 とりあえず、自室に通すのはまずい、よな。流石に。

 客間に通してソファを進める。

 想像以上のお高めリビングに奈緒もちょっと落ち着かない感じだ。

 マジでドラマのセットみたいな屋敷だもんな。

 でも、兵藤の家と比べたらこちらが小さく見えるとかいう事実。

 考えないようにしよう。

 

「はぁ……それじゃ色々聞いても良いか?」

「……うん」

 

 さて、本題に入ろう。

 聞きたいことは山ほどあるが……。

 

「今日は、俺のこと探してたのか? なんか用でも?」

「……ママから、制服のクリーニング代預かってたから」

「今朝、バス停で渡してくれたらそれで終わったのに……」

「ごめん、何か……話しかけられなくて」

 

 思いの外普通の理由だったがそれだけじゃないだろうよ。

 

「お前、昨日から変だぞ? 何があったんだよ」

「っ……」

 

 葛藤が目に見えるようだ。

 カミングアウトするかどうか迷うよな。

 俺でも自分が転生したんだとか口が裂けても言えない。

 

「高瀬のお嬢さんとは知り合いなのか?」

「……だれ?」

「? 転校生だよ。2-Bの。下駄箱のとこで呼び止めてきただろ」

「知らない。会ったことないし、あの女頭おかしいんじゃない」

 

 不愉快そうだが、嘘っぽくはないなぁ。

 明らかに向こうは因縁ありそうだったが。

 

「……それより、許嫁ってなに?」

「いやぁ、俺も初耳なんだよ」

「でも、知り合いなんでしょ」

「そうだな」

「……なんで、いつ、どこで?」

「そこ重要かぁ? 一昨日、母方の実家の事情でお見合いっぽいのしただけ」

「!!!!」

 

 なぜそこでこの世の終わりみたいな顔するんですかねぇ……。

 

「諸々の事情があって破談になったはずなんだが、許嫁ってのはよくわからん」

「……」

「それより高瀬さんが言ってたこと。あれ、なんのことだ?」

「っ……!」

 

 顔を伏せて肩を震わせている。

 どうも地雷っぽいな。

 

『この人は必ず貴方を裏切ります』

 

 一体何があった? 

 そもそもだ。俺は奈緒に裏切られて困るような仲ではない。

 近い将来、関係性が変わるような何かがあると? 

 セオリー通りなら、恋人関係ということだろうが

 2日前の壊滅的な状態から何があればそうなる? 

 そして、それを裏切るシチュエーション……。

 

『大事な初恋相手でしょう?』

 

 いや、もう考えるまでもないか。

 裏切る、て言うくらいだから只ならぬ仲だったはずだ。

 俺は奈緒は恋人関係にあったが、あの転校生──ー兵藤ユウマに寝取られるってところか。

 噂通りなら兵藤ユウマは幼馴染で初恋相手だと言う。

 奈緒とはほぼずっと一緒に居たがそれっぽい幼馴染は見たことがないんだが。

 

 幼稚園のころ、一瞬だけ九条の家にいた頃くらいか? 

 

 まあ、幼少期の思い出っていうのは結構強烈だからな。

 一瞬の思い出でも死ぬまで大事にしてたりするもんだ。

 そうなると、寝取られたというより、シンプルに初恋に負けて捨てられた感じか? 

 それなら奈緒が俺に対して何らかの負い目を感じてもおかしくはないが……

 

「ゆ、ユーマ……」

「……」

 

 ここまで怯えを見せるってことは、それだけじゃないんだろうなぁ。

 これ、あれか? 

 ユウマくんが予想に外れずクズ野郎で奈緒も手酷くやられたクチか? 

 

 俺と奈緒は幼馴染だが仲は険悪だったがひょんなことから仲直り、関係改善があった。

 そこにやって来た転校生のユウマくんは奈緒の幼馴染で初恋相手だった。

 2人の間で揺れ動いた奈緒はユウマくんを選んだが、予想外のカスで……。

 

 うーん、しっくりこないな。なんかピースが足りない気がする。

 

「もう1人の転校生が関係してることか?」

「あんな奴知らない!!!」

「!?」

「こ、これだけは信じて! あの、転校生の兵藤と! 仮病女! あの2人はダメ! 絶対に近づかないで!」

「仮病女? 水野のことか?」

「!? ……知ってるの?」

「まあな、同じ中学だし……」

「……とにかく、だめ」

「なんで?」

「……殺される。アイツらに殺されちゃう……」

「は?」

「なんでかは知らない。けど、アイツ、ユーマのことハメようとしてる……」

「ええ……?」

 

 そこまでわかりやすい奴?? どう考えても兵藤の家の問題だろうけど。

 母さんが伏せるのはそのせいか。

 ちくしょう、絶対知ってたよなぁ……母さんめぇ。

 

「わかってる、私、ユーマにずっと酷いこと……ほんとにごめん! もう2度のしないから……お願いだから信じて! これっきりで良いから……信じてくれたら私、何だってするからぁ!!」

 

 ソファから立って俺の足元まで駆け寄って来て縋りついてくる奈緒の姿は必死そのものだ。

 安心しろ、俺はノンケだからここで変な返しはしない。

 

 まあ、これで大体わかった。

 ユウマくんはどうやら俺を陥れたかったらしい。動機もなんとなく想像がつく。

 幼馴染を奪い、俺と接点のある同級生を使って、俺の破滅させようとして、多分勢い余って殺したか? 

 その現場に運悪く居合わせてしまった奈緒は口封じに殺されてしまったってとこかな? 

 

 誰だ、こんなクソ脚本書いた奴は……

 

「ひっく、ユーマぁ、ぐす……」

「泣くなよ。信じないなんて言ってないだろ……」

「え……」

「あの転校生が俺を殺そうとするのは、心当たりがあるんだ」

「!?」

「信じるよ。奈緒のこと。だからもう泣くなよ。またおばさんにクリーニング代出して貰わなきゃならなくなるぞ?」

 

 ほら、と、ハンカチを差し出しす。

 ? 

 ハンカチを受け取った奈緒は呆然とハンカチを見つめて泣き止んでしまった。

 はて? 

 

「……この、ハンカチの柄」

 

「それは、兵藤の家紋です」

「琴音!? こっちに帰ってたのか?」

「……はい、兄さん。お父様にはお許しを頂きました」

 

 ナニィッ!? 父さんが!? 

 琴音さん、なんと2階から登場である。

 完全に先回りされてるな。まさか出待ちか? 

 ずっとスタンバってましたか?? 

 

「は? どういう、こと?」

「お帰りはあちらです。もうお話は済んだのでしょう?」

「あんた……!」

 

「琴音、いい加減にしろ」

「!」

「何のために、先に帰らせたと思っているんだ?」

「……申し訳ありません。出過ぎた真似をしました」

 

 流石にふざけてる場合ではない。

 話を拗らせないようせっかく個別にしたのに台無しにするんじゃない。

 

「奈緒、ごめんな。今日はこれで終わりにしよう」

「うん……最後にひとつだけ聞かせて」

「なんだ」

「幼稚園のころのこと、覚えてる?」

「……初めて会ったころのことか?」

「! そう! この、ハンカチ……!!」

「ああ、そうか。あの時貸したハンカチ、これだったか」

「──────ぁ!」

 

 それは声にならない悲鳴だった。

 嬉しいのか、悲しいのか、手のひらで顔を覆って表情は読み取れないが全身を捩って悶えている。

 

 そのリアクションは予想外……。

 

「おい、大丈夫か?!」

「あはっ」

「奈緒? おい!」

「あは、アハハハハ、くふっ……ふは」

「奈緒!」

「ふふ……ごめん、何でもないから」

 

 それはひょっとしてギャグで言ってるのか!? 

 

「ありがとう、話、聞いてくれて。帰るね」

「ほんとに大丈夫かよ? 近くなんだから送って……」

「いいの。それじゃ」

 

 どう考えても平気じゃなさそうだが!? 

 足取りフラついてますよ! 

 さっさと出てったけど、ハンカチは?! 持ってくのか!? 

 おーい!! 

 

 スッ

 

 後を追おうとした矢先、背後から服の裾を弱々しく引かれた。

 

「!?」

「……行かないで、ください」

 

 どうやら、選手交代らしい。

 俺の代打はどこだ。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。