【実質魔法少女】金髪褐色TSサキュバスの淫紋解消研究   作:ハーメルンに性嗜好を歪められた被害者

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研究録:1 魔術生体工学のすゝめ(1)

 

 淫紋解消研究1501日目。

 

 …………成果なし。

 

「そら物理的な剥ぎ取りは無意味だわな……」

 

 魔術的アプローチがあまりにも行き詰まりだったので、思い切って皮ごと剥ぎ取ってしまえばいいんじゃねーか?

 

 ……と思い立ち、実験用の培養皮膚に淫紋を付与し、淫紋の部分だけを切り取って焼却してみた。

 

 結果は失敗。切り取った皮膚以外の場所に、淫紋が再生成されただけに終わった。

 

 実は想定通りの結果だ。というのも、淫紋は極めて複雑な魔術的接合によって、どうやら全身の神経と癒着(癒着で正しい)している様子なのだ。

 そもそも、発熱作用や男を惑わせるフェロモンの分泌、感度上昇等、全て全身に効果が及ぶ現象であるため、見た目をどうにかしようとも解決にならないことは分かっていた。

 

 でもあまりにもお手上げだったから。試せることは何でも試したかったの!

 

「どうすりゃ取れるんだよこれ……」

 

 オレはどっかりと長椅子に座り、下腹部を撫でてみた。

 魔力の通過を感知した淫紋が、厚着の白衣を貫通して、品性に欠ける桃色の光を放ち始めた。

 

 忌々しい……!

 

 頭の片側に生えるツノも、腰から伸びる尾も、このエロ同人みてーな紋様も……!!

 

 

 

 この〝日本〟には人間以外の種族がいる。

 

 魔族というものだ。

 

 ゲームの設定みたいだな、と、思うのは、オレが二生を得たラッキーボーイだからだろうか。

 

 訂正、ラッキーガール。

 

 死んで生まれ変わったら少女になっていた。

 

 男としての自意識を取り戻し、姿見で見たオレは、長い金髪にエキゾチックな褐色の少女だった。

 どんな色眼鏡で見ても前世のようなうだつの上がらない陰気な男ではない。

 10に満たない齢にして既に魔性を放つ、男なら垂涎モノの超絶美少女がそこに立っていた。

 

 

 母は獄中、父は夭折。

 

 顔も知らないオレの親父は、違法な性接待営業をしていた風俗店で、悪意を持ったサキュバスに誘われ、精魂を吸い尽くされて死んでしまったらしい。

 そのサキュバスは不同意性交、傷害致死等の容疑で逮捕され、収監。オレは獄中出産で生まれたという。記録も残っている。

 

 

 オレは女版ケ◯ドーコ◯ヤシか???

 

 

 自分の前世が男である、というのを思い出したのが10年以上前。

 くしゃみをした拍子に、視床下部から意味不明なシグナル分子が漏出し、オレの遺伝子に刻まれたカスみたいな記憶を呼び覚ました。

 

 そうだ。オレ、くしゃみの勢いが凄すぎて首の骨を折って死んだんだ。

 電車の中で、声がデカ過ぎて大勢の人に見られながら死んだ。

 

 ねえもっとマシな死因なかったの前世のオレ。

 

『イロ。君には今日から、息子の許嫁になってもらう。いいね?』

 

 そしてこれ。前世を思い出してからすぐに明かされた衝撃の事実。

 

 属性が渋滞している。あの時は、この上オレにあといくつの設定を付け足すつもりなんだ、と、困惑したものだ。

 くしゃみをしたら首が折れ、生まれ変わったら女になっていて、しかも金髪褐色サキュバスで、挙句に許嫁?

 

 多いって。こんな二郎系転生があるかよ。前世のオレはもっと意識高い系の塩ラーメンとかが好きだったのに。

 

『獄中の……君の母君とは話が付いている。あとは君の意思だけだ』

 

 というのが10年前の話。あれからオレは19歳になった。早いものだ。

 

 

 

「イロ、これは失敗作か?」

「失敗作じゃないです」

 

 出し抜けに失礼な。失敗作をコンペに出すヤツがあるかよ。まだ何の紹介も聞かないうちから訝しげな顔をするな。

 

 コンペ会場として使われている、他より多少広い程度の空き部屋で、オレは局長にして上官である男を相手に成果物を見せていた。

 

「これが何なのか、説明してみせろ」

 

 黒い儀礼用軍服の胸に、いくつもの勲章を付けた白髪混じりの男は、オレの造った試作品を見下ろして、犬のフンでも見つけてしまったかのように鼻白んだ。

 まだ機能や用途の説明すらしていない段階から、既に落選させる気しかない顔だ。詳細な性能を聞いて後悔するなよ。ぐうとか言ってみろ。

 

「実際の魔法的生物の生体力学を参考に、その動作を模倣、および兵器転用する試みです」

「…………」

「耐用テスト、量産化の展望、整備性の確認においても抜かりありません」

 

 厳密には、魔法的生物の生体の切片から培養した準生体兵器だ。元となった生物の動作を参考に自動操縦で工作をおこなう。

 

「魔法的生物か……」

「厳密にはその再現です。生物ではありません」

 

 生体の擬似再現。実態は有機ながら非生命体ではあるものの、生命活動の再現にディティール以外の意味はなし。

 つーか生命創造なんて大業はオレには無理。

 

「して、兵器の名前は?」

 

 Dynamical live action reproduce Automatics arm.

 

「略してDildo(ディ◯ド)です」

「却下だ」

 

 

 

「何がよくなかったんだろうなぁ……」

「形ですよ形! 何ですかこの気色の悪いピンクのウネウネは! 臓物かと思いましたよ!」

 

 赤褐色の長い髪を下ろした女性に、べし、と額を叩かれる。痛い。わざわざ髪の毛で守られていないところを狙うな。

 所属研究員が敬ってくれないのが、最近のオレの悩みだ。一応オレ、この研究室の室長なんだけど。

 

「キモすぎです。名前も最悪」

「だって……触手を再現してるんだから」

 

 触手生物はサキュバスの眷属だ。確かに大腸みたいなキモい姿をしているが、こいつらの触手は人間で言うところの腕に等しい。

 

 腕が沢山ある兵器なんて絶対強いじゃん! という理念の下に開発した、何らいやらしい目的や意図は皆無の真面目な兵器だったのに。

 

「それがキモいって話ですよ!!」

「えー、自信作なのに」

 

 自分で言うのもアレだけど、このディ◯ドくんは本当に有能なんだぞ。

 対人戦闘は勿論のこと、地雷撤去、水中での精密工作、車両移動困難な地域に対する物資運搬および補給、約半径2メートル圏内までの魔力検知など、これ一台で全てが可能なスーパー兵器だったというのに。

 

「水中での精密工作って、ホントですか……?」

「ホントホント。しかも夜のお相手も……」

「余計な機能を付けるなッ!」

「ユニセックスだぞ」

「聞いてません!」

 

 いいと思ったんだけどなー。これは決して冗談ではなく、一つのインフラとして。

 戦闘員達が戦場でもしめやかに欲求を発散できる機能として、オレのイチオシだったんだけど。

 

「イロ室長の設計案が却下されるの、これで何回目ですか? あんまりふざけたものばっかり作っていると、研究室が閉鎖になるかもしれませんよ」

「だいじょーぶだいじょーぶ。次は通るよ」

「ホントかなぁ…………」

 

 上司に向かってその目は何だ。宿題を忘れた子供を見るような目は。

 

 こういう時は、オレが直属の上司であるということを思い出させてやることにしよう。

 丁度、以前から彼女に頼まれていた査読が済んでいる。

 

「それより詩琴(シキン)ちゃん、メール送っといたから」

「あ、私の文案(ドラフト)、読んでいただけましたか!」

「うん。プレレビュー書いといたから、あとで確認しといて」

 

 まだ草案段階なので、ページ数に変換しても精々が8ページほどだが、パソコンを睨み付ける時間は中々に骨だった。

 

「それで、どうでした……? 私の文案……」

「うん。ダメ。魔素保存量のモデル化からやり直ししてきて」

「え゙……そこから……?」

「だってあれ局所保存になってねーもん。チェックつけといたとこの式ね」

「で、でも、全直しですか……!?」

「全体的な式の形が悪いから、こういうミスが起きるんだよ」

「う、うう……」

 

 自信ありげだったシキンちゃんが落ち込んだ時の表情を見ていると、何かこう、よくない類の爽快感を得られる。

 

 これは別にたまたまそう感じてしまっているだけで、オレ様の自信作を「キモい臓物」呼ばわりされたことに対する腹いせなどでは断じてない。

 

 断じてないのだ。

 

「まだ締め切りまで半年もあるんだし、ゆっくりやりなよ。次も見るからさ」

「はい、出直してきます……」

 

 普段から厳しめに接しているが、シキンちゃんはめげない。学部時代から主席のスーパーエリートなだけはある。

 実践魔術の能力も高い。この研究室(ウチ)は魔術生体工学が主題だが、即時に効果が表出する部類の魔術が求められる場合も少なくない。

 それこそ、絶対に人には向けてはならないようなものも。

 

「それにしても信じられませんよ。室長がこの国の魔術的技術を100年はスキップした、なんて言われているとは」

「失礼な。結構すごいんだぞ、オレ」

 

 この国の魔術的インフラは、オレの開発した術式によって成り立っている。

 オレ様の考案した空間中の魔素を安定させる技術によって、世界中の魔術研究がどれほど発展したことか。

 

「自分のこと、オレ、とか言ってるし」

「ジェンダーレスの時代だぞ」

「私より年下だし」

「それは関係ないだろ!」

 

 もしかして偶にタメ口を聞いてくるのは、オレが年下だからか? ナメすぎだろ。飛び級で魔術安全保障局の第5室長という重要ポストに選任されたこのオレ様を。

 少しはオレに対する尊敬の念というものを見せてほしいものだ。シキンちゃんが今ここで研究に参加してお給金をもらえているのは、他でもないオレのおかげだろ。

 

「学部の頃、卒研の数値解析手伝ってやったの忘れたのかよ……」

「覚えてますって。〝魔法円内外における魔素勾配の分布解析〟、室長が管理してる魔素室をお借りしましたもんね。マジ金持ち感謝」

「それオレのポケットマネーじゃなくて研究費から降りてるし……つーか金じゃなくてオレ様に感謝しろ!!」

 

 全く。普通の職場で上司に対してその侮り丸出しの態度が取れるのか?

 オレ様が寛大だから許しているけれど、でなければ今頃路頭に迷っていてもおかしくない。

 

「大丈夫かよそんなんで。オレだからいいけど、世の中の上司はそんなに心広くないぞ」

「うわ、遠回しに心広いアピールしてきた。室長こそ、そんなんだから私以外に研究員が集まらないんですよ」

「絞ってんだよ! 試験受けただろ!」

 

 採点は8割機械任せとはいえ、問題の作成者はこのオレ自身だ。

 いくら非魔術関連の学問とは全く勝手が違うとはいえ、一次試験の通過率からして著しく低い。

 問題作成者のオレに非があるのは間違いないのだが、とはいえあの程度の知識はないと、ここの研究に付いて来られないのも事実。

 

「シキンちゃんだっていつまでもオレの下で薄給助手生活を続けるつもりじゃないだろ」

「うーん。でも、私がいなくなったら、室長が心配ですもん。寂しくて泣いちゃわないですか?」

 

 何を言うか。自分の上司を親戚のお子さんみたいに言いやがって。

 言っておくが、いや言えないけど、前世から続く自意識を計算に入れると、シキンちゃんよりもオレのほうがずっと年上なんだぞ。

 

「そもそも今は、シキンちゃんが心配だって話をしてるんだろ!」

「室長だって、人の心配できるほど丁寧な生活してないでしょ。私びっくりしましたよ、レンジで湯煎専用のレトルト食品温める人がいるなんて」

「どっちでも同じだろ」

「自炊とかしたらどうですか? そのうち体を壊しますよ?」

 

 米は炊いてるんだ。すし詰めスケジュールの隙間を縫って、レトルトとはいえ飯を食っているのは、結構しっかりしてるだろ。

 本当なら、この部屋の冷蔵庫はゼリー飲料で埋め尽くしてもいいくらいだ。それをシキンちゃんがうるさいから、渋々他の食材も入れておいてあげているんだぞ。

 

「オレは天才だから常人より頑丈なの」

「そんなこと言ってるからレンジ爆発させるんですよ」

「うっせーうっせー! はい今床に制限魔法円構築しました! ルールは『イロ室長を褒め称える以外の言説禁止』!!」

「ッ――――!! ッッ! 〜〜!!」

「はい残念でしたー! 何言ってんのか全然分かりませーん! 悔しかったらオレのこと褒めなさーい!」

 

 無音ながら身振りで猛抗議してくる生意気な研究員を無視して、オレは制限魔法円の術式を定着させてからパソコンを開いた。

 

 ふぅ〜。口うるさい部下の小言が聞こえない職場は最高だぜ!

 

 

 

「はぁー……今日も泊まり込みかぁ」

 

 午前1時。シキンちゃんはとっくに帰宅し、研究室にはオレだけが残されていた。

 

「寂しいよぉ〜。シキンちゃんの明るい声が聞きたいなー……」

 

 彼女のハキハキとした声が聞こえなくなった職場は暗いものだ。話し相手がいないと退屈だし、手元の作業も捗らない。

 

「今日も徹夜だなこりゃ……」

 

 局内にシャワー室も食堂もあるので、下手をすると住める。だから多少の無茶が利いてしまう。楽しいお泊まりはこれで3日連続だ。

 

「忌々しい……」

 

 研究室のチャーチベンチにマットレスを敷きながら、オレは自分の下腹部を撫でた。

 

 

 オレの下腹部には淫紋がある。

 

 

 旧い魔術師がやっていた、身体由来の魔力を増幅させる術式だ。とある魔族から着想を得たものだという。

 

 魔力を高める方法としては実際、かなり効果的なもので、オレの魔力はこの齢にして既に老練の魔術師に勝るとも劣らない量になっている。

 

 しかし、今は廃れた方式でもある。特に省庁などの要職に就く魔術師は、金さえあれば身体に介入しない方法で魔力を高める方法がある。

 

 それにこの方法には副作用があるのだ。どちらかと言えばこの副作用こそが、淫紋という方式が廃れた理由である。

 どのような症状が表れるのか、おそらくその名前からして、多少察しがつく向きもいるものと思われるが……。

 

「あ゛あぁー……ムラムラするぅ……」

 

 内在魔力を著しく増幅させる代わりに、それと同程度、本人の性感と性的欲求をも増幅させるのだ。

 

 淫紋と呼ばれる意味も分かるだろう。遠い昔には『魔女は皆、淫売』などと偉い人に言われていたらしい。その理由も頷ける。

 

 だってその紋を真似た「とある魔族」ってのはつまり、サキュバスのことだし。

 

「目に入るものが全部卑猥に見える……」

 

 シキンちゃんが食べて捨て忘れたマンゴープリンの容器を見て、思わず卑猥な単語を連想してしまうほどだ。

 

 昔の一部の魔女が精神を抑えることができず、男漁りに精を出すようになったのも分からないではない。

 というか、周囲の魔女もその副作用を間近に見ていただろうに、昔の魔女というのはどいつもこいつも奇特な人間だったらしい。

 

「マジでいらねぇこれ……」

 

 実際見た目もピンク色で、形も……あえて言うのは憚られるようなモチーフをしている。女性に特有の臓器を模した形というべきか。

 

 この淫紋は生まれた時からあるもので、オレの意志で刻んだものではない。自ら刻む魔術師共とは違って、生得的なものだ。

 

 だから人間のそれとは違って、制御陣も解除式もない。

 真っ当な性的倫理を備えている現代のサキュバスにとって、これが本当に死活問題なのだ。

 

 サキュバスは精気を得ることが本分なので、淫紋を活用して男を誘う。

 そもそも淫紋を解除する必要がないので、当然その方法も確立していない。

 

 ほぼ呪いだ。同人エロゲみたいな呪い。

 

「…………」

 

 それにしても……。

 

「アンアンうるせぇよ……ドラ◯えもんのうたでも歌ってんのか」

 

 オレが使っているこの第5研究室長室。長くて面倒なので、厳密には間違っているが、〝研究室〟と呼称しているこの部屋の隣は、第6研究室長室となっている。

 

「あー、うるせー……職場でサカんなよ、常識とかねーのか……」

 

 第6室長は、これが非常に見目のいい男で、女性局員の耳目と人気を一身に集めている。

 その顔のよさから、既婚者のくせに女を取っ替え引っ替えし、この部屋の隣で浮気をしているのだ。

 それは別にどうでもいいのだけれど、男女の情事の音が筒抜けなのはどうにかしてくれないか。

 

「こっちは一生童貞捨てらんねー体にされたってのによぉー……」

 

 男に媚びる女の声。どこに触れられても嬉しそうに嬌声を漏らし、しかし自分からねだるようなことはせず、男が冷めないように焦らしながら、寄せたり突き放したりを繰り返す。

 オレが何にも知らない男だったらたまらなかっただろう。何としても隣を覗いて、何なら夜のオカズにしていたかもしれない。

 

 しかし、今のオレは女。

 

 この体に生まれ直してから……いや、おそらくはサキュバスという種の本能からだろうか、女体に対しての欲はわかない。

 以前は多少の興味はあった。しかし、19年も女をやっていると、日常生活で頻繁に己の際どい部分を見ることになるので、もう見飽きた。

 

 ただ、やはりこれもサキュバスの本能の一つなのだろうか。情愛を育む声や、布が擦れる音を聞いていると、こう…………。

 

「壁ドンしてやろーか……くそっ……」

 

 あーダメだ……淫紋がピカピカしだした。

 

 下品な桃色の光が、机の下の暗がりでどこにもいない男に媚び始めている。

 

「あっつい……はぁ……」

 

 こうなるともう抑える方法はない。淫紋の活性は不規則で、日に一度必ず起きる。

 活性化が起こるのは専ら夜だが、時折日中に発動することもある。仕事中なんて最悪だ。今日は夜でよかった。

 

「寝る前に一発紛らわしとくか……」

 

 淫紋光ってる時にヤると、ヨすぎてむしろ辛いんだよなぁ。

 

 …………扉の施錠を確認しておこう。念のため。

 

 

(スミ)

 

 

 一言、彼の名前を呼ぶ。

 

 絨毯の下、壁紙の裏、天井の照明の裏。部屋の六方全てに配置した魔法円が光を放ち、室長椅子の向こう側に、寝そべった体勢の一人の少年が現れた。

 

「スミ……」

 

 死んだように眠っている。

 

 オレの幼馴染にして、元許婚にして、命の恩人。

 

 その上衣をはだけさせ、オレは彼の胸に刻まれた黒い雪の結晶の紋様を睨み付けた。

 

 

 死紋(しもん)

 

 

 10人の術者が、対応する10人の生贄を殺害し、その骨肉を魔法円に封じ込めることで造形される呪い。

 ただの呪い、単なる対象者に()()()()()()()()の呪法であったならば、オレの魔術の腕を以てすれば、払うことなど造作もない。

 そうでないからこそ、死紋(しもん)は多くの魔術師に恐れられている。受ければ時が止まったかのように眠り続け、悪夢の底に沈みながら、永遠に日の光を忘れる。

 

「させない……」

 

 確かに淫紋には苦労させられている。ただ、オレが真に消し去ってしまいたいのは、

 

 彼を蝕むこの呪い。死紋(しもん)を消し去りたいのだ。

 

「死なせないぞ……」

 

 照明を消した暗い部屋の中で、オレは彼が生きていることの証左であるその体温を確かめ、寂しさを紛らわすように跨った。

 

 





・イロ
 金髪褐色半サキュバス。19歳。サキュバス差別と淫紋を根絶すべく日夜研究している。巨乳。

・シキン
 人間。22歳。魔術大では主席のエリートだったが、付いていく人を間違えたために最近は自信喪失気味。痩せている。よくも悪くも。
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