【実質魔法少女】金髪褐色TSサキュバスの淫紋解消研究 作:ハーメルンに性嗜好を歪められた被害者
用語解説
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呪詛、呪言の二つからなる〝呪い〟群。
対象の生体情報(髪の毛、皮膚片など)を基にして、近接遠隔を問わず、対象に不利益となる魔術的効果を付加する。
一回の
「今日は触手の専門家に来ていただきました」
「触手専門家のイロです。触手を愛しています」
横浜港を埋め尽くすピンクのうねうねを背後にして、オレは学生さん達に軽く会釈をした。
「今日は皆さんに触手を利用したセルフプレジャーの正しい方法を実践で――――」
「はッ!? い、イロ先生、何を……!?」
「ご安心ください。勿論、我々の純潔は絶対に守られる方法を――――」
「駆除方法を教えていただきます!!」
「……です」
全く嘆かわしいことだ。触手くん達を気持ち悪いものを見るように……あまつさえ駆除するなんて。
しかし、これも仕方ない。仕事だから。いつもなら抜け道を探して、核だけでも保護してオレの研究室に来てもらうところだが、今日は人目が多すぎる。
ごめんな、触手くん達……。
遡って今朝。
淫紋解消研究1508日目。
成果なし。
「やっぱ伝達物質を制御しても無駄か……」
淫紋を刻印した魔導実験用マウスの脳内伝達物質を操作して「快楽を感じている」という信号を制限してみた。
しかし、マウスは淫紋が通常のはたらきを見せている時と同様の反応を見せ、発情、フェロモンの分泌、性的な感度の増大といった症状を発していた。
「この子には繁殖を頑張ってもらうか……いっぱいフェロモン振りまいてオスを引き寄せてくれよ〜」
このアプローチからでは、何らかの紋印の効果を排除することはできない。
内分泌系以外も含めた、全身の神経を一つ残らず操作できれば……アンデットみたいに好き勝手動かせる人形が誕生するだけか。
そもそも、全身の神経を網羅できるほど広範かつ精密な魔術制御は、この世の誰にも不可能だ。
「室長ー、入りますよー」
「あーい。シキンちゃんおはー」
実験結果をテキストに残す作業の片手間に、オレは指を振って魔力で扉を開けた。
「おはようございます。今日のご予定は覚えておりますか?」
「おーん」
午前は第2がコンペで出した魔術抑制機の量産化計画会議。
午後から横浜の魔術大で特別講義。
「礼服はこちらで用意します。室長は、くれぐれも忘れずにシャワーを浴びてきてください。出たらお化粧して差し上げます」
「うえ……オレあの粉とか顔に付けるの嫌……」
まつ毛ぐいっ、とかしたり、唇に不自然に赤いものを塗ったり、顔の近くで口に入ってもいいか分からないものを付けたり振ったりできるヤツの気がしれない。
つーかそんな小細工はいらない。オレ様この世で最も美しい超絶最高天才美女なんですけどッ!!?
「粉とかって……とにかく、失礼があってはいけないんです。いいですね?」
「あーい」
とりあえず、量産計画における魔素バッテリーの大量生産についての提案と、抑制機の機能オミットの提案書を書き終えてしまおう。
「……室長」
「んー、何ー」
「なぜ横浜なんですか?」
シキンちゃんは資料を整理する手を止め、文机に片手を置くと、物憂げな目でオレの目を覗き込んできた。
「横浜はここ数年〝真人党〟の散発的な侵攻に苦しめられています」
「そーだね」
オレの机にココアを注いだ二人分のカップを机に置くと、シキンちゃんは儀礼用の小さな杖を、胸に抱えるようにして主張した。
「室長自ら向かわれるのは危険です。急遽の変更にはなりますが、今回の特別講義は、私にお任せくださいませんか?」
「無理だって。急に人員の変更なんて」
折角高名なイロ先生に、ってオファーをいただいて、こっちもそれを快諾しているのに、それを無碍にするのは相手方に失礼だ。
「無礼をはたらくの承知の上で、ここは……!」
「それじゃダメなんだよ」
「ダメ、とは? なぜですか」
「なぜって、そりゃ……」
オレ自身が行かなくてはダメなのだ。だからこそ今回の特別講義には、意義がある。
特別講義にして課外学習という異例の形でおこなわれる今回の講義は、横浜港前にて、突発的に発生する海洋型触手の駆除方法について。
ひいては、根本的に「魔法的生物とは何か?」ということの説明。
「い、イロ先生、本日はくれぐれも、よろしくお願いしますからね……!」
普段講師を務めているらしい女性が、オレを心配げに(というか恐ろしげに)盗み見てくるのを手で制しながら、オレは豊満な胸を叩いてみせた。
「だいじょーぶ。大船に乗ったつもりで見ていてください」
講義……という形式ではないが、シキンちゃんという助手の教育で、人に何かを教えるという行為の経験はある。
「さて、では……難関の横浜魔術大に合格した優秀な諸君には、いささか簡単な問題かもしれないけれど……」
オレはあえて尊大な口調から、人差し指を振りながら左右に歩き回って、港に体育座りで密集するうちの一人の学生を指差した。
「〝魔法的生物〟の定義とは?」
指された青年は、落ち着き払った態度で立ち上がる。
「体内で魔素を合成できるか、どうか、です」
「そうだね」
ここで魔法的生物の定義として間違えられやすいのは、「魔術を使える生物」という認識。
これは誤答、対象が魔術を使えるかどうかは関係ない。魔素を体の中で作ることができる生物、それが全て〝魔法的生物〟だ。
「つまり、人間も広義には魔法的生物に含まれる」
魔素の合成について、どころか、魔素それ自体の正体もほとんど分かっていない、少なくとも観測できる物質として、つまり歴としてこの世に存在していることは確かだ。
「魔法的生物と普通の動植物を見分けるには、単に魔素を観測すればいい……」
オレは顔の前まで振り上げた手を、力を抜くようにして振り下ろした。
合図に、つまり手を振り下ろすという動作に反応して、愛用の杖が手の内に出てくる。
杖を握るなど久しぶりだ。もう1年は、存在すら失念していた。
しかし、こうして握っていると、懐かしい感覚に手が馴染んでいくような気がする。
「なん……え、何ですかそれ」
カッコ付けて杖を取り出したところ、担当講師の女性がおそるおそる聞いてきた。
「杖です」
「どう見てもあの、ええと……ボールが連なる形状が、まるで、こう……」
「まるで何ですか?」
「あの、よ、夜にちょっと特殊な人が使うおもちゃに見えるんですけど……!」
「は?」
なんだ特殊な人って。多少珍しい職歴の人間のことでも指しているのか?
何を指しているのかは全く分からないが、仮にこれと酷似したおもちゃを使用して健全に遊んでいる人達を、勝手に「特殊な人」などと呼ぶのは失礼ではないか。
「生徒の前で! ふ、不適切ですよ!」
「杖の何が不適切なんですか」
「だっ、だってそれは、杖でも何でもないじゃないですかっ!」
「失礼な。杖ですよ」
オレはこの
「ほら、歴とした杖でしょ。人聞きの悪いこと言わないでください」
「え、あ、す、すみません……」
突然訳の分からない難癖を付けてきて。この人は一体どういうつもりなのか。不定化の研究で忙しい中、わざわざリスケして講義を快諾したというのに。
とはいえ、学生に罪はない。熱心に講義の続きを待つ彼らに報いるべく、さっさと始めよう。
「はいじゃあいきまーす」
「ちょ、せ、イロ先生!? 杖が小刻みに振動してるんですけど!?」
「力を込めて握ると勝手にボタンが作動しちゃうんです」
グリップに付いている
「作動!?作動ってなんですか!? やっぱりそれ何かいかがわしいおもちゃじゃないんですか!?」
「いかがわしいおもちゃって何ですか」
「そ、それは……! だからっ……!」
さっきから何なんだ。人の講義にケチを付けたりして。妨害しないでいただきたい。
「では皆さん、このアナ……杖の先端をよく見ていてください」
「今!! 今何か言いかけましたよね!?」
「はい、3、2、1」
カウントダウンに合わせて、杖の先端部に体内の魔素を収束する。
出力は0.2%。必ず先端に偏重するようにして、オレはわざと魔素がその急激な流入から局所的なプラズマを起こすように誘導し、励起状態の冷たい光を杖から発した。
「見えますか。これが〝魔素検出〟。魔素を観測するには、波長を調整した魔素を衝突させればいいのです」
衝突というよりは再結合だが、この辺の仕組みは、各々に調べてもらうほうが早いか。
オレはピンクの触手がひしめく(多少グロテスクな様相の)横浜港に向かって、発光させた杖を差し向けた。
「ほら、見えますか、あんなにピンク色でぐっちゃぐちゃだった港湾が、緑色の光でぐっちゃぐちゃ」
「ど、どっちにしろ気持ち悪い……!」
ドン引きの女性講師を差し置いて、学生達は変色した港を見て色めき立った。
「駆除したい対象を探す際には、このやり方を思い出してください。魔素の波長の調整については……まー、実践杖術全般を訓練していれば、そのうち慣れますよ」
人間同士の魔術戦でも使われる手法だ。敵の魔素に波長を合わせた魔素を薄く放射し、敵の位置を探知する。
ここまでは基礎。高校魔術の範囲だ。ここからが触手専門家の域となる。
「では一番前の女の子、君ならどうやってこの触手を駆除しますか?」
「はい、この場合、触手は海中にいますので、電撃で一網打尽にします」
「なるほどね。海水は導電性が高いし、一発で駆除できるかもな。でも、触手以外の海洋生物が死滅しちゃうよ」
「あ、そ、そうですね……」
殺傷するだけなら、確かに電撃や焼却は悪くない方法だ。一部を除き、触手は熱や乾燥に弱い。
しかし、駆除するにも、周辺環境への影響を考慮しなければならない。人間にとっていてほしい生物まで殺しては本末転倒だ。
「正解はこう」
オレは生徒達に背を向けて、ブラタイプの上衣の隙間に指を入れ、少しだけ谷間を解放した。
その瞬間、海上の触手が一斉に活発化する。その多腕を激しく打ち鳴らし、かき混ぜて白くなった塩水を撒き上げ始めた。
「見えますかー、触手くん達の〝あのメス絶対ブチ犯すッ!!!〟っていう気迫が」
触手を誘導するには、彼らの本能を利用する。
「触手の誘引には、若年女性のフェロモンを利用します。捕まったら2度と社会復帰できないから注意してねー」
触手が若い女性ばかりを狙う本能。
所謂〝正の走化性〟と呼ばれるものだ。
若い女性は〝ラクトン〟という特有の化合物を、体表から揮発させている。女子の甘い匂いの正体だ。
触手には、より繁殖力の強い哺乳類のメスを利用するという本能が根付いている。
ちなみに、サキュバスはこのような体臭に、普通の女性のそれとは比較にならないほどの強烈な催淫効果を伴う。
淫紋の効果の一つだ。よりオスをおびき寄せ、よりオスに吐精を促すために存在するための悪趣味な紋は、自由意志を汲まない。
「ぐっ……おおぉ♡」
「あっ……♡ ああっ……♡」
あ、やべ、忘れてた。
生徒達のほうを向き直ると、全員が顔を赤くして身悶えていた。男も女も飢えた獣みたいな目でオレを睨み付けてくる。
流石というべきか、講師の女性だけは何とか自我を保っていた。すみません、今緩和するから。
「ごめんごめん、ほい」
オレは足下の紙束を一枚切って、彼らとオレとの間の地面に広げた。これはネズミのアレルゲンを閉じ込めた例の術式と同じものだ。
「はぁっ、こ、これが、サキュバスの……!」
「く、し、鎮まれ、愚息よ……!」
「あぁ、お姉様……♡」
あー、ちょっと遅かった。まぁいーや。
今はこちらに集中しなければならない。つまり、オレの隅々までに侵入し、その体液で完全に染め上げようとする触手群に。
「こうしておびき寄せた触手をどうやって駆除するか、皆さんにお見せしましょう」
前屈みの学生達は、何とか顔の熱を冷ましながら頷いた。ごめんね、帰ったらシコって。
「触手を駆除するには高浸透圧を使います」
乾燥が苦手、つまり、触手は脱水が苦手だ。というのも、触手の皮膚は極めて薄いもので構成されており、人間のような角質層はほぼないと言って等しい。
その下層は半透膜だ。これは触手の静水骨格を保つほどの剛性はあるものの、浸透圧には滅法弱い。
ナメクジが浸透圧で水分が抜け、小さくなるのと同じ原理だ。
つまり……。
「それーっ!」
オレは空中に生み出した巨大な魔法円から、陸に上がってきた触手に向けて多量の〝塩〟の大雨を降らせてみせた。
大量の塩をかけられた触手群は、そのあまりの塩の量に身動きが取れなくなり、刺激に対する防御反応を取り始めた。
つまり、水を失う苦しみに、のたうち回って悶え始めた。
「はい、どうですか? 簡単でしょ! 要は水分を抜いちゃえばいいんですね」
「お、おぉ……すごい、です……」
「はぁっ、はぁ……! イロ様、博学……!」
「なんと可憐な……汚したい……!」
まだ催淫に苛まれているようだが、一応伝わってはいるようだ。よかったよかった。
「塩はパフォーマンス用です。皆さんが駆除する時には、魔術でも何でも使ってください。ただし、周辺環境への影響にはくれぐれも気をつけてください。イロ先生との約束です」
「お、おぉ!! イロ先生がおっしゃるならば!」
「イロ先生ー!!」
「環境のことも考えてて素敵だーっ!!」
ちょっと(大いに)カルト染みた光景だけど……まぁいいか。とりあえず「駆除するにしても環境には気をつけろ」ということさえ伝われば、それが一番大切だ。
「……あー、じゃあ、皆さんも実際に駆除をやってもらいますか」
そうだな……不可抗力とはいえ、魅了によってここまでオレに心酔してくれているとなると、うまくハマりそうかもな。
「一番適切に駆除ができた学生さんには、先生からご褒美出しちゃおうかな」
「お、おおぉ!!」
「うおおオォォーーーッ!!!」
「お、俺だ!! 俺が一番だ!!」
「黙りなさい筋肉団子! 勝つのは私よッ!!」
ふぅー、これこれぇ! オレ様に心酔して暴走する人間を見るのは気分がいいな。
何より、口うるさいのがいなくていい。いつもならシキンちゃんがごちゃごちゃ言ってくるところ、今日は誰も水を差して来ない。
「じゃ、頑張ってね。万が一環境に悪影響がありそうな方法を使った学生の魔術は、先生が打ち消しちゃうからねー」
「う、打ち消されたい!!」
「打ち消してぇー!!」
早くも面倒くさそうなファンが湧いている。人気者ってのは罪だなぁ。
横浜で開かれた特別講義は、意外にもあっさりと終了した。
「結局、危険を冒して横浜に出向いた理由は何ですか?」
第4研究室の依頼を受け、研究経過のレポートを査読していると、実験の準備を終えたシキンちゃんが部屋に戻ってきた。
「何事もなく帰ってきましたけど、室長は何の理由があって横浜に?」
「挑発だよ挑発。〝真人党〟をおちょくってるの」
ロジックとしてはこう。
潜入員を忍ばせたはずの第5の室長が、情報漏洩に焦るどころか、研究室を開けて横浜まで来ている。
しかも、横浜は現在、戦略的に〝真人党〟が強く欲している地域。境界線は吹き上がっており、いつ互いの戦力が爆発し合うものか分からない。
「性格悪いですねー」
「オレあいつら大っ嫌いなんだもん。シキンちゃんも嫌いだろ」
「解答は控えさせていただきます」
玉虫色の回答をしやがって。
あ、これ口に出して言えばよかった。使ったことないもんこんな表現。今度から小出しにして、たまに使っても違和感を感じさせないようにしよ。
「そういえば、学生からの講義レビューが届いていますよ。拝見されますか?」
「おー、ちょっと手が離せないから、いくつか読み上げて」
「承りました。中々好評ですよ」
お、よかった。フェロモンを撒き散らして全員の恋心を奪ってしまうという事故は発生したものの、後から鎮静化の魔術を受けてもらったし、意外とうまくいっていたのかも。
「読み上げます…………」
『イロ先生が激エロでした』
『あのあと8回抜いた』
『イロ先生のツノを私のあそこに
『次は俺が優勝しておっぱい揉ませてもらう』
『童貞捧げます』
『AVデビューお待ちしてます』
『女同士でもいいです。抱かせてください』
「どこが好評だ! セクハラばっかじゃねーか!」
「好評でしょ、サキュバス基準なら」
「はい出た! 出ましたサキュバス差別! 全てのサキュバスが常日頃エロいこと考えてると思ったら大間違いだぞ!!」
サキュバスだからって性に奔放だと決めつけるのはサキュバス差別だ。
「セクハラ? サキュバスのくせに?」
「あ!! 今の差別!! 今オレまた差別されました! 差別祭り! 断固として抗議する!」
オレはまだ綺麗な身だぞ。元男としては、好きな女が既に色を知っているというのが一番心にクるのだ。
スミは懐の深いヤツだが、ヤツが元婚約者に操を立て、童貞を貫く以上、オレ様も身綺麗でいなければならない。
「あー、室長、処女(笑)ですもんね」
「お前もだろがっ!! クビにするぞ!!」
オレはカッコよくて優しくて知的な婚約者がいる超絶勝ち組だし!!
生家が燃やされてうやむやになってるけど、絶対結婚するし! これはもう既定路線。謂わばオレの処女は攻撃的処女だ。戦略的と言ってもいい。
大体、男と手をつないだこともないような喪女に「処女(笑)」とか言われたくない。
つか、キモいレビューばっかわざと選択して読み上げるな!! こっちにレビュー送る前に講師が検閲しろ!!!
「で、ご褒美って何シてあげたんですか。やっぱり手でシてあげたんですか」
「いい加減にしろよマジで。するか!」
「でも次は俺がおっぱい揉むってレビューが来てますよ」
「揉ませる訳ねーだろ」
不可抗力の催淫でこうなってしまった以上、不覚を取ったオレに非があるというのは分かるが、節度がなさすぎる。
「ただサイン欲しいって言うから書いてあげただけだよ」
優勝したのが健全なお願いをしてくる学生で本当によかった。いや、優勝者にお願いされたら絶対に受けるなんてルールはないけど。
「色紙にキスマーク付けたんですか」
「付けるか!!」
キスマークなら間に合ってる。毎夜こっそり彼に付けているから。
喪女のシキンちゃんと違ってオレらはアツアツのラブラブだから。少し二度寝が長いだけだから。
「はぁ……もういいよ、あとで自分で読む」
「セクハラレビューだけソートして上に来るようにしておきますね」
「最悪の気遣いどーも」
付き合ってたら日が暮れる。査読してるんだってオレ。頼むから集中を切らすようなこと言わないでくれないか。
「それにしても、これから室長は大変ですね」
「なんで?」
「〝真人党〟の標的にされますよ」
そんなことか。今更、奴らの反感をどれだけ買おうとも同じだ。
どんな思惑か知らないが、スミの所在を探ってくる連中が、オレにいい感情を抱いているはずがない。
「最初からだぞ」
「より苛烈になるという話です。室長、直接戦闘は私の足下にも及ばないから、心配です」
それは杖術を主体とした決闘形式の話だろ。オレには準備した触媒や、多数の準生体兵器があるのだ。決して在庫余りとかではなく。
「ま、安心してください。室長のことは私が守ってあげますから」
「はー!? 何言ってる! オレがシキンちゃんを守ってあげるの!」
「でも私のほうが年上ですよね」
「お前全部それでねじ伏せるつもりか! 許さないぞ! シキンちゃんはオレが守ってやるから、おとなしく後ろに下がっとけ!」
オレとシキンちゃんの死ぬほどくだらん言い争いは、オナリモンが腹を空かせてケージをガリガリ爪でかき始めた音で止まった。
やっぱり納得いかない。業界の歴で言えばオレのほうが上なのに、たまに頭とか撫でてくるし。
オレは新聞の『
今日も誰かが死んでいる。昨日よりは少ないが、おとといよりは多い。下手人は〝真人党〟と言いたいところだが、実際にはそれ以外にもいる。
「うわー、イロ室長の特別講義、ニュースになってますよ」
「ん? ニュース?」
シキンちゃんはネットニュースのサイトを開いた携帯の画面を見せてきた。
「魔術局〝真人党〟と徹底抗戦の姿勢か、当該組織の要戦略魔法的生物を一掃、ですって」
「あの触手の群れ、やっぱり〝真人党〟の嫌がらせだったのかよ」
「それよりほら、この写真見てください」
シキンちゃんが画面をスクロールする。弱りきった触手の前で、学生と一緒にピースをしているオレの写真がデカデカと流れてきた。死ぬほど隠し撮りの構図で。
「おい、これ問題だろ!」
〝真人党〟への挑発であることは間違いないし、魔術局全体の方針として、というか国家の方針として、武力衝突も辞さない構えだ。
けど、肖像権はどうしたんだよ。かろうじて学生の顔にはモザイク処理がされているが、オレの顔だけ綺麗に写っている。
「〝真人党〟寄りのサイトですからねー。日本国の法律を守る訳がないっていうか」
「全国がオレの美貌に気付いて、結婚の申し込みが殺到しちゃうだろ!!」
「は?」
あーあ。明日から結婚の申し込みを断る練習をしておかないと。
何て言うのがいいかな。やっぱり婚約者がいるのでダメですって言えばいいのかな。
でもなー。それでも君が好きだなんて言われたらどうしよう。何と言われても絶対断るけど、変な人にストーキングされちゃうとなー。
「このバカサキュバス。殺到するのは結婚申し込みなんかじゃなくて、〝真人党〟の刺客ですよ!」
恋愛経験ゼロ女がなんかさえずってる。けどオレには聞こえなーい。
今からサインの練習もしておこう。学生にもねだられちゃったし、あーあ。人気者は辛いぜ!
・ミドヲ
32歳。人間。黒い儀礼用軍服の胸に、多数の勲章を付けた白髪混じりの男。この若年で魔術安全保障局の局長というスーパーキャリア。
しかし死ぬほど悩みが多い。最近は一人娘が妻に「父さんと洗濯物を別にして」と言っているところを見てしまった。
・第5研究室
成人の女と成人間近の女がいて、両者男性経験0の喪女すぎる研究室。恋人(ホムンクルス)を作る研究をしていると専らの噂。
室長はイマジナリー(と周囲には思われている)婚約者を自慢する異常者。研究員は白馬の王子様しか認めないとかほざいてる異常者。第5の未来は暗い。