三島さんが死んだ。あの日僕が雷に撃たれるはずだったのに。 作:斉藤悠
「正吾! あれは、ほんとに……」
後ずさる僕との間合いを変えないように、正吾は摺り足で動く。僕は次の言葉を継ごうとして、やめた。僕が小手先でなにか言ったところで、止まるような隙は正吾には残されていなかった。
正吾は僕の身体全体を、よく観察しているようだった。構えている金色の竹刀は……見るからに、僕の小説ノートと羽根ペンのような、なにか特別な力があるはずだ。僕は、剣道の試合での正吾を思い出していた。あいつは相手が考え始めるより先に打って出るような、攻めのスタイルが得意だ。僕が三人をどうやって攻撃したのか分からないから、迂闊に飛び込めずに様子見をしているんだろうか?
竹刀を握る正吾は僕を睨んだまま、短く言った。
「来い」
正吾と戦うしかないのか……? 僕は念じて羽根ペンをノートに立てようとした。脳裏に、血を撒き散らしながら真っ二つになるモヒカンが蘇る。モヒカンの顔が、正吾に置き換わる。全身から脂汗がぶわっと出た。
「……無理だ……」
たとえ正吾が、肋骨の一本だったとしても……小学校のときからずっと一緒に育ってきた、半ば兄弟のような親友を手にかけるなんて、耐えられない――心の表面のところでそう思いながら、僕は胸の奥にまだ居座る土下座する金髪頭を割いたときの、あの高揚感を忘れようとしていた。
「さっきは、躊躇なく殺してたくせに。それも、笑って……」
「それは! あっちが先にやってきたからで――」
一閃。
金色の光が視界を覆い尽くしたと思った瞬間、僕は壁に打ち付けられていた。クラスメートたちの歓声が聞こえる。たぶん、廊下を何メートルも吹っ飛ばされたんだと思う。内臓と肺が揺らされて激しくむせる。むせるたびに激痛がはしって、鉄の匂いが上がってくる。内臓か骨か、どっちかは分からないけど、やられてる気がする。
「立て」
三島さんの絆創膏に伸ばそうとしていた手を、下ろす。さっきよりも増して金色に輝く竹刀の切っ先が、喉に突きつけられていたからだ。まだぐらぐらする頭を持ち上げると、正吾の怒りに満ちた眼がこちらを見下ろしていた。
「戦えよ」
「嫌だ……」
このまま戦うことになったら、ライに、対峙している相手が親友なんだって伝える間もなく刃を交わすことになる。そうしたら、ライは雷光斬を容赦なく叩き込むだろう。切れた唇からようやっと絞り出した言葉は、正吾の顔をさらに怒りで歪めた。
「俺を一方的に殺せる自信がないからだろ、あいつらと違って……」
「ち、違う!」
口で否定はしたけど、正直……否定はしきれなかった。答えた途端、正吾の竹刀が眩く輝く。
「嘘つくな」
「だから違うって!」
もはやライトセーバーのような輝きになっている竹刀に目をやって……正吾はため息をついた。怒りに揺れていた眼は、いまや失望に沈んでいた。ゆっくりと構え直す正吾の周りには、光のオーラのようなものがまとわりついている。
「お前いっつも見栄はってばっかだな……」
寺田ー! 早く殺せー!
どんどん過激になっていくクラスメートたちの声にゆっくりと振り返ると、「うるさい!」と正吾は一喝した。
「見世物じゃないんだぞ!」
歓声が上がる。正吾は舌打ちすると、教室の方に大きく踏み込んだ。やばい、あいつもしかしてクラスのみんなを殺す気じゃ……!?
破壊音と悲鳴。
輝く竹刀は教室の扉どころか、鉄製の太い窓枠を貫いていた。逃げずに野次馬していたクラスメートたちは争うように非常階段へと向かっていった。ばらばらと上靴が廊下を叩く音が遠ざかっていく。ふう、と息が出る。僕の心配は杞憂だっだみたいだ。そりゃそうか、正吾はそんな奴じゃない。
正吾は逃げていくクラスメートを追わずに、僕に背を向けたまま竹刀を片手に仁王立ちしていた。今しかない。僕は念じてノートを手元に引き寄せた。
『状況はどうなってる? 敵は消えたか?』
ライの雑だけど筆圧の強い字を見て少し安心する。
『訳あって、親友と戦わないといけなくなってるんだ』
『殺さない程度にってか?』
そうなんだ、頼むよ、と僕は羽根ペンを滑らせると、ライからの返事を待った。一拍置いて、台詞が書き込まれる。
『無理だぜ。見えない相手に手加減なんて。当てて殺すことしかできない』
アドレナリンで忘れていた内臓の痛みがずきずきと、また主張を始める。吐きそうだった。正吾がゆっくりと振り返る。
「……人は払ったぞ」
僕は壁を伝ってゆっくりと立ち上がった。不良たちの遺した血の跡を挟んで、僕と正吾は対峙した。
この身体で逃げるのは無理だし、ライは当てて殺すしかできないって言ってる。それにさっきから正吾は戦う気満々だ。
やるしかない。僕は短く息を吐いてから、羽根ペンを滑らせて、状況描写を始めた。
「……行くぞ」
正吾は少し沈み込んでから一気に加速して向かってきた。
『雷光斬!』
ライトブルーとイエローの斬撃が真っ直ぐ正吾に向かって飛んでいく。
「甘い!」
正吾は竹刀で素早く切り払った。正吾を殺さずに済んだ安堵と、今まで色んな敵を切り伏せてきた技が全く通用しない焦りとともに、ライに伝える。
『なんだ、手加減なんて要らないじゃないか』
ライの筆跡は踊っていた。気がつけば正吾の竹刀が届く間合いに入っていた。やばい、と思った瞬間、ライの斬撃の軌道が僕の周りに展開される。霧の間で、僕を守った時の技だ。正吾も正吾で、全ての斬撃を払い、見切り、対応している。正吾の姿が見えていないとはいえ、僕が設定を盛りまくったライの剣撃にここまで渡り合えるのか。さすが剣道で全国大会に出ていただけはある。廊下の壁をぶっ壊しながら、僕たちはしばし斬りあった。
斬りあっている最中、僕はあるアイデアを思いついた。ノートに書くと、『無茶言いやがって……っ!』とライは愚痴を零しながらも付き合ってくれた。
ライトブルーとイエローの電流が、廊下を這うように進む。弱範囲攻撃……のつもりだ。正吾が崩れ落ちる。完全に警戒していなかった攻撃だったみたいで、上手く踏んでくれたみたいだ。あとは効きすぎてないことを祈るだけだ。
一番好きなキャラは誰ですか?執筆モチベのために聞きたいです
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斉藤 悠(逃げ癖主人公)
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三島 あかり(落雷死したヒロイン)
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寺田 正吾(主人公の友人)
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ライ(主人公の小説の主人公)
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レオン(主人公を見守る?案内人)
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ウィズ(声の能力を持つ魔法使い)
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該当なし