三島さんが死んだ。あの日僕が雷に撃たれるはずだったのに。 作:斉藤悠
「遅いよ」
「……斉藤クン、成長しましたねぇ♡」
レオンはわざとらしい甘い声色で、ウインクした。僕は知らん顔で立ち上がりながら、羽根ペンに状況を書き込ませる。三島さんを助けなきゃ、今度こそ。要らないやりとりになんか構ってられない。
「……何しに来たんだよ」
「レオンちゃん斉藤クンの案内人、ですからぁ♡ これもお仕事の一環ってワケでして! ま、平たく言えば助けに来たってことデース☆」
「『襲え』」
くるりと回って決めポーズ、したレオンに砂が次々と襲いかかる。ぎゃあっと情けない声を上げて、レオンは嘘みたいなスピードで逃げ始めた。
「ハアハアハアハアダメですよ知らないんですか口上とか決めポーズは邪魔しちゃいけないんデスよーーーーーッ!!!!!!」
早口で文句を言いながら全力で砂浜を飛び跳ね駆け回っている。ステッキの先の宝石の部分で砂を強打すれば、一時的に崩すことはできるようだが、対症療法でしかないらしくいたちごっこになっていた。
『こいつ、本当に俺たちを助けに来たのか?』
『分からない……でも、何か目的があるはず』
一応、レオンがヘイトを買ってくれているおかげか、さっきよりもこっちに向かってくる砂は少なくなってはいる。意図的かどうかは分からないけど……。なんとか足を取ろうとする砂から逃げながら、レオンを観察する。
「……足、透けてる。三島さんと一緒だ」
ぼそりと呟いたつもりだったけど、レオンには聞こえていたらしい。
「実は……ワタクシ、斉藤クンと別れたあとあのわるーい魔法使いに八つ裂きにされまくりまして! ギリ生きてますがなんと! 出力たったの10%! 可哀想ですよねぇ~ッ」
砂に燕尾服のしっぽの部分を食われかけながらも、レオンは空中で決めポーズをとってみせた。
「戦力としては期待するなってことか」
「そゆこと♡ だと思うじゃないですかぁ?」
レオンは人間離れしたジャンプ力でトントンと砂浜を移動して僕のすぐ近くに来ると、犬歯を剥き出して艶めかしく微笑んだ。
「ここからレオンちゃんが100%になる方法……ありますよ♡」
「……僕がなにか、差し出さないといけないのか」
僕は近づいてきたレオンに後ずさる。
「ご明察♡ 具体的には腕をすこーし、かぷっと。させていただければ♡」
「腕を噛ませろってこと?」
「イエース♡」
砂が渦を巻いて僕とレオンを囲む。レオンは僕を庇うように前に立つと、ダンサーのようなキレのいい動きでステッキをふるった。砂は形をさらさらと失う。
「現状、10%レオンちゃんは斉藤クンを守ること
「斬撃が効かないのは分かった。でも雷はまだ試してない」
レオンは振り返ると口角を最大限吊り上げてバカにする笑顔で、チッチッチ、と人差し指を振ってみせた。
「斉藤クンてば、理科知らなすぎ♡ 浜津高校って物理教えないんですかぁ? あの、こんなところで雷なんか撃ったらみ~んな感電して一巻の終わりですけど☆」
海水の混じった砂。きっと雷をよく伝えて——僕とレオンだけじゃなくて、まだ浜から逃げきれていない人も巻き込むだろう。僕は白い布を翻して浜から逃げていく人々を目で追った。
『つまり、俺の技じゃ有効打は与えられないということか。たしかに……状況としては厳しい』
ノートの中では珍しくライが考え込んでいる。レオンを信じていいのだろうか。なんとなく、嘘はついていない気がする。気がするけど。
「もし全力を出したら……勝算はどのくらいあるの?」
「レオンちゃん今までウィズサンとはたっくさん遊んでますから♡ 弱点の一つや二つ承知していますとも☆」
勝ち目はなくはないが確実に勝てるわけではない、という意味だろう。
「僕は、レオンに腕を噛まれたらどうなるの?」
レオンは目を細めてから満面の笑顔で砂を払った。
「……ちょっぴり痛くて、歯形が付きマース!☆」
『ユウ。大したデメリットはないなら……噛ませた方がいいんじゃないか? 迷ってたら、被害が拡がる一方だ』
「ライサンは話が早くて助かりマース♡ あ! もしかしてぇ……斉藤クンは注射とか苦手なタイプですか?♡ え~だっさ~♡」
理由は分からないけど、なにか引っかかる。僕のわずかな異変に気付いたのか、レオンがからかってくるけど今は絶対に引っ張られちゃだめだ。絶対に手放しちゃだめだ。
「レオン、
「……はい……?」
レオンの金色の瞳の、縦長の瞳孔が微かに揺れたのを僕は見逃さなかった。
「僕たち、こんなに堂々と作戦会議してるのに邪魔して来ないんだね。変だな」
「いや聞こえないでしょこんな距離じゃ☆ というかそんな話してる場合じゃナイでしょ!? 人襲われちゃいますよ!?」
「……何焦ってるの?」
レオンは赤い長髪を振り乱しながら、僕を指さして絶叫した。
「は、ハァ~~~~~!?!? 何デスかこの人でナシ!!! 人が死ぬでしょーーーーがあああ!!!!」
「嘘つき——心底、面白いと思ってるくせに」
レオンは目を見開くと口を大きく裂くようにニヤリと笑った。
「アハハ! バレてちゃ仕方な~い☆ でもどうするんですかぁ? 斉藤クンてばひど~い、ここにいる人たち見捨てるんです?」
「いや、これで全員……逃げた」
浜から最後の一人がいなくなったことを横目で確認した僕は、ノートに書きこんでいく。
「ちょっと!? レオンちゃんも巻き込んで雷撃とうとしてません!? ノンノンだめですよ!?!?」
レオンがステッキでノートを破壊しようとしてくる。僕は念でノートを動かしながらレオンに問いかけた。
「巻き込まれたくないんだったら、立ち去ればいいだろ。何が目的なの?」
「……あ! 寺田クン♡」
わざとらしく街の方を指さすレオン。
「話逸らさないでよ。というかこんなところにいるわけ……」
「悠!」
聞きなじみのある親友の声に耳を疑った僕は、振り返った。
「正吾!?」
街の方から走ってくる大柄な少年の手には、金色の竹刀が握られていて、こちらに近づくにつれ輝きを増していた。
「あ~、ちょっとヤバいデース☆」
突然現れた正吾に気を取られていた僕は、レオンに迫っていた砂に気づけなかった。
「レオン!」
僕は手を伸ばしたけど、レオンはそのまま飲み込まれてしまった。信頼こそできないけど、ウィズがなぜ『涯て』で人を襲っているのか、あれがそもそも本人なのかまで含めて……打開の手がかりになるような情報を、レオンは持っていたはずだ。あえてはぐらかされていた感じもする。釈然としない僕の隣に来た正吾が、ぼそりと呟いた。
「悠……そうか……」
正吾の竹刀の輝きはいつの間にか少し落ち着いていた。
「正吾は、なんでここに……?」
正吾ははっとした顔をして、一拍置いてから、「稽古の帰りに車にはねられて、死んだ」と小さく答えた。わずかに輝く竹刀を、正吾は気まずそうに見ていた。肋骨の正吾が持っていた竹刀と同じ嘘や悪意に反応して輝き強くなる性質なら、多分正吾は嘘をついているだろう。あいつらしくないと思った。でも、嘘をつくのが下手なのはあいつらしいとも思った。
「あれが、浜を襲ってるやつか」
短く問う正吾に僕は頷くと、「斬撃が効かない」と苦い状況を伝えた。そうか、と短く答えた正吾は、申し訳なさそうに竹刀を構えた。砂は容赦なく僕と正吾に食らいつかんとする。僕はライの剣で、正吾は竹刀で応戦するけど、砂はすぐに形を取り戻して何度も襲ってくる。
「悪い。黙って見てられなくて飛び出してきたけど……あまり、役にたてそうにない」
「背中を預けられる相手ができただけ、助かるよ」
自然と背中合わせになった僕たちは、効かない斬撃で砂から身を守るだけで精一杯だった。
「悠、こんな時に悪いけど……三島を見てないか」
「さっきまで一緒にいたけど、砂にのまれたんだ」
正吾の剣筋が僅かに鈍った。間一髪で砂を退けた正吾の手は震えていた。
「三島、