三島さんが死んだ。あの日僕が雷に撃たれるはずだったのに。 作:斉藤悠
三島さんが、ウィズが……レオンに、食われていた?
僕は理解できなかった。レオンはケラケラと笑いながらゆっくりと歩きながら話し始めた。
「斉藤クンがずっと撃たれたがってたあの雷! 実は、レオンちゃんが死後の世界で肋骨越えられなかったよわ〜い魂の残りカスたべたべして力を貯めて、運命操作して三島サンに落としたんですよ♡ レオンちゃんコツコツ貯められてえらーい☆」
あの日、三島さんが撃たれた雷は、レオンが仕組んだものだった……?
もちろん、あの天候で無謀にも南堤防へ向かい、挙句飛び込んだ僕の責任が消える訳じゃない。でも、自然災害による事故ではなく、レオンが、三島さんを撃った……?
ご都合展開ばかりの拙い僕の小説を、目を輝かせて読んでくれた三島さん。
身の丈に合わない強がりを見透かしながらも、傘に入れようとしてくれた三島さん。
バカやって転んで手を切った僕に、絆創膏を差し出してくれた三島さん。
三島さんの笑顔と……通夜で悲痛に叫ぶ三島さんのお母さんを思い出して、震える両方の手のひらに爪が深く食い込む。
「なんで三島さんなんだよ! 彼女が何したってんだよ!?」
「斉藤クン、もうちょっとで死にそ〜だったんで、お手伝い♡」
「じゃあ! なんで僕を直接撃たなかったんだよ!」
僕は羽根ペンをむちゃくちゃに動かした。四方八方に斬撃が飛ぶけど、レオンには当たらない。
「そんなことしたらレオンちゃん『涯て』に入れなくなっちゃうじゃないですか♡」
僕はレオンが言っていたことを思い出した。
——斉藤クン、アナタ三島サンを背負って河を渡りましたね? わる〜い魔法使いが三島サンに化けていたとも知らずに♡
「もしかして……仮に、自殺しなければ、僕は……直接『涯て』に入れたのか? お前が三島さんを殺して……僕は自殺して、その罪で、『涯て』を目指すことになった。あの河を渡る資格を得た僕に、背負ってもらうために、成り替わるために、三島さんを殺したうえで魂を食ったのか……」
僕が死にたがっていたから、三島さんは殺されたんだ……崩れ落ちそうになった僕に、正吾が黙って肩を貸す。
「アハハ! 斉藤クンみたいな魂、ずっと待ってたんですよ♡ おバカで単純でメンタル弱くて御しやす~い、レオンちゃんを『涯て』に連れて行ってくれる運び屋さん♡ 早く『涯て』に行きたいのに、肋骨でみ~んな狂って砂になっちゃって、全然ダメでしたから♡ 十二人ぶっ殺すだけなのに、そんなに難しいですかねえ~?」
——ありえない、荒療治だ。人間には……耐えられない。
——お前、あんなにまでなって、あの塔を登りきったのに……全部……全部無駄になるぞ。
ウィズがレオンの目論見をどこまで知っていたかは分からないけど、きっと今まで何人も被害に遭っていたんだろう。だから、肋骨の存在を隠して、僕のこと止めてたんだ。あんなに、必死に、切実に……。レオンは、早く『涯て』にたどり着きたいだけで、最悪壊れてもいい消耗品のように僕を扱っていたんだ。今になって僕は、ウィズに背いて肋骨を選んだことが過ちだったと気づいた。でも、もう遅い。僕は肋骨の試練をクリアし、レオンを『涯て』まで運び込んでしまった。視界にノートが滑り込む。
『ユウ、あの時は限られた情報の中で最善を尽くしたんだろ! 上手く利用はされたけど、あの選択はあの時の俺たちの精一杯だった! だから……』
ライからの書き込みを読む僕を、レオンは嘲笑した。
「斉藤クンのスーベニア、ほんと大当たり♡ あの試練、
——実は斉藤クン、レオンちゃん一番の期待星☆ ですのでね、頑張って『涯て』を目指してくださーい!
「あれは、肋骨を越えられる見込みがあるって意味だったのかよ……!」
レオンは腹を抱えて大声で笑った。思わず、砂浜に何度も拳を叩きつけた。全部、全部、レオンの思惑通りに動いてしまったんだ。大粒の涙が両目から落ちる。
「……人の命を、心をなんだと思ってる」
レオンの笑い声が突然止まった。顔を上げると正吾が飛び出していた。さっきまで光っていなかった竹刀は、何に反応しているのか分からないくらいキンキンに輝いて、もはや真贋を判定する機能は失せていた。
「寺田クンてば顔コワイですよ? というか斉藤クンに関しては寺田クンが助けられなかったせいでもありますよね☆」
「嘘つくな! 正吾は関係ないだろ!」
僕が吠えると、レオンは嬉しそうにまくし立てた。
「幼なじみが海に飛び込んだの見てたのに♡ 見つける前に離岸流で流されて死んじゃって☆ 寺田クンてば超役たたず♡」
合流してすぐのとき、正吾が僕に死因を隠した原因なんだろう。あっという間に距離を詰め、迷いなくレオンの首を刎ねた。返り血を浴びる正吾は……今まで見たことのない剣幕だった。地面に転がるレオンの首がニヤリと笑う。我に返った僕は慌てて羽根ペンを動かし、ライに状況を伝えて剣を振らせたけど——レオンの血だったものは、大きな牙と化し、正吾を噛み締めた。咀嚼する牙は剣を弾いてしまう。
「正吾!」
嚥下するかのように脈動する牙は、いつの間にか首が繋がっているレオンの燕尾服の中に退いてしまった。
「アハハ! 寺田クンは即断即決で分かりやすいですね♡」
震えが止まらなかった。三島さんも、正吾も、ウィズも、レオンに……。視界に入る罫線には、『しっかりしろ!』と大きな字で書かれていた。そうだ。考えろ。たぶん、さっきの情報は……僕じゃなくて、正吾だけを真っ直ぐ飛び込ませるために出したんだ。そして、僕はまだ……食べるつもりじゃないってことだ。
「なぜ僕のことは食べない?」
「だって大切なキャストですから♡ 本当はアナタ脇役だったんですけど〜……
パチパチと拍手するレオンは、少し長い犬歯を見せつけるようにして笑った。
「何、言ってる……?」
「
『知るか、このクソ女!』
走り書きのセリフに頷いた僕は、息を深く吸い込んで羽根ペンを必死に動かした。絶対に倒してやる。連続で放たれる雷光斬をヒラヒラと躱し切ったレオンは……浜の外へと走り出した。
『街に行く気か?! クソ、せっかくみんな逃がしたのに……追うぞユウ!』