ソシャゲみたいな世界で「ここは俺に任せて先に行け」をやったら生き残ってどうしよう   作:アサリを潮干狩り

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第三話

 

 

 前世の頃から、俺は漫画とかゲームがそれなりに好きだった。

 

 ファンタジー系の漫画や王道バトル漫画、あとはラブコメ漫画とかも好きで結構な雑食だったのを覚えている。ゲームに関してもジャンルを選ばずにプレイしていたから好みとかはあまり絞れない。学生の頃はよく友人とプレイしていたっけ。

 

 中でも戦闘がメインのものは、俺の大好物の一つだった。

 

 そして、いつしか読んでいたバトル漫画の中。

 そこで主人公の仲間が死んでしまう展開があった。

 

 その仲間は敵に追い詰められていく窮地の中で主人公一行を逃がし、自分だけは時間稼ぎの為にその場に残ったのだ。当然、その仲間は敵に囲まれて死んでしまった。

 

 言ってしまえばよくある場面。

 

 使い古されたテンプレの展開。

 

 それでも読んでいた読者は悲しんでいたし、俺もまあまあ悲しかった。死んで欲しくなかったし、生きてほしかったと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 まさか、その頃の俺は来世で自分がその立場になるとは微塵も思ってもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……生き……てる?」

 

 地べたに座り込んだまま、呆然と呟く。

 周りには天変地異が起きたと見紛うほど壊れた建築物と、積み重なった影蝕獣の屍があった。

 

 腕は疲労でもう上がらないし、足は痙攣している。

 使っていた剣は刃が潰れてもはや鈍器と化し、斬れ味を保持しているようには見えない。

 学園の制服は頑丈に作られているのにも関わらず大きく破け、殆どの部分が血で滲んでいる。

 

 だが確かに、俺は生きていた。

 

「だいたい……こういうのは死ぬやつでしょ……」

 

 ごほっ、と血の混じった咳を零しながらそう言う。

 

 一晩で何体もの影蝕獣を倒したのか分からない。

 建物を利用しながら極力消耗戦に努め、影蝕獣の群れに真正面からぶつからないように異能を発動させながら剣で撫で切るのを繰り返していた。

 

 だが完全に攻撃を回避することは出来ず、腹や手足に傷を負うこともあった。それでも可能な限り致命傷は避け、戦闘が可能な状態を一晩維持し続けた。

 

 その結果がこれだ。

 奇跡と言っても足りない。

 

「痛っ……これ足折れてそう、腹もぶん殴られたからクソ痛いし……なんで生きてんの俺……」

 

 自分でも何故今生きているのか分からない。

 どうせ死ぬんだからと捨て身で戦っていたら、いつの間にか夜が明けていたのだ。

 

 試しに剣を握っていた方の手を開け閉めしてみるが、ぷるぷる震えて握力が無くなってしまっている。

 

 はぁ、とため息をつく。

 

「ま、ラッキーだと思うか……」

 

 最早喜ぶ気力もない。

 あの死線を潜り抜け、再び仲間たちと会えるのは嬉しいが今はそれどころでは無い。早く安全な場所に隠れて休息を取りたいのだ。

 

 そう思いながら、さりげなく右足に体重を掛けて立とうとすると。

 

「……っ!?痛ってぇぇぇ!」

 

 右脚全体に電撃のように激痛が奔る。

 

 戦っている最中はさほど痛みなどは感じなかったのだがアドレナリンが切れたのか、骨折の痛みが直に脳に伝わる。

 

 思わず地面に転がり足を抱えてのたうち回る。

 

 そして数分間ほど暴れた末にようやく収まってきたので、仰向けになって青空を眺める。痛みによって顔から冷や汗が止まらず、息も荒い。

 

「……いや、帰れるか……?」

 

 走るのは勿論無理。

 歩くのは辛うじて可能だが、その度に激痛が走る。

 

 これ……無理ゲーじゃね?

 

 ここからコロニーまでは数十キロ、いつもの体調で走ったなら数日程度でたどり着けるが足が折れているなら話は別。どれだけ掛かるか分からないが、到着するのには相当な時間が必要になるだろう。

 

 その間に影蝕獣に襲われないとも限らない。

 小規模の襲撃ならば異能で追い払えば良いが、その度に遅延させられ時間が無駄になっていく。

 

 なんとかこの右足さえ誤魔化すことが出来れば、帰ることができるんだが……。

 

「あ」

 

 思わず呟く。

 

 そういえば……あったわ、応急処置のやり方。

 

「『氷凍化』」

 

 おもむろに右足に手を当て、異能を発動させる。

 出力を絞り、少しずつ固定するように凍らせていく。

 

 制服のズボンごと氷に包まれていき、そして出来たのは右足全体が薄く氷に包まれた氷塊だった。異能で作った氷なので簡単には溶けず、それでいてそれほど重くはない。

 

 まぁ即席のギプスのようなものだ。

 

 俺の体は持っている異能の関係上、ある程度寒さに耐性がある。氷で包まれて冷たいと思うことはあっても凍傷になることはないだろう。

 

「よいしょ……っと」

 

 右足の氷を地面に打ち付けながら上手いことバランスを取って立ち上がる。

 

 それでも重心が不安定だったので、異能で氷の杖を作って手で握り体重を載せる。応用が利く異能だからこそできる芸当だ。

 

 うん、これでひとまず大丈夫だな。

 

「まぁ……なんか生き残っちゃったし帰るか」

 

 山のように積もった影蝕獣の死骸を避けながら、各所に痛みの残る身体を引き摺りコロニーへの帰路を辿る。

 

「はぁ、あんなカッコつけたのに生きてるとか気まず……マジでどうしよ……」

 

 

 ◆◆◆

 

 

 朧谷(おぼろや)紗夜(さや)は、生まれながらにして上位者であることを決定付けられた少女だった。

 

 紗夜が生まれた朧谷家は数十年前の影蝕獣による世界崩壊以降、代々優秀な適応者を排出している名家で有名だった。

 朧谷家が生んだ適応者の中には英雄と呼ばれる人物もおり、世間的な名声も高い。

 

 そんな家に生まれた紗夜は、例に漏れず名だたる英雄たちの血を引いていた。

 

 五歳から刃物の扱いを学び、七歳から本格的に剣術を学び始め、十歳の頃には年上の少年に模擬戦で勝利するなど、早い段階から既にその身に宿る天稟の才を存分に感じさせていた。

 

 身体は小柄ながらも豹のようにしなやかな筋肉を備え、その黄金の瞳は人外の如き瞬発力を誇る。そしてその戦闘センスは天才と呼んで差し支えない程、同年代の中では突出していた。

 

 また、強くなるには必要不可欠である、地道な努力を続ける稀有な精神性も彼女は有していた。

 

 そして、日本の齢十歳の子供が受ける適応者検査。

 異能を所持しているかを測る検査であり、実際に異能を持っている子供は百人に一人程。

 

 確率的には決して高くはないものだったが、検査を受けた紗夜は当然のごとく異能を所持していた。

 

 まさに神童。

 英雄の血が生んだ戦士。

 朧谷の次世代の傑作。

 

 彼女の身の回りに居る人物の中には、そう口にするものも居た。

 

 事実、彼女は何もかも持っている。

 優れた容姿や飛び抜けた戦闘技術、実家の格や豊かな資産まで、文字通り全てを。

 

 それは、朧谷紗夜という少女が驕ってしまうには十分な要素だった。

 何故なら仕方ないのだ、才能が有りながら努力する彼女と比較になる者など簡単に見つかるはずがないのだから。

 

 そして紗夜が世の中をある意味理解しきった頃、転機が訪れる。

 

『学園……ですか?』

 

『あぁ、そうだ。紗夜、お前に釣り合う子など居るかは分からないがこれも国の決まりだ。国に奉公するつもりで、すまないが何年か行ってきてくれ』

 

『……分かりました。お父様』

 

 十二歳になった適応者が入学する学園に、紗夜は行くこととなった。

 

 新しい環境、新しい出会い、新しい経験。

 学園にはそれらが待っている。

 

 だが紗夜は、大して期待を持つことは無かった。

 それらの類の期待は全て徒労に終わり、するだけ無駄だといつしか気づいたのだ。

 別に、そこに同級生を馬鹿する意図があるわけではない。ただただ、彼女の心にあるのは無関心。

 

 そんな思いを抱えながら、紗夜は学園へ入学を果たした。

 

 彼女が入学した学園、東京異能育成学園は東京近辺の適応者が集まる学園だった。故に自然と人数も多くなり、全校生徒の人数は優に一万を超える。その学園施設も大規模なものになるのは当然であり、もはや一つの街として運用されていた。

 

 だがそれほど大規模な学園であっても、紗夜の目から見て自らを上回る能力を持つ学生は同学年に存在しなかった。一分野で彼女に迫る学生は居るが、全ての面で彼女と同等の能力を持つ人間は居なかった。

 

 紗夜は予想していた事とは言え、軽くため息を吐いた。

 

 また、彼女だけが居る灰色の世界が深まった。

 

 

 そしてある時、学園の講義の一環として模擬戦が行われることになった。

 

 生徒同士で一対一の戦いを行い、勝利条件は相手が気絶するか負けたと認めた時。まだ中学生ほどの年代の紗夜たちとしては激しい訓練だった。

 

 だが周りの生徒たちが次々とペアを組んでいくというのに、紗夜は一向に相手が見つからない。この頃になると彼女の鬼のような強さと人見知りが合わさり、紗夜は同級生の生徒から畏れられていた。

 

 そんな彼女を見かねてか

 

『君、もしかしてペア居ないのか?居ないなら組もうぜ』

 

 ある少年が話しかけてきた。

 

『……えぇ、ペアは居ませんし良いですよ。しかし、本当に私で良いんですか?』

 

『ん?もちろん良いぞ、君はなんか皆から怖がられてるみたいだけど俺は気にしないからな。模擬戦は存分にやっちゃってくれ』

 

『……はい』

 

 なんとも不思議な少年だと、その時の紗夜は思った。

 

 黒髪黒目というごく一般的な容姿。

 口調や表情におかしい所は無く、特徴を捉えづらい。

 

 ただ、その身に纏う雰囲気が、どこか形容しがたいほど異質だった。

 

 続々と同級生たちが訓練をしていく中、紗夜たちの番が来る。少年が準備体操をしながら訓練所へ向かうのを確認し、紗夜も動き出す。

 

 教官が模擬戦の開始を告げる。

 両者が一斉に動きだす。

 

 その、結果は――

 

『はぁっ……ごほっ! ……私の……ま、負け……です……』

 

『ふ……ふぅっ……ありがとうございました』

 

 紗夜の、負けだった。

 荒く息を吐き出しながらもどこか穏やかな彼とは裏腹に、紗夜は震えて顔を白くしている。

 

『こ、この卑怯者っ!そんなふざけた戦い方をして恥ずかしくないんですか!?』

 

 模擬戦の終了後、紗夜は勢いよく少年に詰め寄った。

 

『そ、そんなに言うか?まぁ確かにちょっと大人げなかったけどさ』

 

 実際、彼は戦法はあまりにも卑怯だった。

 決して紗夜の攻撃範囲には近寄らず、遠距離から異能で一方的に攻撃する冗談みたいな戦法で戦っていた。

 

 近づかれたら必死に紗夜から逃げて距離を取り、遠くなってきたら異能で氷や吹雪を飛ばして攻撃をする。

 

 遠距離主体の少年と、近距離主体の紗夜。

 互いの異能の相性によるものも大きかったとはいえ、遂に彼女は行動不能に追い込まれた。

 

 自ら敗北宣言をしたことによる屈辱で震える紗夜に対し、少年は軽く口を開く。

 

『いや、でもルールを破ってるわけでもないし俺の勝ちじゃないか? てか遠距離攻撃ぐらい対策してると思ってたけどな』

 

『ふ、ふざけたことを……正々堂々戦いなさい……っ!』

 

『……これから戦うはずの化け物にもそんなこと言うつもりなのか?流石に聞いてくれないと思うぞ』

 

『……ぅ……や、私はこの剣だけでなんとか……』

 

『剣だけでどうにかはならない世界だろ。確かに君の剣は凄いし、だから真正面から突っ込むだけでなんとかなったんだろうけど、もう実戦でそれは無理じゃないか?』

 

『そ、それは……ぅ……ちがっ……』

 

『この戦法は俺以外にも出来るから、他の奴らも真似するかもな。俺みたいに欲を出さず徹底的に遠距離から攻撃すれば簡単に真似出来ちまう。ま、ちゃんと気をつけろよ』

 

『うぅ……ぁ……っ……』

 

 もう、限界だった。

 

 慣れない敗北の味に加え、慌てて出した言い訳すら理詰めで片付けられる。幼い彼女だって心の中では、負けたのは自分で正しいのはあっちだとしっかり理解していた。

 

 ︎︎ただ、心が追いつかなかった。

 

 紗夜の視界が滲む。

 情けないと思っていても、不思議と雫が溢れる。

 

『え、ちょ……な、泣くなって!』

 

『……泣い……い』

 

『え?』

 

『泣いて……ないです』

 

『お、おう』

 

 最後に残った意地でそう言い、紗夜は涙を拭う。

 これはたまたま出ただけだと自らに言い聞かせる。でなければ恥ずかし過ぎて死にそうだったから。

 

『……』

 

 そんな彼女だったが、その内面では新たな変化が生まれていた。

 

 澄んだ目で世界を見ていた紗夜に、新たな感情が生まれた。

 初めて出来た他人に対しての『興味』あるいは『執着』。

 

 この少年はどんな人なのだろう。

 どんな環境で育ってきたのだろう。

 何を普段考えているのだろう。

 

 無意識のうちに紗夜がそんなことを考えていると、少年がふと何かを思い出したかのように顔を上げた。

 

『そういえば自己紹介してなかったな、俺たち』

 

 予想外の言葉に紗夜は目を瞬かせた。

 少年は気を取り直して口を開く。

 

『俺の名前は雪城(ゆきしろ)深也(しんや)だ、よろしく。君の名前は?』

 

『私の名前は、朧谷紗夜です。どうぞよろしくお願いします』

 

 それが雪城深也との出会い。

 紗夜にとって、輝かしき青春の一幕。

 

 

 

 

 それがきっかけで深也とは仲良くなり、軽口を叩き合う仲となった。

 

『ふざけんな紗夜!お前独断専行も大概にしろ!こっちはお前に着いていくために必死なんだよ!』

 

『うるさいですね……深也が弱いのが問題じゃないですか』

 

『て、てめぇ……』

 

 危険な実戦任務も共にチームを組み、時に手を取り合って助け合った。深也は紗夜にとって初めての友人とも言える存在であった為、少し毒舌なのはご愛嬌といったところだろう。

 

 

 

 

 それから香織や彰といった仲間とも出会った。

 

『紗夜って言うのか、俺の名前は彰だ。そういえば前から思ってたがお前、ちっせぇ癖によく動くよなぁ……いや、小さいから早いのか』

 

『……ちょっとこっちに来てください。今、私のことを小さいと言いましたか?』

 

『まぁまぁ……彰が大きいだけで紗夜も言うほど小さくないでしょ、ね?』

 

 彼らの柔軟な考え方、緻密なチームワークを吸収した。

 

 何度も窮地を乗り越え、絆を深めた。

 死にかけた事は両手では足りず、その度に強くなった。

 

 

 

 

 

 一年、二年、或いはそれ以上の年月が経ち、紗夜はこの居場所にどこか安心感を覚えていた。以前の孤独な環境ではありえなかった気の置けない仲間たちとのやり取りに、楽しさを見出していた。

 

『深也……深也!見てくださいこの剣、最近外の企業から出た折り畳み式軍用剣です!お金に余裕があったので買っちゃいました!ここの企業はここら辺の刃紋とかが独特で良いですよね!』

 

『いやそんな小さな違い分かんねぇよ……お前が刀剣趣味だから分かるだけだろ。学園で支給されてるやつと何が違うんだ?』

 

『……はぁ……まったく、なんで分かってくれないんですか。剣を扱う者ならこれぐらい知ってて当然です、本当に深也は物を知らない人ですね』

 

『えぇ……これ俺が悪いの?』

 

 平穏で幸福な日常が普通だと、紗夜は思い込んでいた。

 たとえ学園を卒業しても何も変わらないだろうと、根拠も無く漠然と思っていたのだ。

 

 いつも隣には彼がいて、仲間たちが居て、くだらない事で笑い合っていて――

 

 

 そんな幸せな日々にずっと、紗夜は浸っていたかった。

 

 

 ◆

 

 

 ぱちんと、しゃぼん玉が弾けるように夢から覚める。

 

「――ぁ――ぅあ?」

 

 上から降り注ぐ眩い光に、思わず呻く。

 紗夜は、深い微睡みの中から溶けるように目を覚ました。

 

 瞼は重石を付けたように重く、体は錆び付いたようにぎこちない。

 

 ぼやけた意識のまま頭を回して周辺を見渡す。

 

 白く清潔なベッドに、傍に立て掛けられた点滴。

 横に設置されたカーテンが部屋を区切り、光が差し込む窓際には小さな花瓶が置かれている。

 

「病……院?」

 

 紗夜が何度か任務で大怪我をした時に来ていた、見覚えのある光景。

 

 学園には学生の死者や怪我人が多いという特性上、医療系の適応者を備えた病院が付設されている。ほとんどの学生が一度はこの病院にお世話になったことがあるだろう。術者の腕にもよるが、場合によっては四肢の欠損すら治すことが可能だ。

 

「……なんで、だっけ?」

 

 どうしてここに寝かされているのか、紗夜は思い出せなかった。

 

 まるで靄がかかったように記憶が曖昧だ。それに身体もおかしい。まるで大怪我をしていたみたいに全身に包帯が巻かれ、腕には点滴に繋がる管が刺さっている。

 

「そういえば、香織が持ってきた任務を受けて……」

 

 徐々に記憶が戻ってくる。

 頭がはっきりとして思考能力が回復してくる。

 

 

 確か香織が、学園から勧められた任務を受けようと誘っていたのだ。皆それに軽い気持ちで賛成して、受けることを決めた。

 

 だが簡単な任務という前評判とは裏腹に、実際には非常に危険な物だった。強力な影蝕獣が多数生息し、普通の適応者では生きて帰れないほどの死地だった。

 

 それでもなんとか任務を終えた帰り、紗夜たちは密かに追跡してきていた影蝕獣に襲われた。既に持ち込んだ武器も尽き、紗夜自身も至る所に傷を負っていた。

 

 影蝕獣を死ぬ気で撒いた後、目に付いたビルに逃げ込んだのを覚えている。それで、皆で話し合っていた時、深也が出した信じられない作戦に反抗して――

 

 

 そうだ。

 紗夜が意識を失った後。

 

 彼はあの後、どうなったのだろうか。

 

 無理をして笑っていた深也の顔が、紗夜の瞼の裏に焼き付いている。表面上は自信満々のようでいて、様々な感情がごちゃ混ぜになった瞳。

 

 

 死期を悟ったかのような、寂しげな彼の顔が頭から離れない。

 

 

「……」

 

 そんなわけがない。

 

 紗夜は意図的にその()()()を頭から排除しようとしていた。あの状況から紗夜が生き残っている説明がつき、最も考えうる選択を無視していた。

 

 

 絶対にあってはならないこと。

 紗夜にとってそれは、何よりも恐れていたことだった。

 

 

 いつの間にか止まっていた呼吸に気付き、唾を飲み込んで再開させる。

 

 壁に立て掛けられた時計の音が、不思議と耳に残った。

 

 最悪の想像ばかりが紗夜の頭を支配していく。考えを振り払おうとしても、嫌な予感が少しずつ現実味を帯びる。

 

 早く、彼に会いたかった。

 彼と再会して、そんな心配は杞憂だったと安心したかった。あの時変なことを言って余計な心配をさせた彼を口で言い負かせて、それで――

 

 突然、静寂を切り裂くように勢い良く病室の扉が開く。

 

 弾かれたように紗夜が顔を向けると、扉には自らの知己たちの姿があった。

 

「……っ!起きてたのね……良かった」

 

 ポニーテールで黒髪を結び、礼儀正しそうな雰囲気の少女。

 吊り上がった眉毛が印象的な、強気な顔をした青年。

 

「……香織、彰」

 

 彼らが無事に五体満足で生きていたという安堵が浮かぶ。

 それと同時に、言い知れない底無しの恐怖が紗夜を襲った。

 

 

 ()()()()

 普段なら彼らと共に居るはずの、()が居ない。

 

 

 それを察したのか、紗夜の目覚めを嬉しそうに受け止めていた香織は一転、悲しそうな顔で微笑んだ。

 

「紗夜、少し……ここで話をしましょう。彰も一緒に居るわ」

 

 逃げることの出来ない現実が、迫ってきていた。

 

 

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