どうもこんにちわ。新年会ではとんだ醜態を晒し、酒に滅法弱いことを知らしめてしまった優君です。お見苦しくて申し訳ない。
でもさぁ、あの時はみんなが酔っ払ってたよね。だってそうでもなきゃ、室内でデュエルディスクを使ったデュエルなんてしない。正気に戻ってから改めてみると、室内はとても悲惨な状態になっていました。まる。
あの後、俺は皆に飲酒禁止令を出されてしまった。だって未成年だから……では無い。『世界平和のためにもお前は酒を飲むな』と口を揃えて言われてしまったのだ。
俺としては城之内さんにデュエルで勝った辺りまでしか記憶が無いんだけど、どうもその後ウーロン茶と間違えてウィスキーのロックも飲んでしまい、完全に酒乱と化してしまったらしい。何でも、【ブルーアイズ】をリアル召喚しようとしたんだとか。何それ怖い。
遊戯さんの方も完全に潰れてしまっていたためにストッパーがおらず、最終的にはマハードがセルフ実体化して俺の脳天に一撃を加えて止めたとのこと……うん、カオス。
そして翌日になって目覚めると、起き上がれないほどの二日酔いとなっていた。もう酒なんて飲まん。絶対に。
そしてマハードが俺を殴ったことが気に食わないのか、エンディミオンがかなり怒った。でも状況を考えれば悪いのは明らかに俺だと告げると、とうとう旋毛を曲げて魔法都市に引っ込んでしまった。ああなってしまうと数日は戻って来ない。全く、大人げないなぁ。
時は流れて仕事始めを迎え、俺は再びKCでシンクロ召喚のテストプレイに付き合う日々に戻った。ちなみにチューナーモンスターだが、【エフェクト・ヴェーラー】・【ナイトエンド・ソーサラ-】・【マジカルフィシアリスト】・【氷結界の風水師】を受け取っておいた。チューナーとして使う機会は来年度まで無いと思うけど。
そんなこんなで日常は過ぎ、冬休みが終わるまであと数日となった日。俺はテストプレイを終えるといつも徒歩で帰宅していたのだが、この日は丁度モクバの帰宅時間と重なったようで、ついでに送ってくれると言われた。
しかし。
「いや、途中でスーパーに寄って食材買う予定だからいいよ。タイムセールの時間だし」
と、きっぱり断った。
本来なら車で送ってくれるというのは嬉しい申し出だ……運転するのはモクバではなく磯野さんのようだけど、それはともかく……より多くの買い物が出来るし。けれど、あんな見るからに高級なリムジンでスーパーに乗り付ける気にはなれない。
しかし俺のその説明に、モクバは嘆かわしいと言わんばかりの顔をした。
「お前、思考回路が完全に主夫化してるぜぃ……」
「え」
なん……だと……。
あ、うん、いや、それは誤解だよ、不本意だよ。
「じゃ、じゃあ送ってもらおうかな!」
そんな誤解を受けるぐらいなら、俺は甘んじて受けよう。リムジンでスーパーのタイムセールに行くという辱めを。
「報酬?」
どうやらモクバが俺を誘ったのは話があったからでもあるらしく、車内ではそんな発言が飛び出した。
「ああ。お前がここ最近やってる、シンクロ召喚のテストプレイ。あれは一応『バイト』ってことになってんだ」
「へぇ、そうだったんだ。でも報酬なら、この間貰ったチューナーがあるぞ?」
俺はデッキから【エフェクト・ヴェーラー】と【ナイトエンド・ソーサラ-】を取り出して見せる。ちなみに他の2枚は今はデッキに入れていないので、手元に無い。
しかしモクバは、否と小さく首を振った。
「それは、どうせ後数ヶ月もすりゃ世に出るもんを少し早く渡しただけだ。報酬は報酬で別に発生してるぜぃ。ただし、格安だけどな」
つまり、俺ってば扱き使われたんだな。
「だから、口座番号を教えて欲しいんだ。後々振り込むからよ」
あー、悪いんだけどさ。
「俺、口座って持ってないんだよね」
少しバツが悪いので視線を逸らしながら告げると、モクバは意外そうな顔をした。
「マジか!? お前なら貯金ぐらいしてると思ってたぜぃ!」
「いや、貯金はしてるぞ」
しかしいくら友人・幼馴染とはいえ、俺とコイツでは金銭感覚にかなりのズレがあるのだ。
「でもなぁ、それって銀行に預けるような額じゃないんだ。俺が手に入れる金なんて、小遣い・お年玉・逆カツアゲぐらいだったからなぁ。殆どがカード代で消えたし」
親戚付き合いが殆ど無いから、お年玉も微々たるものだったしね。
なお『逆カツアゲ』とは、町を歩いてる時に絡んでカツアゲしてきた不良を逆にブチのめして迷惑料や慰謝料を頂く行為である。俺は要求してないぞ、相手の真心の結果だ。
それはそれとして、貧乏人の俺と孤児院出身とはいえ今や大企業の幹部であるモクバでは、『貯金』の感覚がまるで違うのだ。俺にとっての『貯金』は貯金箱やタンス貯金で充分事足りるものだったのである。
「直接現金で貰えないか? ほら、よくドラマとかであるじゃん。封筒に入った金を手渡すヤツ」
「KCではそんなのしてねぇんだよ」
大企業めんどくさい……仕方が無いか。
「じゃあ、明日休ませてくれよ。銀行に行って口座作って来るから」
これまでは特に必要としていなかったから作ってなかっただけで、別にあったからって不都合が生じるものじゃない。
なのでそう頼むと、モクバは社長に伝えておくと快諾してくれた。よし、モクバが言ってくれるなら社長も切り捨てないだろう。
タイムセールでお買い得品を買い漁ってから帰宅、そして夕食時に俺は遊戯さんと双六じいちゃんを前に申し出た。
「というわけで、明日銀行に行ってきます」
本当ならば、『亀』のバイトとしてこの家に来た俺である。なのにKCに通いつめ、休みを取ったと思ったら外出というのは少し心苦しい。しかし必要なことなのも確かだからか、2人は笑って頷いてくれた。
「おぉ、そうじゃ。ならワシもそろそろ優君に渡すバイト代を計算せんといかんのぅ」
しかし、双六じいちゃんのその発言は意外だった。
「いや、あの。俺はここでのバイトは殆ど出来てないですよ?」
日中はKCに出向いているのだから、当然である。
「しかし、クリスマスまではここで働いておったじゃろ? 今でも時間が許す限りは手伝ってくれとる」
「家事全般も任せっきりにしちゃってるしね」
遊戯さんはそう苦笑すると、主菜の生姜焼きを箸でつついた。いやいや。
「家事なんて、滞在の対価としては安いぐらいですよ」
三食食って、屋根の下で眠れて、光熱費も払っていないのだ。それぐらいはしなければ。
「……毎日働きながら、朝5時に起きて洗濯と玄関先の掃除、朝食と昼の弁当作り。帰りにタイムセールで買い物して夕食作り。合間合間で時間を見付けてこまめに掃除。気付いたら布団は虫干しされてるし、服にはアイロンが掛けられてるし。これで対価として安いって、可笑しいと思うんだけど……むしろこの快適さに慣れてしまった後が怖いな……」
あれ、遊戯さん? どうしてそんなに遠い目になってるんだ?
「それぐらいは基本です」
惜しむらくは、武藤家にはポンプが無かったために風呂の残り湯での洗濯が不可能だったことだ。あぁ、水道代が勿体ない。
「君の基本ってどうなってるんだい? 僕が高校生の頃なんて、家事は全然出来なかったよ?」
でも俺は、これまでだってそうして生活してきたんだ。むしろここ最近は寮生活で少しなまってたから、気を引き締めるのに丁度良かった。
「優君はいつでも嫁に行けそうじゃのぅ」
「あのさ、だからその冗談笑えないんだって。双六じいちゃん」
コホン。話を元に戻そう。
「じゃあさ、クリスマスまでのバイト代は遠慮なく貰っとくよ。でもそれ以外は気にしないで」
全てを拒否するというのも、逆に失礼だろう。なのでキッチリ働いてた期間のバイト代は遠慮なく貰うことにした。
「では、そうしようかの……そういえば、優君は銀行がどこにあるのか知っておるか?」
うん?
「あーっと……どこだっけ?」
1番大事なことを忘れてた。
俺がこの町に住んでいたのなんてほんのちびっ子の頃で、銀行に行く用事なんて無かった。この冬休みに入ってからも、銀行に行くなんて考えたことは無い。なのでどこに行けばいいのかまるで解らなかった。
へらっと笑って訊ねたが、それに答えたのは双六じいちゃんでは無く遊戯さんだった。
「じゃあ明日、僕が案内してあげようか? 丁度お金を降ろそうかと思ってた所だし」
口座を作らなきゃいけない俺と違い、遊戯さんはただお金を降ろしたいだけなら銀行まで行く必要は無い。その辺のコンビニのATMで事足りる。
だというのに道案内を買って出てくれたのは、完全なる善意だろう。わざわざそう言ってくれているのだから、甘えた方がいい。
「……はい、お願いします」
俺は素直に頷き、玉ねぎの味噌汁を啜った。
翌日になって訪れた童実野銀行は、随分な賑わいを見せていた。
子供もちらほらといる。ひょっとしたらお年玉を貯金しに来てるのだろうか。キャッシュカード、持たせてもらえないのかな?
「じゃあ、僕はATMの方に行くから」
ヒラヒラと手を振って銀行の入り口付近に留まる遊戯さんは、さり気なく変装済みである。いくら地元とはいえ、騒ぎになる時はなるらしく、顔を隠すこともあるらしい。有名人も大変だ……でも遊戯さん、あなた、帽子被れたんですね。
「あ、はい。ありがとうございます」
ATMにも行列が出来ていて、それなりに時間が掛かりそうだ。でも恐らくは、俺の方が時間掛かるんだろうけど。昼時までには帰れないと思う。良かった、朝の内にシチューを多めに作っておいて。双六じいちゃん、温めて食べてね。
順番待ちの番号札を取り、小さく溜息を吐いてから空いている席に座るとバッグから雑誌を取り出す。この事態も想定して小説を持って来ていたが、ここに来る途中に寄ったコンビニでデュエル雑誌を衝動買いしていたのでまずはそっちから目を通す。
勿論デュエルディスクとデッキも持ってはいるが、まさか銀行でデュエルをするわけにもいかない。デッキ調整は昨夜やったから、今やっても大して意味無いし。
ふむふむ、来週には新規のパックが出るのか。魔法使い族は何か良いのが入ってるかねぇ……うん?
「どうした、少年?」
俺自身まだ『少年』と言える年代だけれど、隣に座っている黒髪の少年はさらに幼い。そんな彼が興味津々に俺の手元の雑誌を覗き込んできていたため、声を掛けてみる。
いや、ただ横から見てるだけなら放っておくんだけどね。熱中するあまりにどんどん体が傾いて、そんな彼の頭のせいで俺が雑誌を見難いもんだから。
彼は俺が声を掛けると漸く状況に気付いたようで、ハッと顔をあげて俺を見た。うん、いきなり体を起こすのは止めようか。鼻の頭を後頭部に打ち付ける所だったぞ?
「ご、ごめんなさい……」
恥ずかしいのか消え入りそうな声で謝罪する少年に、俺は安心させようと微笑む。
「別に怒ってるわけじゃないよ。見たいなら一緒に見ようか?」
すると少年はパッと顔を明るくさせる。
「本当!?」
いっ!? おい、ちょ。
「おい、うるせぇぞ!」
少年の声は大きく、しかも甲高かったために周囲によく響く。マズイと思った次の瞬間には、俺の逆隣りに座っていたガタイのいいおっさんに窘められてしまった。
「すいません、以後気を付けますんで」
知らないおっさんに怒られてビクついた少年に変わって俺が頭を下げると、おっさんはフンと鼻を鳴らして開いていた新聞に視線を戻す。
「少し声のボリューム落とそうぜ。俺の名前は優。よろしくな」
苦笑しながら注意をすると、少年もコクリと頷く。素直な子だ。
そして恐らくは精々数十分~数時間の付き合いになるだろうけど、自己紹介は忘れてはいけない。でないと俺は不審者Aになってしまう。
「僕はツトムっていうんだ。よろしくね」
話を聞くにツトム少年はやはりお年玉貯金に来ていて、そんな彼はカードが、引いてはデュエルが好きだと言う。しかし同時に、だからこその悩みもあるんだとか。
「僕、全然勝てないんだ……」
しかも、それで周りにバカにされてしまうのが憂鬱らしい。
「弱い奴とデュエルしたって楽しくないんだって」
あれ? いつの間にお悩み相談室になってるんだ? ……ま、いっか。
「気にするな。言いたい奴には言わせとけ。世の中には色んな奴がいるから、お前とのデュエルを楽しいと言ってくれる奴もどこかにはいる。身近にいないのなら、いつか探しに行けばいい」
「そうなの?」
「ああ」
俺は頷き、ちょっと苦い記憶を引き摺り出した。
「お前は『弱い奴とデュエルしたって楽しくない』って言われたんだろ? 逆に『勝てない奴とデュエルしたって楽しくない』って言うのも、世の中にはいるしな」
実話である。
昔この町に住んでいた頃、俺は同年代の中では負け知らずだった。正直、自分でも仕方が無いと思う。何しろ前世の記憶のお陰で知識量がまるで違ったし、踏んできた場数も桁違いだったからメンタル面も鍛えられていた。
そしていつしか、『勝てない奴とデュエルしても楽しくない』と言われて敬遠される始末。わざと負けでもすればそうはならなかったんだろうが、俺はそんな接待デュエルをすることこそ相手への侮辱だと思ってる。
その結果がボッチだった。友人は殆どが遊戯さん繋がりの高校生以上、1番年が近くてもモクバやレベッカ。ちびっ子としてどうかとは思うが、どうしようもなかった。
けれど世の中には色んな奴がいるもので、この町から引っ越した先で出くわした奴はそうでは無かった。要は十代のことなのだが。
はっきり言えば、初めて会った頃のアイツは弱かった。無理も無い。ユベルを手放してそう経っていない頃だったからか、HEROデッキも組んだばかりだったし。しかも周囲に気味悪がられて他に相手がいなかったようで、俺とのデュエルがそのHEROデッキの初陣だったし。
今でこそ勝ったり負けたりしてはいるが、あの頃はワンキルも珍しくなかったのだ……まぁ、だからこそ俺は知っている。アイツの成長速度は凄まじかった。
話を戻すが、十代は負け続けてもデュエルを楽しんでいた。勿論負けて悔しがってはいたし、他に相手がいないということもあったんだろうけど、それでも楽しんでいた。
「頑張れよ、少年」
ポンポンと頭を叩いてやると、ツトム少年ははにかんだ。その時、窓口のモニターに表示された数字を見咎め、ツトム少年は立ち上がる。
「僕の番だ! 行ってくるね!」
元気だなぁ、と少しほのぼのしながら見送り、俺は再び雑誌に視線を落とす。しかし、それからさほど経たずに。
「優君、まだ終わってないの?」
正面から声を掛けられてそちらを見ると、帽子にマフラーの遊戯さんがいた。
「あ、遊戯さん。はい、まだです」
軽くとはいえ変装しているのだし、もしもこの場にツトム少年がいたら素直に名前を呼びはしなかっただろう。だがこの場に彼はおらず、そのままダイレクトに呼ぶ……すると。
「げっ!?」
先ほどツトム少年の大声を注意したおっさんが、もの凄く嫌そうに呻いた。驚いて俺と遊戯さんが揃っておっさんの方を見ると、彼は既に手に持つ新聞を掲げて顔を隠していた。心なしか、その手が震えている。
「あれ?」
遊戯さんが、不思議そうに首を傾げる。あれ、ひょっとして知り合い?
遊戯さんが新聞の横からおっさんの顔を覗き込もうとすると、おっさんは新聞をますます顔に近付けて隠れようとする。おい、何か疾しいことでもあるのか?
しかし所詮は新聞、完全に姿を覆い隠すことなんて出来やしない。遊戯さんが更に身を乗り出しておっさんの顔を確認すると、懐かしそうに破顔した。
「やっぱり! 牛尾さん!」
その言葉にとうとう諦めたのか、渋々新聞の影から顔を出す牛尾さん。その表情は苦虫を噛み潰したようだった……って。
う、牛尾さん!? 牛尾さんって、あの!?
「ボディーガード料20万の人!?」
ギリギリでTPOを思い出して声量は抑えたけれど、思わず指を指してそう言ってしまった。けれどそれに牛尾さんだけでは無く、遊戯さんも驚いたように目を丸くする。
「え? 優君、どうしてそのことを知ってるんだい?」
「へ?」
原作知識です……とは言えず。
「その……昔、双六じいちゃんと城之内さんの話を聞いてしまって……」
嘘では無い。城之内さんが千年パズルの最後のピースを届けに『亀』まで来た時、例によって両親がまだ帰宅していなかった俺は、お隣に預けられていたのだ。そしてその場面にも出くわした。
尤もその当時は俺も前世の記憶など戻っておらず、ちょっと口が達者なだけの正真正銘ただのちびっ子だったので、彼らの話の内容などまるで理解しちゃいなかったのだが。
遊戯さんもその説明で納得してくれたらしく、それ以上ツッコんではこなかった。己の黒歴史を見知らぬ子供に明かされた牛尾さんは、盛大に顔を引き攣らせていたけど。ごめん。
「そうなんだ。でも久しぶりだね、牛尾さん」
遊戯さん、そんな恐喝紛い……ってか恐喝そのものの被害を受けながら、そのにこやかさ。あなたが菩薩か。
しかしそんな遊戯さんの態度に面食らったのか、牛尾さんは挙動不審になっているが。
「あ、あぁ。そうだな……」
視線が忙しなく移動しているし、脂汗もかいている。さっきは思いっきり顔を隠して他人のフリをしようとしてたし、これは確実にアテムさんの罰ゲームがトラウマになってるな。
大丈夫だよー、遊戯さんはそんなことは多分しないよー……出来ないとは言わない。だって出来そうなんだもの。
そんな牛尾さんに気付いているのかいないのか、遊戯さんは俺と牛尾さんの間に腰を下ろした。あ、俺はちゃんと少し横にズレて遊戯さんの分のスペースを開けたよ。牛尾さんはギョッとしてたけど。
「そういえば牛尾さん、警官になったって聞いたよ。お疲れ様です」
牛尾さんの進路の話題を出す遊戯さん。でもそうか、牛尾さんって警官なのか……そして行く行くはセキュリティに行くのか。
遊戯さんに他意は無いだろう。しかし牛尾さんはギョッとする。まぁ、人によっては『恐喝未遂犯のくせに警官とか片腹痛いぜ』という遠回しな嫌味に聞こえないことも無いしね。
「お、おぅ……」
遊戯さんはそのまま牛尾さんにいくつか話題を振った。その時に俺の紹介もしてくれたよ。
でも牛尾さんは明らかに話しかけられるのを嫌がっていた。他人になりたがっている。何という風評被害か。
遊戯さんはそれに寂しそうな顔をしたけれど、かつてのアテムさんの寝ぼけによって牛尾さんがどんな目に会ったのかは知っているようで、特に言及はしなかった。まぁ牛尾さんは因果応報、自業自得なんだけどさ。
しかし、やれやれと肩を竦めた、その瞬間だった。
「テメェら、動くんじゃねぇ!!」
突如銀行内に響き渡った怒号に驚いてそちらを見ると、そこにいたのは目出し帽を被った4人組。4人の内2人は銃を持っていて、片や銀行員に突き付けて凄み、片や客たちに銃口を向けて構えていた。他の2人はデュエルディスクを構えて周囲を威嚇している。
うむ。
「テンプレな銀行強盗ですね」
「今時いるんだね、ああいうスタイルの強盗」
「テメェら余裕だな!」
遊戯さんと2人で驚いていると、牛尾さんがツッコんできた。そのツッコミはかなりの声量があったけれど、強盗に怯えた客たちの悲鳴に紛れてしまって俺たち以外には聞こえていなかったと思う。
でもさぁ。
「じゃあ牛尾さんが何とかしてよ、警官でしょ?」
「アホか! 俺は今日非番で、ちょっと印鑑の変更手続きに来てただけなんだよ! 手錠も拳銃も、それどころか警察手帳も持ってねぇんだ! それで武装した強盗集団に1人で立ち向かうなんて無茶が出来るか!」
……牛尾さんなら出来そうな気がする。だって、きっとリアルファイトがすっごく強いと思うんだ。
「でも牛尾さん、城之内君と本田君を纏めて相手しても快勝してなかったっけ?」
遊戯さんも同じことを考えたのか、不思議そうに首を傾げていた。しかし牛尾さんは溜息を吐く。
「あのなぁ! ここで下手に動いてあいつらを刺激して、他の客たちに被害が出たらどうすんだ!」
なるほど納得。やはり一応は警察官、市民の安全を考えたのか。
そして牛尾さんのお言葉は至極尤もである。周囲の人間を巻き込むべきでは無い。それに思い至った俺は、カードをドローしようとデッキトップに置いていた指をどかした。遊戯さんもそうだったのか、デュエルディスクを構えようとしていた動きを止めて姿勢を正す。うん、下手にカード効果を発動させて周囲に迷惑かけちゃいけないよな。
ここは、大人しくしておいた方がいいのかもしれない。エンディミオンがいなくてよかった。いたら絶対騒いでただろうしね。
そんな俺たちのささやかな挙動には気付かなかったのか、牛尾さんは声を潜めて言葉を続ける。何故潜めたのかというと、客たちの阿鼻叫喚を煩く思ったらしい強盗の1人が威嚇射撃をして黙らせたためだ。それでかなり静かになったから、これじゃあボリュームを落とさないと聞かれてしまうだろう。
「心配しなくても、あいつらの犯行はお粗末なモンだ。警察に任せとけ」
言われた時は俺もそう思って大立ち回りは控えたのだが、そうは問屋が卸さなかった。
強盗団の犯行がお粗末、というのは間違い無い。しかし逆に、あまりにもお粗末すぎた。
すぐに逃亡すればいいものを、モタモタしてるもんだから駆け付けた機動隊に銀行を取り囲まれるし。しかし取り囲まれたからこそ、膠着状態が発生してしまっていた。
はっきり言おう。強盗団は銀行員や客を人質に立て籠もってしまったのだ。結果的に。
そしてそれからおよそ2時間。何やかんやあって。
「テメェら、こいつらの命が惜しけりゃ退けェ!!」
強盗団は逃走用の車を用意させ、俺と牛尾さんを人質に逃走を図った。
え、『何やかんや』って何だって?そりゃまあ、色々とあったんだよ。
あっと言う間に包囲されて、立て籠もるのに疲れてキレかけた強盗団の1人が、人質状態に限界が来て泣き出してしまった子供に発砲しかけ、ついに牛尾さんが割って入ってしまったのが発端だった。ちなみに、その子供ってツトム少年だったよ。俺はといえば、カード手裏剣を会得できていない自身を呪ったね。遊戯さんもあまり得意では無かったみたいだし。
そして強盗団の1人が牛尾さんに見覚えがあったらしく、交番のお巡りさんだと暴露……牛尾さん、あんた、交番勤務だったのか。
強盗団は行内の人質を盾に、牛尾さんに逃亡用の人質となることを要求。牛尾さんは渋々承諾。流石は警官。
しかし強盗団は牛尾さんに気付いたと同時、その隣に座っていた遊戯さんのことも気付いてしまったらしい。
初めは遊戯さんのことも人質に取って身代金でも要求しようかと思ったようなのだが、すぐに諦めた。KCやI2社、それに全世界の決闘王ファンを敵に回すのは、警察を敵に回すよりも遥かに恐ろしいことだと気付いたからだ。
まぁ、最も恐ろしいのは遊戯さん本人だということに奴らが気付かなかったのは仕方が無い。傍目にはこの人、まるっきり人畜無害そうに見えるから。
その代わりに、遊戯さんが持っていたデュエルディスク……もっと言うとデッキに目を付けた。中々目ざとい。アレを裏で売れば、かなりの値が付くだろう。
そしてそれを奪うために、遊戯さんの隣……牛尾さんとは逆隣……に座っていた人間が人質にされた。警官の牛尾さんよりも一般人を人質にした方がいいと判断したんだろう。
お気付きかと思うが、それは即ち俺である。
いい加減暴れてやろうかとも思ったのだが、俺たちの目の前にいる強盗その1以外の3人の強盗は依然として他の客たちのすぐ傍にいて、下手に手を出すと万一のことが起こってしまいかねなかった。
そして強盗は遊戯さんのデッキを手に入れ、牛尾さんと俺を人質に逃亡を図ったというわけだ。
元々人質とされる予定だった牛尾さんはともかく、俺まで一緒に連れて行かれたのは偶然だった。一般人もいた方がいいかもと強盗団は判断したらしく、俺もそのまま人質コースだったのだ。
これは不幸中の幸いである。遊戯さんのデッキを取り戻すチャンスだ。他の民間人がいない状態でなら、思いっきりやれる。
遊戯さんもそう判断したからひとまずデッキを預けたのであって、おそらくはすぐに取り返すつもりだっただろうし。それが少し早くなっただけのこと。
大丈夫、こいつらの武装は銃とデュエルディスクのみ。これぐらいなら何とかなる。
ただ俺はこの日、警察が頼りにならないということを知った。
「無いわー。逃亡車両を見失うとか、マジで無いわー」
「……悪かったな」
俺の呆れたような発言に、牛尾さんは苦虫を噛み潰したような顔をした。
用意された逃走用の車に乗り込んだ強盗団+人質2名は、町中を縫うように進んだ。当然警察は尾行していたのだが、強盗団の『人質がどうなってもいいのか!』の一言によって距離を取り、そのまま見失ってしまったらしい。
強盗団もお粗末だが、警察もお粗末である。そう思っての呟きだったが、同じ警察組織の一員である牛尾さんも流石に擁護できなかったらしく、返って来たのは小さな謝罪の言葉だったというわけだ。
全く、シチューを多めに作っておいて本当に良かった。これじゃあ今夜は夕食を作ってる暇なんて無いだろうし。
「へへっ、金は手に入ったし、思わぬ収穫もあったな!」
「ああ! まさかあんな所に決闘王がいたとは思わなかったぜ!」
既に暑苦しそうな目出し帽を脱いだ男たちは、下品な笑い声を上げながら益体も無い話をしている。その話の内容が、これまた腹立たしい。
遊戯さんが今日あの銀行にいたのは、俺のせいだ。そう思うと少し気が重くなった。そのせいでこんな奴らにデッキを取られることになったんだ。これは責任を持って取り返さなければ。
俺がそう決意を新たにしてからそう経たず、車は廃工場の中へと入って行った。既に銀行を出てからそれなりに時間は経っており、ここは人気の無い山の中。一時的な隠れ家としては恰好な場所であるここは正直、もう童実野町では無いだろう。
「じゃ、俺たちは準備してくらぁ」
4人の内の2人、運転席と助手席に座っていたやつらが車から降り、残されたのは人質2名と銃を持った残りの強盗2人の計4人。
窓からぐるりと辺りを見渡してみると、工場の入り口に2台のバイクが停められているのが見えたた。しかも車を降りた2人はそちらに向かっている。なるほど、ここで乗り換えて更に逃亡を続けるつもりなのか。しかし2台ということは、俺と牛尾さんを乗せる余裕は無いということだ。
となるとこいつらが次に取る行動は、俺たちを拘束してここで置き去りにするか、或いは。
「お前らにはここで死んでもらうぜ!」
やっぱりそうだよねー、目出し帽を脱いで素顔を晒した時点で予想は出来たよ。そんなことを言い出すんじゃないかって。
「おい待て! このガキは解放しろ!」
……って、牛尾さん!? ガキって俺!? あんた良い人過ぎるだろ!?
「な~に言ってやがる! 顔を見られたんだ、生かしておくわけが無ェだろうが!!」
それはそうだが、俺が進んで見たんじゃなくてお前らが勝手に晒したんだろ?
俺たちはワンボックスカー(ワゴンタイプ)の2列目に牛尾さん、3列目に俺がいて、その両者の右隣に1人ずつ強盗がいる形で座っていた。なので強盗その1が牛尾さんの蟀谷に銃をぐりぐりと突き付けているのを間近で見、俺は溜息を吐きたくなる。
「随分と余裕じゃねェか」
俺が落ち着いた様子なのが面白くないのだろう、俺の隣にいる強盗その2がこれ見よがしに銃を振った……ふむ、リボルバーか。精霊を呼ぶ必要は無さそうで良かった。
「騒いでも意味は無いからね」
俺が大人しく両手を上げてそう言うと、隣の強盗はピューと口笛を吹く。
「へぇ~、解ってんじゃねェか!」
「おい、諦めてんじゃねぇ!」
牛尾さん。心配してくれてるのは嬉しいけど、こっちはタイミングを見計らってるんだからちょっと放っといて。
強盗その2が拳銃を構え、俺の蟀谷にそれを突き付けた。それをニヤニヤと見る強盗その1と、焦ったように身を見開く牛尾さん。
「死ねェ!!」
よし、今だ。
「よっ……と!」
「なっ!?」
俺は一瞬の隙を付いてコートの右袖口からカードを1枚摘みだし、そのまま振り落した。いくらノーコンとは言ってもほんの10cm程度を落とすだけで狙いが逸れるわけがなく、そのカードは狙い通りに銃身と撃鉄の間に滑り込んで発砲を防いだ。
そして。
「ぐぇっ!?」
敵の動揺が覚めない内にその腕を捻り、銃を奪い取る。その際、トリガーに掛かっていた相手に指から変な音がして可笑しの方向に折れ曲がったような気がするけど、きっと気のせいだろう。
「お、おい……グハッ!」
俺の行動に驚いたのは前の座席に座っている強盗その1も同じだったようで、一瞬呆けたその隙に牛尾さんの拳を顔面に食らっていた。流石は牛尾さん、世紀のリアルファイター。
強盗その1はそのまま伸びてしまったらしく、ピクリとも動かなかった。そいつが持っていた銃は牛尾さんが奪い、自分たちが武装解除されてしまったことに気付いた強盗その2の顔色が悪くなる……気付く前から、顔色は悪かったけど。右手を押さえて、脂汗をかいてさ。
「牛尾さん、反応早いね~」
奪った銃をくるくると弄びながら言うと、牛尾さんは大きな溜息を吐いた。
「あぁ……思い出したんだよ。テメェが魔王の弟子だったってことをな。何を仕出かしたって可笑しくねぇ」
「魔王?」
魔王、魔王……あ、それってアテムさんのこと? いやあのさ、その時はアテムさんも寝起きで、ちょっと寝ぼけてヒャッハーしてただけだと思うんだ。だからそんなこと言わないであげてくれないか?
「それよりお前、そのカードはどうした?」
気を取り直した牛尾さんの視線の先にあるのは、俺の左手。そしてその手に握られたカード。先ほど銃の撃鉄を止めたそれだ。
「遊戯さんに渡されたんだ」
肩を竦め、俺はほんの数時間前を思い出す。
「強盗団の目を盗んで、ほんの一瞬の隙を突いてね。今日銀行に行く前に寄ったコンビニで買ったパックに入ってたんだってさ。で、もしかしたら役に立つかもしれないからって」
そしてそれを、いつでも取り出せるように袖口に隠して仕込んでたってわけだ。
コンビニで俺は雑誌を買ったが、遊戯さんはパックをいくつか買っていた。そしてこれは、そのパックから出たカードの内の1枚らしい。
ちなみに、俺はパックは買わなかった。だって本土のコンビニで現金で買うより、アカデミアに戻ってから購買でDPで買った方がお得だし。
「でもさ、毎度のことだけど思うよ。あの人は一体どんな引きをしてるんだって」
苦笑と共に見下ろしたカード。その名は【逆転の女神】。何だってピンポイントにそんなカードを引くんだあの人は……今更言ってもしょうがないけど。
未だ右手を押さえて呻いている強盗その2の脳天を、グリップで軽く殴って気絶させておく。よし、これで奴もこれ以上苦しまなくて済むだろう。
さて、と。
「こいつらはこれでいいな。後は遊戯さんのデッキを取り戻して終わりだ」
しかしその宣言に、牛尾さんはギョッとした。
「おいおい、これ以上は警察の仕事だ! 一般人は下がってろ!」
「警察はあてにならない」
「うぐっ……」
バッサリと切り捨てると、牛尾さんは否定しきれないのか言葉を飲み込んだ。まぁ、逃走車両を見失うような体たらくだからね。
「一般人でも、やる時はやるんだよ」
そのまま牛尾さんの答えは聞かずに車を降りる。
「あ、おい! 待て!」
牛尾さんも慌てて降りて後を追ってくるが、止まる気は無い。
「おい、お前ら! デッキを返せ!」
「「なっ!?」」
銀行で奪った金を別の鞄に詰め替えたりなどして準備していた残りの強盗2人は、仲間たちでは無く俺と牛尾さんの姿が車外にあることに目を剥いていた。しかもかなり動揺している。まぁ、拳銃はあの2人が持っていた2丁だけみたいだし、無理も無いか。
「テ、テメェら! 俺たちの仲間はどうした!」
答える義理はあまり無いかもしれないけど、一応答えよう。
「車の中で仲良くお寝んねだ。解ったらデッキを返せ……ついでに金も」
危ない危ない、うっかりこいつらが金を奪ったことを忘れる所だった。でも銀行強盗、ダメ、絶対。
「くっ……」
「おい、ズラかるぞ!」
「あ、おい!」
俺たちと強盗たちの間には、まだ少し距離があった。マズイと思ったのだろう、強盗達の判断は早かった。折角奪った金は放って、あっという間にバイクに乗って逃走してしまったのだ。
繰り返そう。折角奪った金『は』放って、あっという間にバイクに乗って逃走してしまった。
つまり。
「返せー! 遊戯さんのデッキ!」
デッキは奪われたままである。もっと言うと、あいつらはデュエルディスクごと奪ったデッキを腕に装着させていたため、そのまま一緒に持って行ってしまったのだ。
チッ、こうなったら!
「よし、鍵は挿さってる」
奴らはバイクに2人乗りをして逃げて行った。元々4人で2台を使うつもりだったようだから、ひょっとしたら片方は運転が出来ないのかもしれない。
そのため残されたもう1つのバイクを見てみると、運の良い事に鍵が挿さっていたのだ。これもあいつらの逃走準備の一端だったのかもしれない。
「おい待て! まさか追いかける気か!?」
けれど、そんな俺を止めたのは牛尾さんだった。あぁ、もう!
「デッキを取り戻すって、さっきから言ってるだろ!」
段々イライラしてきたのもあって、つい怒鳴り返してしまう。しかし牛尾さんは怯まなかった。
「あんまり深追いするな! 第一、免許持ってんのか!?」
「するなと言われたってする! それと、免許なんて持ってるわけないだろ! 俺は15歳だ!」
うん、俺ってば実は早生まれなんだよ。だから誕生日はまだ。なので15歳。法律という壁に阻まれるため、免許は持っていない。
だが。
「昔、色々あってね……免許は無いけど運転は出来る」
「それ1番ダメなヤツじゃねぇか!」
牛尾さんは頭を抱えるが、多分、彼の想像と俺の事情は全く異なる。
俺が運転できるのは単に、前世で免許を持っていたからに過ぎない。前世の俺は『ライディングデュエルかっけー!』と憧れ、16歳になってすぐに免許を取った。残念ながら……というか当然ながら、取ったのはあくまでもバイクの免許であって、Dホイールのライセンスでは無いが。
「とにかく! こうしてる間にもあいつらは遠くに行っているんだ。俺はこのまま行く」
ここは元々人気のあまり無い山の中。しかも山に入ってからは殆ど一本道だった。その上フェーダーが尾行してくれているから、万が一にも見失うことは無いだろう。だからこそ、早めに追いかけてさっさと捕まえてしまいたい。
「だぁぁぁぁ! こんの野郎!」
激しく苦悩する牛尾さん。しかし俺の本気は感じ取ったのだろう、もはやヤケクソとばかりにバイクに乗った。そして。
「目の前で無免許運転なんざさせられるか! 俺が運転する!」
おぉ! 良い人だな牛尾さん!
「解った! さぁ、行くぞ!」
「行くぞじゃねぇよ、行くぞじゃ! くっそー、やっぱり魔王の身内と関わると碌なことになりゃしねぇ!!」
アクセル全開、俺たちは廃工場を後にした。
1度視界から消えてしまった2人だったが、すぐにその姿を視界に収めることが出来た。やはり早めに追いかけたのが良かったらしい。
「やべぇ、追って来たぞ!」
背後からのエンジン音に気付いたようで、バイクの後ろに乗っている男……強盗その3が慌てた声を出した。
何だかんだで牛尾さんは相当のテクニックがあるようで、曲がりくねった峠道を難なく進み、すぐに強盗達に追いついた。うん、これならきっと近い将来、ライディングデュエルだって出来るね牛尾さん。
「おい待て! デッキを返せって言ってるだろ!」
そして俺は並走しながら強盗に罵声を浴びせる……誤解しないでほしいが、互いのエンジン音のせいでこうして声を張り上げないと会話が成立しないのである。
ってかお前ら、俺が言葉で訴えてる内に返せよ。でないと実力行使に出るぞ。
「うるっせー! 金を置いて来ちまったんだッ! こいつまで手放してたまるか!」
というかそもそも、窃盗で財を成そうという方が間違いである。
でもこれはダメだ、話が通じない。ならば。
「おい!」
話は通じない。かと言って実力行使は最終手段。それに何より、これは……チャンス!
「デュエルしろよ!」
俺は自分の付けているデュエルディスクを起動させながらそう言った。
「こらボウズ! 手ェ放してんじゃねぇ!」
牛尾さんが慌てた様子で俺に注意するが、大丈夫。ちゃんと全身でバランス取って落ちないようにしてるから。
「デュエルだぁ!?」
デュエルを挑まれた強盗その3は胡乱げな顔をした。
「そうだ! お前が勝てば俺たちは追跡を止める!」
そして精霊をけしかけるのだが、そんなことは言わない。
「だが俺が勝てば、そのデッキを返してもらう!」
「ハッ! バカかテメェ! これが誰のデッキか解ってそんなこと言ってんのか!?」
俺の提案を強盗その3は鼻で笑うが、俺は本気だ。
「上等だ! デュエルはデッキが良いからって勝てるもんじゃないって証明してやるよ!」
昨夜、遊戯さんもデッキ調整を行っていた。ただし調整したのは遊戯さんが今使っているデッキでは無く、いずれアカデミアで展示することになった『かつてのデッキ』だ。準備だけは今の内にしておくらしい。
ただし俺が貰ったカードはまだ組み込んでおらず、同名の別カードを使っている。そのため完全な再現では無いのだが。
そしてそのデッキを使い、俺とデュエルした。ちなみに負けました。
もしもあのままデッキを入れ替えてなければ、あのディスクにセットされているのはそのデッキだろう。
それは確かに強力なデッキだ。しかし同時に、果てしなく重いデッキでもある。上手く回すのは難しい。
つまり、いくら強いデッキでも、使い手が未熟ではどうにもならない。それをあいつらに教えてやる。
「待て、ボウズ! 追い掛けるだけじゃねェのか!? 何をデュエルの申し込みなんざしてやがる! つーかバイクに乗ってデュエルって、正気か!?」
「口を挟まないでくれ、牛尾さん! 俺は真面目な話をしているんだ!」
「俺だって真面目に注意してんだよ!」
あれ、牛尾さん? 泣きそうになってない?
一方で強盗犯は2人とも乗り気になっていた。このままでは埒が明かないと感じていたんだろう。
「よォし、受けてやる! 途中で逃げるんじゃねぇぞ!」
よし、決定だ。
「待てって言ってんだろ! 運転してるのは俺だぞ!」
あ、そういえばそうだ。でもさ。
「心配は無い! バイクに乗っただけの普通のデュエルだ! 牛尾さんは運転にだけ集中してくれていればいい!」
スピードワールドもフィールも無いんだ、注意を払えば問題は無いだろう。
「普通のデュエルだぁ!? どこがだッ! 可笑し過ぎるだろうが!」
「大丈夫! オゾンより下だから問題無い!」
「違うだろうが! まずバイクに乗ってる時点で普通のデュエルじゃねぇんだよ! 気付け小僧!」
バイクに乗ってデュエルするぐらいはままあることだ。このチャンスを逃してなるものか。
「行くぞ! ライディングデュエル! アクセラレーション!」
元々前世において、ライディングデュエルに憧れてバイクの免許を取った俺だ。
しかし前世には当然ながらライディングデュエルなど無く、今生においても今はまだ存在していない。それにもしこの先ライディングデュエルが生まれたとしても、スピードワールドを必須とするそれを俺が進んでやることはまず無いだろう。デッキコンセプト的に。
なのでこうして図らずも発生した疑似ライディングデュエルに気分が高揚しないわけが無く、ノリノリで開始を宣言した。うん、ちょっとハイになってるのは否定しない。
「聞けよこのクソガキィィィィィ!!!」
あ、牛尾さんは放置の方向で。ゴメンね、後でお礼はするから。
「「デュエル!!」」
強盗その3 LP4000 手札5枚
優 LP4000 手札5枚
「俺のターン! ドロー!」
強盗その3 LP4000 手札6枚
先攻は強盗その3。奴は勢いよくカードを引き抜くと、クツクツと笑い出した。
「ククッ、これが決闘王のデッキか! 見たこと無ェカードも入ってるが、使ってりゃその内解んだろ! 俺はまず【魔導戦士 ブレイカー】を召喚!」
ソリッドビジョンで現れる見慣れた魔導戦士が静かに佇む。黙って立ち止まりつつ、その映像は高速で動く……うん、昔アニメで見たライディングデュエルのように、モンスターが進行方向に走ったりする飛んだりする動きは無いんだな。いや、ただバイクに乗ってやってるだけの普通のデュエルなんだから、当然か。本物のライディングデュエルのような動きをするはずが無い。
「【魔導戦士 ブレイカー】の召喚に成功した時、コイツに魔力カウンターが1つ乗り、攻撃力が300上がる! 攻撃力は1900だァ!」
うん、知ってるよ。俺も使ってるし。
【魔導戦士 ブレイカー】 攻撃力1600→1900
魔力カウンター(強盗その3):【魔導戦士ブレイカー】 0→1
「更にリバースカードを3枚セット! ターンエンドだ!」
強盗その3 LP4000 手札2枚
モンスター (攻撃)【魔導戦士 ブレイカー】 カウンター1 攻撃力1900
魔法・罠 伏せ3枚
へぇ、終わってみればそれなりに堅実な1ターン目だな。しかしそうして感心する一方で、俺はちょっと困惑していた。
「俺のターン! ドロー!」
優 LP4000 手札6枚
俺が何に困惑しているのか? それは俺の手札にあった。
【大嵐】
【熟練の黒魔術師】
【強欲な壺】
【手札抹殺】
【黒魔族復活の棺】
これが俺の初期手札5枚である。しかも、新たなドローカードは【闇紅の魔導師】。
お解り頂けるだろうか? 【魔法都市】の【テラ・フォーミング】も無いのである。もう1つの里お触れデッキならともかく、こっちのデッキでこんなことは初めてなんじゃなかろうか。
確かにエンディミオンは旋毛を曲げたまま、まだ魔法都市から戻って来ていない。しかしだからといって、それぐらいで俺のドロー力が大幅に落ちるということも無い。だって多少喧嘩したぐらいで、俺たちの絆は消えないのだから。
しかし、【強欲な壺】も手札にある。不思議がるのはその結果を見てからでもいいか。
「俺は【熟練の黒魔術師】を召喚! ……くっ」
【ブレイカー】と対峙するように現れる魔術師。彼もまた、静止したまま進行方向へ動くという奇妙な状態となった。
そして【黒魔術師】を召喚したと同時、少し大きめのカーブに差し掛かったためそちらに意識を向ける。
うん、ライディングデュエルって凄いスリル。
そのカーブも過ぎた後、デュエルを再開した。
「そして【強欲な壺】を発動! デッキからカードを2枚ドローする!」
さて、この2枚で狙ったカードが来ればいいのだが。
少し緊張しながらまずは1枚目をドローし。
「へ?」
目が点になった。
視線の先にあるのは、1枚のモンスターカード。その名は【翻弄するエルフの剣士】。いやいやちょっと待とう。
え、ちょ、俺のデッキに入ってる魔法使い族以外のモンスターは今の所、フェーダーだけのはずだぞ!?
しかも【翻弄するエルフの剣士】って、それは遊戯さんのデッキに入ってるはずのモンスターじゃ……って、ちょっと待て。これってまさか……。
い、いや落ち着け俺。何故か偶然入り込んでしまっただけかもしれないし! 2枚目をドローしてみるんだ!
しかし、2枚目をドローした俺は。
「…………」
沈黙するしか無かった。その視線の先にあるのはマジックカード、【千本ナイフ】。
嫌な予感が現実になりそうだというのをますます実感した俺は、自分が付けているデュエルディスクを観察してみる。あれ、そう言えば付いている細かい傷の位置とかが違うような……。
次いで確認するのは融合デッキ。すると【エンシェント・フェアリー・ドラゴン】と白紙のカードしかないはずのそこには、数枚のカードが眠っていた。
【有翼幻獣キマイラ】
【竜騎士ガイア】
【超魔導剣士-ブラック・パラディン】
【アルカナ ナイトジョーカー】
「…………」
これって、もう確定のような……いや、でももう一押し。
「手札から【大嵐】を発動! フィールド上のマジック・トラップをすべて破壊する!」
「何ィ!? テメェの場にマジック・トラップは無ぇじゃねーか!」
「そうだ! だからお前の3枚の伏せカードのみが破壊される!」
巻き起こる突風に伏せカードが起き上がり……同時に2体のバイクもバランスを崩しかけたが、何とか持ち直す……その姿を露わにする。その3枚は【ミラフォ】と。
「【トーラの魔導書】に【漆黒のパワーストーン】……」
あのカードたちが遊戯さんのデッキに入ってるわけが無いよね!
つまり……つまり……。
今俺が使ってるのが遊戯さんのデッキで、あの強盗その3が使ってるのが俺のデッキだ……!
え、どういう事!?
えーと、えーと……昨夜は何とも無かったよね。でも今朝……あ! そっか、今朝家を出る時に取り違えたんだ! 嘘、こんな事ってあるんだ!?
デュエルディスクは、遊戯さんのもおれのも同じ旧型。しかも双方とも修理しつつ使い続けてきたから、程よく草臥れている。
初期手札に来てたカードたちは揃いも揃って俺のデッキにも入ってたカードだったし、強盗その3が召喚したモンスターもどちらのデッキにも入ってるモンスター。それで気付くのに遅れたんだ。
精霊に教えてもらえたら気付いたのかもしれないけど、エンディミオンは魔法都市に引き籠ったままだし、マハードは精霊界に修行に行ってる。マナは久々に帰郷した杏子さんと温泉旅行に行ってるし、クリボーやフェーダーは喋れない。うん、間が悪いことこの上ない。
ちっくしょう、なんてこった。
つーか返せ! 俺のデッキとディスク! 返せ!!
「どうした、決闘王のデッキにビビっちまったか!?」
黙って頭を抱える俺に、強盗その3がヤジを飛ばす……うん。
「たしかにビビってるよ……ある意味では……」
思わずボソリと溢してしまう。
だって俺、さっき思ったもん。遊戯さんのデッキは強力だけど凄く重くて、上手く回すのが難しいって。見事にブーメランになって帰って来たよ……ちょっと待て。
この状況は拙くないか?
もしも奴が融合デッキを見てみろ。あれは俺のデッキとデュエルディスクなんだから、そこには白紙のカードと【エンシェント・フェアリー・ドラゴン】がいるはず。白紙のカードはどうとでも誤魔化せるけれど、シンクロモンスターの【エンシェント・フェアリー・ドラゴン】が見られたりしたら厄介極まりない。
それにこのままデュエルが長引けば、既にチューナーとなっている【エフェクト・ヴェーラー】や【ナイトエンド・ソーサラ-】がドローされてしまうかもしれない。
やばい。
「これは……早々に決めないと……」
相手は強盗犯である。故に手心を加える気は元々無かったけれど、こうなってしまってはますます気を引き締めなければ!
「何ならサレンダーしてもいいぜ! ハッハー!!」
「誰がサレンダーなどするか! 覚悟しろ!」
デュエル続行だ!
「【熟練の黒魔術師】は自分か相手がマジックカードを使うごとに1つ、魔力カウンターを乗せる! 俺が使った魔法は【強欲な壺】と【大嵐】の2つ! よって2つのカウンターが乗る! 更にカードを2枚伏せ、【手札抹殺】を発動! 互いのプレイヤーは手札を全て捨て、同じ枚数だけドローする! 俺は2枚を墓地に捨て、2枚ドロー!」
「俺も2枚だ!」
よし、良いカードが来た! これなら行ける!
「マジックカードの使用により、【熟練の黒魔術師】に更にカウンターを乗せる! そして【熟練の黒魔術師】の効果発動!」
魔力カウンター(優):【熟練の黒魔術師】 0→3
これが俺のデッキだったなら、この効果を使うことは無かった。しかし、このデッキならば間違いなく入っている。
「3つのカウンターが乗ったこのカードを生贄に捧げ、自分のデッキ・手札・墓地から【ブラック・マジシャン】1体を特殊召喚する!」
「ヒャッハハ~~~! バカかテメェは! 【ブラック・マジシャン】がデッキに入っているのは決闘王のデッキだけなんだぜ!!」
あぁ、うん。心配しなくても、俺が使ってるこのデッキが遊戯さんのデッキだから。それに一言言っとけば、遊戯さんのデッキ以外にも【ブラック・マジシャン】はいるから。パンドラとかも持ってたし。
「デッキより現れよ、【ブラック・マジシャン】!」
『ハァッ!』
【熟練の黒魔術師】が光と共に魔法陣の中に消え、その魔法陣から頼りになる掛け声とともに現れる黒衣の魔術師……あれ?
『優殿、いかがした?』
「あ、やっぱりマハード?」
現れた【ブラック・マジシャン】はただのソリッドビジョンではなく、しっかりとマハードの魂が入り込んでいた。どうせエンジン音に紛れてしまい、割とテンパってる牛尾さんにもそこそこ距離のある強盗犯にも聞こえないだろう。そう思い、俺は小声で答える。
「ちょっと、色々あってさ。マハードこそ修行は?」
『召喚されたとあれば馳せ参じるが……まさか優殿だったとは』
イマイチ状況が飲み込めてないのか、マハードは些か微妙な顔をしていた。
「悪いな。今はちょっと緊急事態なんだ。まずはあいつを叩きのめすのを手伝ってほしい」
あいつ、の所で向き合ってる強盗その3を顎で指すと、マハードは一応は了承してくれた。
『心得た』
【ブラック・マジシャン】
通常モンスター
星7 闇属性 魔法使い族 攻撃力2500/守備力2100
魔法使いとしては、攻撃力・守備力ともに最高クラス。
しかしそうして臨戦態勢を取ったマハード……【ブラック・マジシャン】に、強盗その3は慄いていた。
「ブ、【ブラック・マジシャン】だとォ! 何故そいつがそのデッキに!」
むしろお前が今使っているデッキに【ブラマジ】はいないんだけど……そんなことを教えてやる義理は欠片も無いよな、うん。
よし、無視しよう。
「更に! 伏せていた【千本ナイフ】を発動! 自分フィールド上に【ブラック・マジシャン】がいる時、相手フィールド上のモンスター1体を破壊する! 【魔導戦士 ブレイカー】を破壊!」
【千本ナイフ (サウザンドナイフ)】
通常魔法
自分フィールド上に「ブラック・マジシャン」が存在する場合に発動できる。
相手フィールド上のモンスター1体を選択して破壊する。
『ハッ!』
一瞬にしてマハードを取り囲むようにして現れた無数のナイフは、彼の号令によって【ブレイカー】に向かう。ナイフは狙い外れることなく全て命中し、【ブレイカー】は破壊される。
『グアァ!!』
あぁゴメン、俺の【ブレイカー】! 解ってはいてもやはり気分は悪く、しかも申し訳ない。だがその爆炎の中、【ブレイカー】が『気にするな』とでも言わんばかりに剣を掲げているのが微かに見えた。くっ、お前の犠牲を無駄にはしないぞ、【ブレイカー】!
「バトル! 【ブラック・マジシャン】でダイレクトアタック! 《黒・魔・導(ブラック・マジック)》!」
「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
強盗その3 LP4000→1500
マハードの杖から放たれた黒き魔力の塊が見事に強盗達にヒットしたことで奴らはバランスを崩しかけたが、すぐに持ち堪えた。なるほど、根性はある。
「テッメェ、やりやがったな!!」
「やるに決まってるだろ、デュエルなんだから!」
「くく……だが、それもここまでだ! 俺の手札には【カオス・ソーサラ-】がいる! そして俺の墓地には闇属性の【魔導戦士 ブレイカー】とテメェが発動した【手札抹殺】の効果で墓地に送った光属性の【魔導騎士 ディフェンダー】がいる! どうしてテメェが【ブラック・マジシャン】を持ってるのかは知らねェが、そいつは次のターンで除外してやるぜ!」
うーむ、やはり覚えのあるカード名ばかり。流石は俺のデッキ。
だが。
「さぁ! 俺のター」
「誰がエンド宣言をした!」
奴に次のターンなど無い。ずっと俺のターンだ。
「俺のバトルフェイズはまだ続いている! 手札から速攻魔法、【光と闇の洗礼】発動!」
「な、何ィ~~~~~~~!?!?」
【光と闇の洗礼】
速攻魔法
自分フィールド上の「ブラック・マジシャン」1体を生贄に捧げて発動できる。
自分の手札・デッキ・墓地から「混沌の黒魔術師」1体を選んで特殊召喚する。
魔法の発動に合わせ、マハードを文字通りの光と闇が取り囲む。
「俺の場の【ブラック・マジシャン】を生贄に捧げ! デッキから【混沌の黒魔術師】を特殊召喚する!」
【混沌の黒魔術師】
効果モンスター
星8 闇属性 魔法使い族 攻撃力2800/守備力2600
「混沌の黒魔術師」の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):このカードが召喚・特殊召喚に成功したターンのエンドフェイズに、自分の墓地の魔法カード1枚を対象として発動できる。そのカードを手札に加える。
(2):このカードが戦闘で相手モンスターを破壊したダメージ計算後に発動する。その相手モンスターを除外する。
(3):表側表示のこのカードはフィールドから離れた場合に除外される。
光と闇が混じりあった混沌(カオス)が晴れた時、そこにいたのは【ブラック・マジシャン】の進化した姿。
なお、この【混沌の黒魔術師】はOCGにおけるエラッタ版と同じ効果である。
「あ、あ……」
二の句が告げないのだろう、強盗その3は悠然と立つ黒魔術師を見上げて口をパクパクと開閉させている。運転している強盗その4も真っ青だ。
「行くぞ、これで終わりだ! 懺悔の用意は出来ているか!」
出来ていなかろうが関係無いがな!
「【混沌の黒魔術師】でダイレクトアタック! 《滅びの呪文》!!」
「ああぁぁぁぁぁぁ!!!」
強盗その3 LP1500→0
先のマハード……いや、この【混沌の黒魔術師】もマハードには違いないか。【ブラック・マジシャン】だった時よりも遥かに強い力を内包した魔法が強盗達をバイクごと飲み込み、そのライフを0にした。
良かったー、回り難い遊戯さんのデッキを上手く回せて。でも……納得できない。
俺が少し釈然としない気分になっている間に、とうとうハンドルを切り損ねたらしい強盗は見事なクラッシュを起こしていた。
「「ぎゃああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」
……うわぁお。
「見事に吹っ飛んだな」
「言ってる場合か! おいお前ら! 生きてるか!?」
牛尾さんは慌ててバイクを止め、吹っ飛ばされた強盗2人に駆け寄る。俺もデュエルディスクを待機モードに戻すとすぐに向かう。
ふむ。
「生きてるな。問題無い」
クラッシュした強盗達もやはり、腐ってもデュエリストということだろう。多少は怪我をしていたけれど、命に別状は無さそうだった。まぁ、バイクの方は完全におじゃんになって炎上してたけど。
さて、問題無いなら俺は一言言いたい。
「おい」
「ヒッ!」
俺は体が痛むのか、かすかに痙攣して目を回している強盗その3の襟首を掴んで捻り上げた。強盗その3は意識が覚醒したのか、俺を認めると怯えの色をその目に宿す。
「お前な、何なんだよ! あの不甲斐ないデュエルは!」
情けないにも程がある!
「どうして1ターンでやられるんだよ! あのデッキはそんなに弱くない! 【魔法都市】は真っ先に発動させろよ! 初期手札に無かったのか!?」
「ひっ、いや、あの……テキストが長くて、読むのが面倒臭くて……」
アホかぁ!
「しかも【トーラの魔導書】を伏せてたんならチェーンして【ブレイカー】に耐性を付けろよ! そしたらライフも残ってただろうが?」
「いや……そこまで思い付かなくて……」
ふざけんな!
「最後のターンもなぁ! 【手札抹殺】で【バトルフェーダ-】は呼び込めなかったのかよ!」
「く、来るわけ無ぇだろっ!? そんな都合よく!」
「言い訳するな! それを呼び込むのがデュエリストだろうが!」
「ぐぇぇぇぇぇ!」
「やめとけ、そりゃあ流石に暴論だ」
俺が強盗その3の襟を両手で掴んでぐわんぐわんと揺らしていると、牛尾さんが間に入って止めてきた。ちなみに牛尾さん、俺が強盗その3を問い詰めている間に強盗その4を拘束していたよ。
「もういいだろ? いい加減大人しくしてろ!」
はい、もう十分です。だってさ。
「約束通り、デッキは返してもらうぜ」
こうしてちゃんと、『俺の』デッキは帰ってきたんだしね。
その後、牛尾さんの連絡により警察が到着し、強盗団はお縄に付いた。
ちなみに事情を聞かれた時、強盗団を一網打尽にしたのは牛尾さんということにしておいた。強盗団の人質になるという失態を犯してしまった牛尾さんだが、彼がいかにして俺という民間人の人質を守ってくれたのかということをよくよく語り聞かせておいた。多少の誇張は含まれているが、それはともかく。なので多分、そう悪い事にはならないだろう。
実際には4人の内3人は俺がKOしたようなものだけど、俺は目立ちたくないし。利害が一致したわけだよ。
警察で事情聴取も終えてから、俺は漸く解放された。
その後再会した遊戯さんにデッキを返す。その際、俺と遊戯さんでデッキの取り違いが起きていたことも説明したのだが、遊戯さんも気付いてなかったようで、大層驚いていた。
こうして、俺の冬休み最後の事件は終わりをつげたのだった。
ただし、終わりを告げたのはあくまでも冬休み最後の『事件』に過ぎなかった。
あの銀行強盗から数日後、俺はいつも通りにKCに出社したら社長室に呼ばれた。しかも壁にかかったモニターにはペガサスの姿もある。なにゆえ。
『お久しぶりデース、優ボーイ』
「ええ、まぁ、それほど久しぶりでもないですけどね」
大晦日に会ったばかりである。
「それで、何か用ですか?」
俺の質問に答えたのは、社長だった。尤も、質問に質問で返されたが。
「貴様、『ライディングデュエル』とはどういうことだ?」
「ぶっ!」
驚いてしまい、思わず吹いた。な、何故それを……。
しかし社長は冗談を言っている様子など欠片も無く、それを実感した俺は。
「えーっと、それは、その……強盗を捕まえて取られたデッキを奪還しようと思いましてね……バイクに乗ったままデュエルしました」
偽りない真実を述べることにした。
「あの、何故そのことを?」
その問いは鼻で笑われた。ただ、ちゃんと答えてはくれたが。
「フン。我がKCの情報収集能力を見くびっているのか?」
KCの情報収集力SUGEEEEEE! ……でもアカデミアの情報は収集しきれないんだな。
『ライディングデュエル……とても興味深いデース』
少し胡乱げになって所長を見ていると、画面の向こうのペガサスが楽しそうに笑った。これはあれだ、新しい玩具を見付けた子供の顔だ。
『あのスピード感もとてもエキサイティング!』
うん?
「見たんですか? ライディングデュエル」
『バイクに付けられていたドライブレコーダーに一部始終が記録されていまシタ』
おい、KCの情報収集能力ってそれか? あ、ひょっとしてそのドライブレコーダーがKC製とか?
感心して損した気分だ……ってか、あんな強盗団がドライブレコーダーなんて付けてたのかよ。
『シンクロ召喚のことといい、ユーはいつも面白いことを考えマース』
しみじみと、感心したように言うペガサスだが……ちょっと待て、この流れは嫌な予感がするぞ。
「あのさ……まさか、ライディングデュエルも世に出そうとか考えてるんじゃ……」
恐る恐る尋ねると、もの凄くイイ笑顔が返ってきた。やっぱりぃぃぃぃぃぃぃ!
「面白かったことは否定はしませんけど、俺は無関係です。やるなら勝手にやって下さい」
『OH! そんなツレナイことは言わずに! どうデース? シンクロ召喚同様、ライディングデュエルの提唱者になってみてハ!」
「止めて! マジで!」
確かにライディングデュエルを持ちかけたのは俺だ。調子に乗って、ノリノリでアクセラレーションしたのも俺だよ!
でも、ただでさえ『シンクロ召喚の立役者』とか言われてパラドックスに狙われたことがあるんだぞ! それで『ライディングデュエルの提唱者』とまで言われたら……うぅ、嫌すぎる!
シンクロ召喚、ライディングデュエル。それはイリアステルが回避したい破滅の未来の直接的な原因では無い。原因はあくまでもモーメントの暴走なのだから、シンクロ召喚もライディングデュエルもそれ単体では滅びを助長したりはしない。
しかし、それらがモーメントと組み合わされた時は悲惨なこととなる。
滅びの原因では無い。しかし、理由の1つではある。そんなものに関わって、また狙われたりしたらたまったもんじゃない。
だから頼むから、人身御供にしないでくれ!
俺とペガサスの攻防は、それからしばらく続いた。しかし最終的には社長にぶった切られ、中断させられることとなる。どうやら社長としてはライディングデュエルについて2~3聞きたいことがあっただけのようで、用が終わったのならさっさと出てけということらしい。
しかしこうなると、暫くは気を付けないと……またシンクロ召喚の時のように、知らない内に提唱者にされてたりしたら洒落にならない。
あぁでも、俺は日本でペガサスはアメリカ。防ぎきれるだろうか? う~ん、仕方が無い。遊戯さんやモクバにも協力してもらおう。社長? あの人に協力を頼んだところで切り捨てられるのがオチだ。
こうして新たなる懸念が生まれたのだが、それと時をほぼ同じくしてとてつもなく長く感じた冬休みも終了する。俺はアカデミアに戻らなければならなくなった。
色々と散々な目に遭ったものの、勤務自体は真面目にしていたためにバイト代もそこそこ貰えたよ。両親にはネットで買ったギフトカタログを送り、残りは貯金する……口座を作る前に銀行強盗に巻き込まれたけど、その後ちゃんと作っておいたよ。
エンディミオンも魔法都市から戻ってきた。ライディングデュエルのことを話すと、無茶をするなと怒られたけれど。それほど無茶をしたつもりは無いんだけどな。
そしてエンディミオンは、『やはり我が主の傍に付いて守らねば』とか何とかぼやいていた。
アカデミアに向かう船は童実野埠頭からも出ているため、俺はギリギリまで武藤家に滞在していた。アカデミアに戻る直前になって戻ってきたおばさんには、家計簿を渡して引き継ぐ。
その際、遊戯さんや双六じいちゃんよりもずっとマジな顔で『卒業後に正式に働かないか』と誘われた。あの、何なんですか? その一家に一台欲しい的な目は。勿論丁重に断っておいた。
さ~て。やっと新学期が始まるぞ! ……新学期になっても、俺は散々な目に遭いそうな気がひしひしとするけどね。
<今日の最強カード>
優「勿論、コイツで」
【混沌の黒魔術師】
優「【DDB】と同じく、エラッタされて戻ってきたカードだね。原作GXではエラッタ前の効果で出てたけど、このSSでは既にOCG効果です」
王『墓地からの魔法カードのサルベージ……何だ、我と同じではないか』
優「条件が違うだろ。お前は【魔法都市】で特殊召喚して初めてサルベージ出来るんだ。その点、【混沌の黒魔術師】は召喚でも特殊召喚でもOK。しかもエラッタ前は成功直後にサルベージという極悪使用」
王『エラッタで弱体化……あまりされていないような気もするが」
優「攻撃して破壊したモンスターを除外する効果もあるしね。流石、長年に渡る禁止カードだっただけのことはあるよ」
王『そのせいで【光と闇の洗礼】が完全に無意味なカードに成り下がっていたがな』
優「それは言わないお約束さ。さぁ、冬休みが終わってアカデミアに戻った俺には果たして何が待ち受けるのか!?」
王『とりあえず当座の目標は、ライディングデュエルの提唱者にされるのを防ぐことであろうがな』
優「……いや、本当。マジでね」
<オマケ>
時は流れてここはネオドミノシティ・サテライトの一角。
かつてはしがない一警官だったある男は、今や多くの部下を持ち町を取り締まる役職に就いている。そして今日も、ある窃盗犯を追っていた。
「おい、そのDホイール、どこから盗んだ?」
「……」
一言も発さない目の前の男を不気味に思いながらも、彼は冷静さは失わずに観察する。
「くっはははは、マーカー無しか? フンッ、囮かよ。 クズはクズ同士、庇い合いか?」
「……」
「お前も逃亡を手助けしたおかげで、立派に拘束する理由ができたな。 ああ、そのDホイールの出所も聞かなきゃな……」
「おい」
「あん?」
挑発を繰り返した結果、漸く口を開いたその男に彼は注視する。次いで、その男から放たれた言葉は。
「デュエルしろよ」
この瞬間、聞き覚えのあるフレーズに彼……牛尾哲は己の口元が引き攣るのを自覚した。
(おいおい……まさかコイツも、魔王の身内か!?)
牛尾の脳内では、笑って凶悪な『罰ゲーム』を下す魔王とニコニコと微笑みながら全てを見透かすような目をする魔王の半身、そして今や世界的スタンダードとなったライディングデュエルの提唱者たる魔王の弟子が各々笑っていた。