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さて。今我は、襲撃者の少女と対面している訳じゃが。
「……(ニコリ)」
「……っ!?(ビクビクッ)」
青い顔でプルプル震えていたのじゃが。背後でカタリナが微笑んだ気配と共に、更に青くなってガクガク震え出す……恐怖を与えすぎなのじゃ。
はぁ。やりすぎおってからに、まったく……
しかしまあ、この状態ならば攻星術は安易に使わぬじゃろう。ならばまずは。
「カタリナ、首の拘束術は解除じゃ」
「承知致しました」
「っぶは……ハァー、ハァー……」
首、及び口から《深海水枷》がなくなり、口で深呼吸をする少女。それと共に、ガクガクがフルフル程度に落ち着く。
(ふーむ。まだお話し、というレベルではないかのぅ)
そう思った我は、深呼吸をするのに必死で目を瞑っていた少女の身体を、そっと抱きしめる。
「なっなにを……あ……」
抱きしめた直後こそビクリと身体を大きく震わせたが、我の身体から発せられる《癒しの力》が全身を包んでいくと共に、ゆっくりと震えも収まっていき顔色も少し良くなる。
「……(ピキキッ)」
……顔色が良くなりきらぬのは、恐らく後ろのカタリナの顔面に青筋が出ておるからじゃろうなあ。多分血涙も我慢しておるじゃろから目も真っ赤じゃろなあ。ロリコンじゃし。
「あったかい……おちつく……」
「……(コクコクッ)(ピキピキッ)」
なんかカタリナも嬉しそうに「わかります」とでも言いたげに頷きつつ青筋も立てるという器用?珍妙?な事をしておるが、それはともかく。
我の全身から溢れ出す「癒しの力」は、傷を癒すだけではない。この様に直で相手を包み込めば、身体の傷と共に心の傷、というか急性ストレス等も癒す効果がある。ジョッシュの手に触れた時に言った「ポカポカ感」も、この効果じゃな。
よし。もう会話が成立する程度には心は落ち着いたじゃろう。
なのでまずは。
「気にするな、なのじゃ」
「……、え?」
カタリナ曰くの飴——慈悲の心じゃ。
「おぬしがした事すべて、他の誰が責め立てようと、我が許す。だから、怯えて顔を青くする必要も、震え上がる必要もないのじゃ」
「なんで……私あなたをあんなに滅多斬りしたし、魔物をけしかけて村——」
「全部許す」
……魔獣という世界の遺物を操る、神秘か
目的は何か、「上」とは誰か。他にも色々と聞きたい事はあるが。我的にそんな事より、少女との相互理解と友情を育む事が優先事項なのじゃ。
「カタリナ、枷を全部解除してあげるのじゃ」
「あ……」
もう充分快復したと判断し、少女から離れて立ち上がり、カタリナにそう命じる。離れた瞬間、少女は名残惜しそうな感情のこもった吐息を漏らす。
「アル様それは——」
「友達になりたい相手を拘束したままにするのは、おかしな事じゃろう?」
「とも、だち……」
「承知致しました」
最初少し渋られたが、今の少女の精神状態なら、攻撃する事も逃げ出す事もしないじゃろ。
まぁそもそもカタリナから逃げられるとは思えぬし、それは少女も理解して——ふむ。
「まずは自己紹介、じゃな。我等の名は先程カタリナが言うておったが、おぬしの名を教えて欲しいのじゃ」
未だ木にもたれかかっている少女に目線を合わせようと屈もうと思ったところで、
「確か、アルテミシア様、でしたよね……?」
「うむ。それが我の名じゃ。フルネームは、アルテミシア・アルアジフ。アルちゃんと呼んで欲しいのじゃ!」
名を尋ねられた。せっかくじゃから、フルネームを教えた。
「ああ、やっぱりそうでしたか……」
そう呟いた少女は、数秒考え込むように瞳を閉ざすが、すぐに開いてこちらを上目遣いで見つめてきた。
「この感じは、もしや……?」
何やらカタリナが期待感のこもった声色で呟くが、今は少女の次の言葉に注目じゃ。
「あのっ! 厚かましいかと思われるかもですし、順序もおかしいとは思っていますけど! お願いがあります!」
「ふむ、お願いときたか。なんじゃ?」
「私を、あなたの弟子にして下さい!」
「ほ?」
「あら」
ちょっと予想外の願いをされた、が、少々面食らっただけなので、
「うむっ良いぞ!」
即答する。
「アル様、流石にもうちょっと迷って下さいませ。何度もアル様に致命傷を負わせた相手ですよ。そのような輩を仲間どころか弟子など——」
「細かいのぅ。そんな過去の事、とっくに水に流して忘れてたのじゃ」
「……アル様がそう仰るのでしたら」
「な、なんて慈悲深い……素晴らしいです! あなたこそまさに聖女! アルアジフの名を賜ったのも当然の方ですね!」
……ふむ。なるほどのぅ……今の少女の何気ない一言で、色々判ったのじゃ。
まぁそれよりも。
「それはともかく、おぬしの名を教えてくれぬかの?」
先に友情を育むのが何より第一じゃ。
「あっはいっ! 私の名前はシュルズベリーですっ!」
「ふむ、シュルズベリー。可愛らしい響きの良き名じゃな、覚えたぞい。ならば愛称は、うむむむ……シュリーかズベリー辺りが、可愛くて良いかの!」
「愛称までいただけるんですか!? でも、うーん。シュリーは私も可愛いと思いますけど、ズベリーはなんか——」
「アル様の提案にケチを付けようとは、まだ自分の立場を理解していないようですわね。そんなクソガキに4文字は贅沢ですわ。ルリとかでいいでしょう」
「あ……はい。私程度、2文字で十分です……」
むう。カタリナが余程怖いようで、萎縮してすぐ意思を曲げてしもうた。カタリナも、此奴を余程嫌っておるようじゃの。
まぁ我此奴に斬殺されまくったし、致し方ない所もあるが……多分、自分は4000年実質名無しで放置されとったのに、出会ったその日に愛称を提示されたから、嫉妬も含んだ発言じゃろうな。
まぁそれはそれとして、じゃ。
「ふむ、ルリも可愛くて良いのぅ。カタリナは名付けのセンスがあるのう」
「今日から私はルリです!」
「ヨロシクお願いします、ルリさん」
おぉぅ、物凄い掌返しを見たわい。こんなん初めてじゃ。
いやしかし、目に見えて分かり易く我に懐いてくれたのぅ。なんか、ルリが尻尾をブンブン振っているのを幻視したぞい。
ふむ。懐こい犬系女子も良いな! ルリはワンコカワイイ! じゃの!
もう完全に敵意はないと感じたので枷を全部外させると、少女は事情を話した。それはもう嬉々として全て話してくれたのじゃ。やはりワンコ系。
「私は星辰教会の、アルちゃん様と同じくアルアジフの洗礼名を賜った聖女、アビゲイル・アルアジフ様に仕えさせられていて、今回の任務を与えられました。あっですけど慈悲深いアルちゃん様と違って、アビー……アバズ◯ビ⚪︎チゲイルは、アルアジフの聖女とは呼びたくないレベルで高圧的なレズのサディストです」
「お、おおぅ、そうか。大変な思いをしておったようじゃな……」
一気に捲し立てる様に自分の境遇を語られ、一瞬固まる。ていうかなんか凄い事暴露せんかったか?
「……気持ちはよく伝わって来たがの。我の弟子になろうというなら、あまり汚い言葉は使わぬようにな……?」
「あ、そうですね! はいですわかりました!」
「貴女も聖女の従者でしたか。にしてはその聖女をあまり、いえ、まったく敬っていないようですが」
「まあ、はい。ほんとに酷いサディストでして。毎日の様に邪悪な笑顔でなじられたり腹パンされたりしてましたから」
「……其奴本当に聖女か?」
「私以外には、聖女らしく振る舞うのがとても上手いビッ……ふしだらな性女ですので」
ほむ……出会い頭の攻星術みだれうちは、鬱憤がかなり溜まっとったゆえの暴走っぽいのう……なんか今「聖女」でなく「性女」と言ったように聞こえたが。気のせい、にしておこう。