アビゲイルとやらが本当にふしだらな女かどうかは一旦置いといて、じゃ。
「色々と聞いておきたい事が増えたが……順番に聞こう。どちらかと言えば、答え合わせじゃが」
「……答え?」
「おぬしは聖女アビゲイルから、正解には更に上の大聖女から命令され、魔獣を操る何か—— 例えば
「ええ!? なっなぜそれを——」
「そして、その功績によって
「は、はい……ほぼ正解です……」
「マッチポンプ、というヤツですわね。どうやら星辰教会とやらは、外面は多少良いようですが、内部は腐敗しまくっているようで」
ふむ。口調からして、カタリナも似たような予想をしておったようじゃの。優秀。
「でも本当に、なぜそこまで分かったんですか?」
「全てのピースと起こった事柄を組み合わせた、いわゆる推理じゃ」
「ああ、だから答え合わせ……名推理ですね!」
「そうかの? 余程頭の回転が悪くなければ、割と多くの者が気付くと思うがの」
「わたくしもそう思いますわ」
「……そうかなぁ」
▲▽
ちなみに、アルちゃん様は省略しましたが、パズルのピースは大体こんな感じです。
◇ベテランハンターが、大怪我を負ってはいても誰も途中で死なずに全員生還
◇魔獣化しても狼の「群れで行動する」という習性を引き継いでいるはずのウルフが、昨日は単独行動個体としか遭遇しなかった
◇ベテランハンターが帰還したタイミングでウルフの群れが侵攻し始めた
◇「上」「大聖女からアルアジフを名を賜った」などの発言から、少女は星辰教会関係者
◇本来全ての生命を襲うはずの魔獣が従い、騎乗用ウルフまで用意していた事から、「上」から賜った神秘か星神具で魔獣を操っている
こんな所です。他にもいくつか違和感があるようですが……これらの事実を組み合わせれば、コイツが今回の黒幕である事は明白、という訳ですね。
より正確に言えば。コイツは黒幕の黒幕から指示を受けた、いざとなったら切り捨てても問題ない実行役、でしょうか。
△▼
とりあえず、シュルズベリー——ルリも、ある意味被害者である事が判った所で。先程は即答したが、再度確認じゃ。
……勘違いさせたまま会話を続けた方が流れ的にスムーズに進むと思い、後回しにしたが。弟子にするならば、やはり真実を伝えねばの。
「さて、改めになるが。ルリは我の弟子になりたいと言うたの。その気持ちは、今も変わらぬかの?」
「当然です!」
「ならば、事実を受け入れるのじゃ。我は大聖女とやらからアルアジフの洗礼名を貰った訳ではない。アルテミシア・アルアジフ。それは我の真名じゃ」
「えっ……え???」
頭に疑問符を仰山浮かべた顔になるルリ。まぁそうなるじゃろなぁ。
「聖女の従者だったならば、アルアジフの洗礼名が、伝説の聖者の姓からあやかったモノなのは知っておろう?」
「はいです」
「我はその聖者アブドゥルの娘であり、我のアルアジフ姓は本名、という事じゃ。それだけ聞いたならば何を世迷言を、と思うじゃろうが。それが真実なのは、おぬしの目で見た常識を覆すような光景で証明済みじゃろう?」
「それは……確かに……あれは聖女の治癒術どころか、大聖女様をも超えているかもしれません。それじゃあアルちゃん様は、星辰教会とはなんの関係もなくて、認定聖女じゃない……?」
ふむ。認定聖女、のう。
「
「えっ? えっと……」
ルリは我の質問の意図を読めず困惑しながらも、答える。
「大聖女様にアルアジフの名を賜ったのも当然の、慈悲深い聖女様だから、です」
「そこなんじゃがな。間違っておるぞ」
「へ? 何が……」
「正確には、間違った考え方を刷り込みされておる、かの。聖女とは、称号であって職業ではない。そして称号とは、それまでその人物が歩んできた足跡によって、他者から付されるモノじゃ」
「……アルちゃん様が今は星辰教会の聖女じゃなくても、大聖女様なら喜んで認定聖女に——」
「断る。認定聖女は、暴利と言える治癒術費を支払わせておる。いずれルラルラだかなんだかいう国に赴き、大聖女に聖女の在り方を説教予定じゃ」
「……。その事に疑問を抱いている人は、民にも教会関係者にもいます……けど聖女様のお力は、多くの金銭を受け取るのに十分な——」
「もう一度言おう。聖女は職業ではない。あくまで、優れた治癒術師がその足跡によって敬われた結果付けられた称号じゃ」
「あくまで、称号……」
「故に、莫大な富を得たいなら、聖女と呼ばれる事を拒絶し「自分は凄腕の治癒術師です」と声高に宣言せねばならぬ。故に、我は断言する。聖女も! 大聖女も! ただの守銭奴なだけの治癒術師じゃ!!」
「!?」
我の言葉にカルチャーショックを受けたのか、大きく目と口を開いて愕然とする。
「のうルリよ。裏表を使い分けおぬしに暴力を振るうアビゲイルは、聖女と呼ばれるに相応しい人間と言えるかの?」
「それはっ……言えない、と……いいえ。呼びたくないです!」
我の問いかけに、ルリは真っ直ぐな瞳でハッキリそう断言した。「聖女」とは何かを真に理解したようじゃの。
うむ! エミー同様、ルリもなかなか聡い良い娘じゃ!
「それでよい。星辰教会の聖女は聖女と呼ばれるべき存在ではない。彼奴等の心に慈悲はない」
……まあ、アビゲイルと大聖女はハッキリとそう言えるが、他の認定聖女の人柄は知らぬから、少々大言ではあるが。それでも、他の認定聖女も暴利を是としておるなら、やはり我的に聖女とは呼べぬの。
「……少々話が逸れてしもうた感じじゃが、改めて、じゃ。
「アルちゃん様が真の聖女だからです!」
今度は余計な感情のない、芯のある力強い声でそう宣言した。
「うむ! 我こそは唯一アルアジフを名乗る事を許される、伝説の聖者の娘。アブドゥル・アルアジフの全てを受け継いだ、真の意味での大聖女! アルテミシア・アルアジフである!」
いつかした宣言を、再び世界に響かせるように声高にする。
「して、ルリよ。改めての改めてになりしつこいかもじゃが。我の弟子になりたい気持ちは変わらぬか?」
「少し変わりました。アルちゃん様以外の聖女の弟子になんてなりたくないです!」
「ならば励むのじゃ。聖女とは称号、なにも治癒術が使えなければなれぬ訳ではない」
「はい!」
「これからよろしくお願いしますね、ルリさん……チッ」
「あ、あはは……よろしくです、カタリナ先輩」
こうして、ルリが我の弟子となり、旅の仲間に加わる事になったのじゃ……カタリナはあからさまに不満げじゃったが。まぁ寝食を共にして行けば、自ずとわだかまりも解けるじゃろ。多分、きっと、早くそうなると良いのぅ。
……おっと。聞かねばならぬ事がまだ残っていたのじゃ。
「そう言えばまだ聞いておらなんだが。ルリは聖女になりたくて、聖女の従者になったのじゃろう?」
「まぁ、はい。アビーの従者になったのは判断ミスとしか言えない、ですけど……有能さを大聖女ジェシカ様に認知していただけたら、風属性で治癒術が扱えない私でも、治癒術を使えるようになる
あー……うむ。この情報で確信したのじゃ。やれやれじゃの……
「アル様……これは流石に看過出来ませんわ」
「そうじゃの。大聖女に会いに行く理由が増えた、いや、必ず会わねばならなくなった、なのじゃ」
「……? どういう事ですか?」
「ルリよ。そのアーティファクトは高い確率で、邪神に由来する危険なモノじゃ」